インド公企業における収益性と社会経済的目的,低価格政策および経営上の諸問題(3)
立山杣彦
はじめに
第1節インド経済における公企業の位置 第2節公企業の経営収支概況
第3節公企業の多様な社会経済的目的と低収益
(以上『経営と経済』第72巻1号)
第4節公企業における価格設定の諸類型および価格設定にかんする諸見解
(以上『経営と経済』第72巻3号)
第5節政府による公企業に対する価格政策
(以上本号)
第6節公企業における経営の非効率 むすぴ
第5節 政府による公企業に対する価格政策
1.まず,1970年代の終り頃までの状況を見ておきたい。当初,余剰の蓄 積やそのための適切な価格政策の必要性が一般論として述べられ これが徐 々に政策次元にも反映されてくるが,価格抑制の動きも根強い。また,一時,
公共部門内における購入優先・価格優遇政策が打出されるが,その後撤回さ
れる。
C 1 J W
第
1次
5ヵ年計画(1
951年
4月 " ‑ '
1956年
3月)書』は,経済の貯 蓄源について,
r…国家は,自ら,できる限り,課税,借入れ,そして固有 企業が取得する余剰を通じて調達しなければならない Y と述べている。
1955年の『税制調査委員会報告書』は,明白に,国家の収入を増加させるために 公企業を利用することができるとの見解を示しており,
r利益なし,損失な し」という政策が望ましくないと指摘している。また,同報告書は,投下 資本に対する十分な収益を確保するための価格政策が必要であるとしてい る
;2)『 第
2次
5ヵ年計画(1
956年
4月
"‑'1961年
3月)書』は, W 第
1次計画
書』以上に,課税の限界を認識しなければならないとして,
r公衆への財・
サービスの売却から生ずる余剰」による課税に対する補完を重視し,公企業 の価格設定について次のように述べている。「インドより生活水準が大して 高くないいくつかの低開発諸国が開発努力に必要とされる資金を調達してい るのは,この種の工夫,すなわち公企業製品にかんする適切な価格設定政策,
そしていくつかの選ばれた業種における国営商業または国家専売
(fiscal monopolies)を通じてである了。「社会主義型社会」建設のために要請され たとする
1956年産業政策決議は,公企業運営における「権限の分散
J,
r最大 の自由」を強調するとともに,余剰を生出す必要性について次のように述べ ている。「…企業運営は営利ベースに沿うものでなければならない。公企業 は,国家歳入を増大させ,新分野でのいっそうの発展のための財源を提供す るものでなければならない(第
18項
)J。さらに,
W第
3次
5ヵ年計画(1
961年
4月 " ‑ '
1966年
3月)書
Jは ,
r適切な価格政策」の必要性と余剰の蓄積が 公企業の責務であることを次のように述べている。「公企業が効率的に運営 され,その財・サービスについて適切な価格政策を採用する場合,その運営 の成果はより大きな収入・余剰に反映されるに違いない。発展途上経済にお いては,余剰は,これを生出す企業の拡張,または経済のその他の分野に対 する投資金融のための,便利でかつ重要性が増大しつつある源泉を構成する。
したがって,効率的に生産し,さらなる発展のために取っておかれる余剰を
蓄積することは,公企業の責務である」。
大まかに言って,以上では,発展途上経済において公企業が余剰を生出す ことの重要性,そしてそのためには「適切な価格政策」が必要なことが,一 般論として述べられているに過ぎない。これは,実態面では公企業が余剰を 生出しうる「適切な価格政策」が打出されていないことの反映でもある。
(2 J W
第
3次計画書』後の「公共部門にかんする政策声明のうち次の画 期」とされている,
1966年
6月招集された「円卓」会議におけるガンデゲ一 首相の開会演説について簡単に見ておこう。同首相は,一方ではその拠って 立つ「哲学」など公共部門と民間部門との相違を指摘しながらも,他方では 公共部門にとっても民間部門と同様に効率・利益・サービス・技術進歩はき わめて重要であり,
Iさらなる経済開発のための資金を調達する営利的余剰 をもたらすこと」を公共部門を擁護する理由の一つであるとしている。
1966年の『第
4次
5ヵ年計画草案』は,価格設定より公企業の経営効率の増強と いう点に重心を置いているが,使用資本収益率の目安としてI
I"‑' 12%以上を 提示している。しかしこの目安が個々の公企業にかんするものか公企業部門 全体にかんするものなのか,明確ではない。
1967年におけるインド政府行政 改革委員会の『公共部門企業研究チームによる報告書』は,
Iわれわれは,
公共部門企業の価格政策策定の際,つぎの原則が忘れられぬよう勧告する
J‑として
4点指摘しているが,そのうちの
3点は次のとうりである。まず第
1項では,
I公企業は,政府が発した公然たる指令のなかで当該企業に対し公 共の利益という明確かつ最優先の理由が示されていなければ,最低限,利益 を上げ赤字を出すべきではない」と述べている。さらに第
4項では,とくに 工業・製造業分野の公企業にかんして,
I公企業は,彼ら自身の収益から資 本開発へかなりの貢献をするため,十分な余剰の取得を目指すべきである」
と述べている。しかし,第
2項では,公益事業・サービスについて,
I強調
点は投資収益より産出に置かれるべきであり,限界費用が価格に等しい水準
まで拡張されるべきである」と述べており,
I社会的厚生極大」のため赤字
の発生もやむをえないという内容である。要するに,公益事業・サービスな ど政府が「公共の利益」を優先させるべきであると判断した場合以外におい ては,
r利益を上げ赤字を出すべきではない
J,
r十分な余剰の取得を目指す べきである」としているのである
(9)以上のように,同報告書の勧告はかなり 具体的なものとなっている。
1968
年,政府は,
r政府は,近年,公企業の価格設定政策の改訂を最高レ ベルのところで検討し,公企業は経済的にやっていけるものでなければなら ず,もっとも初期の段階においてさえも収益性を増大させるために徹底した 努力が為されるべきことが決定された」として,つぎのように,市場条件別 に,公企業の価格設定政策にかんするガイドラインを定めた。まず第
l項で は,他の国内生産者との競争市場においては,
r需要・供給という通常の市 場諸力が働き,公企業製品は一般的な市場価格によって支配される」と述べ ている。ここでは,
r赤字を出すべきではない
J,
r十分な余剰」との関連に ついては触れていない。つぎに第
2項では,
r独占的もしくは半独占的条件」
の下に置かれている公企業について,
r類似の輸入製品の陸揚価格が通常の 上限であろう」と述べている。しかし,
r陸揚価格が人為的に低位に設定さ れている」場合や,
rその他の例外的状況の下でより高い価格を設定する必 要がある」場合,
rこの問題は,大蔵省および公企業局に委ねられるべきで ある」としている。後出のL.
K.ジャー委員会
(EconomicAdminstrstion Reforms Commission on Government and Pub1ic Enterprises ‑EARC)の『 第
6報告書一政府と公企業:政府の許可と認可』は,このガイドライン の第
2項について,
r事実によって証明されなし、かもしれず,公企業を困難 な局面に陥れるようないくつかの前提に基づいている」と指摘している。こ のガイドラインは,いくつかの欠陥を持っており,また他面から見ればあま りに一般的過ぎるのだが,政府が打出した最初の具体的な公企業に対する価 格政策と言えよう。
さらに,
1971年,次のような政策が打出された。「諸省/政府諸部局や公
共部門企業は,たえず,最大限可能な限り,その必要物資を公共部門企業か ら購入すべきである。もちろん,品質上の諸要求や適切な配送計画について は,価格協定にかんする交渉に従ってなさるべきである。公共部門企業に対 しては,
10%を超えない価格優遇が許されよう r 。これは,必要物資の調達 面で公共部門内部の相互依存関係を強化し(第
4節 注(6)参照) ,公企業の生 産能力の稼動率を高めるとともに,価格を高くしその利益率を高めようとし たものである。公企業に対するこの価格優遇策は,
Iこの上限(類似の製品 の陸揚価格一立山)の範囲内では,価格交渉を行ない,価格をふさわしい水 準に設定することは企業にとっても自由である」とした
1968年ガイドライン の第
2項をさらに敷街したものであると考えることもできょう。さらに,
10%以上の価格優遇については次のように謡われている。「公共部門企業が1
0%以上の価格優遇を要求する場合,購入する側の省/部局または公共部門企 業は交渉によって意見が一致するよう努めなければならない。そのような交 渉が相応な期間内に不可能な場合はその件は内閣の経済調整委員会に付託さ れる
J0公共部門内における購入優先はともかくとして,公共部門内におけ る価格優遇が公共部門全体の経済的余剰をどれほど増加することができるの かという点については,はなはだ疑問である。
(3 J 1974
年の『第
5次
5ヵ年計画草案』は,公共部門の「その規模に応
,じた国民貯蓄」への貢献の重要性を主張するとともに,
1978一
79年度の公共 法人
(pub1iccorporate)貯蓄の見積り163.6億ルビーのうち,ほぽ
4分の
lは ,
r公共自治企業
(publicautonomous undertakings)による追加的な資 金動員努力,主として価格調整から調達することを計画していると述べてい る(しかし,実際にこの年度,価格調整によってどの程度の資金が調達され たのかは不明である)。これは,少なくともそれまでインド政府が公企業に ついて低価格政策をとってきたことを間接的に示しているものと言えよう。
同草案の次の項(
4. 31項)では,次のように,インフラストラクチャーに
ついてこの点がさらに明らかとなっている。「…公共法人貯蓄のかなりの
低率は,ある程度は,かなりの額の公共投資がインフラ分野へなされており,
したがって高利益を上げるようには意図されていないということによって,
説明される」。
この時期,政府が公企業について実際に低価格政策をとってきていたこと は , w 中央政府工商企業の運営にかんする報告書(1 975-76年度版)~の,次 のような叙述からも窺える。同報告書は,
1973‑74年度版の報告書が
23企業 の価格設定機構にかんするメモを載せていることや,
1974‑75年度版の報告 書においてその他の
7企業の「はやりの機構」が再検討されたことにも言及 しているが,
r全般的に価格に対する抑制が働いているという状況の下で,
個々の企業の価格設定政策は,
1975‑76年度にはこれ以上何らの変化も被ら なかった」と述べている。その後,価格抑制という点では,
1977年
8月,重 要な決定が下された。すなわち,所管諸省は,公企業について,その財政年 度に価格抑制が守られているかどうかを調査し,とくに消費財については,
凍結しないまでも最大限可能な限り価格を抑制するよう,命じられた。その 結果,
Jute Corporation of India/Modern Bakeries/SAIL/Hindustan In‑ secticides Ltd/Hisdustan Organic/Ferti1iser Corporstion of India等々が 影響を受けた
(21)公共部門の利益に多大な影響を及ぼしたものと推察される。
ちなみに第
2‑7 ‑1表/第
2‑7‑2表(第
2節)からも明らかなように,
中央政府企業は
1972一73‑‑‑‑‑1976一77年度にわたり純利益を計上していたが,
その後
1977‑78‑‑‑‑‑1980 ‑81年度には純損失を計上するに至っている。もちろ ん,つぎに述べる
1977年
8月と
1978年
7月における公共部門における購入優 先・価格優遇政策の撤廃の影響も考慮する必要があろう。
前述の
1971年に打出された公共部門内における購入優先・価格優遇政策で は ,
rl0%までの価格優遇でさえ永久的もしくは当然のものではありえない」
とされていたのだが,
1977年
6月,公共部門会社への価格優遇は再検討され た。その結果,次の
2つを理由として撤廃されることとなった。すなわち,
これらの企業は業績が改善され(とくに設置生産能力の稼動面で),民間部
門とも競争し契約を確保できるようになったということ;価格優遇は隠れた 補助金となり,非効率をおおい隠し,その結果改善活動の開始が遅れるかも しれないということからである。しかしこの時点では,公企業に対する購 入優先政策は続けられた。ところが,
1978年
7月,公共部門における購入優 先政策も再検討され,その結果この政策は撤廃された。これは,多くの企業 が今や民間部門企業と競争し,固有の長所に基づき契約を確保できるように なったとの認識による。
2.
つぎに,公企業に対する政府の価格政策の改訂を強く訴えている
W1978.-....-1983年 5 ヵ年計画草案~,重要製品の低価格維持の必要性と全般的な価格 政策の合理化を主張している『第 6 次 5 ヵ年計画書~,および公共部門内に おける購入優先・価格優遇政策の復活の動き等を中心に見ておきたい。
[ 1 J
まず,
1978年の
n978.‑....‑1983年
5ヵ年計画草案』を取上げよう。同 草案は,鉄道運賃と郵便料金値上げについて次のように述べている。「鉄道 の内部資金と彼らの開発計画のための基金の必要性との大きなギャップのた めに,彼らが旅客・貨物運賃の改訂によりさらに資金を調達することは,避 けられない。郵便料金のいくらかにおいても値上げの余地がある」。さらに,
同草案は,非官庁公企業の適切な利益率とそのための価格調整の必要性につ いて次のように述べている。「現在,投資に対して
4.8%の税引後収益率を上 げている中央政府の非官庁公企業は,年
10%の収益率を目指すべきである。
政府は,重要部門における管理価格決定に際して,既に
10.‑....‑15%(税引後) を公正な収益として受容れてきた。したがって,公企業において
10%の収益 を期待するとしても,これは正当であると考えられる。何らかの価格調整が 許されねばならず……」。同草案は,同項において価格調整とともに経営の 効率化の必要性についても触れている。
つぎに,州もしくは州政府企業による濯瓶・電力・道路輸送の料金問題を
取上げよう。同草案は,濯瓶料金の改定について次のように述べている。「州
政府は濯瓶計画により莫大な損失を被っている。新年度の損失は,小規模濯
j 既を含め約
30億ルビーと見積られている。一定の諸州では,収入は,利子支 払いはもちろんのこと,運転経費を賄なうのにすら十分でない。濯
i既の損失 は,事実上,政府の水源から水を得る農民への補助金に相当する。この補助 金支給の利益の主要な部分は,より大規模な農民の手中に入っている。濯瓶 の社会的利益は確かに非常に大きい。しかし,水の利用者への私的利益もか なりなものであるので,かれらが適正な料金を支払うべきではないという理 由は成立たない」。ことに,この種の文書において、より大規模な農民が「補 助金支給の利益の主要な部分」を手中にしている点を明確に指摘している点 は,注目される。
電力について見ておこう。同草案は,まず,
r州電力庁も重大な損失を被 っている」として,州電力庁の財務実態についてほぼ次のように述べている。
新年度,
18の電力庁のうちはが
23億
8000万ルピーの損失を被むると予想して おり,そのうちのいくつかは政府貸付の利子すらも払えない;州電力庁の総 投資は
1977一78年度末までに
700億ルビーに達するものと予想されているが,
収益率(電気税を含め)はわずか
6%でしかない。同草案によれば,こうし た状況の下で,
r国家開発諮問委員会は,その決議(1
976年
9月採択された 電力および濯瓶制度にかんする決議ー立山)において,電力プロジェクト への投資に対する適正な収益率を確保するためより早期に勧告された緊急の 諸措置に言及した」のであるが,
rその時以来電力庁が企図した料金改訂は,
運転経費,減価償却・利子支払いの増加を相殺するどころではなしそれら
の純資産状態
(netresources position)は実際には改善せずに悪化するとい
う結果がもたらされた」のである。したがって,同草案は,
r電力庁が段階
的な計画に基づいて損失を減らし適正な収益率を達成するためには,とりわ
けさらなる料金改訂に取組むことが絶対に必要である」と,さらなる電力料
金引上げの必要性を強く訴えるとともに,
r州電力庁の財務実績にかんする
既存のノルマを再検討し,料金構造の合理化と同庁運営の改善のための勧告
を行なう上級委員会が設置されつつある」として,一定の措置がとられつつ
あることを指摘している。
さらに,同草案は,パス料金についても,次のように,その値上げを訴え ている。「輸送公社も,その経営効率を改善し,パス料金が比較的低位の場 合これを引上げるべきである」。
以上のように,同
5ヵ年計画草案は,運輸・郵便・濯瓶・電力における中央政府企業や州政府企業について,時には財務実態や受益者の構造にも言及 しながら,適正な利益率の必要性,そしてそのための料金(価格)引上げの 必要性を訴えているのである。
ところが,他方では大蔵省公企業局の『公企業白書 0979-80年度版)~
は,とくに肥料・石油製品・鉄鋼・石炭について, [""これらの基本的投入財 の価格は多くの企業の生産費に影響を及ぼすので,合理的な価格設定は,こ れらの基本的商品の価格上昇が他の企業の投入財の原価に及ぼす結果に注意 しなければならなしづとして,これらの基本的投入財の低価格維持の必要性 を示唆している。
C2J
前述のように,
1971年に打出された公共部門における購入優先・価 格優遇政策は,各々
77年 ,
78年に撤廃されたが,
1980年,再導入されること となった。その理由と経緯は,
r公企業白書
0980‑81年度版
Hによれば,
ほぽ次のとうりである。公企業は自立的に成長しうるものでなければならず,
創出された生産能力は十分に利用されるべきである。それらの注文額を増大 させ,それらの収益性をこの国の全体的な経済的利益のために改善すべきで ある。公企業は,小規模部門・附属品部門等々の開発へ向けて社会的義務・
公約を有している。したがって,政府は,様々の諸要因を考慮、して中央政府
企業に対する購入優先・価格優遇政策を再導入し,
1980年
10月から実施する
ことを決定したのである。その後, r公企業白書(1 982-83年度版)~によれ
ば,次のように,この政策は州公企業へも拡大され,それに伴ない州政府側
も対応を迫られていた。「上記の政策(公共部門における購入優先・価格優
遇政策‑立山)は,近年,必ずしも相互主義に基づくことなく,州政府公
共部門企業へも拡大されきた。しかしながら,州政府は,彼らおよびその公 共部門企業が中央政府公共部門へ同様の優遇の手を差述べるよう,迫られて
きた」。
1982‑83
年度と
1983‑84年度の『公企業白書』が各々,
r公企業の製品・
サービスの価格設定についてとられる主要な戦略は,第
6次計画文書におい て明確に述べられた」と指摘しているように,同計画書はきわめて重要であ る。つぎに,この1
981年の『第
6次
5ヵ年計画書』を取上げる。同計画書は,一方では工業製品全般について「価格統制・規制措置もしくは管理価格制度 をできるだけ少数の製品へ限定する」必要性を指摘しながらも,他方では「全 般的な価格安定のためには,一定の非常に重要な工業製品,とくに基本的消 費財や重要な工業・農業の投入財価格を統制または規制することも必要であ ろう」として,重要製品の統制・規制による低価格維持の必要性を主張して いる。ついで,同計画書は「適正な収益率」の設定および管理価格について 言及しているが,その内容はほぼ次のとおりである。管理価格は,一般的に は工業原価・価格局
(Bureanof Industrial Cost & Prices‑BICP)のような 専門機関,また特定の公企業の場合には省聞の委員会・グループの勧告に基 づいて設定される。
BICPは,政府のガイドラインに、沿って価格を勧告し,
「とりわけ,総産出の大きな割合を占めるより効率的な企業の費用(生産の 一定の効率水準を確保するため),原材料・エネルギー消費や生産能力の最 適水準を考慮に入れて適正な収益率を定める。それはリスク・優先度・成長 の見込み等々のような諸要因にかんする差異に応じて,一般に対純資産比率
10‑‑‑‑‑14%にわたった」。しかし,諸状況から見て,多くの公企業にとって,
この「適正な収益率」が実際に達成されていたとは考えにくい。つづいて,
同計画書は,
rリテンション価格制度」と「統一販売価格」について次のよ
うに述べている。「消費者と生産者の利害を調和させるため,一方での多様
な生産者のための生産原価に基づくリテンション価格制度と他方での消費者
のための統一販売価格が勧告され,これが鉄鋼・肥料・セメント等々のよう
ないくつかの場合実施されているア。これは,各企業(工場)の生産原価に 応じたりテンション価格で政府機関が購入し,これを比較的低価格の統一販 売価格で消費者へ売却し,したがって最終的には多大の国庫負担をも招来す ることとなる。ところが,実態はともかくとして,
Iその時々の主要な原価 構成要素の変化に応じて価格調整が許され,適切な期間毎に綿密な再吟味が 行なわれる」として,迅速な価格調整が謡われている。
さらに,同計画書は公企業の利益や価格の問題に言及している。これによ ると,一方では
11公正な収益」の原則は公企業にも妥当する」としながら も,他方では次のように公企業における低価格維持の実態を指摘している。
「これらの企業(公企業‑立山)は,一般的には,インフラ的サービスの供 与,もしくは石炭・鉄鋼
.POLのような基本的工業原材料または肥料のよ うな農業への投入財の製造・供給に従事しており,それらの価格上昇は一般 に段階的に効果を及ぼす。したがって,それらの価格を抑えるための試みが なされてきた」と。ついで,同計画書は,このことが経営上の欠陥やその他 の諸要素と結びつき不十分な資金創出や赤字をもたらし,
I補助金価格
(subsidised prices) Jによる財・サービスの供給が需給の不均衡を強め,さ らに価格改訂の遅滞がその後かなりの規模の価格改訂をもたらすとして,次 のように「価格政策の合理化」を訴えている。「公企業の存続を可能にし,
それらに割当てられた役割を果たさせ,開発のための資金調達を可能にする ためには,それらの価格政策を段階的方法で合理化することが必要であ る
Jと 。
『第6
次
5ヵ年計画書』は,重要製品の価格統制・規制の必要性や迅速な 価格調整を謡うとともに,公企業において価格抑制政策がとられており,こ のことが不十分な資金創出や赤字をもたらし,需給の不均衡を強めており,
さらに価格改訂の遅滞がその後かなりの規模の価格改訂をもたらすとして,
「価格政策の合理化」を訴えているのである。
3
前述のように,
1970年代の終り頃から
80年代の初めにかけ,政府の政
策文書等において,政府がそれまで公企業価格の抑制を行なってきたことが 明らかにされるとともに,公企業の「価格政策の合理化」が強く求められる ようになった。この頃より,政府による公企業に対する価格政策の改善が図 られる。しかし,依然として低価格政策が完全に払拭されたとは言い難く,
「合理的な価格政策」の必要性が様々な形で求められていく。また,公共部 門内における価格優遇・購入優先の政策は,これに対する一定の批判にもか かわらず続けられる。ここでは
1983"‑'1984年の『政府および公企業にかんす る経済行政改革委員会
(EARC‑通称L. K. ジャー委員会)報告書~,
1984年
12月の『公企業政策精査委員会
(Committeeto Review Policy for Public Enterprises(CRPPEJ 一通称アルジュン・セングプタ委員会)報告書~,
1981‑82
年度の政府勧告・決定や『公企業白書』を中心に,以上の動きを見てい こう。
(lJ 1981‑82
年度,政府は,管理価格改訂の実態に注目し,所管諸省に,
公企業が製造する基礎工業投入財の価格上昇を漸次的で緩やかとするため に,定期的かっ頻繁な見直しを行なうよう勧告した。これは,公企業製造の これらの財の価格改訂が原価上昇に応じて定期的かつ頻繁に行なわれていな いケースが少なくないという実態を,反映したものである。この政府勧告は,
前出『第
6次
5ヵ年計画書』が訴えている「価格政策の合理化」に応じたも のであると推察される。また,管理価格製品について優先度がより高い産業 へ投資をさらに引付けるためには通常許されているよりも高い収益率が望ま しいということが強く主張されたが,政府は,状況を精査しより高い収益を 許すケースを注意深く調べねばならないとの結論を下した。さらに,政府は,
管理価格の設定に際し資本過剰部分に相当する資本に対して収益を許すこと のないよう注意すべきであるとの決定を行なった。以上のように,政府は,
一方で公企業製造の基礎財の定期的かっ頻繁な見直しを勧告したが,他方で
種々の理由による収益率の増大に通じる管理価格上昇には慎重な姿勢を示し
ていたのである。
公企業についての「価格政策の合理化」の必要性という点では,
w公企業 白書
0982‑83年度)Jlは次のように述べている。「公企業における価格設定 政策は,公共投資を慎重に基礎・重工業,インフラ部門および必需品の供給 へ向けてきた政府の投資政策に結び、ついていた。この視角から,これらの企 業の社会的目的とそれらの収益上の活力との聞の固有の矛盾を考慮すれば,
合理的な政策がますます必要である
J r…このような製品・サービス(輸 送・石炭・鉄鋼・石油製品・肥料のようなインフラ的サービスや基礎的な工 業・農業投入財‑立山)の価格を,全般的な効率の改善や生産能力の稼動 率の増強により総費用を賄ないかつ適正な収益
(afair margin of return)を もたらすよう,段階的な方法で合理化すべきであるというのが,一般的な見 解であった」。以上から明らかなように,同白書は「効率の改善」や稼動率 の増強を前提としながら基礎・重工業,インフラ部門,必需品の「価格政策 の合理化」を図ろうというのである。
( 2 J 1984
年
6月の『公企業の収益性
(EARC‑II第
7報告書)Jlの「結
論と勧告の要約」を取上げよう。同報告書は,一方では,
r価格設定政策は
過去に公企業の赤字の一因となった政府の諸政策の lつであるが,鉄鋼・セ
メント・石炭等々のような基礎物資の低価格設定は大いに改善されてき
た」として,政府の公企業に対する価格政策の改善を指摘している。ところ
が,同報告書は,他方で,インド政府による低価格政策が完全に払拭されて
いないことを,次のように,種々の形で指摘している。①同報告書は,
r再
び繰返す必要がある点は,ある製品に公共的な経済的または社会的目的のた
めに何らかの補助金価格の設定がなされねばならない場合,これは生産公企
業によってではなく政府によってなされねばならないということである」と
述べている。これは,一定の公共的目的のために政府の補助金なしに公企業
の負担で,公企業製品の低価格設定が行われているケースが少なくないこと
を物語っているものと推察される。「政府が公企業に非商業的義務を課す場
合,同時にそのような義務に対する特別な補償がなされねばならなし、」との
勧告についてもほぼ同様に考えることができょう;②ついで,同報告書は次 のように述べている。「公企業製品の価格設定は, (それを使用するー立山) ダウンストリーム企業(工場)に適切かっそれを超えない利益を可能とさせ るようなものでなければならない。もしダウンストリーム産業が価格統制下 にあるとすれば,公企業はその価格を最終製品に合せなければならなし、。も しこの価格が利益を取得しうるものでなければ,公企業およびダウンスト リーム企業(工場)は,共同して最終製品の価格上昇を求めるべきである
」。これは,価格統制下にあるダウンストリーム産業の利益確保のために,
公企業が低価格設定をせざるをえないケースが少なくないことを物語ってい るものと推察される;①さらに,同報告書は次のように述べている。「公企 業に価格抑制を守らせようとする非公式の要請もしくは指示は,公共部門を 民間部門に比してきわめて不利な立場に置かせる。いくつかの諸産業に対す る人為的な価格抑制は,インフレ防止の最善の手段ではない T 。これは,政
府が非公式のルートを通じて公企業に価格抑制を「要請・指示」しているケー スが少なくないということを物語っているものと,推察される。①また,同 報告書は次のように述べている。「自由な市場諸力があれこれの理由で受入 れられないことが明らかとなり,自助または戦略的諸考慮という理由による,
もしくは社会経済的理由による困難な諸条件の下で生産を続行しなければな らない場合,さらに lつの経済的行動に多様な公共部門や政府機関が関る場 合,一定の効率基準の適用を条件としながらも,生産公企業は生産原価を賄 ないかつ相応の収益をもたらす妥当な価格を支払われるべきである
J。これ は,上記のような特別の事情の下で操業しなければならない生産公企業につ いては,
I相応の収益」を可能とする価格を設定しない,もしくは設定する ことができないケースが少なくないことを物語っているものと推察される。
つぎに,
1984年
12月
31日の
WCRPPE報告書』を見てみよう。同報告書も,
WEARC
報告書』と同様に,
Iここ数年,公企業について政府が採用してい
る価格政策については、かなりの改善が見られた」として,政府の公企業に
対する価格政策が改善されきている点を指摘している。しかし,他方では、
原価の増大に伴なう価格改訂の遅滞とその是正について次のように述べてい る。「しかしながら,ちょくちょく原価の増大に伴なう価格改訂が遅滞し,
このことが一定の決定的な部門の収益性を蝕む傾向があった。公企業が管理 価格またはリテンション価格制度の下で機能する場合,企業の収益性が投入 財価格の上昇によって影響を受けぬよう,そのような管理・リテンション価 格改訂の周期を理にかなったものとすることを保証することが大切である。
価格設定が工業原価・価格局のような組織体の勧告に依存する場合,価格設 定にかんする決定は理にかなった時間内になされるべきか,もしくはその遅 滞を考慮に入れるためには価格に追加的要素を含めねばならない」。これは,
管理価格・リテンション価格制度の下にある公企業の製品・サービスの価格 改訂がその投入財価格の上昇による原価上昇に遅れ,結果的にはこれら公企 業製品・サービスの価格がかなり長期間原価に比して低く設定され,収益性 が圧迫されるケースが少なくないことを物語っているものと推察される。
WEARC
報告書』や
WCRPPE報告書』に指摘されている政府による公企業 の価格政策の問題点がこれまでどの程度克服されているのかについては明ら かではない。
なお,
WCRPPE報告書』は,次のように,公企業に対する
10%の価格優
遇(輸入が関る場合は
15%)については批判的であり,必要な場合は補助金
に替えることを主張している。「価格優遇によって資本費用・原材料費が増
加する程度に応じて,購買する側の公共部門企業の競争力・収益性が蝕まれ
る。関連する問題点を注意深く検討した後,当委員会は,このような価格優
遇を 4 ‑ ‑ ‑ ‑ 5年の期間中に段階的に廃止するよう(輸入が関る場合を除き)勧
告する。価格優遇の廃止は,その原価が様々の歴史的理由によって高くなっ
ている一定の公企業に対して諸問題を惹起するかもしれない。このような場
合,政府は一定期間入札価格の
10%までのはっきりとした補助金を供与して
もさしっかえないものと,勧告する T 。『公企業白書(1
985‑86年版
Hは ,
「価格優遇政策は,アルジュン・セングプタ博士を委員長とする公企業に対 する政策を再検討するための委員会
(CRPPE)の勧告の結果として,今や 再検討されている」と述べており,さらに同様の叙述はその後も同白書
1987‑88
年度版まで見られる了)しかし,同白書
1988年一
89年度版からも明らかな ように,少なくとも
1989年
3月まではこの点での政策転換はなかったものと 推察される;
以上,
1950年から
80年代における政府の政策声明・文書や委員会報告書等 々を分析することにより,長期にわたり政府による公企業製品・サービスの 価格政策が低価格維持のそれであり,
1980年代に入り,一方で政府の慎重な 姿勢も窺えるものの,価格政策改善の傾向が見られることが明らかとなった。
さらに,
1970年代に始められた公共部門内における購入優先・価格優遇政策 は,一端廃止されたが,
1980年に復活しその後に至っていることも明らかと なった。
〔 注 〕
( 1) Planning Commission
,
Government of India,
First Five Year Plan,
p. 4
1 (Chap. II,
Para 38).( 2) Laxmi Narain, PrinciPles and Practice 01 Public Ente
ゆ
riseManagement, S.Chand &Company Ltd(New Delh
, ) i
1982,
p. 374/p.376 (Source:Government of India,
Report 01 the Taxation Enquiry Commission,
1955,
voll,
pp. 200~202).(3 )Planning Commission
,
Government of India,
Second Five Year Plan,
p. 91 (Chap. N,
Para 29).( 4 )同決議のテキストとしては次を利用。
Navin Chandra Joshi & B.Banerjee
,
Readings in Public Sector,
UDH Publishing Com‑pany(Delhi)
,
1986,
Appendix‑1.( 5) Planning Commission
,
Government of India,
Third Five Year Plan,
p. 273 (Chap. X V 1,
Para 38).( 6) Vijay Kumar Lal Srivastava