• 検索結果がありません。

行政処分による集団的消費者被害救済

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "行政処分による集団的消費者被害救済"

Copied!
36
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

《論  説》

行政処分による集団的消費者被害救済

――EU消費者保護協力規則(2017年)制定を踏まえて――(二)

宗  田  貴  行

目次

一 問題の所在 1 本稿の目的 2 議論の必要性

3 本稿において検討を行う内容

二 従来の景表法・特商法・消費者契約法違反に係る金銭的被害救済制度の限界 1 景表法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

2 特商法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界 3 消費者契約法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界

4 小括に代えて――妨害排除請求権による金銭的被害救済の意義(以上、109号)

三 行政処分による金銭的被害救済の必要性

1 消費者被害の変容による市場経済の前提条件の整備の必要性の増加 2 EU消費者保護協力規則(2004年)・ドイツVSchDGの意義(以上、本号)

四 消費者法分野の各法における行政処分の種類・目的・要件・内容 1 景表法上の措置命令の種類・目的・要件・内容

2 特商法上の指示の種類・目的・要件・内容 五 行政処分による金銭的被害救済の妥当性

1 EU消費者保護協力規則(2017年)制定等

2 我が国の景表法及び特商法上の行政処分による金銭的被害救済の妥当性 3 消費者契約法上の不当勧誘及び不当条項についての行政処分の導入の妥当性 六 消費者法分野等の各法における行政処分による金銭的被害救済

1 従来の見解

(2)

2 従来の行政処分による金銭的被害救済の根拠・要件・内容 3 景表法上の措置命令及び特商法上の指示等に基づく返金命令 4 返金命令の実効性の確保

5 返金命令の利点

6 返金命令の限界とその解消の可能性 7 従来の見解の検討

8 電気通信事業法上の措置に基づく返金命令 七 結語

1 法理論上の2つの疑問に対する答え

2 行政処分による金銭的被害救済に係る立法の提案

三 行政処分による金銭的被害救済の必要性

1 消費者被害の変容による市場経済の前提条件の整備の必要性の増加

⑴ 序

民事法的手法による消費者被害救済が不十分であること(二)から、金銭的 被害救済を行政処分によることとすることは必要であるのかについては、一で 示したように、幾つかの事柄から、それを肯定しうるようにもみえるが、上述 した法理論上の2つの疑問に答える前提として、十分なものとはいえない。行 政処分による金銭的被害救済の必要性については、以下のように考えるべきで ある。

公法私法二元論の下で、民事法上の手法によってのみ、金銭的被害救済が行 われるべきであるとしても、個々の被害者の請求権について、各人が訴訟を提 起することは、各被害者の請求額に比べ、費用や労力や時間がかかり過ぎ、割 に合わないことや、法的知識の欠如等の事情から、あまり現実的ではない。ま た、適格消費者団体の差止請求権も、少なくとも従来の一般的理解によれば、

消費者の金銭的被害救済を行い得るものではない。このようなことから、消費 者団体が消費者の請求権を訴訟上纏めて行使する制度も、我が国において、す

(3)

でに、消費者裁判手続特例法上、用意されているところである。しかし、これ までのその運用を踏まえると、原告たる特定適格消費者団体の手続のための過 大な諸費用の負担や、適用範囲の過度な限定等に基づき、この制度は、利用し にくいものとなってしまっているのが現状である。このように各人が訴訟提起 をすることにも、消費者の個々人の請求権を消費者団体が纏めて提訴する方法 にも限界があるといえる。

⑵ 独禁法分野の行政処分による金銭的被害救済における価値判断

このような問題状況は、ドイツにおいても同様であり、このような状況を踏 まえ、今日のドイツにおいては、集団的被害救済制度改革を進める

1)

と共に、

すでに、GWB分野において、1990年代以降の市場支配的地位の濫用の被害事 業者の同法上の妨害排除請求権に基づく金銭支払請求を認める判例理論を参考 にして、2000年代に入り、行政処分による消費者被害救済が、市場支配的地位 の濫用(GWB19条・20条)に該当する公共料金の不当な値上げの事例におけ る極めて多数の消費者に対する利益返還(返金)命令(GWB32条2a項)とい う形で行われ、また、BGB307条以下の定める約款条項の内容規制に違反する 不当条項の使用が、市場支配的地位の濫用(GWB19条・20条)に該当する事

2)

におけるカルテル庁の利益返還(返金)命令(GWB32条2a項)も、すで に制度上可能とされている

3)

1) 宗田貴行「ドイツ民訴法改正による多数消費者被害救済のためのムスタ確認訴訟制 度の制定 ――我が国の消費者裁判手続特例法との比較検討――」獨協法学107号2018 年215―327頁。

2) BGH, Urt. v. 06.11.2013, Az.: KZR 58/11, WuW/DE-R 4037ff ., BGHZ 199, 1 Rn. 47, 58  - VBL Gegenwert; BGH, Urt. v. 24.01.2017, Az.: KZR 47/14, „VBL-Gegenwert II“,  WuW 2017, S. 283 -S. 286, WRP 2017, S. 563 ‒ S. 568, NZKart 2017, 242-245.

3) さらに、金融サービス監督法(以下、「FinDAG」という)上の行政処分による被害 救済も指摘されている。すなわち、FinDAG4条1a項は、概略、以下のように定める。

「金融サービス監督庁(BaFin)は、法律上の委任の範囲で、消費者の集団的利益の 保護のためにも、活動の義務を負う。金融分野の関連諸法その他の法律により同庁 監督下にある企業等に対し、その一般的解明が消費者保護の利益となる場合におい

 

(4)

では、上述のように、GWB上、利益返還(返金)命令という形で、行政処 分による金銭的被害救済が、法理論上妥当なものとして許容されている背景に は、どのような価値判断があるのであろうか。これについては、以下のように 考えることができる。

今日のように高度に資本主義経済が発達し、市場における参加者間で情報力 や資本力等の諸要素の格差が生じ、ある事業者の一定の市場行動が、市場にお ける自由な競争秩序や取引の公正に反する形で、他の多数の市場参加者たる消 費者の利益を侵害し、それらの者に財産的被害を生じさせ、それらの多数の消 費者の同種の被害が回復されず、違反行為によって不当に獲得した利得が、違 反行為者の手元に残存し続けているという状態が、多く見受けられている。こ れでは、市場参加者の実質的平等が担保されることはなく、一見、自由競争に 則った企業行動も、実は、不正な利得の確保の上に成り立っているに過ぎない。

それ故に、我々の採用した資本主義経済は、見掛け倒しの代物と化してしまっ ているといっても、もはや過言ではない。それ故に、市場参加者間の公平を担 保することによる市場主義経済自体の、或いは、そこにおける企業体に対する 信頼性の復活が、今日の資本主義経済の重要なテーマとなっているといえる。

そこで、このために、今日においては、法政策上の観点から、このように違反 によって生じている多数の消費者の同種の被害を回復する必要が、従来に比し、

て、消費者保護に関する弊害(Missstand)を防止又は排除するために必要かつ十分 な命令を下しうる。この弊害は、その種類又はその範囲にしたがい、個々の消費者 のだけではない利益を危険にさらし又は阻害しうる、重大な又は継続又は反復され る消費者利益保護法規違反を意味する。」濫用的条項の使用又は不公正な取引方法の 事例において、FinDAGに基づく命令によって、被害を受けた消費者を突き止め、そ の損害を回復させる可能性は、認定が必要とされる不当な利益の算定を劇的に変化 させうるのであり、GWB上の利益返還命令(GWB32条2a項)と同様、著しい威嚇効 果を有するものである、と指摘されている(Peter Rott, Behördliche Durchsetzung  von Verbraucherschutz in Großbritannien, den Niederlanden und den USA, Hans  Schulte-Nölke/Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz Hrsg.,  Neue Wege zur Durchsetzung des Verbraucherrechts, Springer, 2017, S. 31-S. 83, S. 

82.)。

 

(5)

より大きなものとなっているといいうるのであり

4)

、かかる回復によって同時 に、違法な利得が違反行為者の手元に残存し続けているという状態を解消する べきであるといえる。このため、係る多数の消費者がその同種の被害の回復を されていない状態を個別の利益の侵害又は集団的利益の侵害として私法秩序の 侵害と捉える

5)

のみでは、もはや十分ではなく、係る状態について、公法秩序 を侵害し、行政法上の違法状態を作出し続けているものであると、法的に評価 すべきである、という価値判断が、そこに働いているとみることができる。

⑶ 消費者法分野の行政処分による金銭的被害救済に係る価値判断

今日の我が国、EU、そしてドイツ等のEU加盟国において、このような同種 の財産的被害が多数の消費者において救済されていない状態について、行政法 違反行為の結果として生じた違法状態として法的に判断し、それを排除する必 要がある、との価値判断は、以下のような理由に基づいて、独禁法分野だけで はなく、消費者法分野にも必要であり、かつ、妥当であると考えられる

6)

4) 利益返還命令(GWB32条2a項)の創設に尽力したボーンカム連邦通常裁判所裁判官

は、利益返還命令について、第一に、被害の補償、第二に、利益の剥奪の目的があ るとしている(Bornkamm in Langen/Bunte, Kartellrecht, 10.Aufl . 2006, §32 GWB,  Rn. 26)。

5) 従来からGWB違反に係る消費者の差止及び損害賠償請求権が認められているところ

(同法33条1項等)、2012年のGWB第8次改正によって、同法上、消費者団体の差止請 求権(同法33条)及び利益剥奪請求権(同法34a条)が明記されている(宗田貴行「ド イツ競争制限禁止法への消費者団体訴訟制度の導入」公正取引758号2013年38−48頁)。

6) 本城昇「EUにおける不公正な消費者取引行為の規制(下)――EU指令・規則とEU 主要国の動向――」国民生活研究48巻4号2009年1−25頁、20頁は、「市場経済を健全 かつ効率的に運営し、市場の公正な取引・競争秩序を確保する上で、単に、独占禁 止法や競争法で自由な競争を促進するだけでなく、消費者法により、不公正な消費 者取引行為を排除・防止し、消費者取引の公正化を図り、市場における公正な競争 を確保することは極めて重要である。行政当局は、市場の公正な取引・競争秩序を 確保し、市場経済を健全かつ円滑に運営するという広い視野を持ちながら、市場経 済の番人として適切な役割を果たすことが求められていると言うことができ、中心 となる消費者保護当局にそれに相応しい権限が与えられるべきである。」とされてい

 

(6)

大量な取引相手との取引を定型的に行うために定款を用いた契約が、電力・

ガス・水道等の公共サービスや、銀行、旅行等々の様々な分野において、すで に長年にわたり日常的に使用されてきている。また、広告・勧誘については、

訪問販売、電話勧誘に加え、電子メール広告等の通信販売に係る広告が、広範 かつ大量に行われるようになって久しい。

さらに、近年における情報技術の著しい発達によって、インターネットを介 した消費者の取引や日常的な行動が、様々な場面で拡大し増加している

7)

。そ こにおいては、GAFAと呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマ ゾン

8)

といった高度情報化社会に特有の新たな巨大企業が出現し、それと並行 して、消費者の生活が、インターネット上の情報に大きく依存するようになり、

そこにおける情報の量及び種類の増加がみられると共に、情報の交換及び共有

(シェア)が、重要な価値を有するようになっている。また、加速的に進行す るデジタル化や、オンライン上のプラットフォーム

9)

を有する市場参加者が出 る。本稿も、このような見地に立った上で、行政処分による金銭的被害救済を論じ るものである。

7) 総務省・プラットフォームサービスに関する研究会事務局「プラットフォームサー ビスを巡る現状と課題」(2018年10月18日)によれば、「高精細映像の配信や、IoT等 の新たなICTサービスの進展に伴い、我が国におけるトラヒックは、ブロードバンド

(固定通信)、移動体通信ともに、近年急激に増大している」とされている。

8) Scott Galloway, The Four: The Hidden DNA of Amazon, Apple, Facebook and  Google, Portfolio (2017).

9) オンライン・プラットフォーム概念の定義については、例えば、「ICTネットワーク、

とりわけインターネットにおいて、多数の事業者間ないし多数の事業者とユーザー 間を仲介し、電子商取引やアプリ・コンテンツ配信その他の財・サービスの提供に 必要となる基盤的機能」(総務省情報通信白書(2012年版))等があるが、確定した 定義はない。欧州委員会の通知「欧州のためのオンライン・プラットフォーム及び デジタル単一市場の機会及び挑戦」(Online Platforms and the Digital Single Market  Opportunities and Challenges for Europe, SWD(2016) 172 fi nal, COM(2016)288)は、

これを定義すること避け、例示をし(通信サービス、ソーシャルメディア、オンラ イン広告、アプリケーション配信プラットフォーム、検索エンジン等)、その特徴(新 市場形成能力、多面市場での活動、コントロール力、ネットワーク効果による便益、

 

(7)

現することによって、既存の市場構造に大きな変化が生じ

10)

、かつ市場力の格 情報通信技術の利用、デジタル分野の価値創出)を挙げるに止めている(井上淳「欧 州連合(EU)におけるオンライン・プラットフォームに対する規制等の動向について」

メディア・コミュニケーション67号2017年65−82頁、66頁)。プラットフォーム利用 条件の明確性の確保、利用条件変更の場合の事前通知、検索ランキング決定の主要 要素の開示等を定めたプラットフォーム事業の透明性・公平性確保のためのEU規則

(Regulation (EU) 2019/1150 of the European Parliament and of the Council of 20  June 2019 on promoting fairness and transparency for business users of online  intermediation services, L 186/57)が、官報掲載日(2019年7月11日)の20日後、

つまり2019年7月31日より施行されている。我が国においては、総務省では、プラッ トフォームサービスに関する研究会が平成30年10月18日から開催され、内閣府消費 者委員会では、2018年5月15日より、「オンラインプラットフォームにおける取引の 在り方に関する専門調査会」(座長・中田邦博龍谷大学教授)が開催され、「オンラ インプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会報告書」(平成31年 4月)が公表されている。2019年1月13日時点では、経済産業省、公正取引委員会、

総務省の共同によるデジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検 討会「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」中間論 点整理」(平成30年12月12日)が公表されている。公取委「デジタル・プラットフォー マーの取引慣行等に関する実態調査報告書」(令和元年10月)及び公取委「デジタル・

プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の 濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」(令和元年8月29日)がある。森亮二「プ ラットフォーマーの法律問題」NBL1087号2016年4−12頁、林秀弥「デジタルプラッ トフォーマーと消費者―優越的地位の濫用規制を中心に―」公正取引828号2019 年87−93頁もある。

なお、EUでは、本稿で触れた、個人情報保護法、競争法、消費者保護法に、租税 法を加えた4分野の視点で、デジタル・プラットフォーマーへの法的規制の強化が、

今日、検討されている。租税法の規制の強化は、例えば、アマゾンが、各国に営業 所を有さず、課税が不可能であることから生じており、英国、フランス、フィンラ ンドに続き、ドイツにおいても、デジタル課税の導入が、検討されている。

10) 例えば、直営店を中心とする販売展開を行うアップルのビジネスモデルや、書籍 出版社とデジタル書籍等につき直取引をするアマゾンの経営手法といったような GAFAの経営活動だけではなく、デジタル化に基づく、例えば、アディダスによる 3Dプリンターを使用した生産方法の導入によるマスカスタマイゼーションに基づく

 

(8)

差が、従来よりも大きく拡大している。例えば、EUにおいては、アマゾンに よる電子書籍出版社への不当な取引条件(電子書籍を販売する競合他社とアマ ゾンで販売する際の販売条件を同等のものとする条件)の押し付けが、EU競 争法違反の市場支配的地位の濫用(EU機能化条約102条)に該当するか否かが 問題とされ

11)

、また、ドイツにおいては、フェイスブックが、利用者の同意な く個人情報を収集することとする同社提供のSNS利用条件に係る条項を使用し たことが、GWB上の市場支配的地位の濫用(同法19条2項2号・3号の規定 する搾取的濫用)であると、連邦カルテル庁によって、2019年2月6日、認定 されたところであり

12)

、我が国では、アマゾンが、値引き販売する際に出品者 に対し値引き額の一部補填を強要した行為が、独禁法上の優越的地位の濫用(同 法19条、2条9項5号)に該当するか否かが問われている

13)

。このような展開 に鑑みると、特に、不当表示及び不当条項については、従来と比べ、より多数 の消費者に同種の被害を生じさせ易い状況になっているといえる。そればかり 生産拠点の移転、ネットフリックスやアマゾン・プライム等のデジタル・コンテン ツ提供事業者の台頭によるレンタル・ビデオのリアル店舗チェーンの衰退等も含め、

今日、従来の生産・流通・販売の過程や構造が、大きく変わりつつある。ドイツに おいては、周知のように、インダストリー4.0政策によって、デジタルツイン、マイ ンドスフィアの活用がみられ、製品開発力の向上、新たなビジネスモデルの誕生が みられる(例えば、https://www.computerwoche.de/a/wie-unternehmen-von-einem- digitalen-zwilling-profi tieren,3544454最終閲覧2019年1月28日)。

11) http://europa.eu/rapid/press-release̲IP-17-1223̲en.htm最終閲覧2019年1月28日 12) こ れ に つ い て の 法 的 議 論 の 整 理 は、 連 邦 議 会 に よ り 作 成 さ れ たBundestag 

Wissenschaftliche  Dienste,  Sachstand:  Zum  Verbot  des  Missbrauchs  einer  marktbeherrschenden Stellung Das Facebook-Verfahren des Bundeskartellamts 

( https://www.bundestag.de/blob/556716/0f118aa5c4e46e7dc0ea287460bd6170/wd- 7-078-18-pdf-data.pdf)(最終閲覧2019年1月10日)が分かり易い。島村健太郎「ドイ ツ競争制限禁止法における市場支配的なデジタルプラットフォーム事業者の濫用行 為規制について―Facebook事件を素材として―」一橋法学18巻2号2019年387−

411頁。

13) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170601.html最終閲覧2019年1 月29日

 

(9)

か、市場における個人情報や個人の消費活動に係る全般的情報のもつ財産的価 値の変容及び増加から、被害の内容・質・量も、従前とは異なる様相を呈する こととなっており、従来に比して、より一層、そのような多数の消費者の同種 の被害の救済の必要性が増しているのが、現状といえる。

このような状況を踏まえ、EUにおいて2018年4月11日に、欧州委員会によっ て公表された消費者保護ルールの執行の改善及び現代化に関するEU指令案

14)

は、オンライン・マーケットプレイスにおける透明性の向上として、EU消費 者権利指令(2011/83/EU)の改正(同EU指令案2条)によって、オンライン・

マーケットプレイスでの事業者から消費者への情報提供を充実することとする 他、個人データの増加する経済的価値に鑑み、クラウド・ストレージ、ソーシャ ル・メディア、電子メール・アカウントのような消費者が個人データを金銭の 代わりに提供して利用するデジタルサービスについて、単純に「無料」と見做 し得ないものであることから、EU消費者権利指令の適用範囲に含まれること とするとし、契約締結前の情報請求権及び契約締結後14日以内の解約権を消費 者に与えることを提案した

15)

。このEU指令案は、2019年11月8日に欧州理事会 14) Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF 

THE COUNCIL amending Council Directive 93/13/EEC of 5 April 1993, Directive  98/6/EC of the European Parliament and of the Council, Directive 2005/29/EC of  the  European  Parliament  and  of  the  Council  and  Directive  2011/83/EU  of  the  European  Parliament  and  of  the  Council  as  regards  better  enforcement  and  modernisation of EU consumer protection rules, Brussels, 11.4.2018, COM(2018) 185  fi nal, 2018/0090 (COD). 

15) 同EU指令案は、この他にも、事業者に連絡手段として、伝統的な電子メールによ る他、ウェブ形式やチャットでの連絡も認めている。また、事業者の義務の軽減と して、①返品受領前の返金義務及び②購入商品使用後の撤回権の行使を認める義務 の軽減もしている(同EU指令案2条、同EU指令案立法理由(21)−(28)等、及び 同EU指令案付属文書EXPLANATORY MEMORANDUM 2−3頁参照)。また、後述 する消費者保護協力規則(2017年)に関しては、EU域内で国境を越えて消費者被害 を生じさせる消費者利益保護法規違反についての制裁金の強化(少なくとも当該事 業者の年間売上高の4%以上の額とすること)が盛り込まれている(同EU指令案1条 5項4号及び同EU指令案立法理由(6)−(12))。

 

(10)

で採択され成立しており、この新指令の施行によって、後述する⑵EU消費者 保護協力規則(2004年)(2020年以降は、EU消費者保護協力規則(2017年)(五1))

に基づき、上記のデジタルサービスでの個人データの提供に係る消費者の同意 の取得に関しても、EU域内で国境を越えて消費者被害を生じさせる消費者利 益保護法規違反について、行政規制が及ぶことになる。

ところで、上述のように、GWB上のカルテル庁の利益返還命令(GWB32条 2a項)によって、極めて多数の消費者の金銭的被害救済が行われているのは、

電力・ガス・水道といった公共料金の不当な値上げの事例においてである。こ れら電力・ガス・水道の取引においては、いずれも各供給網が敷かれ、それを 有する特定の事業者が存在しており、その直接又は間接の取引の相手方は、そ れを生活上不可欠なものとして必要としている極めて多数の消費者である。こ のような取引当事者間の力の格差及びそれによる消費者の事業者に対する高度 な取引依存度といったこれらの取引に内在する要素は、インターネット取引に おいても、以下のように、共通するものである。

インターネット接続自体に係る取引においては、インターネット接続網が敷 かれ、それを有する特定の事業者が存在し、その直接又は間接の取引の相手方 は、今やインターネット接続をその生活上、必要不可欠なものとして必要とし ている極めて多数の消費者である。また、インターネットを通じて行われる商 品又は役務に係る取引については、例えば、アマゾンのように、オンライン・

プラットフォームを有する特定の事業者が存在し、その取引の相手方は、その 生活上、必要とする商品を購入する極めて多数の消費者である。

従来、行政処分による金銭的被害救済が必要とされ、法理論上妥当とされて きたGWB上のカルテル庁の行政処分に基づく利益返還命令における被害状況 と、上述のように、今日さらに行政処分による金銭的被害救済が必要とされる オンライン取引をめぐる被害状況との間には、このように共通する幾つもの要 素が見出され得るものである。このため、前者についてだけではなく、後者に ついても、行政処分による金銭的被害救済が必要であるという主張は、けして 全く新しい事柄の検討を要求するわけではないことは、比較的容易に理解され 得ることであろう。むしろそれは、時代と共に常に変遷する社会状況に適切に

(11)

対応しなければならない法学の性質上、極めて自然な議論の展開である、とい うことができる。

このように、今日のオンライン取引をめぐる消費者被害の状況は、従来、

GWB上の行政処分による金銭的被害救済が許容されてきた被害状況と、この ように共通性を有するところ、今日の我々の日常生活においては、個人情報及 び私的領域(Privatsphäre)に関して、以下の3つの重要な変化が生じており、

それに順応した適切な法的対応が、さらに我々に今求められている、といえる。

第一に、氏名・生年月日・性別・住所等といった古典的な意味での個人情報

(個人情報保護法2条で定義されている特定の個人を識別することができるも の又は個人識別符号を含むもの)だけではなく、我々個人が、日常生活におい て、どのような趣味や嗜好を有しているかという情報や、どこに出かけ、何を 食べ、誰と会い、何をいくらで購入し、或いはどのような種類の役務の提供を 受けるのか等といった日々の購買履歴や行動履歴と云われる消費経済活動の 端々に至るまでの情報(以下、「日常消費行動情報等」という

16)

)があり、これ は、個人情報保護法上の個人情報として保護される場合もあれば、保護されな い場合もあるが、今日では、企業にとっては、その集積は、ビッグデータとな り、各企業のマーケティングのために、大きな利用価値を有するものである。

このため、この日常消費行動情報等は、特に、特定個人の識別可能情報として 個人情報となった場合に、単なる氏名・住所・年齢といった旧来云われてきた 16) 企業がインターネット上で収集した個人の購買履歴、閲覧履歴等に関する情報は、

氏名や個人識別符号(個人情報保護法2条2項の特に2号)等と結びつき、特定の個人 を識別可能な情報となり、同法上の個人情報(同法2条1項)となりうる場合や、そ れがデータ化され、同法上の個人データ(同法2条6項)となる場合もあるが、これ ら以外の場合もあるため、このような表現を使用する。なお、2019年1月23日、欧州 委員会によって、EU一般データ保護規則(GDPR)45条に基づく「十分性」の認定が、

EUから日本に対してなされ、日本の個人情報保護委員会によっても同様の認定が日 本からEUに対してなされたため、相互の円滑な個人データの移転を図る枠組みが発 効している。もっとも、本稿で、EUの議論の関係で個人データ(GDPR4条1項)と いう場合には、我が国の個人情報保護法上の個人データ概念を必ずしも指すわけで はない。

 

(12)

個人情報よりも、大きな財産的価値を有するものであることに疑いはない。石 油に代わる財産的価値が、今日のこのような意味合いでの個人データには認め られると指摘され

17)

、すでに、個人が自らデータを預ける「情報銀行」の創設 さえ、予定されているところである

18)

。このため、そのような価値を有するも のとして、上述の意味合いの個人情報を含む日常消費行動情報等を保護する必 要が新たに生じているといえるところ、大手SNS提供事業者フェイスブックが、

プラットフォーマーとしての市場支配的地位を利用して、このような財産的価 値を有する日常消費行動情報等の提供及びその幅広い利用を自社提供SNSへの 加入の条件とすることにみられるように、消費者の財産的価値のある個人情報 等を取引の立場上優越した力を濫用して搾取する行為による同種の被害からの 多数の消費者の保護の必要が生じているといえる。フェイスブックの利用を望 む消費者は、フェイスブックに提供した古典的な意味での個人情報に加えて日 常の行動に係る諸々の情報が、必ずしも明確ではない範囲の関連企業に譲渡さ れ利用されることに許諾することを条件として、当該SNSサービスの提供を受 けることが許されている。このように、オンライン・プラットフォームの利用 者が、個人情報等の提供と引き換えにサービスの提供を受けているといえるこ

17) Justus Haucap, Macht, Markt und Wettbewerb: Was steuert die Datenökonomie?,  NP&I, 2018, S. 5 - S. 7.  欧 州 消 費 者 機 構(BEUC) の 報 告 書「ENSURING  CONSUMER PROTECTION IN THE PLATFORM ECONOMY」(2018年10月2日)

(https://www.beuc.eu/publications/beuc-x-2018080̲ensuring̲consumer̲

protection̲in̲the̲platform̲economy.pdf)8−10頁も、この点を指摘する。

18) CNET Japan(https://japan.cnet.com/article/35127271/)によれば、「情報銀行は、

個人または事業者が保有する個人データ(パーソナルデータ)を、本人の同意のも とで安全に収集・管理・提供する仕組み」であり、「事業者は、受け取ったデータを 活用して個人のニーズに合ったサービスを提供できるようになる」。「個人は情報銀 行のシステム上でデータを提供してもいい事業者を自ら選び、あらかじめ指定した 条件などに基づいて、情報銀行が事業者へデータを提供する」。すでに総務省にて、「情 報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」が、平成29年11月7日以降、開 催されている。2019年より、個人データを収集・管理する「情報銀行」の事業者認 定制度が、総務省でスタートする。

 

(13)

とは、EU競争法上の市場支配的地位の濫用の事例のグーグル・ショッピング 事件

19)

においても、すでに指摘されているところである。このように財産的価 値を有する様々な形の個人情報等を獲得し、マーケティングのために利用する ことは、たしかに、企業のマーケティングのイノベーション等のために必要で あり、有意義であると共に、消費者にとっても、一定の利便性の向上につなが ることに疑いはないであろう。しかし、このような市場支配的地位を有するオ ンライン・プラットフォーマーによる一方的な個人情報等の入手が、財産的価 値の搾取として、極めて多数の消費者を相手に行われているという側面がある こともまた、否めない。今日のデータ・エコノミーにおける正義の維持のため の中心的課題としての「利益の公平な分配

20)

」という問題を、地域間の格差と の関連において捉えることは妥当であるとしても、健全な市場経済の発展の観 点から、事業者・消費者間の公平の確保との関連において捉えることも、必要 とされるものである。このため、係る搾取は、この問題における重要なテーマ の一つということができる。

ビッグデータを巡るこのような重要な問題が顕在化した事例が、以下にみる 2019年におけるグーグル個人データ事件である。

今日において、インターネット・サイトの検索は、日常生活のための必要不 可欠の情報収集手段となっており、係る検索エンジンとして、最も多く利用さ れ、最大手インターネット検索サイト提供事業者であるグーグルは、すでに、

かなりの程度の公的役割を担っているといっても、過言ではない。

そのような役割を担うグーグルが、自社のスマートフォン用OSアンドロイ ドを搭載したスマートフォンでのグーグル・アプリの利用のための設定の手順

19) 欧州委員会2017年6月27日制裁金納付命令(C(2017) 4444 fi nal, CASE AT.39740 ‒  Google Search (Shopping))。

20) Rede von Bundeskanzlerin Dr. Angela Merkel, beim T20 Global Solutions Summit  2018  am  28.  Mai  2018  in  Berlin,  Bulletin  57-1,  29.  Mai  2018,  https://www.

bundesregierung.de/breg-de/service/bulletin/rede-von-bundeskanzlerin-dr-angela- merkel-1147274最 終 閲 覧2019年1月21日; Justus Haucap, Macht, Markt und  Wettbewerb: Was steuert die Datenökonomie?, NP&I, 2018, S. 7.

 

(14)

において、ユーザーから日常消費行動情報等を各個人に特化した形での広告の ために利用することについての同意を得るための説明が不明確・不十分であっ たこと及び、個人情報取得の同意に係る手続に不適切さがあった等

21)

(GDPR7 条2項、7条4項、12条1項、13条1項等)として

22)

、2019年1月21日、フラ ンスのデータ保護機関である情報処理・自由全国委員会(CNIL)は、グーグ ルに対し、EUにおいて2018年5月に施行されたEU一般データ保護規則(以下、

「GDPR」という)

23)

違反に基づき、5千万ユーロ(日本円にして、約62億円)

21) https://www.cnil.fr/en/最終閲覧2019年1月22日

22) CNILは、グーグルの基本ソフト(OS)『アンドロイド』が入ったスマートフォン を初期設定する手続などを問題視し、5回クリックしないと個人情報利用の説明にた どり着けないなど、GDPRが定める『明瞭で平易な』状態になっていないとした(「仏、

グーグルに制裁金62億円 個人情報取得巡りGDPR初の制裁」日本経済新聞2019年1 月22日(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40295080S9A120C1000000/最 終 閲 覧2019年1月22日); Google Millionen - Strafe in Frankreich, Die Welt vom 22. 

Januar 2019, S. 10; Millionen ‒ Buße für Google, FAZ vom 22. Januar 2019, S. 19等)。

23) VERORDNUNG (EU) 2016/679 DES EUROPÄISCHEN PARLAMENTS UND  DES  RATES  vom  27.  April  2016  zum  Schutz  natürlicher  Personen  bei  der  Verarbeitung  personenbezogener  Daten,  zum  freien  Datenverkehr  und  zur  Aufhebung der Richtlinie 95/46/EG (Datenschutz-Grundverordnung) L119, S.1.  

2018年5月25日施行。本法については、Jochen Schneider, Datenschutz nach der EU- Datenschutz- Grundverordnung, 2. Aufl age, 2019, C. H. BECKが分かり易いので、参 照した。

ところで、今日のデジタル社会においては、多くの利便性がある反面、例えば、

欧州やアメリカにおいて、数億人に及ぶホテル利用客のパスポート番号、クレジッ ト番号が、ハッカーによって盗まれる事例(Hacker stehlen Daten von 500.000.000  Hotelgästen, https://www.faz.net/-ikh-9h68h最終閲覧2019年1月28日)等がみられて おり、個人情報が脅威に晒されていることも、見落としてはならないであろう。さ らに、2019年1月4日には、ハッカーによって、ドイツの政治家や歌手や俳優約1000 人の個人情報がインターネット上に公開されるという大規模なハッキング事件が明 るみに出た(Wie Sie sich für eine Cyberattacke rüsten können, https://www.faz.

net/-ikh-9icie最終判断2019年1月28日)。我が国でも、2019年1月25日、大手ガス会社

 

(15)

の行政上の制裁金(GDPR83条5項)を賦課している。しかし、このような行 政上の制裁金は、EUの財源となるものであり、それによって個々の被害者に 金銭が支払われることはない。したがって、このような市場において重要な公 的存在価値を有する民間企業が、私人たる極めて多数の消費者から財産的価値 を有する個人情報をこのような存在であることを前提とした不当なやり方で入 手し、係る財産的価値を搾取する行為によって、その財産的価値が不当にも当 該事業者に移転され消費者に返還されないままでいる状態を、EUの財源とな る制裁金に係る納付命令によって排除することはできない。このため、巨大企 業と極めて多数の利用者との間の公平の確保のためには、もちろん、GDPR上 の規制当局の行政処分権限(同規則58条2項f号)に基づく金銭的被害救済が 行われることが望ましいのであり、上述の財産的価値の不当な移転状態を GDPR違反により生じた行政法上の違法状態として把握し、その排除のために、

被害者らへの財産的補償を命じることについて、検討の必要があるといえる

24)

第二に、消費者の自己決定権の確保についてである。すなわち、このように 以前よりも大きな財産的価値を有する日常消費行動情報等が、SNSプラット フォーマーを通じて、広範囲の他の事業者に流通することから、それを入手し た事業者らからすれば、消費者に、どのような情報を与えれば、当該消費者が、

どのような判断を下し行動するのか、という消費行動に係る予測が可能となる。

近年発達している人工知能(AI)の活用により、この予測は、一層精度を増 している。その結果、係る事業者は、消費者に与える情報次第で、当該消費者 の自己決定を一定程度コントロールすることが可能となっているといいうる。

子会社の宅ふぁいる便(同社は、メール等では送信が困難な大容量のデータファイ ルを転送するサービスを提供し、年間約7000万件の利用がある。)の約480万人分の 会員情報(メールアドレスやログインパスワード)が、不正アクセスによって流出 し た 事 件 が 報 じ ら れ て い る と こ ろ で あ る(https://www.jiji.com/jc/

article?k=2019012501370&g=eco最終閲覧2019年1月28日)。

24) グーグルの親会社のアルファベット社の年間売上高(2017年度は、日本円にして 約3兆5000万円)及び一般的に高いといわれる同社の利益率からすれば、今回の制裁 金額は、微々たるものであることになる。

 

(16)

これは、いわゆるフェイクニュース等の手法による場合に限らない

25)

。こういっ た情報コントロールに基づく消費者の意思決定の制御からの消費者の自己決定 権の保護は、消費者自身が、情報の提供を慎むことによって予防することも可 能であるが、それと引き換えに失う利便性も小さくない。このため、係る制御 が生じている場合には、係る制御を受けている状態を行政法上の違法状態とし て新たに把握し、その排除として、行政処分によって被害の補償等の一定の作 為を命じることについて、検討を要するといえる。

第三に、近時における我々の私的領域(Privatsphäre)たるプライベートな 空間の拡大についてである。すなわち、1990年代に電子メールボックスという 新たな私的領域が生じ、それへの侵入となる受け手の事前の同意のない電子 メール広告は違法である、とのオプト・イン方式が、2002年のEU指令(2002/58/

EG)におけるのと同様に、我が国でも迷惑メール規制において採用された

26)

さらに、2000年代以降、SNSの普及に伴い、SNS上の例えばフェイスブックで あればタイムラインというスペースは、新たな私的領域であると捉えられるよ うになっている

27)

。この新たな私的領域は、喩えるなら、リアル空間の生活と

25) 後述するグーグルの検索結果不正操作事件もある(六8)。また、例えば、雑誌の 記事に出ているタレントに無断で画像を加工・使用して、実際に記事に掲載されて いた内容とは異なる架空の体験談等を紹介するインスタグラム等のSNSを利用したオ ンライン・フェイク広告による消費者被害も、同様に問題とすべきといえる。

26) これについては、宗田貴行『迷惑メール規制法概説』レクシスネクシス・ジャパ ン2006年において、当時、アメリカに倣いオプト・アウト方式であった我が国の特 商法及び特定電子メール法上の規制を、EUに倣い、迷惑メールの受け手の私的領域 の侵害に鑑み、オプト・イン方式へと転換することを主張し、その後、経済産業省 の特商法平成20年改正法案の作成に、筆者も協力した。この改正によって、特商法 上の規制がオプト・イン方式へと変更され、かつ、特定電子メール法上の規制も、

同様の変更が行われた。

27) EU一般データ保護規則に続き、このような見地から、2002年のEU電気通信指令

(2002/58/EG)を改訂する私的生活の配慮と個人情報保護に関するEU規則(私的領 域及び電気通信EU規則)の提案が、2017年1月10日になされている(Vorschlag für  eine VERORDNUNG DES EUROPÄISCHEN PARLAMENTS UND DES RATES 

 

(17)

いう意味での自宅に加えて新たに所有することとなったバーチャルな世界のセ カンドハウスといえ、そこへの勧誘や広告がなされ、かつそこから別のウェブ サイトへ出かけて、広告や勧誘に遭遇し契約を締結することが行われるもので ある。例えば、SNSの普及によって、消費者に情報教材を届けやすくなったた め、簡単には稼げるわけではないにもかかわらず、簡単に稼げると広告する資 格教材等の高額契約に関する悪徳商法が、我が国で増加している。次に、それ だけではなく、セカンドハウスで目にした広告や購入等の経験を踏まえ、自宅 に帰り、或いは自宅から出かけ、広告に触れ、実際にリアル店舗で契約を締結 することとなりうるのであり、新たな私的領域での係る経験は、決して、リア ル空間の生活と分離されたものではない。リアルな生活空間での活動をSNSに 掲載することも考慮に入れれば、リアル空間での生活での日々の活動とイン ターネット上の私的領域及びそれを介した生活における日々の活動は、相互に 影響し合うものであるといえる。このように、もはや、今日の我々市民は、こ の意味でインタラクティブな二重の生活(ダブル・ライフ)を送るものとなっ ているといえる。このため、従来とは種類・性質も異なる私的領域が存在し、

その保護の必要が増しており、それ故に、従来に比して、不招請勧誘・広告か らの私的領域自体の保護及び不当表示広告・不当勧誘・不当条項からの私的領 域での取引内容の適正性の保護の必要性が増加している、ということができる。

例えば、ステマと云われるステルスマーケティングもまた、このようなインター ネット上の私的領域において行われることが可能となったことから、係るマー

über die Achtung des Privatlebens und den Schutz personenbezogener Daten in  der elektronischen Kommunikation und zur Aufhebung der Richtlinie 2002/58/EG 

(Verordnung über Privatsphäre und elektronische Kommunikation), Brüssel, den  10.1.2017, COM(2017) 10 fi nal 2017/0003 (COD))。本EU指令案は、2019年に制定さ れる見通しである。本EU指令案には、消費者のインターネット・サイトの閲覧デー タに関するいわゆるクッキーについて、プライバシー権との関係で規制を及ぼすこ とも含まれている。欧州裁判所2019年10月1日判決(C-673/17)は、クッキーの使 用につきオプト・イン方式が妥当であるとし、デフォルト・オンの同意は無効であ るとした。

 

(18)

ケティング手法による多数の消費者への欺瞞効果が社会問題化した。ステマも、

我が国で景表法上の不当表示に該当する可能性が出てきており、また、係る手 法への法的対応が、我が国だけではなく、各国において検討されているところ である

28)

このように以前に増して、かつ部分的には新しい形で、消費者の利益の保護 の必要性が生じていることから、従来に比して、より多数の消費者において、

同種の被害が生じ、かつある部分においては、従来とは異なる性質の被害も、

より多数の消費者に生じている。このような被害の状況は、近代民法が制定さ れた18世紀当時において想定されていたような個別の取引における個々人の被 害が生じている状態とは、今日における係る被害の拡散の容易さ、同種性、性 質等に鑑み、被害の種類・性質・数・程度・範囲等において、大きく異なるも のである。さらに、係る多数かつ同種の被害の救済のために、消費者の集団的 利益を私益のひとつとして捉え、それを代表する一定の消費者団体の差止請求 28) 数年前になるが、消費者庁において、ステマ、フリーミアム、口コミサイト、フラッ シュマーケティング、アフィリエイトプログラム、ドロップシッピングについて、

景表法の規制との関係の検討が行われ、消費者庁「インターネット消費者取引に係 る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(平成23年10月28日、一部 改 定 平24年5月9日)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair̲

labeling/guideline/pdf/120509premiums̲2.pdf最終閲覧2019年2月1日)が、公表され ている。この他に、ステマ等に関しては、例えば、SNS上で有名女優が、ある企業か ら販売奨励金等の名目で金銭を授受し、当該企業の特定の化粧品や健康食品を取り 上げ、その効用について真実味をもって絶賛する場合に、それを見た消費者は、宣 伝広告であると知らずに、その効用を信じることとなる。これは、当該商品が実際 よりも著しく優良であるとの誤認として優良誤認(景表法5条1項)に該当すると構 成することができなくもないが、そもそも宣伝広告であるのに、そうではないかの ように装って消費者を誤認させているのであるから、そのような違反行為を同法5条 3号に基づく内閣総理大臣の指定によって新設すべきとの意見(日本弁護士連合会「ス テ ル ス マ ー ケ テ ィ ン グ の 規 制 に 関 す る 意 見 書」(2017年2月16日)https://www.

nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170216̲2.html最終閲覧2019 年1月21日)、小畑徳彦「米国におけるステルス・マーケティングの規制」流通科学 大学論集―流通・経営編30巻1号2017年31−55頁、動「アフィリエイターによる欺ま ん的広告とネットワーク運営事業者の責任」公正取引804号2017年41−46頁等がある。

 

(19)

権を用意することが、フランスやドイツ等において考えられた約半世紀前に想 定されていたような集団的利益の侵害が生じている状態とも、被害の質・程度・

範囲・数等において、すでに異なるものである。

近時、我が国に導入された消費者裁判手続特例法上の第二段階の簡易確定手 続においては、消費者各人の民事法上の請求権が前提とされており、結局のと ころ、18世紀の市民法形成期の発想ないし理論的枠組みと変わらないものであ る。これは、2018年に制定・施行されたドイツにおけるムスタ確認訴訟とその 勝訴判決を前提とした個別ないし集合的訴訟

29)

についても、同様である。2020 年代を目前に控えた今日の我が国、EU及びEU加盟国において、上述のような 多数の消費者に同種の被害が生じている状態を個々人の分断された民事法上の 利益や権利の侵害として評価することでは、今日の消費者被害救済を実効的に 行うためには、十分とはいえない。また、係る状態を集団的利益の侵害として 私法上評価し、係る侵害を生じさせた違反行為の不作為を請求する差止の権利 を一定の消費者団体に認めることでも、今日の消費者被害救済として、十分で はない。

このようなことから、すでにEU及びドイツにおいて、一定の消費者団体の 妨害排除請求権(Beseitigungsanspruch)に基づく一定の作為請求や、作為の うち特に消費者の金銭的被害の回復に係る請求が承認されている

30)

こと(二4)

29) 宗田貴行「ドイツ民訴法改正による多数消費者被害救済のためのムスタ確認訴訟 制度の制定  ――我が国の消費者裁判手続特例法との比較検討――」獨協法学107号 2018年215頁―327頁。

30) 近時の団体訴訟に関するEU指令案5条3項及び6条1項1文は、消費者団体の妨害排 除請求権を明示的に規定し、その内容として、返金等の被害救済を請求することを 規定している(宗田貴行「消費者の集団的利益保護のための団体訴訟に関するEU指 令案――適格消費者団体訴訟・消費者裁判手続特例法との比較検討――」獨協法学 106号2018年189頁−245頁、207頁、218−224頁)。ドイツにおいては、BGB307条1項 に違反する不当約款が、UWG上の「法違反」(UWG旧4条11号)に該当する事例で、

消費者団体の妨害排除請求権(UWG8条3項3号)に基づく被害消費者への返金請求が、

違反により生じなお現存する妨害状態の排除と返金とが同義であることに基づいて、

認められている(宗田貴行「適格消費者団体の差止請求権の種類・目的・要件・内

 

(20)

は、今日における消費者被害救済の実効性を確保するために、重要な意義を有 するものと考えられる。このような意義に鑑み、我が国においても、これと同 様に、景表法、特商法、消費者契約法上の適格消費者団体の妨害排除請求権(景 表法30条・特商法58条の18〜24・消費者契約法12条1項)に基づく一定の作為 請求が可能であり、かつ一定の場合には、これに基づく返金請求が、上述のよ うに(二4)、違反により生じなお現存する妨害状態の排除のために必要な限 りにおいて、可能であると考えるべきである。すなわち、多数の消費者が消費 者利益を侵害する違反行為によって不当に支払わされている状態は、係る集団 的利益が妨害され続けている状態であることから、その排除のために必要な範 囲において、係る集団的利益を代表して活動している適格消費者団体の妨害排 除請求権に基づく金銭支払請求が認められうる、といえる

31)

。しかし、上述の ように(二4)、多くの利点を有する適格消費者団体の妨害排除請求権に基づ く集団的な被害の回復の可能性に期待するとしても、それは、請求権を有しう る適格消費者団体の活動の人員・予算・定款上・地理上等の範囲に限定される ことは否定できないのであり、そこに自ずと限界があることは、明白である。

今日における係る消費者被害は、その拡散の容易さ、同種性、性質等に鑑み、

被害の種類・性質・数・程度・範囲等において、市民法が形成された時代や、

消費者団体訴訟制度が創設された当時における被害とは、その性質・種類・範 囲・程度等において大きく異なるものとなっている。それ故に、今日における 不当表示・不当勧誘・不当条項によって、多数の消費者が不当に支払わされ、

違反行為によって違反行為者が獲得した不当な利得が違反行為者の手元に残存 し続けているという消費者被害の状態は、市場の機能不全を生ぜしめ、我々の 採用した資本主義の前提を揺るがすものであるというべきである。このため、

このような状態を排除することによって、民主的な市場経済の前提条件を整備 し、市場参加者間の実質的平等を確保することが、従来に比べ、より必要とさ 容――妨害排除請求権の意義とその活用――」獨協法学105号2018年161−230頁、

178−181頁)。

31) 宗田貴行「適格消費者団体の差止請求権の種類・目的・要件・内容――妨害排除 請求権の意義とその活用――」獨協法学105号2018年161−230頁、219−222頁。

 

(21)

れているといえる。すなわち、多数の消費者に同種の被害が回復されていない 状態は、違反行為者が違反行為によって獲得した不当な利得が、その手元に残 存する状態を作出させ、我々市民を取り巻く様々な現代的取引に関する市場の 機能を不全足らしめているといえる。それ故、このような消費者被害が回復さ れていない状態を、より広い範囲で総体として捉え、行政法上是認しえない状 態であると評価し、行政処分に基づきそれを排除することによって、多数の消 費者の金銭的被害救済を行う必要が、すでに今日の我が国、EU及びEU加盟国 において生じている、というべきである

32)

。これは、端的にいえば、今日にお ける市場参加者間の著しい力の格差に鑑みて、公的機関による、より全般的な 金銭的被害救済によって、市場参加者間の公平性を確保する必要があるからで あり、言い換えれば、公権力を用いて、我々の採用する資本主義経済の実質を 現代において担保する必要があるからである。

事業者が、独禁法に違反する行為によって、他の市場参加者たる消費者らに 対し財産的損失を生じさせ、その状態が、違反により生じた違法状態として存 在し続けている場合に、係る違法状態を排除するために、公的機関の介入によ る消費者の金銭的被害救済が、すでに独禁法上許容されると考えられる

33)

が、

今日の資本主義経済における上述の態様及び程度で高度に発達した市場とそこ における消費者被害の状況に照らせば、そのような公的権力の介入は、もはや 同法の範囲に限定されるべきではないといえる。すなわち、今日では、不当表 32) ヨーロッパにおけるこのような変化について、Hans-W. Micklitz, Behördliche 

Rechtsdurchsetzung  in  Deutschland  ‒  Potenziale  und  Perspektiven  für  den  Verbraucherschutz, in Hans Schulte-Nölke (Hrsg.), Neue Wege zur Durchsetzung  des Verbraucherrechts, 2017, S. 7 ‒ 29も、インターネットの普及・発達等により、

この四半世紀において世界は大きく変化したのであり、消費者法の規制手法として、

官庁規制モデルの重要性が増し、ドイツにおいて、団体訴訟モデルから官庁規制モ デルへと消費者法の実現方法に係る重要性のシフトが行われており、消費者法に特 化した規制機関の設立が要されている、と指摘している。

33) 宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――

ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(下)」獨協法学97号2015年1

−73頁、14−45頁。

 

参照

関連したドキュメント

The inclusion of the cell shedding mechanism leads to modification of the boundary conditions employed in the model of Ward and King (199910) and it will be

(Construction of the strand of in- variants through enlargements (modifications ) of an idealistic filtration, and without using restriction to a hypersurface of maximal contact.) At

It is suggested by our method that most of the quadratic algebras for all St¨ ackel equivalence classes of 3D second order quantum superintegrable systems on conformally flat

This paper develops a recursion formula for the conditional moments of the area under the absolute value of Brownian bridge given the local time at 0.. The method of power series

Answering a question of de la Harpe and Bridson in the Kourovka Notebook, we build the explicit embeddings of the additive group of rational numbers Q in a finitely generated group

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

In our previous paper [Ban1], we explicitly calculated the p-adic polylogarithm sheaf on the projective line minus three points, and calculated its specializa- tions to the d-th

Our method of proof can also be used to recover the rational homotopy of L K(2) S 0 as well as the chromatic splitting conjecture at primes p > 3 [16]; we only need to use the