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標準約款の改定

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標準約款の改定

堀 川 泰 彦

■アブストラクト

約一世紀振りに商法の保険契約に関する規定が全面的に改正され,独立の 法律, 保険法 として本年4月1日から施行された。保険法の下では,保 険者は,保険契約者保護の確実を期すため新たに法定された片面的強行規定 との整合性に十分に留意した保険約款を作成・使用することが求められる。

本稿では,標準約款の保険法対応を中心に平成21年改定の概要を紹介する。

■キーワード

片面的強行規定,不当条項規制,保険約款のあり方

はじめに

標準約款 の平成21年改定は,保険法(平 成20年 法 律 第56号)へ の 対 を中心に,約款相互間の整合性の確保および約款の平明化にも取り組

*平成21年6月19日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成22年6月18日原稿受領。

1) 損害保険料率算出機構が作成し,会員保険会社に提供している損害保険約款 の参考例である。

2) 本稿では,各保険種類に共通の事項および自動車保険に固有の事項について は自動車保険標準約款を,火災保険に固有の事項については住宅火災保険標準 約款を,地震保険に固有の事項については地震保険標準約款を,傷害保険に固 有の事項については普通傷害保険標準約款を引用する。なお,引用にあたって は,以下の略称を用いる。〔例〕 自動車保険標準約款 ・基本条項自動 車 ・基本 (改定前約款には,約款名に 旧 を付して表記する)。

3) 金融庁は,保険法制定を受け,平成21年4月28日に 保険会社向けの総合的

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み,約款条項の全面的な見直しを行ったものである。本稿は,改定された標 準約款の概要を紹介するものであるが,意見にわたる部分は筆者の私見であ ることをあらかじめお断りしておく 。

保険法対応

1 告知義務

⑴ 質問応答義務

旧約款は,告知事項を保険契約申込書の記載事項に限定することで,既に 自発的申告義務(商法(平成20年法律第57号による改正前のもの。以下同 じ。)644条1項)から質問応答義務への転換を図っていたところである(旧 自動車・一般3条1項)が,質問応答義務の規律が保険法において明定され

(同法4条,66条),これが片面的強行規定として位置付けられた(同法7条,

70条)ことにあわせ,新約款では,文言の整備を行い,規定内容の明確化お よび保険法の表現振りとの平仄に配慮したものとしている(自動車 ・基本1 条 告知事項 ) 。

⑵ 告知妨害

保険法は,保険媒介者による告知妨害があった場合に保険者による解除を 認めないとする規律を新たに設けた(同法28条2項2号・3号,84条2項2 号 ・3号)。この規律は,損害保険代理店等の保険者から契約締結権を与え られた代理人が告知妨害を行った場合には適用されない(同法28条2項2号 括弧書)が,無論,これは,この場合に保険者による解除を認めることを意 な監督指針 (以下, 監督指針 という。)を改正している。本改定は,この 監督指針の改正も踏まえた内容となっている。保険法,監督指針および標準約 款の対応関係については,以下,関連箇所で言及する。

4) 保険法対応に係る改定点については,法務省との意見交換を行い,これを踏 まえて検討を行った。

5) 本稿では,紙幅の都合上,引用・参考文献の摘示は最小限に止める。

6) 監督指針が,保険法において告知制度が自発的申告義務から質問応答義務に なったことを踏まえた約款規定となっているかを審査上の留意点として挙げて いることと対応する改定点である(監督指針Ⅳ‑1‑17⑵①ア.)。

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味するものではなく,代理人の悪意 ・有過失は,代理の法理(民法101条1 項)を介し,保険者自身のそれと評価され,やはり解除は認められない(保 険法28条2項1号,84条2項1号) 。新約款では,保険媒介者による告知 妨害の問題について立法的解決が図られたことにあわせ,この解釈を注意的 に明文化している(自動車・基本4条3項2号(注1)) 。

⑶ 因果関係原則

新約款は,保険法において,いわゆる因果関係原則(同法31条2項1号,88 条2項1号)が片面的強行規定として位置付けられた(同法33条1項,94条 2号)ことを踏まえ,同原則を約款上明記している(自動車・基本4条5項)。

⑷ 他保険契約の告知義務

新約款は,他保険契約の有無がモラルリスクとの関係で引受決定にあたり 重要な意味を有することに鑑み,保険契約者側に他保険契約の告知義務を課 している(自動車・基本1条 告知事項 (注))。新約款における他保険契 約の告知義務は,契約締結後に他保険契約の存在が判明した場合に,過剰な 保険契約を解消し,適正な付保状態に収斂させる手段,いわばモラルリスク の事前の予防策と位置付けられよう。

2 通知義務

⑴ 通知事項

新約款は,旧約款を踏襲し,危険増加(または危険減少)をもたらす具体 的な事実 を通知義務の対象として規定している

7) 萩本修編著 一問一答 保険法 (2009年)52‑53頁。

8) 監督指針は,保険媒介者による告知妨害があった場合に保険者は解除できな いことを約款に明確に規定しているかを審査上の留意点として挙げている(監 督指針Ⅳ‑1‑17⑵①イ.)が,現在,損害保険の募集行為は契約締結権を有する 損害保険代理店等によって行われるのが通例であることから,新約款では,媒 介代理における解除権阻却ルールの約款規定化に代え,締結代理における解除 権阻却ルールを明文化することとした。

9) なお,具体的な事実を列挙するほか, 告知事項の内容に変更を生じさせる 事実が発生したこと を通知事項とする包括条項を置いている点は,旧約款

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自動車保険の新約款は,旧約款(旧自動車・一般4条1項1号)と同様,

被保険自動車の用途車種または登録番号の変更を通知事項としている(自動 車・基本5条1項1号)。

一方,旧約款において通知事項としていた競技・曲技使用(旧自動車・一 般4条1項2号)および危険物積載(同項3号)については,新約款では通 知事項からは削除し,免責事由として定めている(自動車・賠償4条1項9 号 ・10号等) 。危険増加の通知は事後通知とされる(保険法29条1項1

(旧自動車・一般4条1項4号)と同様であるが,新約款では,契約締結の際 に保険者が交付する書面等(重要事項説明書等)において明示した事実に限り,

通知義務の対象になるものとしている(自動車・基本5条1項2号(注2))。

10) 危険増加の問題とは異なるが,旧約款は,保険契約者に住所変更通知義務を 課した上で,解除通知等の効力を確保するため,通知義務違反があった場合に は保険者の知った最後の住所宛に発した通知は保険契約者に到達したものとみ なす旨の規定を置いていた(みなし到達条項。旧住宅火災8条5項・6項,旧 普通傷害16条。なお,自動車保険の旧約款は,住所変更通知義務は特に規定せ ず,保険証券記載の保険契約者の住所に宛てた通知をもって到達を擬制する旨 を定めていた。旧自動車・一般3条1項等) が,告知義務違反解除等に関する 通知の到達擬制は,片面的強行規定に違反する疑いがあるため,新約款では,

みなし到達条項を削除している。なお,みなし到達条項の有効性は,消費者契 約法10条等の不当条項規制との関係において別途問題となり得る。

11) なお,通知の方式に関し,旧約款は,書面通知を要求していた(旧自動車・

一般4条等)が,事務処理の確実性・明確性の観点からは,書面通知の実務的 な必要性が存在することは否定できないものの,通知に書面性を要求していな い保険法の規律を加重する取扱いとして,片面的強行規定に違反する疑いがあ ることから,新約款では,保険契約者側からの危険増加の通知等については,

通知は書面による旨の文言を削除している。

12) 競技・曲技使用や危険物積載については,保険実務上,同一商品において割 増料率を付課して引受継続を可能とする商品構成が採られるのが通例であり,

その意味においては,引受範囲内の危険増加と理解すべきこととなろうが,競 技・曲技使用や危険物積載の危険度は極めて高く,また,リスクの性質も,い わゆる家計リスクとは言い難い異質な側面があり,リスク実態に特に着目した 引受判断が必要とされ,実質的には,引受範囲外の危険増加に相当するとも考 えられるのであって,契約自由の範疇として取り扱うことも可能であるように 思われる。その上で,新約款は,競技・曲技使用や危険物積載は,いずれ原状

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号・2号)が,競技・曲技使用や危険物積載は,短期的な危険増加を想定し たものであり,事後通知では意味をなさないためである。

また,旧約款は,他保険契約の締結を通知事項としていた(他保険契約の 通知義務。旧自動車・一般4条1項5号)が,著しい保険契約の累積につい ては,引受段階でのチェックおよび告知義務違反解除を通じて防止を図ると ともに,事故後に判明した場合には重大事由解除をもって対処し得るものと すれば,他保険契約の通知義務を重視する必要性は大きくないと考えられる ため,新約款では,これを廃止している 。

火災保険の新約款は,旧約款(旧住宅火災8条1項2号・3号)を踏襲し,

保険の目的物である建物または保険の目的物を収容する建物の構造・用途の 変更および保険の目的物の移転を通知事項として掲げている(住宅火災 ・基 本10条1項1号・2号)。

一方,目的物譲渡に関し,旧約款は,これを通知事項に掲げ(旧住宅火災 8条1項1号),保険契約者側からの通知 ・承認請求によって契約を譲受人 に移転する方途を与えた上で,通知・承認請求があった場合に保険者は契約 を解除できる旨を定めていた(同条3項)。しかし,現在,火災保険におい て,目的物とともに契約を譲受人に移転する取扱いは一般的ではないため,

新約款では,譲渡前に承認手続(住宅火災・基本12条)が行われない限り,

譲渡によって契約は失効するものとしている(同14条1項2号)

復帰する短期的な危険増加を想定したものであるため,保険者に解除権を付与 する必要はない(新約款は,引受範囲外の危険増加が発生した場合に保険者に 解除権を付与している。(後記⑶解除・免責(引受範囲外)参照))ことから,

免責事由として整理したものと説明できる。

13) なお,危険物積載に関して,旧約款の文言では,家計リスクまで免責となる 余地があったため,新約款では,業務としての危険物積載を免責とし,業務に は家事を含まない旨を明示している(自動車・賠責4条1項10号(注8)等)。

これは,前注記載の整理に即して免責範囲を絞り込んだものと説明できよう。

14) 傷害保険の新約款も,同様の理由から,他保険契約の通知義務を廃止している。

15) 目的物譲渡に伴う保険契約の帰趨を定めた商法650条に相当する規律を置い ていない保険法の下では,目的物譲渡は,一般原則上,被保険利益の喪失によ

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傷害保険の旧約款は,職業 ・職務の変更を通知事項とし(旧普通傷害14 条),通知義務の懈怠があった場合には保険料率の割合により保険金を削減 する旨を定めていた(旧普通傷害15条2項)が,通知義務懈怠の効果として,

いわゆるプロラタ主義による処理を採用しているとしても,削減要件を緩和 するならば片面的強行規定に反すると解される ことから,新約款では,故 意・重過失による通知懈怠を要件として削減払する旨の定めに改めている

(普通傷害・基本13条)。

⑵ 解除・免責(引受範囲内)

旧約款は,文言上,帰責事由の有無により通知時期を区別し(旧自動車・

一般4条1項本文),また,保険者に相当広範な解除・免責を認めるもので あった(旧自動車・一般4条2項,10条)が,新約款では,保険法(同法29 条,85条)に従い,保険契約者側の故意・重過失による通知遅滞が解除・免 責要件となる旨(自動車・基本5条2項・4項),また,因果関係原則の適 用がある旨(同条5項) を定めている。

⑶ 解除・免責(引受範囲外)

保険法は,保険者の引受範囲を超えた危険増加が生じた場合の規律を設け ていない。この問題の解決は,契約自由の問題として,約款に委ねられてい るものと解される。この点,新約款では,引受範囲外の危険増加が生じた場 合には保険者の解除権が発生するものとし,解除により保険者は危険増加時 から免責される旨を定めている(自動車・基本5条6項・7項) 。

上記取扱いによると,危険増加が引受範囲内に止まるか否かによって,保

る失効をもたらすと解され,新約款は,これに従う趣旨を定めたものである。

16) なお,旧約款は,危険増加に関する通知事項と同列で目的物譲渡を掲げる規 定の体裁であったが,目的物譲渡は,危険増加と直接の関係を有する事柄では ないため,新約款では,危険増加の通知義務とは別個の条文でこれを定めてい る。また,解除構成から失効構成への変更に伴い,火災保険では,目的物譲渡 による解除を廃止している。

17) 萩本・前掲(注7)57頁(注3)。

18) 萩本・前掲(注7)91頁。

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険契約者側の置かれる地位に大きな懸隔を生ずる。この点に関し,検討過程 では,引受範囲は各保険者の商品構成・引受基準により決まるものとすれば,

標準約款において,一律かつ網羅的に引受範囲を規定するのは困難と想定さ れたことから,原案では,引受範囲外とは,危険増加をもたらした事実が保 険契約締結時に存在していたとすれば保険者が保険契約を締結しなかったと 認められる場合をいう旨の表現に止めていた。しかし,この案は,いかなる 場合に引受範囲外となるかを知り得ない保険契約者側の利益を害するおそれ があるだけでなく,表現が抽象的に過ぎ,何をもって引受範囲外と言うのか が約款規定上明らかでなく,そもそも契約当事者間の合意内容にならないの ではないかとの疑問もある。そこで,引受範囲は保険契約者側への明示を要 するものと整理し ,具体的な措置としては,約款規定において引受範囲外 の危険増加が生じた場合の解除・免責に関する上記取扱いを定めつつ,引受 範囲については,契約締結の際に保険者が交付する書面等(重要事項説明書 等)において明示するものとした(自動車・基本5条6項(注))

⑷ 保険料増額

危険増加に伴い,保険料増額が必要となるが,これをいかなる内容・仕組 みにより実現するかについても,保険法は規律するところがない。この点に

19) 引受範囲(引受範囲内または引受範囲外の該当事由)の明示がない場合には 引受範囲内の取扱いを受けることになる。なお,引受範囲は,商品構成・引受 政策上,相応の合理性を有するものであることを要し,引受範囲を殊更に細分 化した商品については,重要事項説明書等において引受範囲外として明示した 事由であっても,引受範囲内として取り扱われるべきケースもあり得るものと 思われる(萩本・前掲(注7)91頁(注4))。

20) 監督指針が,注意喚起情報として引受範囲の重要事項説明書等への記載を求 めていることと対応する改定点である(監督指針Ⅱ‑3‑3‑6⑵②イ. )。

21) 約款規定と重要事項説明書等を連結し,各保険者の引受範囲について事前開 示を要するものとすることで,保険者の恣意的な運用を防止するとともに,保 険契約者側の商品の選択可能性を確保し,あわせて,引受範囲について合意内 容への組入れを図る措置である。そして,かかる措置を通じて保険契約者保護 を図ることが可能との判断から,新約款は,引受範囲外の取扱いに関し,因果 関係原則,除斥期間等の規定を設けていないものと説明できよう。

(8)

ついては,基本的には約款に委ねられていると解される。

まず,新約款は,保険料増額に関して,危険増加時以降の期間に対応する 追加保険料の請求を認めている(自動車 ・基本15条2項)。引受範囲内の危 険増加については,危険負担を継続するものとして取り扱う以上,保険者は,

その対価として,危険増加時に遡って危険に見合った保険料負担を保険契約 者に求める根拠を有すると考えられる 。

次に,危険増加による追加保険料の不払の取扱いに関して,新約款は,保 険契約者が追加保険料の支払を怠った場合,すなわち,保険契約者に対し追 加保険料の請求をしたにもかかわらず相当の期間内にその支払がなかった場 合に保険者に解除権を付与するとともに,保険者は危険増加時から免責され る旨を定めている(自動車・基本12条2項,15条3項) 。

3 保険契約の無効・取消し

旧約款では,民法上は取消事由である詐欺(同法96条)を無効事由として 規定していた(旧自動車・一般9条1号)が,詐欺無効に関しては,保険法 に詐欺が取消事由であることを前提とした規律(同法32条,93条)が置かれ ていることとの整合性が問われることや,そもそも,契約ルールの根幹をな す意思表示の瑕疵の取扱いに関する民法規定を約款で変更することが許され るのかといった根本的な疑問,また,隣接する諸法理との関係を踏まえると,

今日において,なお詐欺無効を維持すべき積極的な理由までは見出し難いの ではないかとの疑問があることから,新約款では,詐欺無効を,民法に即し,

22) 萩本・前掲(注7)96頁(注1)(注2)

23) 民法上の債務不履行による解除要件を充たす場合(同法412条3項,541条)

に限り,解除 ・免責を認める趣旨である(萩本・前掲(注7)96頁(注3))。

なお,追加保険料の請求・不払の取扱いに関する約款ルールが不相当に合理性 を欠く場合には,消費者契約法10条等の不当条項規制との関係において別途問 題となり得るが,保険料支払義務の履行遅滞の局面における請求(催告)は,

保険契約特有の措置である保険料不払による免責の保険契約者に対する注意喚 起に力点があると考えられる。

(9)

取消事由に改めている(自動車・基本10条)

一方,新約款は,保険金不法取得目的をもって締結された保険契約は無効 とする旨の規定を新設している(自動車 ・基本9条) 。これは,公序良俗 違反による保険契約無効の法理を約款上明文化したものであり,従来,詐欺 無効による対処が想定されてきた悪質性の高い事案への適用を意図している。

4 保険契約の解除

⑴ 重大事由解除

新約款は,保険法において新たに法定された重大事由解除(同法30条,86 条)を規定している(自動車・基本13条1項)。新約款が規定する解除事由 は,①事故招致,②詐欺的請求,③保険契約の累積(傷害保険のみ。普通傷 害・基本19条1項3号)ならびに④①および②(傷害保険では①から③。以 下同じ。)と同程度に信頼を損ない保険契約の存続を困難とする重大事由の 発生である。①,②および④の規定内容は保険法と同様であるが,④の包括 条項では,①および②の事由がある場合と 同程度に という法文にはない 文言を付加している。これは,包括条項の適用が認められるのは①および② の解除事由に匹敵する重大事由が発生した場合に限られることを注意的に強 調する趣旨である

24) 萩本・前掲(注7)107頁(注4)。

25) 旧約款は,詐欺無効のほか,事故 ・原因既発生の了知による無効(旧自動 車・一般9条2号)や,他人のためにする保険契約の不告知による無効(同条 3号),地震等による火災等の現実かつ急迫の危険既発生の了知による無効

(旧地震10条1項2号)を定めていたが,いずれも無効事由として取り扱う実 際上の必要性は大きくないと考えられることから,新約款では,詐欺無効の廃 止にあわせ,これらの約定無効事由等を削除している。

26) なお,傷害保険では被保険者同意の欠缺(普通傷害・基本15条2号)を,ま た,地震保険では警戒宣言発令後の契約締結(地震・基本14条2項)を無効事 由として定めている。いずれも,旧約款(旧普通傷害17条2号,旧地震10条2 項)を踏襲した法定無効事由の確認的規定である。

27) 監督指針が,解除権が濫用されることがないよう事故招致および詐欺的請求 以外の事由を定めようとする場合には,当該内容に比肩するような重大な事由

(10)

⑵ 約定解除

新約款は,保険者からの約定解除 のうち,①相当理由解除(旧自動車・

一般10条2項),②管理義務違反による解除(旧自動車 ・一般7条,10条1 項2号)および③調査協力義務違反による解除(旧自動車・一般8条,10条 1項3号)を廃止している。不当条項規制との関係では,いわゆる家計保険 の分野において保険者の約定解除権の援用は相当程度制限されるものと解さ れ,解除権の行使に合理性が認められる場面は重大事由解除等と重なり合い,

片面的強行規定に抵触するおそれがあると考えられるためである 。

であることが明確にされているかを審査上の留意点として挙げていることと対 応する改定点である(監督指針Ⅳ‑1‑17⑵③)。

28) 検討過程では,重大事由解除の濫用防止を求める趣旨の衆参法務委員会附帯 決議を踏まえ,包括条項は約款に規定せず,今後の検討において,重大事由解 除の適用が相当であるとのコンセンサスを得られた行為について,都度,約款 改定の際に個別類型化を図っていくとする対応も考えられたが,約款規定の不 備を理由に悪質な事案に対して免責主張し得ない事態を生ずることは,モラル リスクへの適切な対処といえず,かえって保険法の趣旨に背馳するものと考え られ,包括条項を設けることとした(萩本・前掲(注7)101頁 (注5))。

29) 検討過程では,被害者救済の観点から,無保険状態の発生を回避するため,

対人賠償責任条項を解除対象から除外すべきか問題となった(相当理由解除は,

同条項について解除しない取扱いとしていた。旧自動車・一般10条2項)が,

モラルリスクには厳正に対処すべきことを踏まえ,新約款では,同条項も含め 保険契約全体を解除する取扱いとしている(自動車・基本13条1項)。

30) いずれも,いわゆる将来効解除である(免責を伴わない)。

31) 一方,被保険自動車の譲渡 ・入替による解除(旧自動車 ・一般10条1項1 号)については,解除権の発生事由を明確化した上で,新約款においてもこれ を維持している(自動車・基本12条1項)。当該解除は,本来であれば,譲 渡・入替の時点で契約が終了し,新規の契約締結が必要となる場面であるとこ ろを,保険契約者側の便宜を図るため,譲受人を被保険者として,あるいは,

入替後の自動車を被保険自動車として契約を継続する方途を与えた上で,保険 者が譲渡・入替を承認しない場合に,契約を整理するため保険者は解除権を有 すると構成したものであって,このような解除は片面的強行規定に反するもの ではないと考えられる(なお,譲渡・入替により被保険者 ・被保険自動車の変 更を生じた結果として,危険が増加する場合があり得るが,その前提問題とな る譲渡・入替に伴う契約の帰趨の処理は約款に委ねられていると解される)。

(11)

⑶ 被保険者による解除請求

傷害保険では,被保険者の解除請求に関する規定を新設している(普通傷 害 ・基本20条)。被保険者が保険契約者に対して保険契約の解除を請求でき る とする点は保険法(同法87条)と同様であるが,新約款では,被保険者 同意がない場合には,被保険者の意思を最大限尊重するため,当該被保険者 に保険契約を解除する権利を約款上付与し,保険契約者を介さず,直接,保 険契約から離脱する途を開いている(普通傷害・基本20条3項)。

5 保険金額の調整(超過保険・保険価額の減少)

超過保険については,従来,保険者の内規等において,その取扱いが定め られるのが一般的であったが,新約款では,明確化の観点から,保険金額の 調整規定を新設し,保険契約者側が善意・無重過失の場合において保険契約 者は超過部分に係る保険契約の取消権を有する(保険法9条)旨を,あわせ て,保険契約者は保険価額の著しい減少による保険金額の減額請求権を有す る(同法10条)旨を約款上明記している(自動車・基本11条)。

また,保険金額の調整規定の新設にあわせ,これと対応する保険料返還規 定も新設している(自動車 ・基本18条)。これにより,超過保険の取消権が 行使された場合には契約締結時に遡って取消部分に対応する保険料を ,保 険金額の減額権求権が行使された場合には未経過期間について保険金額の減 少分に対応する保険料を返還することとなる。

6 保険料返還の制限

新約款は,保険者が保険契約者側の詐欺・強迫によって締結された保険契

32) なお,解除請求を受けた保険契約者は解除が義務付けられると解される(萩 本・前掲(注7)200頁(注2))が,保険契約者が保険契約を解除するか否か 選択権を有すると誤って解されることを避けるため,新約款では,保険契約者 は被保険者から解除請求を受けた場合には解除しなければならない旨を,念の ため,規定している(普通傷害・基本20条2項)。

33) 萩本・前掲(注7)116頁。

(12)

約を取り消した場合および保険金不法取得目的によって保険契約が無効とな る場合には,保険料を返還しない旨を定めている(自動車・基本17条,16 条)。前者は保険法の規律(同法32条,93条)の,また,後者は民法の不当 利得の法理(同法708条) の確認的規定である 。

7 事故通知義務・説明義務

旧約款は,保険契約者側が正当な理由なく事故通知義務に違反した場合に 保険者は免責される旨(事故通知義務違反免責。旧自動車・一般15条1項)

を,また,保険契約者側が故意に保険金請求に必要な書類に不実の記載等を した場合に保険者は免責される旨(説明義務違反免責。同条4項,20条4 項)を定めていたが,これら事故後の義務違反免責については,以下の問題 が考えられた。

①事故通知義務違反や説明義務違反は,事故発生後の行為にすぎず,こう した行為を保険者の免責という効果に結び付けることは,保険法が重大事由 解除の効力に関して,重大事由発生時以降に発生した事故についてのみ免責 の対象とし,それより前に発生した事故については免責の対象としていない こと(同法31条2項3号,88条2項3号)に照らし,片面的強行規定に反す るおそれがある 。②保険法は,保険契約者側による調査妨害があっ

34) 萩本・前掲(注7)107頁(注3)。

35) なお,傷害保険の新約款では,死亡保険金が支払われて契約が終了する場合 には保険料を返還しない旨を定めている(普通傷害・基本23条2項)。いわゆ る契約目的の到達に該当し不当利得を生じないケースであることを踏まえた定 めである(萩本・前掲(注7)109頁(注2))。

36) 萩本・前掲(注7)103頁(注1),同 保険法現代化の概要 新しい保険 法の理論と実務 別冊金融・商事判例(2008年)25頁,同 新保険法⎜立案者 の立場から⎜ 生命保険論集 165号(2008年)12頁。

37) 保険法が,重大事由発生時以降に発生した事故について免責の対象とするに 止めているのは,保険契約が正常に継続していた期間について解除の効力が及 ぶことの理論的な根拠付けが必ずしも容易ではないことによるものであって,

このような契約の効力の問題とは体系上区別され,本質的には別個の趣旨に基

(13)

た場合に,これにより調査が遅延した期間について遅滞責任を負わないとす るに止まり免責とはしていないこと(同法21条3項,81条3項)からすれば,

説明義務違反により免責とすることは調査妨害の規律の片面的強行規定性に 反するおそれがある 。③双務契約で対価関係に立つ最も基本的な保険 契約者の義務である保険料支払義務の不履行による免責については格別 , いわゆる付随義務に過ぎない事故通知義務や説明義務の違反という事後的な 事情によって保険金請求権を喪失するという帰結を民法の債務不履行の一般 原則から導くのは困難であり,保険法に明文の根拠がない以上,免責とする 取扱いは民法および保険法との整合性の観点から問題がある 。④義務違反

づく事故通知義務違反免責・説明義務違反免責を約款で定めることを一切禁ず る意味まで含むものではないとする見方も成り立つ可能性はあるようにも思わ れる(山下友信 保険法と判例法理への影響 自由と正義 (2009年)29‑30 頁,洲崎博史 保険契約の解除に関する一考察 法学論叢 164巻1〜6号

(2009年)240‑242頁)。

38) 保険法制定前に公表された立法提案には,重大事由解除および事故通知義務 違反免責・説明義務違反免責を,それぞれ半面的強行規定として併存させる立 場を採用するものがあった(傷害保険契約法試案(2003年版)および疾病保険 契約法試案(2005年確定版)各27条,30条,44条)。

39) 萩本・前掲(注7)79頁(注2)・112頁(注2)。

40) 調査妨害の規律は,保険事故発生後,保険契約者側が早期に保険金の支払を 受けられないことによって被る損害の公平な回復を主目的とする遅延賠償の法 理の一環と解され,これと適正な請求を促進するための制裁の法理である説明 義務違反免責とは,保険法上,別個に体系付けられ並行的に進展していくこと が可能な法理であって,説明義務違反免責は,調査妨害の規律に反する特約に はあたらないとの見方もあり得るように思われる。

41) 萩本・前掲(注36) 新保険法⎜立案者の立場から⎜ 16‑17頁。

42) 付随義務の性格を持つとしても,保険者の支払責任の有無・範囲を左右する 情報の保険契約者側への偏在という保険契約特有の状況への対処を図る義務で あり,また,免責という制裁的効果を伴う点も,当該義務の実効性を確保する ために要請される措置であるから,民法との整合性の観点から結論を導く論理 的必然性はなく,また,相応の範囲において免責とする限り,そのような取扱 いは,むしろ,判例法理を含めた保険法全体の規範体系と整合的であるとの見 方もあり得るように思われる。

(14)

により保険者に現実に生じた損害(拡大損害・費用損害)については債務不 履行の一般原則に基づく賠償請求によって回復することが可能であり,また,

損害調査のための 相当の期間 (同法21条1項,81条1項)を確保し,調 査妨害には支払延期をもって対抗し調査への協力を促すことが可能であるこ と,モラルリスクについては告知義務違反による解除・免責や故意免責があ ること ,安易な免責主張を許しかねない約款規定は濫用される懸念がある こと等の諸事情を勘案すると,事故通知義務・説明義務違反を理由に免責と する約款規定を残す必要性・合理性に疑問が残る

以上の問題を踏まえると,旧約款の免責規定をそのまま維持することは適 当ではないと考えられたが,他方で,保険制度の健全な運営の見地も考慮す れば,適時・適正な通知・請求を促進し,保険契約者側の濫用的行動を抑止 する必要があると考えられたため,事故通知義務に関して信義則違反の問題 を生ずる場合に免責の余地を認める最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決

(民集41巻1号159頁)を参考に,保険金詐取等の信義則上許されない目的を もって事故通知義務・説明義務に違反した場合に免責とする案が検討された。

しかし,同判決は,免責範囲を画することを主眼とするものではなく,しか も,片面的強行規定を導入した保険法の下では,判例が免責範囲をさらに限 定的に解する可能性もあるため,今後の判例・学説における議論の推移を慎 重に見守りつつ検討する必要があると考えられたことから,この案の採用は

43) 萩本・前掲(注36) 新保険法―立案者の立場から― 13‑14頁。

44) 萩本・前掲(注7)21頁 (注3)。旧約款は,文言上,相当広範な免責主張 が可能なものであったため,たとえ保険者の裁量的判断により極めて悪質な事 案にのみ援用するという自制的な運用が行われていたとしても,善良な保険契 約者側に苛酷な結果を生じさせない保障はなく,また,この点を巡っては,既 に後記最高裁昭和62年判決により司法的規制の側面から是正が求められていた のであり,不正請求を強く牽制する必要性があったとは言え,このような約款 条項を維持し続けたことには保険約款のあり方として問題があったと思われる。

45) 保険事故や保険給付,義務,義務違反の態様・性質を問わず,不正請求への 懸念を強調し,一様に抑止・制裁の観点を導入する姿勢は,過剰防衛であると の批判を免れ難いところであろう。

(15)

見送られた。また,保険金不法取得目的をもって事故通知義務・説明義務に 違反した場合に免責とする別案 も検討されたが,具体的な免責範囲が定式 化されていない抽象的な免責規定は,保険金不払の弊害を生じかねず極力置 くべきではないとの判断から,採用には至らなかった。

以上の検討の結果,最終的に,事故後の義務違反の効果について,約款上 は,保険者の免責をすべて廃止し ,義務違反によって保険者が被った損害 の額を保険金から差し引く旨の定めを置くに止めることとした(自動車・基 本21条,23条6項) 。

8 保険金請求・履行期

⑴ 保険金請求

新約款は,支払事由ごとに保険金請求書類の類型を規定している(自動

46) 事故後の義務違反免責と重大事由解除の規律は背反する関係にあると解する 立場を前提としても,信頼関係破壊に止まらず公序良俗違反の段階に至るもの と評価せざるを得ない事情がある場合(極端なケースに限られようが,このよ うな場合には 特段の事情 (萩本・前掲(注7)103頁(注1)が肯定される ものと解される)には,公序良俗違反や権利濫用の法理により,保険者は当該 義務違反に係る保険事故について支払責任を負わないとする結論が導かれるも のと考えられ,別案は,この趣旨によるものである(もっとも,公序良俗違反 の段階のモラルリスクは,必ずしも約款条項を根拠・判断基準として解決され るべき性質の問題ではなく,また,事故後の義務違反に関しては公序良俗違反 とまで評価可能なケースは通常は想定し難いのであって,この段階のモラルリ スク対策の法理を約款条項に取り込むという構想自体,保険約款のあり方とし て問題がないわけではない)。

47) 保険者が被保険者の身体の診察等を求めた場合の調査協力義務違反による免 責(旧自動車・一般17条3項)についても同様に廃止している。

48) 約款上に根拠規定を欠く現状においても,信義則の適用により,保険契約者 側の権利主張が制限され,賠償法理に基づき減額可能な範囲を超えて保険者が 免責される可能性はあり得ると考えられる。また,少なくとも前掲 (注46)に 記載した事情がある場合のような義務違反の悪質性が甚だしいケースでは,権 利濫用等の法理によって全部免責の結論を導くことも可能であろう(嶋寺基 新しい損害保険の実務⎜保険法に対応した損害調査実務の解説⎜ 152頁)。

(16)

車・基本23条2項)。保険法が保険者の調査期間として 相当の期間 (同法 21条1項,81条1項)を確保することを認めている点に鑑みれば,調査期間 の前段階である保険金請求手続の過程で保険契約者側に過大な負担を強いる 取扱いは適当でない。そこで,保険金請求書類の類型化にあたっては,保険 契約者側に提出を要求する公平性・相当性を考慮し,保険金請求書類の類型 は,あくまで保険者が調査に着手するために必要な書類・証拠に止めている。

その上で,保険金請求書類の提出を完了した日(請求完了日)から調査期間 を起算するものとしている(自動車・基本24条1項 (注1)) 。

⑵ 履行期

新約款では,まず,原則的な履行期について,請求完了日から30日以内と 定めている(自動車 ・基本24条1項本文)。これは,調査期間の起算点(請 求完了日)に関する上記取扱いを前提に損害調査の実態を参酌すれば,これ より履行期を短く設定した場合,正確な保険金の支払に支障を来すことが危 惧されたためである。

次に,適正な保険金の支払を確保する上で警察や病院等の外部の第三者に よる調査結果や国外における調査結果を判断材料とすることが不可欠な場合,

また,通常の調査・事務処理能力を超える請求が集中する事態が予想される 場合を履行期の延長事由として定めている(同条2項)。

なお,新約款の延長事由は限定列挙であり包括条項は置いていない。また,

延長期限については,標準約款上は ○日 と規定し,具体的な日数を定め ていないが,これは各保険者において具体的な日数が確定期限として補充さ

49) なお,事案によっては特別な書類・証拠の提出が必要となる場合も想定され,

旧約款は,この点につき,包括条項を置いていた(旧自動車・一般20条2項5 号)が,新約款では,確認を行うための書類・証拠に不可欠性を求めるととも に,契約締結の際に保険者が交付する書面等(重要事項説明書等)においてそ れらの明示を必要としている (自動車・基本23条2項9号)。保険者が必ずし も調査着手に要しない書類・証拠の追加提出を求めることで,任意に調査期間 の起算点である請求完了日を繰り下げ,遅滞責任を免れる事態を防止する趣旨 である。

(17)

れることを予定したものである 。いずれも,保険者の恣意的な調査期間の 延長を防止し,保険契約者側の予測可能性の確保を重視した措置である 。

9 重複保険

重複保険となる場合の各保険者の支払責任に関して,旧約款は,独立責任 額按分方式を採用していた(旧自動車・一般18条)が,新約款では,保険法 が新たに採用した独立責任額全額方式(同法20条)に改めている(自動車・

基本22条)。保険法の重複保険に関する規律は任意規定であり,長らく実務 に定着してきた独立責任額按分方式を維持することも考えられたが,新方式 は,按分額を各別に請求しなければならない独立責任額按分方式に比して保 険契約者側にとって利便性が高いとともに,独立責任額全額に対応する保険 料負担との関係でより公平に資するものであることに鑑み,新方式の採用に 踏み切ることとした。

なお,新約款では,保険者が自己の支払責任の範囲を把握するとともに,

他の保険者への求償の機会を確保するため,保険契約者側に,保険金請求に 際し,他保険契約の内容や保険金の支払の有無について保険者に申告する義 務を課し(自動車 ・基本20条9号),保険契約者側が正当な理由なく当該義 務に違反した場合,保険者はこれによって生じた損害の額を保険金から差し 引く旨を定めている(同21条1項2号) 。

50) 監督指針が,日数をもって期限が定められることを求めていることと対応す る改定点である(監督指針Ⅳ‑1‑17⑵②イ.)(嶋寺基=仁科秀隆 新しい保険 法に対応した監督指針の改正 NBL 907号(2009年)41頁)。

51) 同様の配慮から,新約款では,調査期間において確認を行う事項を具体的に 列挙する(自動車・基本24条1項)とともに,調査期間を延長する場合には,

保険契約者側に対して確認が必要な事項と確認を終えるべき時期を通知するこ ととしている(同条2項後段)。

52) 萩本・前掲(注7)131頁(注1)。

(18)

10 消滅時効

保険金請求権の消滅時効に関し,新約款は,保険法に則し,時効期間を2 年から3年に改めている(自動車・基本27条) 。

11 車両価額協定保険特約(評価済保険)

自動車保険の車両価額協定保険特約は,故意・重過失による告知義務違反 の結果,不適正な協定保険価額が設定された場合には,保険契約者側の不公 正な協定行為に基づき被保険者が利得を収める事態を防止するため,保険者 に契約の解除を認め,解除により保険者は免責されるとする取扱いを定めて いた(旧自動車・車価協特約6条)。しかし,保険価額の評価・見積のみに 関する事柄(仕様・装備,購入価額等)は,保険者が行う危険測定と直接の 関係を有する事柄ではないと解され,これについて不実告知があった場合に 保険契約全体の解除・免責を認める上記取扱いは,告知義務の規律の片面的 強行規定性に反する疑いがあると考えられる。そこで,新約款では,同特約 のみ解除を認め(自動車・車価協特約8条2項),また,特約解除前に発生し ていた保険事故については,普通保険約款に従い,事故時の保険価額を基準 として保険金を支払う(同条4項)とする取扱いに改めている

53) なお,自動車保険の旧約款は,消滅時効の起算点を履行期と一致させるため,

請求手続の履践の有無により消滅時効の起算点を区別する取扱いを定めていた

(旧自動車 ・一般24条)が,新約款では,この区別を廃し,消滅時効の起算点 を保険金請求権発生時に統一している(自動車 ・基本27条)。これは,新約款 では,履行期に関し,分析的に延長事由・日数が定められ,また,保険契約者 側に調査妨害等があればそれに応じて履行期も左右される内容となっていると ころ,履行期を消滅時効の起算点に反映させた場合,法的安定性・明瞭性が損 なわれることが危惧されたためである。

54) 新約款は,合意一般の成立要件の角度から,錯誤無効の特則を定めたものと 説明できよう。すなわち,被保険自動車の価値の評価・見積に関する錯誤によ り,いわゆる契約の一部無効(特約部分の無効)を来し,その結果,損害額算 定の基準については,基本条項によって補充され,保険者は残余部分の契約内 容に従い支払責任を負うべき趣旨を,告知義務規定になぞらえ,特約の解除構 成で定めたものとする考え方である。

(19)

約款相互間の整合性の確保

従来,同種の保険事故を担保する約款であっても保険種類によって取扱い が異なる場合があり,これが商品の複雑化や消費者の理解を妨げる一因にな っていたとも考えられることから,本改定では,①重過失による事故招 等の取扱いを統一するとともに,②条文構成等についても約款相互 間で共通のものとする見直しを行い,約款相互間の不整合の解消を図ってい る。

約款の平明化

本改定では,①専門用語を平易な用語に置き換える,②二重否定や二重括 弧を用いた複雑な文章を可能な限り使わない,③表や計算式を活用する,④ 当会社の認める場合 といった白地規定については,極力,具体的な基準 等を明記する,⑤確立された判例の約款解釈で条文の文言に明示されていな

55) なお,公益的見地から容認されない程度にまで協定保険価額が保険価額を超 過する場合には,告知義務違反の有無にかかわらず,事故時の保険価額を基準 として保険金を支払うこととなる(保険法18条2項但書)。新約款では,この 規律についても,別途,注意的に規定している(自動車・車価協特約7条)。

56) 新約款は,自動車保険の搭乗者傷害条項および車両条項ならびに傷害保険に 重過失免責を導入している(自動車 ・搭傷3条1項1号,同・車両3条1号,

普通傷害 ・補償3条1項1号)。この結果,これらの保険種類および従前より 重過失免責を規定している火災保険(住宅火災・補償3条1項1号)において,

重過失免責の整合が図られた。重過失免責は,保険契約者側が保険保護を受け られないとしても致し方ない甚だしい不注意が事故を招いたケースに適用され るものであり,これらの保険種類において別異に取扱う理由に乏しいと考えら れる。なお,自動車保険の賠償責任条項については,被害者救済への配慮から,

また,自損事故条項・無保険車傷害条項については,これらが賠償責任条項を 代替・補完する関係にあることから,重過失免責を追加していない(自動車・

賠責4条1項1号,同・自損3条1項1号,同・無保3条1項1号)。

57) なお,傷害保険では,故意・重過失免責を規定するとともに,傷害概念の表 現として偶然性要件を維持している(普通傷害・補償2条1項)。

(20)

いものについては明文の規定を設ける ,⑥現在では存在意義が失われてい る条文は簡素化の観点から削除する などの工夫を採り入れている 。

終わりに

保険法に対応した保険約款の作成にあたっては,片面的強行規定として位 置付けられた保険法の各規律の解釈・射程を慎重に見極めなければならない が,この問題を考察する際には,保険契約法理の面,あるいは保険実務にお ける商品構成・契約引受・損害調査の面,あるいは保険約款のあり方の面な ど,考慮に入れるべき面は多岐にわたっている。これら各面からの考慮を総 合的に判断して結論すべきこの問題の解決は,必ずしも単純・容易ではない。

本改定では,この点について,問題の解決を将来の検討に委ねたものもある。

本稿では,標準約款改定の概要を紹介しつつ,残された課題を提示し,大方 の検討を期待する次第である。

本稿が,保険法制定に際して改定された標準約款の作成意図を知る資料と して,将来における約款条項の改善検討の一助となれば幸いである。

(筆者は損害保険料率算出機構勤務)

58) 無保険車傷害条項に基づき事故時に胎児であった者の保険金請求を認めた最 高裁平成18年3月28日判決(民集60巻3号875頁)を踏まえ,最高裁が判示し た約款解釈を明文化した規定を新設している(自動車・無保6条2項)。

59) 対人事故通知の特則(旧自動車・一般16条)および仲裁条項(同19条)を削 除している。

60) 約款の平明化にあたっては,日本損害保険協会 保険約款のわかりやすさ向 上ガイドライン (2008年)および同 保険約款および募集文書等の用語に関 するガイドライン (2008年)を参考とした。

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