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同一部首漢字の記憶における分散効果

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

同一部首漢字の記憶における分散効果

著者 藤田 正

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 55

号 1

ページ 45‑52

発行年 2006‑10‑31

その他のタイトル A Study on the Spacing Effect in Memory of

Japanese Kanji with Same Radical Properties

URL http://hdl.handle.net/10105/240

(2)

1.問題と目的

我々は記憶の際,類似するものをまとめたり,関連づ けたりすることによって効率良く記憶する方略を用い る.対象を記憶する際,対象そのものに加えて,それを 構成する要素あるいは要素間の関係を記憶することによ って,検索の可能性を増大させている.しかし,何らか の点で類似した項目リストの記銘−再生を繰り返す場合 には,項目間の類似性のために,再生を求められている 項目とそうでない項目の弁別が困難になり再生成績が低

下する場合がある.これには干渉(interference)と呼ば れる現象が関係している.

このことは,我々が生活の中で使用する漢字の記憶に 関しても同様である.漢字を記憶する場合でも,漢字全 体をそれぞれ別個のものとして記憶するのではなく漢字 の部首,あるいは漢字を構成する要素の中で意味を指示 する形態要素(例:「岩」における石,「森」における 木など)と,その要素間の関係の仕方を記憶していると 考えた方が自然である(海保・野村,1983).また,漢 字には同音,類音,類型,類義のものが数多くある.こ

同一部首漢字の記憶における分散効果

藤 田  正

奈良教育大学学校教育講座(心理学)

(平成18年5月8日受理)

A Study on the Spacing Effect in Memory of Japanese Kanji with Same Radical Properties

Tadashi FUJITA

(Department of Psychology, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan) (Received May 8, 2006)

Abstract

The purpose of this study was to examine the spacing effect on the memory of Kanji with same radical properties. 53 undergraduates studied the Kanji list items successively presented as spaced or massed repetition. The Kanji list was composed 24 items, 8 items of same radical and similar meaning , 8 items of same radical and dissimilar meaning, and 8 control items of different radical and meaning. Immediately after a study period, they were given free recall test and recognition memory test followed by a perceptual figure tests. Analysis indicated that spacing effects were observed on same radical and same meaning Kanji and control list, but were not observed on same radical and dissimilar meaning kanji list. These results were discussed with related theory, retrieval process one, encoding variability and retrieval cues hypothesis on spacing effect in memory.

Key Words: kanji with same radical property, spacing effect in memory, encoding variability hypothesis

キ−ワ−ド: 同部首漢字,

記憶の分散効果,

符号化変動性仮説

(3)

のような属性の類似性が漢字を記憶する際に,漢字同士 の弁別困難を引き起こすことがあり,その結果として干 渉を生じ,漢字の読み書きや記憶の際に誤りを生じさせ ている(藤田,1995)

学習や記憶の実験室的研究において常に安定的な支持 を得てきた現象の一つに「分散効果(spacing effect) がある.北尾(2002)は,これまでの研究を以下のよ うに展望している.分散効果は,同一の刺激項目が反復 提示される場合,学習にあてる総時間が同じであっても,

分散的に刺激材料を呈示する方が集中的な呈示よりも優 れた学習効果をもたらすという現象であり,効果的な学 習を導くための時間的条件を示唆するものとして注目さ れてきた.語彙の獲得,テキストの理解や記憶,さらに はカリキュラム編成等にもこのような時間的条件が考慮 されるべきであり,この領域の研究は,実際的な問題の 解決にも有益な情報を提供する.しかし,その発生メカ ニズムについては様々な説が出されており,今なお一致 した見解に達していないのが現状であると北尾(

2002

は指摘している.

分散効果に関する有力な説明仮説の一つに「符号化変 動性仮説(encoding variability hypothesis)(Madigan,

1969;Melton,1967,1970

)がある.それによれば,記銘語を 記憶する際には符号化が行われるが, 同じ項目を反復し て記憶する際には, 1回目の呈示時とそれ以降の呈示時 で符号化が同じ場合や異なる場合がある.集中呈示では,

連続して刺激項目が呈示されるため,同一の符号化が行 われやすい.一方,分散呈示では呈示間隔が空くことに より2回目以降の呈示時に初めの符号化を忘れるため に,それとは異なる符号化が行われやすい.検索の際に は,それら全てが手がかりとなるために,検索手がかり が集中呈示よりも豊富になり,検索がしやすくなる.し たがって,分散呈示項目の方がより多く再生されると説 明されている.

このように,分散効果が生じるのは多様な符号化が生 じるため,検索の際にもそれが利用されやすいという説 が「符号化変動性仮説」である.

ところで,このような分散効果は,あらゆる種類の項 目リストにおいても生じるだろうか.Kahana &Green

(1993)は大学生を対象に,項目間に意味的な関連性を 持つ刺激リストにおける分散効果について検討した.同 一の概念カテゴリー(動物名・職業名など)に属する単 語のみで構成されたリストを分散呈示と集中呈示の条件 下で記憶させ自由再生を求めたところ,両方の呈示条件 の成績に違いはなく,分散効果は現れなかった.その理 由として,概念カテゴリーを含むリストではリスト項目 全てに共通するカテゴリー名に注意が向くために,それ が有力な検索手がかりとして使用される.そのため分散 呈示により符号化の変動が生じても,それを検索手がか

りとして利用する必要がなくなる.したがって,自由再 生では分散効果が現れず,検索手がかりを必要としない 再認や頻度判断では分散効果が現れると考察されている.

カテゴリー化されたリストのように,項目間関係情報 が強く働き,分散呈示によって生じた符号化変動性より も,共通手掛かりが検索手掛かりとして用いられる場合 には,分散効果は生じないと言える.

では,属性(音韻・形態・意味)の類似性を持つ漢字 リストを記憶する場合にも,カテゴリー化されたリスト のように分散効果が抑制されるかどうかは関心が持たれ るところである.表意文字である漢字は,漢字を構成す る要素部分の組み合わせによるものが多い.意味を示す 部分(部首)と読み方を示す部分を組み合わせて別の意 味になるように作られた形声文字は,漢字の約

90%を占

めると言われている.したがって,部首の意味が分かれ ば,その漢字の意味が大体分かるということになる(藤 田,

1994

.そのため漢字における部首が規定する意味 はカテゴリーとしての役割を果たしていることが考えら れる.

漢字の部首がある程度意味カテゴリーを喚起する機能 を持つことを示唆する研究もある.森本(

1980

)は,

部首,特に偏の機能を検討するために,読みの難しい漢 字とそれに対応する仮名を刺激語としてSD法を用いて 印象評定を実施した.その結果,同一の部首を持ち,読 むことが難しい漢字の間で差異得点(Dスコア)の値が 小さかった.すなわち、同一部首を持つ漢字間の心理的 距離が近く,意味的に類似していることが明らかにされ た.これは共通項として部首が機能している可能性を示 唆している(藤田,

1994

.その他,海保(

1974

)は語 彙判断課題において、藤田(

1995

)はブラウン・ピー ターソンパラダイムにおいても部首の意味喚起機能を証 明する結果を報告している.

藤田(

2005

)は,同一部首を持つ漢字リストを用い て再生記憶における分散効果を検討した.もし,分散呈 示によって符号化変動性が生じ,項目間の弁別性が高ま るならば,同一部首リスト条件においても、類似性のた めに生じる干渉が軽減されることが予想できる.

実験では,木偏のみ(例:松、杯、棒)もしくは,さ んずい偏のみ(例:泣、湾、泥)の漢字で構成される同 一部首リスト,木偏とさんずい偏の2種類を混合した混 合リスト,及び全てが異なる部首の漢字で構成される統 制リスト(例:孫、夏、財)の

3

条件を用いて分散呈 示・集中呈示の条件下で記憶成績を比較した.

その結果,同一部首リスト条件と統制リスト条件では 分散効果が生じた.このことから,同一部首という項目 間に高い類似性を持つリストでも分散効果が生じること が見出された.

ところが混合リスト条件では分散効果が生じなかっ 藤 田  正

46

(4)

た.混合リスト条件では部首が

2

種類あることにより,

同部首としてのまとまりが同一部首リストよりも明確に なる.したがって,部首から喚起される意味によりカテ ゴリーが形成され,リスト内の項目間を関連づけるため に,検索手がかりとして有効に機能することで干渉が起 こる.そのため分散呈示による符号化の変動性に抑制を かけ,再生成績に呈示条件の差がなくなったと解釈され ている.

以上の結果が示すように,漢字の記憶においてもリス トを構成する漢字の特徴により一様に分散効果が生じる ものではないことが明らかにされた.

ところで,藤田(2005)で用いられた同一部首漢字 リストでは,共通する部首が項目間を関連づける機能を 持つので分散効果が生じるのを抑制するように働く可能 性を考えた.しかし,分散効果が見られた結果から,部 首のもつ意味が概念カテゴリー程,強く機能するのもで はないことが明らかにされた.さらに藤田(

2005

)で 用いた同一部首漢字を調べてみると, 水や液体に関す る字 を作る部首であるさんずい偏に「法」や「泊」の ように部首から喚起される意味カテゴリーとは一致しな い意味を持つ漢字も存在する.藤田(

2005

)が用いた 漢字リストはリスト項目を作成する際に,漢字自体の持 つ意味と部首が規定する意味の関連性(一致・不一致)

を考慮したものでなかった.

そこで本研究では,漢字の記憶で見出された分散効果 についてさらに詳細に検討するために,同一部首漢字で 部首が規定する意味を感じやすい漢字(以下,高漢字と 略す)と意味を感じにくい漢字(以下,低漢字と略す)

を刺激材料としたリストを用いて,分散呈示と集中呈示 条件での記憶成績を比較することにより分散効果の違い について検討することを目的とした.

2.方 法

2.1.実験計画 

実験計画は,3×2の2要因計画であった.第1の要因 はリスト条件で,高漢字リスト・低漢字リスト・統制リ ストであった.第

2

の要因は呈示条件で,反復項目を分 散的に呈示する分散呈示条件と連続して呈示する集中呈 示条件であった.第1要因,第2要因ともに被験者内要 因であった.

2.2.被験者 

大学生55名(男子10名,女子45名)であり,平均年 齢は20.45歳(SD=1.49)であった.

2.3.材料

2.3.1.記銘リスト

記銘リストは,高漢字8項目,低漢字8項目,統制漢 字8項目の計24項目を記銘語とし,それぞれ分散呈示ま

たは集中呈示のいずれかで

2

回ずつ反復された.また,

分散呈示の際の介在項目数は

4

項目とした.

リスト構成のための予備調査:記銘語の選択に際して は,記憶の実験に参加した者とは別の大学生29名による 予備調査を行った.あらかじめ部首が規定する意味を感 じやすい,または感じにくいことが予想される漢字を

8

つの部首(人偏,土偏,女偏,草かんむり,手偏,さん ずい,木偏,ごん偏)につき,各10個ずつの計20個を呈 示した(例:感じやすい漢字−芝,地,林;感じにくい 漢字−芸,塩,相).部首が規定する意味をどの程度感 じるかについて「4 非常に感じる」から「1 全く感 じない」の4段階で評定させた.また,「教育漢字の具体 性,象形性および熟知性の表」(北尾ら,

1977

)におけ るF価(熟知性)についての評定は

7

段階尺度(「

7

常に多い」から「1 全くない」)であったので,それに 合わせて評定させた.なお,評定される漢字は角川最新 漢和辞典改訂新版(角川書店,

1989

)から選んだ.

予備調査の結果に加えて,さらに画数を調整した上で 高漢字リストには木偏,草かんむり,さんずい偏の漢字 を各4字ずつ,低漢字リストには人偏,女編,さんずい 偏の漢字各

4

字ずつを記銘漢字として決定した.使用さ れた漢字は総画数

6

画〜

8

画であり,平均画数は

7.34

(SD=.58)であった.また,F価の平均は4.69(SD=.46)

であった.高漢字・低漢字のそれぞれに対し,部首にお ける画数と熟知度について

1

要因の分散分析を行ったと ころ,各部首間に有意差は認められなかったため,これ らの漢字を刺激項目に採用した.

統制漢字リストには,北尾ら(1977)の表から総画8 画で,熟知度の平均が高漢字と低漢字の平均とほぼ同程 度 に な る よ う に

8

語 を 選 出 し た .

F

価 の 平 均 は

4 . 5

(SD=.50)であった.

また,リストの呈示順序をカウンターバランスするた めに部首の組み合わせや呈示順序を組替えたリストを合

18

パターン用意した.表

1

は,使用した記銘項目である.

実験用冊子として,記銘項目を

1

ページにつき

1

項目 ずつ印刷し,図

1

のような配列で各項目を

2

回ずつ反復 したものに表紙を付けて,合計48ページの小冊子(B6 版)を作成した.

2.3.2.挿入課題用紙

図形を切り離して置き換えたときに,どのような図形 になるかを5つの選択肢から選択されることが課題として 求められる図形問題であり,B5版の用紙が4枚であった.

高漢字リスト  池   河   汗   泳  低漢字リスト  汽   況   決   法  統制リスト   門   取   果   卒 

表1 実験に用いた漢字リスト項目の一例  リスト条件  漢字項目の例 

(5)

2.3.3.自由再生テスト用紙

項目についての自由再生を求めるために,B5版の用 紙1枚に項目名を再生順に記入するための罫線が印刷さ れていた.

2.3.4.再認テスト用紙

再認テスト用紙はB5版の用紙

1

枚で,記銘リストに呈 示されていた15項目が記入されていた.また,被験者 の思いつきで回答されることを防ぐためにリストには出 てこなかったNew項目

15

項目を用意した.New項目は,

記銘リストに呈示されていた漢字と同部首の漢字(意味 規定度が2.1〜3.0のもの),形態が類似している漢字

(例:板−坂),新出漢字の三種類を各5項目ずつ用意し た.以上の合計

30

項目がランダムに印刷されており,

各項目の右横には確信度評定を書き入れるための括弧が 印刷されていた.評定は,「1 確かにあった」から「6 確かになかった」の6段階で行われた.

2.4.手続き

実験は意図記憶手続きを用いて小集団で実施された.

2.4.1.記銘試行

被験者に記銘リストの小冊子と挿入課題用紙,自由再 生テスト用紙,再認テスト用紙が一緒になったテスト用 冊子を配布した.その後,小冊子は机の上に置き,テス ト用冊子は机の中にしまうよう指示し,それを確認した 後,以下のような教示を与えた.

「それでは,今から実験を始めます.この小冊子には,

1

ページにつき

1

つの漢字が書かれています.『始め』と いう合図で1ページ目を開き,その後は,『はい』とい う合図に従って次のページをめくり,よく見てそれらの 漢字を覚えて下さい.同じ漢字が

2

回出てくることもあ ります.

上記の教示内容を被験者が理解したことを確認した 後,被験者には実験者の合図に従って1ページにつき5 秒の速さでページをめくり,各項目を記銘させた.

2.4.2.挿入課題試行

記銘施行後,記銘リストの小冊子を机の中にしまって テスト用冊子を出し,挿入課題テストのページを開かせ,

挿入課題を行った.被験者は,置き方を変えた図形を見 つけ出し選択するテストを

2

分間行った.

2.4.3.自由再生テスト

挿入課題終了後,1枚ページをめくって自由再生テス ト用紙を出させ,

5

分間の書記自由再生テストを行っ た.被験者には,記銘試行で記憶した漢字を思い出した 順に漢字で記入することを求めた.

2.4.4.再認テスト

自由再生テスト終了後,

1

枚ページをめくって再認テ スト用紙を出させ,以下のような教示を与えた.

「最初に覚えた漢字について,「確かにあったと思う:1」

から「確かになかった:6」を,括弧の中に書き入れて 下さい.

上記の教示に関して被験者が理解したことを確認した 後,3分間の再認テストを行い,テスト終了後記銘リス トの冊子とテスト用紙を併せて回収した.

3.結 果

3.1.自由再生テスト

自由再生テストにおける各被験者の自由再生項目をチ ェックし,記銘リストでのリスト条件と呈示条件を組み 合わせた6条件のそれぞれについて自由再生数をカウン トした.分析には,自由再生数が平均値±2SDを超えた 被験者

2

名を除く

53

名のデータを用いた.

3.1.1.全体の自由再生率

図2は,自由再生テストにおける平均自由再生率を示 している.個人の自由再生率を角変換した値の平均を用 いて

3

(リスト条件)×

2

(呈示条件)の分散分析を行 っ た . そ の 結 果 , リ ス ト 条 件 の 主 効 果 (

F

2,104

= 2 2 . 1 5 , p < . 0 1

), 呈 示 条 件 の 主 効 果 (

F

1, 5 2

=16.76,p<.01)及びリスト条件×呈示条件の交互作用

F

2,104

)=3.34,p<.05)が有意であった.

交互作用が有意であったので単純主効果検定を行っ た.最初に,呈示条件ごとにリスト条件の差について検 定したところ,分散呈示(F(2,208)=19.64,p<.01),

藤 田  正

48

                                                                   

分 散 呈 示     集 中 提 示  

       

                                     

・ ・ ・  

決  卒  卒  林  苗  決  娯  娯   

・ ・ ・  

 

                                         

       

集 中 提 示    

 

分 散 呈 示    

     

           

   

                         

             

図 1     記  銘  リ ス ト  の 呈  示  例      

(6)

集中呈示(

F

2,208

)=4.37,p<.05)共にリストの主効 果が有意であったので多重比較を行った.その結果,分 散呈示条件では高漢字が低漢字(t(104)=5.25,p<.001)

及び統制(t(104)=5.58,p<.001)よりも再生成績がよ く,低漢字と統制漢字の間に有意差は見られなかった

t

104

)=.33.集中呈示条件では,高漢字が統制より も自由再生率が高かったが(t(104)=2.95,p<.01),高 漢字と低漢字(t(104)=1.56)及び低漢字と統制漢字

t

104

)=1.40)の間には有意差は見られなかった.

次に,リスト条件ごとに呈示条件の差について検定し た.その結果,高漢字では分散呈示の方が集中呈示より も再生成績が有意に高く(F(1,156)=19.36,p<.01),

統制リストにおいては有意な傾向であった(

F

1,156

=3.56,p<.10

.しかし,低漢字では分散呈示と集中呈示

の間には有意差は見られなかった(F(1,156)=.33)

3.1.2.高漢字・低漢字の自由再生率

リスト条件の差を明らかにするために,高漢字と低漢 字の再生成績のみで分析を行った.

3.1.2.1.全体の自由再生率

3.1.1と同様に,個人の自由再生率を角変換した 値の平均値を用いて

2

(リスト条件)×

2

(呈示条件)

の分散分析を行った.その結果,リスト条件の主効果

(F(1,52)=22.16,p<.01),呈示条件の主効果(F(1,52)

=16.29,p<.01

)及びリスト条件×呈示条件の交互作用

F

1,52

)=5.63,p<.05)が有意であった.

交互作用が有意であったので単純主効果検定を行っ た.最初に,呈示条件ごとにリスト条件の差について検 定した結果,分散呈示条件では,高漢字が低漢字よりも 再生成績が高かった(

F

1,104

)=22.43,p<.01)が,集 中呈示条件では,高漢字と低漢字の間に有意な差は見ら れなかった(F(1,104)=2.15).次に,リスト条件ご とに呈示条件の差について検定したところ,高漢字では 分散呈示の方が集中呈示よりも再生成績が有意に高かっ たが(F(1,104)=19.75,p<.01),低漢字では分散呈示 と集中呈示の間に有意な差は見られなかった(F(1,156)

=.76

3.1.2.2.再生順の系列位置における分析

図3〜5は,再生順の系列位置における自由再生率を 示したものである.各被験者の自由再生項目を再生順に

3

等分し,再生前期・中期・後期としてそれぞれにおけ る自由再生率を算出した.その値を角変換した値の平均 を用いて,系列位置ごとに2(リスト条件)×2(呈示 条件)の分散分析を行った.

その結果,再生前期(図

3

)ではリスト条件の主効果

F

1,52

)=5.44,p<.05,呈示条件の主効果(

F

1,52

=10.02,p<.01)及び交互作用(F(1,52)=71.76,p<.01)

が有意であった.交互作用について単純主効果検定を行 った.最初に,呈示条件ごとにリスト条件の差について 検定した結果,分散呈示条件では,高漢字が低漢字より も再生成績が高かったが(F(1,104)=58.78,p<.01),

集中呈示条件では,低漢字が高漢字よりも再生成績が高 かった(

F

1,104

)=19.29,p<.01).次に,リスト条件 ごとに呈示条件の差について検定したところ,高漢字で は分散呈示の方が集中呈示よりも再生成績が高かったが

(F(1,104)=76.81,p<.01),低漢字では集中呈示が分散 呈示よりも再生成績が高かった(

F

1,104

=26.58,p<.01

再生中期(図

4

)では,呈示条件の主効果(

F

1,52

=4.13,p<.05)のみが有意であった.

再生後期(図5)では,リスト条件×呈示条件の交互 作用のみが有意であった(

F

1,52

)=9.53,p<.01)の で,単純主効果検定を行った.最初に,呈示条件ごとに リスト条件の差について検定した結果,分散呈示条件で は,低漢字が高漢字よりも再生成績が高かったが(F

1,104

)=5.03,p<.05,集中呈示条件では,高漢字が低 漢字よりも再生成績が高かった(

F

1,104

=4.13,p<.05

次に,リスト条件ごとに呈示条件の差について検定した ところ,高漢字では集中呈示の方が分散呈示よりも再生 成績が高かったが(

F

1,104

)=6.61,p<.05,低漢字で は分散呈示が集中呈示よりも再生成績が高かった(

F

(1,104)=4.17,p<.05) 3.2.再認テスト

再認テストにおけるヒット率を算出した.記銘リスト

0 20 10 30 40 50 60 70 80

︶ 

高  低  統制 

分散  集中 

呈示条件 

図2 平均自由再生率(全体) 

0 20 10 30 40

︶ 

高  低 

分散  集中 

呈示条件 

図3 平均自由再生率(再生前期) 

(7)

に呈示されていた漢字を

6

段階評定の内,

1

3

(「確か にあった」「あったと思う」「あった気がする」)の3つ の段階のいずれかが選択されていた場合を正答とし,自 由再生テストと同様に記銘リストでのリスト条件と呈示 条件を組み合わせた

4

条件のそれぞれについて正再認数 をカウントした.

図6は再認テストにおける平均ヒット率を示してい る.各被験者のヒット率を角変換した平均値を用いて

2

(リスト条件)×

2

(呈示条件)の分散分析を行った.

その結果,リスト条件の主効果(F(1,52)=3.84,p<.10)

に有意傾向,呈示条件の主効果(F(1,52)

=10.49,p<.05)

は有意であった.しかし,リスト条件と呈示条件の交互 作用は見られなかった.

再認成績は,全体の再認率が88.47%,高漢字・分散 呈示が96.23%,高漢字・集中呈示が84.91%,低漢字・

分散呈示が

88.21%,低漢字・集中呈示が 83.33%であり,

どの条件も非常に高い成績であった.このように天井状 態が見られことが,リスト条件の差が有意傾向に止まり,

交互作用が見られなかったことに影響したことが考えら れる.

4.考 察

本研究では,同一部首漢字で部首の意味規定度が高い 漢字リストとそれの低い漢字リストの記憶において,分 散呈示と集中呈示の条件下での再生成績の比較により,

漢字の記憶における分散効果について検討することを目 的とした.

実験の結果から,漢字リストの記憶においても先行研 究と同様に,集中呈示された項目よりも分散呈示された 項目の方が再生成績が優れるという分散効果を得ること ができた.しかし,分散効果の程度は

3

種類のリスト条 件によって異なるものであった.

まず全体の自由再生率に関しては,高漢字リスト及び 統制リストでは分散効果が見られたが,低漢字リストに おいて分散効果は見られなかった.また,分散効果の大 きさは,高漢字リスト>統制リストの順であった.この 結果から,高漢字リストと統制リストでは分散呈示によ る多様な符号化が生じたために検索手がかりが豊富にな り再生が促進されたが,低漢字リストでは分散呈示され た項目であっても符号化変動が生じにくく,分散呈示と 集中呈示の間で再生成績の差がなかったことが考えられ る.

高漢字リストと統制リストで分散効果が見られた本研 究の結果は,藤田(

2005

) の同一部首漢字条件と統制 条件で分散効果が見られた結果と一致するものであっ た.しかし,Kahana &Green(1993)による動物名,

職業名などの概念カテゴリー項目リストを用いた分散効 果の研究結果とは異なるものであった.「符号化変動性 仮説」(Madigan,1996;Melton,1967,1970)によれば,分 散呈示された項目では,同じ項目が2回目に呈示される 際に時間間隔が空くことにより,符号化の変動が生じ,

記銘語に対する多様な符号化が行われる.それ故,検索 時には手がかりが豊富であるために利用されやすく,記 憶を促進すると説明されている.ところがKahana &

Green( 1993

)では,概念カテゴリーを含むリストにお

いては項目間に共通なカテゴリー名が有力な検索手がか りとなるために,分散呈示による個々の項目の多様な手 がかりを利用する必要がなくなり,分散効果が生じなか ったと考察されている.したがって,本研究では,部首 から喚起される意味を感じやすい高漢字リスト(例:

杉・材・林)は項目間関係情報が強くなり,それを検索 手がかりとして利用しやすいので分散効果が起こらな 藤 田  正

50

0 20 10 30 40

︶ 

高  低 

分散  集中 

呈示条件 

図4 平均自由再生率(再生中期) 

0 20 10 30 40

︶ 

高  低 

分散  集中 

呈示条件 

図5 平均自由再生率(再生後期) 

0 40 20 60 80 平100

︶ 

高  低 

分散  集中 

呈示条件 

図6 平均ヒット率 

(8)

い.それに対して部首から喚起される意味を感じにくい 低漢字リスト(例:法・決・治)では,リスト内に意味 的関連性がなく項目間関係情報が弱いために,部首が検 索手がかりとして利用されにくい.それ故,個々の項目 の弁別性が高くなり,符号化変動が容易になることで分 散効果が生じると考えていた.ところが実験で得られた 結果は予想とは異なるものであった.

このような結果については,Kahana & Green(1993)

が用いた概念カテゴリー項目リストと比較すると,漢字 リストにおける部首が規定する意味は,意味的カテゴリ ーとしての機能が概念カテゴリーほど強く機能していな い可能性があり,そのことが異なる結果を生じたと考え られる.

予想と異なったとはいえ,高漢字リストでは分散効果 が見られた.見出された漢字の部首の意味規定度による 分散効果の違いについてさらに検索時のアクセスの機能 から検討を深めるために,高漢字リスト条件と低漢字リ スト条件のみの再生率を用い,再生順の系列位置におけ る分析を行った.系列位置の再生の分析からは,検索時 のアクセスのしやすさを明らかにできる.したがって,

前期の再生は,最初にアクセスされた部分と言える.

分析結果から,系列位置ごとに

2

つのリスト条件の再 生率は呈示条件により異なることが明らかになった.高 漢字リスト条件では,再生時に最初のアクセスが前期に おいて分散呈示と集中呈示の間に

28.77%という大きな

差があり,顕著な分散効果が見られた.これは,高漢字 では分散呈示により多様に生じた符号化の結果が,検索 手がかりとして再生前期に最もアクセスしやすかったこ とを示している.したがって符号化変動性によりアクセ スが容易になり,検索手がかりが利用されやすかったた めに,前期の分散効果が最も顕著であったと考えられる.

しかし,中期では呈示条件間に再生率には大きな差はな く,後期では集中呈示の方が分散呈示よりも正再生率が

11.79%高かった.前期,中期,後期の呈示条件におけ

る効果の違いを全体として比較してみると,前期の顕著 な分散効果の大きさが高漢字リスト全体の分散効果を規 定していることが明らかになった.

さらにリストの性質という視点から考察してみた.高 漢字リストに共通する項目間関係情報は,形態的特徴で ある部首,部首の規定する意味,さらには漢字自体が持 つ意味の3つであり,この3つが意味的に一致している 場合には,記銘時に相互に有利に働き合い,個々の漢字 の意味特性の違いを高めたと考えられる.その結果,項 目間関係情報が機能するよりも分散呈示による符号化変 動が生じやすくなり,検索時には項目へのアクセスを容 易にする.したがって部首の類似性が引き起こす干渉を 抑制し,記憶を促進したことが考えられる.

一方,低漢字リスト条件は,部首の形態的類似性はあ

るが,部首の意味と個々の漢字そのものの意味的関連性 はない.このことが,記銘時の項目の符号化に有効に機 能することなく,個々の項目の記銘に負荷がかかった可 能性がある.そのため符号化変動性が生じにくくなった のであろう.また,再生時に検索手がかりへアクセスす る際は,リスト内の共通点である部首という形態的特徴 が項目間関係情報として影響し,部首の形態的類似性の ために個々の項目の弁別性が低下し,分散効果が現れな かったという可能性がある.したがって,低漢字リスト 条件では分散呈示された項目であっても,部首の類似性 がもたらす情報によって符号化変動性が機能していない ことが考えられる.

また,後期において分散効果が表れているが,前期で は集中呈示された項目の方が正再生率が高いという結果 であった.中期は呈示条件間に再生成績の差はなかった.

低漢字では系列位置によって利用する検索手がかりに違 いがあり,前期の集中呈示条件の結果と後期の分散効果 が相殺され,全体の自由再生率では分散呈示と集中呈示 の間に再生成績の差がなくなったと考えることができ る.

5.要 約

本研究の目的は,漢字の記憶で見出された分散効果に ついてさらに詳細に検討するために,同一部首漢字で部 首が規定する意味を感じやすい漢字(高漢字)リスト条 件と意味を感じにくい漢字(低漢字)リストを用いて,

分散呈示と集中呈示条件での記憶成績を比較することに より分散効果の違いについて検討することであった.

大学生

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名を被験者として,高漢字リスト・低漢字 リスト・統制リスト,それぞれ8項目ずつ合計24項目 の記銘項目と,リストの最初と最後にバッファー項目を 2項目ずつ,合計28項目から成る冊子を用いた.

実験は意図記憶手続きによる小集団実験であった.被 験者は,1項目につき5秒の速さで記銘リストに書かれ た項目を記銘した.記銘リストは24項目から成ってお り,分散呈示の際の介在項目は

4

項目であった.記銘試 行後,

2

分間の図形判断問題,

5

分間の書記自由再生テ スト,3分間の再認テストの順で行った.

主な結果は以下の通りであった.高漢字リストと統制 リストでは分散効果が見られたが,低漢字リストでは分 散効果は見られなかった.

以上の結果より,漢字の記憶においても分散呈示によ り符号化変動が生じ,分散効果が現れることが明らかに なった.しかし,リスト条件の内容により分散効果の程 度には相違が見られた.これらの結果は,分散効果の説 明仮説である「符号化変動仮説」の枠組みと漢字の情報 処理特性を用いて考察された.

(9)

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法による漢字の分析(

1

神戸山手女子短期大学紀要, 23, pp.55-71.

[付記 本研究を行うにあたり,実験の実施とデータ分析に 際しては,竹下巴さんの協力を得た.記して厚くお礼申し 上げます.

藤 田  正

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参照

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