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「年功賃金」の構造

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(1)

神谷:「年功賃金」の構造      1

「年功賃金」の構造

神 谷 拓 平

はじめに

わが国の雇用慣行ないし労使関係の特徴として終身雇用と年功制度が折出さ れて以来,経済環境が変化するたびにその崩壊が叫ばれてきた。60年代の急速 な技術革新においてしかり,70年代の低成長・高齢化においてしかりである。

とりわけ年功制度の中心をなす「年功賃金」がやりだまにあげられてきた。し かもそのたびに言われたことは,その崩壊を論じるにしても存続を論じるにし ても年功賃金の何たるかが明確にされなければならないということであった。

しかしその課題が十分に達成されてきたようには思われない。

この研究ノートの目的は,年功賃金の決定における年齢要素および勤続年数 要素の意味を再検討するための若干の資料を提示して,年功賃金に関するこれ

までの仮説や通念の問題点を指摘することである。とはいえ今の段階では資料 の提示に主眼をおかざるを得ない。

まず経験的データを提示することからはじめよう。

1 年功賃金における年齢要素と勤続要素 a 製造業賃金の数量化1類による分析

表1 製造業男子所定内賃金(59年)の数量化1類による分析 高   校

大 学 卒 生産ガ 者 生産労  者

年 齢 102.9 (84.3) 61.0 (45.0) 27.6 (28.7)

勤 続 19.2 (15.7)   74.5 (55,0), 一 } 一 響 一 胃 一 } 一 瞠 一 一 一 一 一 齢 舳 ・ 隔 辱 一 , 冒 一 一   68.7 (71.3)一 一 ■ . . 一 一 帰 騨 一 曽 一 ロ 圏 一 一 一 咀 冒 冒 一 騨 } 一 一 一 一

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70.7 (69,1) 59.8 (58.7) 36,9 (40.0)

勤 続 31.6 (30.9) 42.1 (41.3)       騨  55.4 (60.0)一 __ 一一 一 璽 } , r 一 騨 一 曽 一 一 一 一 國 冒 圃 一 一 冒

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202.8 D985 年 齢 57.3 (61.5) 58.3 (60.9) 40.1 (49.9)

Ol九

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@  241.5

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@  203,7

R究

.961 .983 .979

(2)

表1は製造業男子大卒およぶ高卒者の賃金にっいて,規模,学歴,職種別に 数量化1類の手法によって,それぞれの賃金決定要素として年齢と勤続年数が どれだけの重みをもつのかを推定した結果である。表の数値は年齢,勤続とい う各アイテムのレインジをコンスタント・ターム(表にはα聡 で示してある)

で徐したもの,( )内の数値は2つのアイテム・レィンジの合計に対する各 アイテム・レインジの割合である。これによって,年齢および勤続年数それぞ れの差異によって賃金にどれだけの違いが生じるか,逆にいえば各カテゴリー 内の賃金の差異に年齢,勤続がどの程度影響するかが分り,カテゴリー間の比 較が可能になる。ただし推計にあたって労働者数のウエイトはかけてない。水

準の比較ではなく構造の比較においてはその方が適当であろうと考えたためで ωある。表から次のような事柄が分る。

①大卒の賃金を決定する要素は圧倒的に年齢であり,これに対して高卒生産 労働者では勤続年数が主な決定要素になる。高卒事務労働者の賃金は両者の中 間としての特性を示す。

②規模間の比較をすると,高卒労働者の場合には小規模になるほど年齢要因 のウエイトが増大するのに対し,大卒賃金では逆に勤続要素のウエイトが増加

する。

③各学歴,職種を通じて大企業(1,000人以上)と中企業(100〜999人)以下 との間に賃金決定要素の特徴にやや開きがある。

ところで,こうした加工数値だけでは意味がつかみにくいかも知れない。そ こで年齢と勤続のきき方が対極のパターンを示す大企業の大卒事務と高卒生産 労働者の年齢・勤続別賃金および小企業生産労働者のそれを図示すると図1の ようになる。この図では縦軸(対数目盛)に所定内賃金額を,横軸に勤続年数 をとり,勤続年数別賃金が年齢階層別の折れ線で示してある。したがって各折 線の右端をっなぐ曲線を想定すれば,それが標準労働者の賃金プロフィルであ

る。

さて,とくに中高年齢層に着目しながらこれらを比べると,年齢要素と勤続 要素のきき方に関して図2のような模型が描けることが分る。すなわち図2の Aは賃金が全く年齢だけによって決まる場合であって,各年齢階層の賃金は横 軸(勤続年数軸)に平行な直線となる。逆にBは勤続年数のみで賃金が決めら れる場合で,軸に対して傾斜をもった直線(曲線でもよい)になり,全年齢階 層のそれが一本の線にまとまる。現実の賃金はこの両極の間にプロットされる

(3)

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(4)

図2

A 年齢賃金     B 勤続賃金     C

金↑

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   ノ

P     〆

1   7

勤続→

ことになるが,その形状と年齢(勤続)要素のウエイトとの関連は,線分の傾 きと年齢階層間の距離に関係している。たとえば図1の生産労働者賃金の規模 間比較からわかるように,傾きが小さく年齢格差が大きいほど年齢要素がしめ

るウエイトが高くなる(図2−C)。

b 労働白書の分析

ところで,さきにも断ったようにこの計測では労働者数で加重していない。

もしそうすれば,当然,勤続要因がもっときいてくるはずである。標準労働者 の多い大企業ほど,また大卒者ほど勤続要因の相対的重要性はこの推計より大

きな値になろう。あるいは大卒者においても勤続年数効果が年齢効果を上まわ るかも知れない。

しかしながら,推計の方法こそ異るものの,労働者数によって加重したうえ でわれわれの計測と類似の結果を得た分析もある。r労働白書』(54年版)({る 推計がそれであるが,推計の手続きについては原文によってもらうこととして,

ここには結論のみを掲げておこう。図3は労働省の推計から,製造業男子標準 労働者について,月間所定内賃金をW,勤続年数の効果をゼロと仮定した場合 の賃金(賃金のうちの年齢効果分)を鴨陣齢の効果をゼ・とし腸合の難

(勤続年数効果分)をWsとして,規模・学歴・職種別に図示したものである。

ここから次の点が指摘できる。①事務労働者においていずれの規模,学歴で も年齢効果が勤続効果を上回っており,とりわけ大企業大卒労働者では年齢効

(5)

神谷:「年功賃金」の構造      5 図3 賃金における年齢および勤続年数の評価(標準労働者)

賃500 大企業・生産労働者   500 大企業,事務労働者   500 大企業・事務労働者

(高卒) (大卒)

400 400 400

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小企業,生産労働者      小企業,事務労働者      小企業,事務労働者

(高卒) (大卒)

300 300 300

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出所 労働省編『労働白書』昭和54年版,日本労働協会,1979年,101頁。

(注) 本文参照。なお横軸上における上段の数値は年齢,下段は勤続年数である。

(6)

果が傑出している。これに対して,②生産労働者の場合には年齢効果と勤続効 果がほぼ等しく,高齢になると勤続効果が年齢効果を上回りさえする。つまり,

事務労働者に比べて勤続効果が相対的に大きい。また,③規模別にみると,大 企業では職種にかかわらず勤続による賃金の上昇が大きくかつ高齢になっても 続く。一方,年齢による上昇は事務労働者でこそ勤続による上昇よりもかなり 大きくかつ高齢になっても続くが,生産労働者ではそれは勤続による上昇と同 程度の上昇であり,しかも40歳以降ははっきりと頭打ちになる。したがって,

年齢および勤続の効果という点からみた製造業大企業における労職の賃金の違 いは,主に年齢要因のきき方にあるとみるべきであろう。さらに④小企業にっ いてみると,勤続効果は大企業のそれと比べて小さいながらも同じパターンで あり,大企業との差は事務労働者においても年齢効果が40歳代半ば以降頭打ち になる(やがて低下すらしている)という点にある。生産労働者では,勤続効 果がかなり小さいうえに年齢効果の頭打ちが30歳代半ばで表われることが事務 労働者との違いとなっている。

ここには,年齢効果のパターンの規模・職種による違いというわれわれの推 計では得られなかった重要な論点が含まれているが,さしあたり,労働者数を 加味しても,学歴が高いほど年齢効果が大きく勤続効果を上回り,大卒者につ いては規模が小さいほど年齢効果の比重が下がるという結果が,われわれの推 計のそれと一致していることを確認しておこう。生産労働者については,勤続 効果がわれわれの推計から想像されるほどには強くないにしても,図から,や や微妙ながら,小規模ほど年齢効果の比重が大きいという点も指摘できよう。

このことから,労働者数ウエイトをかけなくてもそのことに留意するならば 大筋において基本的な特徴はとらえられるとみていいように思われる。そこで,

こうした計測を他の主要な産業にも拡大してみよう。

c 第3次産業賃金の分析

表2は,卸・小売業,金融・保険業,サービス業の大卒および高卒労働者に っいてやはり数量化1類によって賃金における年齢,勤続要因のウエイトを推 計した結果である。ここから次のような点が指摘できる。

①総じて規模が小さくなるほど年齢要因のウエイトが高まる。これは製造業大卒 者の場合と逆になっている。むしろこれまで検討した製造業大卒の賃金構造が特 殊であるといえるかもしれない。あるいは第二次産業と第三次産業の違いであ ろうか。②大卒労働者について産業による差をみると,一般的にいわゆる官僚

(7)

神谷:「年功賃金」の構造      7 表2 第三次産業男子所定内賃金(59年)の数量化1類による分析

卸。小売業 金融・保険業 サービス業

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101.8 (77.0)

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@ 308.1

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32.6(24.4) 35.7(22.9) 32.2(24.5)

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99.2(75.5)

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人上 R2 .910 .980 938

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@ 266,8

@  .856

53.2 (51.5)

T0.1(48.5)

@217.0

@.960

制的年功的組織の典型と目されている金融・保険業大企業で勤続要因のウエイ トが最も高く, 「年功賃金=勤続によって決定される賃金」という定義によく あてはまる。卸・小売業大企業の場合もこれに並んでいる。それに対してサー ビス業大企業では年齢ウエイトが高く製造業大企業のそれに近い。1000人未 満規模ではこれら第三次産業の大卒者賃金は全体として年齢要因のウエイトが 非常に高く,製造業のそれを上回っているカ㍉とりわけサービス産業で年齢ウ エイトが傑出している。③高卒者の場合には,要因ウエイトの水塗規模によ るその変化ともに製造業生産労働者のそれとほとんど同じと言ってさしつかえ ない。これら第三次産業の高卒労働者には管理・事務・技術労働者ばかりでな く・いわゆる現業部門の労働者が多く含まれるためであろう。そして,④のい ずれの産業・規模についても大卒より高卒者の賃金の方が勤続ウエイトが高い。

(8)

2 既存の仮説と通念

これだけの材料がそろったうえで,上記のデータに照して,年功賃金に関す る既存の仮説と通念について検討してみよう。

わが国の賃金がなぜ年齢や勤続によって上昇するのかを説明する仮説には種 々のものがあり,その主要なものとして,

①日本的熟練仮説

②職務遍歴仮説(独占大企業仮説)

③生活費保障仮説(過剰労働力仮説)

があげられ親加えて,これらを補足する仮説として,定着・企業忠誠心促進 仮説,伝統的価値観仮説などをあげておかなくてはなるまい。もちろんこれら の仮説は互いに排他的なものではなく,論者によってどの点を強調するのかに 違いが出るということである。いずれの仮説を強調するかによって,年功制成 立の条件の把握や変化の展望が異ってくることはいうまでもない。ここでは年 齢要因,勤続要因の意味の把握ということに焦点をしぼって検討していく。

さて,たとえば孫田良平氏によれば,年功賃金とは「ある企業の中での価値 基準で,年功さえ積めば(年齢と勤続年数の一方か双方だけの要因で)昇給さ ケていく」鞭と定義され魂同氏が別の箇所で「つまり役職や辮制度など の仕事と能力に無縁で賃金を増していく制度」と述べているように,この定義 は,勤続(年齢)一職階上の地位・能カー賃金という関連を排除している 点でごく限定された定義であり,それではなぜ勤続・年齢によって賃金をあげ

るのかについてはいわゆる生活保障賃金仮説で説明することになる。

孫田氏の定義のもう1つのポイントは,賃金の上げ方の基準が企業ごとに決 められており,社会的通用性をもたないという点にあるが,年功賃金の基本が 生活保障であるとすればそれがなぜ企業ごとに別々の基準であるのかが説明で きない。ここで「企業ごと」が強調されるのは,日本的雇用慣行のもう1つの 柱である終身雇用一欧米に比べてきわめて低い転職率一との関連を無視し ては年功賃金が論じられないためであり,この点を孫田氏は「日本的賃金の第 1の特色はrわが社限りの勤続年数』を評価することであって,年齢は副次的 要素」と表現する。とすると,勤続よりもむしろ年齢に親近性をもつ(はずで ある)生活費保障仮説はあやしくなり,勤続と能力との関係を排除した定義を 下すいじょう,勤続の評価は定着促進,企業忠誠心促進のためと説明せざるを

@   ⑥ヲなくなる。

(9)

神谷:「年功賃金」の構造      g 逆に,勤続(ないし年齢)と能力とを対応させ,その能力にみあった賃金が 支払われるため「年功的」な賃金上昇になるとするのが,日本的熟練仮説と職 務遍歴仮説である。60年代以降の技術革新の結果,現在の年功賃金を説明する うえでは日本的熟年仮説はもはや用いられない。職務遍歴仮説のポイントは,

技術革新によって個々の職務は単純化するけれども,各工程の関連が強まるた め組織された工程内(場合によっては工程間)を遍歴することによって労働者 の(知的)熟練が長期に高められること,工程の編成は企業それぞれ独自のも のであり,得られた熟練は他の会社に移れば同じ経験年数のものとしては評価        ⑦

ウれないことの2点である。この仮説でも当然,勤続年数こそが年功賃金の主 要素とみなされる。

いずれにしろ,勤続年数を年功賃金の基本とみる点でこれまでの多くの仮説

は一致している。このことから,勤続年数によって上昇する賃金を狭義の年功       ⑧

賃金としておこう。この制度的表現は定期昇給制度によって与えられる。これ に対して,賃金一年齢プロフィルにみられるように,年齢と勤続の複合によっ てともかくも上昇していく賃金を広義の年功賃金とする。

そうすると,年功賃金に関するこれまでの通念の多くはこの広義の年功賃金 のイメージによるものであって,それと年功を説明する仮説の基礎となってい る狭義の年功賃金との関連,つまり通念と仮説との関連は必ずしも厳密には把 えられていなかったことが分る。

ここで通念というのは,①女子よりも男子,②低学歴者よりも高学歴者,③ 生産労働者よりも事務労働者,④中小企業よりも大企業の方がより年功的だと いう理解の仕方である。加えて,⑤大企業と中小企業の賃金格差は年齢,勤続 をコントロールすればほとんど解消するという通念もある。

①〜④の点について,賃金一年齢プロフィルで,つまり広い意味の年功賃金 という目でみれば,いずれも当を得ていることは種々の統計が示すとおりであ る。しかし説明仮説のレベルでは,たとえば③の事実は職務遍歴仮説によって つぎのように説明されてきた。生産労働より事務,管理労働(とりわけ大卒者 のそれ)の方が深い熟練を要するし,労働者が勤続によってそれも身につける から賃金より多く上昇する。また④のように大企業の方がより年功的であるの も,やはり大企業の方が職務遍歴によってより長期間をかけてより深い熟練を 獲得するためであるとされる。いずれについても仮説として完結するためには 事務労働者の方が,そして大企業の方が企業ごとの熟練形成,したがって勤続

(10)

に結びっいた賃金(狭義の年功年金)という実態が示されなければならない。

      ⑨

@の通念にっいてはここではふれないが,さきに示したデータからは,②〜

④のいずれの通念も,それを仮説によって示されるような狭義の年功賃金とし て解すべきだとすれば,多くの場合逆転させなければならないことになる。低 学歴ほど,生産労働者の方が,小規模ほどより勤続要素がきくという意味で年 功的である。もしくは,佐野教授のように,「年功のエッセンスは勤続年数よ

り年齢要素と関係が深い」と解することによって通説の表現を維持するかであ る。どちらにしろ,年功賃金と終身雇用との関係は論理的にはもっと稀薄にな らざるをえない。狭義の年功賃金として定式化した場合には一般的に年功的で あるほど労働者の移動が多いという経験的事実があるからである。また,年功 の基本を年齢要素と関連づけるとすれば,もちろん産業間,規模間,職種間の 賃金格差などの要因が関係するため一概にはいえないとしても,やはり年功賃 金の定着促進作用は低下すると考えざるをえないからである。

ともあれ,佐野教授の言うように,年齢要素の意味があらためて吟味されね ばなるまい。そのうえで年功賃金とは何かがあらためて定義しなおさなければ ならないし,仮説の再構築が必要になろう。

同様に⑤の通念についても,規模別賃金格差における年齢要素の比重がこれ まで以上に考慮されなければならないように思われる。たしかに,中小企業中 高年齢者の平均勤続年数は大企業のそれより短いのは事実であるが,仮に同じ 年齢・勤続構成だとしても賃金格差は残るのであり,労働省の分析に示される ようにその要因はどちらかといえば年齢要素によるところが大きいといえそう だからである。さらに年齢要素と生活費保障との関係の再吟味も必要であろう。

中小企業労働者にあっては,50代前半という最も家計支出が膨張する時期に年 齢効果のウエイトが減少するからである。

3 (付論)賃金構造の推移

これまで賃金統計による賃金構造の変化の検討といえば,賃金一年齢プロフ イルの形状(傾きや頭打ちの有無など)の変化や比較から年功賃金の存続や消 滅,存化の有無を論じるものがほとんどであった。その意味では広義の年功賃 金イメージに依拠していたものといえる。しかし,そこには絶えず,年功賃金 制度として見るか実態としてみるか,あるいはプロセスを重視すべきか賃金一 年齢プロフィルに表われる結果を重視すべきかといった立場の違いが表われ,

(11)

神谷:「年功賃金」の構造       11 程度の問題を越えるような議論が出てこなかったように思われる。

ここではさきに年齢・勤続一賃金構造を図示したやり方で,これまでとりあ げた対象について昭和42年,52年,59年の3時点を図示することで賃金構造の 変動方向を読みとろうとした。資料は文末に一括したカ㍉紙幅の関係から掲げ

る図はタイム・トレンドが比較的読みやすいカテゴリーについてのみである。

製造業・大規模・大卒(図3−1)……年を経るごとに勤続格差が縮まり,年 齢別賃金の性格が強くなってきた。

図3−1

    製造業・大企業・大卒万円       万円

50 50

40 40

30 40−49       3

謁r39

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(12)

製造業・小企模・大卒(図3−2)……40歳代層賃金の勤続による上昇が明確 になり(勤続要因による上昇の頭打ち がなくなった),賃金における勤続要 因のウエイトが高まった。(高卒事務 労働者にも同様の傾向が認められる)

図3−2@  製造業・小企業・大卒

万円50

40 40

30 30 4レ4

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(13)

神谷:「年功賃金」の構造      13

製造業・大規模・高卒・生産(図3−3)……30歳以上層の賃金水準がきわめ て接近して年齢格差が減少(年 齢要因ウエイトの減少)。

図3−3製造業・大企業・高卒・生産労働者

万円       万円

50 50

40 40

30 30

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35刷39

20 姫49      20 凝34

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(14)

製造業・中規模・高卒・生産(図3−4)……中高年層で勤続による賃金上昇 の頭打ちが解消され(勤続ウエ イトの増大),また若年層の年 齢間格差が縮小したかわりに中 高年層ではそれが増大した。

(小規模高卒生産労働者にっい ても同様の指摘ができる。)

図3−4

製造業・中企業・高卒・生産労働者

万円       万円

50 5

40 40

30 30

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(15)

神谷:「年功賃金」の構造       15 卸小売・大規模・大卒(図3−5)……年齢階層間格差の縮小,勤続格差の拡

大など,勤続ウエイトの増大傾向が読 みとれる。(あまり明白ではないが中 規模大卒者も同じ)

図3−5

卸・小売業・大企業・大卒

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40 40

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@  20       30

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(16)

卸小売・小規模・大卒(図3−6)……企業にばらつきが大きいためか凹凸や 変化が激しいが,中高年層において年 齢ウエイトの増大傾向が目立つといえ

ようか。

図3−6卸・小売業・小企業g大卒

万円       万円

     50 50

40 40

30 30

35−3

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(17)

神谷:「年功賃金」の構造       17 卸小売・高卒(図は略)……大規模では年齢格差の縮小がみられ,中規模。小 規模では若年層の年齢格差縮小,中高年層でのぞ の拡大がいえる。しかしいずれもそれほど大きな 変化ではない。

金融保険・大規模・大卒(図3−7)……中高年層の勤続格差の凹凸がなくな ってきており,総じて勤続ウエイトの上昇傾向と みられる。

図3−7金融・保険業・大企業・大卒

万円       万円

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4    9    14    19      29      4    9    14    19      29

(18)

金融保険・中規模・大卒(図3−8)……明白な年齢ウエイトの上昇がみられ,

中高年層短勤続者では逆勤続格差

(勤続が短いほど賃金が高い)化す る傾向が出ている。

図3−8金融・保険業・中企業・大卒

万円       万円

50 50

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(19)

神谷:「年功賃金」の構造       19 金融保険・大規模・高卒(図3−9)……中高年齢層の年齢格差の縮小と,高

齢層賃金の勤続による上昇に頭打ち 傾向が出てきた。

図3−9

金融・保険業・大企業・高卒

40 40 40r49

35r39

30 30

20        20

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(20)

サービス業。大規模・大卒(図3−10)……もともと年齢別賃金の性格が強い が,さらに中高年層短勤続者の逆 勤続格差が強まりつつある。

図3−10

サービス業・大企業・大卒

万円      万円40−49

50 50

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30 姻       30

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20 翫〉/       20

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(21)

神谷:「年功賃金」の構造       21      

サービス業・中規模・大卒(図3−11)……明白な逆勤続ウエイトが存在した が,標準労働者層の勤続ウエイト を高めつつある。

図3−11

サービス業・中企業・大卒

万円       万円

50 50

40 40

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(22)

サービス業・小規模・大卒(図3−12)……中高年層短勤続者の逆勤続格差が 弱まってきている。それと同時に 若中年層標準者の賃金の勤続ウエ イトも低下しつつある。

図3−12

サービス業・小企業・大卒

万円       万円

50 50

40 40 4ゆ49

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(23)

神谷:「年功賃金」の構造       23 サービス業・中規模・高卒(図3−13)……中高年齢層を中心に,年齢ウエイ

トの減小勤続ウエイトの増大が 認められる。(大規模についても 同様)

図3−13

サービス業・中企業・高卒

万円       万円 50 S0

30    30

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(24)

サービス業・小規模・高卒(図3−14)……年齢ウエイトの増大傾向とみてい 、 いように思われる。

図3−14

@  サービス業・小企業。高卒

40 40

30 30

20 20

3〔》r34

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(25)

神谷:「年功賃金」の構造       25 以上ごく大雑把にみたように変化の方向は様々であるが,全体としては勤続 年数要因のウエイトを高めているケースが年齢ウエイトを増大させつつあるケ 一スよりもやや多い。しかしそうした変化方向を規模や産業,学歴といったカ テゴリーに結びつけうるような傾向性は見出しがたい。賃金構造の変化に影響 をおよぼす様々な要因と関連づけながら,なお詳細に検討することが必要であ

る。

(注)

1.したがって,コンスタント・タームは当該カテゴリー労働者賃金の加重平均ではな く,これによって賃金水準の比較をすることはできない。

2. 『労働白書』(54年版),参99−101頁。

労働省の分析は,W一月間所定内賃金, A=年齢, S一勤続年数として,

W=σo+σ1A+α2A2+σ3S十〇4S2

という回帰式をカテゴリーごとに推定し,これに年齢,勤続を代入して,年齢要素,

勤続要素の効果を計測しようというものである。

3.図は,水野朝夫「賃金構造」,佐野陽子他編著『労働経済学』,総合労働研究所,

1981年,第4章から借用した。

4.小野旭『戦後日本の賃金決定』,東洋経済新報社,1973年,舟橋尚道「企業内賃金 構造」,同編r日本の賃金』,日本評論社,1967年,第3章,がこうした整理をして

いる。

5.孫田良平『年功賃金の終焉』,日経新書,1978年。

6.もっとも孫田氏はこの点についてはほとんどふれていない。

7.この仮説に対しては,q樋歴は必ずしも技能序列に対応するものではない,(樋肢術 革新によって遍歴にもかかわらず熟練は浅くなっている。{m洞じく企業固有技術の比 重は低下している,といった批判がある。

8,定期昇給制度は中小企業でも8割以上普及しており,勤続によって昇給するシステ ムが一般的である。

9.佐野陽子『賃金と雇用の経済学』,中央経済社,1981年,には「年功要素は男子で 大きく,女子では効かない。勤続要素は男子より女子のほうが効く。」という分析が なされている。

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