奈良教育大学学術リポジトリNEAR
職業レディネス・テストにおける興味と自信
著者 玉瀬 耕治
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 14
ページ 79‑84
発行年 1978‑03‑25
その他のタイトル Discrepancies between Vocational Interests and Confidence in a Vocational Readiness Test.
URL http://hdl.handle.net/10105/6400
職業レディネス・テストにおける興味と自信‡
玉 瀬 耕 治
(心理学教室)
職業レディネス・テストは,職業に対する構えを測定するために職業研究所(1972)によって 開発された検査である。この検査の特色の1つは,さまざまな職務に対する興味を測定するA検 査と,それらを遂行するにあたっての自信の程度を測定するC検査を含んでいることである。A 検査は従来の職業興味検査にあたるものであるが,C検査を付加することによって,主観的な実 現可能性を考慮した職業的発達の水準が判定される。職業研究所(1974)は,この検査に関する 基礎的研究として,性差,年齢差,地域差を調べ,また知能検査,職業適性検査,性格検査,職 業興味検査などとの相関的関係,実際の職務に対する態度との関係などについて検討している。
ところで,実際にこの検査を実施してみると,測定される8つの職業クラスターの多くにわた ってA検査の標準得点がC検査のそれを上まわる場合と,その逆の場合が生じてくる。このよう な正または負のくいちがいの意味が十分検討されない限り,検査結果の解釈は的を得たものとは なりにくいであろう。本研究は,このようなA検査とC検査のくいちがいの意味を明らかにする ために行われたものである。先に玉瀬(1977)は,教育大学の女子学生について,教育実習を受 ける前後に職業レディネス・テストを行った。第2回目の検査時にY−G性格検査も実施し,A 検査およびC検査の得点が,それぞれ教育実習後に全体的に増加した群と減少した群を比較した。
その結果,興味(A検査)が増加した群は,それが減少した郡よりもY−G検査において,劣等 感,主観性,および非協調性あ得点が有意に高かった。自信(C検査)については増加群と減少 群の間に差はみられなかった。また,第1回目の検査について,C検査に比して極端にA検査の 得点が高い興味型群(合計点の差の範囲は40−170)と,逆にC検査の得点が高い自信型群(同 一70一一180)についてY−G検査の結果を比較した。その結果,興味型群は自信型群よりも気分 の変化の得点が有意に高く,その他の情緒安定性に関する得点についても高い(不安定)傾向が 示された。これらの結果から,全体的に興味が自信を上まわる者の方が,その逆の者よりも情緒 的により不安定であることが予想される。
‡ Discre脾皿。ies between Vocationa1Inte満sts and Confidence in a Voc趾ion31 Readiness Test.
構‡ Ko凹ji Tam^se (De脾rt㎜ont o{PsychoIogy,Na閉UIliwersity of Ed凹。atioI1,NaI−a)
方 法
被検者 近畿大学の男子学生124名が職業レディネス・テストを受検した。これらの被検者は 理工学部70名,商経学部22名,および農学部32名より成っている。このうち104名がY−G検査 を受検した。各学部内の人数は順に,57名,17名,30名である。
材 料(1)職業レディネス・テスト この検査は,A,B,Cの3検査から成り立っている。
A検査では,職業の内容を記述した39項目の質問(たとえば,新聞や雑誌の編集の仕事で,特集 のテーマを考え,自分でも実際に言己事を書く)が設けられ,各項目に対する好みの程度を やり たい から やりたくない までの5段階で評定させる。B検査では,日常の行動や意識に関す る20項目について,それぞれ3つの選択肢から自分にもっとも近いものと遠いものを1つずつ選 ばせる(たとえば,夏休みには,⑦好きな小説などをゆっくり読んでみたい,①友だちとキャン プや合宿生活をしてみたい,②時間をかけて,自分で何かものを作ってみたい)。C検査ではA 検査と同じ項目を用い,その仕事を遂行する自信の程度を 自信がある から 自信がない ま での5段階で評定させる。このようにしてA検査では,機械・技術(I),研究・管理(II),自 然・医療(m),対人・社会(W),社会・芸術(V),事務(VI),対人・サービス(W),
および手工・技能(皿)の8つの職業クラスターへの興味が測定され,C検査ではそれらのクラ スターへの自信が測定される。B検査では,興味や自信の基礎となる3つの志向性,すなわち対 情報関係志向(D),対人関係志向(P),および対物関係志向(T)が測定される。
(2)Y−G性格検査 この検査では, 120項目の質問に,一 はい , いいえ , どちらでも ない のいずれかで答えさせ,情緒安定性(D,C,I,N),社会適応性(O,Co,Ag),お よび向性(G,R,T,A,S)に関する12の性格特性について測定することができる。
これらの検査は,それぞれ授業時間中に,実施者が各項目を読みあげて回答させる強制速度法 で行われた。
結 果
興味と自信の差と性格職業レディネス・テストにおけるA検査とC検査の差と性格との関係 を明らかにするために,A検査とC検査の差に関する3つの異なる指標を用いて,それぞれにつ いて得点の高い者と低い者30名ずつを選出した。第1の指標は,玉瀬(1977)が用いたもので,
A検査の合計点からC検査の合計点を引くことによって得られたものである。この値が高い者(
合計点の差の範囲は4ト266)を興味型①群,低い者(同一37〜一317)を自信型①群とした。第2の 指標はA−Cで求められる各クラスターの正負の符号を問題にしたものである。マイナス符号の 少ない者(O〜3個)を興味型②群,それの多い者(5〜8個)を自信型②群とした。これら2 つの指標は,前者ではクラスター内のA−Cの値の大きさが被検者の選出に関与し,後者では全
クラスター中での同一符号の数の多さがそれに関与する点で異なっている。第3の指標はOsgood
一80一
amd Suci(1952)のD得点(D=!訂一,ここではd=A−C)を用いたものである。この指標で は,A検査とC検査の差の大きさと全体のプロフィールのちがいが同時に考慮されている。興味 と自信のどちらが高いかは問題にされないが,両者のくいちがいの大きさを問題にすることがで きる。D得点の高い者を差大群,低い者を差小群とした。
表1は上記3つの指標で選ばれた各群のY−G性格検査の平均と標準偏差を示したものである。
興味型群と自信型群,および差大群と差小群の間でそれぞれの特性ごとに,検査を行った。その 結果,興味型①群と自信型①群の問では,どの特性についても有意差はみられなかった。興味型
②群と自信型②群についてはI(劣等感)において,興味型②群の方が自信型②郡よりも有意に 高く,劣等感がより強いことが示された。その他の特性については,いずれも有意差はみられな かったが,D,C,I,Nの情緒安定性に関しては興味型②群(合計点が40.5)の方が自信型② 群(同33.3)よりも高い(より不安定な〕傾向がみられる(ただし一=1.54,舳,)。また,G,
R,T,A,Sの向性に関しては自信型②群(合計点が61.7)の方が興味型②群(同53.6)より も高い(外向的〕傾向がみられる(,=1.87,π3)。
表1 職業レディネス・テストにおけるA検査とC検査の差とY−G検査の結果
情緒安定性 社会適応性 外向一内向
群
D C I N 小計 0 C o A g 小計 G R T A S 小計 興味型①群
自信型①群
M 9.7 9.5 9.4 9,3 38.0 9.5 8,0 11,9 29,0 12,3 12.4 9,0 10,9 13,0 57.6
SD 6.5 5.0 5.4 5,7 20.2 4.7 4.8 3.9 9.3 5.7 4.0 4.0 5.6 5,0 17.5
^一 8.6 9.3 7.l 10,2 35.3 8.2 8,6 12,2 29,0 13,7 11.1 8,4 11,6 13,4 57.7 SD 5.9 4.9 4.6 4,9 18.7 4,8 4.4 3,3 10.4 4.4 5.2 4.6 4.4 5,0 14.9 (すべて有意差なし)
興味型②群
自信型②群
M 10,7 10.1 9,4 10,2 40.5 9.1 8,0 11,2 28,3 11,7 11.9 8.8 9,7 11,6 53.6
Sj〕 5.9 4.5 5.1 5,0 17.6 4.6 4.5 3.9 9.4 5.4 3.7 4.1 5.4 5,2 16.4
〃 8.2− 8.8 6.4 9,8 33.3 7.8 8,5 11,8 28,2 13,8 11.8 8,9 11,6 13,9 61.7
SD 5.8 4.8 4.5 4,7 17.9 4.3 3.5 3.6 9.3 4.2 419 4.5 417 5,4 16.5 2.33*
差大群 〃 8,9 10.4 8.l10,038.1 8.7 8,212,4 29,2 13,9 13.2 9,4 10,9 14,060.5 SD 6.1 4.8 5.0 5,1 18.6 4.5 4.6 4.2 9.5 4.9 4.1 4.4 5.5 5,3 16,0
差小群 M 8.6 8.5 6.9 9,532.8 8.3 6,710,7 25,7 11,7 10.4 9,7 10,9 11,7 52.9
SD 6.7 4.8 4.7 5,2 19.5 4.7 4.4 4.0 9,6 5.2 3.8 4.0 5.1 5,5 15.2 2.67‡
各群ともW=30, ‡P<一05
D得点に関する差大群と差小群の問では,R(のんきさ)について有意差がみられた。これは 差大群の方がよりのんきであることを示している。その他の特性についてはいずれも有意差はみ
られなかったが,向性全体に関しては差大群(合計点が60.5)の方が差小群(同52.9〕よりも高
い(外向的)傾向がみられる(!=1.85,冊5.)。
学部間の比較 表2は各学部ごとに職業レディネス・テストの平均得点(標準得点)と標準偏 差を示したものである。各クラスターごとに3つの学部間の差について分散分析を行った。その 結果有意であったものだけにっいて,表2の下欄にF値が示されている(〃はいずれも2と121)。
有意なF値が得られたものにっいては,さらに誤差項を用いて単純効果の検定を行った。表2の 最下欄にこの結果が示されている。たとえばA検査の第Iクラスターについては理工学部は商経 学部および農学部よりも有意に得点が高い。ここで不等号が細線の場合は5%水準,太線の場合 は1%水準で有意であることを表わしている。これらの結果から,A検査,C検査ともに,理工 学部の学生は他の学部に比してI(機械・技術)およびII(研究・管理)の得点が高く,商経学 部の学生はw(対人・社会)の得点が高く,農学部の学生はm(自然・医療)の得点が高いこと がわかる。またB検査に関しては,理工学部と農学部の学生はT(対物関係志向)の得点が高く,
商経学部の学生はP(対人関係志向)の得点が高いことがわかる。
表3は,各学部ごとにY−G性格検査の平均得点と標準偏差を示したものである。各特性ごと に3つの学部間の差について分散分析を行ったところ,F値はいずれも有意ではなかった。
表2 各学部における職業レディネス・テストの平均得点と標準偏差
^検査嶋味〕 B検査1志向性〕 C検査;自信j
学部 I I1 ㎜ W V 珊 ㎜ l D P T I Il 1I1 冊 V 刊 ㎜ 1
理工 〃
5D
商経 〃
∫D
農学 〃
∫D
109,1
19,8
93,8
13,4
91,0
16.2
111. 100.6 119.1 104.9 107.8 106.7 101,3 i02,6 92.1 105,1
16,2 17,4 16,0 17,1 19,0 22,5 22,4 17,6 20,0 20,6
97.9 107.6 133.4 116.0 122.2 122.5 108.6 113.9 104,4 82,0
15,4 16,3 15,4 17,2 16,9 14,4 14,3 18,7 13,7 18,9
97.2 127.3 117.9 102.7 108.3 109.3 105.2 105,7 89.9 105,3
20,1 13,4 15,8 19,0 23,4 18,4 20,0 22,0 24,7 24.3
1m.3
1o.7
92,6
15,0
97,3
17.O
u0.5 109.4 113. 99.O l10.5 107.l 103,7 17,2 18,9 10,9 20,4 19,1 19,8 23,5
94.6 100.4 125.2 110.3 118.5 1]8.7 104,9 16,5 17,2 15,6 19,1 19,0 16,6 15.1
101.7 125.4 117.6 106.4 114.8 112.7 110,8
20,6 17,0 17,2 20,7 21,5 20,6 19.2
納 ■■ ,■ ■ , ■ ■■
13.5 9,9 15.7 7.6 4.1 4.4 5.0 箏■ 納 ■,
3,5 10,5 11.0 7,3 13.6 3.6
理)商理)商理{農理く商理く商哩く商躍〈商 理)農理)農商{農商〉農商}農商〉農商〉農
理く商理〉商理)商理〉商理)商理(商 商〉日商〈農理)農理〉農理く農
商{農
I:機械・技術,II:研究・管理,lII:自然・医療,lV:対人・社会,V:社会・芸術,W 事 務,㎜:対人・サービス,㎜:手工・技能,D
関係志向
,P<.05, P<.01
:対情報関係志向,P:対人関係志向,T:対物
一82一
表3 各学部におけるY−G性格検査の平均得点と標準偏差
学部 D C I N O Co Ag G R T A S 理工 M 8.6 8.7 7.3 9.6 8.7
Sj) 6.4 5.2 5.3 5.7 4.6
商経 M 12,5 11.1 9,310,410.5
SD 5.2 3.8 3.9 4.6 4.O
農学 M 9,8 10.8 8,511.7 9,1
S ) 5.6 4.2 3.9 3.6 4.5
7.8 1I.7 12,3 12.0 9.1 10,8 13.1 4.8 4.0 4.9 4.3 4.5 5.2 5.4 8,6 10,9 11,8 12,3 10.O 1O.4 11.5 3.8 4.5 4.8 3.4 3.7 4,3 4.0 8,8 11,7 12,2 10.9 7,2 10,2 11.9 4.0 3.1 4.4 5.1 4.0 4.3 5.O
各特性とも学部間に有意差なし
考 察
本研究の主な結果は次のとおりである。(1幟業レディネス・テストのA検査の方がC検査より も全体的に上まわる興味型②群は,その逆の自信型②郡よりもY−G性格検査のI(劣等感)の 得点が高かった。(2)A検査とC検奔の差(D得点)が大きい差大群は,差小群よりもR(のんき
さ〕の得点が高かった。(3)学部ごとに職業レディネス テストの結果を比較してみると,A検査,
C検査ともに,理工学部の学生は他の学部に比してI(機械・技術)およびII(研究・管理)の 得点が高く,商経学部の学生は1V(対人・社会)が高く,農学部の学生はm(自然・医療〕が高 かった。またB検査では,理工学部と農学部はT(対物関係志向)の得点が高く,商経学部はP
(対人関係志向)が高かった。
A検査とC検査のくいちがいを表わす指標として,本研究では3つの指標が用いられた。これ らの指標はそれぞれ幾分異なる意味をもっている。A検査とC検査の合計点の差を指標とした場 合には,A−Cの値が大きい特定のクラスターの影響があらわれやすい。この指標は玉瀬(1977)
と同様のものであるが,本研究では興味型①群と自信型①群の間でY−G検査の結果に何ら有意 差はみられなかった。2つの研究は合計点の差の範囲がかなりちがっているが,そのことが両者 の結果のちがいに関係しているかどうかは明らかでない。A−Cの符号の数を指標とした場合に は,A−Cの差の大きさよりもむしろ,全体としてA検査とC検査のどちらの輪がより大きいか を表わしている。この指標を用いて選ばれた興味型②群は自信型②郡よりも劣等感が大であるこ とがわかった。また有意ではないが情緒安定性全体についても興味型②群の方が得点が高く,よ り不安定な傾向がみられたといえる。玉瀬(1977)の結果と本研究の結果をあわせて考えてみる と,職業レディネス・テストのプロフィールを視覚的に肥えた時,全体的にA検査の輪がC検査 の論よりも大きい者と,その逆の者では性格,特に情緒安定性に関して異なることが示唆される。
もう1つの指標であるD得点は,プロフィールのちがいも考慮に入れたA検査とC検査の差を 問題にしたものである。このD榑点による差大群と差小群の間には,R(のんきさ)において差 がみられた。また向性全体に関しても,有意ではないが,差大群の方がより外向的である傾向が
示された。この指標ではA検査,C検査のどちらの輪が大きいかは問題でなく,くいちがいの大 きさのみが問題にされている。本研究の結果から,このくいちがいの大きい者の方がより外向的 であると思われる。
これらの結果は,①大学生について得られたものであること,②A検査とC検査の得点そのも のの大小(発達水準)を無視していることなどの点で,今後さらに検討すべき問題を含んでいる といえる。職業レディネス・テストの学部間の比較から,各学部の特徴が明瞭に示されているこ とがわかる。これはこのテストの妥当性を示しているといえよう。
要 約
男子大学生に職業レディネス・テストとY−G性格検査を行い,次のような結果を得た。(1)職 業レディネス・テストのA検査の方がC検査よりも全体的に上まわる興味型②群は,自信型②郡 よりもY−G検査のI(劣等感)の得点が高い。(2)A検査とC検査の差(D得点〕が大きい差大 群は,差小群よりもR(のんきさ)の得点が高い。(3)職業レディネス・テストの結果は,理工学 部,商経学部,および農学部の問で顕著な差がみられる。
引 用 文 献
Osgood,C.E.,& S凹。i,G.』。1952A Meas凹m o{m1ation determined by both m餉n d冊el・ence and profile information.P5gcん。 o8比α Bω〃e π,49,251−262.
職業研究所 1972職業レディネス・テスト手引 東京:雇用問題研究会.
職業研究所 1974 職業レディネス・テストの開発,職業レディネス・テストと関連諸変数 職 業研究所研究紀要7.
玉瀬耕治 1977職業興味におよぼす教育実習の影響 奈良教育大学教育研究所紀要13,47−52.
一曲一