臨床検体からエンテロウイルス D68 型を特異的に 検出・同定するためのプライマー開発と
RT-Seminested PCR 条件の決定
1)
さいたま市健康科学研究センター,
2)さいたま市保健所
蕪木 康郎
1)上野 裕之
1)嘉悦 明彦
2)泊 賢太郎
1)菊地 孝司
1)小堀すみえ
1)宮崎 元伸
1)(平成 28 年 8 月 12 日受付)
(平成 29 年 1 月 6 日受理)
Key words : human enterovirus D68, semi-nested RT-PCR, VP1 sequence, phylogenetic analysis
要 旨
エンテロウイルス D68 型(EV-D68)は,従来,呼吸器感染症の原因ウイルスと考えられてきた.近年,
急性弛緩性麻痺の症例などから検出例が報告され,国内においても注目されている.
EV-D68 を含むエンテロウイルス属(EV)の遺伝子検査は,VP4-VP2 領域を増幅する RT-Seminested-PCR 法(VP4-VP2-PCR 法)で遺伝子を検出する方法や,VP1 領域を増幅する CODEHOP RT-Seminested-PCR 法(CODEHOP 法)で血清型を同定する方法が広く使われている.この 2 検査法を併用して EV-D68 の遺 伝子検査を実施したところ,VP4-VP2-PCR 法で遺伝子が検出できたものの,CODEHOP 法で VP1 領域が 増幅できず,血清型の同定ができない検体を複数確認した.また,VP4-VP2-PCR 法,CODEHOP 法ともに,
複数の血清型の EV が重複感染している場合,いずれかの血清型が検出されない可能性が指摘されている.
そこで,EV-D68 に対して高い感度,特異度を有し,加えて,EV の重複感染例に対しても EV-D68 を同 定可能な検査法として,独自に設計した EV の血清型と関連の深い VP1 領域を増幅するプライマーを用い る RT-Seminested-PCR 法(本法)の開発を試みた.臨床検体を用いて検討した結果,本法は,VP4-VP2-PCR 法以上の感度があった.また,すでに EV-D68 以外の EV が同定されている 2 検体より新たに EV-D68 を同 定することができ,重複感染例に対しても EV-D68 を同定可能だった.加えて,1st-PCR における検出率が 高く,系統樹解析に十分な長さの塩基配列を得ることができた.
以上より,本法は,EV-D68 を対象とした遺伝子診断の有用な手段と考えられた.
〔感染症誌 91:376〜386,2017〕
序 文
エンテロウイルス D68 型(EV-D68)は,1962 年に 米国で初めて呼吸器感染症の小児患者から分離された ウイルスで,ピコルナウイルス科エンテロウイルス属
(EV)に分類される
1).我が国における EV-D68 検出 例は,2009 年以前には年間数例程度だった
2).近年,
検出例の増加がみられ,2010 年および 2013 年には年 間 100 例を超える報告があり,2015 年にもさいたま
市健康科学研究センター(当センター)の所管するさ いたま市を含む各地で EV-D68 の検出例が報告され た
2)3).
EV-D68 は,同じく EV に属するヒトライノウイル ス(HRV)として報告されていたことがあり,両者 の性状が類似していることが知られている
4).HRV は,
普通感冒の原因ウイルスであることから,EV-D68 も 同様の症状を引き起こすと考えられてきた.しかしな がら,2014 年に米国で EV-D68 による呼吸器疾患の 流行が発生した際,重症例を含む呼吸器疾患の患者か らだけでなく,急性弛緩性麻痺や脳神経障害を呈した 患者からの EV-D68 検出例も報告された
5)〜7).さらに
原 著別刷請求先:(〒338―0013)さいたま市中央区鈴谷 7 丁目 5 番 12 号
さいたま市健康科学研究センター保健科学課 蕪木 康郎
Table 1 Designed primers used for specific detection of EV-D68
Assay Primer Polarity
aSequence (5´to3´) Position
bAmplicon size (bp)
1st PCR EVD68-F1 + AATGCAGTTGAAACGGGHGCAA 2503-2524 779
nested PCR EVD68-F2 + CAATGTTTGTRCCCACTGGTGC 2858-2879 424
1st and nested PCR EVD68-R − CTVTCTCTATTGCCAATTATRGC 3281-3259 a: +,Forward primer; −,reverse primer
b: According to the sequence of EV-D68 virus strain (accession No: AY426531)
国内では,2014 年に広島県,2015 年にさいたま市お よび青森県において,麻痺症状を呈した患者からの EV-D68 検出例が報告され,EV-D68 と急性弛緩性麻 痺との関連性が注目されている
8)〜10).
EV-D68 を含む EV の遺伝子検査には,プライマー EVP2,EVP4,OL68 を用いて VP4-VP2 領域を増 幅 する RT-Seminested-PCR 法(VP4-VP2-PCR 法)が広 く用いられている
11)〜14).VP4-VP2-PCR 法は,塩基配 列がよく保存されている VP4-VP2 領域を増幅するた め,PCR の成功率が高く,高い検出感度が得られる.
反面,VP4-VP2 領域の塩基配列を解析する方法では 血清型の同定が困難な場合がある
14).そこで,EV の 血清型の同定に は,血 清 型 と の 関 連 性 が 強 い VP1 領 域 を 増 幅 す る CODEHOP RT-Seminested-PCR 法
(CODEHOP 法)により得られた塩基配列を解析する 方法が広く用いられている
14)15).当センターでは,検 出感度の良い VP4-VP2-PCR 法を用いて EV 遺伝子を 検出し,HRV を除く EV 遺伝子が検出された検体に ついては,CODEHOP 法を用いて血清型を同定して いる.しかしながら,VP4-VP2-PCR 法では EV-D68 の VP4-VP2 領域の増幅が確認できるものの,CODE- HOP 法では EV-D68 の VP1 領域の増幅ができず,血 清型の同定が困難な検体が複数確認された.また,
VP4-VP2-PCR 法,CODEHOP 法ともに,既知の全て の血清型の EV 塩基配列を増幅するため,EV-D68 を 含む複数の血清型の EV が重複感染している場合,い ずれかの血清型が検出できない可能性が指摘されてい る
14).
そこで,我 々 は EV-D68 に 対 し て,VP4-VP2-PCR 法と同等以上の感度を有し,加えて,EV の重複感染 例に対しても EV-D68 を同定可能な検査法として,独 自に設計した EV-D68 の VP1 領域を増幅するプライ マーを用いる RT-Seminested-PCR 法(本法)の開発 を試みた.加えて,さいたま市内の医療機関で採取さ れた検体から,本法を用いて得られた EV-D68 塩基配 列について系統樹解析を実施し,市内における EV- D68 の流行状況の把握を試みた.
材料と方法
1.供試検体
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関す
る法律に基づいた感染症発生動向調査により,さいた ま市内の定点医療機関から当センターに提供された鼻 腔スワブ,咽頭スワブ,気管吸引液,髄液を試料とし た.なお,当センターには,検体に付随する情報とし て,患者 ID・性別・年齢・診断名・臨床症状・臨床 経過・基礎疾患・発症日・検体採取日・発生状況・ワ クチン接種歴・渡航歴・検体種別が送付され,検体提 供者の個人情報は送付されない.
2.ウ イ ル ス RNA 抽 出 お よ び 逆 転 写 反 応 に よ る cDNA の作成
抗生物質を添加した veal infusion broth(検体処理 培地)2mL で試料を処理し,1,880×g 10 分間の遠心 分離を行った.得られた上清 140μL から QIAamp Vi- ral RNA mini kit[QIAGEN]を用いてウイルス RNA を抽出し,PrimeScript RT reagent kit[TAKARA BIO]を用いて逆転写反応を行い,cDNA を作成した.
ウイルス RNA 抽出操作および逆転写反応条件はそれ ぞれのプロトコールに従い行った.
3.EV-D68 検出用プライマーの設計
1st-PCR 用 に Forward プ ラ イ マ ー と し て EVD68- F1,Reverse プライマーとして EVD68-R をそれぞれ 設 計 し,Seminested-PCR(sn-PCR)用 に Forward プライマーとして EVD68-F2 を設計した(Table 1).
EV-D68 塩基配列におけるプライマーのポジション は,EV の様々な血清型に対して VP1 領域を増幅で きる Oberste ら
16)のプライマーを参考に,1st-PCR で 779bp,sn-PCR で 424bp の増幅産物が得られるよう に設定した.参照した塩基配列は,DNA Date Bank of Japan(DDBJ)に EV-D68 の VP1 全領域が登録さ れている株の中から登録された地域もしくは登録年が 異なる株を選考し,アクセッション番号 AY426531,
AB614441,KJ472880,KP153539,LN681317,JX101804 を選出した.LN681321 は,LN681317 と登録地域,登 録年が同じだが,塩基配列に違いがあったため,加え て計 7 株とした.
4.細胞培養
検体処理培地で処理した試料 100 μ L をエンテロウ イルスに感受性があるとされる FL,RD-18S,CaCo2,
Vero/E6 の 4 種の細胞に接種した.細胞維持方法,継
代方法,増殖培地および維持培地の作成方法は,無菌
性髄膜炎病原体検査マニュアル(国立感染症研究所)
に基づいて行った
14).RD-18S,CaCo2 は 1 週間,FL は 2 週間,Vero/E6 は 3 週間培養し,細胞変性効果
(Cytopathic effect:CPE)を確認した.CPE が確認 できなかった培養細胞については,盲継代を行った.
継 代 数 は,RD-18S と CaCo2 は 3 継 代,FL と Vero/
E6 は 2 継代とした.CPE が確認できた培養細胞につ いては,培養上清からウイルス RNA の抽出および逆 転 写 反 応 を 行 い,得 ら れ た cDNA を 用 い て CODEHOP 法により EV-D68 が同定されることを確 認し,分離陽性とした.
5.プライマー濃度とアニーリング温度の検討 EV-D68 が分離された培養上清(EV-D68 培養上清)
から得られた cDNA を陽性対照とした.EV-D68 株は,
2015-593Saitama.City を用いた.設計したプライマー の濃度を 0.1μM〜1.0μM まで 0.1μM 間隔で設定し,陽 性対照を用いて,それぞれ 1st-PCR を実施した.続 いて,アニーリング温度についても 50℃〜68℃ まで 2℃ 間隔で設定し,陽性対照を用いて,それぞれ 1st- PCR を実施した.sn-PCR については,1st-PCR の増 幅産物を RNase-free 滅菌精製水で希釈したものをテ ンプレートとして用い,1st-PCR と同様に PCR を行っ た.プライマー濃度とアニーリング温度以外の PCR 条件および電気泳動については,次項 PCR 法と同様 とした.
6.PCR 法
1st-PCR の反応液は,Premix EX Taq Hot Start Version[TAKARA BIO]12.5μL,10μM:EVD68-F1 1μL,10μM:EVD68-R 1μL,RNase-free 滅菌精製水 8μL を混合した反応液にテンプレートとして cDNA 2.5μL を加え,全量 25μL とした.sn-PCR の反応液は,
Forward プ ラ イ マ ー に 10 μ M:EVD68-F2 1 μ L,
RNase-free 滅菌精製水 9.5μL,テンプレートとして 1 st-PCR 産物 1μL を用い,他は 1st-PCR と同様とした.
PCR 条件は,1st-PCR,sn-PCR ともに,アニーリン グ温度を 62℃ とし,その他 PCR の条件は,Oberste ら
16)の方法に準じた.94℃ 2min の反応後に,94℃ 30 sec,アニーリング 62℃ 1min,72℃ 1min の反応を 35 サイクル行い,72℃ 7min 反応させた後,冷却温度を 4℃ とした.PCR 装置は,Veriti Thermal cycler[ABI]
を用いた.得られた増幅産物 5μL を用いて 2% アガ ロースゲル上で電気泳動を行い,1st-PCR では 779bp の増幅産物のバンド,sn-PCR では 424bp の増幅産物 のバンドを確認した.
7.感度の検討
本法の EV-D68 に対する感度を VP4-VP2-PCR 法お よび CODEHOP 法と比較検討するため,すでに VP4- VP2-PCR 法により EV-D68 遺伝子が検出された 34 検
体を用いて 1st-PCR および電気泳動を行い,779bp の 増幅産物のバンドの確認を行った.バンドが確認され なかった検体に対しては,sn-PCR および電気泳動を 行い,424bp の増幅産物のバンドの確認を行った.な お,34 検体の内訳は,下気道炎を呈した症例から採 取されたもの 30 検体,上気道炎 2 検体,無呼吸発作 1 検体,急性弛緩性脊髄炎 1 検体だった.また,FL 細 胞 を 使 用 し た プ ラ ー ク 法
17)に よ り ウ イ ル ス 量 を Plaque forming unit(PFU)として測定した EV-D68 培養上清を用いて本法の検出感度を評価した.EV-D68 株 は,2015-593Saitama.City を 用 い た.EV-D68 培 養 上清をウイルス量が PCR 反応液 1tube 中,すなわち 最終 25μL 中にそれぞれ 1,000PFU,100PFU,10PFU,
1PFU,0.1PFU になるように調製した.調製した EV- D68 培養上清からウイルス RNA の抽出および逆転写 反応を行い,得られた cDNA を用いて 1st-PCR,sn- PCR および電気泳動を行い増幅産物のバンドの確認 を行った.
8.特異度の検討
本法の EV-D68 に対する特異度を検 討 す る た め,
EV-D68 以外の EV 遺伝子がすでに検出されている試 料を用いて交差反応の確認を行った.試料のうち,VP 4-VP2-PCR 法によりコクサッキー A 群ウイルス 2 型
(CA2),CA4,CA5,CA6,CA8,CA9,CA10,CA16,
コクサッキー B 群ウイルス 1 型(CB1),CB2,CB3,
CB4,CB5,エコーウイルス 3 型(E3),E6,E7,E9,
E11,E16,E18,E25,E30,エンテロウイルス 71 型
(EV-71)およびヒトライノウイルス遺伝子群 A(HRV- A),HRV-B,HRV-C 遺伝子が検出されている検体を それぞれ 1 検体ずつ,計 26 検体を用いて,前項感度 の検討と同様に PCR およびバンドの確認を行った.
9.EV 重複感染が疑われた臨床検体からの EV-D68 の同定
EV 重複感染症例に対して本法が EV-D68 を同定可
能であるか検討するため,EV 重複感染が疑われる試
料を用いた確認を行った.EV-D68 の流行年や当セン
ターにおける EV 検出例の発症時期を考慮し,2010
年,2013 年および 2015 年 の,そ れ ぞ れ 7 月 か ら 11
月に,すでに CODEHOP 法により EV-D68 以外の EV
が同定された検体を用いた.EV-D68 は呼吸器症状を
引き起こすことから,呼吸器症状を呈した症例から採
取された鼻腔スワブ,咽頭スワブを 26 検体,および
急性弛緩性麻痺との関連性を考慮し,髄膜炎を呈した
症例から採取された髄液を 10 検体,計 36 検体を用い
た.PCR およびバンドの確認は,前々項感度の検討
と同様に行った.さらに EV-D68 が同定された検体に
ついては,Wylie らの方法
18)に基づき,7900HT Fast
real-time PCR system[ABI]を用いて EV-D68 塩基
Fig. 1 Results of the 1st-PCR with differentiated concentrations of primers and annealing temperatures
(A) The electorophoretic image of products by 1st-PCR with differentiated concentration of the primers in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 0.1μM. Lane 2, 0.2μM. Lane 3, 0.3μM. Lane 4, 0.4μM. Lane 5, 0.5μM. Lane 6, 0.6μM. Lane 7, 0.7μM. Lane 8, 0.8μM. Lane 9, 0.9μM. Lane 10, 1.0μM.
(B) The electorophoretic image of products with the 1st-PCR with differentiated annealing temperatures in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 50℃.Lane 2, 52℃.Lane 3, 54℃.Lane 4, 56℃.
Lane 5, 58℃,Lane 6, 60℃.Lane 7, 62℃.Lane 8, 64℃.Lane 9, 66℃.Lane 10, 68℃.
779bp 779bp
M 1 M M 1 M
(A) 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (B) 2 3 4 5 6 7 8 9 10
配列の増幅の有無を確認した.
10.塩基配列の解析および系統樹の作成
感度の検討および EV 重複感染が疑われた臨床検体 からの EV-D68 の同定において得られた増幅産物を QIAquick PCR Purification kit[QIAGEN]を用いて 精製し,Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequence kit
[ABI]および設計したプライマー EVD68-F1,EVD68- F2,EVD68-R を用いたサイクルシークエンスの後,
塩基配列の解析を行った.3500 Genetic Analyzer
[ABI]を用いてシークエンス解析を行い,得られた 塩基配列に対して,DDBJ の Basic Local Alignment Search Tool 検索を実施し,登録されている EV-D68 株の塩基配列との相同性を確認した.また,プライマー 部分を除いた 734bp の塩基配列が得られたものにつ いては,MEGA6 を用いて近隣接合法による系統樹解 析を実施した.系統樹解析に用いた株および遺伝子型 の分類は,既報を参考にした
19)〜21).
結 果
1.細胞培養
細胞培養を実施した結果,2013-436,2013-450,2013- 489,2013-511,2015-530,2015-553,2015-565,2015- 574,2015-593 の計 9 検体から EV-D68 が分離された.
EV-D68 を分離できた細胞は,FL 細胞のみだった.
2.プライマー濃度とアニーリング温度の設定 プライマー濃度の検討を行った結果,0.4μM〜0.9μM の範囲で特に明瞭な増幅産物のバンドを認めた(Fig.
1).アニーリング温度の検討を行った結果,50℃〜62℃
の範囲で特に明瞭な増幅産物のバンドを認めた(Fig.
1).検討結果より,プライマー濃度は最も低い 0.4μM とし,アニーリング温度は最も高い 62℃ とした.sn- PCR についても 1st-PCR と同様の結果となったこと
から,1st-PCR と同じプライマー濃度,アニーリング 温度とした(Fig. 2).
3.感度
VP4-VP2-PCR 法により EV-D68 遺伝子が検出され た 34 検体を用いて本法を実施した結果,CODEHOP 法で EV-D68 の VP1 領域を増幅できなかった検体を 含む全ての検体から EV-D68 が同定された.34 検体 中 33 検体が 1st-PCR で同定され,1st-PCR の検出率 は 97% だった.1st-PCR で増幅産物のバンドが確認 できなかった 1 検体は,sn-PCR で EV-D68 が同定さ れ,sn-PCR の 検 出 率 は 100% だ っ た(Table 2).ウ イルス量を PFU として測定した EV-D68 培養上清を 用いて本法の検出感度を評価した結果,1st-PCR では 10(PFU/tube),sn-PCR では 1(PFU/tube)まで増 幅産物のバンドを確認することができた(Fig. 3).
4.特異度
VP4-VP2-PCR 法 に よ り CA2,CA4,CA5,CA6,
CA8,CA9,CA10,CA16,CB1,CB2,CB3,CB4,
CB5,E3,E6,E7,E9,E11,E16,E18,E25,E30,
EV-71,HRV-A,HRV-B,HRV-C 遺伝子が検出され た 26 検体を用いて,本法を実施した結果,全ての検 体から標的とした長さの増幅産物のバンドは確認され なかった.
5.EV 重複感染が疑われた臨床検体からの EV-D68 の同定
CODEHOP 法により EV-D68 以外の EV が 同 定 さ
れた 36 検体について本法を実施した結果,E7 型が同
定されていた 1 検体および E 6 型が同定されていた 1
検体の計 2 検体より EV-D68 が新たに同定された(Ta-
ble 3).本法により EV-D68 が新たに同定された 2 検
体に対して,既報
18)を用いて検査を実施した結果,2
Fig. 2 Results of the semi-nested-PCR with differentiated concentrations of primers and annealing temperatures
(A) The electorophoretic image of products with semi-nested-PCR with differentiated con- centrations of the primers in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 0.1μM. Lane 2, 0.2μM. Lane 3, 0.3μM. Lane 4, 0.4μM. Lane 5, 0.5μM. Lane 6, 0.6μM. Lane 7, 0.7μM. Lane 8, 0.8μM. Lane 9, 0.9μM. Lane 10, 1.0μM.
(B) The electorophoretic image of products with semi-nested-PCR with differentiated an- nealing temperatures in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 50℃.Lane 2, 52℃.Lane 3, 54℃.Lane 4, 56℃.
Lane 5, 58℃,Lane 6, 60℃.Lane 7, 62℃.Lane 8, 64℃.Lane 9, 66℃.Lane 10, 68℃.
424bp 424bp
M 1 M M 1 M
(A) 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (B) 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Table 2 Results of detection of EV-D68 genes with each RT-PCR Sample
ID
Patient Results of each assay
bAge Sample
adate of
onset Developed
RT-PCR RT-PCR for
VP4-VP2 CODEHOP RT-PCR
2010-90 0 N Aug-10 ++ ++ +
2013-416 6 P Sep-13 + + +
2013-436 1 N Sep-13 ++ ++ +
2013-437 1 N Sep-13 ++ ++ +
2013-450 2 N Sep-13 ++ ++ +
2013-451 5 N Sep-13 ++ + −
2013-465 9 N Sep-13 ++ ++ +
2013-472 3 N Oct-13 ++ + −
2013-489 1 N Sep-13 ++ ++ +
2013-510 3 N Oct-13 ++ + −
2013-511 3 N Oct-13 ++ ++ +
2013-512 5 N Oct-13 ++ ++ +
2015-530 4 P Aug-15 ++ ++ +
2015-537 3 P Aug-15 ++ + −
2015-553 2 P Sep-15 ++ ++ +
2015-560 4 P Sep-15 ++ ++ +
2015-565 1 P Sep-15 ++ ++ +
2015-567 1 P Sep-15 ++ ++ +
2015-571 1 N Sep-15 ++ + −
2015-572 2 N Sep-15 ++ + −
2015-574 1 N Sep-15 ++ + +
2015-575 0 P Sep-15 ++ ++ +
2015-579 5 P Sep-15 ++ ++ +
2015-580 0 P Sep-15 ++ + +
2015-589 0 P Sep-15 ++ ++ +
2015-593 0 P Sep-15 ++ ++ +
2015-594 2 P Sep-15 ++ + +
2015-597 12 P Sep-15 ++ ++ +
2015-598 3 N Sep-15 ++ ++ +
2015-637 9 P Oct-15 ++ + −
2015-647 1 P Oct-15 ++ + +
2015-648 1 P Oct-15 ++ + +
2015-649 1 T Oct-15 ++ + +
2015-650 2 P Oct-15 ++ ++ +
a: N, nasal swab; P, pharyngeal swab; T, a secretion from trachea
b: ++ , positive by 1st PCR; + , positive by Nested PCR; − , negative by Nested PCR
Fig. 3 Results of sensitivity of detection with the newly-developed PCR assay
(A) The electorophoretic image of products with the 1st-PCR for a dif- ferentiated quantity of virus in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 1,000 (PFU/tube). Lane 2, 100 (PFU/
tube). Lane 3, 10 (PFU/tube). Lane 4, 1 (PFU/tube). Lane 5, 0.1 (PFU/
tube).
(B) The electorophoretic image of products with Semi-nested-PCR for a differentiated quantity of virus in each lane.
Lane M, 100bp marker. Lane 1, 1,000 (PFU/tube). Lane 2, 100 (PFU/
tube). Lane 3, 10 (PFU/tube). Lane 4, 1 (PFU/tube). Lane 5, 0.1 (PFU/
tube).
779bp
424bp
M
M 1 M M 1
(A) 2 3 4 5 (B) 2 3 4 5
検体ともに EV-D68 塩基配列の増幅が認められた.E 7 型が同定されていた 1 検体は,下気道炎を呈した症 例から採取され,E6 型が同定されていた 1 検体は,上 気道炎を呈した症例から採取された検体だった.
6.系統樹解析
1st-PCR により,734bp の塩基配列が得られた 35 株について系統樹解析を実施した結果,1 株が遺伝子 型 lineage 1 に,4 株が遺伝子型 lineage 3 に,30 株が 遺伝子型 lineage 2 に属した.2010 年に同定された 1 株は,遺伝子型 lineage 1 に属していた.2013 年に同 定された 10 株のうち,6 株は遺伝子型 lineage 2 に属 しており,4 株は遺伝子型 lineage 3 に属していた.
2015 年に同定された 24 株は,全て遺伝子型 lineage 2 に属しており,その中には,急性弛緩性脊髄炎を呈し た患者由来の株(2015-575Saitama.City)も含まれた
3). 遺 伝 子 型 lineage 2 に 属 し て い た 2013 年 の 6 株 と 2015 年の 24 株は,それぞれ別のクラスターを形成し た(Fig. 4).
系統樹解析に使用した,2010 年(lineage 1),2013 年(lineage 2),2013 年(lineage 3),2015 年(lineage 2)の株,各々 1 株ずつ と 2015-575Saitama.City を 加 えた計 5 株の VP1 領域塩基配列 734bp について比較 したところ,遺伝子型が異なる株間では 60〜90 程度 の塩基に違いがあり,lieage 3 には 3 塩基の欠失が あった(Fig. 5).
考 察
VP4-VP2-PCR 法により EV-D68 遺伝子が検出され た 34 検体を用いて,本法と VP4-VP2-PCR 法の感度 を比較検討した.VP4-VP2-PCR 法では,34 検体中 20
検体が 1st-PCR で検出され,1st-PCR の検出率は,59%
だった.本法,VP4-VP2-PCR 法ともに sn-PCR の 検 出率は,100% だった(Table 2).本法の 1st-PCR の 検出率は,97% だったことから,本法は VP4-VP2-PCR 法と比較し 1st-PCR の検出率が高く,EV-D68 に対し て VP4-VP2-PCR 法以上の感度があることがわかっ た.本法の検出感度を評価したところ,1st-PCR は 10
(PFU/tube),sn-PCR は 1(PFU/tube)ま で 検 出 可 能だった.また,特異度を検討した結果より,本法は,
検討に用いた試料 26 検体の範囲内に限られるものの,
EV-D68 以外の EV に対して交差反応がなかった.今 回の検討により,本法は EV-D68 の遺伝子検査法とし て十分な感度と特異度を持つことが示唆された.加え て,本法は,すでに E7 型,E6 型を同定している症 例の検体から EV-D68 を同定した.同 2 症例の検体は,
既報
18)を用いた方法からも EV-D68 塩基配列の増幅が 認められたことから,本法は EV 重複感染例から EV- D68 を同定できることが確認された.EV-D68 を含む EV は,夏季を中心に流行することが知られている
22). さいたま市においても,EV-D68 が同定された症例の 発症時期は,夏季が中心だったこと,EV-D68 は流行 が確認された年以外の検出例が少なかったこと
2),EV- D68 は呼吸器症状を引き起こし,当センターで確認さ れた EV 重複感染例も呼吸器症状を呈していたことか ら,EV-D68 の流行が確認された年の夏季に呼吸器症 状を呈している症例から EV-D68 以外の EV が検出さ れた場合,EV と EV-D68 の重複感染を疑う必然性が あると考えられる.
解析に用いる系統樹は,可能な限り長い塩基配列を
Table 3 Results of detection for enterovirus genes with each RT-PCR in specimens suspected of multiple infection
Sample ID
Patient Detected enteroviruses by each assay Age Sample
adate of
onset
Developed RT-PCR
RT-PCR for VP4-VP2
CODEHOP RT-PCR
2010-72 0 S Jul-10 - EV71 EV71
2010-76 5 P Jul-10 - CA2 CA2
2010-77 5 P Jul-10 - CA16 CA16
2010-87 0 S Aug-10 - CB5 CB5
2013-246 2 P Jul-13 - CA6 CA6
2013-247 3 P Jul-13 - CA6 CA6
2013-259 1 P Jul-13 - CA6 CA6
2013-274 2 P Jul-13 - CB5 CB5
2013-276 6 S Jul-13 - E18 E18
2013-287 0 S Jul-13 - CB5 CB5
2013-294 4 P Jul-13 - CA6 CA6
2013-312 0 S Jul-13 - CB5 CB5
2013-326 0 P Aug-13 - CB5 CB5
2013-355 0 P Aug-13 - CB3 CB3
2013-414 1 P Sep-13 - CA5 CA5
2013-463 3 N Sep-13 - CA6 CA6
2013-485 0 S Oct-13 - CB5 CB5
2013-516 0 P Oct-13 - EV71 EV71
2013-550 6 P Nov-13 - EV71 EV71
2015-376 0 P Jul-15 - CA6 CA6
2015-381 5 S Jul-15 - E18 E18
2015-393 1 P Jul-15 - CA6 CA6
2015-398 6 P Jul-15 - E9 E9
2015-431 0 P Jul-15 - E25 E25
2015-454 0 S Jul-15 - CB2 CB2
2015-466 6 P Jul-15 - CA9 CA9
2015-558 0 N Sep-15 EV-D68 E7 E7
2015-595 0 P Sep-15 - CA6 CA6
2015-610 1 P Sep-15 - CB3 CB3
2015-620 6 S Sep-15 - E16 E16
2015-623 5 S Sep-15 - E9 E9
2015-635 1 P Sep-15 - CA10 CA10
2015-641 3 N Oct-15 EV-D68 E6 E6
2015-651 3 P Oct-15 - E6 E6
2015-659 1 P Oct-15 - CB5 CB5
2015-664 1 P Oct-15 - CB5 CB5
a: N, nasal swab; P, pharyngeal swab; S, spinal fluid
用 い て 作 成 さ れ た 方 が 高 い 信 頼 性 を 得 ら れ る
14). CODEHOP 法は,解析に供する領域が 340bp 程度で あることから,詳細な系統樹解析には不向きとされて いる
14).本法は,1st-PCR の感度が高く,血清型との 関連性が強い VP1 領域 734bp の塩基配列が得られる ことから,CODEHOP 法と比較し系統樹の作成に対 して利点がある.系統樹解析の結果から,2010 年に 採取された検体から同定された EV-D68 は遺伝子型 lineage 1 に,2013 年は遺伝子型 lineage 2 と lienage 3 に,2015 年は遺伝子型 lienage 2 に属しており,検体 が採取された年により EV-D68 の遺伝子型に違いが あったことがわかった.2015 年は,24 検体から遺伝 子型 lienage 2 の EV-D68 が同定されたことから,さ いたま市内において遺伝子型 lienage 2 の流行が確認
された.加えて,遺伝子型 lienage 2 には,2014 年に 米国で流行した株,さいたま市内で麻痺症状を呈した 患者検体から同定された株が属していた
3)9).現在,EV- D68 の遺伝子型による流行傾向の違いや,EV-D68 と 急性弛緩性麻痺との関連性は明らかになっていない.
しかしながら,さいたま市内という限られた範囲の調 査結果からであるものの,検体が採取された年ごとに 同定された EV-D68 の遺伝子型に違いがあったこと,
2015 年に遺伝子型 lienage 2 の流行があったことか
ら,遺伝子型により流行傾向の違いがある可能性が示
唆された.今後,EV-D68 の研究が進められていく上
で,急性弛緩性麻痺との遺伝子型を含めた関連性が明
らかでないことから,本事例のような麻痺を呈した症
例から同定された遺伝子型の調査結果は,重要と考え
Fig. 4 The phylogenetic tree constructed by the neighbor-joining method for the partial 734bp sequence of the EV-D68 VP1 region.
2013 Saitama City
2015 Saitama City
2010 Saitama City
2013 Saitama City
Fig. 5 Sequence alignment for the partial 734bp on the EV-D68 VP1 region.
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られる.このことから,流行時期における EV-D68 の 遺伝子型を含めた調査を進める意義は大きいといえ る.
結論として,以上のことから,本法が EV-D68 を考 慮した遺伝子診断の一助として有用な手段の一つとな りうると考えている.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文 献1
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Optimizing RT-semi-nested PCR Conditions with Newly Developed Primers for the Specific Detection of Human Enterovirus D68 and its Identification from Clinical Specimens
Yasuo KABURAGI
1), Hiroyuki UENO
1), Akihiko KAETSU
2), Kentaro TOMARI
1), Koji KIKUCHI
1), Sumie KOBORI
1)& Motonobu MIYAZAKI
1)1)