小樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済
一 北 海道再生 の ための提 言
‑
中 村 秀 雄
北海道の元気な国際企業に学ぶ,海外取引成功の秘訣 (1)株式会社エフ・イー
(2J KCMエンジニアリング株式会社
は じ め に
2001年 に本学 に就職 して以来,北海道国際 ビジネスセ ンターの貿易 コンサル タン トの職,国際取引契約研究会,道内企業の顧 問活動 などを通 じて,地域の 企業 に対 して国際取引についてのア ドバ イスを行 って きた。今般地域研 究会の
「グローバ リズムと地域経済」 と題 した研 究の一環 として,過去 にア ドバ イス した企業が実際にどのように国際商取引を展 開 していったか を追跡することに よ り,北海道の発展 のための処方葺が書けないか, と考 えては じめたのが この 調査である。今回は第1社 目と2社 目の結果 を発表する。
I 株 式会 社 エ フ ・イーl) 1.会社概要
1959年 に創業 した佐 々木鉄工所 と,同 じ年 に創業 した株式会社 甲斐鉄工所が, 1991年合併 し株式会社エ フ・イー (以下 「Fe社」)となった。野菜洗浄機 ・選別
1)旭川市工業団地在。2009年10月1日に聞き取 り調査を実施した。
〔323〕
圳
機の設計,製造,据付 を得意事業 とす るほか,環境調和型事業や渡材2)更生事 業 に も進 出 してい る。菓付 き大根洗浄機 では全 国の80%近 くの シェア‑を有す る。2009年現在の年 間売上高 は4億 円程度であ る。
技術力, 開発力 を経営の中心 に据 え,部材,部品の製造 は下請 に出 し, 自社 工場 では組み立てだけを行 っている。部品の一部 には中国で生産 している もの
もある3)。
2.国際取引
次 にFe社 の国際取引 について見てみ る。
(1) 実 績
2006年以前 には,日本の商社 を通 じ台湾 に人参洗浄機 を輸 出 した ことがあ る。
Fe社 に とっては,取引 は 「横浜港渡 し」条件 で国内取 引 として行 われた。つ ま りこの時 は商社 に売 り切 り,商社 が輸 出当事者 になったので,Fe社 は直接 に国際取引契約の当事者 にはな らなか った。
海外 との直接取引は2006年7月,韓国のB社‑ の 「菓付 き大根洗浄機」 1式 の輸 出契約が最初である。
( 2 )
国際契約への取 り組みa.
輸 出採算円建 て ・円払 い を原則 にす ることによって,為替変動 による採算 の変動 を受 けない ように している。
また部 品 の一 部 は2007年 頃か ら製 造 コス トの安 い床 の会社 で作 って い る4)。但 し完成度 を全面 的に信 頼で きるまでに至 ってお らず, 日本で全 品を再 検査 してか ら使 っている。最初は不良品率15%位であったが,今では5%位 ま
2)浄水場の通過池には,砂か ら玉石までの通過材が7層ほど敷 き詰められている。
Fe社はこれ らをまとめて洗浄 し,再びサイズごとに分離 して排州する装置を開発 した。
3) 2(2Ja参照。
4)この会社の社長は日本人である。
小樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済 325 で下が ってお り,Fe社採算 向上 に貢献 してい る。
b.意思疎通
Fe社 々長 は別 に輸 出入 を業 とす る会社 を知 人 と共 に所有 してい る。 この会 社 はカナ ダ,アメリカ,中国,韓国 と取引実績があ り,外国語の読 めるス タッ フがいる。またその中国事務所 には現地人ス タッフもいる。従 って書類の作成, 契約交渉 な どには不 自由 しない。Fe社 と して もこの ノウハ ウを必要 な ときに 借 りてい る。
またFe社 は外国語での条件交渉,契約交渉な どには通訳 を使 っている。
C.国際取引契約書の作 成
今 までの ところ,国際取引契約書作成で苦労 した経験 はない。
(3) 中国市場への進 出可能性
中国市場 は,一般 的には 日本企業の有望 なマーケ ッ トとして捉 え られている が,Fe社 の製 品の視点か ら見 る と次 の ような問題があ り,今の ところ積極 的 な取引は考 えていない。
(i) 人件費が安いので,機械 で洗浄 した高 コス トの商品のマーケ ッ トが ない。
(ii)従 って コス トをかけて洗 った として も,その大根 は 日本人,叉は 日本市 場 向け とい うことになる。
(iii) しか し中国の大根 は農薬 を大量 に使用 しているために,現在の 日本人消 費者 の晴好か らす ると,現地在住の 日本人向け需要,対 日輸 出共 に考 え ら れない。
なお一旦洗浄 して水分 に触れた野菜 は,低温で消費地 まで輸送 しない と,傷 んだ り腐 った りして しまう。 中国では この ような低温輸送の技術が十分確立 さ れていない とい う現実 もあ る。実 はこの間題 は韓 国で も存在す る。地方 の産地 で洗浄 した大根 の,大消費地 であ るソウル5)までの輸送 には解 決すべ き課題が あ る。
5)ソウルまで持って行ってから洗わない理由は,人口密集地での大量の洗浄泥によ る下水汚染を防 ぐためである。
( 4 )
それ以外の国際取引ハ ワイか らも日系 人向けの野菜の洗浄を目的 とした引合いがある。仕様は合 意 されているが,価格面で折合いがついていない6)。
韓国 との取引を機 に,国際取引を増や したい と思 っている。
3.
輸出取引 一 韓国の会社 との取引 ‑2006年以降行 っているB社 との取引の経過や,それに当たって経験 したこと は,次の通 りである。
(1) 直接取引
海外取引の実際 を学ぶためにジェ トロ7)札幌 にア ドバ イスを求めた。取引ス キーム検討,代金決済関連,契約書作成 に当たってほ,取引銀行の国際業務部 門にも相談 した。 また実際の輸 出手続の詳細 については,株式会社栗林商会8)
の助言 を得た。
(2) B社 との契約書
この会社 との第1回 目の取引では(1)記載の銀行のア ドバ イスを受 けて, きち んとした契約書案 を作成 して提示 したが,相手方 にそこまで厳格 な ものを作 る 必要があるのか と抵抗 され,最終的には所 々緩やかな形 にした契約書が出来上 が った。
契約書 は2本ある。各々の中で,特筆すべ きところは以下の とお りである。
a.売買契約書
(i) 当初案では,契約締結後の製造費用増加 を,最終的に価格 に転嫁する権 利 を売主が有す ることになっていたが,削除 された。契約 日か ら船積 まで の期 間が1ケ月程度 と短か ったので,本取引では特 に問題はなかった。
6) 2009年10月現在。
7)独立行政法人日本貿易振興機構。JapanExternalTradeOrganization(JETRO). 8)船舶代理店事業等を営む会社で,北海道室蘭市に本社を置 く。道内に6つの拠点
を持つほか,本州にも拠点がある。また上海,大連,ソウルに連絡事務所を設置し ている。
小樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済 327 (ii)商品代 の支払 いは3分割 とした。その うち頭金は契約後す ぐに支払 われ
るが,残 りの70%は商品が実際 に船積 された後 に支払 われることになって いた。 この与信 の リス クは商売上 の リス クとして, Fe社が取 った。
(iii)本契約の条件はCIF9)であったが,実際 にはそれだけで終 らず に,据付 指導員が派遣 された。 しか しこの指導員の業務責任範囲,費用負担等 につ いては,特 に条件 を明記 しなか った。
(iv)大根洗浄機 は北海道では大根 の収穫可能期 間,す なわち5月か ら11月 ぐ らい まで しか使 われない。 そ こでFe社 は,その期 間かつ1日10時 間程度 の稼働時間を前提 に, 1年 間の性 能保証 を している。一方韓国での使 われ 方 は通年であ り,かつ 1日24時間運転す ることも想定 される, とい う過酷 な ものであ る。 その ことを認識の上で,保証期 間は1年 間 もしくは,運転 時 間2000時 間10)の どち らか早 い方, とい う保証 条件 も検 討 したが,最終 的には 日本 と同 じ1年 の性 能保証 を与 えた。 そ うす るに当たっては免責事 由を詳細 に定めて,過剰 な責任 を負 う可能性 を排 除 した。 この ような手厚 い保証 を提供す ることがで きた もう一つの理 由 として,運転マニュアルが 整備 されているために,運転者 に帰責事 由のあるときには,保証義務が発 生 しない ことが明 らか になってい ることもあげ られ る11)0
(V)本件機械 による韓 国での知 的財産権 の侵害 については, Fe社 は一切責 任 を持たない, と規定す ることによって,未知の知的財産権 の侵害可能性
についての責任 のおそれを遮断 した。
佃 紛争解 決のための仲裁条項 に,最終 的 に記載 された仲裁規則12)は,実 際 に存在 しない ものである。
9)国際商業会議所が定めた13の貿易条件基準の1つで,「運賃保険料込み」 とよば れる。船舶による輸送を念頭においた条件である。売主は目的港までの船の手配と, 保険の手配を行った上で,船積港における船積 までの業務を行 う。
10) 1日24時間運転するとしたら,80余日ということになる。
ll)Fe社は"Simpleisbest"をモ ットーとしてお り,機械は壊れに くく直しやすい。
このことも保証条件交渉を簡単にしている理由であろう。
12) 「国際商事仲裁制度の商事仲裁規則」 とある。
(vii)本契約の準拠法 は 「国際商事仲裁制度 (国際貿易事例)」 とあるが, こ れは法的には意味をなさない。準拠法 とはある国の法体系 を指す ものであ
り,本契約であれば 「日本法」な どと書 くべ きであった。
b.代理店契約書
この契約書の最大の特徴 は,契約期 間が10年 と長いことであろう。契約書 に は,実績が著 しく低 い場合 は,当事者が協議 して契約期 間及び契約内容 を見直 す ことがで きる旨の定めがあるが, どのような場合 にこの条項が発動 されるか がはっき りしないので,問題 にな りうる。 もちろん実績が全 くない, もしくは 極端 に少 ない場合は,両者協議することが可能である限 り,実際的な解決は見
出せ ようが,契約条項 としては もう少 し客観的な構成が望 まれる。
その他準拠法の規定が存在 しないの も,法的には問題 になるところである。
仲裁条項 について も売買契約 と同 じ問題 を含んでいる。
( 3 )
韓国 との取引での検討事項韓国B社 との2006年の取引は,同年8月に船積がなされ,据付,試運転 も含 めて成功裏 に終 った。その取引及び,その後の韓国の顧客 との取引過程で,い
くつかの課題が浮かび上が って きた。
a.現地部品の組み込み
2006年の取引では次のようなことはなかったが,韓国政府 は最近では,外国 で しか製造で きない ものの輸入 は許すが,国内生産が可能 な物13)のあ る もの は,その輸入を許可 しない とい う方針 をとっているとの ことである。そのため 自社工場 内で完成 させた機械 を輸出す ることが出来ない場合が発生 しうること になって しまった。
Fe社 は売主, メー カー として,売買契約上 で機械全体の性 能保証 をす る必 要がある。 ところがその一部が他社の製品である場合 には,不都合が起 こった ときにその原因が, 自社の製造 ・組み立て範囲内の問題 なのか,組み込 まれた 他社の部品に起因す るものか,両者の複合的要因によるのか仕訳 をする必要が
13)たとえば大根洗浄機に使われているセンサーがその例である。
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出て くる。前述14)の ようにFe社 が 自分 で外 国 に下 請 け させ てい る商 品 に不具 合 があ った場 合 は, 自社 の責任 として対応 す るの は当然 だが,輸 出先 国の法令 に基づ く要請で一部 に他社 の部 品 を組 み込 む場合 の,保証条件 の設定 は慎重 に す ることを要 す る。
2006年 のB社 との契約条件 は, この ような ことを予想 していなか ったので, 第三者 の製 造 した部 品の不具合 に起 因す る事 故 が起 こった場 合 で も,Fe社 を 免責す る とい う趣 旨の規定 はない15)0
b.
買主の購 入資金繰 りと為替変動日本で も農家が農業機械 を導 入す るに当た って は,政府 の補助 金受 入が購 入 の前提 とされ る ことがあ るが,韓 国 において も大規模 な もの は,政府か らの補 助 金 を原資 に して購 入す る。 そのため に買主 は翌年度の予算 を取 るべ く,前年 に申請 をす る。 ところが 申請 は ウォンで行 われ るので,実際 の輸入決済 の とき に ウォン安 にな る と, 円ベ ースでの決済資金が足 りな くなる。
Fe社 の見積 書 には円建 で価格 の有効期 限 を記載 してお り,相手方 とはそれ に基づ いて契約 を してい るので,理屈 の上 では価格 は合 意済み事項 の筈 だが, ひ とたび ウォン安 になる と,契約 の こ とは一 向お構 いな く,価格 が高いので契 約 を履行 で きない と言 って くる。実際 問題 と して大変 な ことは理解 す るが,輿 約 した以上 それ を守 ることは当然 であ る, との前提 を全 く脇 に押 しや って しま
う態度 には,商人 と して うなず けない ものがあ る。
C.韓 国人 と 日本 人の民族性 の違 い
bにあ げた こ との他 に も,韓 国の買主 は要求す ることはす るが, 自分 の方 で や らなければな らない ことにつ いては 「大 丈夫」 と言 い なが ら,必 ず しもスケ ジュール通 りにや らない,とい った ことも度 々あ って,戸惑 った ことがあ った。
14) 2(2Ja参照。
15)通常の機械の輸州契約ではこのような事態に備えて,他社の部品や機械などを組 み込んだ り,他の機械 と連結 して作業するときは,売主の承諾 を得るべ きこと,更 に保証対象 と思われる事故が起 こっても,その原因が明 らかに自社の機械部分にな いときは,売主は責任 を持たないこと,そのことの証明は買主がすること等の,細 かい規定が盛 り込まれることが少な くない。
日本の常識で相手方の用意が出来ていると思 って事 を進めると,思 わぬ落 とし 穴 にはまるとい うことを認識 させ られた。
d.歴史の残洋
なお商談で韓国の地方 に行 くと,反 日感情が強 く残 っていることがあった。
現実の取引の障害になることはなかったが,国際取引の思 って もみない側面 を 体験 した。
( 4 )
国際取引 と言葉B社の代表者は, 日本に住んでいた こともあって, 日本語が分か るので,契 約交渉 も契約書作成 も日本語で行 った。
4.
契約管理 と知財戦略(1) Fe社は国内の取引でも書面の作成 ・整備 を重視 して, 自社の権利の明確 化 と保護に配慮 している。具体的には次のよ うなことがあげられる。
(i) 買い手か らの注文が書面でな くて も,注文請書 を発行する。
(ii) 据付等の契約の ときは,工事契約書 を作成する。
(iii) 機械 には詳細 な取扱説明書 を添付 して,運転条件,運転方法,メーカー の責任の範囲を明確 にす る。
契約等の書面の整備 を要求す るため,顧客か らはスムーズに受け入れ られな い こともな くはない。2009年 に取引を した鹿児島県のある地域のように,書面 を作 る慣行のない地縁社会では,苦情 を言 われた。但 し最終的には理解 して も らって,契約書面を作成 した。
( 2 )
知的財産権戦略Fe社 は技術力 に重点 をおいているので,知的財産権管理 には細心の注意 を 払 っている。例 えば韓国のB社 との取引の対象であった大根洗浄機械 について ち, 日本国内では1990年代の終 わ りごろか ら,技術 を確立 し次第,特許 を順次 申請,登録 して きた。
輸出す るに当って韓国で も,基幹技術 については特許 申請 をしておいた方が 良いと考 え,国際弁理士 を通 じて韓国での登録手続 をしようとした ところ, 日
圳
/ト樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済 331 本で特許が既 に与 えられている技術 は,設定の登録の後6ケ月以内に,韓国で 特許申請 しない と,同国内で公知の事実 とされ,特許が与 えられない ことが判 明 したので,最新 の技術 (水膜現象を利用 して,大根の表面 に傷 をつけずに, 洗浄す る技術)だけの申請を した。幸い この技術が機械の中核 をなす ものなの で,大事な技術の防御の体制 はで きた と言 える。
現在芋の皮むき機 を開発,販売 しようとしている。北海道ではジャガイモの 小玉は廃棄 されるか,せいぜいデ ンプ ン製造 に しか使われないが, これを食用 に使 えるもの として,商品価値 を高めることを 目指す ものである。特許を申請 中である。
5.
経営哲学情幸馴文集 を通 じて触れたFe社 の経営哲学の一端 を記す と次の ような もので ある。
(1) 技術への意欲 と信頼
"Simpleisbest" をモ ッ トー に,使 いやすい農機具の開発 を 目指す。すな わち信頼性 を追求するが,それに当たってほ複雑,高価で壊れに くいが,いっ たん壊 れた ら簡単 に直せない機械 よ りも,簡単 に直せ る機械の製作 を 目指す, とい う方針 を取 っている。技術 開発 に多額の資金を投入す るに当たって,経営 の基幹 に 「信頼で きる技術の開発」 を据 えていることが よ く分かる。
(2)人間関係 を重ん じる
a.まず商売に当たっては,何 と言 って も人間関係,信頼関係が大切である と考 えている。 しか しその ような関係 と,権利 ・義務の明確化,け じめ と は もちろん違 う。 4(1)に触れた鹿児 島の取引の際には,地域の慣行で書類 の作成す ら煙 たが られたが, これは特殊な社会関係下のことであって,伝 頼関係 と書類作成 は別の ことであると考えている。
b.
床 の下請工場 との関係のような ものを もっていることは, 目に見えな い会社 の財産だ と考えている。( 3 )
グローバル思考 一 旭川 をベースに して ‑a.
旭川に本社 を置 くことFe社 は本社 を札幌や本州 に移転す ることを考 えていない。北海道の地方で 経営す ることに意義 を感 じている。Fe社 の製品は,北海道の中で も農業が盛 んな地域 にあって,その環境 において開発 された機械だか らである。 また旭川 で ビジネスを していて も,国内取引では特 に不便 を感 じることはない。
b.国際取引に当たっての障害
国際取引に当たってほ障害が無いわけではない。例 えば旭川か ら韓国に機械 を輸出す るときに,梱包材料の木を燥蒸する必要があるが, これに1週 間位か か る (苫小牧で作業 を行 う)。 中央であれば燥蒸済み梱包材の入手 は簡単であ ろうし,無 くて も近 くで処理可能だ と推測 される。 これは地方で輸 出をすると きの障害 になる。
C.国際取引の心構 え
国際取引では平易 な言葉で言 えば「なめ られてはな らない」,言い換 えれば「対 等 な関係」 を保つ ことが大切だ と考えている。相手の国籍 によって対応の原則 を変 えない。
6.Fe社 に学ぶ 一 地域にあって,グローバルに活動する会社 ‑
Fe社 の経営哲学,国際経営 の分析か ら,堅実 な経営発展 の要諦,そ して北 海道の企業が学ぶべ きこと,考 えるべ きこととして,次のようなことが浮かび 上がって くる。
a.技術 開発 とその維持
独 自の技術 を開発 し,技術 に対する権利保全策 を構築 し,それを維持発展 さ せ ることが重要である。権利保全 については外国に進出する場合 について も言 える。進 出 しようとしている海外の国で,技術の法的地位 を固めてお く方法 を まず考え,実行することである。
また技術 に対する自信 を持 っていることも大切 なことである。
小樽商科大学地域研究会グローバリズムと地域経済 333 b.問題 を起 こさない製品
高度だが信頼性 に乏 しか った り,維持 しに くい ものを作 るよ り,"Simpleis best" を旗印に,故障 しに くく,万一故障 して も修理 しやすい製品を作 ること によって,長期的に顧客 に信頼 され使い続 けて もらえる製品を供給 している。
問題が発生 しに くく,かつ起 こって も解決 しやす くするとい うことは,未然 に 複雑な問題 を解決す る手法 とも言 える。 また顧客満足 を得 ることは, ビジネス チ ャンスの拡大 につながる。長 く使 えるとい うことは,将来の売上が減少する ことを意味するか もしれないが,原則 を優先 している。
C.外国への前向 きの関心
相手の国の文化 に関心 を持つ こと。 このことは国際取引には欠かせないこと である。相手を知 り,相手の市場 に融 けこまなければ,スムースな商いはで き ない。相手 を知 るためには前向 きの関心 を持たなければな らない。外国の市場 を知 るために, まず現地 を訪ねて現場 を見て,現地の文化や取引慣行 をよ く研 究 し,相手 と時間を共にす る努力が実行 に移 されている。
d.
外国人への対応外国の商売相手 といえども, 自国の顧客 と同 じように対等 に接す ることに意 を用いている。対等 とい うことは,優越観 を持 って接す るので もな く,劣等感 や恐れを持つので もない とい うことである。
e.違いの認識
たとえアジアの人で も,外国人は 日本人 と考え方,感 じ方が異なる。 アジア の人は 日本人 と同 じように行動すると思い込 まないで,違いがあることを出発 点 として冷静 に認識 している。種 々の出来事 を通 じて,違いを経験 しているが, その ときに直面 した問題 を否定的に取 らず,異なる文化の異 なる発露 と見て, 学ぶべ き教訓 として受け止め,積極的に対応策を考えている。
f.行動 に移す
以前は外国への輸 出は他 人に任せていたが,そ こに市場 ひいては利益がある と判 ると, 自ら進出することを決め,行動 に移す。挑戦する経営姿勢 には,大 いに学ぶべ きところがある。
g.社 内にノウハ ウがない ときは,社外の人に教 えを乞 う
取引の世界に も自ら調べ,勉強 して身につけ られること,経験 し,時 には失 敗 して初めて学ぶ こと,そ して他人に聞かず 自分だけで考えていて も,いたず らに時間を失 うだけの ことがあろ う。Fe社 は国際取引 については,虚心坦懐 に外部の知識 を受け入れる方針 を取 っている。通訳 を使 って,語学の壁 を乗 り 越 えるといったことも, この うちに入 るだろう。 この方法は未知の市場 に参入 す るときにも役 に立つ ことと思 われる。
h.地方の企業の強み と弱み を分析 して, 自らの地位 を確立する
地方 にあって国際取引をするには, どのような問題があるかを研 究 し,それ が どの程度の障害になるか を見極めた上で,なお地方 に根 ざして ビジネスをす るか どうかを考えている。
I
KCMエ ンジニア リング株 式会社 1.会社 グループ概要KCMエ ンジニア リング株式会社 (以下 「エ ンジニアリング社」とい う)は, 太平洋炭礁株式会社 を前身 として,石炭の採掘 と販売等 を目的に2001年 に設立 された,釧路 コールマイン株式会社 (以下 「コールマイ ン社」 とい う)の1部 門が,2007年 に分社化 された もので, コールマイ ン社の国際関係取引を取扱 う ことを目的 とする。
太平洋炭碩時代 の最盛期 には,国内で 自社炭 を年 間240万 トンくらい販売 し ていたが,現在のコールマ イン社の取扱量 は,生産規模の縮小 によ り年 間60万 トン程度 になっている。 コールマイン社の産出す る石炭,及びエ ンジニアリン グ社の輸入する石炭 は,主 に電力用の一般炭である。製鉄用の原料炭の取 り扱 いは行 っていない。
2.エンジニア リング社の営業概要
エ ンジニアリング社 は海外一般炭の輸入 と販売 を担当 してお り, これが売上
小樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済 335 の大部分 を占めてい る。主 な取 り扱い炭 は距離的 に優 位 な位置 にあ るロシア炭 である。 ロシア炭の輸入取引は貿易商社経 由で行 われてお り,エ ンジニア リン グ社が直接海外取引 を している ものではない。
エ ンジニア リング社 の もう1本の営業の柱 は,採炭事業や,同社 が最 も得意 とす る坑 内掘 り採掘 に関わるコンサルテ ィング事業であ る。他 の 日本企業が海 外炭鉱 に於 ける技術上の問題の検討や,炭鉱調査 をエ ンジニア リング社 に依頼 して くるのを受 けて,現地調査 を行 ない,依頼主 に報告書 を提 出す る。 日本向 に石炭 を売 っているオース トラリア, イ ン ドネシア,中国,ベ トナム等 で調査 を行 った実績がある。 これ らの取引 を契約形態 とい う観点か ら見 る と,エ ンジ ニア リング社 としては 日本の企業 との契約 を して,海外 で役務提供す るとい う
ものであ る。
コンサ ルテ ィングの過程 で,相手方が 日本の機器の購入 を希望す ることがあ る。可能 な場合 はエ ンジニ アリング社 が機器輸 出を行 う。 この輸 出取引 は 自ら が当事者 となって行 う。但 しエ ンジニア リング社 は現場 での対応能力 に優 れて お り,そ こが本来の営業資源である。
コールマ イ ン社 の実施す る「産炭国石炭産業高度化事業 (炭鉱技術移転事業)」
ち,エ ンジニア l)ング社 の国際取引 に密接 につなが る事業の一つである。1999 年8月の石炭鉱業審議会の答 申によ り, 日本の海外炭安定供給確保 のため,ベ
トナム, 中国, イ ン ドネシア といった産炭 国を対象 に,平成14年度か ら平成18 年度 まで,経済産業省,独立行政法人新 エ ネルギー ・産業技術総合 開発機構 (過 称
「 NEDO」 )
によって 「炭鉱技術 海外移転事業」が実施 された。 この事業 を さらに発展 的に継続す る もの として,平成19年度か ら平成21年度 までの3カ年 にわた り,新 たに専 門に特化 した 「産炭国石炭産業高度化事業」が実施 された。この事業 は,アジア ・太平洋地域 にお ける産炭国の炭鉱技術者 に, 日本の炭鉱 現場等 を効果的 に活用 して,我が国の炭鉱が永年 にわた り蓄積 して きた技術 ・ ノウハ ウを人か ら人へ伝 えることで,世界的に優 れた 日本の坑 内掘技術 を海外 産炭国に移転す ることを 目的 とした研 修事業であ り,地方 自治体等 の支援 と地 域住民の協力 によ り実施 されている。 コールマ イ ン社 は 自社 の有す る炭鉱技術
を活用 して,釧路炭鉱 における国内受入研修及び海外での派遣研修 を実施 し, 産炭国へ の支援,協力 を実施 している。 この事業 を通 じて得た,千名 を越 える 中国,ベ トナムの炭鉱技術者 との交流の成果 を,相手の要望 に沿 った,技術ア
ドバ イスを含んだコンサルテ ィングや機器販売等 につなげている。
3.国際取引
(1) 中国A炭鉱会社への機械輸出契約
エ ンジニアリング社の行 った取引の一つにA炭鉱会社 との機械輸 出契約があ る。 この契約の交渉経過は以下の とお りである。
a.A炭鉱会社 との商談は,エ ンジニアリング社の コンサルテ ィングの結 果 として始 ま り,2005年か ら2006年 にかけて交渉が行 われた。A炭鉱会 社 の経営する山東省の炭鉱は,中国唯一の海底炭鉱である。
b.契約の直接 の 目的は,坑内で使用する機械の村中輸 出だったが,相手 方 はエ ンジニアリング社が独 自の工夫 をした海底下炭鉱での管理 ノウハ ウや経験 にも興味を示 したので,エ ンジニアリング社 はこの過程で,港 底下の坑内掘 り炭鉱のノウハ ウを伝達 した (相手方の要請で現地でセ ミ ナー もお こなった)。 ノウハ ウは水の分析手法,浸水 に関す る知見な ど を含む貴重な ものである。
C.機械の販売交渉は結局不成立 に終 わった。その理由は相手方の都合で 頻繁 に条件が変 ったことに加 えて,中国側 に商社が介入 し,中国側内部 で諸条件が整 わな くなったためだ,と考え られている。結果か ら見ると, ノウハ ウの取得が 目的だったのか と思われな くもない。
(2) 他の中国企業への輸出
2009年の時点において,中国では鉱 山用機器の輸入を許可事項 に している上 に,輸入 に当たっては,個別の契約の場合 は現地 における検査が条件 となって いる他,継続的に納入する場合 には, 日本の工場 その ものが認定を受ける必要 があ り,甚だ面倒であることな どか ら,実際上 日本か らの輸 出は困難である。
そ こでエ ンジニアリング社ではコンサルテ ィングのみを行 っている。以前は中
小樽商科大学地域研究会グローバ リズムと地域経済 337 国 には需要家が直接 に輸入者 となれない, とい う障害 もあったが この点 は改善 された。しか し仮 に需要家,最終使用者が対外貿易権16)を持 っていた として も, この ような面倒が待 ち受 けてい るとい うのでは,結局障害は高い とい うことに なろ う。
(3) 中国以外の国際取引
ベ トナムに機材輸 出取引があ る。 これについては,長年 にわたって技術指導 を行 って きた ことを通 じて,現地在住 の共 同事業者,炭鉱関係者お よび技術者 との間で築かれた信 頼関係 を基本 に している。
多 くの案件 は共同事業者が,ベ トナムにお ける国際入札 に応札す る形 を取 る。
しか し,エ ン ドユーザー となる各炭鉱 には既知の,信頼 して話せ る技術者が多 くいるので,取引 に関わる打 ち合 わせ は非常 にスムーズに行 える。
(4) 国際取引の実績
エ ンジニアリング社 の2007度の国際取引額 は輸 出が約3千万 円,石炭輸入が 約17億 円,2008年度 はそれぞれ7千万 円 と40億 円であった。輸 出額 の内で中国 の炭鉱会社 向けの ものは,2007年度 には少 しあったが,2008年度は(2)記載の手 続 の繁雑化 に伴 って皆無である。
( 5 )
国際取引に関 する法的情幸馴文集 窓口村 中輸 出に関す る中国の法令 についての情報が必要 な場合 は,取引の相手方 か ら取得す ることは言 うまで もないが,実際 に中国の役所の責任者 に面談 を求 め ることもした。そのため正確 な情報 を入手す ることが 出来 た。他 国で も同様 にす るよう心懸 けている。
16)中国では2004年7月以前は,輸入の資格を持った者 しか輸入取引が州来なかった ため,実需家は資格 を持っているのでない限 り,直接の買主になれなかった。制度 改定後は理論的には誰でも手続さえふめば,輸入権を取得できることになったが, 現実にはす ぐ貿易できるというわけでもないらしく,結局は貿易代理権 (外貿代理 権)を有する企業に輸1人を任せることが,少な くないようである。
4.
知財戦略エ ンジニアリング社 として知的財産権 を登記 ・登録 しているものは,内外国 共 にない。 ノウハ ウは数え切れないほ ど持 っているが, これ らは法的な保護 を 受 け られるような形では存在 していない。エ ンジニアリング社では,制度 に頼っ て ノウハ ウを保全す るとい うアプローチをとらず,む しろ 「教 えなければ, ま ねする事 も出来ない」 とい う積極的な方法 によって守 っている。
5.国際契約実務 (1) 契約書
取引の契約書はエ ンジニアリング社 内で作成 している。英語で作成 された も のを相手方か ら受け取 ることも,時にはある。
( 2 )
ベ トナムの企業 との交渉取引を順調 に行 うためには,人間の繋が りを大切 にす ること,事務手続 をコ ツコツ積み重ねてい くことが大事だ と感 じている。
6.
エンジニア リング社 に学ぶ一 地域 にあって, グローバル に活動する会社 ‑
エ ンジニアリング社の経営方針,国際取引実務の分析か ら,北海道の企業が 学ぶべ きこと,参考 にすべ きこととして,次のようなことがあげ られる。
(1) 経営基盤
北海道内の地方都市 に本社 を構 えている会社の中で,そこに本社 を置かな く て も他所で営業がで きる会社の場合 には,何故地方都市 に本拠 を構 えるか とい
うことが,一つの経営上の決定 として意味を持ち うる。 しか しコールマ イン社 とそのグループ会社 の場合 は,現場,すなわち商品が産出される場所で会社の 営業 を行 うことが 自然であるので,地方の会社であることに格別の経営戦略上 の意義はない と思われる。 また他 にグループ会社 間の人員のや り取 りといった ことも,釧路 に本拠地 を置 く理 由として考え られる。
小樽商科大学地域研究会グローバリズムと地域経済 339
( 2 )
技術 を守 るメーカー以外の企業で知財戦略 とい うと商標権,意匠権 な どに関する事項が 思い浮かぶが,エ ンジニア リング社 にはその種の知財物件は数多 くはない。次 に特許,実用新案の類であるが, これ もエ ンジニアリング社 は自らはメーカー ではないので,特 に存在 しない。
む しろエ ンジニア リング社の最大の知的財産は,石炭 に関する知識 と,特 に 海底下の坑内掘 り炭鉱運営のノウハ ウである。 これ らの知識 は特定の法的保護 を受け られる知的財産権の範晴 に入 りに くい。そのため定式的な思考に陥って しまうと,保護の方法がない とい う結論 を出すおそれがあるが,そ うは考えず 前述の通 り「教 えなければ,まねす る事 も出来ない」とい う考 え方 を取 って守 っ ている。 これはアジアとい う知財権尊重の意識の未だ薄い地域 においては,義
も実効性 のある保全方法であろ う。
さらに開示 した ら程な く模倣 される くらいの技術 は,最初か ら真似 されて も やむを得 ない とい う位の覚悟で開示す るとのことだが, これ も経営戦略 として 意味ある決断である。
(3) グローバルな視点 から
次 にエ ンジニアリング社の戦略の内で,特 にグローバル取引上意味のある点 をと りあげてみる。
a.目的地 に応 じた対応
機械販売に当たっての保証条件の設定においては,現地の状況に即 した条件 を提示 している, とのことである。 日本 と同様の運転,使用環境 を期待 で きな い市場‑ の機械の販売に当っては,異 なる保証の枠組 を設定することは重要な ことである。エ ンジニアリング社 は自身はメーカーではないのだか ら,問題が 発生 した ら, 日本のメーカーにそれをヘ ッジするとい う,一般的に商社 の とる ような対応 も可能であろう。 しか しそ うはせずに自らのイニ シアチブで問題 を 限定するとい う方策 をとっている。 これ も同様の立場 に立つ企業 には参考にな る特筆すべ きことである。
b.人的結びつ きの重視
ベ トナム取引に見 られるように,信用の基盤 を人的結 びつ きに置 くことは, 健全な取引をするのに役 に立つ。このことは他の国 との取引で も同様であろう。
コールマ イン社 グループは研修 (2002年か ら2006年の間にベ トナム と中国か ら 963人の研修生 を受け入れ, また逆 にベ トナム,中国, イン ドネシアに延べ458 人の技術者 を派遣 して研修 を行 った) を通 じて17),相手国の石炭産業 関係者
との間に太いパ イプを築 き上げている。
C.相手国に関す る知識 一 相手国を訪れる一
異なる国 と取引をするときには,相手国の法制度や取引慣行 を熟知 しておか なければな らない。エ ンジニア リング社では相手国の状況の理解 に当たって, 第三者のア ドバ イスや書籍,インターネッ トの情報 に頼 ることな く,相手先企 業 を通 じて, また必要な らば自ら事情聴取 に赴 くことによって直接 的な知識 を 入手 している。中国の当局 を実際に訪問 して法制度調査 を行 ったこともその一 つである。ベ トナムの場合 も公団の幹部 と実際に面談 して,相手国を知 ること に努めている。この ことは国際取引のイロハ とはいえ,最 も大事 なことである。
d.
国際取引条件交渉国際取引では相手の圧力 に負 けて,相手方の条件 を飲 んで しまうとい うこと が少な くないのは周知のことであろう。エ ンジニアリング社 では状況の如何 に 関わ らず,自社の信念を一貫 して主張するように している,との ことであった。
このことも国際取引 を企図するものが,見習 うべ き姿勢である。
17)コールマイン社ホームページ参照。 http://www.k‑coal.co.jp/training.html.