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第 471 回東京医科大学臨床懇話会

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Academic year: 2021

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471 回東京医科大学臨床懇話会

去勢抵抗性前立腺癌に対するカバジタキセル導入後診断に 苦慮した呼吸不全の症例

A case of respiratory dysfunction after Cabazitaxel chemotherapy for castration resistant prostate cancer

日   時 : 平成 29 年 11 月 14 日(火)17 : 00 〜 会   場 : 東京医科大学病院

      教育研究棟(自主自学館)3 階 大教室 当 番 分 野 : 東京医科大学泌尿器科学分野

関連診療科 : 東京医科大学病院呼吸器内科 司   会 : 佐竹 直哉(泌尿器科学 助教)

発 言 者 : 松原 修也(泌尿器科)

      中山 秀章(呼吸器内科)

東医大誌 76 (3) : 257

-

262, 2018

臨床懇話会

佐竹(司会) : それでは、そろそろ始めます。第 471 回東京医科大学臨床懇話会の担当診療科は泌尿 器科ということで、演者のほうは松原先生よろしく お願いします。

関連診療科は、呼吸器内科の中山先生に来ていた だいています。

それでは、松原先生よろしくお願いします。

松原(泌尿器科) : それでは「カバジタキセル導 入後診断に苦慮した呼吸不全の一例」について報告 させていただきます。

泌尿器科松原です。よろしくお願いいたします。

去勢抵抗性前立腺癌に対して、抗癌剤であるカバ ジタキセルが使用されています。タキサン系の抗癌 剤は副作用が多岐にわたることで知られています。

今回、我々はカバジタキセル施行時に呼吸困難を 来した一例を経験しましたので報告いたします。

症例は 70 歳代男性の方です。急変時の主訴とし ては呼吸困難でした。

現病歴ですが、PSA77.7 ng/dl で前立腺生検を施 行、GS(Gleason score : GS)4+4=8、腰椎、恥骨に

転移巣を認め内分泌療法を開始しました。9 年後に ドセタキセルによる化学療法が導入されました。

ドセタキセルは、去勢抵抗性前立腺癌(Castration resistant prostate cancer : CRPC )に対して使用され る抗癌剤の一種であり、ドセタキセル導入からセカ ンドラインの化学療法カバジタキセルを導入するま での一連の経過を示しています。

ドセタキセル 10 コース施行後、PSA の上昇、画 像の増悪あり、エンザルタミドによる内分泌療法を 施行しています。

その後エンザルタミドにも抵抗性を示しましたの で、カバジタキセル導入の運びとなっています(図 1)。

佐竹 : では、ここで前立腺癌に関して、少し教科 書的なことになりますけれども、疫学的なことおよ び治療について、よろしくお願いします。

松原 : ここで、前立腺癌の内分泌治療について簡 単に述べたいと思います。

こちらは最新の統計データですが、がん情報サー

ビスの 2016 年時点の統計によりますと、2016 年の

(2)

前立腺癌の予測罹患数は 92,600 例です。

過去の統計を見ると、2015 年の前立腺癌の予測 罹患数は 98,400 例、2014 年では 75,400 例です。男 性における部位別の癌予測罹患者数を見ると、前立 腺癌が 2014 年に第 3 位、2015 年には第 1 位となっ ています。

前立腺は非腺成分と腺成分からなり、腺成分は中 心域、辺縁域、移行域に分けられます。

中心域は主に両側の射精管と精丘の周辺に存在 し、前立腺基底部の大部分を構成しています。辺縁 域は前立腺の後面を占め、前立腺全体を包むように 存在しています。移行域は、中心域と辺縁域の間に 位置します。

前立腺癌の約 75% は辺縁域に発生し、 20% が移 行域、約 5% が中心域に発生するとされています。

前立腺癌の臨床病期についてです。この高リスク というところをご覧ください。PSA 20 以上、Glea- son スコアが 8 以上、臨床病期 T2c 以上が高リスク とされており、転移や再発のリスクは高くなります。

続いて、前立腺癌の治療について述べます。

前立腺癌の治療は、このように大きく分けて 4 種 類あります。

まずは手術ですが、近年開腹手術に比べて、低侵 襲でかつ良好な視野で執刀が可能なロボット支援下 での前立腺全摘術が多数を占めつつあります。

次に、本症例にもありましたように、内分泌療法 について述べます。

前立腺癌に対する内分泌療法は、前立腺癌に対し て去勢術及びエストロゲン投与が有効であるという ことを報告したチャールズ・ブレントン・ハギンズ 氏によって確立された治療法です。

簡単なメカニズムですが、視床下部から下垂体、

精巣及び副腎を経て前立腺に作用するというホルモ ンの経路で、 GnRH ( Gonadotropin releasing hormone : GnRH)アゴニスト及び女性ホルモン剤というのは、

視床下部にネガティブフィードバックを誘発するこ とで、GnRH の放出を抑制します。

また、精巣を摘除することも精巣からのテストス テロン放出を抑制するという意味で、内分泌療法の 重要な役割を担っています。

さらに、抗アンドロゲン薬は精巣からのテストス テロンだけでなく、副腎からわずかに放出される副 腎性テストステロンを抑制し、より幅広く前立腺癌 の進行を妨げます。

その他 GnRH アンタゴニストによって、生理的 に放出される GnRH そのものを抑制するという方 法もあります。

血中のテストステロン濃度は、先述しましたよう に、精巣だけでなく副腎からもアンドロゲンの前駆 物質が分泌されるため、LH

-

RH アゴニストのみで 0

100 200 300 400 500 600 700

0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

PS A (n g/ml)

CBZ

Enzaltamide

開始時

147.2ng/ml

CBZ

開始時

296ng/ml

TXT PSA nadia 62.7ng/ml

TXT

終了時

71.2ng/ml

Leuprorelin acetate

10course

TXT Enzaltamide

13ヵ月

TXT

開始時

632ng/ml

Enzaltamide PSA nadia 95.4ng/ml

(ヵ月)

1

(3)

はゼロまで低下しません。そこで、アンドロゲンの 作用を徹底的に抑制するため、末梢でのアンドロゲ ン作用の遮断を併用する治療法が提唱されました。

具体的には、両側精巣摘除または LH

-

RH アゴニ ストに抗アンドロゲン薬を組み合わせて行うもの で、この治療法を CAB 療法(CAB : combined andro- gen brockade )と言います。

この内分泌療法が効かなくなってきた時点で、去 勢抵抗性前立腺癌と診断し、化学療法の検討に移行 します。今回の症例では、この化学療法施行の段階 で既に移行していました。

化学療法導入後の時系列による PSA の推移を改 めて示します。

本症例では、ドセタキセル導入後、抗アンドロゲ ン薬であるエンザルタミドを導入しましたが、残念 ながら抵抗性を示したため、化学療法のセカンドラ インであるカバジタキセル導入に至っています。

カバジタキセル導入時の造影 CT の所見です(図 2)。

傍大動脈及び左総腸骨動脈領域リンパ節の増大、

前立腺原発巣の増大を認めています。

本症例では、カバジタキセル 13 コース目に呼吸

困難及び酸素飽和度の低下を認め、採血、胸部レン トゲン及び胸部 CT 施行に至りました。

呼吸困難発現時の血液データですが、白血球が 30,500、CRP 21.6 と炎症反応の著明な上昇を認めて います。さらに呼吸性アルカレミアの状態となって いました。

呼吸困難発現時を Day 1 とし、そのときの胸部レ ントゲン及び CT を示します。胸水及び肺炎像を認 めていました(図 3)。

結果として、我々は間質性肺炎を疑い、それに準 じた治療を行いました。ここに治療までの経過を示 しますが、当初、MSSA が血液培養から見られたこ とから、細菌性肺炎を考え、抗生剤治療を開始しま した。

急変後 4 日目に念発音を聴取し、再度施行した胸 部レントゲンですりガラス陰影、胸部単純 CT で浸 潤影増悪の所見が見られ、同日の KL

-

6 の所見が

655 U/ml と著明に増加していました。ここで間質

性肺炎を疑い、ステロイド治療を開始しました。

また熱型については、 Day 1 から徐々に熱は上昇 し、最大 38.8 度まで上昇していました。

Day 4, 5 の胸部レントゲン並びに胸部単純 CT で

2

CBZ 開始時 造影 CT

左総腸骨動脈領域リンパ節増大

傍大動脈リンパ節増大

前立腺原発巣の増大

(4)

す(図 4 )。両肺に広がる浸潤影及びすりガラス影 を認めました。

なお、一般的に間質性肺炎に見られる典型的な蜂 巣肺を示します。

これを見ると、本症例は典型的な間質性肺炎とは 異なっていました。

白血球、CRP の推移と酸素飽和度の変化を時系

列でグラフにしたものです。急変後 5 日目よりステ ロイド治療を開始しましたが、酸素飽和度の明らか な改善は認めず、急変後 7 日目に死亡に至りました。

一方で抗生剤治療開始後、炎症反応は低下を認めて いました。

本 症 例 で の 鑑 別 す べ き 疾 患 で す が、 ま ず は、

Day 1 に見られた浸潤影から細菌性肺炎、また、そ

Day1 胸部 X 線写真および 胸部単純 CT

胸部単純 XP 胸部単純 CT 図 3

4

Day4 胸部 XP Day5 胸部 CT

Day5 胸部 CT

Day4,5

胸部 X 線写真および

胸部単純 CT

(5)

れによる敗血症などを含めた ARDS(急性呼吸窮迫 症候群)、胸水の貯留があることから肺水腫、カバ ジタキセル導入中であることから薬剤性の間質性肺 炎を挙げました。

佐竹 : ここまでで、このような経過を経て呼吸不 全になった症例ですけれども、鑑別すべき病態が ざっと挙げても 4 つあります。実際になかなか治療 がうまくいかなくて、最終的には死亡に至ってし まったわけですけれども、これらの病態についてど のように考えていけばいいか、臨床的にアプローチ していけばいいかという点を、呼吸器内科の中山先 生のほうから一言いただきたいと思います。

中山(呼吸器内科) : 呼吸器内科の中山です。

これが Day 1 で一番最初のころだと思いますが、

左のレントゲンを見ると、両側に影がありそうに見 えるのですけれども、CT で見ると背側のほう、両 側に胸水があって、肺のほうに関しては、皆さんに 向かって左側が右の肺になります。下部、お腹の下 のほうから見上げているという形になります。左側 が右の肺、右側が左の肺という形になります。

左の肺の下部のほうに、いわゆるコンソリデー ション(浸潤影)があるという形になっていて、こ この部分には、明らかにこの時点で陰影が肺内にあ ります。ただ両側性の胸水がありますので、このと きに 1 つ考えなければいけないのは、両側性の胸水 を来すようなイベントがなかったどうか。簡単に言 うと、心不全は必ず鑑別しなければいけないことと して挙がってくるだろうと思います。もしくは、栄 養不良による両側胸水の浸出です。

ここで感染症として治療が入ったのですけれど も、その後の画像をお願いします。

その後、僅か 3 日か 4 日ぐらいで明らかに両側の 陰影が濃くなっています。特に CT、右の下のとこ ろを見ていただくと、今度は先ほどと違って、左側 のほうにもコンソリデーションが出てきています が、両側のほうに、いわゆるすりガラス影が見える 形になっています。

あともう 1 つ特徴的なのが、サブトライアル胸膜 直下は比較的スペアされていて、あんまり陰影がな いようになっています。上の前額断でもそうですけ れども、肺の外側のほう、胸膜直下はあんまりない という形になっているので、どちらかというと心臓 から中心性に陰影が広がっているというような形に なってきます。

こういうの陰影を見たときも、やはり心不全や、

また場合によっては、ニューモシスチス・カリニ肺 炎、サイトメガロウィルス肺炎などを考える必要が あります。いわゆる、肺水腫の除外になってくると 思います。

ということで、この時点でこの画像と経過を見る 限りでは、血培も陽性だったということで、呼吸器 的には ARDS というのを考えたいのですが、抗癌 剤を使用していること、肺に陰影があったこと、そ れから両側胸水があったということになってくる と、やはり心不全などを鑑別するという形になって きます。

そういった陰影で、すりガラス影を来す疾患には、

ARDS を含めていろいろな心臓感染症が起こってく るので、そのような病態をしっかりまず鑑別として 挙げて、情報集めをしておく必要があった考えてい ます。

佐竹 : ありがとうございます。では、さっきの鑑 別のスライドを示してください。

このように、今回の症例は、間質性肺炎と考えて、

ステロイド治療を中心にして、結局最終的にはうま くいかなかったんですけれども、このようにいろい ろな所見、経過を見ながら、どの病態であるのかを しっかり見きわめて治療していかないと、呼吸不全 のような重篤な病態に陥ってしまうということで す。

今回、間質性肺炎の話をこの後するのですけれど も、実際にドセタキセルとかカバジタキセルは、ス ライドで見せたように、前立腺癌の治療でよく使い ます。このタキサン系の抗癌剤は間質性肺炎を起こ すという報告があります。そのような報告もあると いうことから、実際にその可能性も考えた上で診療 に当たっていたのですが、この後は薬剤性、今回の タキサン系の間質性肺炎について話を続けてくださ い。

松原 : カバジタキセルの合併症の 1 つである間質 性肺炎についてですけれども、カバジタキセルで注 意すべき副作用の 1 つである間質性肺炎についての 症例が、ここでまとめられております。

報告をまとめたものなのですが、死亡例について は、年齢による有意差は認めませんでしたが、投与 量につきましては、死亡例は全例 25 mg/m 2 以上で 見られていました。

つまり、投与量が多ければ多いほど死亡する可能

(6)

性が高くなるデータとなっています。

ドセタキセルでの間質性肺炎の合併率は GRADE 3 以上のもので 4.3% に出現しているのに対し、カ バジタキセルは 2.3% と出現率は比較的低いとされ ています。カバジタキセルに限らず、タキサン系抗 癌剤投与中に引き起こる間質性肺炎の致死率は 7.1% と、高い致死率だったという報告があります。

結語です。カバジタキセル 13 コース施行後に発 症した急速に進行する呼吸不全を経験しました。

このように化学療法施行中に発症する呼吸不全に は、さまざまな病態を鑑別する必要があり、適切な 検査及び治療が必要であると考えました。以上です。

佐竹 : ありがとうございました。

今回このような前立腺癌の抗癌剤治療中に起こっ た呼吸不全の報告ですけれども、何か中山先生のほ うから間質性肺炎について、最後に一言お願いしま す。今回の症例では、データとして、間質性肺炎を 疑う要素は基本的にはなかったのですね。

中山 : 学生さんが多いので、まず注意していただ きたいのは、 CT でもレントゲンでも大事なことは、

すりガラス影を来した、イコール間質性肺炎でない ということを知ってください。それはあくまでも画 像的な影なので、間質影と表現していただくのが正 しいという形になります。

そうすると、先ほど言ったように、間質影を来す 疾患では、心不全もありますし、ARDS もあります し、さっき言った間質性肺炎の増悪でもあるという ことになりますので、そのどれに当たるのかという のを、しっかり情報を集めて鑑別していただきたい

ということになります。

その上で、間質性肺炎という言葉を使うのかどう かというのを判断していただきたい。ただ、ここの 部分も呼吸器の医者にとって非常に難しいところで す。重要なことはすりガラス影を来した、イコール 間質性肺炎のような単純に判断しないで頂きたいと 思います。

あとは、残念ながら抗癌剤とか抗菌薬を使ってい ると、やはり間質性肺炎、僕らは「薬剤性間質性肺 炎」と言わなくて「薬剤性の肺障害」という言葉を 使うのですけれども、そういった、いわゆるすりガ ラスとか、いろいろな肺の陰影が出てくることがあ ります。このため薬剤を使っているときには頭に入 れなければいけないのですが、まず何よりも感染症 そして心不全が印象的には非常に多いのです。これ らは画像的にもすりガラス影をとることがあるの で、そのようなものが背景にあるかどうかを、まず 最初にチェックしていただきたいと思います。

抗菌薬を投与したり、心不全の治療を行ったりす ると、酸素化だけ急激によくなることがあります。

そのうえで改善が見られなかった場合には、間質性 肺炎という可能性が出てくるというのを呼吸器科 医、もしくは救急の先生と相談しながらやっていた だくのがいいのかなと、この症例を見て思っており ます。

佐竹 : ありがとうございました。それでは、今回 の臨床懇話会、呼吸不全を来した去勢抵抗性前立腺 癌の症例をこれで終わりたいと思います。

(近森大志郎編集委員査読)

参照

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