財務会計の機能に関する再考察
―― 企業の所有構造の変化を踏まえて ――
繁 本 知 宏
Ⅰ.は じ め に
財務会計は,企業外部の利害関係者に対し,企業の財務情報を報告する会計 である!。その財務会計は経済社会との関わりにおいてどのような役割を果たし ているのだろうか。一見すると平凡な疑問だが,こうした疑問ほど,簡潔かつ 万人が納得できるよう説明することは難しい。実際,この疑問に対し多くの先 行研究が数々の答えを提示してきた。かつては,AIA[ ]による会計の定
義"に影響を受け,財務会計の機能は技術的な側面から解釈された。その後,
AAA[
](通称ASOBAT)が情報利用者の観点に立った会計の定義
#を公表 してからは財務会計の社会的な役割に注目が集まり,情報提供機能,利害調整( ) 財務会計は外部利害関係者向けの会計であるものの,法律や会計基準といった制度の 存在は必ずしも必要としない。財務会計のうち制度の結びついた会計が制度会計であ る。すなわち制度会計は財務会計の一部である(中村[ ] 頁,桜井[ ] 頁)。本稿の検討対象は理論領域と制度領域の双方に跨るため,財務会計という用語を 制度会計も含めた意味で用いている。
また,近年では財務会計に代えて財務報告という用語が用いられることも多い。米国 の財務会計概念書(SFAC) 号(FASB[ ])pars. − やIFRS Foundation[ ]par.
が述べているように,財務報告は財務諸表よりも広い範囲の開示情報を含むものであ り,財務会計よりも守備範囲が広い。本稿では財務会計の機能が考察の対象であるが,
SFACや国際財務報告基準(IFRS)を取り上げる際は財務報告という用語を用いる。
( ) AIA[ ]は「会計とは少なくとも部分的には財務的性格がある取引や事象を,意 味のある方法で貨幣額によって記録,分類,集計し,その結果を解釈する技術である」
と会計を定義した。
( ) AAA[ ]は「情報の利用者が判断や意思決定を行うにあたって,事情に精通した うえでそれができるように,経済的情報を識別し,測定し,伝達する過程である」と会 計を定義した。
機能,意思決定支援機能,契約支援機能,受託責任解明機能などが論じられて きた。
もっとも,同じ用語が使われていても,論者によって意味するところが異な る場合がしばしば見受けられる。一例であるが,利害調整機能といった場合,
利害調整の当事者は誰か,対立する利害とは何かといった基本的な点において も複数の見方が存在している。加えて,ひとつの用語が多義的に用いられてい る結果,諸機能の異同や相互関係も不明確なまま取り残されている。また,受 託責任解明機能については,FASB[ ]や
IASB
[ ]にみられるように,会計基準設定主体は意思決定支援機能に包含される機能として位置付けようと してきた。この流れの中で
IASB[
]はさらに踏み込み,本文から受託責 任という言葉を除去するに至った。ところがIASB[
]を改訂するための 公開草案であるIASB[
]では受託責任が再び本文に復活し,受託責任解 明機能は若干ながら地位を取り戻したかにみえている。このように,財務会計 の機能の位置付けは理論領域だけでなく会計基準の領域においても不安定さが みられている。このような状況を踏まえると,財務会計の各機能の意味内容を 明確化するとともに,各機能の相互関係を再整理する必要性が改めて問われて いるといえよう。このような認識に基づき,本稿では以下の点を課題として設定する。第一 に,わが国における財務会計の各機能に関する諸見解から共通項を抽出するこ とを通じ,各機能の意味内容を明確化する。第二に,一般に類似と考えられて いる機能の異同を明らかにする。第三に,会計基準の領域において位置付けに 不安定さがみられる受託責任解明機能について,企業の所有構造の変化や海外 における解釈の変遷を踏まえつつ,他の機能との相互関係を明らかにする。こ うした検討を行うことは,統合報告書の浸透など情報開示の新たな潮流が生ま れる中で,財務会計の持ち場を見つめ直すためにも有益な示唆を得ることがで きるのではないかと考えられる。
本稿の構成は次のとおりである。はじめに 節では,機能と目的という概念 の異同を社会学の視点を交えて検討する。その後,財務会計の機能を,その構造
に由来する機能と社会の中で果たす機能の つに大別し,まず前者について整 理する。次いで 節では,財務会計が社会の中で果たす機能について,先行研 究を概観しつつ諸見解から共通項を抽出し,各機能の意味内容の明確化を試み る。その後,一般に類似と考えられている機能の異同を探る。さらに 節では 受託責任解明機能に焦点を当て,企業の所有構造の変化と関連付けながら,同 機能の二面性を考察する。その上で,会計基準における同機能の解釈の変化を 振り返り,会計基準設定主体による受託責任解明機能の位置付けの変化は,企 業の所有構造の変化を反映したものであるとも解釈できることを指摘する。最 後に 節では考察結果を要約した上で,今後の検討課題に言及し,本稿を締め 括る。
Ⅱ.財務会計の機能と目的
.機能と目的の関係
財務会計は企業の財政状態および経営成績を企業外部の利害関係者へ報告す る会計である。財務会計には後述するように複数の機能がある。また,国際会 計基準審議会(IASB)や米国財務会計審議会(FASB)といった会計基準設定 主体は,会計基準を作成する際の指針を与える概念フレームワークの冒頭にお いて,財務会計(あるいは財務報告)の目的を設定している。ここで,財務会 計の機能,目的とは何を意味するのか。両者の関係をどう理解すれば良いの か。本節ではまず,この点を明らかにする。
財務会計の文献では機能と目的という用語がしばしば無差別に用いられてい る。両者とも日常用語として頻繁に使われるため,学術用語として用いられる 際にも曖昧さが残りがちである。しかし,両者は異なる概念と理解すべきであ る。社会学における機能主義!の理論に依拠すれば「機能の概念は観察者の見地
( ) 社会学における機能主義とは,社会的事象はその事象が演じる機能,すなわちその事 象が社会の存続に対して行う寄与の面から最も適切に説明できると考え,社会を,社会 の様々な部分が相互関係の中で作用する複雑なシステムとみなす見解に基づいた理論的 視座であり(Diddens[ ],訳書 用語解説 頁),T. ParsonsやR. K. Mertonらによっ て理論的基礎が構築された。
を含み,必ずしも当事者の見地を含まない」(Merton[ ],訳書 頁)も のであり,客観的な性格を帯びた概念である。これに対し目的は「結果につい ての主観的予想を指している」(Merton[ ],訳書 頁)ものであり,観 察者の主観が反映された概念である。財務会計も社会の一構成要素であるた め,こうした社会学の知見を援用することができると考えて財務会計の機能と 目的を考察すると,両者とも,財務会計を行うことによってもたらされる結果 である点は共通する。しかし,財務会計の機能は客観的な結果を意味するのに 対し,財務会計の目的はある主体が主観的に想定する結果を意味している点 で,両者は異なる概念であると理解できる。
次に,機能と目的の関係を考える。他の社会的な仕組みと同様に,財務会計 も原始的には何らかの目的を達成するために考案されたと考えるのが自然であ ろう。こうして考案された財務会計には当該目的を達成するための機能が意図 的に付与されることとなる。では,何らかの必要が生じて財務会計に新たな目 的を求める場合,当該目的は当初意図的に付与された機能の範囲内に止まらな ければならないだろうか。この点,財務会計が改変の余地のない硬直的なシス テムであればともかく,機能の拡張や新規追加ができるのであれば,当初の機 能の範囲外に新たな目的を設定することも可能である!。また,当初具備される 機能としては,目的達成のために意図的に付与された機能(Mertonのいう顕 在的機能)だけとは限らない。意図せざる機能(Mertonのいう潜在的機能)が 付着することもあり得る。むしろ一般的にはそうなることの方が多いだろう。
そしてこの意図せざる機能は,財務会計が新たな目的を掘り出す土壌にもなり 得る。このように考えると,財務会計の機能と目的は,原始的には目的が起点 となるものの,その後は一方が他方を制約するような固定的な関係ではなく,
相互に影響を及ぼし合いながら共に発展していく関係にあると理解できる。
( ) もちろん機能拡張・追加に関する理論構築や各種の利害関係者の意見調整などが別途 必要である。
.財務会計の機能
財務会計が行われることによる客観的結果を意味する財務会計の機能!は つ に分けることができる。ひとつは財務会計の構造に由来する機能であり,もう ひとつは財務会計が社会の中で果たす機能である"。前者は財務会計の内面的,
技術的な側面に着目するものであり,そうした機能の発揮を通じて財務会計が 社会に与える影響,すなわち財務会計の社会的な側面に着目したものが後者で あると考えられる。そこで本稿では前者を技術的機能,後者を社会的機能と呼 ぶこととする。
.財務会計の技術的機能
まず財務会計の技術的機能について考える。そもそも会計は,企業活動を帳 簿に記録することから始まるのであり,会計の原始的機能は記録機能にほかな らず,そこから他の機能が分化したと考えるのが自然である(黒澤[ ] 頁)。記録機能から分化した機能としては,測定機能,伝達機能などが挙げら れることが多い。このうち,企業の経済活動を計数的に測定するという意味の 測定機能は,多くの先行研究が会計の機能として指摘している(Paton[ ]
p.
,黒澤[ ] 頁,若杉[ ] 〜 頁,井上[ ] 頁,新井・川村[ ] 頁)。伝達機能についても,情報伝達機能と表現している研究
(井上[ ] 頁)を含め,多くの先行研究が会計の機能と捉えている(Paton
( ) 会計の機能を会計職能と表現する先行研究も多く,会計職能は本稿でいう技術的機能 と社会的機能のいずれの意味でも用いられている。例えば黒澤[ ]がいう会計職能 は技術的機能を意味する一方,染谷[ ]がいう会計職能は社会的機能を意味してい る。新井[ ] 〜 頁は技術的機能の意味で会計職能が論じられることがある点を 指摘しつつも,会計職能論は会計主体論と結びついてどのような利害関係者に対しどの ような会計情報を提供すべきかを考えるものであるとしており,会計職能を社会的機能 の意味で捉えている。また,溝口[ ] 〜 頁は,機能は客体化されたあるいは手 段化された会計のメカニズムやシステムが基底となっている一方,職能にはある目的に 対する任務や使命といった意味が備わっているとして,会計機能,会計職能をそれぞれ 本稿でいう技術的機能,社会的機能に相当する概念としている。
( ) 用いている用語に違いはあるものの,同様の角度から分類を行っている先行研究とし て井上[ ]や藤井[ ],友岡[ ]がある。
[ ]p. ,黒澤[ ] 頁,若杉[ ] 〜 頁)。阪本[ ] 頁 や新井・川村[ ] 頁がいう報告機能も伝達機能と同義と考えられる!。な お,報告の重要性を認識しつつも,小規模の個人店主が自らのために行う会計 のように報告なくしても会計は成立するとの見解はあるものの(森田[ ]
頁),財務会計に関していえば,財務会計は企業外部の利害関係者に企業の 財務情報を報告する会計であることから,財務会計には伝達(報告)機能が生 来的に存在する。以上から,財務会計の技術的機能としては,一般に,記録機 能,測定機能,伝達機能を挙げることができよう"。
ここで,これら つの技術的機能のうち,記録機能と測定機能の つについ ては第三者がいなくとも成立するため,登場人物は財務会計を行う企業のみで ある#。しかし,伝達機能については,企業が情報を伝達する相手方を必要とす る。そして伝達という行為が相手方に与える作用が,次節で述べる財務会計の 社会的機能である。かくして伝達機能は財務会計の技術的機能と社会的機能の 結節点としての役割を担う。
Ⅲ.財務会計の社会的機能
本節では財務会計の社会的機能について考える。財務会計は企業外部の利害 関係者に対し企業の財務情報を報告する会計であり,企業やその利害関係者と 同様に,財務会計も社会の一構成要素である。財務会計の社会的機能は,社会
( ) 報告は事実の提示であるという意識が強い一方,伝達は利害関係者の統制を伴うとし て,報告と伝達は異なるとの見方もある(青柳[ ] 頁)。しかし,現在ではむし ろ財務「報告」にこそ経営者の主観的な情報が盛り込まれる傾向が強まっていることか ら,本稿では伝達と報告は同義と考える。
( ) 会計の機能として,会計の経済的活動の管理手段としての機能に着目した管理機能を 挙げる研究(Paton[ ]p. ,黒澤[ ] 頁,阪本[ ] 頁)や,財産保全 機能を挙げる研究(Moyer and Mautz[ ]p. ,若杉[ ] 〜 頁)もあるが,
これらは会計のうち管理会計の機能と解される。対象範囲の取り方次第で機能は変わっ てくるのである(佐藤[ ] 頁)。
( ) ここでいう企業は,経営者を含むが株主や債権者等は含まない,組織としての企業を 意味する。また,記録や測定に当たって企業外部(市場など)の情報利用等はあり得るが,
それは企業の責任で行う行為であるから,関係主体は企業のみとして差し支えない。
がその構成要素である財務会計に要請する役割であり!,社会の要請が変化すれ ば財務会計の社会的機能も変化し得る。
では,社会の要請とは何か。この点については多くの先行研究が蓄積されて いる半面,それらが錯綜しているのが現状である。そこで,以下では,財務会 計の社会的機能に関する諸見解を概観し,それらの意味内容を明確化しつつ異 同を探ることとする。
.情報提供機能と利害調整機能
わが国ではこれまで多くの先行研究が情報提供機能と利害調整機能を財務会 計の機能として挙げており,情報提供機能と利害調整機能はそれぞれ,金融商 品取引法(証券取引法)会計と会社法(商法)会計に結びつける形で理解され てきた。ただ,先行研究を仔細にみていくと,両機能には必ずしも通説的な定 義がある訳ではないことが浮かび上がる。
⑴ 情報提供機能
まず,情報提供機能については,文字通り財務会計には情報を提供する機能 がある,という点では共通認識が存在する。しかし,どのような情報を,誰に 対して提供するか,という点については つの見方が存在する。
つは,財務会計が提供する情報とその提供先を広義に捉える見解である。
例えば,新井[ ] 頁は,会計情報の提供を目的とする会計を情報会計 とした上で,情報会計は,意思決定,人的・物的資源の効率的な管理運営,受 託責任や法的責任の遂行状況,課税・配当規制・料金規制・社会的責任の遂行 など,会計情報の利用者がその意思決定や判断を合理的に下すことができるよ う多様な会計情報を積極的に提供することを意図した会計と述べており,多様 な情報と利用者を想定している"。飯野[ ] − 頁は,財務会計の情報提
( ) こう考えると財務会計の社会的機能は財務会計の社会的役割と換言することもでき る。
( ) 新井[ ]には明示されていないが,AAA[ ]( 節 .参照)と実質的に同じ 見解である。
供機能について,社会の公器たる企業を取り巻く多数の利害関係者が必要とす る会計情報を提供し,それらの人々の意思決定に役立つことと述べている。ま た,安藤[ ] 頁も,情報を提供された者が企業に関して正しい判断と 意思決定を行えるようにする会計を情報提供会計としつつ,情報提供とは企業 の状況についての情報を提供することと述べており,幅広い情報と利用者を念 頭に置いている。
もう つは,提供する情報とその提供先を狭義に捉える見解である。この見 解は,会計情報の利用者を投資者すなわち現在および潜在的な株主や債権者と 狭く捉えた上で,会計情報の利用者の経済的な意思決定に有用な情報を提供す ることを情報提供機能と考える。例えば桜井[ ] 頁は,情報提供機能に ついて,投資者に対して証券投資の意思決定に役立つ情報を提供し,投資者を 保護することによって,証券市場がその機能を円滑に遂行できるようにするこ とと述べている。秋葉[ ] 〜 頁は,従業員や行政当局なども含めた 広範な人々が財務諸表の利用者となり得ると述べた上で,なかでも投資者と経 営者の間に存在する情報の非対称性を緩和すべく投資者の意思決定に資する情 報を提供することを情報提供機能としている。また,広瀬[ ] 頁は,
情報提供機能は一般投資者を社会的に保護しようという要請から生まれたもの であると述べた上で,投資者以外の利害関係者はあまりに種類が多いことに加 え,その情報ニーズや意思決定モデルもあまり知られていないため,財務会計 は投資者を想定し,その意思決定に役立つ情報を提供すると述べている。さら に醍醐[ ] 頁ならびに 〜 頁は,情報提供機能は将来志向的な機能 であると述べた上で,会計情報がそうした機能を持つのは情報の受け手が情報 を自己本位に裁量的,非定型的に利用できることを前提としている,と指摘し ている。このように捉えた情報提供機能は,後に述べる意思決定支援機能と本 質的には同じといえる。
以上から,情報提供機能には,①財務会計が提供する情報とその提供先を広 義に捉える見解(広義の情報提供機能)と,②投資者の投資意思決定に有用な 情報を提供することと狭義に捉える見解(狭義の情報提供機能)の つが存在
することが明らかとなった。両者の関係は①が②を包含するものと理解でき る。
⑵ 利害調整機能
利害調整機能は,財務会計が利害関係者間の対立する利害の調整に役立つこ とを意味する。もっとも,ここでいう利害や利害関係者の捉え方は一様でない。
例えば,山下[ ] 頁は,高率配当を要求する株主と企業財産保持を求 める債権者の間にみられる相対立する利害をそれぞれ適正に保護すべき課題が 企業会計には課せられており,財産法的利益計算はそうした利害を調整する機 能を有していると述べている。
これを受け,岡部[ ] 頁は,利害調整を目的とする利害調整会計と いう考え方は欧米の理論に類例をみないわが国特有の優れた会計理論であると 評価した上で,商法の規制などではこの考え方に沿って株主と債権者の利害対 立が持ち出されることが多いと指摘している。安藤[ ] 頁も法的視点 に立ち,商法会計は基本的に利害調整会計であるとし,商人の商業帳簿の制度 はもともと商人対債権者の利害調整が目的であったが,商法会計では取締役対 株主,株主相互間および株主対債権者の利害を調整していると述べている。ま た,広瀬[ ] 頁ならびに 頁は,利害調整とは企業と利害関係者また は利害関係者相互間の利害すなわち利益をめぐる対立または綱引きを調整する ことであると述べた上で,米国のように会計と法(会社法,税法)が乖離して いる場合は会計に利害調整機能があるかどうか疑問であると指摘し,法と利害 調整機能の結び付きを強調している。藤井[ ] 頁も利害調整機能の背 景にはコーポレート・ガバナンスの基本的枠組みを定めた会社法(商法)の関 連諸規定があると指摘している。これらの見解は,強弱の違いはあるものの,
利害調整機能について法的視点を交えて理解している点に共通項を見出せる。
また,伊藤[ ] 〜 頁は,経営者対会社や料金規制においても利害 対立が起こり得ることを指摘しつつ,会計は利害関係者間の利益の分配を決定 するシステムとしての役割を担っていると述べ,これを利益分配メカニズム と呼んでいる。新井・川村[ ] 〜 頁は,利害関係者の範囲をさらに広
く捉えて従業員や国・地方公共団体まで含め,これら利害関係者に対し企業 財産の分配に関する会計情報を提供することを,財の分配手段としての役割と 称している。これらの見解は,法的視点を前面に押し出さず,利害や利害関係 者を広く捉えているものの,その意味するところは利害調整機能と同様といえ る。
こうした見方に対し秋葉[ ] 頁は,会計数値が私的契約や公的規制 に組み込まれることにより特定,不特定の利害関係者間の利害調整が図られる と述べている。同様に桜井[ ] 頁も,会計数値を用いて利害関係者間 で交わされた契約の履行についての事後的な利害調整のために会計情報が使わ れることが利害調整機能であると述べている。醍醐[ ] 〜 頁も,企 業とその利害関係者が結ぶ各種の契約や規制の算式に会計数値が代入され,定 型的,非裁量的に利害を調整する指標として機能することを会計の利害調整機 能としている。これらの見解はいずれも利害調整機能について利害関係者間の 契約の履行に際し事後的な利害調整の役割を会計情報が果たすことと解釈して おり,後に述べる契約支援機能と本質的には同じと解される。
これらのほか,利害調整機能には,会計行為が直接利害を裁定する利害調整
(利害裁定)と,会計情報が経済行為者の行動に影響を与える結果として利害 調整に関与する利害調整の つの次元があり,後者は一般に情報提供機能と呼 ばれているとの主張もある(國部[ ] 〜 頁)。澤邉[ ] 〜 頁も利害調整機能は次の つのレベルで理解する必要があるとする。すなわ ち,第 のレベルは利益情報が行為主体の意思決定に利用され,またこのこと を利益情報提供者(企業)は予想しているという利益情報フィードバック・ル ープの中での利害調整機能であり,第 のレベルは経済学上の付加価値を費用 である先配項目と利益処分として扱う後配項目に区分する会計システム上の利 害調整機能である。このうち第 のレベルは前述の國部[ ]における後者 の利害調整に相当しよう。
このように利害調整機能に関する理解は多様である。これらを整理すると,
①株主,債権者,取締役(経営者)の間の利害調整を主眼とする法的視点に立っ
た見解か,②利害関係者間で交わされた契約の履行についての事後的な利害調 整と捉える見解のいずれかを採る研究が多い。そのほか,③会計情報の受け手 の行動を通じて利害調整が促進されることをも含意しているとの見解や,④費 用項目と利益処分項目の区分を通じた利害調整を含むとの見解もあることが分 かった。これらの相互関係は若干の検討を要する。
まず①と②については,両者とも会計数値を事後情報として捉え,会計数値 を定型的,非裁量的に利害を調整する指標として用いる点で共通している。異 なるのは,①は法的視点に立って法規を媒介として会計数値が利害を調整する のに対し,②は私的契約や公的規制を媒介として会計数値が利害を調整すると いう点である。もっとも,法規や公的規制も社会的な契約と捉えれば!,①,② はいずれも会計数値をある種の契約にインプットすることにより利害関係者間 の利害が調整されることを述べている点で共通している。こう考えれば①と② は つに括ることができよう。
他方③については,情報提供機能の間接的な効果として利害調整が促進され ると換言することができ,むしろ情報提供機能を意味している"。また,④は財 務会計の計算構造そのものの機能を述べており,むしろ技術的機能に分類する 方が良いように思われる。こうした点を踏まえ,以下では利害調整機能を①と
②の見解を意味するものとして用いることとする。
.意思決定支援機能と契約支援機能
会計情報が果たす役割を意思決定の事前と事後に分けて考察した
Beaver and
Demski[
]が発表されて以来,財務会計の機能をそれと関連付けて理解する研究が多くみられる(例えば須田[ ],岡部[ ],草野[ ],
( ) 同様の捉え方をしている研究として徳賀・太田[ ]がある。徳賀・太田[ ] では私的契約に加えて公的規制(配当規制と金融監督・規制)も契約と解し,各種の契 約において会計数値がどのように利用され,それが近年の会計基準における公正価値評 価の拡大に伴ってどのような影響を受けているかについて考察を加えている。
( ) このように,情報提供機能と利害調整機能は必ずしも二項対立的な関係にあるとは言 い切れない。ただ,本稿ではそれぞれの機能の特徴を浮き彫りにする便宜上,両機能を 対比させて考察している。意思決定支援機能と契約支援機能の関係も同様である。
徳賀[ ])。すなわち,意思決定の事前情報を提供する機能が財務会計の意 思決定支援機能であり,事後情報を提供する機能が契約支援機能である(須田
[ ] 頁)!。両者をもう少し丁寧に定義すれば,意思決定支援機能とは「投 資家の意思決定に有用な会計情報を提供し,もって証券市場における効率的な 取引を促進する」(須田[ ] 頁)ことであり,契約支援機能とは「契約 の監視と履行を促進し,契約当事者の利害対立を減少させ,もってエイジェン シー費用を削減すること」(須田[ ] 頁)である。前者の意思決定支援 機能は,本節 .⑴で述べた狭義の情報提供機能と本質的には同じである。ま た,後者の契約支援機能については,本節 .⑵で述べた利害調整機能のうち
②の見解と同旨といえる。この点,須田[ ] 頁は契約支援機能を「アメ リカ版利害調整会計論といえるかもしれない」と述べている。
.情報提供機能・利害調整機能 vs 意思決定支援機能・契約支援機能 以上のように,狭義の情報提供機能と意思決定支援機能,ならびに利害調整 機能と契約支援機能はそれぞれ本質的には同旨と理解できた。では,これらは それぞれ全くの同一であり,単に用語法が異なるだけと考えて良いだろうか。
この点,しばしば情報提供機能と利害調整機能は法的視点から,意思決定支援 機能と契約支援機能は経済学的視点から財務会計の機能を観察したものである との説明がなされる。ただ,この説明はやや漠とした感が拭い切れない。
この点については藤井[ ]が非常に的確な説明を加えている。藤井[ ]
〜 頁によれば,会計情報の利用者として,情報提供機能と利害調整機能 は法制度的観点から社会的集団としての投資者を想定しているのに対し,意思 決定支援機能と契約支援機能は経済学的観点から私益を追求する個人としての 投資者を想定しているという違いがあると指摘した上で,前者をマクロ的経済 機能,後者をミクロ的経済機能と称している。この見解を踏まえて考えると,
情報提供機能と意思決定支援機能,利害調整機能と契約支援機能は,それぞれ
( ) 岡部[ ] 〜 頁では契約支援機能に代えて関係形成支援機能という用語が用い られているが,実質的には契約支援機能と同旨である。
表現している現象は同じだが,その現象の観察単位が集団単位か個別主体単位 かという相違が認められる。したがって,それぞれ類似の概念であることは確 かだといえるものの,厳密にいえば全く同一の概念とはいえない。
Ⅳ.受託責任解明機能
ところで,財務会計の機能として,古くから受託責任(stewardship)解明機 能が唱えられてきた!。受託責任解明機能も前節で述べた財務会計の社会的機能 のひとつと位置付けられる。この機能は近代企業形態ならびに財務会計の成り 立ちと結び付けられ,多くの研究が会計の本源的な機能であると指摘している
(Ijiri[ ]
p. ix,醍醐[
] 頁,秋葉[ ] 頁,藤井[ ] 頁)。ここに受託責任とは,財産の管理を委託された受託者が,委託者の利益を最大 化するよう行動する責任を意味する。そして受託責任の遂行状況を委託者に説 明する責任を説明責任(accountability)といい,会計を通じた説明責任の遂行 を会計責任という。このことから会計責任は受託責任よりも広範な概念と考え られる(AICPA[ ],訳書 頁)"。
では,前節 .と同じ視点から観察した場合,受託責任解明機能は会計情報 の利用者を集団単位で捉えているのか,それとも,個人単位で捉えているの か。この点を考察することにより,受託責任解明機能と他の機能との相対的な 位置関係が明らかとなる。
( ) 受託責任の解明機能は,表明機能(醍醐[ ])や解除機能(秋葉[ ]),ある いは説明機能(藤井[ ])といわれることもある。また,IASBやFASBの概念フレ ームワークでは受託責任の評価との表現が用いられている。これらに対し本稿では新 井・川村[ ]や伊藤[ ]が用いている解明機能という表現を用いた。解明とい う語感からは,受託責任を明らかにする主体が誰なのかが判断し難いかもしれない。た だ,表明と説明は受託者の視点,解除と評価は委託者の視点に立つことが明確であり,
いずれの立場からも説明可能な受託責任という概念に言葉で色を付けることは適当でな いと考え,敢えて本稿では解明機能という表現を用いた。
( ) 友岡[ ] 頁が指摘するように,受託責任=財産管理責任+会計責任や,受託責 任=財産管理責任であり会計責任は別の存在,という考え方も存在するが,受託責任,
会計責任,財産管理責任の関係に関する考察は本稿の射程外に置き,AICPA[ ]の 見解に従う。
.集団としての株主を前提とした受託責任解明機能
受託責任解明機能は,財産の委託者と受託者が 対 で存在するだけの原始 的な状態でも認識し得るものではあるが,財務会計の機能としての地位を高め るようになった背景には,近代株式会社における所有と経営の分離の進行があ る。かつて
Berle and Means[
]が指摘したように,巨大化した近代の株 式会社では所有者たる株主の分散が進行し,そうして所有と経営が分離された 状況下では,株主の関心は配当と株価に集中する。そこで,経営者は配当と株 価の判断材料となる会計情報を報告することになるが,報告相手は経営に対す る影響力を持たない多数の零細な株主であり,個々の株主の個性は問題となら ない。彼等を一括りにした「株主」という利害集団を報告対象として認識すれ ば必要十分である。すなわち,所有と経営が分離した下では,受託責任解明機 能が前提とする株主(委託者)は,個別主体としての株主ではなく集団として の株主と考えるのが合理的である。かくして受託責任解明機能は情報提供機能 および利害調整機能と同一平面に配置される。こうした状況を前提にすると,株主に対する配当と株価の判断材料となる会 計情報の報告を以て経営者の受託責任が解除されることになる。これは情報提 供機能が受託責任解明機能を兼ねることを意味する。また,経営者支配の下で の零細な株主を保護すべく,公的規制により株主と債権者の間の利害調整なら びに株主に対する報告要請が同時に行われることにより,利害調整機能と受託 責任解明機能も密接な関係を持つこととなる!。
.個別主体としての株主を前提とした受託責任解明機能
もっとも,株主の分散は現在も一方向に進行している訳ではない点に留意す べきである。米国連邦準備制度理事会(FRB)の資金循環統計(Flow of Funds)
から米国における株式の部門別保有比率(時価ベース)を確認してみると,
( ) ここで焦点を当てている経営者と株主の間だけでなく,株主と債権者の間にも調整す べき利害が存在するため,利害調整機能と受託責任解明機能は完全に一致する訳ではな い。
年に .%であった家計の保有比率は低下し続け, 年には .%となっ た。代わって台頭したのは投資信託・年金基金等の機関投資家である。その保 有比率は 年には僅か .%であったが,その後ほぼ一本調子で上昇を続 け, 年には .%と家計を上回っている。
Drucker
[ ]が米国社会の 高齢化を背景とした「年金基金社会主義」の台頭を指摘したのは,機関投資家 の保有比率が %を超えてきた 年代半ばであった。わが国については,全国 証券取引所(東京,名古屋,福岡,札幌)が連名 で公表している「株式分布状況調査」( 年度)における所有者別持株比率
(株数ベース)!をみると,戦後の財閥解体を経た 年代末からバブル経済期 の 年代後半にかけて個人株主の持株比率が低下し,金融機関(投信,年 金信託除く)の持株比率が上昇する形で株主の機関化が進行した"。バブル崩壊 後は持合解消を進めた金融機関と事業法人の持株比率が低下し,代わって海外 投資家が存在感を高めた#。米国と比べるとわが国における投信・年金信託の持 株比率は依然として低水準に止まるものの( 年度末で .%)$, 年 月に「『責任ある投資家』の諸原則」(日本版スチュワードシップ・コード)%が 公表され, 年 月現在で の機関投資家がこれを受け入れると表明し
( ) 時価ベースの保有比率に関するデータは 年度以降しかなく,長期推移をみるた めに 年度以降のデータがある株数ベース( 年度以降は単位数ベース, 年 度以降は単元数ベース)を用いた。
( ) 年度末の金融機関(投信,年金除く)と個人の持株比率はそれぞれ .%,
.%であった。これに対し 年度末はそれぞれ .%, .%であった。
( ) 年度末の金融機関(投信,年金除く),事業法人,個人,海外投資家の持株比率 はそれぞれ .%, .%, .%, .%であった。これに対し 年度末はそれぞ れ .%, .%, .%, .%であった。
( )「株式分布状況調査」では,年金信託に公的年金の運用分は含まれていないため,年 金の持株比率が実態よりも低く出ている可能性がある。日本銀行が公表している「資金 循環統計」を用いて 年度末の年金(年金基金+公的年金)の保有比率(時価ベー ス)を算定すると .%となる。
( ) 金融庁の検討会である「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
が 年 月に公表。投資先企業の持続的成長を促し,顧客・受益者の中長期的な投 資リターンの拡大を図る,すなわちスチュワードシップ責任を果たすために遵守すべき つの原則と指針を挙げている。このコードはわが国の上場株式に投資する機関投資家 と議決権行使助言会社等を基本的に対象としている。
ている。このような状況に鑑みると,今後わが国においても機関投資家による 経営への積極関与が一層強まっていくものと思われる。
このように,日米ともに企業の所有構造が変化するにつれて,経営に対する 株主の影響力は強まってきている!。こうした状況下では,株主を単に集団とし て捉えてきた従来の見方は修正を迫られ,個別主体としての株主,すなわち経 営者と対等に対話が可能な機関投資家がクローズアップされる。こうなると,
受託責任解明機能が前提とする株主(委託者)として個別主体としての株主も 視野に入れる必要が生じ,受託責任解明機能は意思決定支援機能および契約支 援機能と同じ平面上にも存在し得ることとなる。
このように,企業の所有構造の変化を背景に,受託責任解明機能は,委託者 たる株主を集団として捉える側面と個別主体として捉える側面の二面性を呈す るに至ったと解釈することができる"。
.会計基準における受託責任解明機能の位置付け
では,会計基準の世界では,受託責任解明機能はどのような展開を経てきた のだろうか。わが国より早く株主の機関化が進んだ米国を中心に振り返ってみ ると,投信・年金等の所有比率がようやく 割に届いた 年代前半までは,
椛田[ ] 〜 頁が述べているように,受託責任解明機能は利害調整機 能と結び付けて解釈されてきた。
その後,株主の機関化の進行に歩調を合わせるように,受託責任解明機能を 意思決定支援機能と結びつける形で再解釈しようとする動きが活発化する。米 国公認会計士協会(AICPA)の会計調査研究書第 号である
Sprouse and Moonitz
[ ]訳書 頁は,会計は受託責任解明のほか,株主や債権者などの利害
( ) 経営に対し影響力を行使するのはいわゆるアクティビストに限らない。例えば,米国 の株式市場では,パッシブ投資家も議決権行使を通じて経営に重要な影響を与えている との研究結果がある(Appel, Gormley and Keim[ ])。
( ) さらにいえば,株主を個別主体として捉える側面の出現は,意図せざる機能として財 務会計に潜在的に備わっていた受託責任解明機能の一面が,企業の所有構造の変化に 伴って顕在化したものとも考えられよう。
関係者が経営者の業績評価や企業評価を行う手掛かりとなっていると述べ,受 託責任解明機能と意思決定支援機能を並置した。次いで
AAA[
]訳書〜 頁は,会計の目的として意思決定支援,企業資源の効率的な指揮・統制,
受託責任解明,課税や公益事業規制等の社会的統制の つを挙げ,意思決定支 援を受託責任解明よりも前に配置した。その後,AICPA[ ]訳書 頁は,
財務会計と財務諸表の基本目的は意思決定支援であって,受託責任解明のため に必要な情報提供はこれに含まれると述べ,意思決定支援を第一に考える姿勢 を鮮明にした。さらに
AICPA[
](通称Trueblood Report)訳書 〜 頁
ならびに 〜 頁は,財務諸表の基本目的は意思決定支援であると明確に述 べた上で,(受託責任を内包する)会計責任を果たすためには実績に関する情 報のみならず将来の業績の可能性に関する情報も必要であるとして,意思決定 支援機能が受託責任解明機能を飲み込むに至った。こうした理論の構築を経て,FASBは 年に財務会計概念書(SFAC)
号(FASB[ ])を公表した。そこでは,財務報告の機能は意思決定支援に あり(par. ),財務報告の基本目的も意思決定支援にあるとされた(par. )。
その上で,この基本目的をより具体的に展開したものとして,キャッシュ・フ ローの見通しを評価するために有用な情報提供(pars. − )と企業の資源や それに対する請求権とそれらの変動についての情報提供(pars. − )を挙げ る。さらに後者は細分化され,その中に経営者の受託責任の評価に関する情報 提供が含まれている(pars. − )。
このような
FASB
やAICPA
の考え方に対しては,学界からは批判的な見方 も示されたものの!,IASBの前身である国際会計基準委員会(IASC)も同様の 立場を採った。すなわち,IASCが 年に公表した「財務諸表の作成および( ) この時期にIjiri[ ]は,意思決定有用性を重視する考え方が広く普及している現 状を認識しつつも,会計は会計責任の円滑な遂行を促進するように設計されたシステム であると強調し,これら つの考え方の間には多くの理論的な相違があることを指摘し た。また,Gjesdal[ ]は,理論モデルを用いた考察の結果,意思決定情報の理論と 受託責任解明情報の理論は同じフレームワークであるものの,問題の構造や情報の規準 は異なるとし,意思決定支援のために最適な会計システムが必ずしも受託責任解明のた めに最適な会計システムであるとは限らないと主張した。
表示に関するフレームワーク」(IASC[ ])も
SFAC
号と同様,財務諸表 の目的は意思決定支援にあるとした上で,その中に受託責任の評価を含めて いる(pars. − )。さらに, 年には,FASBとIASB
は共同でSFAC
号(
FASB
[ ])およびIASB
[ ]を開発した!。そこでは,財務報告の目的 は意思決定支援にあり,受託責任の評価は意思決定支援に含まれるという考え 方が継承された(FASB
[ ]pars. OB , OB , IASB
[ ]pars. OB , OB
)。しかし,受託責任の評価という文言は翻訳が困難という理由で削除され
(FASB[ ]par. BC .
, IASB[
]par. BC . ),受 託 責 任 の 評 価 は 財務報告の二次的な目的に過ぎないとの考え方が一段と鮮明になった。ところ が, 年にIASB
が単独で公表した「公開草案『財務報告に関する概念フレ ームワーク』」(IASB[ ])では",受託責任の評価という文言が再び本文に 返り咲いた(par. . )。ただ,受託責任の評価を意思決定支援と並ぶ財務報 告の目的とはせず,受託責任の評価はあくまで意思決定支援に含まれるとするIASB[
]の考え方が踏襲されている。こうした
IASB
の考え方の背景にあるのは,受託責任の評価の最たる行為は 株主総会における議決権行使であり,その投票行動には経営者の当期の実績評 価に加え次期以降の責任遂行能力の評価も影響する。加えて,保有株式の売却,ホールド,追加購入といった投資判断を通じて受託責任の評価を行うことも可 能,というロジックである(IASB[ ]pars. .
, BC
. )。さらに注意 すべきは,受託責任解明の主役が経営者ではなく株主とされている点である。すなわち,従来の理解によれば受託責任解明は経営者が株主に対し受託責任の
( ) FASB[ ]とIASB[ ]の内容は全く同一である。
( ) 年のノーウォーク合意以降,FASBとIASBは共同で概念フレームワークの開発を
進め, 年にはFASB[ ]とIASB[ ]の公表に至った。しかし,その後に
なってIASBは単独で概念フレームワークを開発する方向に舵を切った。その理由につ いてIASBテクニカル活動担当シニア・ディレクターのA. Teixeiraは「少し政治的です が,IASBは,FASBとだけ一緒に基準設定しているのではないということを国際的に示す 必要がありました。(中略)長期的にみれば, つの基準設定主体との協力に集中しす ぎると,他の基準設定主体との関係を損なってしまう可能性があります。」(Teixeira・川 村・竹村[ ] 頁)と述べている。
解除を求めて会計報告を行うものであったのに対し,ここでは経営者の受託責 任を株主が評価するために役立つ情報を財務報告によって提供するという形に されているのである。
この点,
IASB
が言及している訳ではないが,このような受託責任解明機能 の理解は,本節 .で述べた企業の所有構造の変化という文脈の中で解釈する こともできる。すなわち,株主が機関投資家のような洗練された投資家であれ ば,受託責任は経営者から株主への一方向の財務報告によって解除される訳で はなく,財務報告を用いて株主が経営者と対話を行う過程の中で受託責任が評 価・解除されると考え,そうした考え方の下に受託責任解明の主役を株主とし ていると解釈することも可能であろう。なお,ここで述べているのは,
FASB
やIASB
による受託責任解明機能の位置 付けの変化は,企業の所有構造の変化に伴い受託責任解明機能と意思決定支援 機能は同一平面に配置することが合理的になったとする本節 .で提示した考 え方と,同じ文脈において解釈できるということである。これを超えて,受託 責任解明機能は意思決定支援機能の二次的な機能であるとするFASB
やIASB
の見方に対する適否を評価しているのではないことに留意されたい。Ⅴ.お わ り に
本稿では財務会計の機能,とりわけ財務会計の社会的機能に焦点を当て,先 行研究の整理を通じて概念の明確化を図るとともに,諸機能の異同や相互関係 を中心に考察した。その結果,以下の点が明らかとなった。
まず,情報提供機能には広義と狭義の つの見解が存在し,そのうち狭義の 見解は本質的には意思決定支援機能と同じである。次に,利害調整機能につい ては,先行研究の理解は多様であるが,会計数値をある種の契約にインプット することにより利害関係者の利害が調整される,という意味で理解されている ことが多い。この理解は本質的には契約支援機能と同じである。
ただ,情報提供機能と利害調整機能は集団としての投資者の視点から財務会 計の機能を観察しているのに対し,意思決定支援機能と契約支援機能は個別主
体としての投資者の視点に立っているという相違がある。
さらに受託責任解明機能については,所有と経営が分離し,個々の株主が経 営に対し影響力を有しない状況を前提とすれば,情報提供機能および利害調整 機能と同一平面に配置される。しかし株主の機関化が進み,株主が経営に対す る影響力を強めるようになると,受託責任解明機能は個別主体としての株主も 視野に入れる必要が生じ,意思決定支援機能および契約支援機能と同じ平面上 にも存在し得ることとなる。
この間,FASBや
IASB
は,受託責任の解明を意思決定支援の文脈において 再解釈し,受託責任解明機能には過去の実績評価と将来の責任遂行能力の評価 という つの側面があることを示した。そしてその背景には企業の所有構造の 変化が横たわっていると解釈することも可能である。以上が本稿で明らかにしたことの要約である。
もっとも,本稿では,受託責任解明機能は意思決定支援機能の二次的な機能 であるとする
FASB
やIASB
の見方の適否は評価していない。これを評価する ためには,少なくとも以下の 点を解明する必要があろう。第 に,理論面か ら,将来の責任遂行能力の評価のために必要とされる会計情報の特性を明らか にしなければならない。意思決定支援を主目的とする会計システムの中に当該 評価を組み込むのであれば,その評価のために必要とされる会計情報の特性 は,意思決定支援機能に対しマイナスの影響を与えないか,少なくともニュー トラルでなければならない。第 に,実証面から,現実の会計情報が,受託責 任解明機能と意思決定支援機能を同時かつ十分に達成しているか否かを検証す る必要がある!。両機能が理念的に同一平面に配置できることと,実際の会計基 準が両機能を同時達成できるよう設計されているか否かは別問題であり,後者 を検証するためには実証研究の成果を丹念にサーベイする必要がある"。こうし( ) 意思決定支援機能と契約支援機能の同時かつ十分な達成可能性については,当該命題 をより具体化した形で,公正価値評価の拡大が経営者報酬契約や債務契約に与える影響 を検証した研究が多く蓄積されている。この点については草野[ ]が詳しいサーベ イを行っている。
た点は今後の検討課題としたい。
また,本稿では,財務情報の利用者について,主として株主あるいは株式投 資家を暗黙の前提として考察を進めた。しかし,投資者として株主・株式投資 家と一括りにされがちな債権者,すなわち融資者(代表的には銀行)や社債投 資家の視点から観察した場合も本稿の見方が妥当性を有するか否かは別途検討 が必要であろう。この点は今後の研究を通じて解明していきたい。
参 考 文 献
American Accounting Association
(AAA), A Statement of Basic Accounting Theory, AAA, .
(飯野利夫訳『アメリカ会計学会 基礎的会計理論』,国元書房, 年)
American Institute of Certified Public Accountants
(AICPA), Basic Concepts and Accounting Principles Underlying Financial Statements of Business Enterprises, Statement of the Accounting Principles Board No. , AICPA, .
(川口順一訳『アメリカ公認会計士協会企業会計原則』,同文舘, )
――――,Objectives of Financial Statements, AICPA,
.
(川口順一訳『アメリカ公認会計 士協会 財務諸表の目的』,同文舘, 年)Appel, I., Todd A. G. and Donald B. K., Passive Investors, Not Passive Owners , working paper, .
(http://ssrn.com/abstract=,
最終アクセス . .)Beaver, W. H. and J. S. Demski, The Nature of Income Measurement , The Accounting Review ,
( )
, , pp.
−.
Berle, A. A. Jr. and G. C. Means, The Modern Corporation and Private Property, Macmillan, .
(北島忠男訳『近代株式会社と私有財産』,文雅堂銀行研究社, 年)Diddens, A., Sociology Fifth edition, Polity Press, .
(松尾精文・西岡八郎・藤井達也・小 幡正敏・立松隆介・内田健訳『社会学 第 版』,而立書房, 年)Drucker, P. F., The Unseen Revolution : How Pension Fund Socialism Came to America ,
Harpercollins, .
(佐々木実智男・上田惇生訳『見えざる革命−来るべき高齢化社会の衝撃』,ダイヤモンド社, 年)
Financial Accounting Standards Board
(FASB), Statement of Financial Accounting Concepts No.
Objectives of Financial Reporting by Business Enterprises, FASB, .
( ) この点,実証研究ではないが,理論モデルを用いた分析の結果,投資価値評価と受託 責任解明のそれぞれに有用な会計情報の特性に類似性はみられるものの,裁量性の高い 会計システムの下では,投資価値評価に焦点を当てれば自動的に受託責任解明にも役立 つという
IASB
やFASB
の主張は疑問であると結論付けた研究がある(Kuhner and Pelger[ ])。