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アメリカにおける医療安全と医療事故情報

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(1)

アメリカにおける医療安全と医療事故情報

我 妻   学

一 はじめに

ニ アメリカにおける医療安全

三 一九八六年医療の品質の改善に関する法律

四 おわりに

一 はじめに

1 医療機関における医療事故

 一九九九年一月の横浜市立大学病院での患者取り違え事件︑同年二月の都立広尾病院での点滴ミス事件を契機に︑

医療の安全に対する期待・信頼は大きく傷つけられている︒

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ =二五

(2)

       一三六

 厚生労働省は︑二〇〇一年を患者安全推進年と位置づけ︑医療の安全を確保するために︑医療安全推進室を設け︑

医療機関における安全対策の推進︑ヒヤリ・ハット事例の収集などを開始している︒

 二〇〇三年一二月には︑厚生労働大臣医療事故対策緊急アピールが出され︑医師・歯科医師の資質の向上への取

り組みを推進し︑刑事事件とならなかった医療過誤等にかかる医師法等上の処分の強化を図ること︑第三者機関に

よる事故事例情報の収集分析・提供のシステムの整備︑外部機関による医療機関の評価を充実させることなどの安

全管理対策の推進を指示している︒

 二〇〇五年六月には︑医療安全対策検討会議において︑医療事故の届出に基づき︑中立的専門機関において原因

分析が行われ︑患者等への速やかな説明の実施などによる医療の透明性の確保︑情報共有が図られるとともに︑事

故の発生予防や再発防止に結びつけること︑医療における苦情や紛争については︑裁判所による解決のみではなく︑

医療機関等︑患者の身近なところで解決されるための仕組みと︑それが解決しない場合でも︑裁判外の中立的な機

関で解決を求めることができるという︑連続した裁判外紛争処理制度が確立し︑短期間で紛争が解決され︑患者お

よび医療従事者双方の負担が軽減されること︑事故等の際の補償制度を確立し︑必要な場合には患者等に対する補      ︵1︶償が迅速に行われ︑救済が図られること︑などが提案されている︒

2 ヒヤリ・ハット事例の収集・分析

医事紛争においては︑医療事故の再発防止と患者および患者の家族の救済が不可欠である︒

(3)

 医療事故の再発を防止するためには︑医療機関内部において︑医療事故を収集・分析し︑医療現場の環境を改善

するだけではなく︑全国の医療事故情報を組織的に収集・分析・検証し︑医療事故防止に資する情報が︑医療機関

および国に迅速に共有されることが必要である︒二〇〇四年から︑第三者機関である財団法人日本医療機能評価機

構による医療事故の収集・分析・情報がなされている︒具体的に報告の対象となるのは︑①誤った医療行為等が︑

患者に実施される前に発見された事例︑②誤った医療行為等が実施されたが︑結果として患者に影響を及ぼすに至

らなかった事例︑③誤った医療行為等が実施され︑その結果︑軽微な処置・治療を要した事例である︵ヒヤリ・ハ

ット事例︶︒

 特に︑特定機能病院︑独立行政法人国立病院機構の開設する病院︑学校法教育法に基づく大学の付属施設である

病院︵病院分院を除く︶などについては︑医療事故情報の報告は義務づけられている︵医療則九条の二一二第一項二       ︵2︶号・一一条の二二二条︶︒二〇〇七年一二月末日現在で︑報告義務対象機関は︑二七三施設である︒その他の医

療機関においては︑医療事故情報を報告するか否かはそれぞれの判断に委ねられている︒

 医療事故の再発防止︑医療安全の観点から全国規模でヒヤリ・ハット事例が収集され︑あわせて薬剤に関連した       ︵3︶医療事故などの個別のテーマに即して事故事例の収集・分析情報の提供がが行われていることが重要である︒       ︵4︶ 二〇〇七年における報告件数は合計で一︑四四五件であるが︑うち一︑二六六件は報告義務対象施設からである︒

報告義務対象医療機関以外に任意に医療事故情報の収集事業に任意に参加している医療機関は︑二〇〇七年一二月       ︵5︶末日現在二八五施設と報告義務対象医療機関数よりも多いにも関わらず︑報告件数はわずか一七九件に過ぎない︒

ヒヤリ・ハット事例を自発的に報告させることの難しさがうかがわれる︒

 また︑報告義務対象医療機関においても︑四一施設からは二〇〇七年に年間一〇件以上の報告がなされている反

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一三七

(4)

      =二八

      ︵6︶面︑入○施設では年間報告件数が0件となっている︒行った医療又は管理によって予期せぬ処置が必要となった事

案については︑過誤が明らかでなくとも報告の対象とされているので︑報告義務対象施設の約三割で報告なしとい

う結果からは︑報告制度に対する施設問の温度差が強く感じられる︒

 報告義務対象医療機関からの一︑二六六件の報告中︑死亡事故は一四二件︑障害残存の可能性が高い事故は一六

    ︵7︶三件である︒死亡事故一四二件の概要別内訳は︑治療・処置によるもの四五件︑療養上の世話によるもの三六件︑

医療用具等によるもの一六件等となっており︑その他として四〇件が報告されており︑死亡事故の多様性がうかが ︵8︶われる︒

 医療事故に関してより正確に分析するには︑損保会社が保有する情報にも今後アクセスすることが必要不可欠で︵9︶      ︵10︶ある︒アメリカにおいては︑呂Φ已oハーバード大学教授を中心に保険会社の記録分析を行っており︑我が国におい

ても同様の分析が行われることが望まれる︒       ︵H︶ 本論文では︑医療事故情報の収集に関して︑医療安全の観点からアメリカにおける議論を紹介したい︒我が国に

おいても︑医療事故を繰り返す医師が診療行為などを続けていることが問題となり︑その対策を検討すべきだから

 ︵12︶である︒

︵1︶ 田原克志﹁診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業について﹂樋口範雄H岩田太編﹃生命倫理と法﹄n一九六頁

 〜一九七頁︵二〇〇七﹀に医療安全に係わるこれまでの取り組みについて︑簡潔にまとめられている︒

︵2︶ 財団法人日本医療機能評価機構﹃医療事故情報収集等事業第=一回報告書﹄一五頁︵二〇〇八︶図表n11−1参照︒

︵3︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書四四頁以下参照︒

︵4︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書一七頁図表n1114参照︒

(5)

︵5︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書一七頁図表H1113参照︒

︵6︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書一九頁図表H1117参照︒

︵7︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書二七頁図表H11125参照︒

︵8︶ 財団法人日本医療機能評価機構・前掲注︵2︶書三一頁図表1−1−32参照︒

︵9︶ ロバート・B・レフラー・三瀬朋子︵訳︶﹁医療安全と法の日米比較﹂樋口‖岩田編・前掲注︵1︶一八一頁︒

︵10︶琴呂Φ巳︒芦OO︒︒昌邑︒艮§Φ§§6足誉§§§Φ忠§§⁚篶ミ6§さ§足憲巷§§§◎ヨ呂Φ合o巴ζ③■﹃知昆8碧O夢Φ

 d・m・=⑱巴夢○曽om匂︒・9日つく°Qo③oqo自ユ國゜民2°︒ゴ︵a°・°ソ巴一ω︵○冒口品o勺﹃Φ゜︒°・bO8︺︵11︶ 先駆的な研究として︑佐伯仁志﹁医療過誤に対する法的対応のあり方についてーアメリカ合衆国の例1﹂﹃神山敏雄先生

  古稀祝賀論文集﹄第一巻二二七頁︵二〇〇六︶︑古場裕司11畑中綾子11横山織江11村山明生‖城山英明﹁米国における医療

  安全・質向上のための法システムー情報収集︑行政処分︑安全・質評価の観点から﹂社会技術研究論文集二号二八五頁

  ︵二〇〇四︶︑畑中綾子﹁医療事故情報システムの機能要件ー米国の不法行為改革等との連関に着目して﹂同二九三頁など

  参照︒

︵12︶貞友義典﹃リピーター医師1なぜミスを繰り返すのか?﹄︵二〇〇五︶など参照︒

ニ アメリカにおける医療安全

1 はじめに

 アメリカにおいては︑医療過誤訴訟が増加し︑患者が勝訴した場合に︑懲罰的損害賠償を含めて高額な損害賠償

請求が医師あるいは医療機関に対して認められたため︑医師の加入している賠償責任保険の保険料が一九七〇年代

および元八・年代に高騰し・医師がリスクをともなう分娩・先端医療などを行うことに躊躇稔と三た陰のイ

メージが我が国においても紹介されている︒ただし︑賠償責任保険料が実際に急騰した原因がはたして不法行為の

アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ =二九

(6)

      一四〇

      ︵14︶システム︑医療過誤訴訟の増加によるものであるのか︑に関しては評価が分かれている︒

 アメリカにおける医療安全を促進するために︑事故原因を究明するための一般的な医療事故情報の収集と医師な

どの医療従事者に関する情報を収集することが行われているが︑いずれも主に州レベルで収集している︒

 さらに︑医療施設認証合同委員会︵o巨古Oo冒゜︒°︒声o冒o﹃>8﹃Φ合叶豊8♂﹃=①巴夢6曽090qξ豊自゜・︶︵﹄○臣O︶

は︑一九五一年に設立された病院の機能を評価・認証する民間非営利団体で︑医療安全に資することを目的として︑       ︵15︶医療事故を報告させ︑収集した医療事故のデータベースを作成している︒

 医師などの医療従事者で十分に技能がない︵芦OO﹃⇒bΦ計O出﹇︶者とは︑医療水準を下回る医療技術しか有しない医

師を念頭に置いており︑薬物︑アルコール中毒︑交通事故および保険金の不正請求者などを除いている︒また︑医      ︵16︶師免許を有していない者による医療過誤も除外している︒

 十分に能力がない医師が実際にアメリカ全土でどの位︑医療行為をしているかに関する正確な統計は存在しない

が︑一九八六年医療の品質の改善に関する法律を立法する過程では︑四二万五︑○○○人の開業医師の三パーセン       ︵17︶トから五パーセントが何らかの理由で不適格であろうとされている︒したがって︑数は少ないものの︑技能のない

医師および不適格な行為をした医師が医療行を継続できることによって︑患者の医療安全に重大な脅威を与えてい

る︒

2 アメリカにおける医療安全

患者の医療安全の観点から︑医師などの医療従事者で十分に能力がない者を規律する手段としては︑以下の方法

(7)

      ︵18︶が存在している︒

︵1︶州による医師免許などの資格審査

アメリカにおいては︑医師免許は︑州の所轄事項とされ︑各州における資格審査委員会で付与されて馳・

 医療過誤あるいは専門家として相応しくない行為をした医師に対して︑州の資格審査委員会は医師免許の取消゜

停止などの行政処分を行う権能を付与されており︑具体的な懲戒事由はそれぞれの州の裁量に委ねられている︒裁

判所は︑専門的知見を有している医師から構成されている州の資格審査委員会に事件を付託し︑資格審査委員会の

判断に対しても恣意的︵曽げ旨§︶であると実体的な証拠が示されない限りは・判断を尊重してい劉・

 アメリカにおいても医師免許が実際に取消︑停止される大部分の事例は︑薬物︑アルコールの濫用など懲戒事由

の証明が比較的容易な場合であり︑医師の能力が問題となる事例は極めて少ないのが現実で艶・わが国よりも処        ま 分件数が格段に多く︑行政処分も重いにしても︑資格審査委員会のスタッフが十分にいないこと・予算が限られて

おり︑懲戒の対象となった医師が訴訟などで争えば︑州の委員会の予算を消耗する危険もあるからである・

 資格審査委員である医師にとっても︑同僚の医師を裁くことにもともと抵抗があるだけではなく︑不利益な処分

を被ったことを理由に損害賠償請求を後でなされることも恐れて・厳しい処分をする︸﹂とに躊躇して捻・さらに・

不利益な情報を資格審査委員会︑病院および同僚に対して積極的に通報する医療従事者はほとんどいないため・医

師の能力が問題となる情報は︑医師会︑同僚などからではなく︑一般人から寄せられるが︑その数も少なく・行政

処分を基礎づける情報が極めて乏しく︑十分な証拠がなければ︑手続保障の観点から行政処分をするのが困難であ     ︵24︶るとされている︒

 州の資格審査委員会は︑能力に問題がある医師に対して︑医師免許の取消・停止などの厳格な行政処分を行うと・

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一四一

(8)

一四二

医師にとってみれば死活問題となるので︑かえって厳格なサンクションを課すよりも復職させることに重点を置い

ているとの批判も麩・さらに・多くの州では︑正式な懲戒手続を開始する前に医師が自発的に同じ州内では開業

しないことを誓約するのと引き換えに︑懲戒手続を免除されているとされている︒このため︑懲戒手続を免れた医       師は︑他の州に移動し︑別の州で開業を繰り返している︒

 医師に対して︑何らかの懲戒処分がなされても一般人が情報を得ることは困難であり︑結局︑能力に問題がある      医師が他の州などに移動して再び医療過誤を引き起こすことを予防することは困難であった︒

 結局︑州の資格審査委員会は︑医師に関して︑最低限度の資格を要求することによって︑患者の医療安全にある

程度貢献しているが︑いったん医師免許が付与されれば︑州の資格審査委員会において︑医師の能力問題があるこ

とを理由に医師免許の取消・停止などの厳格な行政処分を行うことは極めて困難であるとされている︒したがって︑

患者の医療安全の面からは︑州の資格審査委員会は十分に機能していないとされている︒

︵2︶医療過誤訴訟

 医師が患者に対して︑適切な診療や治療行為をしなかった場合には︑医療過誤訴訟を提起されるおそれがあるの

で︑結果的に医療の質のコントロールに大きな役割を果たしているとされている︒州の資格審査委員会が必ずしも

医療の質のコントロールに機能していない場合には︑医療過誤訴訟が代替しうるか︑が問題となる︒たしかに︑提

訴された医師が=疋の客観的な医療水準を満たしていたか否かが争点となり︑患者の医療安全に資するといえる︒

しかし︑仮に医療訴訟で高額な賠償金の支払いが命じられても︑実際に支払うのは︑医師ではなく︑保険会社の場

合がほとんどである︒アメリカにおいても賠償責任保険の保険料は︑個別の医師に関して医療過誤訴訟が提起され

た件数などではなく︑医師の専門とする診療のリスクに基づいて決められていないので︑必ずしも医師にとって医

(9)

療の質を意識する要因を呈ないとされて桑・さらに・裁判所に医師の能力に問題がある︑﹂とを証明する証拠が

提出されても︑裁判所には裁判の結果に基づいて︑医師免許を取消・停止などの行政処分を直接行う権能も付与さ

れていない︒医療従事者も医療過誤訴訟の提訴件数は・医師の質を正当に反映していないとの意識を有して籔・

︵3︶資格審査・同僚による審査

 医師は︑病院などの医療機関から診療行為などを行う権限︵U菖Φo︒o︶を付与されなければ︑医療機関において

医師として働くことはできない︒そこで︑医療機関内部に資格審査委員会が設けられ︑診療行行為などを行う権限

を付与するか否かを判断している︒

 医師が行った治療や手術などが適切であったかについて︑同一の専門職である同僚による審査︵bΦ①﹃ ﹃O<声①ぐ⇔︶

が定期的に行われている︒病院などの医療機関が︑医療の質を保証しているかを同一の専門職である同僚による審

査によって︑調査することは︑有効に機能すれば︑医療事故防止に大きな効果が期待できる︒同僚が定期的に相互

に治療が適切か︑などを判断することによって医師の職業水準を保っており︑現在では同僚による審査が強制的に

    ︵30︶行われている︒

 同僚による審査も同一の病院の活動に限られ︑当該医師が別の病院に移れば︑審査結果を反映することはできず︑

患者の医療安全を害するおそれがある︒

 さらに医師は同僚の批判をすることに消極的であり︑同僚の診療資格を制限することによって深刻な不利益をも

たらすことを強調するなど仲間同士でのかばいA︒いの風襲否定できない・

 当該医師が懲戒処分の対抗手段として︑同僚による審査の構成員である医師に対して︑名誉殴損︑デュー・プロ

セスの侵害などを理由として提訴されることのリスクは・審査を行うことを阻害する要因となって莚・このため・

アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一四三

(10)

一四四

州法上︑同僚による審査に対して︑種々の免責特権を付与している場合が多いが︑名誉殿損に関する免責条項を設

けている場合から民事訴訟全般について免責条項を設けている場合まで保護の範囲は︑州によって千差万別であっ

︵33︶た︒

 そこで︑問題となった医師は︑対抗手段として︑医師間の医療サービスの競争を妨害したとして︑不正競争の濫

用を理由に連邦不正競争法に基づいて提訴している︒同僚による審査が︑医師個人の経済的安定性というよりは︑

患者の医療安全のために同僚の審査をしている場合がほとんどであるとしても︑審査の結果として︑他の医師を市

場から排除する行為は不正競争防止の問題が生じうるからである︒州法上は︑同僚の審査は非開示資料として保護

されるのに対して︑連邦不正競争防止法では︑開示の対象となり︑懲罰的賠償が認められ︑保険の対象ともならな

いため︑当該医師が懲戒事由について徹底的に争うと︑同僚による審査は医師の無償のボランティアで行われてい

るのに︑時間と費用のかかる訴訟に巻き込まれ︑不利益を被るおそれがある︒当該訴訟の係属中は︑裁判所は当該

医師が医療行為を継続することを一般に認めているので︑患者の医療安全を害する危険もある︒

 このため︑アメリカにおいても同僚による審査によって︑医療の質に問題がある医師の問題に対応することは困

    ︵34︶難であった︒

 懲戒手続に対して︑医師が争った著名な事件として︑勺③巨鼻ぐbd自o︒︒戸︽°︒Od°ω已吟﹂O°︒乙︒b﹇°宗駅゜︒︵﹂q⊃o◎○◎︶﹈﹃°<︒σ︒

°。nO同心︒巴お゜︒︵㊤︐ピ ○胃゜一㊤ooΦ︶がある︒

 アストリア︵オレゴン州︶の外科医であったバトリック博士は︑アストリア・クリニックに一年間雇用され︑同

クリニックのパートナーに推薦されたが︑バトリック博士は推薦を断り︑アストリア・クリニックと競合する別の

クリニックを自ら立ち上げた︒アストリアに一つしかない病院の医療従事者の大部分がアストリア・クリニックに

(11)

勤務していたが︑バトリック博士がクリニックから独立した後に︑同病院における患者をバトリック博士に紹介せ

ず︑バトリック博士の患者を病院に転送しなかった︒さらに︑バトリック博士の治療に対して︑州の医療調査委員

会に報告し︑バトリック博士は︑文書による謎責を受けた︒二年後に同病院の同僚による審査に基づいて︑バトリ

ック博士の病院での雇用を継続すべきか︑について調査されている︒バトリック博士は︑調査の途中で︑懲戒処分

を受ける前に自発的に辞任している︒

 そこで︑バトリック博士は︑同僚による審査が患者のケァの質に基づくというよりは︑競争を排除する目的でな

されたとして︑アストリア・クリニックのパートナーに対して︑シャーマン︵反トラスト︶法に基づいて損害賠償

請求を連邦地方裁判所に提起した︒陪審員は︑六五万ドルの損害を認め︑裁判官は三倍賠償を認めている︒

 これに対して︑第九巡回控訴裁判所は︑同僚による審査がお粗末︵°︒富げ9︶︑無節操︵目日胃巨6菅Φ△︶に行われ︑

クリニックの医師が悪意で同僚による審査を行ったと評価したが︑州法上不正競争防止法から免責されるとして︑

連邦地方裁判所の判断を覆した︒

 連邦最高裁判所は︑オレゴン州における資格審査委員会が病院における同僚の審査手続を積極的に監督しなかっ

たとして︑控訴審裁判所の判決を覆し︑州法上不正競争防止法に基づく損害賠償責任から免責されないとして︑第

一審裁判を支持して︑三倍賠償を認めている︒

 本件では︑免責条項に必要な手続を遵守していないだけではなく︑被告の目的が医療安全の質というよりは︑競

争を排除する支配的な目的を有しているので︑後に論ずる一九八六年法の下でも保護されない︑といえる事案であ

つ([・

アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一四五

(12)

一四六

︵13︶ 犀民o屋戸さ⇔苦ミ誉■§ぱ6Φ☆§良W言審さぎぱ註8ミ賠ミS9さ巨呂Φ合o巴呂巴b日O註8句50葺⑦d・o力・匡①巴日○曽ΦoQ冨−

  9β讐冷ーお゜レフラー・前掲注︵9︶一七二頁以下など参照︒

︵14︶ 日ロ呉o担弓庁①呂Φ合6巴呂巴肩③6けばo呂答#巴冷ーΦべe弓Φ窃一身oSO巨o知σqo淳o°︒︒︒bOOm︶°レフラー.前掲注︵9︶一七六頁以

  下など参照︒

︵15︶ 弓けΦ﹄o巨Oo冒゜︒°︒8見雪胃o昌碩官98.°︒口o°︒冨巴゜︒ぷOOや゜手嶋豊﹁アメリカにおける医療事故予防策に関する近時の動  向ー10M報告書に対する連邦政府の対応を中心としてー﹂﹃民事責任の規範構造︵中川淳先生古稀記念論文集︶﹄一七〇

  頁︵二〇〇一︶以下︑畑中・前掲注︵11︶二九六頁など参照︒畑中綾子﹁医療事故.インシデント情報の取扱いに関する

  論点﹂ジュリ=二〇七号二八頁︵二〇〇六︶も参照︒

︵16︶ 内呂oO知昌ゴSb9♂§§○∀﹃○ぱさざ9↑○註§O§︑さ句災§註oボミさoo§も災§ひ︑さく句ぶS蕊99ボ﹄9良べ識ミ§↑さミ§§傍§

  8﹄切句ぎ弍○⇔§試ひく惑9☆ぎ09さNo◎o◎mけO田=ふ巨P°閲①<mべ﹂⇒O古Φ﹂°一︵一⑩⑩べ︶・

︵17︶ 國゜﹀合Φ古曽9慰囚﹃ぎ知oQ§㌔詳く吻ざざ§⁚﹄ボ﹄§邑<◎︒膏ミ﹃ミ惑Ω↑SO臼さOs§ぱ愚§さQ§§﹃﹄鼻No◎旨・ロニ︒︒ト・﹄・O⑩Oふ5q

  口卜oΦ︵一Φ豊︶⁝日﹄Oc︒戸§﹀⑥◎朋句9這9ミ︑§Φべ知O貯ぱ㌔eミ9S§8﹄毯ぎさSぎ⇔s§ぱ§ミ惑Ω↑SO☆さ・心o㎝=O巨︒︒・﹇知Φ<

  Oc◎oo︵﹂⑩o◎o◎シ

︵18︶ 佐伯・前掲注︵H︶二三六頁以下など参照︒

︵19︶ 呂OO釦昌冨o︒已b日ロ9Φ一Φ900◎ω⁝民゜国釦50おOO§§㊧さ黄㌔心く急6Sべき9冒く句Φ﹃⁚㎏⑩09§○寒○ぱさ︑§寒足SOΩさ◎§↑︐

  ⑨量§∨δe§び﹃﹄9誉くひ句ミOaΦミ§§﹃ぎb詠Φ8◎coや○巴プO巨6d・↑口Φ<﹂Oべq∋︵﹂㊤o◎べ︶・  ただし︑連邦の施設で当該医師が勤務している場合には︑州は医師免許などの規制を課すことはできない︑とされている

  ︵95°︒05<oQひ讐Φo︹匡知目一ふ5PN㎝︽己゜Qo°㎝一︵一〇トoO︶︶︒

︵20︶ ロ一昌Φお゜︒已O﹃知50古O一q⊃知﹇﹂OQ◎O°

︵12︶ ﹈≦00§庁Sω已b﹃旬50辞①﹈°Φ③けmoo凱゜

︵22︶ 佐伯・前掲︵11︶二四二頁参照︒

︵23︶ 呂60旬昌言゜︒已b﹃鱒⇒O古Φ一Φ巴mQ◎㎝∴od片50古o︒已廿﹃①⇒O古O一⑩餌巨OΦO・

︵42︶ ﹈≦60曽詳冒w﹈q①けOo◎㎝⁝﹀色O古︒︒已b﹃①コO﹇O一べ知Φ㊤ふ

︵25︶ ︾合①古゜力已肩③59①嵩巴Φ⑩POoo8詳三ミ6§6富︑⑩Φs㌔S宮£﹄さ註ひ§↑gミSΦ§☆9口§ミo這お§き三〇哀臼P國①<ooboΦ

  ︵一⑩巴︶°

︵26︶ ︾合Φ♪°︒已b﹃③⇒OけΦ一や③昂q⊃N⁝QoOO﹇□g力己U﹃③⇒O﹇ΦN凱巴co心oO・

(13)

︵27︶零○巳①<穿碧巴ひ○巴智貫心︒O巴心︒︵09唇゜一Φ⑩心︒︶ 寄9詳身三唇日ロ゜古Φ一Φ巴α゜︒°︒°

  チエコ・スロバキァ出身の医師Kがニューヨークで実習を行っていたが︑技能不足のため︑実習を修了できなかった︒と

  ころが︑Kは︑カリフオルニア州に移動し︑カリフオルニア州の資格審査委員会に医師免許を申請し︑医師免許が付与さ

  れた︒Kは麻酔医︑産婦人科医として病院に勤務をしたが︑いずれも能力不足として勤務医の資格は更新されなかった︒

  その後︑Kはクリニックを開業し︑資格がないにもかかわらず︑一九八二年一二月から八六年九月まで︑分娩促進剤を適

  切に使用しないなど分娩を適切に行わなかったため︑胎児及び新生児を死亡させ︑九件の第二級謀殺を問われている︒裁

  判官は三件の第二級謀殺について有罪として︑懲役四三年から無期懲役を命じている︒医師の医療過誤による死亡事例に

  関して︑初めて謀殺罪の成立を認めた事例であるとされている︵国Φ§c︒<︒P§§§↑誉冒§9べ8ミ○さ§§§↑§§沁箋

  ー﹄§﹄∨§忘吻爵ミ§S9§亀Qぱミ§ひ○註§ざ§↑㌔さ句8§ざ目∀↓○註§S足§Sぎ吻自ボ良曽﹃ミ㎏さδa三〇Φ霊巳﹄出Φ巴夢

  ○曽︒P一﹀︵お⑩ベソ佐伯.前掲注︵11︶二一二四頁など参照︶︒︵28︶ その他︑過失︑因果関係を立証するのが困難なため︑被害者の多くが賠償訴訟を提起しないこと︑被害者が金銭を必要

  としており︑裁判に要する時間︑費用などを勘案して︑実際の被害額よりも低い賠償額で和解をすることなどが挙げられ

  ている︵甲四20P旨w寒8ぎ§心§句§ぷ㍉§○卜O§書ミ§斗卜9§§§QoeO§§§S㌔是ミ§ざ§ωω詩5巳ト國①<旨o︒古嵩ΦO

  ︵おo︒O︶◆佐伯.前掲注︵11︶二一二七頁など参照︶︒

︵29︶︾合Φ貝゜︒唇日づ9Φ﹂品三㊤㎝ー8ご呂6§蔓゜︒唇日9需﹂Φ餌窃やΦ゜

︵30︶ 呂09昌ゴS°︒唇日50古Φ一Φ巴α8一﹀合①二唇日づ9Φミ巴Φ⑩9

︵31︶ 例えば︑他の専門分野の医師に転送する場合に今までの治療などから医師の能力について問題がなりうる場合があるが︑

  ほとんど表面化することはなく︑仮に公にされても懲戒することは不文律に反するとされていた︵8戸゜︒唇日づ9Φ一べ讐凱゜︒Φ

  −㎝芦︶︒

︵32︶﹀合Φ古︒︒唇冨9邑や讐8べ云︒○§買゜︒唇日ぎ邑Φ③古凱q⊃ご○◆家o§芦§Q憩臼§09さ⇔§§<§さe§§9﹄9ミ

  這o︒軌㍉§ミさ$ざSびさ§﹃∀§Osさe宮ざ§oさ§e§8ふぺく図゜い゜閲①<一ご⑩︵おo︒○◎シ

︵33︶ 呂o詳o♪°︒已肩知ぎ8ω心︒巴ごN心︒°

︵34︶ co69戸乙・唇日コ9mb︒09c︒一Φ゜

︵35︶ cQ8詳︒︒已肩騨ロ90ト︒0巴ω心︒o︒°

アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一四七

(14)

一四八

三 一九八六年医療の品質の改善に関する法律

 一九八六年医療の品質の改善に関する法律︵出Φ巴古ゴ○胃O︵〜已巴け望一日も﹃O<Φ﹃⇒Φ白﹇>O﹇O⇒一⑩o◎Φ︶︵=○ε雰︑以下では︑

コ九八六年法﹂と略記する︒︶︵吟心︒g°︒b°﹀°励巨oど●=一巳山=oN︵箒゜︒け゜°︐唇巳・︑︒︒⑩︶は︑同僚による審査を促

進し︑医師に関する全国規模のデータベースを構築することによって︑能力のない医師および専門職業として相応

しくない医師を専門職の審査によって規律することを目的として制定されている︒一九入六年法は︑一九八九年一

〇月一七日に施行されている︒

 連邦政府は︑医療過誤の増大にともない医療の質を改善するには︑個々の州レベルだけの対応では︑不十分であ

り︑全国レベルで対策を採る必要があり︑医師の損害行為や医師に関して能力が問題となる行為に関する情報を開

示することなく︑能力が問題となっている医師が他の州に移動し︑診療行為を再開することを制限する必要がある

ことを認識している︒このような全国規模の問題は︑専門家による審査が行われることによって改善される︒とこ

ろが︑同僚による審査に対する免責条項の範囲は州によってまちまちであり︑さらに連邦法に基づいて金銭賠償請

求などを提訴されるリスクがあることから︑医師が専門家による審査に参加することを阻害している危険がある︒

そこで︑医師が効果的な同僚の審査に参加することを促進するために︑同僚による審査の対抗手段として提訴され      ︵35︶た訴訟における賠償責任に対する免責条項を明文で設けている︵巴ごO一︶︒

(15)

1 同僚による審査の促進

 一九入六年法は︑連邦法および州法上の損害賠償に関して︑免責条項を設けることによって︑同僚による審査を

促進しようとしている︒民事上の訴訟全般ではなく︑あくまでも賠償責任についての免責条項である︒免責条項が

適用されるのは︑職業専門家から構成されている審査委員会の資格審査行為︵肩o甘゜︒°︒﹂8巴﹃o己Φ乏8江o自︶であ

る︒したがって︑職業専門家による資格審査委員会の構成員︑職員だけではなく︑資格審査委員会と接触した者お

よび協力した者も含まれる︵巴巳ご︵知︶︵﹂︶︶︒仮に︑資格審査委員会に関して免責条項が適用されない場合にも︑

資格審査委員会と接触した者は︑過誤︵冒一゜︒o︶であることを知っていて情報を提供しない限りは︑免責される︵同

条︵心︒︶︶︒       ︵37︶ 審査委員会の資格審査行為が免責されるには︑以下の要件を満たす必要がある︒

①資格審査が︑医療安全を促進すると合理的に信じて事実を収集し︑②関連する事実を合理的に収集しているこ

と︑③当該医師に対して適切な告知と聴聞を与えた上で取得した場合ないしは当該医師に対して︑公正な手続が付

与されたと認められること︑④審査は合理的に収集された事実に基づいて行われたと合理的に信じられる場合であ

ること︵惚巳一N︵蝉︶二ぴ︶︶︒

 資格審査委員会が医師の資格および業務を監視することによって︑医療技能の基本的な水準を維持するのに貢献

しており︑技能がないあるいは専門性を欠く医師が医療に従事するのを抑制し︑診療行為などを行う権限を医療技

能についての基本的な水準を満たしている医師に限定することは︑競争を抑制するのではなく︑医療安全の効率性

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一四九

(16)

       一五〇       ︵38︶をかえって高かめているという従来の判例の立場を踏襲している︒

 資格審査とは︑患者の健康福祉︑医師の資格などに作用する個々の医師の能力もしくは職業専門活動に関して行

われるものである︒したがって︑専門職団体︵肩o仔゜︒°︒声o⇒巴口06﹂︒蔓︶︑報酬︑広告︑医師以外の看護師などの医療

従事者の行為など医師の能力および医師の専門家としての活動とは無関係の事由に基づく懲戒手続は︑免責の対象

とはならない︵巴一一駅﹂︵⑩︶︵﹀︶〜︵O︶︶︒

 さらに︑一九八六年法は︑個々の医師の専門家としての行為を対象としており︑例えば︑特定の病院での医療業務を      ︵39︶行う資格を満たすためには︑特別の訓練を受講していることを前提とするような︑特別の事情までは考慮されない︒

 当該医師または歯科医師に対して︑適切な告知と聴聞の機会が与えられたと認められるには︑①当該医師または

歯科医師に対して専門家による審査を行うことの動議が出されたこと︑②審査事由︑③当該医師または歯科医師が

当該審査において聴聞を求める権利を有すること︑聴聞を求める場合の︵三〇日よりも短くない︶期間および聴聞

における当該医師または歯科医師が有する権利の概要に関して告知がなされていること︑である︵●二巳心︒︵ぴ︶︶︒

 当該医師が︑適時に聴聞の機会を求めた場合には︑告知後三〇日よりも短くない期日で︑聴聞期日が設定される︒

聴聞の日時︑場所および資格審査委員会のために証言が予定されている証人がいれば︑その証人のリストを事前に

告知しなければならない︒

 聴聞は︑当該医師が医師と医療機関との間の合意で選任された仲裁人︑当該医師と直接的な経済的な競合関係に

ない者から任命された聴聞担当官︵ゴo知巳伝o法8﹃︶ないしはパネルによってなされなければならない︵巴﹂ご心︒︵ぴ︶

︵N︶︵ω︶︵︾︶︶︒

 当該医師は︑弁護士あるいは医師の選択に基づいて他の者によって︑代理される権利を有し︑手続の記録を入手

(17)

すること︑証人を呼び出し︑尋問あるいは反対尋問する権利を有している︒ただし︑正当な理由なく聴聞期日に出

頭しなければ︑権利を放棄したものとされる︵●=巳N︵げ︶︵ω︶︵ロ︶︵○︶︶︒

 免責条項の適用を受けるには︑これらの厳格な手続を満たす必要があるため︑小規模の病院︑地方の病院などが

資格審査委員会を設けた場合に︑免責条項の適用を受けられないおそれがあるが︑不公正な審査手続から当該医師      ︵40︶を保護することを重視して︑手続を厳格化したとされている︒      ︵41︶ ただし︑証拠の優越︵肩80邑Φ日gΦo﹃夢Φo≦α巴8︶によって︑懲戒手続に不服を申し立てている医師が︑

資格審査が合理的であったか︑あるいは公正な懲戒手続がなされたことに反証を示さない限りは︑審査委員会の資

格審査行為が免責条項を満たしていると推定される︵●巳巳心︒︵③︶︶︒

 さらに︑資格審査の判断を医師が争って訴訟を提起し︑敗訴した場合に︑請求ないしは訴訟係属中の当該医師の

訴訟行為が︑不真面目である︵旨くo一〇已゜︒︶︑不合理︑根拠がないことないしは悪意であると認められた場合には︑       ︵42︶合理的と認められる相手方の弁護士費用を含めて訴訟費用を負担しなければならない︵巴一巳ω︶︒

 反対に︑資格審査委員会が敗訴しても︑弁護士費用敗訴者負担は適用されず︑片面的な敗訴者負担となっている︒

したがって︑審査委員会が合理的に審査したことの推定規定および敗訴した場合の弁護士費用の負担によって︑当      ︵43︶該医師が審査委員会の判断に関して争うことへの阻害事由となると評価されている︒

 免責条項が一九八六年法で規定される以前においても︑圧倒的多数の事件では不正競争防止法違反に関する医師

の主張が認められずに︑トライアル前に事件が終結しており︑提訴によって︑同僚の審査を行ったものが不正競争

防止法に違反し三倍賠償を負担するリスクを負うのではないか︑という萎縮効果は認められない︑とされる︒ただ

し︑懲戒処分を争う医師によって︑訴訟を潜在的に提起され︑不当に引き延ばされるのではないかということ自体

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一五一

(18)

       一五二

       ︵μ︶が︑資格審査委員会にとっては費用や人員面で萎縮効果が生じうるとされている︒

 一九八六年法施行後は︑懲戒処分を受けた医師が病院内の資格審査委員会に対してデュー・プロセスの侵害など      ︵45︶を理由に提訴する事件数は減少している︑と分析されている︒

 免責条項が適用されるのは︑医療安全に関して報告をしたことが前提となっているので︑当該医師に対する不利       ︵46︶益な︵餌q<O﹃°︒Φ︶事項を報告していなければ︑免責条項は適用されない︵O巳ご一︵ぴ︶︶︒

2 医師に関する全国データベース

 一九入六年法施行以前には︑能力が十分にないとして︑懲戒処分を受けた医師が︑他の州に移動して開業するこ

とを監視する全国規模の有効な手段が存在していなかった︒そのため︑懲戒処分の対抗手段として名誉殿損︑不正       ︵47︶競争防止法違反などの訴訟を提訴している場合に︑問題の医師が再就職するのを阻止する有効な手段がなかった︒

そこで︑一九八六年法は︑新たに医師に対する懲戒処分事由に関する全国データベース︵Z昌o⇒巴勺蚕昆試0520巴知

ロ碧犀︑以下﹁データベース﹂と略記する︒︶を構築することによって︑懲戒の対象となっている医師が医師免許を

返上する代わりに︑懲戒手続が免除され︑他の州に医師が移動して開業しようとしても︑医師の資格審査をする際

に過去の医療過誤や懲戒処分事由の記録を収集し易くすることによって︑診療を再開するのを防止することを目的   ︵48︶としている︒

 ︵1︶医療過誤の請求または訴えを終結するために保険約款︑和解ないしは判決に基づいて支払われた金銭につ

(19)

いて︑具体的な金額にかかわらず︑保健・社会福祉省︵OΦ窟詳日Φ巳oh=o聾プ③a出巨碧乙力Φヨ8°・︶に報告しな

ければならない︒医療過誤の請求または訴えとは︑健康サービスを提供または提供しなかったことに関して︑不法

行為を理由として金銭賠償を求めて︑アメリヵ合衆国において︑州ないしは連邦の裁判所に提訴された場合で書面

による要求︵⊆Φ目①5巳︶もしくは請求をした場合を含んでいる︵巴ごω﹂︵知︶㌫﹂一﹂窪︵や︶︶︒

 判決あるいは和解条項として金銭の支払いに関して秘密条項が設けられていても︑データベースに報告をしなけ

ればならない︒医療過誤訴訟における和解および何らかの金銭が支払われた場合に︑支払いがなされてから三〇日

以内に報告する必要がある︵巴巳ω食餌︶︶︒

 インターンなどで勤務医の資格を有している者のために賠償金が支払われた場合にもデータベースに報告しなけ    ︵49︶ればならない︒病院などの医療機関は︑スタッフの一員としてではなく︑教育の一環として診療などを行っている      ︵50︶に過ぎないので︑報告義務を負わないと誤解している場合が多いことが問題となっている︒裁判官︑陪審あるいは       ︵51︶仲裁人などが医師の責任を認めた場合には︑データベースに報告をしなければならない︒      ︵52︶ 診療費などを免除した場合には︑金銭の支払いとは認められずに︑報告する必要がない︒患者などのためではな      ︵田︶く︑医師のために金銭を支払った場合にも報告する必要がない︒

 医療過誤訴訟を和解によって解決することは種々の事情によってなされるので︑専門家としての能力あるいは医

師︑歯科医師などとしての行為が不適当であることを必ずしも反映するものではない︒したがって︑医療訴訟にお      ︵M︶ける和解で解決金を支払うことは医療過誤を推定するものではない︒      ︵55︶ 報告が義務付けられている具体的な情報とは︑支払の利益を享受した医師︵b冒゜・巨芦︶の氏名︑支払われた具

体的な金額︑︵もしわかれば︶医師または開業医︵胃③゜法︷°5Φ﹃︶が勤務していた病院の名前︑訴訟を基礎づける作

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報      ︵都法四十九ー一︶ 一五三

(20)

       一五四

為または不作為および傷害ないし病気に関する事項︑その他本条を解釈するのに保健・社会福祉省が必要と認めら

れるものである︵●=﹂c︒﹂︵ぴ︶︶︒

 医療過誤訴訟で支払われた具体的な金額を問わず︑保健・社会福祉省への報告を義務づけたのは︑金額によって

不当な訴訟であるか否かを一律に判断するのは困難であり︑かえって能力に問題がある医師は︑少額の訴訟を繰り

返し提訴されると考えられるからである︒ただし︑少額の訴訟を包含することに関して︑議論があったので︑デー

タベースの導入後︑連邦議会は︑二年以内に報告書を公表することを義務づけている︵巴一一c︒一︵9︶︶︒

 一九八六年法は︑能力に問題がある医師を明らかにすることを目的としているので︑医師会︑歯科医師会︑病院

などの医療機関に報告義務を課している︒ほとんどの医療過誤訴訟は︑和解で解決され︑保険会社から直接原告に

賠償金が支払われるので︑医療機関の保険会社も報告義務を課されている︒そのため︑従来から問題となっていた

医療過誤訴訟の増加による賠償責任保険料急騰による保険の危機に関する全国規模の信頼できるデータの収集を図

っている︒

 さらに︑データベースの情報は︑保険の不正請求︑製薬会社からの金品の受領などの犯罪類型を連邦および州政

府が取り締まるために設けられたヘルスケァの清廉性および保護のデータベース︵出旦聲○曽ニロ90︒臣百ふ5口四9︒?   ︵56︶古ざ⇒︶︵田O勺︶と情報を共用している︒

 なお︑バージニァ州およびフロリダ州で導入されている分娩に関連する脳性麻痺の無過失補償制度では︑医師の       ︵57︶責任は追及されないので︑分娩に関する脳性麻痺の事例に関して︑医師はデータベースに登録されない︒したがつ

て︑医師・医療機関は分娩に関連する脳性麻痺の無過失補償制度に協力する誘因を与えているといえよう︒しかし

ながら︑フロリダ州では︑医師などの医療従事者が事前に無過失補償制度を患者に適切に説明していないことが問

(21)

     ︵58︶題となっており︑医師・医療機関が制度の趣旨を正確に理解していないのではないか︑と考えられる︒

 医療機関が必要な報告をしなかったと信ずるに合理的な理由がある場合には︑保健・社会福祉省は調査を開始す

る︒報告義務を遵守していなかったことの告知︑修正する機会を与えた上で︑官報︵呵ΦOΦ邑 國︒σq置⑱﹃︶に法令を

遵守しなかった医療機関名を公表する︒公表後三〇日後から三年間は当該医療機関での資格審査は免責条項の適用

をうけられない︵巴ご一一︵げ︶︶︒さらに︑最高一万ドルの民事上の制裁金を課される︵密一一ω﹂︵o︶︶︒

 ︵2︶州における医師の資格審査委員会︵ロo曽09呂Φ合゜巴国×§零゜・︶が医師の能力ないしは行為︵85合︒﹇︶

を理由として医師免許の取消︑停止︑讃責処分などの行政処分を行った場合には︑一五日以内に報告する義務があ

る︵ゆ一一一〇︒心︒︶︒さらに︑行政処分の対象となった医師が免許を返上した場合にも報告する義務がある︵巴ごc︒心︒︵騨︶

(一

j(香j︶︒ただし︑医師が一身上の理由で︑医師免許を放棄したりすれば︑データベースに登録されない︒

 もし︑資格審査委員会が報告をしない場合には︑資格を満たす他の機関に対して必要な報告を命ずることができ

る︵巴一一器︵ぴ︶︶︒ただし︑実際には︑州の資格審査委員会は一つしか存在しないので︑このような場合にどのよ       ︵59︶うに処理すべきか︑については不明確であるとされている︒

 報告が義務付けられている具体的な情報とは︑当該医師の氏名︑医師免許の取消︑停止︑返上を基礎づける作為︑

不作為またはその他の理由で保健・社会福祉省が必要と認められる情報である︵巴=ω心︒︵知︶︵心︒︶︶︒

 ︵3︶州において医療サービスを提供し︑かつ入院患者に対して︑医師が医療行為を行っている病院などの医療

機関︵冨聾プ⇔曽ΦΦ⇒庄蔓︶︵●一一一望︵吟︶︶が︑①勤務医の資格などに影響を与える三〇日以上の処分事由︵肩︒合゜︒°︒5⇒巴

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一五五

(22)

       一五六

苫≦︒妻知昆︒⇒︶に関して資格審査委員会が調査を開始している場合︑②医師の技能ないし職業専門家として不適切

なことを理由に調査の継続中に︑勤務医の資格が返上された場合︑③調査ないしは懲戒処分を行わないのと引き換

えに勤務医の資格が返上された場合︑あるいは④勤務医の資格に関して資格審査委員会が設けられた場合には︑報

告する義務がある︵巴一一ωω一巴巳α一︵一︶︵﹂O︶︶︒医療機関は︑調査開始後あるいは医師免許の返上後一五日以内に報

告をしなければならない︒なお︑調査は︑医療機関として行わなければならず︑医師などのスタッフが個人的に調

査していても該当しない︒定期的な調査ではなく︑医師の技能ないし職業専門家としての適格性に関する調査でな     ︵60︶ければならない︒

 報告が義務付けられている具体的な情報とは︑当該医師ないしは開業医の氏名︑勤務医の資格の返上を基礎づけ

る作為︑不作為またはその他の理由で必要と認められる情報である︵巴﹂一c︒ω︵知︶︵c︒︶︶︒

 このように懲戒処分の対象となった医師が自発的に退職した場合にもデータベースに登録することによって︑当

該医師が再就職することを事実上困難にさせることができる︒ただし︑医師が一身上の理由で︑医師免許を返上し      ︵61︶たりすれば︑データベースに登録されない︒

 医療機関は︑直接データベースに情報を提供するのではなく︑州における医師の資格審査委員会へ送付すること

を求めている︵●二﹂ωc︒︵知︶︵一︶Oご一望︵心︒︶︶︒これは︑医師の能力が問題となった場合には︑資格審査機関に調査す

ることが期待されているからである︒州の医師資格審査委員会は︑保健・社会福祉省に報告をしなければならない

︵冷ρ男國゜Φρ竺6︶︵一q⊃忠︶︶︒

 さらに︑医師以外の看護師などの他の医療従事者に関する情報も任意で報告することを認めている︵巴﹂一㏄c︒︵③︶

︵N︶︶︒この場合には︑データベースの情報に関しては︑免責条項は適用されるが︑医師以外の医療従事者に対する

(23)

調査自体に関しては︑免責条項の適用は除外されている︒したがって︑病院は︑不正競争防止法に違反する行為に

対しては︑賠償責任があるが︑データベースに報告したこと︑報告したデータに基づいて他の病院が行った行為に

関しては賠償責任を負わない︒

 病院などの医療機関は医療従事者ないしは職員として採用を希望する医師ないし看護師などの情報を収集し︑少

なくとも二年毎に当該情報の修正をすることが義務づけられている︵O=﹂ω只知︶︶︒ただし︑インターンなどはス

タッフの一員としてではなく︑教育の一環として診療などを行っているに過ぎないので︑医療機関は︑照会する必

   ︵62︶要はない︒

 医師と病院との間に直接の雇用関係が存在しなくても︑医師の業務を適切に病院が監督していないとされた場合

には︑判例は病院にも独立に過失を認めて賑犯・したがって・医療過誤訴訟が提起された場合に・病院などの医療

機関は︑当該医師に関する情報を適切に収集しておく必要がある︒医療機関が実際に情報を収集したか否かを問わ

ず︑当該医師に関して医療過誤訴訟が提起された場合には︑医療機関には当該医師のデータベースに登録されてい

る情報について悪意であることに推定規定が設けられているからである︵巴ごc︒α︵ぴ︶︶︒

 情報が提供された他の病院も情報自体が誤りであることを知らなければ︑データベースの情報に依拠したことに

対して︑賠償責任を負わない︵巴ご゜︒ロ︵○︶︶︒なお︑病院が依拠したことの具体的な意味は︑明文上明確ではない

が︑医師に関する情報が偽りである︵置゜︒o︶ことが明白な場合でない限りは︑情報が正しいか否かを積極的に調査

しないで︑医療機関が勤務医の資格を認めない・あるいは更新しないことが認められると考えら弘・

 患者の医療安全と懲戒処分による医師の不利益について︑適正に利益衡量されていたのか︑州によって懲戒事由

が異なるので︑はたしてデータベースを公平に適用するのか︑に関して疑問が示され︑むしろ連邦法上︑懲戒事由

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報      ︵都法四十九−一︶ 一五七

(24)

       一五八

      ︵65︶に関する統一モデルを示すべきである︑とされている︒

 医療施設認証合同委員会は︑認証を求める病院は︑スタッフ医師を採用する場合および資格を延長する場合には︑       同僚による審査手続を経なければならない︑としている︒

 医療施設認証合同委員会が同僚による審査を義務づけており︑同僚による審査に対して免責条項を認めているの

で︑不正競争防止法に基づく損害賠償責任の対象とはならない︒

 一九八六年法において︑問題となったのは︑過去の医療事故などの記録をもはや隠蔽することができない以上︑

懲戒手続に直面した医師が不正競争防止法などに基づいて提訴することによって︑訴訟が増大するのではないかと

いう点と収集されたデータベースの情報がどこまで信頼できるか︑であった︒

 医師免許は今まで専ら州法で規律していたのを︑一九八六年法によって全国規模のデータベースを設けることに

よって︑懲戒処分を受けた医師の情報に関して︑保健・社会福祉省を通して︑それぞれの州の間で情報を交換し︑

同僚による審査を行う場合に︑当該医師に関する情報を収集するのを容易にすることによって︑能力に問題がある

医師および潜在的に患者に害を与える医師が医療に従事することを阻止し︑同僚による審査に積極的に参加する要      ︵67︶因を与えようとしている︒

 ただし︑全国のデータベースの情報を何時まで保存すべきか︑に関して一九八六年法では規定されていない︒        当該医師および他の医療従事者は︑自己の情報の開示をいつでもインターネット上で求めることができる︒当該

医師および他の医療従事者が自己の情報に関する正確性について争う場合には︑第一義的には州の資格審査委員会︑

医療機関などの登録機関を通じて︑訂正を求めなければならない︒データベース自体の情報の訂正を直接請求する

ことは︑許容されていない︒もし︑登録機関が当該情報の訂正を拒絶した場合あるいは何らの応答をしない場合に

(25)

は︑保健.社会福祉省大臣に書面で︑情報が誤っていることの証拠を添付して自己の情報の訂正を求めることがで弘・

 データベースの資料は︑医療従事者が反対したため︑一般人には公開が認められていない︒

 ただし︑患者側の弁護士が病院などの医療機関を相手にアメリカの州裁判所ないし連邦裁判所に医療過誤訴訟を

提起した場合に︑病院などの医療機関が医療従事者ないしは職員として採用を希望する医師ないし看護師などの情

報収集義務︵巴﹂一ω㎝︵騨︶︶を遵守していないことを証明した場合には︑医療従事者の情報に例外的にアクセスする

ことが認められている︒これに対して︑医療機関側の弁護士は︑当該情報にアクセスすることは認められない︒医

療機関自身が自ら当該情報にアクセスできるからで艶・

3 一九八六年法の意義と残された問題点

︵1︶ 一九八六年法の意義

 一九八六年法によって︑懲戒処分を受けた医師などの情報を全国規模で収集するデータベースが設けられ︑医療

の質の保障に関して︑大きな進歩ということができる︒しかし︑あくまでも医師の懲戒事由に関する情報の収集を

確保することに主眼がおかれ︑医師に対する懲戒権は病院などの各医療機関および州の資格審査委員会が従来通り

有している︒したがって︑一九八六年法によって︑州の資格審査委員会および医療機関は医師の懲戒手続の基礎と

なる情報を収集することがより容易になっているが︑最終的に懲戒するか否かは︑あくまでもこれらの機関の判断

   アメリカにおける医療安全と医療事故情報       ︵都法四十九ー一︶ 一五九

参照

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