二〇一一年韓国商法(会社編)改正に関する一考察
著者名(日)
李 芝妍
雑誌名
東洋法学
巻
55
号
2
ページ
105-118
発行年
2011-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000834/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaⅠ はじめに 韓 国 で は 二 〇 〇 五 年 か ら 改 正 作 業 に 着 手 し て い た 商 法 (会 社 編) の 改 正 が つ い に 今 年 の 四 月 一 四 日 に 行 わ れ、 二〇一二年四月一五日から施行されることになった。その改正目的は、活発な投資条件の助成及び急変する経営環 境に企業が適切に対応できる法的規範を整えることであ ( 1) る 。その主な内容としては、①企業経営の透明性と効率性 を 図 る た め の 資 金 及 び 会 計 関 連 規 定 の 整 備、 ② 有 限 責 任 会 社 (L L C) ・ 合 資 組 合 (L P) の よ う な 新 た な 企 業 形 態 の導入、③情報・通信技術の発展に伴う株式及び社債の電子登録制の導入、④議決権・配当利益・残余財産の分配 に関する多様な株式発行の許容、⑤取締役の自己取引の承認に関する対象範囲の拡大、⑥取締役の会社機会の流用 禁止条項を新設して、健全なる企業活動を図り、投資者の保護に寄与、⑦準備金制度と社債発行手続の緩和、⑧取 締役の責任について年俸額を基準として減免できるようにし、経営の自律性を最大限に保障した点、などが挙げら 105 《 論 説 》
二〇一一年韓国商法(会社編)改正に関する一考察
李
芝
妍
れる。 本 稿 で は 韓 国 商 法 (会 社 編) 改 正 の 重 要 条 文 を 幅 広 く 紹 介 す る こ と を 目 的 と し、 議 論 の 余 地 が 内 在 す る 重 要 条 文 については、今後の研究課題として残しておきたい。 Ⅱ 韓国商法(会社編)改正の重要内容 1 .新たな企業形態の導入(第八六条ノ二から第八六条ノ九までおよび第二八七条ノ二から第二八七条ノ四五まで 新設) 改正商法では、新たな企業形態として合資組合と有限責任会社が導入されている。その背景には、人的資産の重 要性に対する認識が高まることによって、人的資産を適切に収用できるように共同企業または会社の形態を取りな がら内部的には組合の実質を整え、構成員の自律性を広く認めながら、外部的には社員の有限責任を確保できる企 業形態に対する需要の増加があった。そこで、従来から商法で認められている共同企業の形態である組合、合名会 社、合資会社、有限会社および株式会社に加え、業務執行組合員と有限責任組合員で構成される合資組合と、社員 に有限責任を認めながらも会社の設立・運営と機関構成などの面で私的自治を幅広く認める有限責任会社を新設し た。なお、日本と異なる点として韓国では有限会社をそのまま維持することになっている。 合 資 組 合 は ア メ リ カ LP ( Limited Partnership ) に 類 似 す る 共 同 企 業 形 態 で あ り、 業 務 執 行 者 と し て 組 合 の 債 務 に ついて無限責任を負う組合員 (業務執行組合員) が一人以上と出資価額を限度として有限責任を負う組合員 (有権責 任 組 合 員) が 一 人 以 上 で、 相 互 出 資 し て 共 同 事 業 を 経 営 す る こ と を 約 定 す る で 成 立 し、 有 限 責 任 会 社 と は 違 っ て、 106
法人格を有しないものである。そして、有限責任会社はアメリカの有限責任会社 ( Limited Liability Company ) を参 照しながら導入した共同企業形態として、組織構成と投資金の回収に関連する自律性、会社の債権者に対する有限 責任を認めている。このような合資組合と有限責任会社を導入することで、投資者の企業組織および運営の自律性 が広く認められるようになるし、出資価額を限度として対外的には有限責任が認められるようになるため、有限私 募投資ファンドのようなファンドやベンチャー企業などの新しい企業形態に対する需要に対応できるようになるこ とを期待している。ただし、合資組合および有限責任会社に対する税務上の取扱いと課税特例の適用可否などにつ いては、未だ議論が続いている状況である。 2 .無額面株式の導入、最低資本金制度の廃止(第二九一条、第三二九条、第五四六条) 会社の定款に定めがある場合、株式の全部を無額面株式として発行できるし、発行済株式の場合は、全ての株式 を額面株式から無額面株式に、あるいはその反対に無額面株式から額面株式に転換できるようにした。すなわち、 無額面株式を導入し、会社が額面株式と無額面株式の中から選択して発行できるようにした。ただし、無額面株式 を発行する場合、額面株式は発行できなくなる。 従来、額面株式の額面は、発行価額の最低限の利息としての機能と資本の最低構成単位としての機能を有すると 説明されていたが、①額面株式と無額面株式は額面価額の有無の差があるだけであって、株式は基本的には均一の 比率的単位であることからすると、一株の範囲とか権利内容は同様である、②時価発行が定着する場合、額面株式 制度はむしろ企業の財務自律性を害することになるだろう、③時価が額面未満である場合、株式発行自体が不可能 となってしまうだけでなく、額面総額が資本となるので、たとえば、株式分割の結果、資本が額面株式を下回る場 107
合には額面変更手続きをしなければならない等、額面が逆に会社の円滑な資金調達を妨害するおそれがある、など の批判が多かったため、額面株式制度の廃止が求められるようになった。しかし、額面株式制度に慣れている実務 慣行を考慮しなければならない等の理由を挙げ、最終的には額面株式制度を残したまま、無額面株式制度を新たに 導入することになっ ( 2) た 。 そして、額面株式は額面未達発行および株式分割が困難であり、アイディアや技術を有しているけれども資本が ない者が会社を設立する場合、最低資本金制度は会社設立の壁として作用していたが、改正によって最低資本金制 度は廃止された。なお、最低資本金制度は二〇〇九年改正商法で廃止されており、現在は資本金一〇〇ウォン以上 であれば会社の設立が可能となっている。 今回の改正で無額面株式が発行できるようになるので、株式の時価が額面に達しなくて額面未達発行をしなけれ ばならない場合、従来は裁判所の認可を得る必要があったが、今後は無額面株式を採択した会社はそのような制限 なく株式を発行できるようになった。このように無額面株式制度を導入することによって株式発行の効率性と自律 性が高まり、小規模企業の円滑な創業が拡大していくことを期待している。 3 .多 様 な 種 類 の 株 式 の 導 入 ( 第 三 四 四 条 、 第 三 四 五 条 、 第 三 四 六 条 、 第 三 四 四 条 ノ 二 か ら 第 三 四 四 条 ノ 三 ま で 新 設 ) 今までは、株主平等原則に基づいて法が定めた株式のみを発行できるとしていたが、現行株式の種類だけでは急 変する市場環境に対応しながら効率的に資金調達することが困難であるという批判の声が多かった。そこで、利益 配 当 優 先 株 に 対 す る 最 低 配 当 率 を 義 務 的 に 定 め る よ う に し た 規 定 を 削 除 し、 利 益 配 当 に 関 す る 種 類 株 式 (現 物 配 当 を 含 む) の 発 行 を 認 め る よ う に し た。 そ し て、 議 決 権 の な い 普 通 株 式、 株 式 会 社 が 特 定 事 項 に 関 し て 議 決 権 を 制 限 108
する株式、特定財産のみから配当を受けられる株式など、多様な種類の株式を発行できるようにした。また、無議 決権株式の発行限度も拡大したので、急変する市場状況を反映しながら多様な種類株式を発行できるようにしたこ とによって、今後は資金調達がより円滑になるだろう。 なお、償還株式については償還権を会社以外の株主に、転換株式については転換権を株主以外の会社にそれぞれ 行使できるように、その範囲を拡大して認めるようになった。 4 .株式及び社債の電子登録制の導入(第三五六条の二、第四七八条第三項を新設) 情報・通信技術の飛躍的な発展に基づいて株式及び社債制度も、世界的な傾向である有価証券の無券化ないし電 子化を導入する必要があった。そこで、株式と社債においても有価証券の電子登録制度を導入することになった。 一九八二年フランスが最初に導入した有価証券の無券化は、日本では二〇〇一年から二〇〇四年まで株式とか社債 など、資本市場にある全ての有価証券を無券化する内容の立法を行っていたことに比較すると、一九九〇年代半ば からその立法について議論していた韓国では、実務において既に資本市場で有価証券の大半が無券化していたにも かかわらず、その立法は不十分であったことを鑑みると、今回の改正によって法制度が完成できたと思われる。で も、やはりその立法はかなり遅かったとの評価は避けられないのであろう。今回の改正によって、発行会社側から すると、発行手続の簡略化、株主管理業務の負担減少、資金調達費用の減少というメリットがあるし、投資者側か らすると、実物の紛失・偽造・変造などの危険減少、権利行使上の便宜性の増大というメリットがある。具体的に は、株券と社債券を実物として発行しなくて、電子登録機関に登録した後、証券を直接に所持しなくても権利の譲 渡、担保の設定および権利行使が可能になるように株式及び社債の電子登録制を導入したことである。会社は株券 109
を発行する代わりに、定款の定めに従い、電子登録機関の電子登録簿に株式を登録できるとし、債券に関しても同 様の規定を定めた。 5 .少数株式の強制買収制を導入(第三六〇条ノ二四から第三六〇条ノ二六まで新設) 特定株主が株式のほとんどを保有している場合、すなわち、会社の発行株式総数の九五パーセント以上を保有し ている大株主がいる場合、その大株主は少数株主の株式を強制的に買収し、少数株主を会社経営から外せる少数株 式 強 制 買 収 制 度 (い わ ゆ る Freeze-Out ま た は Squeeze-out 制 度) を 導 入 し た。 従 っ て、 大 株 主 は 五 パ ー セ ン ト 未 満 の 少数株式をいつでも買収し個人会社を設立できるようになったので、会社の経営権がより強化されるし、株主管理 費用の節減を考慮して合併による少数株主の離脱を通じて上場を廃止することも可能になった。ただし、大株主が 少数株式強制買収制度を利用するためには、会社経営上の目的を達成するために必要であること、株主総会の事前 承認、少数株式の公正価格に対する公認鑑定人の評価及びその鑑定結果の公開という三つの要件を満たす必要があ る。そして、会社の発行株式総数の九五パーセント以上を保有する大株主が少数株主の株式を公正な価格で買取り で き る よ う に し た 一 方、 少 数 株 主 も 大 株 主 に 株 式 買 収 請 求 権 を 行 使 で き る よ う に し て 少 数 株 主 の 保 護 策 を 用 意 し た。 す な わ ち、 少 数 株 主 に い つ で も 自 分 が 保 有 す る 株 式 を 大 株 主 に 強 制 的 に 売 却 で き る 権 利 ( Self-out Right ) を 保 障した。その権利によって、少数株主はできるだけ高額で自分の持ち分を大株主に売却し投資金を回収できるよう になる。一見すると、大株主と少数株主が双方的に権利行使できるようにしたので、非常にバランスの良い制度と し て 理 解 で き る が、 そ の 公 正 さ の 問 題 と 要 件 の 解 釈 上 の 問 題 な ど、 様 々 な ト ラ ブ ル も 予 想 で き る の で は な か ろ う か。 110
6 .会社の事業機会流用禁止制度の新設(第三九七条ノ二新設) 改正商法はアメリカ判例法で発達した ‘the doctrine of corporate opportunity ’を明文的に導入したもので、取締 役の忠実義務をより具体化した会社の事業機会流用禁止制度を新設した。その内容は、取締役の承認がないまま取 締役が現在または将来において会社の利益になりうる会社の事業機会を自己または第三者の利益のために使用する ことを禁ずることである。取締役が職務を遂行する過程で知ることになった会社の情報を利用して個人利益を取得 す る 行 為 を 明 確 に 規 制 す る 必 要 が あ っ た の で 新 設 さ れ た も の と し て、 取 締 役 が 職 務 を 遂 行 す る 過 程 で 知 る こ と に なった情報または既に会社が遂行している事業、これから遂行する事業と密接な関係がある事業機会を第三者に利 用させる場合も取締役会で取締役三分の二以上の賛成で承認を受けなければならない。そして、会社の機会及び資 産の流用禁止規定を違反して会社に損害を与えた取締役及び承認した取締役は連帯して損害賠償責任を負うことに なる。その際、取締役または第三者の利益は会社の損害として推定されることになる。この規定によって、取締役 の機会流用に対する認識を深めるだけでなく、取締役の関連違法行為に対する責任根拠にも活用できるであろう。 7 .取締役の自己取引承認対象の拡大(第三九八条) 現行商法は取締役が会社と取引をする場合、取締役会の承認を得なければならないとしているが、改正商法はそ の範囲を拡大して、①取締役または主要株主、取締役の配偶者および直系尊卑属、配偶者の直系尊卑属、②①の者 が単独または共同で議決権のある発行株式総数の五〇パーセント以上を有する会社およびその子会社、③①の者が ②の会社と合算して議決権のある発行株式総数の五〇パーセント以上を有する会社との取引においても取締役会の 事前承認を得るように規定した。これは、取締役が本人の利益のために取締役の親戚や彼らが設立した個人会社な 111
どを利用して会社と取引をする場合、会社の利益を犠牲にさせる可能性が多いので適切な規制が必要であることか ら定められた内容である。そして、改正商法によると、上記①、②、③の対象者は事前に取締役会で該当取引に関 する重要事実を告げて、取締役の承認を得なければならないし、その承認は取締役の三分の二以上が賛成しなけれ ばならない。そして、その該当取引の内容と手続は公正でなければならないし、その取引の公正性についての立証 責任は自己取引をする者が負担することになる。 8 .取締役の責任減軽(第四〇〇条第二項) 現行商法第四〇〇条は取締役の会社に対する責任を株主全員の同意で免除できるとしているが、この条文以外は 取締役の責任を減免できる根拠規定がないため、取締役の保護制度が現実的に不十分であるとの批判が多かった。 最近、取締役の賠償責任額も高額となっており、取締役の積極的な経営活動の妨げとなっているとも言われている ので、韓国も取締役の責任を軽減する規定を設けることにしたのである。これによって、能力のある経営者を容易 に迎え入れ、より積極的な経営ができるようになるであろうと期待している。具体的には、会社が定款で定めた場 合、会社に対する取締役の責任は故意または重大な過失で会社に損害を発生させた場合を除いて取締役の最近一年 間 の 報 酬 額 の 六 倍 (社 外 取 締 役 は 三 倍) 以 内 に 制 限 し て、 こ れ を 超 過 す る 金 額 に つ い て は 免 除 で き る よ う に 取 締 役 の責任制度を改善した。 9 .執行役員制度の導入(第四〇八条ノ二から第四〇八条ノ九まで新設) 従来の取締役会は業務執行と業務監督を同時に遂行しなければならないので、自ら遂行したものを自ら監視する 112
自己監視機能に限界を有していた。そこで、会社の透明性を図るための取締役会の監督機能の活性化について活発 な議論が行われていた。そして、現在、大規模の上場会社である場合、社外取締役を取締役総数の過半数としてい るので、大部分の意思決定は代表取締役と非登記の役員である事実上の執行役員が行われているが、その執行役員 については法的根拠が今までなかったので、執行役員の法的性質と責任、取締役会との関係など、執行役をめぐる 問題が多発していた。そこで、改正商法は取締役会の監督の下で会社の業務執行を専門的に担当する機関である執 行役員についての根拠規定を設けることになった。執行役員がいる会社は代表取締役を選任できなくなるし、二人 以上の執行役員がいる会社の場合は代表執行役員を選任しなければならないし、各執行役員らは取締役会、定款が 委任した事項について意思を決定し、業務を執行できる。そして、この制度の導入可否は個別会社が自律的に選択 できるようにしている。なお、執行役員を選任する場合、執行役員に対しても現行商法上の取締役に対して適用さ れる競業禁止義務、自己取引禁止義務、株主の代表訴訟などに関する条項が同じく適用されることになる。この改 正によって執行役員が業務執行権を専門的に担当することになり、取締役会が執行役員の業務執行についての監督 権限を有することになるので、執行役員は迅速かつ効率的な業務執行が可能となるだろうし、取締役も効率的な業 務監督ができるであろう。そして、執行役員制度の法的根拠ができたので、対内的には経営の安定性を確保できる し、対外的には取引の安全を図ることになるだろう。 10.商法上の会計関連規定と企業会計基準の調和(第四四六条ノ二新設、第四四七条および第四四七条ノ四、現行 第四五二条、第四五三条、第四五三条ノ二、第四五四条から第四五七条までおよび第四五七条ノ二削除) 最近、企業会計の基準は国際的な会計規範の変化に合わせて着実に変貌しているが、商法の会計規定はこれを未 113
だに反映できなくて企業会計基準と商法の会計規定の間に相当な差がある。そこで、商法改正では会社の会計は一 般的に公正・妥当な会計慣行に従うようにその原則規定を新設する一方、具体的な会計処理に関する規定は削除し て、貸借対照表と損益計算書を除いた会計書類は大統領令で規定することで会計規範の変化に速かに対応できるよ うにした。改正によって、商法の会計規定と企業会計基準の不一致が解消され、会計規範が二元化される現象を防 止できると期待される。 11.法定準備金の規制緩和(第四六〇条、第四六一条ノ二新設) 従来から言われていた法定準備金による債権者保護の役割が減少しただけでなく、利益準備金の積立限度が主要 先進国に比べて過度に高く設定されているので、その準備金の運用が過度に硬直しているとの批判を受け、改正商 法は資本金の一五〇パーセントを超過する準備金に対し株主総会の決議によって準備金を減額して配当などの用途 で使えるように許容した。これに伴い、資本転入と減資節次を経る必要もなくなり、過度な準備金を株主に分配で きるようになったので、利益準備金と資本準備金を柔軟に使用できるようになるだろう。 12.配当制度改善(第四六二条第二項、第四六二条ノ四新設) 現在は定期株主総会でその配当額を決めるので、配当基準日の事業年度の末日から定期株主総会まではその配当 額が確定できなくて投資者も株式の価値を判断しにくいので、金銭配当以外で会社が保有する株式のような現物で 配当する必要があると言われていた。そこで、改正商法は、定款の定めで配当に関する決定権限を取締役会に与え られるようにし、金銭配当以外に現物配当も認めることにした。ただし、取締役会で決めるためには、外部監査人 114
の適正な意見と監査全員の同意が必要である。それで、今後は会社の資金調達を決める機関である取締役会が配当 も決めることになるので、資金運用の統一性を図ることができて、配当に関する選択の幅も広くなるため、財務管 理の自律性が高まることになるだろう。 13. 社 債 制 度 の 改 善(第 四 六 九 条 お よ び 第 四 八 一 条 か ら 第 四 八 五 条 ま で、 現 行 第 四 七 〇 条 か ら 第 四 七 三 条 ま で 削 除、第四八〇条ノ二および第四八〇条ノ三新設) 韓国商法が制定された以来、初めて商法の社債編に対する改正が行われたことが今回の改正ポイントの一つであ る。現行商法は、通常の社債以外は転換社債と新株引受権付社債に対してのみ規制していたので、社債の発行限度 制限が非現実的で法が認める社債種類も過度に制限的であり、現在の受託会社制度は社債権者の保護にも不十分で あるという指摘が多かった。そこで、改正商法は、社債の発行総額制限に関する規定を廃止し、利益配当参加付社 債、交換社債、償還社債、派生結合社債など、多様な形態の社債を発行できるようにその法的根拠を用意し、受託 会社の権限の中で社債管理機能に関する部分を分離して社債管理会社が担当するようにした。このように社債制度 を改善することによって社債の資金調達手段としての活用も広がるし、新たな金融商品としての活用も広がること になるので、会社の社債発行に対する自律性が増大し、社債権者を効果的に保護できるようになるであろう。 14.遵法支援員制度の導入(第五四二条ノ一三新設) 遵法支援員制度は今回の改正で最も話題になった制度として、資産規模などを考慮して大統領令に定める上場会 社は遵法統制基準を設定しなければならないし、この基準の遵守に関する業務を担当する遵法支援人を一人以上選 115
任 す る よ う 強 制 す る 内 容 の 立 法 で あ る。 内 部 統 制 お よ び 遵 法 監 視 制 度 は 株 式 会 社 の 外 部 監 査 に 関 す る 法 律、 銀 行 法、資本市場法などの金融関係法で既に法制化しているが、企業環境面を鑑みると、企業においても遵法経営のた めの法制度が必要であるとの判断で導入することになった。ここで、遵法統制基準とは、法令を遵守し、会社経営 を適正に行うため役職員がその職務を遂行する際に従うべき遵法統制に関する基準および手続きを意味している。 そして、遵法支援員の任命・解任に関する事項は取締役会の決議が必要であり、遵法支援員は遵法統制基準の遵守 可否を検討してその結果を取締役会に報告しなければならない。この遵法支援員の任期は三年で常勤職であり、遵 法支援員は善良なる管理者としての義務を負担することになる。そして、遵法支援員は在任中だけでなく、退任し た後においても職務上知った会社の営業上の秘密を漏らしてはならない。 なお、この遵法支援員の資格は、弁護士、法律学の助教 ( 3) 授 以上の職で五年以上勤めている者、豊富な法律的知識 を有する者として大統領令で定めた者としているが、その適用対象規模に関しては未だ法務部が検討しているとこ ろである。このような遵法支援員制度が導入されることによって企業の遵法経営と社会的責任が強化されることを 期待している。 15.有限会社に対する各種制限規定の撤廃(現行第五四五条削除、第五五六条、第五七一条および第六〇七条) 有限会社は閉鎖的に運営される小規模企業を前提としているが、その閉鎖的な運営規定は有限会社に対する各種 制限として作用することになり、有限会社の利用にさらなる不便を与えていた。そこで、改正商法は、有限会社の 社 員 総 数 は 五 〇 人 を 超 え る こ と は で き な い と し て い た 規 定 を 削 除 し た。 そ し て、 有 限 会 社 の 資 本 金 は 一 〇 〇 〇 万 ウォン以上でなければならないとしていた規定を削除し、少額の資本金でも有限会社の設立ができるようにした。 116
また、現行商法が有限会社の社員が持分を譲渡するためには社員総会の特別決議が必要であり、定款の定めでその 制限を加重することは可能であるが、緩和することはできないとしていた規定を、改正商法は原則的に持分を自由 に譲渡できるようにした上、但し書きにおいて定款の定めがある場合、持分の譲渡を制限できることにした。 有限会社の社員総会を招集する方法として現行商法は一週間前に各社員に対して書面による通知書を発送しなけ ればならないとしているが、改正商法は書面による通知以外に各社員の同意を受けて電子文書で通知書を発送でき るようにした。そして、有限会社を株式会社にその組織を変更するためには、現行商法は総社員の一致による社員 総 会 の 決 議 が 必 要 で あ っ た が、 改 正 商 法 で は そ の 特 別 決 議 (総 社 員 の 過 半 数 で、 総 社 員 の 議 決 権 の 四 分 の 三 以 上 の 同 意) に よ る も の と し て 社 員 総 会 決 議 要 件 を 定 款 で 緩 和 で き る よ う に し た の で、 株 式 会 社 へ の 組 織 変 更 が よ り 容 易 に できるようになった。このように有限会社に対する代表的な制限規定を廃止することによって有限会社の利用が増 大できると期待している。 Ⅲ おわりに 今回の商法改正は韓国の建国以来、最大規模で行われたとの評価を受けているし、その改正作業にかかった期間 も六年であるので、学界と経済団体を始めとする様々な分野の方々から深い関心を集めている。 自由に創義的な企業経営を支援する目的で資本制度の改善および発行株式の多様化を図ったし、公正で透明な企 業経営を実現するため、取締役の自己取引を規制し会社機会流用禁止制度と執行役員制度を導入した。そして、創 義的な若者の創業ができるように多様な支配構造を有する新たな会社制度も導入した。複雑な利害関係の対立を調 117
整するため、かなり時間のかかった改正ではあるが、法的効率性を向上させ、企業のグローバル競争力の強化とい う目的は達成できたとの評価も受けている。しかし、改正商法はまだ不十分な点もいくつかあるし、新たな制度を 導入することによる影響から派生する問題など、今後の課題も未だ散在しているので、これからの動きに注目して い き た い と こ ろ で あ る。 そ し て、 今 年 三 月 に 発 生 し た 東 日 本 大 震 災 と 円 高 の 影 響 か ら、 日 本 企 業 が 韓 国 へ そ の 生 産・ 製 造 の 拠 点 を 移 転 し よ う と す る 動 き が 増 え て い る の で、 韓 国 会 社 法 に つ い て の 理 解 が よ り 必 要 と な る で し ょ う。 な お、 本 稿 で は、 韓 国 改 正 商 法 (会 社 編) を 幅 広 く 紹 介 す る こ と に 留 ま っ て い る の で、 今 後、 重 要 内 容 に つ い て一つずつ研究していく予定である。 ( 1 ) 法 務 部「二 〇 一 一 年 改 正 商 法(会 社 編) 主 要 内 容 お よ び 新・ 旧 条 文 対 照 表」 先 進 商 事 法 律 研 究 第 五 四 号 別 冊 付 録(二 〇 一 一 年 四月)二頁。 ( 2 ) 法 理 論 か ら す る と、 額 面 株 式 を 廃 止 し、 無 額 面 株 式 制 度 の み を 採 用 し た ほ う が よ り 合 理 的 で あ る と い う 見 解 が 多 数 で す が、 無 額 面 株 式 制 度 を 全 面 的 に 採 用 す る 前 に、 二 つ の 制 度 を 併 存 さ せ る こ と に よ っ て、 一 般 人 の 株 式 制 度 に 対 す る 誤 解 と 不 信 感 を 解 消 し、新たな制度を受け入れ易くすることができるので、額面株式と無額面株式を併存することになった。 ( 3 ) 韓国では大学教員を専任講師、助教授、副教授、 (正)教授の段階で分けている。 ―い じよん・法学部准教授― 118