脳卒中回復期における心理品程の一考察
‑ 2つ の 面 接 事 例 を 通 し て ‑
人 間 教 育 専 攻
臨床心理士養成コース清 律 子
【問題と目的】
脳卒中は我々にとって身近な疾患で,半身麻 療などの障害を残す可能性も高い。急J↑生期病棟 で治療を終えた脳卒中患者の多くは,回復期リ ノ¥ピリテーション病棟などで再び日常生活に 戻っていけるよう訓練をする。回復期における リハビリテーションは,その後の身体機能に大 きく影響するため重要と考えられていることも あり,心理面より身体面での回復が注目される 傾向にある。
1983年にRobinsonらは,脳卒中後に60
0 /
0の高率で、うつ状態が生じたと報告したことから PSD(Post‑stroke depression脳卒中後うつ状 態)が注目された。伊藤(2003)は国内外のこれ までの23の報告からPSDの頻度は20‑‑‑‑‑65%
だとしている。PSDは身体機能の回復を遅らせ,
QOL(quali勿oflife)の悪化に結びつくといわれ ている。PSDなどの要因でリハビ、リテーション が順調に進まず,残柄幾能が充分に生かされな いため寝たきりや引きこもり状態となってしま う可能性もある。脳の器質的要因という面も踏 まえ,医療という枠の中で心理士として関わっ ていくことの有効性や可能性を求め,本研究に 着手した。脳卒中後の QOLの維持,向上のた めの患者支援として,心理面の安定と患者の心 理面の麟卒を深めることの必要性を感じ,患者 理弊と身体的,精神的回復への援助を目的とし,
本研究を行った。
指 導 教 員 今 回 雄 三
【方法}
回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳 卒中患者21名にSDSを用い,患者がどの程度 うつ状態を感じているのか,またその割合を調 査した。さらに, SDSの結果や病棟スタッフの 情報からPSDが疑われる患者1名(女↑的と,う つ状態は呈していないものの精神状態がやや不 安定で病棟スタッフが対応に苦慮している患者 1名(男'闘の2名に対し,週1回約50分程度の 臨床心理面接を行ったO
【結果と考察】
病棟でのSDS調査では,対象者の52%が軽 度以上のうつ状態にあり,そのうちの約半数は 中等度以上のうつ状態にあることが分かったO SDSの結果だけでPSDと判断することはでき ないが,脳卒中後うつ状態になる患者は比較的 多いということが編忍された。
事例研究では,突然の発症による障害のため,
今までの生活が一転してしまうような状況に陥 ったとき,人の心はどのような働きをするのか,
心理士としてどう関わることが望まれるのかと いうことをテーマに面接を行ったO 障害の受容 過程はよく知られているが,必ずしもその過程 を辿るとは限らない。本研究の2例とも,それ ぞれの受容過程を辿っていった。
Aは,入院時よりうつ状態が強く,抗うつ薬 などの内服をしている 70{‑te麦半の女性で,入 隣守 2ヶ月後から面接を開始した。面接初期(#
﹁ ひハU 1i
1‑#7)は,呼吸困難や肱量などの身体症状の訴 えや「死にたいJ
r
忘れるJr
つまらねなど,どんよりとした重苦しい現実を感じられている 様子が伝わってくる一方で,過去の話を鮮やか に瑞々しく語るその対照が印象的だ、ったO 穏や かな表情で通学路や家の間取りまで詳細に語ら れる。面接中期(#8‑13)になると次第に現実世 界の話が多くなる。言語訓練時に新聞を読み始 めたこともあり,社会情勢の話やニュースの話 も語られるようになり,過去のことを語る頻度 も減ってくる。面接後期(#14‑#1ωは溜完が 近づいたこともあり,週!完後の不安が中心に語 られる。しかし面接初期のような日齢、底に入り 込んだような落ち込みかたではなく,現実に留 まっていながら,現実的な不安を語っていると いうふうに感じられた。
A
は,突如変化してしまった現実に対応しき れず,無爵哉的に内的世界に潜り, Aの中で今 も脈々と流れる記憶を語ることで、内的エネルギ ーを蓄えていたのではないだろうかbそして次 第に現実世界とのパイプを太くし、現実に適応 していったので、はないだろうか。河合(2002)は, 抑うつ症の場合,心的エネルギーが退行してし まって自我によって使用で、きるエネルギーが少 ないために抑うつ状態になっているのが,何ら かのイメージが心的エネルギーの運搬者として 出現し,抑うつ症が解消されることがあると述 べてしも。 Aは自律性によって無蔀哉的にその 作業を行なったので、はなし功、Bは, 80代の男性で,入[獄句3ヶ月半後より 面接を開始し,計 10回面接を行った。面接で は, Bの今まで行ってきた仕事のことや入院生 活の不満などが中心に語られ,面接過程にはほ とんど変化がみられなかった。 Bは病気により 自身が損なわれたとし、う感覚がほとんどないよ
うに感じた。高次脳機能障害の可能性は高いが,
Bは自分の変化を認知できていないのではない かと感じた。そのため不具合のある手足を自ら の理論を駆使して理解している。
B
の認知して いる自分と,他者が認識するBにギャッフ。があ るため,相互間に戸惑いとトラブルが生じるOBの気持ちゃ今まで生きてきた中で大切にして きたものなど,話される内容に耳を傾け,
B
の 気持ちに寄り添うことでBの感じる 分かって もらえない感じ"が解消され,精神的な安定を 図れるのではなし、かと考え,面接を行ったO面接で
A
,B
とも回想をしているが,その意 味は異なっている。 Aは,内的世界から自動的 にあふれ出るような様子で,それは自己治癒の ために行なわれた自律性によるものだと思われ る。一方Bは,自分がし、ままで何を大切に生き てきたか,自分はどうしづ人間なのかというよ うなことを,聞き手に伝えるものだ、った。Bは, 他者に語ることで自己の尊厳を取り戻している かのような印象を受けた。このように,回想は 語られる人によってその意味は変わってくるた め,語られる内容のみに捉われず,語り手が今 どのような世界にいて, どのような状態で発信 しているのかということも考えながら語りの世 界を一緒に体験することが重要であると考える。黒川(2005)は,過去は手段で、あっても目的で はなく,入口で、あってもすべてではない。過去 と等しく大事なのは現在J
r
未来jだと述べ ている。語られる過去は,現在の語り手として の一部として常に柄生しているもので,過去で ありながら,それは現在を語っており,それは 語り手の未来へと繋がっていくといえる。不本意に当たり前だ、った日常生活が絶たれた 時,再びそれを繋ぎなおすためにも「語る」こ
とは重要な意味を持っと考えられる。
‑106‑