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民事上告審における職権破棄の裁量性について

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産大法学 44巻4号(2011. 2)

民 事上告審における職権破棄の裁量性について

草 鹿 晋 一

一 はじめに

現行民事訴訟法は︑最高裁判所の負担軽減のため︑最高裁判所に対する上告については憲法違反ないし絶対的上告事

由として法に定める事由にその上告理由を限定し︵民訴三一二条︶︑①判例と相反する判断がある事件②法令の解釈に

関する重要な事項を含むものと認められる事件については︑当事者の申立てにより︑決定で上告審として事件を受理す

ることができ︑事件を受理する際︑当事者の上告受理申立事由の中に重要でないと認めるものがあるときは︑最高裁判

所はこれを排除できることとなった︵上告受理申立制度の新設︒民訴三一八条以下︒上告を受理するかどうかについて

最高裁に裁量権が与えられているように見えるために一般に裁量上告制といわれている︶︒

一方︑原判決に破棄事由が認められる際の破棄差戻しについては次のような規定がある︒

(2)

民事訴訟法三二五条︵破棄差戻し等︶

三一二条第一項又は第二項に規定する事由があるときは︑上告裁判所は︑原判決を破棄し︑次条の場合を除き︑事

件を原裁判所に差し戻し︑又はこれと同等の他の裁判所に移送しなければならない︒高等裁判所が上告裁判所である

場合において︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときも︑同様とする︒

二上告裁判所である最高裁判所は︑第三一二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても︑判決に影

響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは︑原判決を破棄し︑次条の場合を除き︑事件を原裁判所に差し戻

し︑又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる︒

最高裁判所に対する上告理由は憲法違反と絶対的上告理由に限定されたものの︑法令違反も一定の場合には破棄理由

にすることができるとする趣旨であり︑上告理由と破棄理由とは︑これをもって乖離したことになる︒

ところで︑民事訴訟法三二五条第二項については︑上告理由以外に原判決を破棄すべき事由が認められるときに最高

裁判所が職権で破棄することを認めた規定であることには争いがないが︑破棄事由が認められるときにもなお最高裁判

所の裁量で破棄しないことができるかどうかについては争いがある︒

本稿は︑最高裁判所による職権破棄の裁量性の有無を検討することをその目的とする︒

以下︑まず法改正の経緯を明らかにした上で︑学説の状況を示し︑検討をおこなう︒

(3)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

二 民事訴訟法三二五条第二項に関する立法の 経 緯

︵一︶旧民事訴訟法の規定

旧民事訴訟法︵明治二三年法律二九号︑以下旧民訴と略す︒︶は︑上告理由を原判決に憲法違背または判決に影響を

及ぼすこと明らかなる法令の違背あることとし︵旧民訴三九四条︶︑特に重要な手続法違背を列挙し︑これらの事由が

ある場合には常に上告理由があるものとしていた︵絶対的上告理由・旧民訴三九五条︶︒

上告審では︑上告理由に基づき不服の限度においてのみ調査をなす︵旧民訴四〇二条︶と規定されていたが︑裁判所

が職権をもって調査すべき事項についてはその適用はなく︵旧民訴四〇五条︶︑上告裁判所は当事者の申立てがなくと

も裁判所の職責︵傍線筆者︑以下同じ︶として調査しなければならないとされていた︒

また︑明文の規定はないものの︑確定された事実について正しく法令を適用することが裁判所の職責とされていたこ

とから︑実体法規の解釈適用の誤りについても上告理由による指摘の有無にかかわらず調査することができるとする見

解が一般的であった ︒この見解によれば︑旧民訴四〇二条は︑上告理由に指摘がない場合は判断を示さなくとも判断遺

脱の違法はないということを示すにとどまることになる︒

一方で︑絶対的上告理由を除く手続法違反の主張については︑上告理由に拘束されると考えられてきた︒当事者が上

告理由として主張しないということが︑当該事由に対する責問権の放棄と解され︑当事者が責問権を放棄しているにも

かかわらず︑裁判所がそれを斟酌することはできないからである︒

旧民訴では︑審理の結果原判決について憲法違反又は法令違反の存在が明らかになったときは︑裁判所は原判決を破

毀し事件を原裁判所に差戻または同等なる他の裁判所に移送することを要す︵旧民訴四〇七条︒自判につき旧民訴四〇

(4)

八条参照︒︶と規定されていた︒上告理由すなわち破棄事由であり︑原判決に破棄事由がある以上︑上告裁判所はこれ

を破棄する義務があるとされてきたのである︒

︵二︶平成八年法改正

平成八年現行民事訴訟法の立法に際しては︑上訴を制限し︑最高裁の負担を軽減すべきか否か︑制限するとしたらど

のようにすべきか︑というのが︑大きな論点の一つであった︒日弁連の一部や研究者の中には︑最高裁が負担過重であ

るとの論には根拠がなく︑上告制限の必要性は認められないとしていたものもある 2︶が︑裁判所をはじめ大勢は︑最高裁

の負担が過重であり︑本来審理すべき事件に集中できておらず︑最高裁の機能不全を防ぎ︑審理を充実させるために

は︑なんらかの上告制限が必要であるとの意見であった

検討の結果︑最高裁判所に期待されている終審たる憲法裁判所としての機能︑裁判所組織上の位置づけによる最上級

審としての法令解釈統一機能を向上させるために︑現行法は最高裁判所への上告理由を憲法違反ならびに絶対的上告理

由に限定した︒

上告理由を制限することで︑法令違反に名を借りた無駄な上告が排除されることになり︑一応︑最高裁の負担が軽減

され︑憲法裁判所としての機能を向上させることになると期待されたが︑一方︑法令解釈の統一を図るという最高裁の

もう一つの機能を果たすためには︑法令の解釈を統一する必要がある事件について︑上告とは別に︑最高裁判所の判断

を仰ぐ道筋をつける必要があった︒

そこで現行民事訴訟法は︑民事訴訟法三一八条以下に上告受理申立制度を新設したのである︒それによれば︑原判決

に判例違反や判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤りがあると思料する当事者は︑最高裁判所に対して上告受理申立を

(5)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

おこなうことができる︵民訴三一八条第一項︒申立に際し︑上告理由︵三一二条︶に該当する事由を上告受理申立理由

とすることはできない︵同第二項

︶ ︒ ︶ ︒

最 高

裁判所は︑原判決に最高裁判所等の判例と相反する判断がある事件その他

の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について︑申立てにより︑決定で上告審として事件を受

理することができる︵民訴三一八条第一項︶︒受理に際して︑上告受理申立理由中に重要でないと認めるものがあると

きは︑これを排除することができる︵民訴三一八条第三項︶︒最高裁判所により上告受理決定がなされると︑上告がな

されたものとみなされる︵民訴三一八条第四項︶︒

すなわち︑上告受理後は上告審として審理がおこなわれることとなり︑上告裁判所は︑職権で調査すべき事項を除き

︵民訴三二二条︶︑上告の理由に基づき︑不服の申立があった限度においてのみ調査をすることになる︵民訴三二〇

条︶が︑これは旧民事訴訟法と異なるところがない︒

審理の結果︑憲法違反または絶対的上告事由があるときは︑上告裁判所は︑原判決を破棄しなければならない︒高等

裁判所が上告裁判所である場合において︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときも同様とする︵以

上民訴三二五条第一項

︶ ︒

上告裁判所である最高裁判所は︑上告理由として規定されている事由がない場合であっても︑判決に影響を及ぼすこ

とが明らかな法令の違反があるときは︑原判決を破棄することができる︵同条第二項︶︒

本条により︑最高裁判所に対する上告に限れば︑上告理由と破棄事由が乖離することになる︒すなわち︑上告理由と

はならない判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反に基づいても原判決を破棄することができることとされたので

ある︒

(6)

︵三︶立法担当者による説明等

民事訴訟法三二五条第二項の趣旨について︑立法担当者による解説であるところの一問一答では︑概ね次のような説

明がなされている

﹁最高裁判所は︑第三二〇条により︑原則として︑上告人から指摘された憲法違反等の上告理由に基づき判断をする

ことになるが︑本条は︑職権調査事項には適用がなく︵第三二二条︶︑また︑実体法の適用は裁判所の当然の職責であ

ると考えられるため︑最高裁判所は︑これらの事項については上告理由に限定されずに調査することができるものと解

されている︒

調査の結果︑最高裁判所が判決に影響を及ぼすことがあきらかな法令違反を発見した場合には︑判決を破棄できるよ

うにして︑旧法の下におけるのと同様に︑最高裁判所の職責を全うすることができるようにする必要がある︒

このように︑事案の適正な処理という趣旨から︑上告裁判所である最高裁判所は︑第三二五条第一項の破棄の理由が

ない場合であっても︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるときは︑原判決を破棄することができること

を示したのが第三二五条第二項である︒

高等裁判所が上告裁判所である場合については︑改正を加えていないので︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令

違反があれば︑原判決を破棄しなければならない︒

上告受理の申立てにより事件が受理された場合には︑上告と同様に扱われるのであって︵決定の際に排除されなかっ

た上告受理の申立ての理由が調査の範囲を画することになる点が異なる︒第三一九条︶︑破棄の理由については異なる

ところはない︒﹂

学説にも︑﹁これは︑裁量上告制度を導入したために︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が︑上告を理

(7)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

由あらしめる事由であり︑かつ︑破棄事由である︑という旧法︵筆者注原文は現行法施行前のものなので﹁現行法﹂

と記されている︒︶の建前を維持できなくなったための技術的な調整であって︑実質的な改正点ではないと考えられ

る︒ ﹂

と 評価するものがある

このように︑民事訴訟法三二五条第二項は︑最高裁判所に対する上告理由が制限された結果︑上告理由と破棄理由が

乖離したことを示すものであり︑それ以上でもそれ以下でもないとするのが一般的な理解であったはずである︒

しかしその後︑裁判所関係者を中心に︑民事訴訟法三二五条第二項の解釈について︑上記と異なる見解が主張される

ようになってきた︒以下︑数は少ないものの︑この問題に関する学説の状況を示す︒なお︑関連して︑そもそも上告裁

判所は当事者が申し立てない法令違反の有無について調査義務があるのかどうかが問題となるが︑本稿では︑破棄義務

の有無に必要な範囲に限り言及することとする

︵1︶兼子一﹃民事訴訟法体系﹄四六二頁︑小室直人﹁上告理由﹂﹃上訴制度の研究﹄二〇六頁︑小室直人︑賀集唱編﹃基本法コ

ンメンタール民事訴訟法二︵第四版︶﹄四〇二条﹇宇野栄一郎﹈二二四頁など参照︒

︵2︶代表的な論稿として︑上野𣳾男﹁上訴制限について﹂法学論集︵関西大学︶四三巻一︑二号七四五頁︒

︵3︶竹下守夫﹁最高裁判所に対する上訴制度︵上︶︵下︶﹂NBL五七五号三九頁︑五七六号四四頁など︒

︵4︶法務省民事局参事官室編﹃一問一答新民事訴訟法﹄︵商事法務研究会︑一九九六年︶Q二一〇︑Q二一一

︵5︶山本克己﹁最高裁判所による上告受理及び裁判所に対する許可抗告﹂ジュリ一〇九八号八八頁

︵6︶以下に引用する柳田発言や竹下発言︵竹下=青山=伊藤編集代表﹃研究会新民事訴訟法﹄︵平成一一年︑商事法務研究

会︑以下研究会と略す︒︶四〇九︑四一一頁︶は︑職権破棄事項についての調査義務は否定している︒同旨︑富越和厚﹁最高

裁判所における新民事訴訟法の運用﹂法の支配一一六号四六頁︑基本法コンメンタール民事訴訟法三︵第三版︶︵平成二〇

(8)

年︑日本評論社︶第三二〇条﹇田中豊﹈︑高橋宏志﹁重点講義民事訴訟法民事上告について︵四︶﹂︵法学教室三五八号︶一

一五頁など参照︒一方︑上野𣳾男教授は﹁法令を適用して法律判断を行うことは裁判所の職責であるから︑当事者の主張の有

無にかかわらず︑最高裁判所は法律判断の過誤の有無を調査しなければならない︒﹂とする︵基本法コンメンタール民事訴訟

法三︵第三版︶︵平成二〇年︑日本評論社︶第三一八条﹇上野𣳾男﹈︶︒

三 学説の状 況

︵一︶調査義務について

破棄義務の有無を論じる前提として︑当事者の申立の有無にかかわらず︑原判決に破棄事由が存在するかどうかを調

査する義務が上告裁判所にあるかどうかについて︑学説の状況を概観する︒法令解釈が裁判所の職責であることを理由

として︑当事者の主張の有無にかかわらず法律判断の過誤の有無を調査しなければならないとする見解もある が︑否定

説が多数を占めるようである︒

否定説の論拠には︑現行法を理由とするものと︑旧法時から一貫して否定するものとがある︒まず︑現行法を理由と

するものは次のように述べる︒

﹁現行法では︑単なる法令違反は︑最高裁判所に対する上告または上告受理の申立ての事由とすることができず︑上

告人の権利として是正を求めうる対象とされていないから︑現在では︑最高裁判所は︑実体法規の解釈適用の誤りにつ

いての調査義務を負わないものといわざるを得ない 8︶︒﹂

一方︑同じ否定説でも︑旧法から一貫して同じ扱いであったとするものに︑次の発言がある

﹁旧法下でも︑調査義務の範囲というのは上告理由で指摘された点に限定されるわけで︑それ以外の点については︑

(9)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

最高裁判所は全く調査義務はないわけですが︑調査の過程で法令違反を発見した場合については法令の解釈︑特に実体

法の解釈については︑裁判所の職責であるから︑職権で破棄をすることができると解されていて︑現にそういうことで

破棄された例は多数あるわけです︒

︵中略︶憲法違反だという主張があって︑審議した場合に︑憲法違反はないけれども︑法令違反があってこの判決は

おかしい︑という判断に達した場合にどうするかと︑そういう場面での問題になるわけです︒

しかし︑それについては調査義務があるわけではないわけです︒これは旧法の場合と同じなのです︒この点は︑旧法

において︑上告理由で指摘されていない点について︑法令違反があるということを発見した場合に︑破棄する義務があ

るかということと同じ問題ですが︑結局それは通常の意味での義務があるとか︑ないとかという議論をしてもあまり意

味がないので︑最高裁判所が自らの職責をどう行使するかという問題だろうと思います︒﹂

前述の立法担当者による解説にもある通り ︑現行法がこの点につき意識的に旧法と扱いを変えたとは認めがたい︒し

たがって︑現行法によって調査義務が否定されたことになったとするのは困難であるが︑旧法下においても調査義務は

認められないとするのであれば︑現行法においても調査義務はないとすることになろう︒しかし︑もし上告裁判所に調

査義務がないとするならば︑どうやって当事者の申立のないところで破棄事由の存在を認めることができるのであろう

か︒竹下教授は︑﹁普通の法令違反について最高裁に調査義務を課するものでないということは︑争いがありません︒

それから︑たまたまわかった場合に破棄できなければ困るから︑破棄できることにしたのだ 唖︶﹂とするが︑最高裁判所の

審理の過程で﹁たまたま﹂わかったということがそうあるものであろうか︒やはり裁判所の職責として︑当事者の申立

事項以外についてもきちんと調査をしているからこそ︑破棄事由の存在が明らかになるのであって︑そうであるなら

ば︑﹁たまたま﹂見つかった場合は破棄されるが︑そうでない場合は見逃され︑それも致し方ないものとして当事者は

(10)

受忍しなければならないというのでは︑法の下の平等︵憲法一四条︶に悖ることになるのではないか︒

やはり︑裁判所がその権限を行使するにあたっては恣意性を排し︑公平におこなう必要があるのでないかと考える︒

もっとも︑義務ではないといいながらも︑最高裁判所はその職責として︑法令解釈に問題がないかどうか精査してい

るのが実情である し︑一方で︑調査義務があるとしても︑必ず判決で言及することまで求めるものではなく︑判決にお

ける応答義務は当事者の申し立てた上告理由に限る︵それ以外は判決遺脱の対象とならない︒︶とされているので︑両

者について実際上の差異は生じにくい︒しかし︑調査義務を認める立場であれば︑原判決に破棄事由が認められた場合

は当事者の申立の有無にかかわらず当然に破棄すべき義務が生じることになるので︑本稿の結論には少なからぬ影響が

でることになる︒

調査義務の有無については改めて検討する機会を得たいと思っているが︑当面は︑次のように考えている︒法令解釈

は裁判所の職責である︒そして︑上告審は︑法令解釈の当否について判断すべき法律審であり︑当該訴訟における最終

的な法解釈権限を有するものである︒そもそも裁判所は︑法令の解釈に関しては︑当事者の主張に拘束されず︑自らの

職責でこれを行うべきとされている︒たとえ最高裁判所であろうとも︑民事訴訟におけるこの裁判所固有の職責を免れ

得ない︒であるならば︑上告受理をした以上は当事者の主張の有無を待たずに原判決の法令解釈の妥当性をチェックす

べきではなかろうか︒また︑前述の如く︑実際にはそのように運用しているにもかかわらず︑これを﹁義務﹂と呼ばず

に﹁職責﹂と言い換えることにどれだけの実益があるのか疑問である ︵阿

それはさておき︑法令違背の有無について調査義務はないとする学説も︑﹁たまたま﹂当事者が主張していない破棄

事由を発見した場合について︑最高裁判所に破棄義務があるとするものと︑破棄すべきかどうか裁量が認められるとす

るものに見解が分かれる︒

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民事上告審における職権破棄の裁量性について

︵二︶破棄理由が認められたときの最高裁判所の裁量について

立法直後の研究会において︑次のような問題提起がなされた ︵哀︶

﹁普通の法令違反について最高裁に調査義務を課するものでないということは︑争いがありません︒それから︑たま

たまわかった場合に破棄できなければ困るから︑破棄できることにしたのだという点についても争いがない︒たまたま

わかったときでも破棄しなくてもよいかどうか﹂︒

発言者は︑当然破棄しなければならないという前提で︑その確認を求めたのであるが︑これに対して︑裁判所を代表

して研究会に参加していた福田判事から︑次のような反論がなされた 愛︶

①裁量肯定説一福田剛久判事

﹁裁判所もこの規定︵筆者注三二五条二項︶を作るときに︑どういう考え方でこの規定に賛成したかと言えば︵中

略︶︑たまたま憲法違反の調査をしているときに︑法令違反が見つかった︒そしてそれはどうも判決に影響を及ぼしそ

うだというときに︑最高裁はそれを判断できない︑要するに破棄できないというのは︑最高裁の職責を全うしたことに

ならないのではないか︒それはやはり破棄できるということにしなければならない︒法令解釈についての最終的な判断

権を持っている最高裁判所として︑この部分については何としても是正したいと考えれば︑それは是正する措置ができ

なければおかしいのではないかという意味で︑これに賛成したわけで︑是正が義務づけられているという意味で賛成し

たわけではありません︒

というのは︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があったとしても︑認容額にごく少額の差異しか生じな

い︑原裁判所に差し戻しても結果より当事者の負担の方が大きいというような場合のように︑それを破棄しなければ著

しく正義に反するほどのものではない︑という場合だってあるだろうと思うのです︒その法令違反の程度が大きくて︑

(12)

重大な結果を及ぼす︑これを破棄しなければ著しく正義に反するという場合には︑当然破棄するが︑そうでない場合に

は︑破棄しないこともある︑そういう裁量権が最高裁にはあるという考え方だと思っています︒﹂

本来は裁判所の審理すべき範囲ではないが︑問題があるとわかっていながら座視するのは裁判所の職責上問題がある

ので︑破棄できることとしたが︑法令違反の程度やそれによって得られる結果の多寡によって破棄すべきかどうかにつ

いて裁量権を有するとされなければ妥当な結果が得られないのではないかというのである︒

②裁量肯定説二田中豊教授

田中豊教授は︑法改正の趣旨と条文構造から同様の結論を導く ︒すなわち︑

﹁旧民訴法においては︑上告理由は同時に破棄理由であったから︑︵否定説のように︶上告審は︑上告理由ありとする

ときは原判決を破棄しなければならないものとされていた︵旧三九四条︑四〇七条︶︒しかし︑平成八年の改正におい

て︑三一二条一項・二項は︑最高裁判所に対する上告理由を憲法違反と従来の絶対的上告理由であった重大な手続法違

反とに限定し︑三一八条が︑法令違反について上告受理の制度を創設した﹇結果﹈︑必ず原判決を破棄しなければなら

ないという意味での上告理由は︑三一二条一項︑二項に規定する事由に限られることになったのである︒三二五条一項

前段はこの趣旨を規定する︒

高等裁判所が上告審である場合については改正がされていないから︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反

があるときは︑従来と同様︑原判決を破棄しなければならない︒

最高裁判所は︑この場合︑当該事案の適切な解決という観点からして︑原判決を破棄する権限を有している︵傍線筆

者︑以下同じ︶︒

そうすると︑最高裁判所としては原判決を破棄する義務はなく︑当該事項の重要性の程度︑当事者が上告又は上告受

理申立ての理由書中で明確に指摘しているかどうか等を勘案して︑破棄するかどうかを決定する裁量権を有する︒﹂

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民事上告審における職権破棄の裁量性について

破棄しなければならないのは︑上告理由たる破棄事由が認められたときだけで︑それ以外は条文の文言通り︑破棄す

ることができるにとどまると解するわけである︒

一方︑裁判所の裁量を否定する見解は次のように述べる︒

③裁量否定説一高橋宏志教授

﹁判決文からすぐにわかる法令違反を別とすれば︑いずれにせよ職権破棄の事由には調査義務はないので︑最高裁判

決がそれに言及しなければ︑最高裁は法令違反を認識した上で裁量で破棄しなかったのか︑認識していなかったので破

棄しなかったのかは外部にわかるものではなく検証は困難である︒しかし︑検証できないとしても︑考え方としては︑

従来はこの種の裁量性はないとされていたのではなかろうか︒福田発言は︑最高裁の負担軽減から︵それに当事者の負

担軽減を加味して︶︑新たな考え方を提示するものであろう︒当事者の負担軽減も加味するため︑当事者救済の観点か

らも肯定し得ないものではないけれども︑しかしながら︑やはり︑この種の裁量性は︑会社法八三二条二項の裁量棄却

のように立法を待って行使すべきものではなかろうか

︒ ﹂ 高橋教授は︑上告制度における当事者救済機能を重視される立場を表明されており ︑本論点においてもその観点から

言及していると考えられる︒

④裁量否定説二上野𣳾男教授

︵法律判断の過誤の有無を調査しなければならないという立場を前提として︶最高裁判所が︑判決に影響を及ぼすこ

とが明らかな法令の違反を認めるときは︑原判決を破棄しなければならない 葵︶

上野教授は︑法令違反に関する裁判所の調査義務を肯定する延長線上で︑破棄義務を認め︑裁判所の裁量権を否定し

ている︒

(14)

︵7︶上野𣳾男前掲註︵6︶

︵8︶田中豊前掲註︵6︶

︵9︶前掲註︵6︶研究会四〇九頁﹇柳田幸三発言﹈

10︶二︵三︶参照

11︶前掲註︵6︶研究会四一一頁﹇竹下守夫発言﹈

12︶立法当時︑裁判所を代表して︑職権破棄の裁量性について強硬に主張していた︵後述︵二︶参照︶福田剛久判事も︑後

年︑上告受理申立に対する判断に関する発言ではあるが︑次のように述べている︵福田発言座談会民事訴訟法改正一〇

年︑そして新たな時代へ︵ジュリスト一三一七号︑以下座談会と略す︒︶三四頁以下︶︒﹁受理申立て事件の受理︑不受理の判

断をする際には︑事件の中身に入って検討していますから︑その意味では︑受理した事件だけについて実質的な審理をしてい

るわけではなく︑その事件も実質的な審理をしているというのが現状です︒

受理︑不受理の判断は︑その事件が﹁法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる﹂かどうかにかかり︑新民訴

は︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反を最高裁に対する上告理由から除いたので︑判決に影響を及ぼすことが明ら

かな法令違反があったからといって必ず受理しなければならないものではないことは明らかですが︑民事訴訟法が当事者間の

紛争解決を目的とするものである以上︑結論の妥当性を全く無視するということはできないので︑受理︑不受理の判断に当

たっては︑結論の重大性や原審の法令解釈の誤りが結論に影響するかどうかという点も考慮要素になり得ると考えられます︒

そうすると︑結局︑受理申立て事件についても全件について事件の中身を見ていかなければいけないということになります︒﹂

このような運用がなされている結果︑最高裁判所に対する負担軽減にはさほどなっていないのではないかと思われるわけで

あるが︑これはひとえに裁判所の職責を全うするという使命感のなせる業であろう︒実際にはこのような運用をしているにも

かかわらず︑これを﹁義務﹂と表現されることを拒むのは︑そのことによって裁判所の手足が縛られ︑明らかに上告理由も受

理事由も存在しない事件についてまで︑無駄な審理を強いられることに対する警戒感が働いているのではないかと思われる︒

13︶逆に︑﹁義務﹂といったところで︑当事者の主張する上告理由に対する判断とは異なり︑裁判所に応答義務が課されるわけ

ではなく︑判決で言及されなければ法令違反の可能性について検討したのかどうか明らかにならないし︑判決遺脱の対象にも

(15)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

ならないとすれば︑実益はないとの批判はなされるであろう︒この点については稿を改めて検討することとしたい︒

14︶前掲註︵6︶研究会四一一頁﹇竹下守夫発言﹈

15︶前掲註︵6︶研究会四一〇頁以下﹇福田剛久発言﹈

16︶田中豊前掲註︵6︶

17︶高橋宏志前掲註︵6︶

18︶高橋宏志﹁上告受理と当事者救済機能﹂河野正憲ほか編﹃井上治典追悼論文集民事紛争と手続理論の現在﹄︵平成二〇

年︑法律文化社︶二八四頁以下︑同﹁重点講義民事訴訟法民事上告について︵一︶〜︵六︶﹂法学教室三五五号〜三六〇号

参照︒

19︶上野𣳾男前掲註︵6︶

四 検 討

本稿で検討すべき視点には次の四つがある︒

①上告制度の目的との関係

②上告制限の目的との関係

③旧法と現行法との関係をどのようにとらえるか

④裁判所の法令調査義務をどのようにとらえるか

︵一︶上告制度の目的について

上告制度の目的については︑従来より原判決の誤りを是正することによる当事者救済であると考える立場 ︵茜と︑法令解

(16)

釈の統一を図るものであると考える立場 ︵穐︶︑両者が目的であるとする立場 ︵悪︶がある︒前述のように︑高橋宏志教授は当事者

救済をその目的とする立場に立ちつつ︑裁判所の職権破棄について裁量権は否定されるべきであると考察されている︒

一方︑平成八年の民事訴訟法改正により最高裁判所に対する上告理由が制限され︑あわせて上告受理申立制度が導入さ

れた際には︑より法令解釈統一機能が重視されることになったとの指摘が相次いだ︒

では︑上告制度の目的についてどの立場に立つかで本稿の結論は左右されるのであろうか︒

確かに︑当事者救済機能を重視する立場であれば︑判決に影響を及ぼすべき原判決の誤りが発見された以上︑破棄さ

れて然るべきであるということになる︒また︑法令解釈の統一を図るものであると考えた場合は︑今後に影響を与えな

い程度の誤りであれば︑そのまま放置しておいても問題はないということになるかも知れない︒しかし︑前述のよう

に︑職権破棄の裁量性を主張する見解は︑必ずしも法令解釈統一機能に着目しているわけではない︒むしろ見解①は︑

当事者保護も裁量性の根拠として挙げている︒高橋教授 ︵握も﹁最高裁の負担軽減から︵それに当事者の負担軽減を加味し

て︶︑新たな考え方を提示するものであろう︒当事者の負担軽減も加味するため︑当事者救済の観点からも肯定し得な

いものではない﹂とこの考え方に一定の理解を示している︒

一方︑法令解釈統一機能を重視すると︑職権破棄につき裁量を認めやすいかというとそうでもない︒たしかに︑法令

統一の必要がない場合には上告を受理する理由がないことになるが︑条文上は﹁判決に影響を及ぼすことが明らかな法

令の違反﹂︵民訴三二五条第二項︶が破棄事由とされている以上︑個別の事件への影響を無視できないからである︒従っ

て︑上告制度の目的をどのようにとらえようとも︑職権破棄の裁量性を基礎づける決定的な根拠とはなり得ない︒

(17)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

︵二︶上告制限の目的との関係について

平成八年の民事訴訟法改正の際に︑最高裁判所への上告を制限することとした理由は︑最高裁判所を負担過重から解

放し︑その本来の機能を回復させることにあった 渥︶

新民事訴訟法施行以来一〇年の統計を見てみると︑最高裁判所の上告事件・上告受理申立事件については︑上告理由

と上告受理申立理由の双方を主張し︑両者を申立てるいわゆる並行申立てが非常に多い︒また︑その実情は︑法令違反

を主張するにすぎないのに︑無理に憲法違反や理由不備といった上告理由をこじつけて上告をするものがほとんどであ

るという指摘がある ︵旭︒上告受理申立てについても︑実情は法令解釈違反︑判例違反の名目で︑原判決の結論ないし事実 認定に対する不服をいうに過ぎないものが多いともいわれている ︵葦︒統計的にも︑上告事件の九五%近くは上告棄却決定

で終結されており︑上告受理申立事件もほぼ同じくらいが不受理決定で終結している︒

確かに︑大部分の事件を決定で処理できるようになった結果︑判決をする際に必要であった署名や言い渡しといった

手間は省力化されたが︑記録を読み︑受理すべきかどうか︑職権破棄すべきかどうかを検討するために記録を読み込む

実際の負担はほとんど代わりがないとの指摘がある 芦︶︒ 高橋教授も︑裁判官が最高裁の裁量性に言及することは心情的に理解できると述べている 鯵︶︒最高裁の負担が依然とし

て重いからである︒

しかし︑最高裁の負担が軽減されないのは︑上記のように︑本来申立てられるべきでない上告ないし上告受理申立が

非常に多く︑また最高裁判所も裁判所としての﹁本来の職責﹂に忠実に︑上告受理申立を受けて︑申立を受理すべきか

どうか︑職権破棄すべき事由がないかどうか︑内容に踏み込んで検討しているからである ︵梓

その結果︑九五%は受理されずに終わっており︑受理後の事件数は︑申立件数のわずか五%にすぎない︒ということ

(18)

は︑上告受理申立の審査についていま少し合理的な対応が可能であれば︑あるいは当事者がいま少し上告について謙抑 的になり︑真に上告・上告受理申立に値する事件だけを申立てるようにすれば問題は相当数解決し ︑上告審理について

はより突っ込んだ検討が可能になるということである︒

現在の最高裁の負担は確かに重い︒職権破棄は義務的であるとすると︑最高裁による職権行使を期待して︑とりあえ

ず上告受理理由を取り繕って申立てるという当事者がでてくる虞はないとはいえない 斡︶︒しかし︑そのような申立は︑お

よそ受理しないという運用ができるように法改正がなされたのであり︑そこでスクリーニングされた後の事件につい

て︑さらに審理を端折ることまでは想定していなかったのではないか︒

むしろ︑無駄な上告がなくなるので︑受理された事件についてはこれまで以上に充実した審理がなされることが期待

されていたはずである︒

スクリーニングがうまくいかないからといって︑審理についても裁量性を高めるべきであるというのはいかがなもの

か︒確かに︵裁判所から見たら︶むだな申立が多く︑それが最高裁判所の負担軽減を阻んでいるのだとしたら︑その場

面において法の趣旨に従って厳正に対応すべきであり︑それ以上でもそれ以下でもない︒

︵三︶旧法と現行法との関係をどのようにとらえるか

先に見たように︑現行民事訴訟法三二五条第二項は︑最高裁判所に破棄する裁量権を与える趣旨で制定されたもので

はない︒破棄事由は旧法時と変わらないものであるということを示すために新設された規定である︒すなわち︑裁量規

定ではなく︑権限規定であるということである︒裁判所が権限を有しておきながら︑事案によってそれを行使したりし

なかったりすることは︑当事者に対する公平の観点から問題がある︒両当事者間の公平よりも裁判所を利用する当事者

(19)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

によって裁判所が権限を行使したりしなかったりすることが︑法の下の平等︵憲法一四条︶の観点から問題となるので

ある︒

憲法上の問題は上告受理申立の段階でも問題となったが︑上告受理申立制度は︑法令解釈に仮借した事実認定の争い

を排除し︑本来上告審が扱うべき︑法律上の解釈に問題がある事件だけに絞り込むために導入されたものであり︑その

趣旨に従って運用されている限りは︑法の下の平等を損なうものではない︒しかし︑審理において︑判決に影響を及ぼ

すべき法令違反を見つけておきながらこれを取り上げるかどうかを裁判所の裁量に委ねるということは︑当事者ごとに

異なる法解釈をすることに等しいので︑是認されるべきではない︒

法の下の平等は︑上告の目的を当事者救済に求めるか︑法令解釈統一に求めるかにかかわらず国民に保障されるされ

るべきことであり︑裁判所の職責が事実について法を適用し判断を示すことにある以上︑その職責は果たされなければ

ならない ︵扱︶

︵四︶裁判所の法令調査義務をどのようにとらえるか

最高裁判所の法令調査義務については︑必ずしも多数が認めるところではないようであるが︑裁判所の一般的な職責

として︑法を適切に適用して判断を示す義務があることには争いはなかろう︒下級審の判断について誤りがないかどう

かについてチェックをおこなうのが上級審の役割だとすれば︑当然︑最高裁判所も同じ役割を担うことになる︒問題

は︑当事者の主張がない部分についても当然に調査義務を負うかどうかであるが︑当事者の法的主張には裁判所は拘束

されない︑というのが裁判所と当事者との基本的な関係であったはずである︒それがなぜ︑最高裁判所に限り変質する

のか今ひとつ理解に苦しむところである︒多数説はこれを否定するのであるが︑この点については稿を改めて論じるこ

(20)

とにしたい︒

本稿ではこの点に関連して次のことを指摘しておきたい︒もし調査義務があるとすれば︑義務を行使した結果発見さ

れた法令違反についてはその旨指摘する義務が発生する ︵宛と考えるのは自然である︒一方︑多数説のように調査義務がな

いとしたらどうか︒審理の過程で﹁たまたま﹂法令違反を発見したときに︑これを指摘しないですますことができるの

であろうか︒多数説は︑たとえ調査義務はないとしても︑一度原判決に法令違反を発見したならば職権で破棄すべきで

あると考える 姐︶︒すなわち︑調査義務と職権破棄義務とはイコールではないのである︒多数説は︑民事訴訟法三二〇条に

より︑職権調査事項を除き︵同法三二二条︶︑上告理由以外について調査する義務はないと解している︒にもかかわら

ず民事訴訟法三二五条第二項が︑上告理由以外の事由で原判決を破棄することを認めているのは︑ひとえに最高裁判所

の負担軽減のために︑本来審理されるべき法令違反を上告理由から外したことに対して手当したものであり︑破棄理由

に関しては従前と変わらないものとする趣旨であることは既に述べた通りである︒そうでなければ︑高等裁判所に対す

る上告と最高裁判所に対する上告とで破棄事由が異なることになってしまう︒

であるならば︑調査義務と職権破棄との関係は直線的なものではないことになる︒

︵五︶私見

職権破棄について最高裁判所の裁量を認める立場と︑認めない立場についてそれぞれ検討してきた︒その結果︑本稿

においては︑次のような私見を得た︒

民事訴訟法三二五条第二項は︑最高裁判所に対する上告理由が制限された現行法においても︑破棄事由については旧

法のまま維持されていることを示す条文である︒従って︑本条を理由に職権破棄に裁量性を認めることはできない︒

(21)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

旧法では︑破棄事由が認められれば原判決は破棄されなければならないとされていたのであるから︑その解釈は現行

法でも引き継がれなければならない︒

学説においては︑上告の目的や法令調査義務との関係でこれを論じるものがあるが︑前述のように︑いずれも直接の

関係はない︒

立法の経緯からこのことは明らかであり︑それ以上の配慮は必要ないものと考える︒なお本稿は︑裁量性を否定する

積極的根拠として︑当事者︵裁判所利用者︶間の法の下の平等︵憲法一四条︶を主張する点で︑従来の学説に新たな視

点を加えるものである︒

︵六︶おわりに

本稿では︑民事訴訟法三二五条第二項の解釈に限定し︑職権破棄の裁量性について検討してきた︒その過程で︑裁判

所の法令調査義務︑上告制度の目的といった問題に触れることとなった︒いずれも一応の見解は有しているものの︑深

く検討するところまでは至らなかった︒また︑上告受理決定の裁量性も今後取り上げる課題であると考えている 虻︶︒最終

的には上告審のあり方について一定の方向性を示すことを目標とし︑その一里塚としてささやかな論考をまとめた次第

である︒

20︶青山善充﹁上告審における当事者救済機能﹂ジュリ五九一号八三頁︑新堂幸司﹃民事訴訟法﹄︵昭和四九年︑筑摩書房︶五

六二頁︑高橋宏志前掲註︵

18︶

21︶従来の通説︒兼子一﹁上告制度の目的﹂﹃民事法研究︵二︶﹄︵昭和二九年︑酒井書店︶一七一頁︑小室直人﹁民事上告の性

(22)

格﹂﹃上訴制度の研究﹄︵昭和三六年︑有斐閣︶一二一頁︑三ヶ月章﹃法律学講座双書民事訴訟法︵第三版︶﹄︵平成四年︑弘

文堂︶五一七頁など多数︒

22︶鈴木重勝﹁当事者救済としての上訴制度﹂新堂幸司編集代表﹃講座民事訴訟法︵七︶上訴・再審﹄︵昭和六〇年︑弘文堂︶

一頁以下︑大須賀虔﹁上訴制度の目的﹂同書三七頁以下︑林屋礼二﹃新民事訴訟法概要︵第二版︶﹄︵平成一六年︑有斐閣︶四

〇六頁など︒

23︶高橋宏志﹁重点講義民事訴訟法民事上告について︵四︶﹂法学教室三五八号一一五頁

24︶前掲註︵3︶参照

25︶座談会前掲註︵

12︶三八頁福田剛久発言︑福田ほか前掲註︵

12︶八頁参照︒

26︶複数の高等裁判所判事からそのような感想を仄聞した︒なお︑滝井繁男﹃最高裁判所は変わったか﹄︵平成二一年︑岩波書

店︶四三頁︑四七頁参照︒

27︶滝井前掲註︵

26︶四四頁

28︶高橋前掲註︵

23︶

29︶滝井前掲註︵

26︶︑福田前掲註︵

12︶

30︶滝井前掲註︵

26︶でも繰り返しその旨記されている︒﹁最高裁判事の負担が変わるのは︑制度の趣旨が理解され︑上告

事件を選択するための関係者の努力の積み重ねに待つほかないのかと思う﹂︑﹁常に最高裁のあり方としてそれでよいのかとい

う自問をすることもあって︑最後まで悩み続けた﹂と︵同書四八頁︶︒

31︶福田判事が研究会前掲註︵6︶において︑上告受理や職権破棄について義務という表現を頑に拒んだのも︑それをおそ

れてのことだと思われる︒

32︶裁判所も︑これを否定するものではない︒研究会前掲註︵6︶における柳田発言や︑福田発言でも︑裁判所の﹁職責﹂は

あると繰り返されていることからも明らかである︒裁判所が職責を忠実に果たさんと努力した結果︑法が意図した最高裁判所

の負担軽減が叶わなくなっているのが現状である︒このジレンマをどのように解決するかが問題である︒

33︶上野𣳾男前掲註︵6︶

34︶前掲註︵6︶参照

(23)

民事上告審における職権破棄の裁量性について

35︶本稿の執筆にあたり関西民事訴訟法研究会︵平成二二年一一月二七日︑エル・オオサカ︶に報告の機会を得た︒その際の

示唆は本稿をまとめる際し大いに参考になった︒また︑上告制度のあり方そのものについても比較法により研究を深めるよう

示唆を得た︒報告の際には︑高橋教授と異なり︑当事者救済機能をもとに職権破棄の裁量性を否定するというわけではないよ

うだが︑そうすると上告受理の裁量性はどうするのか︑という質問も頂戴した︒当事者救済機能を理由としていないので︑上

告受理の段階でも当然に裁量性を否定するということにはならないのではないかというご指摘であった︒職権破棄の裁量性を

否定したからといって当然に上告受理決定についても裁量性を否定することにならないというのは︑ご指摘の通りであり︑次

稿ではこの問題について説得的な検討を試みることにしたい︒報告機会を得たことおよび報告の際の会員の御示唆に深く謝意

を表したい︒

参照

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[r]

増田・前掲注 1)9 頁以下、28