(解答番号
~ ) 次の文章を読んで、後の問い( 問
1
~
8)に答えよ。但し、設問の都合で、原文を一部省略した箇所がある。
想像というのは、現実にないもの、見えないもの、経験したことがないもの、今直接には関係のないもの、そういう未 囚
とらわれていると難しい。 何
な故
ぜなら、想像す 現実認識にとって障害になるので、 逆にこれを規制 (自制) しようと生理的に働きかけるからである。 つまり、
①
な 夢 を 見 る こ と は 、 誰 に だ っ て で き る 。 特 に 子 供 の 頃 に は 、 そ う い う 夢 を 頻 繁 に 見 た は ず だ 。 子 供 は 、 夢 で な 現実離れしたことを考える。 それを大人に話すと、 「そんな夢みたいなこと言うな」 と叱られるから、 だんだん周 を
アヒソ めざ
滅
めっ多
たにない、といっても良い。想像力など働かせなくても生きていけるし、 むしろ変なことを考えない方が生きや 。 しかし、 物事を客観的に、 そして抽象的に考えるには、 どうしても現実から飛躍する必要がある。 それは、 実際には個々 林
りん檎
ごを、同一のものとしてイメージすることと同じだ。そういう「仮の発想」がなければ、物事を抽象的に 。さらに、 国 語
1
A 22
う い っ た 話 を す る と、 「そ ん な も の 本 当 に 大 事 な の か?」と 疑 う 人 も 多 い だ ろ う。そ こ で、あ 貴
あなた方 を金持ちにし、自由にし、そして人から尊 を
ウク シすることによって、客観的に考え、抽象的に物事を捉えることができれば、各種の苦境から自分を救うこと き る。 ち ょ っ と 考 え 方 を 変 え る だ け で、救 わ れ る こ と だ っ て あ る 。こ こ が、是 非 と も 強 調
「抽象」について、もう少し具体的に説明してみよう。具体的に話す場合には、 「例を挙げる」ことになるので、
真
ま似
ねる。
B
実はそうでは 沢
たく山
さんいる。 人間のタイプは、そんな外面だけでは捉えられないことは自明だろ
それは、生き方だったり、考え方だったり、人に対するちょっとした
「そういう人」 という貴方の頭の中にある漠然とした概念が、 すなわち 「抽象」 なのである。 これは、 人に伝 き な い か も し れ な い。い ろ い ろ な 場 面 で ど う 行 動 し た の か と い う シ ー ン を 幾 つ か 話 し て、 「だ い た い そ う い う 人 な ん
の 名 前 を 出 し て、 「〇 〇 先 生 の よ う な 人」と い え ば、そ の 小 説 を 知 っ て い る 人 な ら ば 伝 わ る か も し れ な い。当 然 な が
ただ、その場の「言葉」が通じるだけの話である 。
しかし、 たとえば、 事件を報道するニュースで、 「バールのようなもので金庫を壊されていた」 と言っている に
エソウ トウするような機能を と推定しているのである。 バールかどうか、 具体的にはわからないが、 「機能」 という本質 「〇〇風の男性」などもよく耳にするだろう。
C D
ウ
オサク の段階で、バールでないものを見つけた場合に もしかして、 これでも可能だな」 と判断できる。 単に 「バール」 と具体的に限定してしまうと、
「バール」 よりも 「バールのようなもの」 の方が集合として大きいということ。
当初 「~のような動物」 とか、 「~に似た植物」 といったように抽象的に表現されるが、
言葉さえ覚えていれば、 試験問題の四角の中に 答
こたえを書き込むこともできる。 それ以外のものは無駄だ、
鵜
う呑
の「言葉」 に比べて、 「~のようなもの」 という漠然としたイメージは、 覚えにくく、 伝えにくいが、 それを受け止
( 森
もり博
ひろ嗣
し『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』による)
ア が
1傍線部 ア ~ オ の漢字と同じ漢字を含むものを、次の各群の a ~ e のうちから、それぞれ一つずつ選べ。解答番号は
1、 イ が
2
、 ウ が
3
、 エ が
4
、 オ が
5
a 都内で セン コウ発売する
b セン モン家に質問する ア ヒソ め c 時代のヘン セン を学ぶ
d 独立を セン ゲンする
e 書物の世界にチン セン する
a 政策のカ ヒ を問う
b ヒ ゾクな表現を用いる イ ヒ キン c ヒ ヨクな土地で育てる
d ゴク ヒ に計画を進める
e ヒ コクを弁護する
a セン ク 的な取り組み
b ク カク整理を行う ウ ク シ c 説明に ク リョする
d 創意 ク フウをする
e ハイ ク をつくる
a 先生に ソウ ダンする
b ソウ ゼンとした場内 エ ソウ トウ c イメージを ソウ キする
d ソウ ゴンな響き
e 生徒の ソウ イを得る
a 資本家に サク シュされる
b 論文のテン サク をする オ ソウ サク c ケッ サク を読む
d ホウ サク を講じる
e 図書館でケン サク する
2空欄
①
に補うことばとして最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
a 同工異曲 b 絢 爛 豪華 c 公平無私 d 快刀乱麻 e 荒唐無稽
けんらん 6
の理由の説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
3傍線部 A 「むしろ変なことを考えない方が生きやすい、とさえいえるかもしれない」とあるが、それはなぜか。そ
c 想像力は、働かせすぎると主観的なもの、具体的なものに囚われた形で現実を認識することになるため、無意 滅多にないと言ってよいから。 b 想像力は、主観的なもの、具体的なものをみることによって養われるが、普段の生活では必要とされることが 的に鍛える必要がなくなるから。 a 想像力は、大人になり周囲と折り合いをつけるようになると、常識が備わってくることで補われるため、意図
7識のうちに規制してしまうから。 d 想像力は、現実にないもの、見えないもの、今、直接に関係ないものなどを考えることであり、働かせすぎる と現実を認識する障害になるから。 e 想像力は、未知で不在のものを考えるために必要であるが、それは多くの偉人や成功者にのみ要求されるもの であり、一般的な人には無縁のものだから。
説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
4傍線部 B 「ちょっと考え方を変えるだけで、救われることだってある」とあるが、なぜ救われるのか。その理由の
c 他者に対して具体例を挙げて説明すると、非常に狭い限定された範囲に目を向けることになり、物事に対する る立場になることができるから。 b 客観的に考え、抽象的に物事を捉えることにより、ユニークなインスピレーションが生まれ、人から尊敬され いた主観的なものの見方から脱することができるから。 a 現実から飛躍して、物事を抽象的に捉えることにより、客観的な全体像が見えてくるため、それまで囚われて
8焦点が合った状態になるから。 d 異質なものを受け入れる「好奇心」を持つと、自分の目ではない視点を持つことにつながり、現実を正確に理 解することができるようになるから。 e 想像力を活性させることで、体験したもの、教えられたもの、知っているものを理解でき、対象を絞り込んで 目を向けることができるようになるから。
か。その説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
5傍線部 C 「人間のタイプは、そんな外面だけでは捉えられないことは自明だろう」とあるが、それはどういうこと
c あるキャラクタが好きな場合、どんな外見なのかという見える特徴は、具体的なタイプの代表であるが、それ 体的に捉えることはできないということ。 b 小説を読んであるキャラクタを好きになっても、実際にそのキャラクタに会えるわけではないため、外見を具 ば、性格を捉えることはできないということ。 a あるキャラクタと同じような人生計画をするだけでなく、趣味や話し方の癖まで取り入れることを行わなけれ
9だけではそのキャラクタの生き方などを明確に説明することができないということ。 d あるキャラクタが好きな理由を外見に置く人が多いが、その条件を満たす人間はかなり沢山おり、実際には外 見だけでなく、行動の内容も含まれているということ。 e あるキャラクタの外見を取り入れてもそのキャラクタになりきることができないのは、あくまでキャラクタの 外見の一面しか見ることができていないからだということ。
しているのか。その説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
6傍線部 D 「ただ、その場の『言葉』が通じるだけの話である」とあるが、筆者はここでどのようなことを言おうと
すだけでは伝わらないが、小説にシンボル的なキャラクタが描かれているとその小説を知っている人だけには理 b 「そういう人」は、漠然とした概念であるため、いろいろな場面でどう行動したのかというシーンを幾つか話 ことが可能になるということ。
し た の か と い う シ ー ン を 幾 つ か 話 す こ と で、 「だ い た い そ う い う 人 な ん だ」と い う ぼ ん や り と し た 印 象 を 伝 え る a 「そういう人」と頭の中にある漠然とした概念は、人に伝達できないものであり、いろいろな場面でどう行動
10解してもらえるということ。 c 「そういう人」とは、そのキャラクタの人生そのものを表しているため、ディテールを正確に捉え、具体的に 見える特徴を細かく限定し、ユニークなインスピレーションをもってもらうことによってはじめて相手に理解し てもらえるということ。 d 「~のような」という表現を使って伝えられる人物の印象は、小説を読んだ人にしか追体験できない共有不能 なものであり、一般的には理解できない架空のものであるため、こうした表現を多用することは好ましくないと いうこと。 e 「~のような」という表現は、これが意味する言葉の適合する範囲が広く、具体性に乏しく漠然とした印象し か伝えられないため、情報の受け手と発信者がそれぞれもっているキャラクタの印象そのままにやりとりしてい るにすぎないということ。
に合う発言を、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
7次に示すのは、この文章を読んだ五人の生徒が、言葉とイメージについて話題にしている場面である。本文の主旨
c 生徒C ― 抽象的な言葉は、集合として大きく、たくさんの情報を示すことができるってことだね。だから、 含まれるものが多くなって、いろいろなものに適応できる可能性が広がるんだよね。 b 生徒B ― イメージって、 意味を厳密に定義している言葉と違い、 堅苦しさがないよね。 ことによって、言葉で表せないイメージを無駄だと思ってしまうようになるんだ。 a 生徒A ― 子供は言葉を沢山覚えていくことによって成長し、 大人になると思っていたけれど、
11抽象的な言葉を使いこなせるようになると、具体的なイメージを伝えることができるようになるんだな。 d 生徒D ― 具体的な言葉って、 それを受け止めた人の頭脳がその人の興味があることに注目するんだね。 ら、情報をより多く伝えることができ、時間が経っても結果として多くのイメージが残るって知らなかったよ。 e 生 徒 E ― 大 人 に な る と 常 識 が 備 わ っ て く る か ら 自 然 に 言 葉 を イ メ ー ジ に す る こ と ね。だから、すぐに言葉の定義をすることができるようになるんだろうね。
8
この文章の内容に合致するものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
可能になる。 を明確にするために必要である。こうした行為が言葉を定義することにつながり、言葉が一般に流通することが e 想像により言葉を抽象化することは、言語でのコミュニケーションの行き違いを防ぐだけでなく、言葉の意味 能になる。 より「焦点」が合うので、言葉が表しているイメージが頭の中で展開され、全体の情報を正確に伝えることが可 d 「たとえば」で始めて、具体例を示すことによって、イメージとして広範囲に目を向けることになる。これに っていくことになる。 として人物像を受け止めることができるようになるため、コミュニケーションをうまくはかるための技術が備わ c 人物像を正確に伝えるためには、キャラクタの設定が必要である。それにより、主観的なもの、現実的なもの になる。 姿勢が大事なファクタとして現れてくる。そのため、新しい感覚をもって未知で不在なものをイメージすること b 人間は、現実認識にとって障害になる想像を止めることによって、異質な物を受け入れる「好奇心」のような 多くのイメージが残る。 とが大切である。そうすることで、それを受け止めた人の頭脳が働くため、情報として多くを伝え、結果として a 物事は、多様な性質をもつため、未知で不在のものを具体的なイメージで限定しないように想像を働かせるこ
12二 問 次 の 文 章 は 山 やま崎
ざき正
まさ和
かずの 評 論『リ ズ ム の 哲 学 ノ ー ト』の 一 節 で あ る。筆 者 は、リ ズ ム を 感
問
1
~
8)に答えよ。
身体は一面で 生理学的な肉体 と重なりあっていて、他の動物の肉体と同じく本能的というべき運動をも見せるが、面白
口
こう腔
こう内に陰圧をつくり、母乳の充満を待って、それを 嚥
えん下
げするという三拍子のリズムを踏む。同時
に
ア寄与する はずである。 仰
ぎょう臥
がして手足をばたつかせるさいには二拍子をとることが多いし、 初めて立つとき、 台につかまって、 を 強 く 伸 ば す と い う 三 拍 子 を 刻 む の が 普 通 で あ る。
①
、 二 足 歩 行 の よ う な 高 度 の 習 慣 両者の仲立ちとなり、 移行の軌道となるのはリズムなのである。 さらに巨視的に見たとき、人の肉体は誕生から死まで絶え間ない変化に 曝
さらされるが、文明的身体の変化ははっきりした 閾
いきに 区切られたリズムを刻む。文明圏によって具体的な年齢は違うが、成長、成熟、老化の節目を祝ったり慰める行事
身体というリズム単位の完結性がとくに高いのは、 それがこうしてたえず現在を生涯のなかに位置づけ、 藝
げい術
じゅつ制作にも似て、部分を全体へと有機的に結合しているからでもあるだろう。 ちなみに注意すべきは、この文明的な身体と生理的な肉体、いわゆる自然物としての肉体との特異な関係である。一面
A
では肉体は身体の媒体にほかならず、身体の運動を伝動し、またそれに抵抗するという点では、海の波にたいする海水と 同じ役割を負っている。肉体と身体が同一物ではないのは明らかであって、第一に肉体が誕生と死によって外から統一さ れているのにたいして、身体は習慣の持続力によって内から統一されている。また身体が新しい習慣を身につけても、肉 体の構造や機能は必ずしもそれに即応して変わることはない。
しかし他方、肉体は海水とは違ってそれ自体が個物であり、身体と一対一の関係を結ぶとともに、そのものとして固有 のリズムを刻んで生きている。 心拍とそれに 繋
つながる循環器のリズム、 咀
そ嚼
しゃくから 排
はい泄
せつにいたる消化器のリズム、 睡眠と覚醒 を繰り返す脳神経のリズムなど、動物にも共通する自然のリズムが肉体を貫いている。そしてこのリズムは疑いもなく、
身体の同一性を形成するうえで重大な影響を及ぼすのであって、何よりも決定的な事実はいうまでもなく、肉体の死はそ のまま身体の死に直結していることである。
にもかかわらず、人間が人間であるゆえんはこの現実を超えるところにあり、 身体のリズムが肉体のリズムに優越して いる 点にあることは、論を 俟
またない。肉体はあくまでも文明的身体の指導を受け、新しいリズムをつくるばかりか、その 構造さえ一定の範囲で変形することがある。幼児が台に 縋
すがって立ちあがろうとするのは、骨格や筋肉がそれにふさわしく 成長するからだが、そのまえに二足歩行という文明的身体の習慣があって、その影響が幼児を二足で立つ方向に誘導して いるのは明らかだろう。
こうして文明的身体と生理的肉体とは相互に 嵌
かん入
にゅうしあい、 それぞれの固有のリズムを共鳴させあっていると見ることが できる。むしろ二つのリズムが複合して新しいリズム単位を形成したとき、それが始めと終わりとを持ち、他人と区別さ れる個人の生涯の誕生だといってもよい。じつはこの生涯にはさらに多様な外界のリズムが重なりあい、複雑多岐な複合 体をつくることによって個人の個性が生まれるのである。
一般にリズムが他のリズムと共鳴しうること、現に共鳴しあっていることは広く知られている。航行する蒸気船は潮の
B
干満のリズムに乗せられ、上下する波のリズム、前後左右する風のリズムに同調するとともに、船そのもののエンジンの リズムにも揺すられている。船が安全に航行しているとは、これらすべてのリズムが好調に共鳴しあい、一つの内なるリ ズムを合成しているということであって、それが崩れれば波も風 も
イにわかに 外なる障害となって船を脅かすのである。
これを身体運動に限って考えても、舞踊家が手と足を別のリズムで動かしながら、全身として一つのリズムを表現する のは珍しいことではない。もっと繊細なのはピアニストの指使いであって、両手の指が違うリズムを刻むのはもちろん、 片手の人差し指と中指、親指と小指とが組になって、それぞれ異なるリズムを奏でることも普通だという。もちろんこれ はただ異なるリズムを寄せ集めるということではなく、融合され統一されるべきリズムが予想され、あらかじめ藝術家の
身体を突き動かしていることが前提だろう。
この共鳴の関係はさらに広く、身体とその環境のあいだに働いていて、身体の全行動を条件づけている 正確にはむしろこの関係が身体と環境とを区別し、身体を相対的に独立させているとさえいえる。身体はあくまでもリズ ムの一単位にすぎないのだから、その完結性は強いとはいえ、絶対的な独立性を保持するわけではない。特定の身体と別 の身体、 自然的、 文明的環境とそこに生きる身体との区別は、 それぞれに働くリズムの異同によって決定されるのである。
たとえば同一の生理的肉体の内でも、瞳孔の反射的な拡縮などはリズムを持たず、身体行動と共鳴する可能性はありえ ないから、これは純粋な生理的肉体、身体外部に広がる物理的自然の一部だとしかいいようがない。逆に生理的肉体とし て は 区 別 さ れ る 他 人 の 身 体 で も、と も に 同 じ リ ズ ム で 踊 っ て 完 全 な 共 感(
empathy)が 成 立 す れ の相違はなくなったというべきだろう。一般に、身体の内部と外部を区切るのは固定的な外郭ではなく、リズムの共鳴の 強弱という漸層的な変化だと考えられるのである。
そしてこの共鳴のかたちにも、逆に共鳴の欠如の姿にも千差万別の多様性があって、その違いのそれぞれがふたたび身 体に帰って 刺
し戟
げきを与える。この段階できわめて大雑把にいえば、この身体への刺戟の現れを常識は知覚と名づけ、認識の
C
与件と呼び 慣
ならわしているのだと、理解して大過ないであろう。
こうして身体をリズムの一単位として捉えるかぎり、それが「今」 「ここ」にあるということの意味は難しい話になる。 一般的にいって、リズムは本来、いつどこにあるともいえない存在なのだから、それが物理的な時空のなかに位置づけら れるには、それを伝える媒体の物質性によるほかはない。 身体も生の流動のなかで特定の場所を占め、生涯という時間を 保つためには生理的肉体の個体性を不可欠とする 。 喩
たとえていえば、 身体という漂う蒸気船は肉体を 錨
いかりとして、 時空の大海 の一点に留まることができるのである。
だが生理的肉体は刻々に変化するものであって、 身体の同一性、 「今」 と 「ここ」 の持続を保証するものとしては十分で
はない。何しろ生理学によれば、肉体の全身の細胞は数日ですべて入れ替わるというのだから、記憶といい習慣といい、 およそ持続するものは身体というリズムの複合体のなかに成立するほかはない。記憶された経歴も身についた習慣も、そ れ自体がリズムの単位として、一定の幅を持つ時間帯を統一するのである。
しかしそうだとすると、この身体の「今」と「ここ」はたえず伸縮し、広がりの範囲を変える時空の単位だと考えざる をえない。じっさいその通りであって、行動する身体にとって、時空の精密度は行動の種類によってまったく異なってく る。 航海士にとって 「今」 は日時と分単位で刻まれる時刻であり、 「ここ」 は経度と緯度で示される場所であるが、 これが ピアニストになると、 「今」は数分の一秒を争う時間帯であり、 「ここ」は鍵盤上の数ミリの違いが問われる空間となる。
そしてこの身体を包む環境の時間と空間もまた、けっして透明で均質的な単一の広がりではない。環境もそれ自体、や はりリズムを刻んで運動しているのであるから、それが身体の環境として関わるかぎり、そこに共鳴の現象が現れると考 えるほかはない。時間も空間もこの共鳴現象の感触そのものであって、現象が起こる空虚な場所ではないのである。
時間についていえば、過去も未来も計測できる長さの 彼
かなた方 にあるわけではなく、身体の「今」を満たす感触として、い わばその新鮮度として現れてくる 。過去の経験が今も鮮烈であればあるほど、それは最近に起こったことになり、細部を
D E
忘却した程度に応じて昔に起こった経験へと変わる。未来もまた経験に向かう前のめりの姿勢の感触であり、それが強け れば未来は近くにあり、弱ければ遠くにあるという点で、過去と違わない。
一見 、
ウ奇矯に 響くようだが、身体は哲学のいう理性とは違って、飽きたり疲れたり忘れたりする存在だから、これが時 間の遠近法 (
perspective) をつくりだすのは当然だろう。 身体にとって時間は 紡
ぼう錘
すい形をしており、 過 去 も 未 来 も 細 く な っ て い る。細 く な る と は 経 験 の 細 部 が 失 わ れ る こ と で あ っ て、そ れ が 持 つ 多 少することである。 現在の経験は言葉で語り尽くせない多様性を持つが、 遠い過去や未来の経験はその細部が削りとられ、 しだいに抽象的な観念に近づいて、はては履歴書や予定表のなかの一行にまで単純化されるのである。
(山崎 正和『リズムの哲学ノート』による)
(注)
1
識閾 ― 意識から無意識へ、また無意識から意識へと移る境界のこと。
問
つずつ選べ。解答番号は ア が
1傍線部 ア ~ ウ の本文中におけることばの意味として最も適当なものを、次の各群の a ~ e のうちから、それぞれ一
13
、 イ が
14
、 ウ が
15
a 関与する
b 貢献する ア 寄与する c 類似する
d 負担する
e 手分けをする
a 強烈に
b 思いがけずに イ にわかに c 意図せずに
d ひといきに
e だしぬけに
a 上等に
b 間違いに ウ 奇矯に c 風変わりに
d 永遠に
e 得意げに
問
2空欄
①
に補うことばとして最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は a しかし b そして c ところで d もちろん e
問
のうちから一つ選べ。解答番号は
3傍線部 A 「生理学的な肉体」とあるが、それはどのようなものか。その説明として最も適当なものを、次の
a 誕生と死によって外から統一され、基礎的で普遍的な運動のリズムを生まれながらに持ち、本能的な運動をし
17ているもの。 b 誕生と死によって外から統一され、はっきりした識閾に区切られたリズムを生まれながらに持ち、生涯におけ る現在の位置づけを表しているもの。 c 誕生と死によって外から統一され、基礎的で普遍性の高いリズムを誕生後に学習し、動物とは異なる高度の習 慣を形成しているもの。 d 誕生と死によって時間的に区切られ、個物としてそれぞれが生まれつき固有のリズムを持ち、特殊な運動をし ているもの。 e 誕生と死によって時間的に区切られ、誕生後に基礎的で普遍性の高いリズムを学習し、動物とは異なる高度の 習慣を形成しているもの。
適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は
4傍線部 B 「身体のリズムが肉体のリズムに優越している」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も
るにしたがって文明的な身体のリズムが独自性を持つことでバランスが崩れ、身体が獲得していく習慣が新しい b 自然物としての肉体は、本来、それぞれ固有のリズムを刻みながら身体と一体の動きを見せているが、成長す ことによって、肉体のリズムが生と死を規定しようとする現実を超える可能性があるということ。 きないが、文明的な身体は、リズム単位の自立性と完結性が高く、文明圏で異なる様々な新しい習慣を形成する a 自然物としての肉体は、誕生から死まで絶え間ない変化に曝されており、人の意思によって統一することはで
18リズムをつくるだけでなく、肉体のリズムの構造そのものを変えてしまうことさえあるということ。 c 自然物としての肉体は、本来、固有のリズムを刻みながら生命を維持するだけでなく、身体の運動を伝動する うえでも重要な役割を果たすべきものであるが、身体が身につけた新しい習慣が肉体のリズムに大きな影響を与 えることにより、肉体は文明的な身体に従属するだけの存在になってしまうということ。 d 自然物としての肉体は、それぞれ固有のリズムを刻み、生命の基盤として身体の同一性を形成するうえでも不 可欠であるが、文明を背景とする身体のリズムは、様々な新しい習慣を形成することで肉体に新しいリズムをつ くるだけでなく、肉体のリズムの構造にさえ変形を加えるなど、大きな影響を与えているということ。 e 自然物としての肉体は、固有のリズムを刻み、誕生と死によって外から統一されるものであるが、身体は文明 圏の影響を受けつつも、生から死にいたるまでの生涯の中に新しい習慣を自発的に構築することができるもので あるため、身体のリズムが肉体のリズムに大きな影響を与えることはないということ。
a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は とあるが、筆者は「共鳴の関係」についてどのように考えているか。筆者の考えとして あてはまらないもの
5傍線部 C 「この共鳴の関係はさらに広く、 身体とその環境のあいだに働いていて、 身体の全行動を条件づけている」
は自他の相違がなくなるといえる。 e 文明的身体は、生理的肉体としては区別される他者の身体であっても、他者と完全にリズムが共鳴したときに 身体行動と共鳴することはない。 d 生理的肉体の内でも、瞳孔の反射的な拡縮などは反復しない生理的肉体の動きでありリズムを持たないため、 統一されるべきリズムを予想しながら、全体として一つのリズムを表現している。 c 文明的身体は、身体運動についてはピアニストの演奏のように、異なる複数のリズムを同時に操り、融合され する際、文明的身体が環境に一方的に影響を与えている。 b 文明的身体は、別の身体、自然的、文明的な環境に取り巻かれていて、それらの環境と複合したリズムを形成 ズムと複合し一つのリズムを形成していて、そこに多様な個性が生まれる。 a 文明的身体は、自身が置かれた自然的環境のリズムに同調するともに、循環器や消化器などの生理的肉体のリ
19
解答番号は 欠とする」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。
6傍線部 D 「身体も生の流動のなかで特定の場所を占め、生涯という時間を保つためには生理的肉体の個体性を不可
体を 凌 駕 することが必要だということ。
りょうがe 物理的な時空のなかに身体のリズムを位置づけるためには、独立性の強い文明的身体が個物としての生理的肉 識を重ねていくことが必要だということ。 d 物理的な時空のなかに身体のリズムを位置づけるためには、生理的肉体の変化に抗いつつ、身体についての認 することが必要だということ。 c 物理的な時空のなかに身体のリズムを位置づけるためには、リズムを伝える媒体としての生理的肉体を基盤と 体を持つことが必要だということ。 b 身体のリズムを包む時間と空間において、人間は文明的身体はもとより、固定的で独立性を保持する生理的肉 体を持つことが必要だということ。 a 身体のリズムを包む時間と空間において、人間は文明的身体に影響を与え、運動のリズムを生み出す生理的肉
20
説明として最も適当なものを、次の a ~ e のうちから一つ選べ。解答番号は 感触として、いわばその新鮮度として現れてくる」とあるが、これはどのようなことを言おうとしているのか。その
7傍線部 E 「時間についていえば、過去も未来も計測できる長さの彼方にあるわけではなく、身体の『今』を満たす
が曖昧になるということ。 e 身体は哲学のいう理性とは異なるので、現在に近い過去の体験は鮮烈に覚えているが、遠い過去の体験は記憶 るということ。 d いつ体験したかということは重要ではなく、時間を有効活用すればするほど様々な経験が得られて充実感があ るということ。 c 楽しみにしている出来事に対しては誰もが前のめりの姿勢になるように、過去よりも未来の方を大切にしてい ということ。 b 現在から遠い過去の出来事であっても強い印象が残っている体験は、最近起こったことのように思い出される ということ。 a 文明的身体は成長・成熟・老化と変化していくので、過去と同じような経験でもいつも目新しいものに感じる
21