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振替的信用創造と現金的信用創造

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振替的信用創造と現金的信用創造

守  山  昭  男

広島修道大学商学部教授

1.はじめに       められるようになった6)。19世紀に入ると銀行券 昨年(1993年)4月に「金融制度改革関連法案」   の統制をどうするかが大きな問題となり、銀行券 が施行され、子会社形態での銀行と証券あるいは  発行の統制をめぐって銀行学派と通貨学派の間で 信託との相互参入が認められた。金融制度改革論   論争が起こった。

議のなかで業際問題をめぐって銀行業の特質とは   通貨学派は発券を金の流出入に合わせて統制す 何かが改めて問題とされた。       べしと主張したのに対して、銀行学派は発券量を

銀行の本質的機能をめぐる議論は歴史的にみれ  規定するのは取引の必要であるから、たとえ銀行 ば近代的銀行の成立はいつかという問題とも重な  券を統制しても為替手形や預金が銀行券の代替を

る。近代的銀行業のメルクマールは何か、それは   するであろうと主張した。詳細にみれば意見の相 何時成立したかというのは金融史のテーマの一つ  違はあるが、おしなべて通貨学派の信奉者は預金 である。銀行業の源流をたどると、近代的銀行の  を貨幣と認めておらず、銀行学派の信奉者は預金 先駆者として中世ヨーロッパの前期的預金銀行と  が銀行貸出によって生まれることを認識してい

イギリスの金匠(ゴールドスミス)の2類型が挙   たL6}。19世紀前半には銀行券は流通手段として一 げられる〔1)。故川合一郎教授が強調したように近  般的に認識されていたが、預金についてはまだ流 代的銀行業のメルクマールは一覧払債務による貸   通手段としての一般的認識はなかった。しかし、

付に求められる〔2〕。たとえば、イギリスの金匠は  1860年頃までにはイギリスにおいて預金も銀行券 貴金属を保管し、預り証を発行していた。当初そ   と同様に流通手段として認められるようになった のノートには譲渡性が認められていなかったが、   といデD。銀行券発行がイングランド銀行に集中 やがてノートが自由に譲渡されるようになると、   され、銀行が中央発券銀行とその他預金銀行とに 金匠はノートでもって貸出をおこなうようになっ  分化すると、預金銀行は預金債務による貸付をお た。一覧払債務の貸付による金匠から金匠銀行へ   こなうようになる。ゴールドスミス・ノートの貸 の転回である13)。      付による金匠銀行の成立と同じく、預金債務の貸

17世紀の後半にイギリスにおいて金匠銀行が成   付による近代的預金銀行の成立である。

立したが、やがて18世紀の後半に産業革命の進行   近代的銀行のもう一つの先駆者である中世の預 とともに地方に発券銀行が族生した1。これらの   金銀行は預金を受け入れ、帳簿の振替によって決 銀行は銀行券でもって信用を供与したが、それら  済をおこなっていた。預金の振替によって貨幣取 の銀行券の性格規定に関して当初見解が分かれた。  扱費用のみならず貨幣も節約された。その結果生 銀行券は通貨であるが貨幣ではないという主張も  まれた遊離貨幣の貸出もおこなわれたが、商業信 あったが、18世紀末までには銀行券は貸出によっ  用が未発達であったので資金は主に長期投資に向 て発行され、貨幣の目的をはたし、銀行は部分準   けられたといわれる/8〕。そもそも一覧払債務であ 備でもって営業しているということが一一般的に認  る預金債務による貸付をおこなう近代的預金銀行

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振替決済機構と銀行間で支払準備を相互融通する  は銀行券と預金は本質的に同じと考え、銀行の本 インターバンク市場からなる銀行組織が構築され  質的かつ固有の機能は要求払いの信用を創造し、

る必要があった(9〕。中世の預金銀行には相互に口  発行することであると主張した(13)。しかし、預 座を開設することで振替決済する機構は存在した   金銀行による信用創造に異議を唱える見解も根強 が、相互に資金を融通する機構は存在しなかった   く存在した。その代表例がリーフの見解である。

のである(1⑪)。近代的預金銀行へ転回するために   リーフによると、預金銀行は本質的に貸し手と借 は商業信用の発展と共に手形交換所とインターバ   り手を結び付けることを業務とする仲介者 ンク市場からなる銀行組織の確立を待たねばなら   (broker)であり、銀行は借り入れ金額以上の なかった。      金額を貸し出すことはできないという(14)。この 世界で最も歴史の古いロンドン手形交換所が設   ような信用仲介説と信用創造の論争に一応の決着 立されたのは1773年頃といわれる。1849年には手   をつけたのがフィリップスである(15)。

形交換所の加盟銀行は25行の個人銀行であったが、  1920年にフィリップスは、銀行による信用創造 1854年に6行の株式銀行の参加が許された。交換   を解明するには個別銀行の観点のみならず、銀行 尻がイングランド銀行内の手形交換所勘定の振替   組織全体の観点からの分析の必要性を明らかにし によって決済されるようになり、手形交換所の機   た。個別銀行ならびに銀行組織全体による信用拡 能が一段と高められた。他方、銀行間短期金融市   張の定式化をおこない、個別銀行において信用仲 場としてのロンドン割引市場は1830年から成長し  介であっても銀行組織全体では信用創造が可能に はじめ、その完成をみるのが50年代に入ってとい   なると主張した。それによって、個別銀行の観点 われる山。このように手形交換所と銀行間短期   からの信用仲介説、銀行組織全体の観点からの信 金融市場の発展という制度的条件の拡充からも、  用創造説と、それまでの論争におけるそれぞれの イギリスにおける近代的預金銀行の確立は19世紀  立場が相対化された。その後のマクロ経済学とし の中半以降といってよかろう。      てのケインズ経済学の流布と共に、フィリップス 米国においても1830年代後半から預金債務によ   流の信用創造論が信用拡張に関する乗数理論とし る貸付が一般的となり、小切手利用が盛んになっ  て通説となり、信用拡張が可能な銀行と単なる仲 て1853年にはニューヨークで手形交換所が設立さ  介をおこなうその他金融仲介機関とに金融機関を れるなど預金銀行制度が確立しつつあった。ちな  二分するのが一般的となった(16)。

みに日本での手形交換所の成立は明治12(1879)    1920年以降、銀行による信用拡張を認める見解 年の大阪手形交換所が最初であり、同時に手形交   が支配的となったが、やがて1960年代に入るとい 換所内に加盟銀行有志によってインターバンク市  わゆる「新しい見解」からフィリップス的信用創 場での取引にあたる「同業間資金の貸借」が始ま  造論が批判された。すなわち、信用創造が可能か ったといわれる(12}。       否かで銀行とその他金融仲介機関を区別する二分 以上の概観からも明らかなように、20世紀にか  法と、固定係数にもとついて銀行が機械的に信用 けて預金銀行制度がほぼ確立あるいは確立しつつ   を創造し得るという考えに批判が集中したm。

あったといえるが、預金銀行の本質的機能に関し  このような批判を許した背景の一つはフィリップ て見解がなお対立していた。いわゆる「信用媒介」   ス的信用創造論そのものに理論的難点があったか 説と「信用創造」説の対立である。預金銀行の本   らである(18)。フィリップス的信用創造論は、本 質的機能を信用の仲介に求めるのが信用媒介説で  源的預金が銀行制度に流入すると、その乗数倍の あり、預金銀行の本質的機能を発券銀行と同じく  信用拡張がおこなわれるというもので、本源的預 信用創造に求めるのが信用創造説である。周知に   金が外生的に与えられて信用拡張がおこると考え

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振替的信用創造と現金的信用創造       63

られている。本稿では銀行による信用創造は、通  生産期間が3カ月なので、第1部門の生産者はそ 説が考えるように本源的預金の流入を起点とする  の現金2,000でもって賃金を3カ月にわたって支 外生的なものではなく、再生産における貨幣の循   払い、所得として支出する。(以下叙述を簡便に 環流通にもとつく内性的になものであることを明  するため賃金支払いと所得の支出を賃金支払いに らかにする。       代表させる。)1カ月末に666÷が支払われ、2カ

月末、3カ月末にも666÷の現金が支払われて、

II.貨幣取扱業務と遊離貨幣       3カ月末には残高が0になる。同じように第II部 通説の主張するように銀行組織に本源的預金が   門の生産者のII(V+M)=1,000の貨幣の運動 流入することによって信用創造がおこなわれるの   をみると、毎月末に333÷が賃金(所得)として ではなく、銀行による信用創造は再生産における  支払われ、3カ月末にはやはり残高は0となる。

貨幣の循環的流通に基礎をおいている。すなわち   ただし、第II部門は消費財の生産部門なので消費 再生産が順調に推移するかぎり流通のために投下  財の売上代金として現金が流入してくる。1カ月

された貨幣はその出発点に回流するという「貨幣  末に支払われた賃金が2カ月末までに第II部門の 還流の法則」があった。そのような再生産におけ  生産者に消費財の売上代金として回流するとすれ

る貨幣の循環運動にもとついて銀行は信用の創造   ば、以後毎月末に第II部門の生産者に1,000の現 をおこなう。通説のように外部からの本源的預金  金が流入してくる。生産期間が終わる3カ月末に の流入による一度かぎりの信用創造ではなくて、   は第II部門の生産者は2,000の現金を保有するこ 貨幣の循環流通にのっとった不断の信用創造であ   とになる。ただし、3,000の貨幣が流通に投下さ る。そこで銀行による信用創造を解明するために、  れたのであるから、残りの1,000は未だ生産者の まず再生産における貨幣の循環的流通からみてゆ  手元に回流していないことになる。すなわち、月 こう〔19>。とりあえず信用を捨象した現金貨幣経  末に賃金(所得も含めて)として支払われた貨幣 済を想定し、貯蓄の存在しない静態循環を仮定す   1,000は、各労働者や生産者の手元で所得の貨幣 る。      形態として保有されていて還流していないのであ

再生産が順調なかぎり流通に投下された貨幣は  る。

その出発点に還流するが、貨幣はその出発点に即   そこで第II部門の生産者は2,000の貨幣でもっ 座に還流するわけではない。生産期間と流通期間  て次の生産のための生産財を購入して生産を継続 からなる資本の回転期間の存在によって流通に投   する。第1部門の生産者は先回と同様に受け取っ 下された貨幣は漸次的に出発点に還流してくる。   た2,000の貨幣を月末毎に666÷ずつ賃金の支払い 貨幣の循環的流通を具体的に考察するため、生産   に用いる。第II部門の生産者は2,000の貨幣を生 部門を第1部門と第II部門に分け、それぞれの生  産財の購入に支出したのでさしあたり手持ちの現 産期間と流通期間を3カ月と仮定する。さらに賃  金は0となるが、所得の貨幣形態として労働者や 金が支払われる間隔である所得期間を1カ月とし、  生産者の手元にあった貨幣1,000が月末までに消 月末払いと仮定する。問題を簡単に考察するため  費財の売上代金として還流してくるので、その内 に、1(V+M)とII(C)の取引、ならびにII  から月末に333÷の賃金を支払うことができる。

(V+M)のための貨幣の循環運動を取り上げる。  その結果、第II部門の生産者には毎月666÷の貨 いま、II(C)=2,000、 II(V+M)=1,000とし、  幣が累積して、3カ月末には貨幣残高は2,000と 第II部門の生産者が2,000+1,000=3,000の貨幣   なって、3カ月前の状態と同じになる。以下同様 を投下すると想定する。      に生産財が購入されて生産が継続される。以上の

第1部門の生産者は第II部門の生産者から売上  貨幣の運動を表示したのが表1である。

代金として2,000の現金を受けとる。仮定により

(4)

表1

所得

期間 1  首 1  末 II  末 III  末 IV  首

w   末

V  末 VI  末 皿   首

第1部門

2,000

1,333÷ 666÷

0 2,000

1,333÷ 666÷

2,000

第II部門

1,000

666÷ 333÷

0 0

一333÷ 一666÷

一1,000 0

(売上金)

1,000 2,000 1,000 2,000 3,000

手元貨幣

2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000

流通貨幣

1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000

表1から明かなように、回転期間を考慮に入れ   このような信用なき現金貨幣経済における貨幣 ると、流通に投下された貨幣は即座にその出発点  の循環運動を前提にして、さらに信用を捨象した に還流していない。回転期間と所得期間のずれに  まま貨幣取扱業者を導入しよう。ここでの貨幣取 応じて徐々に還流してくる。その結果、投下され   扱業者とは各生産者の貨幣取扱業務を代行する業 た貨幣の一部は所得の貨幣形態として常に流通界   者で、銀行業から信用業務を捨象した貨幣取扱業 に滞留していることになる。具体的には表1によ  者ということになる⑳。すべての生産者が必ず ると1,000の貨幣が毎月末に所得の貨幣形態とし  貨幣取扱業者と取引しており、生産者間の取引は て流通界に投下され、次月末までに消費財の売上   すべて支払指図書でもって支払われるものと想定 代金として徐々に還流してくる。したがって平均  する(川。この段階ではまだ信用取引が捨象され すれば500の貨幣は生産者の手元に還流している  ているので手形は度外視される。

が、500の貨幣は常に流通界にあって還流してい   同一貨幣取扱業者と取引している生産者間での ない。また、流通に投下された3,000の貨幣のう  支払いは貨幣取扱業者における預り金の振替でも ち2,000は常に生産者の手元で準備金の形で滞留   って精算される。さらに、貨幣取扱業者は相互に していて動かない。残りの1,000の貨幣が所得の  口座を開設し合っているので、別々の貨幣取扱業         ン幣形態と資本の貨幣形態を順次繰り返しながら、  者と取引している生産者間における支払いも貨幣 投下と還流を繰り返している。      取扱業者間の振替によって決済される。生産者間

つまり、流通に投下された貨幣3,000の内2,000  の取引がまったく現金をもちいずに決済される。

は常に生産者の手元で準備金として変動せずに底  貨幣取扱業者間の振替はプラスマイナスゼロであ 溜まりし、残りの1,000が賃金として投下され、  るから、貨幣取扱業者全体でみると預け金の総額 準備金として生産者の手元に還流し、ふたたび賃   は変動しない(22)。貨幣取扱業者全体の預け金が 金として投下されるということを繰り返している。  減少し現金準備も減少するのは生産者による従業 したがって、第1部門と第II部門の生産者の手元  貝への賃金の支払いである。生産者による賃金の における準備金の平均残高が2,500となり、未だ   支払いによって現金が貨幣取扱業者の窓口から実 生産者の手元に還流せずに流通界に滞留する流通  際に流出するので貨幣取扱業者全体の現金も減少 貨幣の平均残高は500となる。したがって、生産  する。しかし、その現金が消費財の売上代金とし 者全体の手元にある準備金のうち底溜まり部分で   て第II部門の生産者に流入することで貨幣取扱業 ある2,000の貨幣はマクロ的にみれば不必要な貨  者の現金はやがて回復される。

幣ということになる。すなわち第1部門と第II部   そこで先の表1でみた貨幣の循環運動に貨幣取 門の生産者を一つの生産者に統合すると2,000の   扱業者を導入する。ここでは貨幣取扱業者は一人 貨幣は余分な貨幣となる。以上が信用を捨象した  ですべての生産者と取引していると仮定する。生 現金経済という想定の下での再生産における貨幣  産者の手元で準備金として滞留した貨幣はいまで の循環的流通の具体的な姿である。        は貨幣取扱業者の預り金残高として滞留すること

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振替的信用創造と現金的信用創造       65

になる。先の計算によると生産者全体の準備金の  を貸し出すことによって銀行業務が確立する。必 平均残高は2,500であった。貨幣取扱業者は常に   ずしも商業信用を前提としない。貨幣取扱業務に 平均すれば2,500の預り金を保有している。さら  よって析出される遊離貨幣はほぼ無期限に利用可 に、所得の貨幣形態と資本の貨幣形態を繰り返し  能な資金である。短期の貸出に利用しなければな つつ実際に流通していた貨幣1,000は、いまでは   らないという必然1生はどこにもない。中世の前期 貨幣取扱業者の窓口と流通界の間を実際に循環す   的預金銀行がそうであったように長期投資に貸し

る現金1,000となる。したがって貨幣取扱業者に   出される。

とって必要な現金の平均残高は500となる。この   それに対して、本稿の立場でもある第2の見解 ような現象が預金銀行制度における部分準備の再   は銀行制度の確立には商業信用を前提とするとい 生産的な基礎である。貨幣取扱業者は平均すると  う考えである。これまでの再生産における貨幣流 2,500の預り金を生産者から預かっているが、窓  通の分析は信用取引を捨象しておこなわれてきた。

口で実際に流出入を繰り返す現金は平均すると500  ところで第II部門の生産者には生産継続のための である。預り金の平均残高2,500のうち2,000は変  生産財購入代金2,000をできれば節約したいとい 動せずに底溜まりする。貨幣取扱業者の手元で2,  う動機があった。というのは第II部門の生産者に 000の貨幣が遊離する(23)。      は3カ月後までに消費財の売上代金3,000が流入

このように信用取引を捨象した現金貨幣経済を   してくると予想されるからである。そこで第II部 前提に貨幣取扱業者を想定すると、再生産におけ   門の生産者は3カ月後払いでもって第1部門の生

る貨幣の循環運動の特徴から、貨幣取扱業者には  産者から生産財を購入して、生産を継続するため 遊離貨幣が析出される。この遊離貨幣は再生産に  の追加資金2,000を節約する。追加資金を節約す おける貨幣循環を基礎に貨幣取扱業者による貨幣   るための生産者間における掛売り掛買い、すなわ 取扱という単なる技術的操作から生じる遊離貨幣   ち商業信用である。第II部門の生産者が商業信用 である。      によって節約しようとする追加資金2,000は、前

節の再生産における貨幣の循環流通の分析で解明 II.銀行による「振替的信用創造」        された遊離貨幣2,000と金額的に対応している。

しかしながら銀行は単なる貨幣取扱業者ではな  後者の金額2,000は生産者を統合してマクロ的に かった。銀行は貨幣取扱業務と信用業務を併せお  みて不必要となる貨幣であったが、個々の生産者

こなう業者である。このことに関して研究者の間   にとしては流通のために投下しなければならない で大きな見解の相違はない。見解が分かれるのは  貨幣である。この間隙を架橋するのが商業信用と 銀行における信用業務の理解である。銀行信用を  銀行信用である。

どう捉えるかで見解が大きく二つに分かれる。第   第II部門の生産者が商業信用によって追加資金 1の見解は、まず銀行による貸付資金の析出を貨   を節約しても、今度は第1部門の生産者が逆に賃 幣取扱業務に求める見解である。さきの考察から  金支払いのための資金が不足することになる。前

も明かなように、貨幣取扱業務の単なる技術的操   節の表1から明かなように、第1部門の生産者は 作によって遊離貨幣が析出された。貨幣取扱業者   毎月末に666÷の現金が必要である。いま第II部

はこの遊離貨幣を自由にすることができる。しか   門の生産者が3カ月後払いの手形でもって第1部 し、ここからは一覧払債務を貸し付けるという銀   門の生産者から生産財を購入したとする。第1部 行信用の形態的特質はでてこない(24)。第2の見   門の生産者は第II部門の生産者に対する手形債権 解は、銀行信用の展開に商業信用を前提する考え   2,000を持っているが、手形でもって賃金は支払

である。第1の見解では貨幣取扱業務がまず先行  えない。毎月末に現金666÷が必要である。他方、

し、貨幣取扱業務によって生み出される遊離貨幣  第II部門の生産者には消費財の売上代金として現

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金が毎月1,000ずつ流入してきて、将来の手形債   幣を借りたとほぼ同じになる。銀行信用は商業信 務の返済に備えて堆積される。銀行はこの第1部  用を前提とするが商業信用のみでは節約できなか

門の生産者における現金不足と第II部門の生産者   った第1部門の生産者の賃金支払いの追加資金の における現金堆積とを銀行信用でもって架橋する  節約を可能にする。

のである。すなわち、銀行は第1部門の生産者が   銀行が一覧払債務によって貸付けることができ 保有する手形2,000を割り引いて一覧払債務を貸   るという見解は、さきの貨幣取扱業務による遊休

し付ける。第1部門の生産者は割引代わり金とし  貨幣の析出という第1の見解と同じく前節でみた て2,000の当座預金を入手する(割引料等は無視)。  再生産における貨幣の循環流を根拠にしている。

第1部門の生産者は毎月末に666÷ずつ預金を現  再生産における貨幣の循環的流通を根拠にしなが 金で引き出して賃金を支払うことが可能となる。   ら、第1の見解は貨幣取扱業務によって遊離され

銀行は月末毎に現払いされる666÷の現金準備   る貨幣の事後的利用説であり、第2の見解は貨幣 を必要とするが、第II部門の生産者によって預け   の事前的節約説ということになろう。各生産者が 入れられる現金を支払準備に充てる。銀行は第II  利潤動機でもって経営するかぎり追加資金を節約 部門の生産者に対する割引手形債権をもっている  しようとするであろう。つまり追加的資金を事前 ので、第II部門の生産者によって預け入れられる   的に節約しようとする商業信用の必然性があった。

現金を支払準備に充てることができる。というの   このような商業信用を前提にすることで一覧払債 は手形満期日が到来すると、銀行は第II部門の生  務の貸付という銀行信用の形態的特質もでてくる。

産者に対する手形債権と預金債務を相殺して無現   また銀行信用は基本的に短期金融であるというこ 金的に精算できるからである。このように銀行は   との論拠が遊離貨幣の事後的利用説からはでてこ 前もって支払準備を保有していないにも拘らず一   なかった。というのは貨幣取扱業務によって析出 覧払債務を貸付けて利子を獲得することができる。  される余剰貨幣は半永久的に遊離される貨幣であ これが銀行による「振替的信用創造」である〔25)。  るからである。貨幣取扱業務によって析出される 銀行による信用創造の基礎には商業信用があっ  長期の遊離貨幣と銀行の手形割引等による短期金 た。第1部門の生産者が所得期間毎に銀行から  融との間には何の関連もないのである。しかし、

666÷の現金を引き出したが、その現金666÷は第  事前的節約説によると、銀行は一方における暫定 II部門の生産者が銀行に預け入れた現金であった。  的な現金不足と他方における暫定的現金過剰を架 もともと第II部門の生産者は第1部門の生産者か   橋するのであるから、銀行信用は必然的に短期金 ら商品を掛けで購入していた。したがって、第II  融となる。

部門の生産者は銀行を介して第1部門の生産者に   信用なき現金貨幣経済において貨幣取扱業務を 買掛債務を分割して返済しているようにも考えら  導入すると遊離貨幣が析出されたが、商業信用の れる。そこで、ここでの銀行の役割を単なる仲介  必然性を考えるならば現金経済は一つの抽象であ 機能と解釈する見解もでてくる(26)。しかし、こ  って、信用経済こそがむしろ現実ということにな の場合の銀行の役割は単なる仲介機能ではない。  る。そこで表1を手がかりに信用取引を前提にし 掛売り掛買いに伴う第1部門の生産者の暫定的な  た貨幣の循環流通をみよう。生産者全体の手元貨 現金不足と第II部門の生産者の支払準備金の暫定   幣2,000は今では銀行預金残高として滞留し、流 的な滞留を銀行は自己宛の一覧払債務を貸付ける   通貨幣1,000は銀行の窓口において流出と流入を という形態で架橋する。銀行は手形を割り引くこ   繰り返す。その結果、銀行の預金残高は2,000か とで商業信用の信用リスクを負いながら自己宛一   ら3,000の間で増減を繰り返すので、平均残高は 覧払債務を貸し付ける。商業手形と違って銀行信  2,500となる。また、銀行における現金準備も0 用は一覧払債務の貸付なので借り手にとっては貨  から1,000の問で増減するので平均残高は500とな

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振替的信用創造と現金的信用創造      67

る。さきの信用なき現金経済では貨幣取扱業務に  代行させる必要1生はなかった。

よって析出される貨幣2,000は半永久的遊離貨幣   銀行の側にも家計部門の貨幣取扱業務を代行す であったが、この段階における銀行の貨幣取扱業   る誘因はなかった。というのは家計部門の所得に 務にもとつく余剰現金は遊離貨幣ではなく、月々   よる所得預金は小口で滞留期間が短いからである。

666÷の平均滞留期間が手形期間の2分の1にな   所得期間を1カ月とすれば所得預金の平均滞留期 る遊休貨幣である⑳。この遊休貨幣こそが信用  問は2分の1カ月にすぎないから、銀行にとって を前提とした銀行の貨幣取扱業務にもとつく現金   メリットは少ない。ところが晴報通信技術の革新 余剰であって、前節の貨幣取扱業務による遊離貨   によって事態は変わった。もともと情報通信技術 幣や次節の「現金的信用創造」と峻別され、さら  の革新は、まず銀行の本来の業務すなわち法人取 にその他金融仲介機関や銀行の単なる金融仲介業  引における合理化に向けられていたが、やがて個 務によって析出される貸出資金とも峻別されるも  人取引の深耕にも向けられるようになった。情報 のである。       通信技術の革新によるATMやCDの開発によっ

て、煩雑な窓口業務から解放されたので銀行は積 IV.銀行による「現金的信用創造」        極的に家計部門の貨幣取扱業務を代行し所得預金

信用を前提にして再生産における貨幣の循環流   を受け入れ始めた(28)。家計部門が銀行に預金口 通を分析することで銀行による「振替的信用創  座を開設することが一般的になると、以前なら給 造」が明らかにされ、その際の銀行の貨幣取扱業  料支払日あるいは前日に現金が銀行の窓口から実 務によって析出される遊休貨幣としての余剰貨幣   際に流出したが、給与振込によって企業の預金口 の特質も解明された。前節までは銀行の貨幣取扱  座から家計部門の預金口座に振り替えられる。と 業務をもっぱら生産者の出納業務を代行するもの   りあえず銀行の窓口からは現金が流出しない。

として考察してきている。生産継続のための追加   このような事態が銀行に如何なる現象をもたら 資金を節約しようとする生産者には銀行と取引す  すかを考察しよう・さきの表1では回転期間3カ

る必然性があったが、家計部門には銀行と取引す  月、所得期間1カ月と想定して、再生産における る必然1生があるとはいえない。貯蓄なき静態循環  貨幣の循環流通を分析したが、ここでまず回転期 を想定しているので、家計部門は所得をすべて消  間は3カ月と変わらないが、所得期間が2分の1 費するから貯蓄が銀行に預けられるということは  カ月に短縮されると貨幣の循環流通がどのような 起こらない。生産者や企業は生産継続のための追  変容を受けるか考察しよう。

加資金を節約しようと掛売り掛買いをおこなうと   各生産部門における手元貨幣量および流通貨幣 うことを根拠に、銀行は生産者の出納業務を代行  量は表2のようになるであろう。所得期間が2分 する。生産者と違って賃金として現金を受け取り、  の1カ月に短縮されると、3カ月の生産期間に賃 それを支出する家計部門には商業信用の必然1生は   金が6度支払われるから、所得期間毎に銀行の窓 ないから、家計部門が銀行と取引して出納業務を  口から流出する現金は1,000から500に減少する。

表2

所得期間 1  首 1  末 II  末 HI  末 w   末 V   末 VI  末 皿   首 田   末

第 1部門

2,000

1,666÷ 1,333÷

1,000

666÷ 333÷

0 2,000

1,666÷

第II部門

1,000

833÷ 666÷ 500 333÷ 166÷

0

500 333÷

(売上金) 500

1,000 1,500 2,000 2,500

500

手元貨幣

2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500 2,500

流通貨幣

5⑪0

500 500 500 500 500 500

(8)

以前は1,000の貨幣が銀行の窓口で流出入を繰り  現金で支払われる代わりに家計部門の預金口座に 返したが、いまでは500の貨幣が流出入を繰り返   振り込まれるが、以前と同様に生産者が賃金を1 す。それに対して、生産者全体の手元貨幣は2,000  カ月毎に支払うという支払慣習は変更されていな から2,500に増加している。ところで、それぞれ   いので生産者の投下する貨幣量は3,000と変わら 生産が継続される表1の所得期間】V首と表2の所   ない。ただ銀行の貨幣取扱業務という技術的操作 得期間孤首の貨幣量を比較してみると、表1のIV  によって貨幣の所得流通速度が高められるのであ 首では生産者の手元貨幣はゼロであったが、表2   る。すなわち、給料日に賃金が家計部門の預金口 の靱首では第II部門の生産者の手元に500の貨幣   座に振り込まれると、当日もしくは翌日にはCD が残っているのが分かる。すなわち、後者の表2  やATMから現払いされるであろう。しかし、一 皿首の500は必ずしも必要としない貨幣なのであ  般的に一度で全額引き出されることは稀であろう。

る。所得期間が短縮されることで、生産者の手元  実際には何度かに分割して引き出される。そこで、

貨幣が2,000から2,500に増加したように見えたが、  一度に引き出される平均金額は賃金の2分の1と 実はそのうち500は不必要な貨幣であった。所得   し、1カ月に2度引き出されるものと仮定しよう。

期間が短縮されると流通貨幣量が縮減されるだけ   するとさきの表2で分析したと同じ貨幣の循環 でなく、生産者による投下貨幣量も縮減されるの  流通が見られる。すなわち、2分の1カ月毎に500 である。生産期間が変わらず、所得期間が1カ月  の現金が銀行から流出してふたたび還流するとい から2分の1カ月に短縮されると、投下貨幣量は  う運動を繰り返し、生産者全体の最低預金残高は 3,000から2,500に減少し、流通貨幣量も1,000か  2,500になる。しかしながら、この預金残高2,500

ら500に減少する。そこで投下貨幣量を2,500とし  のなかには不必要になった貨幣500が含まれてい て貨幣の運動を示したのが表3である。      る。支払慣習が変更されて賃金が実際に2分の1

所得期間の短縮によって投下貨幣量が縮減され   カ月毎に支払われている訳ではないが、銀行の貨 表3

所得

期間

1 首

1 末

II 末 III 末 w 末 V 末 w 末 粗 首 可 末 皿 末 皿 末 X 末 XI末

XII末

第1部門 2,000 L666÷ 1,333−} 1,000

666号 333÷ 0

2,000

1,666÷ 1,333÷

1,000

666÷ 333÷ 0

第II部門

500 333÷ 166÷ 0

一16暗

一333÷

一50⑪

0 一166号 一333÷ 一500 一666÷ 一833寺

一1,000

涜上金) 500

1,000 1,500 2,000 2,500

500

1,000 1,500 2,000 2,500 3,⑪00

手元貨幣 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,⑪00 2,⑪00 2,000

流通貨幣 敦)0

500 500 500 500 500 500 500

50⑪

500 500 500

るのは所得期間が短縮されると貨幣の所得流通速   幣取扱業務によって貨幣の所得流通速度が実際に 度が高まるからである。所得期間が1カ月の場合  高められて余剰現金が析出されたのである。所得 には1,000の貨幣が1カ月毎に回転していたが、  期間は変わっていないので生産者は表2で見たよ 所得期間が2分の1カ月に短縮されると貨幣の回  うに従来どおり3,000の貨幣を投下しなければな 転速度が2倍になるので500の貨幣で十分となる。  らない。給与振込という貨幣取扱業務の単なる技 その結果、生産者によって投下される貨幣量は   術的操作によって、銀行は貨幣の所得流通速度を 2,500に縮減されるのである。所得期間の短縮と  高めて流通貨幣を500節減する。その結果、貨幣 いう支払慣習の変更に伴う投下貨幣量の縮減とい   500が遊離される。この遊離貨幣は半永久的に自 うメリットは生産者自身が享受することになる。  由になる貨幣であり、貸付資金として利用される

そこで問題は給与振込による事実上の所得期間  ならば、貯蓄はゼロと想定されているのでインフ の短縮である。給与振込によって給料日に賃金が   レ的資金になる。

(9)

振替的信用創造と現金的信用創造       6g

銀行はこのようにして析出された遊離貨幣500  延べられるのが貯蓄の形成である。この貯蓄が金 を自由に貸出資金として利用することができる。  融仲介業務をおこなう銀行に流入し、それが投資 これを銀行による「現金的信用創造」と呼ぶこと  資金とし貸し出される。そこで貯蓄と投資の過程 にする(29)。これまでの叙述からも明らかなよう  を媒介する金融仲介業務とさきのIII節でみた銀行 に、銀行による「現金的信用創造」は「振替的信   の貨幣取扱業務にもとつく余剰現金の析出との相 用創造」のように不断におこなわれるのではなく、  違を考察しよう。

給与振込が普及してしまうと不可能になる一度か   信用を前提にした銀行の貨幣取扱業務による余 ぎりの信用創造である。したがって、「現金的信   剰現金は、各生産者によって所得期間毎に賃金と 用創造」は銀行にとって重要ではあるが本来的な  して支払われ、第II部門の生産者の消費財の売上 信用創造ではない。銀行にとって本来的な信用創   代金として還流してくる貨幣1,000が、銀行窓口 造は「振替的信用創造」である。         での流出入を繰り返す過程で析出される一時的な 遊休貨幣であった。さきの数字例によると、第II V.金融仲介業務と貸出資金       部門の生産煮の毎月の売上代金は1,000であるが、

以上ではもっぱら貯蓄なき静態循環を想定して  そのうち333÷は賃金の支払いに用いられるので 再生産における貨幣の循環流通の考察を進めてき  毎月預金残高が666÷ずつ増加し、3カ月後には た。そこでは再生産における貨幣の循環流通にの  預金残高は2,000となった。やがて手形満期日が っとって銀行は不断に「振替的信用創造」をおこ  到来する預金残高と手形債務が相殺されて預金残 なうという静態循環における銀行固有の機能と  高はゼロになる。これを図示すると図1)ように

「現金的信用創造」とが解明された。最後に貯蓄  なろう。

の存在する動態循環における銀行の仲介機能を考   m節で考察したように、銀行の庫内で三形満期

察しよう。貯蓄はそれ自体は需要の減少であるか   図1       馬

ら、投資でもって需要が補充される必要がある。

黒字部門から驕を吸収して赤字部門1・投資資金 蓼 を貸し出す。貯蓄と投資の過程を媒介する業務を   残       高 燉Z仲介業務と呼ぶ。ここでは議論を簡単にする

ために、銀行がもっぱら金融仲介業務をおこない、

家計部門が黒字部門を代表し、貯蓄はもっぱら家 計部門からでてくると仮定し、所得は現金で直接 支払われるものと想定する。

家計部門が所得の一部を消費せずに貯蓄するこ とは、銀行の窓口から流出した貨幣の一部が売上 代金として銀行に還流してこないということを意

味する。いま所得期間を1カ月とすれば、消費と

債務期間

時間

して支出される所得貨幣は1カ月以内に銀行に還

流してくるから、貯蓄は所得期間の1カ月を超え  日まで毎月666÷の現金が一時的に遊休するので、

て支出されない所得である。1カ月の所得期間に  銀行はそれを第1部門の生産者による預金の現払 わたって支出するために、さし当たり家計の手元   いに用いることができた。また、図1から明らか に留まっている所得の貨幣形態と将来の支出に備   なように、第II部門の生産者による預金の平均滞 えて消費を断念した貯蓄の貨幣形態を分ける基準  留期間は手形期間の2分の1である。預金の平均 は所得期間である。所得期間を超えて消費が繰り  滞留期間は商業信用の期間に依存している。ここ

(10)

から銀行預金の短期的性格や銀行信用の短期金融  創造における支払準備率は基本的に回転期間と所 原則がでてくるのである。       得期間の乖離によって規定されたが、金融仲介業

それに対して、貯蓄を媒介する金融仲介業務に  務における支払準備率を規定する要因はそれらと よって析出される貸出資金は必然的に長期資金に   はまったく違っている(3°)。

なる。金融仲介機能として資金転換機能が挙げら   すなわち、図2から分かるように、金融仲介業 れる。つまり、小口資金を集めて大口資金に転換   務における支払準備率を規定する要因は貯蓄預金

したり、短期の資金を繋いで長期資金に転換する  の預入期間と貯蓄預金の重複率である。いま貯蓄 機能である。金融仲介業務をおこなう銀行は、た  預金の重複率を一定とすれば、貯蓄預金の預入期

とえば一定期間の定期預金を組み合わせることで、  間が長期になればなるほど支払準備率が低下する その定期預金の期間からまったく離れて長期の貸   ことになる。したがって、金融仲介機関にとって 出資金を作りだすことができる。それを図示した  は、長期のそして大口の定期預金ほど手数がかか のが図2である。       らず支払準備率が低下するので経営上有利になる

定期預金を繋いで長期の貸出資金を形成するた   ということが理解される。さらに期間や満期日が 図2       区々の貯蓄預金を多く集めてできるかぎり無駄の ないように預金を繋ぐと支払準備率が引き下げら 預       れる。

早@      さらに金脚僕務によって生みだされる貸出

高       資金は長期性の資金であるという点が重要である。

さきの図1でみた銀行の貨幣取扱業務による余剰 貨幣は滞留期間の短い遊休貨幣であった。それに

預入期間      時間   な遊休貨幣との決定的な相違である。しかしなが ら、この金融仲介業務による長期資金は、貯蓄に めには支払準備が必要になる。つまり、定期預金   よって生まれた資金であるから銀行の「現金的信 の解約日と新規定期預金の契約日がたまたま合致  用創造」による資金と違ってインフレ資金ではな したとしても、定期預金の解約が新規契約の後に   い。金融仲介業務による長期貸出資金の形成は銀 なるという必然性はどこにもないのである。さら  行の「振替的信用創造」ならびに「現金的信用創 に定期預金の解約日と新規契約日を一致させるこ  造」と峻別されるのである。

とはそれほど容易ではない。いずれにしろ解約日

と新規契約日のタイムラグを繋ぐための資金とし  VI.まとめ

て支払準備が必要になる。この支払準備の定期預   再生産における貨幣の循環流通の特質は回転期 金残高に対する比率は金融仲介業務における支払   間を考慮に入れることで明らかにされた。流通に 準備率である。この支払準備率が低いほど経営上  投下された貨幣は即座にその出発点に還流するの 有利であることは容易に理解される。この比率は  ではなく漸次的に還流してくる。その結果、流通 金融仲介業務を営む金融仲介機関の経営にとって   に投下された貨幣の一部は常に生産者の手元で遊 重要な数値である。さきの銀行による振替的信用  休し、一部の貨幣のみが所得の貨幣形態と資本の

(11)

振替的信用創造と現金的信用創造       71

貨幣形態を繰り返しながら実際に流通する。この   乃4θ4忽侃1B7%g6s,New York,1948.

ような貨幣の循環流通と商業信用を前提にして、   Richards,R.D.,丁加E8吻田∫ oηげBα%々」ηg鋭 銀行は貨幣取扱業務と信用業務を併せおこなって   Eηg1αη4,New York,1695.

信用を創造する。銀行による「振替的信用創造」   ②川合一郎『川合一郎著作集・第6巻・管理通貨と である。       金融資本』有斐閣、1982年、94〜95頁。

銀行による貨幣取扱業務の対象はもっぱら生産  (3)Withers,H,,7劾躍6磁ηg(ゾ1吻η6y,London,1919,

者や企業の出納業務であったが、情報通信技術の   p.24.

革新によって銀行は家計部門の出納業務も代行す  (4)Pressnell,L.S,Co%η砂B僻伽8加伽1擁πs 磁1 るようになった。家計部門が銀行と普通預金取引   1〜6001擁oη,London,1956.

をおこなうようになると、賃金の現金払いに代わ  (5)Mints,LW.,.4躍秘oη・(ゾBαη伽gη280秘Chicago,

って給与振込が普及する。給与振込によって貨幣    1945,pp.25〜26.三橋昭三・望月昭一訳『銀行理 の所得流通速度が高められ銀行に遊離貨幣が生み   論の歴史(上)』成文堂、1975年、27頁。

出される。銀行はこの遊離貨幣を貸し出すことが  (6)Mints,op.cit., chapter 6、前掲訳書、第6章.

できる。銀行による「現金的信用創造」である。  (7)Ibid., pp.178〜179.

銀行はさらに貯蓄を媒介する金融仲介業務もお  (8)De Roover, op.cit。pp.305〜310.

こなう。短期で小口の貯蓄を金融仲介業務によっ  (9)一覧払債務でもって貸付をおこなう銀行が手形交 て長期の大口資金に転換する。この金融仲介業務   換所とインターバンク市場からなる銀行組織を構 における貯蓄預金残高に対する準備金の比率は銀    築する必然性については、拙著『銀行組織の理論』

行の支払準備率と形式的には区別がつかない。ど   同文舘、近刊、第3章を参照。

ちらも部分準備(fractional reserve)の形態を   ⑩田中生夫、前掲書、9頁。

とる。       (11)Cameron, R., Bαπ屠ηg加  加Eα吻S ¢g6s(ゾ したがって、銀行の特質を部分準備に求める見   1%4嘘磁」ガgα 加,New York,1967, pp.30〜31.

解からは、銀行の「振替的信用創造」と金融仲介   (12鷹見誠良『日本信用機構の確立』有斐閣、1991年、

機能を区別することはできない。銀行の本質的機   130〜132頁。

能を明らかにするには、再生産における資金循環  (1紛Macleod,H.D.,η367劾oη研4 Pzα6 舵(ゾBαη々伽畠 の構造にまで分析を掘り下げる必要があった。そ   6th ed.,1902{1st ed.,1858}voL,p.326, p.330.

れによって銀行による「振替的信用創造」と「現  (14)Leaf,W., B侃々碗g, London,1926. pp.101〜102.

金的信用創造」の区別、さらに金融仲介機能との  ⑮Phillips,C。A., Bαη々C76翻,New York,1920.

相違も明らかになった。実際にはこの三つが一体  ⑯シュンペーターの影響を受けて銀行による信用創 となって銀行の資金源泉を構成している。しかし   造を極端に強調するA.ハーンのy∂廊ω撚01瞬1比勉 資金源泉を区別することなしには銀行や金融仲介    丁肋o漉46sβαη勲紹ゴ薦,1920(大北文次郎訳『銀 機関の経済的作用を正しく理解できないであろう。  行信用の国民経済的理論』実業之日本社、1943年)

の出版によって、ドイツ語圏においても銀行信用

(注)      をめぐる論議が沸騰し、その後は貨幣および信用

(1)田中生夫『イギリス初期銀行史研究』日本評論社、   に関する文献でハーンの所説に言及しないものは 1966年。       なかったといわれる(上記訳書における大北氏の

Usher,A.P., The Origins of Banking:The   解説)。

Primitive Bank of Deposit,1200−1600 ,71勉   (1のGueley,J.G. and ShawE.S.,ルfo履y伽α丁肋oリノ(ゾ

E60ηo珈6躍s納ノ1〜θ漉ω,Vol.4, Apri1,1934.     F伽απ66,Washington,1960. Tobin,J,,Commercial

De Roover,R.,ル10解y,8α嘘加gα厩α6伽珈    Banks as Creators of Money,in B侃ん勿g侃4

(12)

忽oη磁刎S %砒sβdおyCarsonn, Homewood,1963.   伽これについては、川合、前掲書、88〜96頁を参照。

⑯フィリップスの信用創造論の問題点については、   ㈱ワグナーによると「振替的信用創造」は一時的な 拙著『銀行組織の理論』第7章を参照。        現金余剰が融通される静態的現金余剰信用である

⑲以下の再生産における貨幣の循環流通に関する叙   から信用創造はおこらないという(Wagner,a.a.0.,

述は、拙著『銀行組織の理論』第1章第3節の要    S.140,S.154〜157)。ワグナーの信用創造論につい 約である。      ては、拙著『銀行組織の理論』第6章を参照。

⑳たとえば、アムステルダム銀行(1609年設立)は  ㈱Wagner, a.a.0.,S.208.

為替手形の売買をおこなわず、法律によって個人   ⑳ワグナーは銀行の貨幣取扱業務による現金余剰を への信用供与が禁じられていた(De Roover, op.   動態的現金余剰と静態的現金余剰に二分している cit. p.351)。ただし、実際にはアムステルダム銀   (Wagner, a.a.0.,S.138〜140)。ワグナーによる動

行は貸出業務をおこなっていたといわれる   態的現金余剰は本稿での遊離貨幣に対応し、静態

(Kirshner,J.(ed.),β癬η6∬,.8朋伽g,   的現金余剰は一時的な遊休貨幣に対応している。

αηゴE60η0謝67劾πg玩加L碗ル観∫卯α1α雇    ワグナーは動態的現金余剰による「現金的信用創 Eα7砂 ル勿4θ7η Eπ70ρθ一Sθ1θ6彪4S伽漉68(ゾ    造」こそが銀行による本来の信用創造であると主 Rの御oη41)61〜ooθ6γ一, Chicago,1974. p.227)。   張し、静態的現金余剰による「振替的信用創造」

⑳中世ヨーロッパにおける前期的預金銀行では口頭    との相違を強調している。その主張の正否はとも による振替がおこなわれ、16世紀まで文書による   かく本稿で明らかにしているように、動態的現金 振替は限定されていたという(Usher, op. cit.,   余剰と静態的現金余剰の区分は正当である。

p.410)。      ㈱情報通信技術の革新にともなう給与振込制の導入

⑳中世の帳簿振替制度に関しては、ド・ルーブァー    については、拙著『銀行組織の理論』第8章を参

の叙述(De Roover, op.cit., pp.261〜262, p.272)    照。

を参照。      ⑳ワグナーは動態的現金余剰による信用を動態的現

㈱銀行の貨幣取扱業務にもとついて析出される貸付    金余剰信用もしくは「現金的信用創造」と呼び、

可能な現金貨幣をV.ワグナーは現金余剰(Kassen   本来の信用創造としている(Wagner, a.a.0.,S.

一UberschUsse)と呼んでいる(Wagner,V.E,(込6痂6肋    155)。

46γκ解4薦舵o卿η,Wien,1937, Neudruck,1966,  ⑳銀行における支払準備率を規定する再生産的要因 S.118〜122)。さらにワグナーは その現金余剰を   については、拙著『銀行組織の理論』第6章を参 動態的現金余剰と静態的現金余剰とに区分してい    照。

る。注27も参照。

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