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48 日本小児循環器学会雑誌 第23巻 第 6 号

Editorial Comment

PEDIATRIC CARDIOLOGY and CARDIAC SURGERY VOL. 23 NO. 6 (552–553)

心拍動下のNorwood手術

神奈川県立こども医療センター心臓血管外科 麻生 俊英

 今日の心臓外科は,低体温法による循環停止や心筋保護液による心停止など,臓器灌流を安全に停止させる技術 を開発することによって発展を遂げてきた.循環停止や心停止によって困難な心内修復術が可能になったが,低体 温循環停止法には時間的制約があり,また最近になって従来許容範囲とされていた時間内の循環停止でも術後遠隔 期に神経学的異常が出現することが指摘されている1).このことから,術後の脳神経合併症を起こさないためには循 環停止を回避することが唯一の方法であると広く認識されるようになってきた2).一方,冠灌流においても同様のこ とが言える.心筋保護法の進歩した現在においても心停止よりも冠血流を維持し心拍動を保つほうが心機能維持の 点からは優れた心筋保護である3).たとえ短時間であっても冠灌流を停止させることは心機能を低下させることであ り,冠灌流を維持しながら手術操作を行うことができればそれに優るものはない.

 「すべての外科治療を心拍動下に行いFontan型手術に到達した左心低形成症候群の 1 例」と題する小野論文は,困 難な手術において臓器灌流を維持することの重要性を再認識させる報告である4).Norwood手術においても工夫して 心拍動下手術を行い,心筋虚血を回避して心筋機能を維持し良好な結果を得ている.心拍動下にNorwood手術を行う 方法はKishimoto5)やPhotiadis6)らも報告している.小野らの方法は,冠動脈バイパス術に用いるcoronary shuntを応用 した点でユニークである.今後のNorwood手術の一つの方向性を示した貴重な論文である.

 Norwood手術では上行大動脈を拡大するのが一般的である.しかし,そもそも上行大動脈は拡大する必要があるの であろうか.Bartramら7)はNorwood手術後の122例の剖検結果を基に死因について分析し,最も多い死因は冠血流の 異常であったとしている.冠血流は細い上行大動脈を通って心筋に流れるため,細く長い上行大動脈は細ければ細 いほどcriticalである.したがって,上行大動脈を拡大,あるいは上行大動脈と肺動脈を端側吻合することによりス ムーズな冠血流路を確保することが上行大動脈拡大の根拠であろう.しかし,太い上行大動脈でも拡大する必要が あるのか.どの程度細ければ拡大しなければならないのかなど,不明な点もある.

 一方,Kishimoto5)やSano8)が報告し多くの外科医たちに支持されている9,10)RV-PA conduitによるmodified Norwood 手術の利点の一つは高い拡張期動脈圧であり,その結果としての冠血流の維持である.Kishimoto5)は上行大動脈径が 1.4〜6.6mmであった 7 例の左心低形成症候群でいずれも上行大動脈を拡大せず,心拍動下にNorwood手術を行い良 好な結果を報告している.さらに,その後の経過をみても上行大動脈は成長,拡大していたと述べている.拡張期 動脈圧の低下するBlalock-Taussig shuntを用いたclassic Norwood手術では上行大動脈拡大は必須である.しかし,拡 張期動脈圧の維持されるRV-PA conduitを用いたmodified Norwood手術では上行大動脈の拡大は不要なのではないか.

そうであれば,RV-PA conduitのメリットはさらに増すことになる.その意味で,Kishimoto5)の報告した心拍動下の Norwood手術は,冠血流が維持されるという点に着目したまさに先駆的なNorwood手術変法と言えよう.

 われわれはKishimoto5)の方法を追試しているので,上行大動脈に切開を加えない心拍動下のNorwood手術の要点を 簡略に述べてみたい.腕頭動脈に人工血管(Gore-Tex 3mmあるいは3.5mm)を縫着し送血路とし,脱血は右房 1 本脱 血とする.直腸温30˚Cないし31˚Cの中等度低体温,高流量体外循環を用いる.本法での注意点は 2 点ある.まず,

心房中隔欠損拡大時と右室流出路への人工血管縫着時の空気抜きである.心拍動下に右房を切開しサッカーで吸引 しながら心房中隔を切除する.その際,経食道心エコーにて心内空気泡の発見に努めるとともにあらかじめ主肺動 脈を切断しておき,心腔内に入った空気泡は主肺動脈の断端から心腔外に拍出させる.空気泡を左房左室に入れな いよう心内サッカーは左房内に深く挿入しないよう注意する.右室流出路切開や人工血管縫着時には,切開部が一 番高い位置になるよう手術台を調節する.次に重要な点は,上行大動脈に居曲や圧迫を生じないよう細心の注意を 払うことである.大動脈弓再建は主肺動脈と大動脈弓の直接吻合を基本としているが,上行大動脈が屈曲すること はない.むしろ手術操作時にサッカーやステイ糸などで屈曲,圧迫させないなどの注意が肝要である.このような 点に注意しながら,過去 3 年半の間に17例に対し,上行大動脈に切開を加えず心拍動下にRV-PA conduitを用いた Norwood手術を行い14例(82%)が生存した.早期死亡 3 例の死因は術前からの重度の三尖弁閉鎖不全,Ebstein奇形 を合併した高度の右室機能不全などである.interstage mortalityは 4 例であるが心筋虚血にかかわるものはない.10

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平成19年11月 1 日 49

553

例が第二期手術に到達した.第二期手術に到達した症例で死亡はない.上行大動脈はいずれも成長しているように 思われる.成長していない細い上行大動脈は第二期手術の際に主肺動脈に吻合する方針で臨んでいるが,今のとこ ろ拡大を要する症例はない.

 RV-PA conduitの冠血流に対する利点を生かした上行大動脈に切開を加えない心拍動下のNorwood手術は,術中心 筋虚血を完全に回避し術後心機能を良好に維持することで術後管理を容易にし,生存率を向上させることが期待で きる.しかし,術後の冠血流は細く長い上行大動脈に依存することになる.RV-PA conduitによる高い拡張期圧は細 く長い上行大動脈という冠血流におけるデメリットをどこまで克服できるのか,その限界については不明であり今 後の課題である.

【参 考 文 献】

1)Newburger JW, Jonas RA, Wernovsky G, et al: A comparison of the perioperative neurologic effects of hypothermic circulatory arrest versus low-flow cardiopulmonary bypass in infant heart surgery. N Engl J Med 1993; 329: 1057–1064

2)Asou T, Kado H, Imoto T, et al: Selective cerebral perfusion technique during aortic arch repair in neonates. Ann Thorac Surg 1996;

61: 1546–1548

3)Karl T, Sano S, Brawn W, et al: Repair of hypoplastic or interrupted aortic arch via sternotomy. J Thorac Cardiovasc Surg 1992; 104:

688–695

4)小野隆志,森島重弘,中澤 誠,ほか:すべての外科治療を心拍動下に行いFontan型手術に到達した左心低形成症候群の

1 例.日小循誌 2007; 23: 549–551

5)Kishimoto H, Kawahira Y, Kawata H, et al: The modified Norwood palliation on a beating heart. J Thorac Cardiovasc Surg 1999; 118:

1130–1132

6)Photiadis J, Asfour B, Sinzobahamvya N, et al: Improved hemodynamics and outcome after modified Norwood operation on the beating heart. Ann Thorac Surg 2006; 81: 976–981

7)Bartram U, Grünenfelder J, Van Praagh R: Causes of death after the modified Norwood procedure: A study of 122 postmortem cases.

Ann Thorac Surg 1997; 64: 1795–1802

8)Sano S, Ishino K, Kawada M, et al: Right ventricle-pulmonary artery shunt in first-stage palliation of hypoplastic left heart syndrome.

J Thorac Cardiovasc Surg 2003; 126: 504–510

9)Griselli M, McGuirk SP, Stümper O, et al: Influence of surgical strategies on outcome after the Norwood procedure. J Thorac Cardiovasc Surg 2006; 131: 418–426

10)Cua CL, Thiagarajan RR, Taeed R, et al: Improved interstage mortality with the modified Norwood procedure: A meta-analysis. Ann Thorac Surg 2005; 80: 44–49

参照

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