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裏書禁止手形における権利 と証券 との結合関係

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(1)

裏書禁止手形における権利 と証券 との結合関係

田 遠 宏 康

目 次 1. は じめに

2. 権利の発生 と証券 3. 権利の譲渡 と証券 4. 権利の行使 と証券 5. おわ りに

1 .はじめに

財産上の権利 ・義務 に関す る記載がなされた紙片 は,一般に証券 と呼ばれ る が,英米 において は,証券の有す る機能 に着 目して,流通証券 ( Negot i abl e I ns t r ume nt ) とい う概念が形成 されて きたのに対 し, ドイツにおいては,権 利 と証券 との結合関係 に着 冒 して,有価証券 ( Wer t papi er) とい う概念が形 成 されて,わが国に取 り入れ られた。1 )

ドイツにおいて有価証券概念の理論的基礎を築いたブル ンナ〜は,有価証券 を権利 の 「 利用」 ( Verwert ung) に証券の所持 を要す る もの と解 していた

1) 「 有価証券」 という言葉がわが国の法典上の用語 としては じめて用い られたのは, 明治23 年の旧商法 4 条においてであ り,現在では,商法5 01 条 ・518 条 ・51 9 条 ・57 8 条 ・5 95 条,供託法 1 条 ・4 条,信託法 3 条,民事訴訟法 11 2 条 ・4 30 条,破産法57 条 ・19 2 条 ・1 97 条 ・206 条,会社更生法1 05 条,刑法 1 6 2 条 ・1 63 条,刑事訴訟法 9 4 条 ・保険業法 2 条,証券取引法 2 条,有価証券に係 る投資顧問業の規制等に関す る 法律等において広 く用い られている。

〔 2 9 1 〕

(2)

,2)

今 日の ドイツの学説 は, このブル ンナーの見解を基本的に是認 しなが ら も,若干 の修正を加えて, これを権利の 「 主張 」 ( Gel t endm achung) に証 券の所持を要す るもの と解 している

。3)

これに対 し,わが国においては,かつ ては,有価証券を権利の 「 発生,移転,行使の全部または一部」に証券を要す るもの と解す る見解が有力であったが,4 )現在 は, これを権利の 「 移転

」 5)

あ るいは 「 移転および行使」6 )に証券を要す るもの と解す る見解がむ しろ有力 である。 これ らの現在のわが国の有力説 は,少な くとも有価証券を権利の 「 移 転」 に証券を要す る もの と解す る点 において共通す るが,

7

)これを権利の

「 行使」のみに証券を要す るもの と解す る見解 も存す る

。8)

ところで, ドイツにおいては,有価証券の欠点 として,喪失の危険か ら免れ えないことや作成や保管に費用がかかることなどが指摘 されてきたが, このよ うな欠点を取 り除 くべ く制定 された有価証券振替決済制度 によって,連邦や州 の公債 に見 られ るような証券 との結合のない 「 価値権 」( W ert recht ) とい う 概念が形成 される一方で,個々の有価証券における権利 と証券 との結合 も弛緩

2)Brunner , Di e Wer t papi er,i n,EndemannsHandbuch de s De ut schen Handel s‑,See‑undWechsel recht ,BandⅡ ( 1 882 ) S.1 47 .

3) Hueck/ Canari s , Recht der Wert papi ere,1 2 . Auf l . ( 1 986 ) S. 1 ; Baumbach/He f ermehl , Wechsel gese t zundScheckges et z, 1 7 . Auf l .

( 1990 ) WPR Rn.ll;Z61 1 ner , We rt papi errec ht , 1 4 .Auf l . ( 1 987 ) S.1 6 f f .;

Ri chardi , Wert papi e rrecht( 1 9 87 ) S.1 5f.;Gurs ky , We rt papi errecht ( 19 89 )S.2;Meye r‑Cor°i ng,Wert papi errecht ,2. Auf l .( 1 990 ) S.2.

4) 田中耕太郎 『 手形法小切手法概論』( 昭和 10 )95 頁,伊沢孝平 『手形法 ・小切手法』

( 昭 24 )51 頁,西原寛一 『 商行為法』( 増補 3 版,昭和 49 )1 02 頁以下。

5)本 間喜一「有価証券の概念 に就て」 青 山衆 司博士還暦記念『 商法及保険の研 究』( 昭6) 45 頁以下,小 町谷操三 『商行為法論』 ( 昭 1 8 ) 99 頁,石井照久 ・鴻常夫 『手形法 ・ 小切手法 ( 商法Ⅳ)』( 昭 4 7 )1 5 貢,大隅健一郎 『 新版手形法小切手法講義』 ( 平元) 1 8 頁。

6)鈴木竹雄 ・前 田庸 『手形法 ・小切手法 [ 新版]』 ( 平 4) 28 頁,前 田庸 『手形法 ・小 切手法入 門』 ( 昭 5 8 )1 3 頁以下,平 出慶道 『 手形法小切手法 』 ( 平 2) 1 頁以下,

田遠光政 『 最新手形法小切手法 く改定版〉』( 平 4) 23 頁。

7 )上柳克郎 「 有価証券の定義 と特徴 」『会社法 ・手形法論集』( 昭 55 )325 頁以下参照。

8)矢部克 己 「 記名証券 につ いて」勝本正晃博士還暦記念 『現代私法 の諸 問題上』( 昭

‑34 )3 88 貢,小橋一郎 『 新版手形法小切手法講義』( 昭 57 ) 7 頁以下。

(3)

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係 2 9 3

し,その結果, この制度の適用を受 ける有価証券 は,有価証券 としての重要な 機能を部分的ない しは一般的に失 った といわれている

。9

)ッェルナ‑は, この ような現象を 「 化体要素の後退」 ( Zurt i ckdrang L ungdesVerk6rpernugs‑

el ement s) と呼び,有価証券概念 における証券の 「 所持」は, もはや証券を 呈す るための準備 としての意義を有す るもので はな く,単 に他人が証券を利用 す ることを排除す る意義を有す るにす ぎない として,「 権利者が証券を ( 間接 的に) 占有す る場合 には,有価証券概念の要件 は満たされている」 と解 してお り ,1 0 ) また,キ ュンベルは,人的抗弁の切断が認め られ ることを要件 として, 債務者が証券を所持 していない者 に支払 った場合 にも免責 され うる有価証券の 存在を是認 している 。11 ) そ して, このよ うな 「 化体要素の後退」は, ドイツに 限 られた現象ではな く,わが国において も,昭和 5 9 年 に施行 された 「 株券等の 保管及振替 に関す る法律」によって,株式の移転 は,参加者 口座簿または顧客 口座簿の振替 によ りなされることとな り,権利の行使が株主名簿の記載 によ り なされ ることか ら,従来か ら権利の行使 に証券を要す るとい う点について疑問 が呈 されていた株式 1 2 ) は,権利の移転 に証券を要す るとい う点 につ いて もま た疑問を生ぜ しめないものではな くな って きた 。13) 株式 における権利の移転な

9)Vgl .Baumbac h/Hef e rmehl ,a.a.0.( Fn.3)WPR Rn. 90 .

1 0 ) Z61 1 ner , Di e Zurt i ckdrangung des Verk6rpe rungse l ement s bei den Wert papi eren,i n,FSRai ser( 1 974 ) S.27 1 .

ll )Kt i mpel ,Prakt i scheBedi i rf ni s sef t i rdi eFort wi ckl ungdesWerpapi er‑

begr i r f s,WM83 ,Sonderbei l ageNr.6 S.1 4.

1 2 ) この点 については , 「 権利の行使 につ き株券の呈示 と株主名簿の名義の書換 とい う 二段構えの仕組みが とられているだけの ことであって,証券がなければ権利を行使 す ることがで きない点は,他の場合 と別 に異なるものではない」 ( 鈴木 ・前田 ・前 掲 ( 注 6)27 頁。同旨,前 田 ・前掲 ( 注 6)1 5 頁以下,平出 ・前掲 ( 注 6) 3 頁以 下,田連光 ・前掲 ( 注 6) 23 頁) とも解 されているが, このような解釈に疑問を呈 す る見解 は少な くない ( 西原 ・前掲 ( 注 4)1 03 頁以下,田中誠二 『 新版商行為法』

( 昭 33 )1 0 8 頁,石井 ・鴻 ・前掲 ( 注 5)16 頁,大隅 ・前掲 ( 注 5)1 8 貢) 0

1 3 ) 株券等の保管及び振替に関す る法律 27 条 2 項 は,商法 205 条 1項が 「 株式 ヲ譲渡 ス

ニ‑株券 ヲ交付 スル コ トヲ要 ス」 と規定 していることか ら , 「 参加者 口座簿及び顧

客 口座簿の振替の記載は,その記載に係 る株式の数に応 じた株式を譲渡 し,又は質

権の目的とす る場合において株券の交付があったのと同一の効力を有す る」 と規定

し,参加者 口座簿等の振替の記載を株券の交付に擬制 しているが,法律によるこの

(4)

い し行使 と証券 との結合 に関す る疑問は,さらに有価証券を権利の 「 移転」あ るいは 「 移転および行使」に証券を要するものと解す る現在のわが国の有力説 に対す る疑問‑ とっなが って くるが, このような疑問は,株式のみな らず,育 価証券の限界概念をなす とされる記名証券 1 4) の中にもすでに内合 されていた

ように思われる。

本稿 は,わが国における有価証券概念を再検討す る試み 1 5 ) の一つ として, ドイツにおいて Rekt apapi e r e ( 記名証券) という言葉の由来 となった裏書禁 止手形 ( Re kt awe c hs e l )1 6 ) を取 り上げ,権利の発生に証券の発行を要す るか, 権利の譲渡に証券の交付を要す るか,権利の行使に証券の呈示 または受戻を要 す るか といった,いうな らば伝統的 ともいえ る問題を検討 しようとす るもので ある。わが国における有価証券概念の存在意義については,従来か ら疑念が も たれてきたように思われ るが, この疑念は、上述の 「 化体要素の後退」 とい う 現象に直面 して,今 日膨れ上が った感がある。記名証券ない し裏書禁止手形 に おける権利 と証券 との結合関係,すなわちその有価証券性については,過去に

ような擬制 は,実質的に株式が権利の移転に証券を要す るものではな くなっている ことを示 しているともいえよう。

1 4 ) 河本一郎 「 記名証券の有価証券性」神戸経済大学創立 5 0 周年記念論文集法学編 Ⅲ4 9

頁以下参照。

15 ) たとえば証券取引法 においては, 有価証券 は, 限定的に列挙 されていることか ら ( 証 取 2 条 1 項。なお,平成 4 年の証券取引法改正の審議の過程においては,包括的な 有価証券概念の導入が検討 されている。神 田秀樹 「 有価証券概念の拡大」商事 1 2 9

4 号18 頁以下,同 「 有価証券の概念」法教1 52 号82 頁以下参照) ,有価証券概念を一 般的に論ず ることの不毛性を感ず る向きもあろうが,たとえば 「 裏書禁止手形 も有 価証券である以上,証券を所持 しない者 は権利者 と認め られず,従 って証券の交付 がない限 り,譲渡の効力は完成 しない」( 鈴木 ・前田 ・前掲 ( 注 6) 2 4 0 頁) という

よ うに (このような立論の当否 と別 として) ,具体的な解釈論の中で有価証券概念 が使用 され ることは少 な くないのであ って,有価証券概念を一般的に論ず る意義 は,決 して講学上の ものにとどまるものではない。

1 6 )Vgl .Hue c k/Canar i s ,a.a.0.( Fn.3)S.2 1 . なお,裏書禁止手形 の経 済的需要 は,さほど大 きい ものではない と思われ るが,( 西島梅治 「 裏書禁止手形」

鈴木竹雄 ・大隅健一郎編 『 手形法 ・小切手法講座 3 』( 昭 4 0 ) 35 頁参照) ,英米 にお

いて も,裏書禁止手形 は存在 し ( イギ リス手形法 8 条 1 項参照) ,国際手形条約の

中にも取 り入れ られている ( 国際手形条約 1 7 条 1 項参照) 。

(5)

裏 書禁止手形 にお け る権利 と証券 との結合 関係 29 5

多 くの優れた研究が存在す るが ,1 7 ) 有価証券概念の存在意義 に対す る疑念がか ってな く膨 らんだ今 日において,有価証券の本質を理解す るための最良の素材 といえ る裏書禁止手形を取 り上 げ,その権利 と証券 との結合関係 について考察 を加えてお くことは,過去の研究 とはまた異 なった意義を有 しうるのではない か とも思われ るのである。

2. 権利の発生 と証券

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係 は,まず権利の発生 に証券の 発行を要す るか否か という形で問題 となる。 これは,設権証券性の問題 にはか な らない。

裏書禁止手形を含めて,手形の設権証券性を否定す る見解 は, ほとんど見当 た らないが,スイスの商法学者 ヴィ‑ラン トは, 「 手形か ら生ず る最初の受取 人の債権 は, 私浅上,その原因関係か ら生ず る債権 その ものである 」1 8 ) と述べ, 最初の受取人 との関係 に限定 してではあるが,手形の設権証券性を否定 してい

た。そ して,裏書禁止手形 は,権利が譲渡 された場合 にも,指名債権譲渡の効 力を有す るにす ぎず ( 手1 1 条 2 項 ・7 7 条 1 項 1 号) ,人的抗弁の切断が認 め ら れない ものであるか ら,その法律関係 は,裏書禁止のなされていない通常の手 形が最初の受取人にとどまっている場合の法律関係 と原則 として同様 に考え る

1 7 ) 記名証券 の有価証券性 に関す る論稿 と して, ドイツにおいて は,著 明な Rai s e r , DasRe kt apapi e r e ,ZHR I Ol ,S. 1 3 f f . があるほか,わが国 において も,竹 田 省 「 記名証券の有価証券的性質」法 と経済 3 巻 6 号 1 頁以下,河本 ・前掲 ( 注 1 4 ) 4 9 頁以下,同 「 債権譲渡の対抗要件 と有価証券 一再 び記名証券 について ‑」神法 6

巻 1・2 号21 6 頁以下,矢部 ・前掲 ( 注 8)387 貢以下 な どが あ る。 また,裏書禁 止手形 に関す る論稿の うち,権利の譲渡ない し行使の方法 に関す る有益な叙述があ るもの と して,西島 ・前掲 ( 注 1 6 )34 貢以下,黒野恭成 「 指名手形の法律的考察」

愛大 7 2 号 1 頁以下,高窪利一 「 指図禁止手形の現状 と問題点」手研 335 号20 頁以下, 小橋一郎 「 指図禁止手形をめ ぐる問題点」金法 1050 号 6 頁以下 などがある。

1 8 ) Wi e l and , De rWe c hs e lunds e i nec i v i l r e c ht l i c he nGr undl age n ( 1901 )

S.6 1 .

(6)

ことがで きよ う

そ うだ とす ると, ヴィ‑ラ ン トは,裏書禁止手形の設権証券 性 につ いて とくに述べて はいないが,その論理の帰結 として は,それ は否定 さ れ るはずで ある。

ところで,設権証券性 は,無因証券性 と密接 な関係 にあるとされ,設権証券 は無因証券であ り,非設権証券 は有因証券であ ると解す るのが一般的な見解 と いえ るが ,1 9 ) これ に対 し,株券 な どの有 因証券 につ いて も,権利 の譲渡方法が 証券 の発行 の前後 で相違す ることか ら,証券の発行 によ ってそれ以前 に存在す る権利 とは同一性 のない新 たな権利が発生す る もの と解 して, その設権証券性 を認 めよ うとす る見解 も存す る 。20 ) また,反対 に手形 の よ うな無 因証券 につい て も,証券 の発行前 に も原 因関係上 の権利が存在す る ことか ら,証券 の発行 に よ ってそれ以前 に存在す る権利が同一性 を保 ちっっ変容す るにす ぎない もの と 解 して,その設権証券性 を否定す ることも不可能で はあ るまい 。21 ) このよ うに, 設権証券性 の問題 は,証券 の発行 によってそれ以前 に存在す る権利が同一性 を 保 ちっっ変容す るにす ぎない もの と解す るのが 自然か,証券の発行 によ ってそ れ以前 に存在す る権利 とは同一性 のない新 たな権利が発生す るもの と解す るの

19 ) ドイツにおいて,たとえば,カナ リスは , 「 ( 無因証券 と有因証券の区別 と)設権証 券 と非設権証券の区別 との関係は密接である。すなわち,設権証券はすべて ( i n al l erRege l )無因的であ り,非設権証券 はすべて有因である」 と述べてお り ( Hue ck/Canari s,a.a.0.( Fn.3)S.28 ) ,わが国において も,たとえば, 前田 ・前掲 ( 注 6)41 頁は , 「 無因証券は必然的に設権証券 となるのである 」 。 「こ れに対 して,有因証券は,すでに発生 している権利を表章するにすぎないから非設 権証券である」と述べている。

20 ) 小橋一郎 「 手形の無因性」『 商法論集 Ⅱ商行為 ・手形

(1)

』( 昭 58 )248 頁以下。また, 田中誠 ・前掲 ( 注 1 2 )1 1 6 頁は,有因証券である貨物引換証,倉庫証券および船荷 証券について文言証券性を有することを理由に設権証券性を認めており,服部栄三

『 手形 ・小切手法 ( 改訂版) 』 ( 昭 4 6 )2 61 頁以下は,貨物引換証については,設権 証券性を認めるのに対 して,株券については,これを否定 している。

2 1 )上柳克郎 「 手形債権の無因性‑ヴィーラントの手形学説に関する一考察」『 会社法

・手形法論集 』( 昭 55 )372 頁によると , 「ヴィ‑ラン トは,原因関係の当事者にお

ける手形の授受により原因関係上の債権が変容せ られると解するのであるか ら,

ヴィーラントの立場においては時効期間の変更はこの変容の一つとして説明するこ

とができる」 。

(7)

裏書 禁止手形 にお け る権利 と証 券 との結合 関係 297

が自然か とい う理論構成の自然性の問題にす ぎない。そ して,裏書禁止のなさ れていない通常の手形については,証券が発行 され,少な くとも受取人によっ て裏書譲渡 された後の権利 は,人的抗弁の切断が認め られ ることか らい って

も,その態様において証券発行前の原因関係上の権利 と明 らかに相違 し,両者 の同一性を認めることは,不可能ではないに して も,不 自然であるといえる。

したが って,通常の手形については,少な くとも全面的に設権証券性を否定す ることは妥当でないと考え られるが,人的抗弁の切断が認め られない裏書禁止 手形についてはどうであろうか。

裏書禁止手形 についての証券発行前の原因関係上の権利 とその発行後の権利 の主な相違点 としては,次の点を挙げ うる。第 1に,証券発行前の原因関係上 の債務 は,原則 として持参債務である ( 民484 条,商 516 条 1 項)。 これに対 し, 裏書禁止手形について も,通常の手形 と同様に手形法 1 条および 75 条の適用を 否定す ることはできないと考え られることか ら,手形 に支払地 として債務者の 営業所 または住所あるいは債務者 の取引銀行の所在地が記載 されているか ぎ り,証券発行後の債務 は取立債務であると解 さざるをえない。 もっとも,商法 516 条 2 項が取立債務性を有す る証券 として指図債権および無記名債権のみを 挙げてお り,記名証券を挙げていないことか ら,裏書禁止手形の取立債務性を 否定す る見解 も存す るが ,2 2) そのよ うに商法 516 条 2 項を もって取立債務性を 有する証券を限定的に列挙 した もの と解す る必要 はないであろ う 。23 ) 第 2 に, 証券発行前の原因関係上の権利 は,原則 として 1 0 年で消滅時効にかか り ( 民 167

2 2 ) 松本泰治 『 手形法』( 大 7)42 頁,田中耕 ・前掲 ( 注 4)1 1 0 頁,大森忠夫 『 新版手 形法 ・小切手法講義』( 昭 49 )1 26 頁。

2 3 ) 同旨,竹 田省 『 手形法 ・小切手法』 ( 昭 30 ) 4 貢,西島 ・前掲 ( 注 1 6 )55 頁,石井

・鴻 ・前掲 ( 注 5)21 7 頁,大隅健一郎 ・河本一郎 『 注釈手形法小切手法 』 ( 昭 5 2 ) 1 47 頁,黒野 ・前掲 ( 注 1 7 )1 0 頁,小橋 ・前掲 ( 注 8) 1 2 頁,鈴 木 ・前田 ・前掲

( 注 6)2 40 貢 ,2 42 頁。なお,裏書禁止手形 の取立債務性 につ いて付言す ると, 手形 に支払場所の記載がある場合 には,支払呈示期間内は,当該支払場所 において 債務の履行がなされ ることとな り,支払呈示期間経過後 は,判例 ( 最判昭 4 2・1 1・

8 民集 21 巻 9 号 230 0 頁) によ ると,支払場所 の記載が効力を失 うため,債務者の

営業所 または住所 において債務の履行がなされ ることとなる。

(8)

条 1 項。なお,民 1 68 条以下,商522 条参照),時効 の完成後 は何 らの権利 も発 生 しない。 これに対 し,裏書禁止手形 につ いて も,手形法 7 0 条 1 項 ・7 7 条 1 項 8 号の適用があると考え られ ることか ら,証券発行後の権利 は, 3 年で消滅時 効 にかか り,時効 の完成後 は利得償還請求権 ( 手85 条)が発生す る 。24) 第 3に, 証券発行前の原因関係上の権利 につ いては,特別 の訴訟 は認め られないのに対 し,証券発行後の権利 につ いては,手形訴訟 とい う特別の訴訟が認め られ る。

もっとも、人的抗弁 の切断が認め られない裏書禁止手形 について手形訴訟 を認 めることは,被告である債務者 に酷であるとして,裏書禁止手形 について手形 訴訟 を否定す る見解 もあるが ,25) 通常 の手形 におけ る原因関係上 の当事者 間の 法律関係 において手形訴訟が認め られ る以上,裏書禁止手形 につ いて も同様 に 手形訴訟が認め られ るはずである 。26 )

以上 のよ うに,裏書禁止手形 につ いての証券発行前の原因関係上の権利 とそ の発行後の権利 には,履行場所,消滅時効期間,訴訟方法 といった重要 な点で 相違がみ られ,両者 に同一性 を認め ることは,不可能で はないに して も,やは り不 自然ではなかろ うか と思われ る

すなわち,裏書禁止手形 について も,証 券の発行 によ ってそれ以前 に存在す る権利 とは同一性のない新たな権利が発生 す るもの と解す るのが 自然であ り,それゆえ,裏書禁止手形 につ いて も,設権 証券性を認め,権利 の発生 に証券の発行を要す ると解す ることが妥 当であると 考え られ る。 もっとも, この点 は,理論構成の 自然性の問題 にす ぎない ことは 否定で きない。

なお,裏書禁止手形の設権証券性を認め る場合 は,た とえば,裏書禁止手形 が原因関係上の債務 の支払のために振 り出された ときには,裏書禁止手形 の受

24) 黒野 ・前掲 ( 注 17 ) 5 頁参照。

25) 松 田二郎「 手形訴訟制度 につ いて 」 『 株式会社法研究 』( 昭 34)247 貢,鈴木重信 「 民事 訴訟法 の一部 を改正す る法律案要項試案 ( 手形訴訟 に関す る要項試案) につ いて」

ジュ リ 296 号 37 頁。

26) 同 旨,渡辺忠之 ・西村宏一 ・井 口牧郎編著 『裁判実務手形訴訟 』 ( 昭 40) 9 頁以下

[ 牧野 利秋] ,服部栄三 ・星川長七編 『 基本法 コ ンメ ンタール第 3 版手形法 ・小切

手法 』 ( 平成 3)243 頁以下 [ 清水湛] ,斎藤秀夫編著 『 注解民事訴訟法 ( 7 ) 』( 昭 56)

27 2 貢以下 [ 斎藤秀夫] 。

(9)

裏書禁止手形における権利と証券との結合関係 29 9

取入は,裏書禁止手形上の権利 と原因関係上の権利 との 2 つの権利を有す るこ とになるのに対 し,裏書禁止手形の設権証券性を否定す る場合には,支払のた めに手形を振 り出す ことと,支払に代えて手形を振 り出す こととの区別の意味 がな くな り,裏書禁止手形の受取人は,常に 1つの権利 しか有 しないこととな る

その意味において,設権証券性の問題 は,具体的な法律関係に相違を生ぜ しめる面 もあるが, この点は,裏書禁止手形の設権証券性を認める理由ともな りえないであろうし,それを否定する理 由ともな りえないのではなかろうか と 思われる

3. 権利の譲渡 と証券

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係は;次に権利の譲渡 に証券の 交付を要す るか否か とい う形で問題となるが, ここで問題 とする交付 は,譲渡 の対抗要件ではな く,あ くまで もその効力発生要件 としての証券の交付である。

わが国の通説 は, この問題を積極的に解 している 。27 ) その論理の多 くは,記 名証券である裏書禁止手形は有価証券であるという大前提,および有価証券上 の権利の譲渡には証券の交付を要す るという小前提を定立 し,そこか ら演揮的 に結論を導 くというものであるが, このような三段論法には問題がある。上述 の大前提である命題 は, ドイツの通説を受け入れたものであるが, ドイツの通 説 は,上述の小前提である命題のほうは, これを認めていない 。28) むろん,わ が国の通説は,相当の撤密な論理を もって この小前提である命題を定立 してい

27 ) 薬師寺志光 ・本 間喜一 ・法学志林 38 巻 1 号 1 33 頁以下,納富義光 『 手形法小切手法 論 』(昭 1 6 )27 2 貢,矢部 ・前掲 ( 注 8)39 5 頁,西島 ・前掲 ( 注 16 )4 6 貢 ,48 頁以 下,田中誠二 『 手形 ・小切手法詳論下巻』( 昭 4 3 )549 頁,石井 ・鴻 ・前掲 ( 注 5) 217 貢,大隅 ・河本 ・前掲 ( 注 2 3)1 46 亘以下,黒野 ・前掲 ( 注 17 )1 3 頁,前 田 ・ 前掲 ( 注 6) 8 頁 ,15 9 貢,平 出 ・前掲 ( 注 6)365 頁,鈴木 ・前 田 ・前掲 ( 注 6) 26 貢 ,240 貢 ,241 頁,田蓮光 ・前掲 ( 注 6)46 頁以下。

28 ) a. A.Rai ser, a. a. 0. ( Fn.17 ) S. 1 3f f .;Ul mer,Das Rechtde r

Wert papi ere( 1 9 38 ) S.1 6 f f ‥

(10)

るのであるが, ここで有価証券 として考慮 に入れ られているのは,主 としてい わゆる流通証券,すなわち無記名証券および指図証券であ り,非流通証券であ る記名証券に対す る考慮が必ず しも十分になされていないように思われ る。記 名証券 も有価証券であるとい う ドイツの通説を受 け入れなが ら,記名証券の特 性を十分に考慮せずに有価証券論を展開 し, この問題の結論を導 くことは妥当 ではない 。2 9 )

ドイツの通説が上述の小前提である命題 を否定 しているのは,まさに記名証 券の特性を考慮 した結果 にはかな らない。 ドイツ民法 1154 条 1項および792 条 1 項 3 文 は,それぞれ記名証券である抵当証券および指図証書の上の権利の譲 渡 に証券の交付を要す る旨を規定 しているが,たとえば,カナ リスは,「これ らの規定 は,一般化 されない。民法1154 条 において は,他 の記名証券 と異 な り,民法 11 55 条 による善意取得 の可能性が存す るため,民法の制度 に従 って 必然的に交付が本質的な移転要件 とな っているにす ぎない。 また,民法792 条 1 項 3 文 は,特異な特別規定 と思考 され,指図を独立の法制度 として形成 しよ うとす る立法者の努力が明 らかになる」 と述べて,「 記名証券 は,民法398 条な い し 413 条 によるところの原則 として交付を伴わない単な る合意 によって移転 され る」 と解 している 。30 )

そ して,カナ リスは,裏書禁止のなされていない通常の手形上の権利を裏書 によ らずに譲渡す る場合 には,物権法上の引渡主義 ( dassachenrecht l i chen Tradi t i onspri nzi p) という点を理 由として証券の交付を要す ると解す るので

29) 前掲 ( 注 27 ) に掲 げた文献 の中にはさ らに,裏書禁止手形 において も,権利の行使 に証券 の呈示を要す るとい う理 由か ら,権利 の譲渡 に も証券 の交付を要す ると解す る見解 も存 す るが,裏書禁止手形 の呈示証券性 につ いて は争 いが あ るの みな らず ( 高窪 ・前掲 ( 注 1 7 )2 2 頁参照) ,仮 にその呈示証券性 を認 めた と して も, 「それ は証 明手段 と して必要であ るにす ぎず,証 明手段の引渡 は権利が移転 してか らな さ れてよいはず」( 小橋 ・前掲 ( 注 8) 1 36 頁)で あ るか ら,そのよ うな論理 は成 り立 たない。

30 )Hue ck/Canari s,a.a.0.( Fn.3) S. 6f.;zust i mmend

Baumbach/He f e rmehl ,a.a.0.( Fn. 3) WPR Rn. 61b. ツェルナー も,

同趣 旨を述べた上で, 「 反対説のための客観的 に納得 しうる理 由はない」 と述べて

いる ( Z61 1 ner,a.a.0.( Fn.3) S.1 2 ) 0

(11)

裏書禁止手形における権利 と証券 との結合関係 30 1

あるが ,31 ) 「た とえ, この問題 が確定 されよ うとも,有価証券の概念 によ って これ は解決 され うるもので はない 」3 2 ) と して,「・ ‑‑物権法上 の引渡主義 との 関係か らす ると,交付要件 は,純粋 な指図証券の譲渡法的移転 にのみ妥当す る にす ぎず,手形法1 1 条 2 項の裏書禁止手形 ‑‑には妥 当 しない ことが明 らか と なる。なぜな ら,それ は,物 と して は取 り扱 われず, とりわけ善意取得 されえ ないので,物権法上 の引渡主義の適用につ いて十分 な正当化がなされないか ら であ る」 と解 してい る 。3 3 ) また,ヘ ッファーメール も, カナ リス と同様 に,通 常の手形上の権利を裏書 によ らずに譲渡す る場合 には,証券の交付を要す ると 解 しなが ら,裏書禁止手形 は流通証券ではない とい う理 由か ら,その権利 の譲 渡 には証券の交付を要 しない と解 している 。3 4 ) さ らに, ツ ェルナ‑は,裏書禁 止手形上の権利を譲渡す る場合のみな らず,通常の手形上の権利を裏書 によ ら ず に譲渡す る場合 に も,証券の交付を要 しない と解 して,「 差別的取扱 をす る 決定的理 由はない」 と断 じている 。3 5 )

思 うに,裏書禁止 のなされていない通常の手形上 の権利 を裏書 によ らず譲渡 す る場合 には,証券の交付を要す ると解すべ きであ る。なぜな ら,通常の手形 の存在意義 は,その権利の流通性を高めることに存す るところ,権利の流通性 を高め るためには,権利を譲 り受 けよ うとす る者が安心 してその法律関係 に参 入 しうるよ うに,法律 関係を明確な らしめ る必要が ある。 したが って,通常の 手形 に関す る法律関係 においては,譲渡人 による権利の二重譲渡の可能性を可 及的に排除す ることによって,法律関係を明確化す ることが強 く要請 され ると

ころ,通常の手形上の権利を裏書 によ らず に譲渡す る場合 に,証券の交付を要 しない と解すれば,権利の二重譲渡 の可能性が生 じ,法律関係 は不明確な も̲ め とな らざるをえず,手形の流通 は害 され ると考え られ るか らであ る。 したが っ

3 1 )Hueck/Canari s,a.a.0.( Fn. 3) S.81f..

3 2)Hueek/Canari s,a.a.0.( Fn.3) S. 7.

33 )Hue ck/Canari s,a.a.0.( Fn.3) S.83 .

3 4)Baumbach/He f e rmehl ,a.a.0.( Fn.3)Art . llRn.5.

35 )Z61 1 ner,a.a.0.( Fn.3) S.86 .

(12)

て,通常の手形上の権利を裏書によ らずに譲渡す る場合には,証券の交付を要 し, この交付は占有改定 によってはな しえない ものと解すべ きである 。36 )

しか しなが ら,法律関係を明確化す ることは,権利の流通が積極的に予定 さ れた法律関係においては,強 く要請 され ることであるが,そ うでない法律関係

においては,必ず しも強 く要請 されることではないと考える。なぜな ら,法律 関係の明確化 とい うことは,権利を譲 り受けようとす る者が安心その法律関係 に参入 しうるようにするための ものであるところ,権利の流通を予定 していな い法律関係 においては,そのような者を保護す ることよりも,法律関係を基本 的に当事者間の意思の合致 によって律すべ きもの とすることのほうが重要であ ると考え られるか らである.そ して,ヘ ッファーメールが述べ るように,裏書 禁止手形 は流通証券ではな く,その法律関係においては,権利の流通 は積極的 に予定 されていない。わが国の学説の中には,裏書禁止手形を含む記名証券を 流通が積極的に予定 された証券 としてとらえているかにみえる見解 も存する 。37 )

しか し,他の記名証券はともか く,少な くとも裏書禁止手形については,ウル マ‑が述べ るように,「 裏書禁止文言の明示的付加によって流通に奉仕す るので はな く,単 に具体的な法律関係に奉仕す る証券を創造す る旨を明 らかに言明す る意図がある 」 3 8 ) のであるか ら, これを流通が積極的に予定された証券 としてと らえることは妥当でない。裏書禁止手形 は,譲渡可能性 自体を否定 され るもの では決 してないが,その流通性は,単なる指名債権の域を超えるものではな く,

したが って,裏書禁止手形上の権利の譲渡には,一般の指名債権の場合 と同様 に,当事者間の意思の合致のみを要 し,証券の交付は要 しないと解す ることが 妥当であると考える 。39 )

このように,裏書禁止手形上の権利の譲渡には証券の交付を要 しないと解す

36 ) 拙稿 「 裏書 によ らない手形の譲渡」西南院 9 号 43 貢以下参照。

37 ) た とえば,竹 田 ・前掲 ( 注 17 ) 6 頁参照。

38 )Ul mer,a.a.0.( Fn. 28 ) S.1 01 .

39 ) 同 旨,竹 田 ・前掲 ( 注 23 )1 00 頁,小橋 ・前掲 ( 注 8)1 36 頁,高窪利一 『手形 ・

小切手法通論 く全訂版 〉 』 ( 昭 61 )1 64 頁。

(13)

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係 30 3

る以上,その債務者 および債務者以外の第三者 に対す る対抗要件 としての民法 467 条 1 項および 2 項の通知 ・承諾 は, これを要す ると解 さざ るをえない。 な ぜな ら, このよ うに解 さなければ,債務者の二重弁済を防止 しえず, また権利 が二重譲渡 された場合 に,両譲受人の優劣を決定 しえな くな るか らである。そ して, このよ うに解す ることが裏書禁止手形の譲渡の方式 について 「 指名債梶 譲渡二関 スル方式二従 ヒ」 と規定す る手形法 1 1 条 2 項の文言 に も合致 しよ う

これに対 し,近時,裏書禁止手形上の権利の譲渡 に も証券の交付を要す ると解 した うえで,対抗要件 と しての民法 467 条 の通知 ・承諾 を不要 と解す る見解が 有力 とな りつつ ある 。4 0 ) た しかに,裏書禁止手形上 の権利の譲渡 に証券の交付 を要す ると解 した うえで, さ らに対抗要件 と しての民法 467 条 の通知 ・承諾 を 要す ると解す ることはあま り意味がない。なぜな ら,民法 467 条が債権譲渡 の 対抗要件 として通知 ・承諾を要す ると した趣 旨は,債務者の二重弁済の防止 お よび二重譲渡の場合の両譲受人の優劣決定 にあ り,権利の譲渡 に証券の交付を 要す る場合 には,二重弁済,二重譲渡のおそれ はな く,通知 ・承諾を要す る実 益 はないか らで あ る 。4 1 )したが って, この問題 につ いて採 用 され るべ き見解 は,証券の交付を要す ると解 した うえで,対抗要件 と しての民法 467 条の通知

・承諾を不要 と解す るか,証券の交付を不要 と解 した うえで,対抗要件 と して

40 ) 納富 ・前掲 ( 注 27 )272 ,前田 ・前掲 ( 注 6) 8 頁以下 ,1 5 6 頁。なお,前田 ・前 掲 ( 注 6) 9 貢は , 「このような解釈は手形法 1 1 条 2 項の明文の規定に反するとい う批判も予想されるが,解釈上明文の規定を無視することは他にも例がないわけで はない」と述べている。

41 ) 竹内昭夫 『 判例商法

』( 昭 5 1 )81 頁以下参照。もっとも,本文のような理解に反 対 して,裏書禁止手形の権利の譲渡に証券の交付を要すると解 したうえで,さらに 対抗要件としての民法 467 条の通知 ・承諾を要すると解する見解 も有力である ( 黒 野 ・前掲 ( 注 1 7 )1 4 頁以下,平出 ・前掲 ( 注 6)367 貢,田遠光 ・前掲 ( 注 6)46 頁) 。その理由は,債務者の免責に問題が生ずるというにあるが,この場合には, 債務者は,権利者と称する者に対 し,権利者であることの立証を要求することがで きるのであるから,その立証が十分であると思料 したときは支払えばよく,その立 証が不十分であると思料 したときは支払を拒めばよいだけのことである。そして, 債務者が無権利者に善意無過失で支払をなしたときは,民法 478 条による保護が認

められようから,債務者の免責に問題が生ずることはない。

(14)

の民法 46 7 条 の通知 ・承諾を要す ると解す るかのいずれかであ ると考え られ る が, これは,結局,裏書禁止手形の流通証券性を是認す るか否かにかか って こ よ う。私見 は,上述のよ うに,裏書禁止手形を授受す る当事者の意思 は,手形 か ら積極的な流通性を奪 うところであ り,その意思は尊重 され るべ きであると 考えるか ら,後者の見解を採用す るものである

4. 権利の行使 と証券

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係 は,また,権利の行使 に証券 を要す るか否か という形で問題 となるが, この問題 は,さらに呈示証券性の問 題 と受戻証券性の問題 とに分 けることがで きる。

まず,裏書禁止手形の呈示証券性 については,かってのわが国においては, その非流通性を根拠 に消極 に解す る見解がむ しろ有力であ った といえ る 。4 2 ) こ れに対 し,現在のわが国においては,裏書禁止手形の有価証券性が強調 され, 手形金支払のための呈示を要求す る手形法 38 条が文言上,裏書禁止手形につい てその適用を除外 していないといった論拠か ら,裏書禁止手形の呈示証券性を 認 める見解が通説 とな っている 。4 3 )

ところで,手形債務者 による裏書の連続す る手形の所持人 に対す る善意無重 過失の支払 に免責を認めている手形法40 条 3項 も,文言上 は,手形法38 条 と同 様 に裏書禁止手形を除外 していないが,手形法40 条 3項を少な くとも受取人を 除 く裏書禁止手形 の所持人 に対す る支払 に適用す ることはで きない。なぜ な

4 2 ) 松本 ・前掲 ( 注 22 )42 貢,田中耕 ・前掲 ( 注 4)11 0 頁,大森 ・前掲 ( 注 22 )1 26 頁参照。

43 ) 伊沢 ・前掲 ( 注 4)58 頁,竹田 ・前掲 ( 注 23 ) 4 頁,矢部 ・前掲 ( 注 8)393 頁以 下,西島 ・前掲 ( 注 1 6 )5 5 頁,田中誠 ・前掲 ( 注 27 )551 頁,石井 ・鴻 ・前掲 ( 荏 5)21 7 頁,大隅 ・河本 ・前掲 ( 注 23 )1 47 頁,黒野 ・前掲 ( 注 1 7 )30 頁,小橋 ・ 前掲 ( 注 8)1 2 頁,平出 ・前掲 ( 注 6)367 頁,鈴木 ・前田 ・前掲 ( 注 6)31 頁 ,4 4 頁以下 ,46 頁。現在のわが国において,裏書禁止手形の呈示証券性を否定する見 解としては,高窪利一教授の見解 ( 高窪 ・前掲 ( 注 1 7 )22 頁,高窪利一 『 現在手形

・小切手法改訂版』( 平元) 205 貢 ,424 頁)を見出しうる。

(15)

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合 関係 30 5

ら,手形法 40 条 3 項は,手形法 1 6 条 1 項が裏書の連続す る手形の所持人に権利 者 としての形式的資格を認めていることを基礎 として,手形債務者 による裏書 の連続す る手形の所持人に対す る善意無重過失の支払 に免責を認めているので あるが,裏書禁止手形 においては,仮に裏書がなされたとして も,それは資格 授与的効力を有 しないため,受取人を除 く手形の所持人に権利者 としての形式 的資格を認める余地 はない

らである 。44 ) そ して,手形法38 条が手形金支払の ための呈示を要求 しているのは,手形債務者 に手形金請求者が裏書の連続す る 手形の所持人であるか否かを調査する機会を与え,手形法 40 条 3 項の免責的効 力を伴 う迅速な支払を実現することによって手形の流通性を高めることにある というべ きであ り 。4 5) 手形法38 条 は,文言上 裏書禁止手形 についてその適用 を除外 していないが,受取人を除 く裏書禁止手形の所持人の所持人に対する支 払 に適用することがで きない手形法 40 条 3 項の適用を前提 とす る規定であるか ら,その趣 旨は,裏書禁止手形 には少な くとも全面的に妥当す るものではない といわなければな らない。 もっとも,裏書禁止手形について も,手形法39 条 1 項を適用 して,受戻証券性を認めるな らば,証券を受 け戻すためには,必然的

に証券を呈示す ることを要するか ら,証券の呈示を要 しないと解す ることもほ とんど意味がな くなる。

裏書禁止手形の受戻証券性を認めることについては争いがないといわれる 。46 )

た しかに,裏書禁止手形の振出人は,通常,証券 と引き換えに手形金を支払 う 意思を有 しているであろう

証券を受 け戻 さなければ,証券に記載 された自己

4 4 ) 黒野 ・前掲 ( 注 17 )32 頁 は , 「 指名手形の免責力ある支払 について は,証券および 対抗要件の 2つの形式的要件を前提 として手形法 4 0 条 3項が通用 される」 と述べて いるが,同項 は,支払者 に裏書の連続を調査す ることだけを要求 しているにす ぎな いか ら,そのような 「 適用」は,手形法 4 0 条 3 項の適用 とはいえないのではなかろ

うか。

4 5 ) カナ リスは , 「 手形 は,支払のために呈示 されなければな らない。なぜな ら,手形 の所持人のみが手形か ら生ず る権利の主張につ き資格を認め られ,債務者 は,資格 の調査を証券の呈示 によって可能 にされ る必要があるか らである」 と述べている

( Hueck/Canari s,a.a.0.( Fn.3) S.1 29 ) 0

46 ) 大隅 ・河本 ・前掲 ( 注 23 )1 47 頁参照。

(16)

の名義が冒用 される危険が生 じるか らである。 このよ うな振 出人の意思 は,あ る程度尊重 され るべ きものか もしれない。 しか しなが ら,受戻証券性を認める とい うことは,証券を喪失 した場合 には,除権判決を得なければ権利を行使す ることがで きないとい うことであるが,裏書禁止手形を喪失 した場合 に,必ず 除権判決を得なければ権利を行使す ることがで きない と解す ることは,果た し て妥当であろうか。少な くとも受取人以外の裏書禁止手形の所持人 は,権利者

としての形式的資格を認 め られ るものではない ことか ら,証券を喪失 した場合 に除権判決を得て も,権利者 としての形式的資格を回復す ることにはな らず, さ らに民法 46 7 条の通知 ・承諾を得て,対抗要件 を具備 しなければ権利を行使 す ることはで きない

それに もかかわ らず,その者が裏書禁止手形を喪失 した 場合には, 6 カ月 とい う決 して短 くない公示催告期間に要す る除権判決を得な ければ権利を行使す ることがで きない と解す ることは,その者 にとってほとん ど無意味な負担を課す ることにな り,妥 当でない。また, 自己の名義が冒用 さ れ る危険が生 じるのは, この場合に限 った ことではない。そ もそ も,手形に受 戻証券性を認める趣 旨は,証券 に記載 された名義が冒用 され るとい う危険を防 止す るとい うよ りも,支払済の手形が第三者 に善意取得 され,債務者が二重払 いを しなければな らな くなるとい う,より切実な危険を防止す るためである

そ うだ とす ると,善意取得が認 め られず,上記のような切実な危険のない裏書 禁止手形 については,少 な くとも受取人以外の者 との関係で は,手形法 39 条 1 項を適用 して,受戻証券性を認める必要 はな く , 4 7 ) したが って,呈示証券性 も認 める必要 はないと解 され る。

では,裏書禁止手形の受取人 との関係ではどうであろうか。裏書禁止手形が 受取人にとどまっている場合の法律関係 は,裏書禁止のなされていない通常の 手形が受取人にとどまっている場合の法律関係 と原則 として同様に考え ること がで きることは既述 した。 したが って,裏書禁止手形の受取人 には手形法 1 6 条 1 項の権利者 としての形式的資格を認めることがで き,手形法 4 0 条 3 項 も,秦

4 7 ) 高窪 ・前掲 ( 注 4 3 )4 2 4 頁参照。

(17)

裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合関係 307

書禁止手形 の受取人 に対す る支払 に適用 され ると解 され る 。4 8) そ うだ とす る と,裏書禁止手形の受取人が手形上の権利を行使す る場合 には,手形法38 条 1 項 によって証券の呈示が要求 され,また,除権判決を得 ることによって形式的 資格を回復 しうるのであるか ら,手形法39 条 1 項 によって証券を債務者 に引き 渡す ことが要求 され るに も思われ る。しか しなが ら, 裏書禁止手形の受取人 は, 通常の手形の受取人 と異な り,手形の裏書 によって譲渡す ることは不可能であ

るため,受取人か ら手形上の権利を譲 り受 けた者 は,受取人が債務者 に債権譲 渡の通知をす るか,あるいは債務者がすすんで債権譲渡を承認 しなければ,檀 利の取得を債務者 に対抗で きない地位にある。 したが って,債権譲渡の通知が 債務者に到達 していない場合 には,証券を喪失 した裏書禁止手形の受取人が除 権判決を得ずに権利を行使で きると解 して も,債務者の免責 に問題が生ず るこ

とはない。そ うだ とす ると,受取人 との関係で も,裏書禁止手形 について も呈 示証券性および受戻証券性を認める必要 はないとも考え られ る。

なお,裏書禁止手形上の債務 はあ くまで取立債務であ り,証券がなければ, 銀行を通 して権利を行使す ることは事実上で きないであろうし,証拠方法が原 則 として書証のみに限 られ る手形訴訟 によって権利を実現す ることも事実上で きないであろう。 しか しなが ら,たとえば,支払呈示期間経過後 に証券を所持 していないが,民法467 条の対抗要件を具備 している手形譲受人が債務者の営 業所 または住所において手形債務の履行を求める場合には,手形債務者 は,証 券の不所持を理 由としては,履行を拒めず,その不当な拒絶 は,履行遅滞を も た らす と解すべ きであ り, この場合,仮 に手形金請求者が無権利者であ ったと きには,善意無過失でその者 に手形金 を支払 った手形債務者 は,民法47 8 条 に よって保護 され る可能性があると解すべ きである。それによって,証券を所持 している真実の権利者 は,その権利を失 うこととな るが,民法467 条の対抗要 件を具備す ることによって手形債務者を して自己が権利者であることにつ き悪 意た らしめておけば,民法47 8 条の適用 による権利喪失の危険を防止す ること

4 8 )Vgl .St aub‑St r anz , We c hs e l ge s e t s, 1 3 .Au f l ( 1 9 3 4 )Ar t . 1 6 Anm.7. 小

橋 ・前掲 ( 注 8)1 2 頁参照。

(18)

ができよう

以上のことか ら,裏書禁止手形については, ドイツにおいて強調 される証券 を所持す る権利者の安全 4 9 ) は,必ず しも確保 されない こととなるが,わが国 においては,権利譲渡の対抗要件 として民法 4 6 7 条の通知 ・承諾を要す ること か ら,同条の対抗要件を具備 した権利者の安全が確保 されるため,不都合 はな いと考える。 これに対 し, ドイツにおいては,債権譲渡についていわゆる対抗 要件主義が とられてお らず, ドイツ民法 4 0 7 条 によって善意の債務者 による原 債務者‑の弁済,あるいは二重譲渡の第 2 譲受人への弁済が有効 とされている にす ぎない。「ドイツ民法のよ うに主観的な善意 ・悪意によって効力を区別す

ることは相対的で,画一性を欠 くことになる

権利関係の画一的確定性の理想 か らみて,フランスな らびにわが民法の主義が妥当であろう」 といわれるとこ ろ ,5 0 ) ドイツにおいては,債務譲渡について対抗要件主義が とられていない欠 点を補 うために, とくに記名証券 については, ドイツ民法 4 0 7 条の適用を排除 し,証券を所持す る権利者の安全を強調す ることによって,証券の所持に権利 譲渡の対抗要件 としての機能を果た しめてきたのではないか と推察 される。は じめに述べたように,ツェルナ‑が有価証券概念における証券の 「 所持」の意 義を証券の呈示のための準備ではな く,他人による証券の利用の排除に求めて いることなどは,まさにこの ことを示す ものであろう。すなわち, ドイツにお

49) この点 については,すでに河本一郎教授の詳細 な研究が存在す る。同教授 は, ドイ ツにおける学説の発展 を,ブル ンナ‑,ア ドラー,ギールケ,ヤコビ,ヴィ‑ラン

ト, シュベー リン, ヒュック, ライザー, ウルマ‑などの文献 によってたど られた うえで ( 河本 ・前掲 ( 注 1 4)53 頁以下) , 「 記名証券債務者 は証券な しには支払 う必 要 はないだけでな く,証券な しに支払 ったので は,た とい善意であって も免責 され ず,真の権利者が証券 を呈示 して請求 して くる限 り, これに再 び支払わねばな らな い。 これを譲受人の側か らいえば,譲受人 は証券 さえ入手 して しまえば,債務者への 譲渡通知がなされていな くとも,債務者が譲渡人へ弁済す ることによって, 自己の権 利 を失 わ しめ られ るおそれが ない,す なわ ち, いわ ゆ る安全機能 ( Si che rungs‑

f unkt i on) が記名証券 にあって も存在す る」( 河本 ・前掲 ( 注 17 )217 頁) との分析 結果 に達 されて い る 。Vg l .Hueck/Canart s,a.a.0. ( Fn.3) S. 9 f f . und S ,22 , ・Baumbach/Hef ermehl ,a. a. 0. ( Fn. 3) 扉pR Rn. 63;

Z61 l ner,a.a.0.( Fn.3) S.20 .

50 ) 西村信雄編 『 注釈民法糾) 』 ( 昭 40 )37 1 頁 [ 明石三郎] 。

(19)

裏書禁止手形 におけ る権利 と証券 との結合 関係 309

いて裏書禁止手形を含む記名証券について受取人以外の者 との関係で も呈示証 券性および受戻証券性が認め られているのは,証券の所持が権利譲渡の対抗要 件 としての機能を果た している結果 にす ぎず,債権譲渡 について対抗要件主義 を とっているわが国において は, ドイツと同様に解す る必要 はない と考えてい

るが ,51 ) なお今後の検討を要す るところであろ う

5. おわ りに

以上,裏書禁止手形 における権利 と証券 との結合を検討 して きたが,その検 討結果 によれば,まず,裏書禁止手形上の権利の譲渡には証券の交付を要 しな いと解 され るか ら,有価証券を権利の 「 移転」あるいは 「 移転および行使」に 証券を要す るもの と解す る現在のわが国の有力説によっては,裏書禁止手形を 有価証券概念の中に含 めることはで きな くなる。有価証券を権利の 「 移転」あ るいは 「 移転および行使」に証券を要す るもの と解す る見解の狙 いは,有価証 券概念を英米法 における流通証券概念 と同様 に流通機能によって意味づけよう

とする ところにある 。52 ) た しかに, ほとん どの有価証券に とっては,流通機能 が欠 くことのできない最 も重要な機能であることは否定で きないが,流通証券 概念 とは異な り,数 は少ない ものの裏書禁止手形のような非流通証券を含 めて

5 1 )河本一郎教授 は , 「 債権譲渡の方式および効力については,わが民法がいわゆる対 抗要件の制度を採用す るに対 し, ドイツ民法はかかる制度を採用 していないのであ る。 したが って ドイツにおける記名証券論をわが国にとりいれるにあたっては,そ れ相当の修正を加えねばな らないのではなかろ うか。あるいは全然 とりいれること がで きないことになるか もしれない」( 河本 ・前掲 ( 注 1 7 )21 8 頁) と問題を提起 さ れ , 「 右の理論 は,記名証券債権の移転 には証券の引渡を必要 とす るとい う立場 に 立 って こそ通用する理論である。 これに反 し,証券の引渡は権利移転の成立要件で はな く,記名証券上の債権 は単なる意思表示によって移転で きるという立場に立て ばそれは通用 しない。けだ しこの場合には,正 に物権的地位 にある者同志の対立が み られ るか らである。そ して記名証券にあって も,債務者以外の第三者 に対す る関 係では,民法の対抗要件の原則の適用を承認せざるを得ないとすれば, これ らの場 合には,証券取得者 のための安全機能 はもはや存在 しないといわなければな らない だろ う」( 河本 ・前掲 ( 注 1 7 )2 3 5 頁) と結論づけられている。

5 2 ) 前掲 ( 注 5 )および ( 注 6 )に掲 げた文献参照。

(20)

歴史的に形成 されて きた有価証券概念 にそのような意味づ けを与え ることには かな りの無理を伴 うもの といわざるをえない。そ こで, これ らの見解の中には 裏書禁止手形 に代表 され る記名証券を有価証券概念か ら排除 しようとす る見解

もあ る 。53 ) しか し, ツ ェルナ‑が述べ るよ うに,「 有価証券概念 は,単 に法的 材料を体系的に限定す る使命を有 しているにす ぎないか ら,その限 りでは単 に 合 目的性の問題 に関係す る 」 54) ものであるか ら,有価証券概念 は,歴史的に 有価証券 と呼ばれて きた多種多様な証券を広 くその中に含め うるものでなけれ ばな らないと考え られ るところ,記名証券が歴史的に有価証券 として扱われて きた ことは否定で きない 。55 ) 記名証券を排除 して得 られ る証券概念 は, もはや 有価証券概念ではあ りえず,新 しい証券概念の創造 にはかな らないのではなか

ろうか 。56 )

次に,受取人が裏書禁止手形上の権利を行使す る場合 に証券の呈示および受 戻またはそれに代わ る除権判決を要す るか否 については,既述のように問題が ないで はないが,少な くとも受取人以外の者が権利を行使す る場合 には, これ らを要 しない と解 され る。 したが って,有価証券を権利の 「 行使」に証券を要 す るもの と解す る見解 によって も,裏書禁止手形を有価証券概念の中に含める

ことはで きな くなる。 このよ うな解釈 は,有価証券概念の母国である ドイツの 通説的見解 と真 っ向か ら対立す るが, この対立 は,既述のように,債権譲渡に 関す るわが国 と ドイツの立法主義の相違に起因す るもの と思われ る。

ところで,裏書禁止手形 において も,裏書禁止のなされている通常の手形 と

5 3 ) 石井照久「 有価証券理論の反省」 竹 田先生古稀記念 『商法の諸 問題 』( 昭 27 )45 2 頁, 高窪 ・前掲 ( 注 43 )1 8 頁。

5 4 )Z61 1 ner,a.a. 0. ー( Fn.3) S.2 1 . 5 5 ) 河本 ・前掲 ( 注 17 )2 40 頁以下参照。

5 6 ) ドイツにおいては, ライザーおよびウルマ‑が記名証券を有価証券か ら排除 して, 有価証券を権利の処分 ( Ver f t i gung) に証券の所持を要す るもの と解 している。

( Rai ser,a.a 1 .0.( Fn.17 ) S.1 3 f f .; Ul mer,a.a.0.( Fn. 28 ) S.1 6

f f .) 。 しか し, この よ うな有価証券概念 は,狭義の有価証券概念 ( EngerWert ‑

papi e rbegri f f )と呼ばれ, 通説か ら批判を受 けている ( Vg l .Baumbach/He r er一

mehl ,a.a.0.( Fn.3)WPR Rn. 1 0 ) 0

(21)

裏書禁止手形における権利 と証券 との結合関係 311

同様 に,証券発行前後 の権利の態様の相違 は,別個の新 たな権利の発生 と解す るのが 自然であ り,裏書禁止手形上の権利の発生 には証券の発行を要す ると解 され る。「 権利 の発生 のみ につ いて証券 を必要 とし,従 って権利の移転 ない し 行使 につ き証券 を必要 としないよ うな ものがあ って も,それ は有価証券 とは認

め るべ きで はない 」 57 ) といわれ るが,権利の移転 また は行使 に必ず しも証券 を要 しない ものであ って も,証券の発行 によ ってそれ以前 に存在す る権利 とは 同一性のない新 たな権利が発生す るもの と解 され うるものは,少 な くとも単 な る証拠証券 とはいえない ことか ら,権利 と証券 との結合があ るもの として, こ れを有価証券 と認 めなければな らないのではなかろ うか。そ うだ とす ると,従 来 のわが国の有価証券概念 に関す る見解 において は, 有価証券を権利 の「 発生, 移転,行使 の全部 または一部」 に証券 を要す る もの と解す るかつて有力説 に

よってのみ,裏書禁止手形をその中に含 め ることがで きる 。58 ) いわゆる 「 化体 要素の後退」が進行 している今 日において, この見解 は,歴史的に有価証券 と

呼ばれて きた多種多様 な証券をよ り広 くその中に含め ることがで きるもの とし て,再評価 しうる余地が あろ う。 もっとも,既述のよ うに,権利の発生 に証券 を要す るとい うことは,権利の譲渡ない し行使 に証券を要す るとい うことと異 な り,理論構成の 自然性の問題 にす ぎない ことは否定で きず, このよ うな形で 有価証券概念の維持をはか ることがわが国の証券法学 の将来 にとって好 ま しい ことであ るか否かは別問題であ る。証券の有す る機能ではな く,権利 と証券 と の結合 とい う抽象的な事柄 によ ってわが国の証券を体系化す ることの妥 当性を 今後 は問 うていかなければな らない と考えている 。59 )

5 7 )鈴木 ・前田 ・前掲 ( 注 6)25 頁。

5 8 ) もっとも,この見解は , 「 権利の発生だけに証券を要するようなものを有価証券と 認める趣意ではなく,証券が権利の発生 ・行使 ・移転の三者全部に必要なもの,行 使 ・移転の二者に必要なもの,移転のみに必要なものという三種の組合わせを予想 し,ただこれを簡潔に表現 しようとしたにすぎない」( 西原 ・前掲 ( 注 4)1 0 2 頁) ともいわれるが,少なくとも文理上は,権利の発生のみに証券を要するものを有価 証券に含めることができる。

59 ) その際には,民商法上における有価証券概念だけではなく,証券取引法などにおけ

る有価証券概念も,考慮に入れる必要があろう。

(22)

[ 付記]本稿 は,平成 4 年度教育研究学 内特別経費 (「国際取引と法秩序」)

による研究成果の一部である。

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