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<査読付論文>子どもの貧困の定義を探る ー法政策の検討に向けてー 利用統計を見る

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著者

池谷 和子, 足立 文美恵, 今出 和利

著者別名

Kazuko IKEYA, Fumie ADACHI, Kazutoshi IMADE

雑誌名

現代社会研究

17

ページ

1-13

発行年

2020-03

URL

http://doi.org/10.34428/00011780

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

 本論文の目的は、子どもの貧困に対処する法政策の検討に向けて、子どもの貧困の定義を探るこ とにある。その為には、子どもの貧困の実態を把握することとし、子どもの貧困に接する機会のあ る行政、民間団体等への訪問及びヒアリングを実施した。その結果、子どもの貧困と言っても、(i) 親が支出の優先順位が分からなかったり、自分中心で子どもにお金を掛けない場合があること、(ii) 子どもの心身の健全育成の為には、お金だけでは不十分であるという指摘があった。それらを踏ま えると、子どもの貧困の定義としては、政府が柱としているような「収入が不十分な世帯の子ども」 という定義のみではなく、「子どもの発育に重要な事柄が、実際に子どもに十分に提供されているか」 を反映するような定義が必要であるとの結論に至った。       keywords:子ども、貧困、法、実態調査、定義 目   次 1.はしがき 2.子どもの貧困の定義における現状と問題点  2.1. 貧困の概念  2.2. 相対的貧困という考え方  2.3. 貧困率の計算方法  2.4. 「子どもの貧困」は何故問題なのか 3. 子どもの貧困に関わる行政や民間団体への   実態調査  3.1. 学習支援  3.2. 行政  3.3. 地域のコミュニティ  3.4. 小括 4. 子どもの貧困に対する法制度の現状と   「指標」の見直し  4.1. 法制度の動向  4.2. 子どもの貧困をはかる指標の成果と     その見直し 5. むすび 1 はしがき 「栄養ある食事を取り、規則正しい生活で心を安定させ、良い教育を受けて見識を豊かにし、自立し た人間になってほしい」1と平成29年より川崎で活動を続けている「川崎寺子屋食堂」の運営者は、自 らの活動の趣旨を述べているが、昨今の日本においては、家庭の状況によって、栄養のバランスのある 食事を取れない子ども達2や、たった1人で食事をしている子ども達3、さらには、教育格差4も生じてい る場合があると指摘されている。このような「子どもの貧困」の力になりたいと、民間では「子ども食 堂」や「無料塾」が開催されたり、国会では平成25年に成立した「子どもの貧困対策の推進に関する法 律」を令和元年に改正したり、その大綱についても、内閣府では現在、見直し作業中である。[なお、 脱稿後の令和元年11月29日、「子どもの貧困対策に関する大綱」が閣議決定された。] このような「子どもの貧困」は、一見すれば、世帯の収入が少ない貧しい家庭や、片親家庭にのみ、 特有の現象のようにも思える。しかしながら、「子どもの貧困」とは、子どものいる世帯の収入が少な すぎるから生じている現象なのであろうか。それとも、他にも何か原因があるのだろうか。そして、そ の背景には一体何があるのか。

子どもの貧困の定義を探る

ー法政策の検討に向けてー

池 谷 和 子

足 立 文美恵

今 出 和 利

(3)

― 2 ― 本稿では、「子どもの貧困」対策の為には、何を持って「子どもの貧困」と言うかという定義設定と、 何故「子どもの貧困」が生じるのかという原因を探ることが不可欠であることに鑑み、現場や社会にお いて「子どもの貧困」に接する機会の多い人々への実態調査と、改正法や政府の政策を詳細に検討する ことで、「子どもの貧困」の定義を探ることを目的とする。 まずは、「子どもの貧困」の定義における現状と問題点について見ていこう。 2 子どもの貧困の定義における現状と問題点 2.1 貧困の概念 「子どもの貧困」という概念が登場する以前に問題となっていたのは、「大人の貧困」である。この貧 困の概念は「絶対的貧困」と「相対的貧困」に分類されたが、より重視された「相対的貧困」は、「子 どもの貧困」にも準用された。 しかし、子どもの貧困の定義においての最大の問題は、「大人の貧困の定義」の概念をそのまま流用 している点にある。その中でも特に注意を要するのは、以下の①相対的貧困の考え方と②貧困率の計算 方法であろう。 2.2 相対的貧困という考え方 相対的貧困とは、絶対的貧困と異なり、「人がある社会の中で生活する際に、その社会の殆どの人々 が享受している『普通』の習慣や行為を行う事さえ出来ないこと」5を貧困と指し示している。何が「普 通」かは、社会によって違うとされ、お金がないがゆえに、その社会の多くの人々が出来る行為が出来 ないから貧困と定義づけた訳である。とするならば、その背後には、少なくとも「本人が希望している のにお金がないので出来ない」という事が見え隠れしているようにも思えるが、そうなると、大人であっ ても自ら希望するかどうかで「相対的貧困」の範疇に入ったり入らなくなったりすることにはならない か。例えば、今の日本において、お風呂のない部屋に住んでいる人は稀であるが、自分の家にお風呂を 希望する人にとっては「相対的貧困」で、銭湯に通えば良いから不便ではないと思っている人は「相対 的貧困」にはならないように思える。 大人においても、このような曖昧さが生じるが、さらには子ども達に「相対的貧困」の概念を当ては めて考えた時、事態はもっと複雑になってくる。「子ども達が希望するかしないかで相対的貧困かどう かを決定すべきなのか」、もしくは、「子ども自身の希望ではなく、子ども達の健全な発育の為に必要か どうかで相対的貧困かどうかを決定するのか」。例えば、現在では日本の多くの子ども達がスマホやテ レビゲームを持っているが、自分が欲しいのに家庭の事情でスマホやテレビゲームを持てないのは「相 対的貧困」に該当するのであろうか。もしくは、子ども達が希望すらしていなくとも、今のご時世では、 スマホ、テレビゲーム、パソコンは持っていないだけで「相対的貧困」なのか。逆に、スマホ、テレビ ゲーム、パソコンなどなくとも、子ども達は健全な発育を遂げると考えるべきなのか。親の教育方針も ある以上、非常に難しい問題である。 2.3 貧困率の計算方法 同時に、「貧困率の計算方法」についても疑義が生じている。日本もOECDに基づく貧困率の計算方 法を公的な統計で使用しているが、「子どもの貧困率」で計算しているのは、可処分所得が中心である。 すなわち、子どもが属する世帯全員の合算した可処分所得(勤労収入、年金、生活保護等の収入から、 税金、社会保険料等を引いた額)を世帯人数で調整し、その中央値の半分の金額を貧困線と定義してい

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る。可処分所得なので、貯金や不動産の有無は関係なくなってしまうが、貯金や不動産が沢山あっても 貧困なのか6。また、中央値の半分が貧困線となる根拠も曖昧である7 その上、「子どもの貧困」を考えると、世帯収入しか考慮しないということも問題ではないか。大人 の場合には基本的には対等な関係の為に、支出については考えなくても良いかもしれない。しかしなが ら、親と子の世帯の場合、親と子では事実上その力関係に大きな差がある。親がどれだけ収入が高くて も、また逆に低くても、親自身の為だけにお金を使い、子どもにお金をかけなければ、「子どもの貧困」 状態になってしまいはしないか。 2.4 「子どもの貧困」は何故問題なのか そもそも、「子どもの貧困」は、何故問題なのか。1つには、「子どもの心身の健全な発育の為に必要 なものが与えられていない為、成熟した一人前の大人になれない恐れがあること」、2つめは、「貧困の 中で育った子ども達が、大人になっても貧困から抜け出せないままに子どもを生み、貧困の世代間連鎖 が続いてしまう」ことが指摘しうる。 上記2点を考えた時、現在の日本においても、相対的貧困という世界基準で「子どもの貧困」を定義 し、それを基に「子どもの貧困率」を計算しているけれども、それらが「子どもの貧困」の実態を映し 出しているかは、はなはだ疑問である。 それゆえ、子どもの貧困問題を解決する為には、子どもの貧困の範囲を定義によって確定し、子ども の貧困が何故起こるのか、どのようにしたら解決するのかを適切に判断する為にも、「子どもの貧困」 の本質を見極めることが必要と感じる。それにより、現在政府の行っている「子どもの貧困対策」が妥 当なものか、現状に合っているかを判断することも出来るであろう。 そこで、3では、フィールドワークによって、子どもの貧困に関わる行政や民間団体への実態調査に ついて、4では改正法や政府の施策も合わせ、何をもって「子どもの貧困」の定義の基準とすべきかの 一助としたい。 3 子どもの貧困に関わる行政や民間団体への実態調査 本調査は、子どもが貧困であるかを判断するための判断基準を検討することを最終的な目的とし、子 どもの貧困の実態を調査することを目的としている。子どもの貧困の実態を把握するため、行政、民間 団体等の訪問及びヒアリングを実施した。 調査は、子どもの貧困に関わる行政や民間団体を主な対象として行った。調査にあたっては、子ども の貧困率8が高く課題深刻度9も高い自治体と子どもの貧困率が低く課題深刻度も低い自治体において、 子どもの貧困の実態に違いがみられるのではないか、また人口や財政規模の大きい自治体と平均的な自 治体においても、子どもの貧困の実態に違いがみられるのではないかという2つの仮定を前提に、今回 は、子どもの貧困率が高く課題深刻度も高い自治体に該当し、人口・財政規模も平均的な自治体となる 愛媛県、子どもの貧困率が低く課題深刻度も低い自治体に該当し、人口・財政規模も全国で最も高い東 京都において、調査を実施した10。具体的には、東京都では、子どもの貧困対策を多方面にわたり展開 する江戸川区と、江戸川区内の子ども食堂、学習支援としても居場所づくりとしても実績を作る豊島区 の学習支援を調査対象とし、愛媛県では、子どもの問題を総合的に扱うセンターを設立し総合的に子ど もの貧困対策に取り組む伊予市及び松山市、子どもだけでなく高齢者も対象としたコミュニティの場を 提供する食事会、市の事業として開催される学習支援を調査対象とした。その他、地域で子どもの見守 りサポートを行う梅本の里・小梅老人デイサービスセンター、子どもの貧困問題に取り組むことを検討 する愛媛県ユニセフ協会においても調査を実施した。具体的には、以下のスケジュールの下、調査を実

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― 4 ― 施した。 なお、調査結果は、(1)学習支援、(2)行政、(3)地域のコミュニティ(子ども食堂を含む)の3つに大 別することとした。区分の方法として、行政と民間団体において区分するのではなく、学習支援、行政、 地域のコミュニティの3つのカテゴリーにより区分をした。「土曜塾」は、松山市の事業であるが、民 間団体が市から委託を受け、運営を行っているため、(2)に分類せず、(1)の学習支援の中で扱うこととし た。調査では、対象となったすべての行政及び民間団体等において、長時間にわたるヒアリングを実施 したが、本論文では、紙面に限りがあることから、その一部について触れることにしたい。          3.1 学習支援 (1) 概要 「クローバー」は、民間団体「子どもサポーターズとしま」11により運営される無料の学習支援会(毎 週水曜・木曜の放課後の時間帯に開催)である。対象とする子どもについて、設立当初は生活保護世帯 の小学生のみを対象としていたが、現在では制限を設けずすべての小中高校生を対象としている12。参 加する子どもの中には外国籍の子どももおり、日本語の学習支援も行っている。学習支援は、元教員や 元新聞記者などの社会人ボランティアと学生ボランティアが一人の子どもに一人のボランティアがサ ポートする形で行われている。また、参加する子どもの学習の進行状況を共有するため、学習支援会終 了後に会議が開くなどの工夫がなされている。学習支援会は、豊島区の無料の施設を利用しており、学 習支援会のほかに実施されるイベントは寄付により実施している13 「土曜塾」は、松山市が子ども健全育成事業として行う行政による無料の学習支援(毎週土曜9時から 12時、13時から16時に開催)である。事業は松山市のものであるが、事業が松山市青少年育成市民会議 14という民間団体に委託されており、運営自体は民間団体により行われている。対象とする子どもは、 事業規模の関係から中学生に限定されており、さらに保護者が生活保護者であるなどの要件15をみたす ことが必要とされている。学習支援は、学生ボランティアが子どもの学習をサポートし、元中学校校長 の塾長が全体の統括を行っている。「土曜塾」では、年度初めに教材を配布し各種イベントも実施するが、

日時

訪問場所

2019/2/13

無料学習支援「クローバー」(東京都豊島区)の訪問・見学

2019/2/14

子ども食堂「モンレーヴ(Mon rêve)

」(東京都江戸川区)の訪問

2019/2/15

江戸川区役所「子ども家庭部児童女性課」の訪問

江戸川区が実施する「おうち食堂」の見学

子ども食堂「STAND BUNNY CAFÉ」(東京都江戸川区)の訪問・見学

2019/3/7

伊予市役所の訪問

「愛媛県ユニセフ協会」

(愛媛県松山市)の訪問

「久米ふれあい食堂」(愛媛県松山市)の訪問・見学

2019/3/8

松山市役所の訪問

「梅本の里・小梅老人デイサービスセンター」の訪問・見学

2019/3/9

松山市子ども健全育成事業「土曜塾」(愛媛県松山市)の訪問・見学

「さくら児童クラブ」(愛媛県松山市)の訪問・見学

なお、調査結果は、(1)学習支援、(2)行政、(3)地域のコミュニティ(子ども食堂を含む)

の3つに大別することとした。区分の方法として、行政と民間団体において区分するのでは

なく、学習支援、行政、地域のコミュニティの3つのカテゴリーにより区分をした。「土曜

塾」は、松山市の事業であるが、民間団体が市から委託を受け、運営を行っているため、(2)

に分類せず、(1)の学習支援の中で扱うこととした。調査では、対象となったすべての行政

及び民間団体等において、長時間にわたるヒアリングを実施したが、本論文では、紙面に限

りがあることから、その一部について触れることにしたい。

3.1 学習支援

(1) 概要

「クローバー」は、民間団体「子どもサポーターズとしま」

11

により運営される無料の学

習支援会(毎週水曜・木曜の放課後の時間帯に開催)である。対象とする子どもについて、

設立当初は生活保護世帯の小学生のみを対象としていたが、現在では制限を設けずすべて

の小中高校生を対象としている

12

。参加する子どもの中には外国籍の子どももおり、日本語

の学習支援も行っている。学習支援は、元教員や元新聞記者などの社会人ボランティアと学

生ボランティアが一人の子どもに一人のボランティアがサポートする形で行われている。

また、参加する子どもの学習の進行状況を共有するため、学習支援会終了後に会議が開くな

どの工夫がなされている。学習支援会は、豊島区の無料の施設を利用しており、学習支援会

のほかに実施されるイベントは寄付により実施している

13

「土曜塾」は、松山市が子ども健全育成事業として行う行政による無料の学習支援(毎週

土曜 9 時から 12 時、13 時から 16 時に開催)である。事業は松山市のものであるが、事業

が松山市青少年育成市民会議

14

という民間団体に委託されており、運営自体は民間団体によ

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学習支援を運営するための費用はすべて松山市の予算により賄っており、予算の余りはすべて松山市に 返還している。 (2) 子どもの状況 「クローバー」と「土曜塾」において、①経済的理由から受験する学校を奨学金のある学校や公立の 学校に限定する子どもがいる、②学習支援を始める段階において、一般の子どもに比べて子どもの学力 が低い傾向がみられる16、③参加日が土曜ということもあり、部活などの理由から途中で来なくなる子 どもがいる、④服が破れているなど外見上貧困と思われる子どもがいないなどの状況がみられた。 なお、ユニセフの調査では、貧困家庭の子どもと平均的な家庭の子どもとの間に学力の格差があるこ とが明らかにされているが17、今回の調査においても、②のように子どもの学力の低さが指摘された。 3.2 行政 (1) 子どもの貧困対策の概要 江戸川区18は、区内の年少人口率が高く、ひとり親家庭の割合が23区で1番高いなどの事情があり、 子どもの貧困など「子どもや子育て世代が抱える課題について…状況改善に資する方策を見出していく ための調査を実施」19して、学習面、子どもの日常生活、保護者の日常生活、経済面、子どもの食につ いて、5つの側面での課題があることを把握した。この課題に基づき、施策の拡充・再構築、「子ども 家庭支援センター」を中心とする支援体制の構築を行い、施策の拡充・再構築として、「子どもの成長 支援」と「妊娠・出産・子育て期を通した切れ目ない支援」を始めている。「子どもの成長支援」では、 ひとり親家庭、生活困窮家庭、虐待・不登校等の子どもなどの問題が相互に関係していることから、こ れらの問題を区別せず一括して扱い、問題に対する予防・支援を行っている。「子どもの成長支援」事 業は、学習支援と食の支援に分かれ、学習支援は、貧困の程度に応じて、塾代支援、家庭教師の派遣、 江戸川区の施設内における大学生による学習サポートなど多様な形で学習支援を進めている20。食の支 援は、子ども食堂の後方支援、有償ボランティアが家庭に出向き食事を作る「おうち食堂」、仕出し弁 当を配達する「KODOMOごはん便」などのサポートをしている。 伊予市では、「伊予市子ども総合センター」を開設し、要保護児童対策地域協議会の関係機関と連携 して、子どもに関係する問題に対し総合的な支援を行っている。子どもの貧困対策として、ひとり親家 庭等の自立支援推進として実施する子育て支援ヘルパー派遣事業や児童扶養手当の受給者を対象に学習 支援の実施、子ども食堂への後方支援を行っている。 松山市では、子どもの貧困対策について、教育の支援、生活の支援、保護者に対する就労支援、経済 的支援を重点施策とし、「子ども総合相談センター事務所」を中心として、庁内の関係する子育て支援課、 健康づくり推進課などと連携し対応している21。子ども食堂には、周知の助言、保健所との調整など後 方的な支援を行い、学習支援事業として「土曜塾」を開催している。 (2) 子どもの状況 江戸川区、伊予市及び松山市において、①保護者の金銭感覚・生活上の能力・養育能力が低い・欠如 している、②子どもの機会が平等にない、③兄弟姉妹の世話をするため不登校になる子どもがいるなど の状況がみられた。 ①について、生活困窮者とされる親には、給付金が支給されると無計画に買い物をする、高級な食材 やブランド品を購入するなど金銭感覚がない、ご飯の炊き方を知らず生活能力がない、多子だが子ども を養育していないなど養育能力がないことがあるとの説明があった。ヒアリングをした3つの自治体に おいて、このようなケースの親は精神疾患や知的障害の患っている場合があるとの説明があった。核家 族化が進み、同居する祖父母がおらず、近隣のコミュニケーションが希薄化する中で、親をサポートす る人がおらず、独りで子育てができない親が孤立すると、貧困状態にある子どもをサポートできず子ど

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― 6 ― もも孤立させてしまう可能性がある。松山市及び伊予市では、担当者が継続して親に係わることや、各 部署の連携、地域の見守りなどにより、切れ目のない保護者のサポートを行っている。江戸川区では、 同様の対策をおうち食堂22や弁当宅配などにより、江戸川区の担当者や地域住民が親と係わる機会を作 ることで、貧困の子どもや虐待される子を早期発見し、子どもを見守るシステムを構築する試みがなさ れている。生活困窮者の生活能力などが低い・欠如することの指摘があったが、このような場合には、 行政や民間団体のサポートがあっても、生活能力などへの働きかけがない限り、補うことが難しいこと もある。このことから、親をサポートするだけでなく、親を教育するシステムが必要であることの指摘 もあった。 ②について、親の貧困により子どもが塾通い、一般的な家庭と同じ経験ができなくなることがあり、 機会を平等に与えられないことで子どもが精神的ダメージを受けていたとの説明があった23。経済的理 由により機会が平等に与えられないことは、子どもの勉強意欲や将来への希望に影響すると考えられる。 子どもに一定の機会を与えることは必要であると考えられるが、どこまでの機会が子どもに必要か、さ らなる調査・検討を要するであろう。 3.3 地域のコミュニティ (1) 概要 子ども食堂モンレーヴは、独りで食事をする子どもや困っている子に寄り添いたいというオーナーの 考えから利用者を子ども限定にして始まった。現在では、子どもに限定せず、誰でも食堂を利用できる ようになり、子どもは300円(3歳未満100円)、大人は500円の料金で作りたての温かい食事を提供して いる。経費の関係から限定20食とするが、ほぼ毎日限定数に達する利用がある。STAND BUNNY CAFÉは、毎週金曜夕方のみに子ども食堂を実施し、通常はカフェを営業している。子どものみ300円 の価格でカフェのおしゃれなメニューを食べることができるため、多くの子どもが利用している。久米 ふれあい食堂は、松山市久米地区の町内会、公民館などの地域の団体がまちづくりのために連携し、組 織された「久米ふれあいタウンづくり協議会」によって企画され、子どもと高齢者を主な対象として、 地域のボランティアや地域の企業とともに週1回の頻度で開催されている。大人100円、子ども無料の設 定で、毎回40人程度が利用している。栄養士が管理する栄養バランスのとれた食事を参加者全員で食べ、 子どもや高齢者のコミュニケーションの場や居場所になっている。愛媛県ユニセフ協会は、「持続可能 な開発目標(SDGs)」24に基づき、子どもの貧困対策も進めようと検討している。梅本の里・小梅老人 デイサービスセンターは、高齢者が利用するデイサービスである。高齢者が子どもとふれあうことで笑 顔が増えることや、近隣に子どもの居場所となる施設がないことから、子どもが気軽に立ち寄れる場所 になるよう施設内に駄菓子屋を作るなどの工夫をする施設である。「さくら児童クラブ」は、小学1-6 年生の子どもが利用できる学童保育である。週に1度料理を作るなど家庭と同じ経験をする機会を作る ための様々な努力がなされている。 (2) 子どもの状況 地域のコミュニティにおいて、①服装など外見上貧困と思われる子どもがいない、②通学にかかる必 要経費(学校指定の体育着、制服、修学旅行費など)の負担が大きいなどの状況がみられた。また、③ 子どもにマナーと考えられる事柄が身に付いていないことがあり、様々な経験や集団行動などを通じて マナーと考えられる事柄を理解させているとの話もあった。 3.4 小括 本調査により子どもの貧困の実態について次のような指摘があった。①貧困家庭といわれる家庭の親 の中には、経済的理由から受験する学校を決定する、塾通いや一般的な家庭の経験など機会を平等に与

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えられていない子どももいること、②収入があっても無計画に買い物をしてしまう金銭感覚のない親や 生活上の能力、養育能力などが欠如する親もいること、③服装など外見上貧困らしい子どもはみられな いことなどが指摘された。①については、相対的貧困の定義の枠に当てはまる事象の一つと考えること もできるが、②に該当する親子は、相対的貧困の定義の枠に入るにしても、相対的貧困率では算出され ない貧困層を示すのではないかとも考えられる。③については、子どもの貧困は見えないといわれるが、 それを示す事象とも考えられる。これらについては、子どもの貧困の定義を検討するうえで重要と考え られるが、その検討については、次章で述べることとしたい。 子どもの貧困率が低く課題深刻度の低い東京都(江戸川区)では、子どもの貧困に対する支援が多面 的な形で展開されており25、子どもの貧困率が高く課題深刻度の高い愛媛県(松山市・伊予市)では、 行政の支援が江戸川区ほど多面的でないという違いはみられた。しかしながら、後者の愛媛県では、行 政職員が貧困とされる家庭への関わりを続ける、住民が民間団体を作り、連携して子どもの居場所をつ くるなど26、行政の支援とは無関係な場所において、市民レベルのさまざまな支援がみられた。相対的 貧困の定義のいう「『普通』の習慣や行為を行うこと」ができず親が低所得であったとしても、地域の 支えのある場合には、その子どもが貧困の枠に収まらないこともあるように思われる。今回の調査は、 東京都と愛媛県にとどまるため、このような結果を一般化することは難しいであろう。子どもの貧困の 定義に反映させるかは、さらに調査を進めることが必要であると考えられる。 4 子どもの貧困に対する法制度の現状と「指標」の見直し 前章では、現在、行政や民間団体によって様々な「子どもの貧困」への取り組みが行われる中で、現 に生じているいくつかの課題を把握することができたが、では、国は現在まで、「子どもの貧困」につ いて、法制度上、どの様に捉えいかなる対策を講じてきたのか、概観したうえで、「子どもの貧困」を より把握するために必要な定義について考察する。 4.1 法制度の動向 「子どもの貧困」が社会問題として注目を浴びる中、平成25年5月、野党(民主党等)側から「子ど もの貧困対策法案」が、与党(自民党・公明党)側からも「子どもの貧困対策の推進に関する法律案」が、 それぞれ議員提案として提出された。 その後、これらの法案は衆議院の審議の中で一本化され、同年6月には、「貧困の状況にある子ども が健やかに育成される環境を整備する」こと等を目的とする「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平 成25年法律第64号)(以下「法」とする)が両院にて全会一致で可決成立し、平成26年1月に施行された。 法8条は政府に、子どもの貧困対策を総合的に推進するために「子どもの貧困対策に関する大綱」(以 下「大綱」とする)を策定することを義務づけ、また、同法に基づく政令(「子どもの貧困対策の推進 に関する法律第8条第2項第2号の子どもの貧困率及び生活保護世帯に属する子どもの高等学校等進学 率の定義を定める政令」(平成26年政令第5号))1項により、「子どもの貧困率」の把握については、 いわゆる相対的貧困率をもとに計算するものとされている。 同年8月29日、政府は、法15条に基づき内閣府に設けられた「子ども貧困対策会議」により作成され た案をもとに、「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定した。 大綱では、「子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が 世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る」及び「全ての子供た ちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、子供の貧困対策を総合的に推進する」こと を目的・理念とし、「貧困の世代間連鎖の解消と積極的な人材育成を目指す」、「第一に子供に視点を置

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― 8 ― いて、切れ目のない施策の実施等に配慮する」及び「子供の貧困の実態を踏まえて対策を推進する」等 の、10からなる子どもの貧困に対する基本的な方針を示し、また、子供の貧困対策を総合的に推進し、 関係施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価するため、相対的貧困率により算定された「子供の貧 困率」を含む、25項目からの「子供の貧困に関する指標」を設定した27 そしてこれらの指標の改善に向けて、大綱では、「教育支援」、「生活支援」、「保護者に対する就労の 支援」、「経済的支援」等の分野ごとに、いくつかの当面の重点施策を具体的に示し、政府は、これらの 「指標」を改善に導くことを貧困対策の中心に据えて、各施策に取り組むこととなった28 この取り組みが行われる中、法施行から5年経過後の検討・見直し規定(法附則2条)を受けて、平 成31年1月には、この法律の制定にも関わった超党派の議員を中心に、法の施行状況を踏まえた法の見 直しのための具体的な検討が始まり29、政党・議員を中心とした議論を経て、令和元年5月に「子ども の貧困対策推進に関する法律の一部を改正する法律案」が議員提案として提出された。その後、この法 案は、両院にて全会一致で可決成立し、6月19日に公布され、9月7日から施行されている。 主要な改正点としては、法の目的(1条)につき、子どもの「将来」だけではなく「現在」に向けた 対策をも講じることを明確にし、また「貧困の状態にある子ども」のみならず「全ての子ども」が心身 ともに健やかに育成されるものとし、「子ども一人一人が夢や希望を持つことができるようにするため、 子どもの貧困の解消に向けて、児童の権利に関する条約の精神にのっとり」貧困対策を推進することが 追加された。 また、基本理念(2条)については、「子どもの貧困対策は、社会のあらゆる分野において、子ども の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、子どもが 心身ともに健やかに育成されることを旨として、推進されなければならない」とする1項を、あらたに 基本理念の冒頭に加え、併せて、子どもの貧困対策は、「子どもの貧困の背景に様々な社会的要因があ ることを踏まえ」て推進されることを求め、そのための各施策を「子どもの状況に応じ包括的かつ早期 に講ずること」を求めている(2条2項)。 大綱については、大綱に記載すべき指標の例示に、「一人親世帯の貧困率」及び「生活保護世帯に属 する子どもの大学等進学率」を加え(8条2項2号)、検証評価等の施策の推進体制に関する事項を大 綱に明記する(同項5号)とともに、「子どもの貧困対策会議」が大綱案の作成及び変更を行うに際には、 貧困の状況にある子どもを含め、その保護者、学識経験者、子どもの貧困対策に係る活動を行う民間団 体等の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる旨が規定された(15条6項)。 その他、あらたに、都道府県に加えて市町村に対して貧困対策についての「市町村計画」を策定する 努力義務を課す規定が加えられ(9条2項)、また、具体的な施策を明確にすべく、教育支援につき、教 育の機会均等が図られるべき旨(10条)、生活支援につき、「子どもの生活の安定に資する支援」を含め た、子どもへの直接的な支援以外の支援や親への支援の強調(11条)、就労支援につき、親の就労後の 職業生活の安定も含め支援対象とする旨(12条)が、さらに調査研究については、子どもの貧困に関す る指標に関する研究を行うこと(14条)が、それぞれ新たに規定された。 この様に今回の法改正は、「法の目的」で、対象となる「子ども」の範囲を拡げ、また「法の理念」で、 子どもの貧困対策にあらたに子どもの「意見の尊重」や「最善の利益の優先」と、子どもが心身ともに 健やかに育成されることを旨とすることを求め、また、より細かな記載されるべき指標を例示すること 等で、「子どもの視点」により重きを置く姿勢を示すとともに、子どもの親への支援の充実も強調され ていることが、大きな特徴といえよう。 4.2 子どもの貧困をはかる指標の成果とその見直し 法の施行・大綱の策定から約5年を経た現在、子どもの貧困対策の要として設定された指標について、

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いかなる改善が見られたのであろうか。 令和元年6月に公表された、「子供の貧困の状況と子供の貧困対策の実施状況」(平成30年度)30によ ると、設定された指標について、大綱の策定時と直近値を比較して一定の成果が見られることが示され ている。 例えば、生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率(全体)をみると、大綱の策定時には90.8% であったが、直近値では93.7%に上昇し、一方、高等学校中退率は同様に5.3%から4.1%に下降し、また、 就職率(中学卒業後)は2.5%から1.5%に低下している。同様に、児童養護施設の子供及びひとり親家 庭の子供の進学率及び就職率も、ほぼ同様の傾向にある。その他、子どもの貧困率は16.3%から13.9%に、 子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困率は50.4%から50.8%へと推移していることが見て取れる。 この様に、それぞれの指標の改善は、大綱に基づく各分野の重点施策への取り組み等による一定の成 果の表われとして評価することもできよう。 しかし一方で、大綱が設定する指標については、いくつかの課題が挙げられている。 平成29年3月、政府は、後に予定されている大綱の見直しもにらみ、指標に関して、より一層の体系 化すべく検証を行った上で、見直しに当たっての一定の方向性について整理し取りまとめた「子供の貧 困に関する指標の見直しに当たっての方向性について」 31を公表した。 この中で、指標につき、法や大綱における子どもの貧困対策の目標を分類・整理し、その目標につき 把握すべき状況とそれに対応する指標を設定することで、指標の体系化を図る32ことを提案し、また、 その指標体系の課題として、「教育の機会均等の確保に関する指標」、「健やかな育成環境の確保に関す る指標」の不足・欠如を挙げて、これらに関する新たな指標の設定・充実を求めている。 併せて、今後の取り組みとしては、物質的はく奪指標という新たな指標について、中期的な課題とし て引き続き研究を行う旨が記載されている。 この様な背景のもと、「子供の貧困対策に関する有識者会議」33(以下「有識者会議」とする)にお いて、令和元年度内を目途として、「子どもの貧困に関する指標」を含めた、新たな大綱の策定に向け た検討が行われ、同年8月、有識者会議は、新たな大綱に向けた施策の方向性を示した「今後の子供の 貧困対策の在り方について」34(以下「在り方について」とする)を提言した。 この提言は、まず、子育てや貧困を家庭のみの責任とせず、地域や社会全体で課題を解決するという 方針を基本に据えて、① 親の妊娠・出産期から子供の社会的自立までの切れ目のない支援 、② 地方公 共団体による取組の充実、 ③ 支援が届かない又は届きにくい子供・家族への支援、の3つの視点を踏 まえた新たな大綱に盛り込む事項を検討していくことが必要である、としている35 加えて、子どもの貧困対策に関する取組の方向性として、「教育の支援」、「生活の安定に資するため の支援」、「保護者に対する職業生活の安定と向上に資するための就労の支援」、「経済的支援」と、それ ぞれの分野ごとに取り組みの方向性を示すとともに、引き続き施策の実施状況や対策の効果等を検証・ 評価すべく、子どもの貧困に関する指標を設けて、子どもの貧困に関する改善状況を把握するものとし た。 その他、乳幼児期の子どもの状況や親の健康状態等、子どもの貧困に関する状況をより適切に把握す べく、既存の統計の見直しや改善も含めて、指標の在り方について引き続き検討を行っていくべき、と した36 そして、この様な方針を踏まえて、子どもの貧困に関する指標につき、新規の追加及び削除も含めた 見直しが提言された。 例えば、新たに追加すべき指標としては、大綱の柱であり重要政策の一つである「教育の支援」に関 わる指標として、新入学児童生徒学用品等の入学前支給の準備状況及び給付型奨学金の利用者数、「生 活の支援」に関わる指標として、滞納経験(電気・ガス・水道)、困窮経験(食料・衣服)及び重要な

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― 10 ― 事柄やいざという時のお金の援助を求めることができるような「頼れる相手が必要だがいない」と答え た人の割合、「保護者の就労支援」に関わる指標として、ひとり親家庭の親の正規の職員・従業員の割合、 及び「経済的支援」に関する指標として、ひとり親家庭で養育費の取決めをしている割合、ひとり親家 庭で養育費を受け取っていない子供の割合等、が提案された。 「在り方について」では、今回削除された指標を除き、現行のまま存続する指標及び新たに追加され た指標の総計35の指標が示されており、見直し前の指標が25であったことと比較すると数的に増加した ことに加えて、子どもが義務教育を受けるにあたり必需品である学用品の確保、滞納経験や困窮経験と いった直接的に「ライフライン」の確保に関わる事柄や、「頼れる相手」の存否といった、いわば人間 関係の範疇にまで指標設定の目を向けた点は、今までは見えてこなかった子どもたちが置かれた現状を、 より多面的に把握するという視点からは望ましいものとは言えよう37 しかし一方で、これらの子どもの貧困に関する指標は、やはりその多くの点において、親・世帯の所 得の多寡を映し出しているものに過ぎないとも言え、この様な点を踏まえつつ、あらためて「相対的貧 困」の定義について見てみるならば、そこに欠けているものは「子どもと大人は異なる」という視点で あり、それを反映させた「子どもの貧困」の定義が求められよう38 前章の「小括」では、限られたフィールドワークではあるが、現在の「相対的貧困」の定義では見え てこない「子どもの貧困」に関わる問題として、親自身の生活上の能力や子どもの養育能力、そして一 般的に子どもが得るであろう様々な経験や体験等の機会の平等の欠如、という点があることを指摘した が、これらの点を考慮するならば、「子どもの貧困」の定義には、大人の「相対的貧困」の定義とは異 なり、「一定の地域社会の中で生活する際に、その子どもを健全に育成するに必要なもの・機会を確保 するために、お金が十分にかけられていないこと」を、その要素に含めていく必要があるように思われ る。 5 むすび 日本において、ほとんど議論なく「相対的貧困」の定義を基に「子どもの貧困対策」を進め、OECD 基準によって「子どもの貧困率」を算出している点については、「世帯収入の少なさ=子どもの貧困」 という定義となり、場合によっては解決は児童給付金でと安易につながりかねない懸念があるし、世帯 収入の多い世帯には関係のない事柄であると捉えられかねない。少なくとも、「子どもの心身の健全育 成の為に必要不可欠なものがすべての子ども達に与えられ、さらに機会の平等もすべての子ども達に与 えられ、決して貧困の連鎖が起こらないような状況が、実際に子ども達に十分提供されているか」とい う視点は重要であり、本来定義にも反映されるべきものでなかろうか。その意味では、現在の世帯収入 が少ないかどうかのみ考慮している「相対的貧困」の定義や「子どもの貧困率」の計算方法では、「子 どもの貧困」の現状が残念ながら見えてこないように思われる。さらには、今回の論文作成を通して、 子どもの健全育成に必須のものとは、すべてお金に還元できるのか、疑問が湧いてきたところである。 もちろん、政府も、実際の政策においては、「子どもが心身ともに健やかに育成されること」を旨と することを求め、また、より細かな記載されるべき指標を例示すること等で、「子どもの視点」により 重きを置く姿勢を示すとともに、子どもの親への支援の充実も強調されてきてはいる。しかし、残念な がら、この「子どもの貧困をはかる指標」の定義についても、問題を抱えている。日本における指標と は、政府が正しい方向に進んでいく為の目標値である。これは、例えばイギリスの「物質的はく奪指標」 のように、その子どもが貧困かどうかの判断をする為の指標ではないがゆえに、そうなればどの範囲の 子どもを貧困と定義するか、その子ども達はどれくらいの数いるのかという調査を行うことも出来ない。 「子どもの貧困」対策をしていく為には、まずはこの日本において「どのような状況にいる子どもで

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あれば貧困というのか」という定義を定め、その境遇にいる子どもは、どれだけの人数いるのか、その 原因は何なのかというところをしっかりと見極めていることが必要である。定義が曖昧なままでは、しっ かりとした法的政策へと繋がっていかないのではないかという懸念が生じるところなのである。 ※1、2、5は池谷が、3は足立が、4は今出が執筆を担当した。 付記 本研究はJsps科研費 Jp18K02485の助成を受けたものである。 謝辞 本論文内における、子どもの貧困に関わる実態調査にご協力下さった行政や民間団体の皆様、     コーディネイト頂いた皆様に心より感謝を申し上げたい。 注記および引用文献 1「子供の貧困対策に勉強も教える『寺子屋食堂』」『産経新聞』(令和元年8月10日)。 2 實成文彦「社会格差の広がりと子どもの健康をめぐって」学術の動向 平成23年4月号66頁。 3 足立己幸『なぜひとりで食べるの』(日本放送出版協会)の187―188頁によれば、「中学二年生ぐらいになると、子ども は彼らなりの独自の世界を持ち始め、親の入り込む余地は、だんだんなくなる。それまでに基本的な生活習慣、特に食事 を通じて、親子が同じものを共有した、ということが大切です。それがなかった親子関係は、思春期以降になると、大き く崩れてしまう可能性がありますね」と指摘されている。食事とは、単なる栄養摂取の場だけではない。それは家族その ものの問題へと繋がっていることが分かる。 4 宮武正明「貧困の連鎖と学習支援―困難な家庭の児童の学習支援はなぜ大切か(2)―」こども教育宝仙大学紀要4号 109頁。 5 阿部彩「『豊かさ』と『貧しさ』:相対的貧困と子ども」発達心理学研究 第23巻第4号364頁。 6 阿部・前掲注5、365-366頁。 7 阿部・前掲注5、366頁。 8 子どもの貧困率は、日本財団「こどもの貧困の社会的損失推計―都道府県別推計―(平成29年3月11日訂正版)」(https:// www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/wha_pro_end_04.pdf 閲覧日:令和元年8月13日)を参照。 9 課題深刻度は、日本財団・前掲注8を参照。 10 子どもの貧困率が低く、課題対策度も低い自治体には、東京都の他に、鳥取県、島根県などの自治体も該当するが、課 題対策度として予算支出の最も高いのが東京都であったため、東京都を調査対象とした。子どもの貧困率が高く、課題対 策度の高い自治体には、愛媛県の他に、大阪府、北海道など9つの自治体も該当する。9つの自治体の中で子どもの貧困率 がより低いのは、北海道(23.7%)、大阪府(20.4%)、愛媛県(17.5%)である。北海道、大阪府については、人口が多く (北海道8位、大阪府3位)、財政規模(北海道3位、大阪府2位)も大きいが、愛媛県の人口は、全国28位、標準財政規模は、 全国30位であるため、愛媛県を調査対象にすることとした(「人口推計 2018年(平成30年)10月1日現在」(総務省統計局) http://www.soumu.go.jp/iken/ruiji/todohuken29.html(http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2018np/index.html 閲覧日:令和元年8月 15日)、「平成29年度都道府県財政指数表」(総務省)(http://www.soumu.go.jp/iken/ruiji/todohuken29.html 閲覧日:令和元年 9月16日)を参照。 11 「子どもサポーターズとしま」は、平成23年に一つの弁護士事務所内で弁護士と職員を中心に設立され、現在では社会 人ボランティアと学生ボランティアとともに運営されている。 12 学習支援会は、水曜が小学生の部(16時30分から19時)、木曜が前半に小学生の部(15時30分から17時まで)後半に中 高生の部(17時から19時)に分かれて実施される。 13 民間団体には、事務所兼会場を民間団体から借り、運営費が十分に賄えないという団体もある(内閣府「平成30年度子 どもの貧困に関する支援活動を行う団体に関する調査 平成31年3月」(https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h30/

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― 12 ― pdf-index.html  閲覧日:令和元年8月13日)。 14 松山市青少年育成市民会議は、子どもの育成に関する団体が多く所属し、「子どもたちを育んでいくことを目的とした 育成組織」である(松山市生活福祉総務課・子育て支援課作成資料「松山市子ども健全育成『土曜塾』について」を参照)。 15 土曜塾に参加できる子どもは、松山「市内在住の中学生のうち、生活保護受給世帯、ひとり親世帯のうち児童扶養手当 全部受給世帯、住民税非課税世帯に属する・塾。家庭教師、通信教育等有償の教育サービスを利用していない者」とされ ており、保護者の収入などによる制限が設けられている(松山市作成資料・前掲注14を参照)。 16「土曜塾」では、年度初めに参加者に対してテキストの一式が配布され、テキストに沿った勉強のサポートも進められ ており、年度初めの段階で子どもの学力が低いことが指摘されている。 17ユニセフ「イノチェンティレポートカード13子どもたちのための公平性:先進諸国における子どもたちの幸福度の格差 に関する順位表 平成28年3年」、(https://www.unicef.or.jp/library/pdf/labo_rc13j.pdf 閲覧日:令和元年8月13日)。 18 江戸川区における子どもの貧困を含む子どもの成長支援対策について、現状(基礎データと実態調査)、今後の取り組 みについて、江戸川区「“子どもが輝く未来”に向けて~子どもの成長を支える江戸川区の取り組み~平成28年3月」、(https:// www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/127/torikumi.pdf  閲覧日:令和元年8月13日)。 19 江戸川区・前掲注18、16頁。 20 江戸川区では、高校中退者が増加し、高校中退者へのサポートがないという現状があったが、高校中退者への居場所づ くりも含めたサポートを開始している。 21 松山市は、平成27年度より子ども総合相談センター事務所を中心とした「松山市子ももの貧困対策庁内関係課連絡会」 を設置し、年1回程度会議を開催している。 22 担当職員が支援の対象となる家庭に訪問をしても、信頼関係が形成されないと、追い返されてしまう、話しを聞いてく れないなど、その家庭へ介入することが難しくなるが、おうち食堂などで対象家庭の信頼を得て見守りを続けている。 23 江戸川区では、無料のサッカー教室を開催したところ、不登校の子どもが高校への進学を考えるようになったケースが あるという。機会が得られることは、学習への意欲にもつながることがある。 24 平成28年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」に対し、日本政府がSDGsの実施に向けた策定がなされ る中で、ユニセフ協会は子どもの貧困を含む6つの子どもの課題が適切に実施されるよう要望書を提出している(https:// www.unicef.or.jp/news/2016/0260.html 閲覧日:令和元年年9月13日)。 25 本文では述べなかったが、江戸川区においても、広域で多数と思われる家庭を担当職員の方が訪問をし、対象家庭との 結びつきを形成・維持する姿勢がうかがわれた。 26 松山市には、緑の帽子を目印にボランティアで子ども見守りをする高齢の男性や無料で子どもを預かる高齢の女性の集 まりなどもある。 27 子どもの貧困対策会議「子供の貧困対策に関する大綱-全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現 を目指して-」(平成26年8月)。  指標としては、生活保護世帯に属する子供の高等学校等進学率・中退率及び大学等進学率、生活保護世帯に属する子供 の就職率、児童養護施設の子供の進学率及び就職率、ひとり親家庭の子供の就園率、進学率及び就職率、スクールソーシャ ルワーカーの配置人数及びスクールカウンセラーの配置率、就学援助制度に関する周知状況、日本学生支援機構の奨学金 の貸与を認められた者の割合、ひとり親家庭の親の就業率、子供の貧困率、子供がいる現役世帯のうち大人が一人の貧困 率等が設けられた。 28 大綱の重点施策の具体的内容については、池谷和子「子どもの貧困対策と家族-『家族の中の子ども』という視点から-」 現代社会研究第15号(平成30年)97-99頁参照。 29 「子ども貧困対策 市町村も 超党派議連、法改正を検討」『東京新聞』(平成31年1月8日)。 30 「平成30年度 子供の貧困の状況及び子供の貧困対策の実施状況について(概要)」(令和元年6月25日) 。その他、「子ど もの貧困対策に関する大綱に記載した25の指標の現状」(「第13回 子供の貧困対策に関する有識者会議」配布資料 資料3-1) 参照、(https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/yuushikisya/k_13/pdf/s3-1.pdf  閲覧日:令和元年年8月15日)。

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31 内閣府政策統括官(共生社会担当)「子供の貧困に関する指標の見直しに当たっての方向性について」(平成29年3月31日)。 32 指標の体系化として、まず「教育の機会均等の確保」と「健やかな成育環境の確保」を貧困対策の目標とし、これらに 対してそれぞれ把握するべき状況(前者であれば、就学の状況、学習習熟度、就学環境の整備等、後者であれば、健康・ 生活習慣、社会とのつながり、保護者の就労状況・所得等)を設定し、これに対応した指標を設定することが示されている。 33 「子供の貧困対策に関する有識者会議」は、大綱に掲げられた施策の実施状況や対策の効果及び子供の貧困対策等につ いての検討を行うために、子供の貧困問題について取り組む実務担当者、研究者及び市民団体等のメンバーによって構成 され、法施行から2年後の平成28年7月から現在まで14回の会議が開催され、大綱の運用・見直し等を含めた子供の貧困対 策に関する様々な議論が行われている。 34 子供の貧困対策に関する有識者会議「今後の子供の貧困対策の在り方について」(令和元年8月)。 35 有識者会議・前掲注34、2-5頁。より具体的には、①につき、親の妊娠・出産期や子供の乳幼児期における早期の課題 把握から、学校教育段階、卒業して社会的自立が確立されるまでの継続的な視点での支援体制の構築、子供のライフステー ジに応じて切れ目なく支援を講じるために必要な情報の共有、連携の促進、②につき、地方公共団体による取組の充実、 生まれた地域によって子供の将来が異なることのないよう、地方公共団体による計画策定や取り組みの充実促進、特に市 町村において、個別の子供の情報を活用した効果的な支援へのつなぎ、③につき、支援が届かない又は届きにくい子供・ 家族への支援、声を上げられない子供たちを早期に発見し手を打つための様々な把握のツールの準備、困窮度が高いふた り親世帯等、困窮層は多様であることに留意した支援が挙げられている。 36 有識者会議・前掲注34、12頁。 37 有識者会議・前掲注34、14頁「別添」参照。 38 なお報道によると、来年度、政府は上記の指標に加えて、生活の充足度を反映する、いわゆる「剥奪指標」も利用した 子どもの貧困に関する初めての全国調査を、統一指標で行う計画であるとされている。「子どもの貧困、初の全国調査 来年 度、統一指標で実施へ-政府」『時事ドットコム』(令和元年8月13日)(https://www.jiji.com/jc/article?k=2019081300871&g=soc 閲覧日:令和元年8月15日)。

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