植 物 防 疫 第69 巻 第 1 号 (2015 年) ― 2 ― 2 新しい年を迎えるにあたり,植物防疫にかかわる皆様 に新年のお慶びを申し上げます。農林業では,気象災害 や病害虫への対応が重要ですが,昨年は,例年以上に話 題の多い年でした。例年比較的積雪の少ない地域を中心 として,2月に記録的な積雪を見ることとなり,甲信越, 関東,東北太平洋側等で農業用ハウスの大量倒壊などの 激甚被害が出ました。8 月には,台風 11・12 号の襲来 に加え,前線が西日本と東北日本海側,北海道に長雨を もたらし,広島市では土砂崩れで大量の死傷者が出まし た。また,この長雨により,西日本にイネいもち病の注 意報が多数発令され,中国・九州北部の5 県では,イネ いもち病(穂いもち)の警報も発令されました。これら 犠牲者のご冥福を祈り,農作物の被害を受けた皆様にお 見舞いを申し上げるとともに,今年は,平穏な年である ことを祈念いたします。 農水省が取りまとめた昨年の病害虫発生警報・注意報 を見ると,イネいもち病以外に,イネ斑点米カメムシ類 と果樹カメムシ類の注意報が多数の都道府県で発令され ました。また,トビイロウンカが西日本で,イネ縞葉枯 病は関東を中心に多発しました。このうち,縞葉枯病は, 近年増加傾向で,20 年近い周期で多発を繰り返す再興 病害といえます。病原ウイルスとその宿主,さらに媒介 虫およびその宿主が複雑に関係するので,単なる伝染環 遮断戦術ではなく,その流行機構を科学的に解明する戦 略的な取り組みが期待されます。 新病害虫に関する特殊報を見ると,侵入病害のウメ輪 紋病がさらに発生確認地域を拡大し,新病原系統による キウイフルーツかいよう病が西日本で大問題となってい ます。いずれも行政と研究が連携した取り組みがなされ ています。これら侵入病害は新興病害であり,第1 線で 侵入を防ぎ,次にまん延阻止,最終的には撲滅する戦略 が必須です。その際には,法令を伴う行政的介入が必要 であり,その根拠を明らかにレギュラトリーサイエンス としての取り組みが重要です。 昨年は,ヒトの感染症であるエボラ出血熱の大流行が 世界的な話題となり,国内ではデング熱の流行も問題と なりました。また,清浄国に復帰できた口蹄疫やいまも 発生が見られる鳥インフルエンザ等の動物感染症ととも に,高病原性インフルエンザの脅威も続いています。こ れら植物,ヒト,動物の新興感染症は,共通項目も多い ので,研究成果を共有したいものです。例えばエボラ出 血熱の保菌者が航空機で長距離移動する可能性の問題 は,輸入される種苗に伴って侵入する病害虫問題と共通 する部分があります。 一方,最近の「攻めの農林水産業」政策の下,相当数 の農産物が輸出されています。自国農業保護のため厳し い検疫措置をとる輸出先が多数あります。これらへの対 応策は,輸入農産物への方策と表裏一体の関係にあり, 植物防疫が一層重要となっています。 近年の農業政策では,国内の農業生産の低コスト化, 省力化,高収益化が強く求められています。特に農地の 大宗を占める土地利用型農業では,農地を集積した大規 模営農法人等が中心的担い手となります。一方,昨年は 米の概算金額が下落し,生産者を不安にさせておりま す。低コスト化のためには,大規模圃場化や農機の効率 的利用,多収栽培技術や品種の導入,病害虫被害の低減 などの個別技術を総合的に組合せて,実際の営農規模で 実施可能であることを実証する必要があります。農水省 では,「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊 急展開事業」を平成26,27 年度に 100 億円規模の予算 で編制し,研究独法,大学,都道府県,民間企業等が総 計48 のコンソーシアムを組んで,上述のような技術の 実証試験中です。病害虫の研究者もこの事業に多数が参 画中です。 病害虫による被害を的確に制御しつつ,作物の収量と 品質を確保し,最終目的である収益を最大化するには, 本来の意味での総合的病害虫管理(IPM)が実践されな ければなりません。IPM の本来の狙いは,経済合理性 に基づいた営農を持続的に実施可能な病害虫管理法とい うことであり,コストを度外視した防除法を導入するこ とではありません。また,漫然とリスク・ベネフィット を重視せずに薬剤や肥料を多投する技術でもありませ ん。病害虫防除の技術開発も,攻めの農林水産業の政策 に貢献できるよう,研究の推進を行っていきたいものです。 最後に,内閣府の総合科学技術・イノベーション会議 が主導する府省を越えた研究の取り組みである戦略的イ ノベーションプログラム(SIP)が総額 500 億円を超え る規模で開始しました。この中の次世代農林水産業創造 技術の課題には病害虫管理にかかわる先進的課題も含ま れています。その成果が今後の病害虫防除につながるこ とを初夢として見ながら,新年を迎えたいと考えています。
新年を迎えて
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