−28−
画像計測による高分子絶縁材料の球晶と トリーイング劣化の関係
柳原昌輝・亀谷 隼* ・吉村 昇**
RelationbetweenSpherulitesandElectricTree inPolymericlnsulationbylmageMeasuring
MasateruYANAGIwARA,JunKAMEYA*andNoboruYosHIMuRA
(1999年11月30日受理)
Thecrystallinemorphologyofpolypropylene(PP)isspheruliteswhichareformedduring coolingprocessfrommeltedstate・ Itisknownthatspherulitesinfluenceprogressofelectric treeinginPP. Inthispaper,wemeasuredfractaldimensionofelectrictreetoquantifyform ofelectrictree,andcrystallinityofspecimensanddiameterofspherulitestoquantifyspher‑
ulitesdistribution.Thenwediscussedrelationbetweenfractaldimensionandcrystallinityof specimens,anddiameterofspherulites. Specimensclassifiedtwogroups. Atonegroupof specimens,whosecrystallinityislow,fractaldimensionshowsl.45‑1.65.Atanothergroupof specimens,whosecrystallinityishigh,fractaldimensionshowsl.18‑1.61. Fractaldimension ofelectrictreeisnotinHuencedbydiameterofspherulites.
1 序 論 行い,電気トリーを発生させ,電気トリーのフラク タル次元と印加電圧,電界強度との関係について検 討した。 また,球晶の分布状態を定量化するために 試料の結晶化度と球晶の直径を測定し, トリーのフ ラクタル次元との関係について検討した。
結晶性高分子絶縁材料であるポリプロピレンは,
絶縁性能が高く加工性,耐熱性に優れているため,
絶縁材料として様々な高電圧機器に広く利用されて いる。このポリフ。ロピレンは溶融状態から徐冷する と, その過程において球晶と呼ばれる結晶が形成さ れ,成長する。この球晶は試料の絶縁破壊現象であ るトリーイング劣化現象になんらかの影響を与える のではないかと検討されてきた。(1)(2)
また, ポリプロピレンにおいて発生する電気トリ ーの分岐構造はランダムパターンであるが,全体的 にみるとフラクタル的であり,定量的にはフラクタ ル次元によって表すことが可能である。(3)この方法 は複雑な図形,特に自己相似性を有する図形を定量 化する試みで,電気トリーとフラクタル性について は, いくつかの報告がなされている。(4)(5)
本研究では,電力用ケーブル絶縁体をモデル化し たポリプロピレンの試料を作製して絶縁破壊試験を
2 実験方法
2. 1 試料作製
トリーイング劣化を判定する方法としては針電極 を材料中に挿入し,絶縁破壊試験を行うニードル試 験法が一般的である。(6)本実験では直径4伽mの軟 銅線を針電極として用いた。 トリーの発生を容易に するために, リン酸溶液による電解研磨法によって 針先端の曲率半径を1〜2〃m程度に研磨した。
試料として,球晶が発生しやすいアイソタクチッ ク構造のポリプロピレンフイルムを用いた。図2−1 に示すように,厚さ25"mのフイルム(10mm×10 mm)を8枚重ね,その間にリン酸で電解研磨した針 電極を挿入した。更にそれをカバーガラス(24mmx 24mm)ではさんだ。
図2−1に示した試料を5kgの鋼でプレスした
*秋田高専専攻科学生
**秋田大学工学資源学部
画像計測による高分子絶縁材料の球晶とトリーイング劣化の関係
勇二言‑‐ ■■■│←カバーガラス
■■■■ロ■■■■
=菫>勢紙■■■■■■■■■
■■■■■■■■■
− 1←カバーガラス 図2−1 試料の構成
ロ
針電極
図2‑2 110。Cで取り出した試料 状態で恒温槽の中に入れ,常温から220。Cまで温度
を上昇させた。 220。C一定で20分間加熱してポリプ ロピレンを溶融させた後,球晶が発生し始める110。C 付近から1分間に0.5。Cの割合で徐冷を行った。次 に恒温槽内の温度が110。Cから100。Cの間で試料を 取り出し,水で急冷することにより球晶の成長をと めた。 これにより,試料中にさまざまな球晶の分布 状態を作り出した。一例として110。Cで取り出した 試料を図2−2に, 105。Cで取り出した試料を図2
3に, 102。Cで取り出した試料を図2‑4に示す。
110。Cで取り出した試料にはまだ球晶は発生してい ないが105。C, 102。Cで取り出した試料には球晶が発 生している。105℃で取り出した試料においては,球 晶はまだ発生したばかりで小さく ,分布数も少ない が, 102。Cで取り州した試料においては,球晶は大き
く成長し,試料中に数多く分布している。
図2‑3 105。Cで取り出した試料
図2‑4 102。Cで取り出した試料 2. 2 絶縁破壊試験
試料の軟銅線の先端から1000"m離れた試料表 面上に銀ペイントを塗布し,絶縁破壊試験を行うた めの平板電極とした。図2−5に絶縁破壊試験用試料 の形状を示す。高電圧絶縁破壊試験に用いた装置の 回路図を図2−6に示す。
50Hzの交流100Vをネオン変圧器を用いて4 kV〜9kVに昇圧した交流電圧を10分間連続して 印加し,電気トリーを発生させた。
1000
−周骨r銀ぺイント
";
軟銅線 −千24000↓彫4000÷|
図2−5 絶縁破壊試験用試料の形状 2. 3 画像処理システムと二値化画像
システム構成を図2−7に示す。 このシステムは,
偏光顕微鏡に取り付けられたCCDカメラで試料の 画像をパソコンAに取り込み,モニタに写し出され るようになっている。パソコンAに取り込まれた画 像はパソコンBに送られる。パソコンBにおいて画 像処理ソフトにより画像の二値化, ボックスカウン ティング法のう.ログラムの実行,電極間距離の測定 などの処理が行われる。 また, ボックスカウンテイ ング法のプログラムを実行した結果をもとに│、 リー 画像のフラクタル次元の測定も行われる。二値化前 のトリー画像を図2−8に,二値化後のトリー画像を
スライ 畦一三三虫
ダ
.一一O
AC
100Vz
1
J
極 電極 針電 平板
。ケ
CG
変 ■■■■■■ーロ
コーンオ イル に浸す
図2−6 高電圧絶縁破壊回路
−30−
柳原11 11輝・亀谷隼・吉村昇
計算方法は図2−10に示すように一辺の長さがr の正方形でトリーを被覆したときの正方形の数を A(r)とし, ここで一辺の長さrを変化させたときに A(r)がrに対して(2 1)式の関係が成立する場 合, この図形はフラクタルであり, (2 1)式の指 数Dがフラクタル次元となる。実際には(2‑1)式 の両辺の対数をとった(2‐2)式において近似され る直線の傾きがフラクタル次元Dとして推定され る。
A(r) r‑D…….………・・ (2‑1) logA(r)oc‑DIogr ・……・………. (2‑2) パソコンB
パソコン八
昌一
Dカメラ
I
u蕊
矛
偏光諏徹漉
図2−7 画像処理システム
2. 5 結晶化度の測定
従来の研究では試料中の球晶の分布状態を,なし,
疎, まばらというように分類していた。 しかし, こ の方法だと実験者の主観が入ってしまい,すべての 試料を同じように分類するのは困難である。そこで 本実験では球晶の状態を定量化するパラメータとし て試料の結晶化度を用いることにした。
結晶化度は原則的に高分子│古1体が,完全な結晶領 域と非晶領域の二相構造からなると仮定して計算さ れる値である。結晶化度を求めるにはいろいろな方 法があるが,本研究では密度法により試料の結晶化 度を求めた。
密度法による結晶化度xは,測定した高分子密度 をβ,結晶部分の密度をpc,完全非晶部分の密度を βaとすると, (2−3)式で表される。
1/P=X//Qe+(1‑X)/Pa ・…・ ・ ・……・…・…(2‑3) 今回使用したアイソタクチック構造のポリプロピ レンの結晶部分の密度βc=0.9359/cln3,非晶部分 の密度βa=0.8519/cm3を(2‑3)式に代入して試 料の結晶化度Xを求めた。(9)
試料の密度の測定は以下の方法で行った。
(1) 試料を5mm×10mm程度の大きさに切り取 る。
(2) 蒸留水とエタノールを混合し,密度が0.8609/
cIn3〜0.9309/cm3の溶液を0.0109/cm3間隔で作
る。
(3) (2)で作った溶液に切り取った試料を入れ,試料 が浮くか沈むかによっておおまかな密度の目安を つける。
(4) (3)でつけた密度の目安をもとに0.0019/cm3"
隔の溶液を作る。
(5) (4)で作った溶液に試料を入れ,浮くか沈むかを
みる。
(6) (5)において,試料が浮いたら密度の低い溶液に,
図2−8 二値化前 図2−9 二値価後
図2−9に示す。
2. 4 フラクタル次元の推定方法(7)(8)
二次元図形を対象としたフラクタル次元の測定法 としては,二次元図形を含む領域を正方形で分割し,
その正方形の一辺の長さrを変化させ,正方形と図 形の重なり合う数からフラクタル次元を求めるボッ クスカウンテイング法が一般的である。
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| │ |綴
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52
鞠●?。::::。::::
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一e一 口二○
図2−10 ボックスカウンティング法による フラクタル次元の推定方法
−31−
画像計測による高分子絶縁材料の球晶とトリーイング劣化の関係
沈んだら密度の高い溶液に試料を入れていき,試 料力ぎ浮きも沈みもしない溶液の密度が試料の密度
となる。
このグラフは各電圧において発生したトリーのフラ クタル次元の最大値,最小値,平均値を表している が,電圧の変化に対するフラクタル次元の変化がつ かみにくい結果となっている。つぎに印加詞王と電 極間距離から電界強度を求め, これをパラメータに 用いて, フラクタル次元との関係を表したグラフを 図3−3に示す。電界強度が上昇すると,それにとも ないフラクタル次元も上昇するという傾向がはっき りとわかる。このことから,パラメータに印加電圧 を用いるかわりに電界強度を用いることで,電極間 距離のわずかな違いもデータに含ませることがで き, フラクタル次元との関連性がよりわかりやすく なることが分かった。
3 実験結果と検討
3. 1 印加電圧と電界強度
作製した試料に銀ペイントを塗布して平板電極を 作る際に,すべての試料において針電極と平板電極 間の距離をちょうど1000"mにすることが出来れ ばよいが,現実には非常に困難であり, もし, その ようにしようとすれば大変な労力を費やすことにな ってしまう。そのため,今まで電極間距離を一定に するためにたくさんの工夫をしてきた力:, それでも 電極間距離が1000"mから多少ずれてしまうのを なくすことは出来なかった。このような試料で実験 を行っていると,いくつかの試料に同じ電圧を印加 した場合でも,電極間距離が各試料においてわずか に異なるため,電極間にかかる電界も異なってきて しまう。そこで,本実験では電極間距離の違いを考 慮してパラメータに電界強度を用いた。印加電圧と 電極間距離の関係を図3−1に示す。電界強度は(3
−1)式で求められる。
電界強度[E]=鵲暴器T(kV/mm)
3. 3 結晶化度とフラクタル次元の関係
試料中の球晶の分布状態を定量化するため,試料 の結晶化度をパラメータに用い,試料の結晶化度と フラクタル次元の関係について調べた。
さまざまな球晶の分布状態を持った試料に銀ペイ ントを塗布して平板電極とし,画像処理システムに より電極間距離を測定した。測定された距離をもと に,電極間の電界強度が6kV/mmになるように印
8765432
●●■
●●●●
1111111フラクタル次元| ト I l I
(3−1)
3. 2 電圧,電界とフラクタル次元の関係 球晶の存在しない試料に印加電圧を4kVから9 kVまで変化させて絶縁破壊試験を行った後,発生
したトリーの画像を画像処理システムでパソコンに 取り込み,フラクタル次元と電極間距離を測定した。
図3−2に従来通り印加電圧をパラメータに用い て,フラクタル次元との関係を表したグラフを示す。
3 4 5 6 7 8 9 10
印加電圧(kV)
印加電圧に対するフラクタル次元の変化特性 図3−2
d(mm) フラクタル次元 1111111 ●●●︒●●● 8765432
銀べイント 針電極
試料
〜
3 4 5 6 7 8 9 10
電界強度(kV/mm)
電界強度に対するフラクタル次元の変化特性 V(kV)
図3−1 印加電圧と電極間距離 図3−3
−32−
柳原昌輝・亀谷隼・吉村昇
により試料中の球晶の直径を測定した。図3−5に球 晶の直径とフラクタル次元の関係を示す。グラフよ
り,球晶の直径が変化してもフラクタル次元は特徴 のある変化を示していない。このことから, フラク タル次元は球晶の大きさには影響されないことが分 かった。
1.8
A
−
● ●●
・8 80 :
8 ,●●●
1.0●● ●
一●●
Bフラクタル次元 7654321
●●●●●●●
1111111、
●●
4 結 論
●
0.35 0.40.45 0.50.55 0.60.65 0.7
結晶化度
結晶化度とフラクタル次元の関係
電力用ケーブルをモデル化したポリフ。ロピレンの 試料において,球晶を発生させ,絶縁破壊試験を行 った。試験において発生した電気トリーのフラクタ ル次元と印化電圧,電界強度との関係について調べ,
考察した。 また,電極間距離を測定し,それをもと に電界強度が一定になるように印加電圧を調整して 絶縁破壊試験を行い,発生した電気トリーのフラク タル次元と試料の結晶化度,球晶の直径との関係に ついて調べ,考察した。その結果を要約する。
図3−4
加電圧を調整して絶縁破壊試験を行った。 さらに,
密度法により試料の結晶化度を測定した。図3−4に 結晶化度とフラクタル次元の関係を示す。グラフよ り,結晶化度が0.43〜0.51の範囲にある試料A群と 0.59〜0.64の範囲にある試料B群に大きく分けれ ること力ざ分かった。A群のフラクタル次元の幅は,
0.2程度と比較的狭いのに対し,B群のフラクタル次 元の幅は約0.43と広くなることが分かった。 また,
試料中の球晶の分布状態を, なし,疎, まばらとい うように観察した状態で分類するより,定量化する ためのパラメータに試料の結晶化度を用いたほうが よいことが分かった。
(1)パラメータに印加電圧を用いるかわりに電界強 度を用いることで,電極間距離のわずかな違い もデータに含ませることができフラクタル次元 との関連性がよりわかりやすくなる。
(2) 試料の結晶化度は大きく2つに分類される。
(3) 試料の結晶化度が0.43〜0.51の範囲にある試料 群のフラクタル次元の幅は,0.2程度と比較的狭 いのに対し,結晶化度が0.59〜0.64の範囲にあ る試料群のフラクタル次元の幅は約0.43と広く なる。
(4) 試料中の球晶の分布状態を観察した状態で分類 するより,定量化するためのパラメータに試料 の結晶化度を用いるのが有効である。
(5)電気トリーのフラクタル次元は球晶の大きさに 影響されない。
3. 4 球晶の直径とフラクタル次元の関係 試料中の球晶の分布状態を定量化するため球晶の 直径をパラメータに用い,球晶の直径とフラクタル 次元の関係について調べた。
さまざまな球晶の分布状態を持った試料に6 kV/mmの電界がかかるように印加電圧を調整して 絶縁破壊試験を行った。 さらに,画像処理システム
876543111111
フラクタル次元 5 参考文献(1)柳原,徐,吉村,能登:電気学会放電・誘電・
絶縁材料合同研究会,ED‑92‑65, DEI‑92‑66, pp.1‑10 (1992)
(2)柳原,吉村:電気論A,第112巻,第1号,pp.72
−73 (平4)
(3)例えば丸山,工藤:平成3年電気学会全国大会,
No.271
(4)藤森:電気学会電気絶縁材料シンポジウム 329 (昭62)
0 50 100 150 200
球晶直径("m)
図3−5 球晶直径とフラクタル次元の関係
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画像計測による高分子絶縁材料の球晶とトリーイング劣化の関係
(8)森崎,江村,西山:改訂電気計測コロナ社
(1979)
(9)荒井腱一郎ほか:わかりやすい高分子化学 (5)Kudo:IEEJ.Proc.21stSymposiumonElec‑
tricallnsulationMaterials,203(1988) (6)社団法人電気学会:誘電体現象論, オーム社
(1993)
(7) 高安英樹:フラクタル,朝倉書店(1986)
(1994)