三七 京都府立山城郷土資料館寄託﹁七種連歌﹂資料について︵綿抜︶ 綿 抜 豊 昭 京都府立山城郷土資料館寄託﹁七種連歌﹂資料について
は じ め に
京都府立山城郷土資料館︵ふるさとミュージアム山城︶に︑仙台藩伊達家に仕えていた猪苗代家の文書が寄託され
ている ︵以下︑ 便宜上 ﹁猪苗代家文書﹂ と称する︶ ︒内容は︑ ①和歌 ・ 連歌作品︑ ②古今伝 受など伝受関連の文書︑ ③ その他の三つに大別される︒猪苗代家︑仙台藩の文事を知るうえで貴重な資料である︒
本稿では︑仙台藩で年頭に行われる七種連歌会を中心に︑和歌・連歌作品に関係するものについて紹介したい︒な
お資料の翻刻にあたっては︑旧字体などは通用のものにあらため︑改行は﹁/﹂で示す︒
一
仙台藩士としての猪苗代家当主の重要な仕事の一つは︑毎年一月七日に行われる七種連歌会の運営であった︒石井
三八
家と交互に︑ほぼ二年ずつ担当した︒七種連歌会は年頭行事として恙なく行われるために︑前年十二月下旬に藩主に
発句を賜り︑内会が行われるなどした
︵1
︒
︶連歌会当日以前 に 発 句を詠んでおくことは ︑ すでに宗 碩 ︵一四七四 〜 一五三三︶ の 時代 に 行われていたようである ︒
﹃宗養より聞書﹄
︵2
に以下のごとくある︒
︶只今京都には宗碩以来︑五日三日以前より発句等申沙汰して︑一順の人数をしるして文箱に入て︑次々へをく
り侍る也︑然間好士の宿へ持参して談合せし也︒ことさら初心遅口の人は俄案じ出す事かなひがたきゆへに︑ま
へ座に其沙汰あり︑
この場 合 ︑ 連 歌において参 加 者がまず一 句ずつ詠む一 順で ︑ 初 心 者や詠むのが遅い人がいると ︑ 進 行が遅れるので ︑
三日から五日以前に発句を詠んで︑ 参加者 に次々にまわして︑ 最 後に好士のもとで ︱ おそらく指 合などないかを ︱ 談
合するというのである︒一順で一句詠めば︑極端な場合︑残りで一句も詠まなくても︑その連歌に参加したことにな
る︑ということである︒
こうした﹁前座の沙汰﹂を仙台藩の七種連歌会でも取り入れていた︒七種連歌会は︑一月七日が式日で︑発句は藩
主︑脇句は竜宝寺の住持︑第三句は次の藩主になる予定者が︑原則詠むことになっていた︒その立場︵役職︶の者が
詠むのである︒したがって︑たとえば句を詠むことができないほど幼少であっても︑代作がなされ︑記録上は本人が
詠んだことにしている︒
前述のように︑藩主の発句は︑前年の十二月下旬に︑七種連歌会担当の連歌師に下される︒これまで︑藩主の発句
がどのような形式で連歌師に渡されたかは知られていなかったが︑猪苗代家文書には︑それにあたるものと考えられ
る文書が所蔵されている︒以下︑各藩主別にそれにあたるものをあげる︒
四代藩主伊達綱村︵生没一六五九〜一七一九・治世一六六○〜一七○三︶の発句懐紙は次の四点である︒
三九 京都府立山城郷土資料館寄託﹁七種連歌﹂資料について︵綿抜︶ ① 心 此春や君か千とせの初若菜 此春は千代の初の根芹哉 ② 綱村 千世もつめ春たつ野への/はつ若菜 春たつやけふつみそむる/千世なつな ③ 栗 つめやたゝ百年千とせ/せりなつな ④ 綱村 今年また豊としを/つむ若菜哉
①の ﹁心﹂ ︑ ③の ﹁栗﹂ は綱村の一字名である ︒ ①と②は二句づつ記されているが ︑ ①の ﹁此春や﹂ の句は延宝七年
︵一六七九︶ ︑②の﹁千世も﹂の句は元禄十四年︵一七○一︶の七種連歌の発句である︒
五代藩主伊達吉村︵生没一六八○〜一七五一・治世一七○三〜四三︶の発句懐紙は次の七点である︒ ① 七種発句 吉村
七種に摘てかさねむやちよ哉 ② 吉村
道は世にたえぬ雪まや摘/若菜
包紙﹁御発句﹂ ③ 七種 吉村
つみそへむ年のはしるき/若菜哉 ④ 七種発句 吉村
四〇 打むれて野へに日を摘/わかなかな ⑤ 七種発句 吉村
つむとしをかさねむ宿の/若菜かな 包紙﹁七種発句﹂ ⑥ 発句 吉村 摘野へもまたわかなくの/雪間哉 ⑦ 発句 吉村 もゝとせのなかは摘しる/わかな哉 六代藩主伊達宗村︵生没一七一八〜五六・治世一七四三〜五六︶の発句懐紙は次の一点である︒ ① 七種 宗村 ことしより位幾春/つむわかな 包紙﹁発句﹂
七代藩主伊達重村︵生没一七四二〜九○・治世一七五六〜九○︶の発句懐紙は次の三点である︒ ① 七種 重村
沢のものと思はぬ今日の/根芹哉
包紙﹁發句﹂ ② 七種 重村
ひきいれて袖にはへあれ/若根芹
包紙﹁発句﹂ ③ 七種 重村
七くさや六くさにそへし/歌の種
四一 京都府立山城郷土資料館寄託﹁七種連歌﹂資料について︵綿抜︶ 包紙﹁発句﹂貼紙﹁重村朝臣 発﹂
八代藩主伊達斉村︵生没一七七四〜九六・治世一七九○〜九六︶の発句懐紙は次の二点である︒ ① 七種 斉村 幾千代も嬉しきことを/つむ菜哉 ② 七種 斉村 万代もなつさはれぬる/なつな哉 包紙貼紙﹁斉村朝臣 発句﹂
九代藩主伊達政千代丸 ︵周宗︶ ︵生没 一 七九六〜 一 八 一 二 ・ 治 世 一 七九六〜 一 八 一 二 ︶ の 発句懐紙 は 次 の 五 点 で あ る ︒ ① 七種 政千代丸 千々の春万代をつむ/若菜かな ② 七種 政千代丸 つむ年のかねてそ見ゆる/千代菜草 ③ 七種 政千代丸 千々の春の下草につむ/若菜かな ④ 七種 政千代丸 岩の上の松にたとへよ/初若菜 ⑤ 七種 政千代丸 ねもころにつむ年々の/根芹かな
④は寛政十年︵一七九八︶の七種連歌の発句で︑ ﹃仙台市史 資料編
9
﹄︵二○○八年︶に百韻の翻刻が載る︒
十代藩主伊達斉宗︵生没一七九六〜一八一九・治世一八一二〜一九︶の発句懐紙は次の一点である︒ ① 斉宗
四二 摘てこそ国の春しる/若菜かな
①は文化十年︵一八一三︶の七種連歌の発句で︑ ﹃仙台市史 資料編
9
﹄︵二○○八年︶に百韻の翻刻が載る︒