果評価--バングラデシュ:パドマ橋の事例研究
著者
本間 政仁, 荒川 浩一, 赤塚 雄三, 金子 彰
雑誌名
国際地域学研究
号
11
ページ
89-108
発行年
2008-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003707/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja開発途上国における
長大架橋プロジェクトの経済効果評価
バングラデシュ:パドマ橋の事例研究
本 間 政 仁 ,荒 川 浩 一
赤 塚 雄 三
,金 子
彰
1.はじめに
道路・橋梁プロジェクトの経済効果の計測は古くて新しいテーマである。特に国の財政支出を伴 う社会基盤整備においては実施前にその妥当性や優先順位付けを明確にする説明責任は以前にも増 して強まっており、同時に、経済効果計測の理論的基礎も精緻化がかなり進んでいる。これに対し て、開発途上国における大型道路・橋梁プロジェクトの場合、日本国内と異なり、質・量ともに極めて乏しいデータに基づいて 析評価を余儀なくされる反面、World Bank(WB:世界銀行)、Asian
Development Bank(ADB:アジア開発銀行)、国際協力銀行(JBIC)等の融資審査に備えて、プロ ジェクトの経済効果について定量的な 析評価が求められている。本稿は国際開発援助機関の協調 融資が期待されているバングラデシュ・パドマ橋 設計画調査に際して展開した経済効果評価手法 を紹介し、巨大 共財開発整備の経済効果評価手法開発の参 に供するものである。
2.パドマ橋 設計画の背景
バングラデシュはインド亜大陸東部のベンガル湾に面した世界最大のデルタ地帯に位置し(図 1 参照)、国土はデルタを形成する 4本の大河:ガンジス河、ジャムナ河、パドマ河及びメグナ河、に よって、北部中央、東部、北西、及び南西の 4地域に 断されている。国内最大の生産拠点であり、 消費地である首都ダッカが位置する北部中央地域と北西地域は長大橋ジャムナ架橋によって、また、 北部中央地域と東部地域はメグナ河に架かるメグナ橋、メグナ・グムティ橋及びバイラブ橋によっ て連絡され、 に北西地域と南西地域とはガンジス河を横断するパクシー橋によって連絡されてい る。しかし、国内最大の河川・パドマ河には、架橋に係る技術的困難と巨額の費用の問題に加えて、 日本工営㈱コンサルタント海外事業本部 運輸・ 通事業部 道路・橋梁部 参事 日本工営㈱コンサルタント海外事業本部 運輸・ 通事業部 道路・橋梁部 技師東洋大学国際地域学部 名誉教授;Faculty of Regional Development Studies, Toyo University 東洋大学国際地域学部 教授;Faculty of Regional Development Studies, Toyo University
経済効果に関する疑問を払底し難く、架橋の試みは長年の国家的な懸案課題とされ、現時点では南 西地域とダッカ首都圏を連絡する 通手段は効率の悪いフェリーのみである。このため、南西地域 からダッカへのアクセスは極めて制限され、南西地域の社会経済の発展を大きく妨げている。南西 地域には国内第二の港湾モングラ港があり、労働争議で港湾活動が停滞する事の多い第一の港湾 チッタゴン港を補完する役割を担っており、パドマ河架橋はモングラ港の効果的な活用と言った見 地からも実現が望まれていた(Akatsuka, et al, 2001)。 しかし、架橋計画の実現には、前述のような技術的な諸問題や巨額の 設資金の投資効果を詳細 に調査 析して実現可能性を検証し、現実的な資金調達の方策を提案する必要がある。こうした背 景の下に、(独立行政法人)国際協力機構(JICA)は、バングラデシュ政府の要請を受けて、パドマ 架橋の実現可能性調査を2003年 5月から2005年 3月に亘って実施した。当然の事ながら、パドマ橋 のような巨大プロジェクトの妥当性の検証には、単に経済効果だけでなく、地域格差是正への必要 性、広域的な運輸 通体系上の必然性と重要性、河川の形態や工学的な見地から見た技術的な 全 性、河川の生態系、直接的な影響を受ける地域住民の移転や生活再 と言った視点からの詳細な 析評価に加え、道路計画、橋梁計画・設計、自然条件調査、等も必要である。 本稿は JICA によるパドマ橋 設計画調査の一環として実施された経済効果の 析評価に際して 試みた多様なアプローチの紹介を目的としている。JICA 調査は前述のような多くの 野を包括す 図1 インドインド亜大陸全図
る 合的な調査であり、その詳細は(JICA 2005)に収録されており、関連諸 野の概要に関しては、 参 文献11)∼17)に報告されている。 図 2は、幹線道路・鉄道網、並びに国土計画上最も重要な輸送回廊に加え、国土を南北東西に 断するガンジス河水系とメグナ河水系を形成する 4本の大河の位置を示したものである。また、表 1に JICA 調査の結果として策定された架橋計画の概要を示した。 図2 バングラデシュ:幹線道路・鉄道網と巨大河川水系(2005年) 表1 JICA 調査に基づいたパドマ河架橋計画(2005年 3月) 1)プロジェクトの位置: ・ムシガンジ、シャリアトプルとマダリプールの各地域に亘るマワ∼ジャンジラ間 2)プロジェクト 長: ・17,743ⅿ 3)主橋梁区間: ・全橋長:5,580ⅿ 主橋梁区間:エクストラドーズド橋(5,400ⅿ) 取付橋梁区間:PC 箱桁橋(マワ側 60ⅿ ジャンジラ側 120ⅿ) 4)道路橋幅員構成: ・有効幅員:21.5ⅿ、往復 離、車道 4車線(片側 2車線) 5)併用橋案の場合: ・有効幅員 25.0ⅿ、往復 離、車道 4車線(片側 2車線)+1単線軌道 6)取付道路: ・ 長マワ側 213ⅿ、ジャンジラ側 11,950ⅿ、 幅員 25ⅿ、往復 離、合計 4車 線、盛土構造、中小橋梁 6橋、ボックスカルバート 13箇所、料金所、サービス エリア 7)河川構造物: ・河川護岸 長:マワ側 6,000ⅿ、ジャンジラ側 10,300ⅿ、浚渫土量:9,500,000㎥
3.パドマ河渡河 通の現況
3.1 渡河 通量(2003年) パドマ河は上流のジャムナ河とガンジス河が合流して形成され、下流でメグナ河と合流し、 な る大河となってベンガル湾に至る。ジャムナ・ガンジス合流地点からメグナ河との合流地点までの 河川 長は100㎞以上あり、この区間では河幅は 6∼ 7㎞に達し、ダッカ首都圏と南西地域の運輸 通を 断している。現時点では人流・物流は旅客・車両混載のフェリー及び旅客専用のラウンチボー トが担っている。 フェリーとラウンチボートの運航地点は、ジャムナ河とガンジス河の合流点に近いパトリア(左 岸)∼ゴアルンド(右岸)と、マワ(左岸)∼ジャンジラ(右岸)の 2ルートである。この他に、 パドマ橋の 設位置によって影響を受けるフェリールートはパトリア(左岸)∼プロタプル(右岸) があり、また、既に供用されているジャムナ橋の 通量もパドマ橋架橋地点によっては影響を受け る事になる。当地域におけるフェリーサービスはバングラデシュ内陸水運 社(BIWTC)が行い、 ラウンチボート運航とフェリーターミナル運営管理はバングラデシュ内陸水運 団(BIWTA)が行 なっている。表 2は、主要なフェリー渡河地点であるパトリア∼ゴアルンドとマワ∼ジャンジラの 2ルートで実施した 通調査(3日間調査)及び上記 2機関から収集した 通統計に基づいて推計し たものである。 供用開始後にパドマ橋へ転換する可能性のある 通としては、現存のパドマ河フェリー、ラウン チボート利用 通の他に、首都ダッカを起終点とし、南西地域東部のバリサル・ディストリクトと の間で運行されている長距離内陸水運(旅客・貨物)がある。需要予測の際には、これら競合する 全ての輸送モード及び代替ルートを 慮して転換 通量を予測した。 3.2 フェリーサービスの現況 フェリーターミナルにおけるバス及び軽自動車の平 待ち期間は、パトリア∼ゴアルンドでは 1 表2 パドマ河渡河 通量(日 通量、双方向、2003年) 車輌数 パトリア∼ゴアルンド マワ∼ジャンジラ 渡河 通量合計 車輌台数 旅 客 数 車輌台数 旅 客 数 車輌台数 旅 客 数 フェリー利用・バス 687 26,600 227 7,000 914 33,600 ・乗用車/バン/ピックアップ 572 (上に含む) 128 (上に含む) 700 (上に含む) ・貨物車 1,217 ― 78 ― 1,295 ― 小 計 2,476 26,600 433 7,000 2,909 33,600 ラウンチボート利用旅客数 15,559 9,126 24,685 合 計 2,476 42,159 433 16,126 2,909 58,285 注 1:BIWTC 通統計、2003年 7月の連続 3日間平 値 注 2:ラウンチボート旅客数現地調査(3日間調査平 値)時間弱、マワ∼ジャンジラでは 1時間強であるのに対し、貨物車の待ち時間は極端に長い。前者で は2.7時間、後者では1.8時間である。また、渡河時間に関しては、マワ∼ジャンジラ間での 2時間は、 パトリア∼ゴアルンド間の35 と比較してかなり長く、これが現在、パトリア∼ゴアルンドルート がより選好されている理由の一つとなっている。
4
通需要予測
4.1 架橋位置と 通需要 パドマ橋の 通需要(道路 通量)は需要方向(OD パターン)、接続する道路網、競合する他 通モード、既存架橋(ジャムナ橋)、将来の道路網整備の進 、等によって影響を受ける。加えて、 今回の事例のように架橋候補地を100㎞以上の極めて広範囲から選択する場合は、上流架橋か、下流 架橋によって 通需要も大きく変動する。このような状況を 慮し、『架橋位置』の検討に当たって は多面的・段階的なアプローチを試みた。最初に、河川形態学的観点から川幅が比較的安定してい ると判断された 4地点(図 4参照)を架橋位置代替案として選択し、河川工学、橋梁計画、道路計 画、 通需要、環境、等から種々の評価基準に基づいて、 合的に比較することにより 2地点に り込み、 に最終的に最適架橋地点を決定する、という三つのプロセス、即ち、① 4地点の選定、 ② 2地点への り込み、③最適架橋地点の決定、で行った。 4.2 架橋位置代替案別 通需要の予測 ⑴ 4段階推定法と 通の種類 パドマ橋の 通需要予測は、目標年次を2015年、2025年とし、基本的には 4段階推定法:①生成、 発生・集中 通、② 布 通、③機関別 担 通、④配 通により、夫々の架橋位置代替案別(4 地点別)の予測を行なった。また、 通の種類は、①通常 通、②他の 通モードからの転換 通、 ③パドマ橋及びその他の道路整備事業の 設によって新たに発生する誘発 通の 3種類に 類し た。 表3 パドマ河渡河に要する待ち時間、渡河時間の現況(2003年) (単位: ) パトリア∼ゴアルンド マワ∼ジャンジラ 待ち時間 渡河時間 合 計 待ち時間 渡河時間 合 計 フェリー バス 58 35 93 66 122 188 軽自動車 48 35 83 67 122 187 貨物車 160 35 195 109 122 231 ラウンチボート (20) 35 55 (20) 122 142 注 1:BIWTC による記録(高水位シーズン及び低水位シーズンの平 値) 注 2:ラウンチボート旅客の待ち時間は現地観察に基づいて推計⑵ 開発 通の扱い いわゆる「開発 通」に関しては、その定義に統一性がなく、議論のある所である。開発 通の え方として、パドマ橋 設に全く関係のない他の開発プロジェクト(既存の工業団地開発や住宅 団地の 設、等)から将来発生すると予想される 通量を意味する場合がある。その対極に、パド マ橋 設に伴い、関連地域の利 性や開発ポテンシャルが高まる事による土地利用が、その 道や 線に誘導され、商工業施設等が集積する結果として発生する 通を意味する場合がある。前者の 場合、地域の経済構造を大きく変化させる既存の大規模な地域開発計画(例えば、新都市開発や副 都心計画等)が存在すればその実現可能性を十 踏まえた上で、需要予測の前提となる社会経済フ レームに反映させる必要がある。 しかし、今回の調査では地域関係機関や中央政府担当機関に対するヒアリングを通して、この種 の開発計画は存在しない事を確認した。またパドマ架橋を前提とした開発計画に関しても、調査の 時点では架橋の位置や供用開始の時期が不確定の状態であり、長期地域開発を策定している自治体 や経済団体も皆無であった。パドマ橋の経済効果を社会経済フレームに定量的に反映させるために、 地域計量経済モデルを構築する方法も えられるが、地域間産業連関表をはじめとする統計資料が 不足のため、この方法の採用は困難であった。そこで、本調査では「開発 通」を独立して予測す ることはせず、「誘発 通」に含まれるものとして扱った。 ⑶ 通需要予測モデル 1)現況 OD 表と現況道路ネットワークの構築 通調査結果および既存資料から2003年の通常 通の車種別 OD 表及びネットワークを作成し、 現況配 を行い、パドマ河とジャムナ河渡河における観測 通量と配 通量を比較することに よって、現況 OD 表及び配 手法の妥当性を検証した(図 3参照)。 2)需要予測の手法 通常 通に関しては、過去の 通統計と GDPおよび 通ゾーン別・車種別の将来地域生産額 (GRDP)の伸び率を適用し、生成 通、発生集中 通、 布 通を予測した。 図 3 観測 通量と配 通量の比較
他の 通モードである内陸水運からの転換 通量は旅客、貨物双方に関して機関 担モデルを作 成して予測した。誘発 通はパドマ橋 設の有無の両ケースにおけるアクセシビリティの差と、他 の道路橋梁整備事業の有無による差を夫々 慮し、重力モデルを作成して予測した。図 4は、前述 の方法で推計した2025年の「通常 通」、「転換 通」、「誘発 通」を将来の道路整備計画を含む道 路ネットワークに配 する事により、4架橋候補地点の渡河 通量を推定した結果を示したもので ある。本図から将来 通需要はマワ∼ジャンジラの架橋ケースが最も多い事が明らかである。
5 パドマ橋の経済効果
5.1 “With Project”と“Without Project”
通常の開発プロジェクトの場合には、“プロジェクト”の有無による状況を比較する事によって経 済効果(経済 益)を定量的に把握している。すなわち、パドマ橋が 設された場合と 設されな い場合を想定して配 計算を行い、両ケースにおける 通費用(走行時間、走行経費)の差を 益 として直接効果を計測する方法である。この方法自体に異論はないが、問題が無い けではない。 “プロジェクトなし”の状況下でも現行フェリーのままではなく、フェリーサービスの改善・輸送 力増加と言った代替案が えられないか、また“プロジェクトあり”の場合でも、架橋ではなく、 例えばトンネル案と言った他の渡河施設があり得るか、と言う問題である。 この種の問題に関して重要な視点は、「何が最も現実的な代替案か」と言う事であろう。例えばト ンネル案に関しては、毎年のように 4大河川を含む河川群が氾濫し、国土の半ば以上が水没する国 土の性格から推して非現実的であり、検討対象から除外されるのは当然である。また、“パドマ橋な し”の場合として、フェリーサービスを増強する案も えられるが、下記の理由により、架橋案が 優位と判断された。 図4 架橋位置代替案別将来 通量の予測(2025年)
⑴ 河川性状の不安定性 パドマ河は対岸が眺望できない程の大河であり、護岸工事によって管理された河川ではなく、河 岸の侵食と堆積が常時繰り返されている自然河川である。2箇所の現存フェリー地点を含む架橋候 補地点は、他の地点に比べて河川性状が比較的安定してはいるが、パドマ河はその川幅を頻繁に変 化させ、河岸に低地帯を形成している。パトリアでは過去30年間で川幅が最小2.4㎞から最大 5㎞ま で変化し、マワでは最小 2㎞から最大4.9㎞まで変化が記録されている。また、フェリー桟橋(木杭 構造)は季節毎の水位変化や河岸の侵食・堆積状況に応じて、位置を変え、杭打設・撤去を繰り返 す仮設構造物で対応しているのが現状である このような不安定な状況下では、パドマ河に大規模で恒久的なフェリーターミナルを 設し、現 行のフェリー運行を改善・増強することは非常に困難である。因みに、パドマ橋の取付け位置にお ける護岸工事には、橋梁本体に匹敵する 設費が必要と推定されている。従って、“プロジェクトな し”のケースで、フェリーサービスの改善・増強案は非現実的と判断せざるを得ない。 ⑵ フェリー/ラウンチボートの遭難事故 河川性状の不安定性に加え、ダッカ∼南西地域間で運行されているフェリー/ラウンチボートの遭 難事故防止の緊急課題がある。この航路はパドマ河とメグナ河の両大河が合流して乱流や渦が発生 する危険水域を通過しており、この危険水域では定員超過の 舶が転覆・沈没する遭難事故が頻発 している。1976年以来、270隻の 舶事故のため約4,000人の死亡が記録されている。年平 9 隻の沈 没/転覆、140人の死亡と言った事故発生で、この状況は過去30年間全く改善されていない。老朽 舶の就航や定員超過乗 を制限する効果的な防止策が欠如している実態がある。このような観点か ら、フェリーやラウンチボート運航を安全で信頼性の高い陸上 通に置き換えるべきとの社会的な 要請は極めて大きい。 ⑶ フェリーサービス改善・増強案の限界 既に 1)でフェリーサービス改善・増強案が非現実的と明らかにしたが、この案を採用した場合の 限界について 析を試みた。仮に、フェリーターミナルの新設・拡張と投入 舶数の増加を図り、 フェリーサービスの容量増加を代替案とした場合を試算した。この結果、パトリア∼ゴアルンドルー トでは、30%の容量増加では2014年に 通需要が容量限界に達し、50%の容量増加でも2017年に容 量限界に達する事が判明した。また、マワ∼ジャンジラルートでは、フェリー運行容量を100%増加 させても 通需要は2010年に容量限界を超える事と推定された。従って、現行フェリー/ラウンチ ボートサービス改善・増強案は“プロジェクトなし”のケースにおける代替案として不適格である。 フェリー施設拡張の困難さ、非効率さに加え、安全で全天候型 通手段の提供、および効率的投資 の観点から、現行フェリーサービスは将来の最適時期にパドマ橋に置き換えるべき、と言う結論に 達した。
5.2 経済効果の計測 架橋位置代替案として選定された 4箇所の候補地点の各々について、河川規模(川幅、最大水深)、 河川性状安定性、 通需要、橋梁計画、道路計画、河川護岸工、環境社会配慮の観点から 合評価 を行なった。この検討結果の詳細は(JICA 2005)に収録されている。以上の検討結果に基づいて、 経済効果の計測は現在フェリーが運行されている次の 2地点、即ち、パトリア∼ゴアルンドルート とマワ∼ジャンジラルートで行った。この 2箇所の候補地から最適架橋地点を選択するため、さら に詳細な調査が実施された。この段階で 通需要はもとより、投資効率、経済効果の大小が架橋位 置決定の重要な要因となった。 ⑴ 架橋位置によるアクセシビリティ改善 ダッカ首都圏の存在する北部中央地域と南西地域の間にパドマ河が横たわっているため、両地域 間の人的、物的 流は極めて制限され、南西地域の発展を阻害してきた。パドマ橋の 設にはこの 隘路を解消し、両地域間のアクセシビリティを改善する事によって南西地域の経済発展、ひいては バングラデシュ全体の 衡のとれた、永続的な成長を実現する願望が込められている。 通プロジェ クトの経済効果はこのアクセシビリティの向上に起因すると言っても過言ではない。アクセシビリ ティを示す指標あるいは表現方法については種々の え方があるが、本調査では視覚的に かり易 く、理解し易い方法として「時間コンター」による方法と、「カバー率」による方法を採用した。 1)時間コンターマップ 通量配 結果よるゾーン間平 走行時間、従って混雑状況を 慮した走行時間、を用いて、ダッ カから 2時間以内、3時間以内、4時間以内に到達可能な地点を結んで得られる「等時間曲線(時間 コンター)」を描いたものが、図 5(現況)、図 6(パドマ橋がパトリア∼ゴアルンドに架かった場合)、 図 7(同じくマワ∼ジャンジラに架かった場合)である。図 5の現況時間コンターから明らかなよう 図5 時間コンターマップ(現 況) 図7 時間コンターマップ(マ ワ∼ジャンジラ架橋ケー ス) 図6 時間コンターマップ(パ トリア∼ゴアルンド架橋 ケース)
に、現況ではダッカから 4時間以内に到達可能な南西地域はラジバリ・ディストリクトのみであり、 パドマ河が南西地域の発展にとっていかに大きな隘路となっているかが かる。さらに図 6と図 7 の時間コンターを比較すると、各時間コンターでカバーされる南西地域内の区域面積の広さは、パ ドマ橋がマワ∼ジャンジラに架かった場合が格段に大きく、このルートが南西地域全体にとって他 のルート案と比較して利 性がより高いことを示している。 2)人口カバー率 時間コンターは一定の時間以内に到達可能な面的広さを示すものであるが、これだけでは社会経 済活動の 布との関連が把握されない。そこで、人口カバー率によってこれを示したものが図 8で ある。この図によれば、ダッカから 3時間以内に含まれる南西地域の人口は、パドマ橋がパトリア に架かった場合は南西地域の人口の か 9%に過ぎないが、マワに架かった場合は35%の人口をカ バーできる。また、4時間以内の場合、パトリア経由では42%に留まるが、マワ経由では74%に達す る。従って、マワ∼ジャンジラルートを架橋地点とする事がアクセシビリティ向上の面から望まし いと判断できる。 ⑵ 経済 益の計測と経済評価 架橋位置の決定に際しては、候補 2地点ごとの 通量、概略事業費に基づく経済評価の結果も重 要な判断材料とされる。一般的に、道路・橋梁プロジェクトの直接効果としては、 ①自動車走行経費(VOC)の節約 ②走行時間の節約(フェリー待ち時間、フェリーによる渡河時間も含む)が主な 益であるが、 本調査で下記の項目も 益として計測した。 ③貨物の荷痛み減少 益 ④フェリー運行費用節約 益(架橋によりフェリー運航が不要となることによる 益) ⑤ 共施設(高圧送電線、高圧ガス輸送管、通信回線)のパドマ橋搭載による 益 ⑥土地涵養 益(埋立て、河岸侵食防止、・洪水制御による土地価格上昇する 益) 図8 人口カバー率の比較
益計測にあたって特に留意した点を次の(3)∼(5)に述べる。 ⑶ 共施設の搭載による 益計測方法 上記の追加 益の中でパドマ橋の特質を反映している 益は、特に⑤の 共施設の搭載による 益である。パドマ橋は現在供用中のジャムナ橋と同様に、「多目的橋梁」として計画されており、南 西地域にとってのライフラインである高圧送電線(400Kv)、高圧ガス輸送管(口径30インチ)、通信 回線(光ケーブル)の搭載が計画されている。このような 共施設の搭載による 益は、道路・橋 梁プロジェクトが持つ本来の 益(橋の利用 通が享受する 益)とは異質なものであり、その定 量的計測方法が課題となり、下記の二通りを検討した。 1)南西地域の電気、ガス、電話の普及率の向上に寄与する 益 これは、パドマ橋に高圧送電線、高圧ガス輸送管、通信回線、を搭載した結果、南西地域でこれ らの 共サービス普及率が上昇し、地域住民の生活水準向上が達成される事による 益である。こ の 益に関して、これらの 共施設をパドマ橋に搭載して南西地域にサービスを提供する場合と、 これらの施設を単独でパドマ河上空に架設する場合とで普及率に差が出るか否か、の問題がある。 単独架設の場合には、洪水時の激流に耐え得るだけの強固で多数の鉄塔の 設が求められ、莫大な 費用を必要とする。パドマ橋に搭載する事で、 共サービスの供給価格の低減が可能となり、普及 率は搭載しない場合より上昇するかもしれない。しかし、普及率上昇の程度の計測とか、その 益 の定量的把握の方法、と言った問題に発展し、実際的な計測は困難であり、本調査での採用は断念 した。 2)高圧送電線、高圧ガス輸送管、通信回線、の設置費用低減効果 パドマ橋が無い場合、南西地域に、電力、ガスや電信電話の 共サービスを提供するには、パド マ河に強固な鉄塔を 設して高圧送電線や通信回線を架設する必要がある。また、高圧ガス輸送管 は上流のジャムナ橋経由 回ルートで南西地域まで 伸するケースも えられる。これらの 費用 はパドマ橋に搭載する場合に比べてかなり高額となる。そこで、両者の費用の差をパドマ架橋の 益とする。このアプローチは 共施設の 設・供給コスト面だけに着目したものであり、アジア開 発銀行が協調融資に参加したジャムナ架橋の経済効果の評価に際して採用した方法である(ADB 1994)。本調査ではこの 2)の方法によって 共施設搭載による 益を計測した。 ⑷ フェリー運行廃止に伴う社会的損失 マワ∼ジャンジラルートにパドマ橋が 設された場合、その供用開始を機に、このルートのフェ リー運行は廃止されるので、その影響について検討した。通常の場合、フェリー運行に従事してい る労働者は失業するか、他のフェリー地点に移転する事になり、これに対する補償費用もプロジェ クトの費用に含める必要がある。しかし、現在、パドマ河でフェリーサービスを提供しているのは バングラデシュ内陸水運 社(BIWTC)であり、フェリー運行に責任を負う海運省下にある政府部 門である。BIWTC によれば、マワおよびパトリア地区でフェリーを運航している民間会社は存在し
ない。また、国内各地にフェリーサービス開始を待ち望んでいる地点があり、廃止されたフェリー サービスをこのような地点に移転して、フェリー運行を継続することが可能である。従って、BIWTC に対して補償を行なう必要はない。旅客専用のラウンチボート運行とフェリーターミナルの管理も、 政府部門であるバングラデシュ内陸水運 団(BIWTA)に属する。 実際に、フェリー運行の廃止に伴って補償が必要となるのは、マワ∼ジャンジラのフェリー桟橋 周辺に立地している零細店舗の所得損失に対する補償である。それらの店舗の所有者や従業員は店 舗閉鎖や他のフェリー地点への移転を余儀なくされる。従って、彼らへの補償は必要であるが、こ れらに必要な費用は住民移転費用の一部として既にプロジェクト費用に含まれている。また、フェ リーを利用していた低所得層がパドマ橋完成後は安価な渡河手段が無くなるという危惧に対して は、パドマ橋利用バス料金を現行フェリー利用バス料金より低く設定して対処している。因みに、 需要予測も同様の前提条件によっている。 ⑸ 経済 益の計算結果 上記の全ての項目について経済 益を算定し、プロジェクトの経済費用と比較した結果、経済内 部収益率(EIRR)はマワ∼ジャンジラルートで16.9%、パトリア∼ゴアルンドルートで9.6%となり、 概略経済評価の面からもマワ∼ジャンジラルートが最適架橋地点と判断された。なお、概略設計に 基づいて精査した架橋費用に基づいた経済評価では道路橋最適案の EIRR は15.4%であり、将来の 鉄道搭載に備えて鉄道線路を敷設する代替案では14.8%となった。 5.3 地域経済開発への貢献 ⑴ 間接経済効果 パドマ架橋の目的はパドマ河による運輸 通の隘路を解消し、発展の遅れている南西地域とダッ カ首都圏との間のアクセシビリティを高め、地域の 衡ある持続的発展と、ひいてはバングラデシュ 全体の経済発展に寄与する事、 に、その結果として 困削減に貢献する事にある。このような地 域経済への効果は、上記で計測された経済効果(特に走行時間、走行費用の大幅な節約による直接 益)を基礎として生産・消費・流通の経済活動を押し上げる効果であり、間接効果と呼ばれてい る。問題はパドマ橋の間接効果を如何にして計測するかにある。我が国のように、地域間産業連関 表や各種の地域経済統計が整備され、研究実績が蓄積されている場合は、大規模な地域計量経済モ デルを構築して、地域経済効果を計測する事も可能である。しかし、バングラデシュを始めとして、 多くの開発途上国はそのような環境になく、本調査でも上記のような手法による間接効果計測は見 送らざるを得なかった。 ⑵ 簡 な効果推計モデル そこで、より簡 なモデルを作成して、パドマ架橋の南西地域の地域生産額(GRDP)増加に及 ぼす影響の計測を試みた。その際に下記の 3点を 慮した。
1) バングラデシュではディストリクト単位の地域生産額 GRDPが入手可能であり、これを面 積当たりで表現した GRDP/km2を被説明変数とする。これは一種の土地の生産性を示す指 標である。 2) パドマ橋によるアクセシビリティ向上を明示的に組み入れることが可能なモデル、すなわち アクセシビリティ指標を説明変数とし、同指標として、南西地域内各ディストリクトとダッ カ首都圏間の走行所要時間を採用した。 3) 図 9 からも明らかなように、首都圏と南西地域各地間の道路走行時間のみでも十 な説明力 はあるが,この他に各ディストリクトにおける社会基盤施設の整備状況を示す指標として フィーダー道路の密度を加えた。以上のデータを2000年について収集・加工し、回帰 析の 結果得られたモデル式は下記のとおりである。 Ln(G)=3.0453−0.5482Ln(T)+0.4926Ln(F) R=0.902 上式で、 G:GRDP/㎢ T:南西地域からダッカまでの現況所要時間 F:フィーダー道路の密度(㎞/㎢) Ln:自然対数 上式に「パドマ橋がある場合」と「パドマ橋がない場合」の首都圏との走行所要時間を代入し、 GRDPへのインパクトを計算した。ここではフィーダー道路密度は固定とした。その結果、パドマ 橋が 設され、アクセシビリティが向上すると、南西地域の GRDPはパドマ橋がない場合と比較し てパトリア∼ゴアルンドルートの場合は18%の上昇となり、マワ∼ジャンジラルートの場合では 35%も上昇する。この上昇 は GRDPの自然成長(趨勢成長)に上乗せされる である。ただし、 このインパクトはパドマ橋の完成後に即座に実現されるのではなく、供用開始後、長期にわたり徐々 に効果が現れる。パドマ橋が仮に供用開始後15年以内に完全に利用されるとすれば、GRDPの成長 図9 ダッカと南西地域各地間の走行所要時間と地域生産額との相関
率に与えるインパクトはマワ∼ジャンジラルートで年率2.0%程度となる。 この方法、すなわち、アクセシビリティ指標を明示的にモデルに組み込み、その変化が南西地域 GRDPに及ぼすインパクトのみに着目する方法、は必ずしも他の調査にも適用できるとは限らな い。モデル式推定のためのデータはダッカを含む北部中央地域と南西地域のみであり、例えばバン グラデシュ第一の港湾があるチッタゴン(東部地域)などは含まれていない。ダッカのように一点 集中型で、他の地域に核となる大都市が含まれず、首都周辺に商工業施設が集積する傾向がある場 合は一定の説明力を有するモデルが作成可能である。しかし、地域生産額 GRDPは本来、上記のモ デル式のような 2変数のみの単純なモデルでは説明できない場合が多い。また、経済の地域間相互 依存関係を 慮すれば、南西地域のみならず、ダッカ首都圏を抱える北部中央地域やその他の地域 も何らかのプラスの効果を得ると思われるが、説明変数としてダッカと首都圏外各地との走行時間 距離を適用した上記簡 式ではそこまで踏み込んだ 析は困難である。 ⑶ 産業連関表による投資の乗数効果(国家レベルの経済効果) パドマ橋の 設には多大な投資が必要であり、その 設はいわゆる投資の乗数効果を通じてバン グラデシュ国内の関連部門の生産、雇用、所得の増加をもたらすと えられる。この効果は上記で 説明したパドマ橋供用後の利用によって実現する直接効果や間接効果ではなく、 設そのものから 派生する関連産業への需要増加効果である。この 野の 析に最も有効な方法は産業連関表を適用 する手法であり、2000年のバングラデシュの全国産業連関表(86産業部門)を入手し、投入産出モ デルを援用して国民経済レベルでの誘発経済効果(需要増加、付加価値誘発額および雇用誘発効果) を定量的に把握した。シミュレーションの前提となるシナリオは以下の通りである。 1) パドマ橋の 設に要する費用を主要な資機材別(セメント、鋼管杭、PC ケーブル等々)に細 し、それらの費用項目が属する産業セクターへの最終需要(投資)として与える。資機材 の 費用は22,576百万タカである。 2) パドマ橋の供用に伴い、 通部門の需要が国全体で20%増加する。この値はジャムナ橋のイ ンパクト調査(ADB 2003)で採用された値16%から推計した。 シミュレーションは下記のモデル式を用いて行った。 バランス式> X=AX+F(D)+F(E)−M(AX+F(D)) X=[I−(I−M)A][(I-M)F(D)+F(E)] ここで、 X :セクター別生産ベクトル A :投入係数行列 F(D) :最終需要行列(輸出を除く) F(E) :輸出ベクトル
M :輸入係数ベクトル I :単位行列 [ ] :逆行列 シミュレーションの結果は以下の通りである。 - 誘発生産額:54,486百万タカ(国民経済レベルで1.2%の増加) - 誘発付加価値額:32,638百万タカ(1.4%の増加) - 誘発雇用量:743,000人・年 従って、もし想定されたシナリオが実現されれば、パドマ橋 設は GDPを1.2%押し上げ、要素 所得である付加価値を1.4%上昇させる。また年間743,000人の雇用を新たに 出することになる。 上記の演算では、内貨および外貨別に費用が積算されており、そのうち外貨 はバングラデシュ 国外から調達(輸入)される可能性があり、その部 はバングラデシュ国内の生産増、雇用増には 繫がらないとの指摘については、以下のような説明が可能である。本シミュレーションでは産業連 関表より導出される輸入係数ベクトル(M)により輸入の影響を 慮しており、費用積算の際の内貨、 外貨の区別に関係なく、バングラデシュの輸入構造実績に従うものとして計算している。また通常 の I-0 析と同様、生産増による価格への影響や誘発生産増加を実現するための容量に制約はない という仮定に基づいている。
6.国際 通網の形成とそのインパクト
6.1 アジアハイウェイ 国連アジア太平洋経済社会委員会(UN・ESCAP)は、東アジアからヨーロッパに至る国際道路 の構築がアジア・太平洋諸国の平和と反映に繫がるとの理念の下に、日本を起点として、朝鮮半島・ 中国大陸・インドシナ半島・ミャンマー・インド亜大陸・アフガニスタン・イラン・トルコを経て ヨーロッパに至るアジアハイウェイ構想を提唱し、UN・ESCAP加盟国の賛同を得て、徐々に実現 しつつある。加盟国は自国を通過するのに最適ルートを選定して、UN・ESCAP・アジアハイウェ イ委員会の同意を得て、UN・ESCAPの定めた道路構造基準に基づいて自国内道路を整備する事に なる。換言すれば、アジアハイウェイ構想に参加する国は、自国内を通過する国際 通を許容する ルートを定め、国際基準に準拠した道路を整備し、国際 通に開放する構想である。パドマ橋はバ ングラデシュ政府が選定し、アジア諸国の認知を得たアジアハイウェイ・A-1のルート上に位置し ている。このルートに全天候型道路橋を提供することにより、バングラデシュ国内だけでなく周辺 諸国(インド、ネパール、ブータン及びミャンマー)との 易の促進にも貢献することが期待され る(赤塚 2007)。6.2 バングラデシュの地政学的位置 バングラデシュはそのインド亜大陸東部地域において、図10からも明らかなように、インドとミャ ンマーとの間に国境を共有し、内陸国のブータンとネパールとは狭い帯状のインド領を挟んだ隣接 状態にあって、この地域における主要な人流・物流回廊としての機能果たしうる位置にある。換言 すれば、内陸国のネパール、ブータンだけでなく、内陸状態のインド東部 7州(アルナチャルプラ デシュ州、アッサム州、マニプル州、メガラヤ州、ミゾラム州、ナガランド州、トリプラ州)に対 して港湾サービスを提供できる重要な位置にある。加えて、インドの西ベンガル州と上述の東部 7州 はバングラデシュを横断して直結する通過 通路を提供できる立場にもあり、バングラデシュはイ ンド亜大陸東部地域において、地政学的な視点から重要な戦略的な位置を占めている(赤塚、他 2001)。 上述のバングラデシュの地理的な位置と戦略的な重要性は以前から注目されていた(Akatsuka,et al, 2001)。これが必ずしも十 に生かされてこなかった背景には、周辺諸国との政治、経済、社会 的な関係とか人流・物流に関する慣行や制度上の制約があり、バングラデシュを縦横に貫流する 4大 河川による運輸 通上の障害もあった。これらの政治、経済、社会、慣行、法制度、等の環境条件 に関しては、近年、南アジア地域協力連合(SAARC、インド亜大陸諸国が加盟する国際協力機関) を中心にして改善策が図られている(Tsukada 2006)。 4大河川による障害に関しては、日本や国際機関の協力を得て、大型架橋による障害克服が進めら れている。最初に実現したのはメグナ河架橋(日本:メグナ橋、メグナ・グムティ橋)で、ジャム ナ河架橋(日本、アジア開発銀行、世界銀行)、インダス河架橋(日本:パクシー橋)、ルプシャ河 図10 インド亜大陸東部地域
架橋(日本:ルプシャ橋、インダス河支流)が続き、残る障害はインド亜大陸最大河川:パドマ河 である。従って、パドマ橋の 設は大河川による運輸 通障害を克服し、これが SAARC を中心と した国際協力と相乗効果を呼び、バングラデシュだけでなく、周辺諸国相互間の人流・物流を促進 し、地域の安定・安全の強化と経済・社会の発展に大きく貢献する事が期待される。 6.3 周辺諸国との人流・物流へのインパクト パドマ橋(マワ∼ジャンジラルート)は、アジアハイウェイ A-1に全天候型の道路リンクを提供 することで国際道路網の形成に貢献できる最適な場所に位置している(図11)。 にバングラデシュ 国鉄(BR)はパドマ橋に広軌鉄道搭載の意向を示しており、本調査においても鉄道線路搭載による 架橋プロジェクトの経済性への影響を検討した。その結果、道路専用橋の場合と比べて、EIRR は若 干低減するが、プロジェクト自体の経済性を損なう程度には至らない事が検証された。従って、広 軌鉄道を搭載し、道路・鉄道併用橋とする事は経済的にも可能であり、実現すれば UN・ESCAPの 提唱するアジア横断鉄道南路線と連絡して国際鉄道網の形成に寄与する事になる(図12)。 BR は、図12に示すように、パドマ橋(マワ∼ジャンジラ)を経由して首都ダッカと南西地域を連 絡する鉄道網拡張計画を策定している。現時点におけるダッカ∼コルカタ間の鉄道連絡は、ダッカ より北西に進んでジャムナ橋を渡り、 に南西に進んでダルサナ(Darsana)でインド鉄道網に連絡 図11 バングラデシュを横断するアジアハイウェイ 構想 図12 パドマ橋と鉄道新ルート計画(点線区間)
し、南下してコルカタに至るおよそ403㎞のルートである。一方、パドマ橋に鉄道が搭載され、ジェ ソール間とのリンクが完成すると、ダッカ∼パドマ橋∼ジェソール∼ベナポール(バングラデシュ 側国境都市)を経てインド鉄道網と連結し、インド第二の港湾都市コルカタに至る260㎞余りのルー トに短縮され、輸送時間と費用の低減効果も大きい。 先に述べたインド東部 7州と他の地域(インド本土)間には、最も狭い地点で か22㎞のシリグ リ回廊を経由する長大な鉄道網が整備されており、生活必需品や東部 7州の農林産物や鉱物資源な どの多くは鉄道貨物として、港湾都市コルカタを通して輸送・配送される。この間の輸送距離は、 例えば、最南端のミゾラム州の場合には1,500㎞余りに達する。これをパドマ橋を経由する国際鉄道 で輸送すれば、輸送距離は400∼500㎞に短縮され、インド・バングラデシュ両国に多大な 益を齎 す事に疑問の余地は少ない。 に、こうした国際鉄道輸送の政治経済環境が整えば、インド東部 7州 の外国貿易にバングラデシュ・チッタゴン港の利用も可能となるであろう。また、内陸国のネパー ルとブータンの輸出入貨物は、現時点ではコルカタ港に独占され、長大な鉄道・道路輸送を余儀な くされているが、こうした環境の変化は、両国の外国貿易港湾に選択肢を齎し、港湾だけでなく、 陸上輸送サービスの改善効果も期待できる(CCCI 2004)。換言すれば、パドマ橋 設の間接的な 効果はバングラデシュ国内だけに留まらず、近隣諸国を含むインド亜大陸東部地域全般に及ぶ事を 示している(赤塚 2007)。
7.おわりに
開発途上国における長大架橋プロジェクトの一例として、バングラデシュのパドマ橋 設計画を 取り上げ、その経済効果評価を試みた。その結果、パドマ橋 設の経済効果は、その大きさや影響 の広域性などの面から見て、極めて大きい事が明らかになった。本稿のベースとなった JICA・パド マ橋 設計画調査は 合的な調査である。当然の事ながら、パドマ橋のような巨大プロジェクトの 妥当性の検証には、単に経済効果だけでなく、地域格差是正への必要性、広域的な運輸 通体系上 の必然性と重要性、河川の形態や工学的な見地から見た技術的な 全性、河川の生態系、直接的な 影響を受ける地域住民の移転や生活再 と言った視点からの詳細な 析評価に加え、道路計画、橋 梁計画・設計、自然条件調査、等も必要である。 特に、自然環境・社会環境(住民移転・補償、ステークホルダー・ミーティング等)にも十 配 慮し、 困インパクト率の計測、国家財政へのインパクト、民間部門のプロジェクト参加(PPP、BOT) の可能性、等の重要な課題や問題についても調査している。 本調査の特徴の一つは、パドマ架橋プロジェクトへの協調融資が期待されている国際協力銀行、 アジア開発銀行及び世界銀行に対して、調査の進行状況に応じて、調査結果を全面的に提示・協議 し、コメントを求め、結果を次段階の調査に反映した事である。その二は、地元関係者(政府関係 官 庁、関係地方政府諸機関、地域住民代表者、大学・研究機関、メディア、NGO、参加希望者) を招いて、 開セミナーを開催し、調査結果の 表と意見 換を行った事である。その三は、架橋プロジェクトの影響を直接的に受ける可能性のある地域住民と集落単位の対話集会を重ねて、特に 移転や失業を余儀なくされる住民に対する補償・農地/住居・就業斡旋等の要望を集約・記録・報告 して、関係諸機関の対策を促した事である。その四は、架橋プロジェクト協調融資に積極的なアジ ア開発銀行を再三に亘って訪問して協議を重ね、特に環境・社会配慮 野担当官と厳格な審査基準 に関して意見 換を重ねた事である。 本調査は、JICA の委嘱を受け、日本工営(株)のスタッフを中核とする調査団(団長:渋谷 實・ 日本工営顧問)によって、上述のように緻密に計画され、入念に実施された事を指摘して置きたい。 バングラデシュ政府はこの結果に基づいて、架橋プロジェクトに対する国際協力銀行、アジア開発 銀行、世界銀行との協調融資実現を図っている段階にあると伝えられている。本調査が上述のプロ セスを経て満足すべき成果を挙げた背景には、全調査期間を通して懇切な指導・助言を惜しまれな かった JICA 国内支援委員会(委員長:藤野陽三・東京大学教授)や JICA 社会開発部(担当:山村 直 氏)の存在に加えて、パドマ橋の早期実現を熱望するバングラデシュ官民の熱心な協力と支援 があった事を特記したい。本稿を終えるに当たり、関係各位に深甚の謝意を表します。 【参 文献】
1) Asian Development Bank Jamuna Bridge Development Project Appraisal Report, March 1994
2) Akatsuka.Y,Maruoka.K,Naruse.S Regional Perspectives for Development of Transport Infrastructure: A Case Study in Indian Sub-continent 国際地域学研究、第 4巻、東洋大学国際地域学部、2001年 3月
3) 赤塚雄三、丸岡 二“運輸 通基盤整備とインド亜大陸東部地域経済統合可能性”第 2回 特別研究集会論 文集、国際開発学会、2001年 6月
4) South Asia Association for Regional Cooperation (SAARC) South Asia Subregional Economic Cooperation (SASEC) Proceedings of Inception Meeting of the Transport Working Group,Kathmandu,Nepal,October 2001 5) Asian Development Bank, Jamuna Bridge Impact Study Technical Assistance Report, TA No. BAN 3681,
February 2003
6) Chittagon Chamber of Commerce and Industry (CCCI) Enhancing the Trade and Investment between Bangladesh and Northeast India Bangladesh, 2004)
7) 赤塚雄三“国際港湾:内陸国の視点から”世界港湾の動き、第 3号、国際港湾協会日本部会、2004年 3月 8) JICA The Feasibility Study of Padma Bridge in the People s Republic of Bangladesh , March 2005 9) Economic and Social Commission for Asia (ESCAP) and the Pacific, Intergovernmental Agreement on the
Asian Highway Network , United Nations, July 2005
10) Tsukada. S Sub-regional Cooperation in Transport Sector for Asia Association of International Develop-ment Studies, 26th Workshop on Transport Infrastructure DevelopDevelop-ment and ManageDevelop-ment, August 2006,Tokyo 11) 実広 登“パドマ河架橋計画に係る河川調査”河川、No.723、日本河川協会、2006年10月
12) Economic and Social Commission for Asia and the Pacific (ESCAP), Trans-Asian Railway Agreement , United Nations, November 2006
13) 辻本有一“パドマ橋プロジェクトにおける道路 設計画”、道路、Vol.790、2006年12月
14) Zaman M., Shibuya M., Okuno K., Horita M. The Padma Bridge Feasibility Study: Social/Resettlement Impact Assessments 設マネジメント研究論文集、Vol.13、No.12,土木学会、2006年12月
向けて−”、土木学会誌、第92巻、第 1号、2007年 1月
16) 赤塚雄三“インド亜大陸における運輸 通インフラ整備と広域経済圏形成の動向”、国際地域学研究、第10号、 東洋大学国際地域学部、2007年 3月
17) 澤勝文、吉田 剛、 奥野 太郎、小山次郎、モハメド SE・モルガン“パドマ橋 設計画における橋梁概 略設計”、橋梁と基礎、Vol.41、2007年 6月