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論文の内容の要旨

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨

氏名:小 林 慶 一

博士の専攻分野の名称:博士(歯学)

論文題名:ビスフェノールAが発達期ラットの脳内カテコールアミン代謝酵素遺伝子発現に及ぼす影響

ビスフェノールA(BPA)は樹脂系歯科材料に含まれる成分であるが,エストロゲン様ホルモン作用を 示す内分泌攪乱物質の一つとしても知られている。小児に用いられているコンポジットレジンやレジン系 シーラント等の充填(填塞)材にも BPA が含まれており,微量ながら口腔内への BPA の溶出の可能性が示 唆されている。これまでの報告から,胎生期あるいは新生仔ラットに BPA を投与した場合,性周期,黄体 形成ホルモンレベル等に影響が現れることが明らかになった。また,新生仔ラットへの BPA 投与によって,

成熟後の行動パターンが変化することが報告されており,その変化は主として不安レベルのパラメーター である探索行動の減少として現れている。これらの結果は,BPA が生殖腺などの末梢組織のみならず,中枢 神経系にも影響を及ぼしていることを示している。

現在のところ,出生直後の哺乳動物の脳における BPA のエストロゲン様作用について,遺伝子発現 への影響を包括的に調べた報告はない。そこで本研究では新生ラットに BPA を投与し,それによって引き 起こされる mRNA 発現の変化を視床下部と脳幹(橋および延髄)について GeneChip Probe Array を用いて 解析した。また,成熟ラットについて2種のエストロゲン受容体(ERα ならびに ERβ)が多く発現してい ることが明らかになっている視索前野を対象に,新生雄ラットについて,これらの受容体に対する抗体へ の免疫陽性細胞の局在を調べるとともに,BPA 投与により mRNA の明瞭な変動が認められたカテコールアミ ン代謝酵素とエストロゲン受容体との共存の有無を検討した。

実験には生後 1 日齢の Sprague-Dawley 系雄性ラットを用いた。ラットはコントロール群と BPA 100 μg 皮下投与群に分け,コントロール群には 50 μl のコーンオイルを皮下投与した。また BPA 投与群は,

BPA をコーンオイルに溶解させたのち 50 μl を皮下投与した。BPA 投与 2 時間あるいは 6 時間後,低体温 麻酔下で脳を摘出し,氷冷したシャーレ上で視床下部と脳幹を滅菌メスにて切り出し,−80℃にて保存した。

マイクロアレイ解析用に,脳組織を TRIzol 試薬中でホモジナイザーにて処理し,全 RNA を抽出した。

全 RNA からdouble-stranded cDNA を合成したのち,in vitro transcription reaction により biotin-labeled antisense cRNA を作製し,続いて 35 base から 200 base 程度のサイズに biotin-labeled antisense cRNA の断片化を行った。Eukaryotic Hybridization Controls と断片化した cRNA を混合したのち,約 1200 種の 遺伝子に対応する GeneChip® Rat Neurobiology U34 Array を用いてハイブリダイゼーションを行った。

さらに2種のエストロゲン受容体(ERα ならびに ERβ)に対する抗体を用いて,それぞれが発現し ている細胞の同定を,生後 1 日齢の雄ラットについて免疫組織化学的方法により行いそれらの局在を調べ た。また BPA 投与により mRNA の変動が認められた catechol-O-methyltransferase(COMT)との共存の有無 を,蛍光二重染色法により検討した。

BPA 投与によって mRNA 発現量が 1/5 以下に減少した遺伝子は,投与6時間後の脳幹で7,視床下部で 6であった。カテコールアミンの代謝に関連する遺伝子のうち,生後 1 日齢の雄ラットへの BPA 投与によ って mRNA 発現量が 1/5 以下に減少した遺伝子は COMT のみであった。COMT と同じくカテコールアミンの代 謝酵素である monoamine oxidase (MAO)については,MAO-A,MAO-B ともに BPA 投与の影響は認められなか った。COMT mRNA は視床下部と脳幹の両部位においてコントロールの脳組織で発現を認め,BPA 投与 2 時間 後には軽度の増加を示したが 6 時間後に両部位で検出限界以下となった。一方,BPA 投与によって 6 時間後 に mRNA 発現量が 5 倍以上に増加した遺伝子は,脳幹で 1,視床下部で 3 であったが,これらは両部位間で 異なっていた。

生後 1 日齢の雄ラットについて,視索前野での ERα ならびに ERβ 陽性細胞の局在を検討したとこ ろ,いずれの免疫陽性細胞についても,視索前野を中心として前部視床下部に発現していたが,ERα 陽性 細胞が明らかに多かった。ERα,ERβ とも細胞核が明瞭に染色されていた。COMT については前部視床下部 全体に弱い免疫陽性反応がみられ,主に細胞の核周囲部に反応が認められたが,個々の免疫陽性細胞の輪 郭は明瞭ではなかった。一方,第 3 脳室を囲む上衣細胞には強い免疫陽性反応がみられ,脳室側が濃く染

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色されていた。また視床下部に存在するミクログリア細胞にも免疫陽性反応がみられた。エストロゲン受 容体と COMT が共存する細胞について,蛍光二重染色による観察では細胞の特徴は明確ではなかった。

新生仔ラットへの BPA 投与後の脳内遺伝子発現に関する以上の知見から,下記の結論を得た。

1.P1 の雄仔ラットへの BPA の投与は,6 時間後において脳幹ならびに視床下部での遺伝子発現に影 響を及ぼし,特に COMT mRNA の発現を著しく抑制した。

2.MAO-A,MAO-B およびチロシン水酸化酵素の脳内 mRNA 発現に関しては,BPA は 17β-estradiol と は異なる作用を示した。

3.BPA による COMT mRNA の発現抑制には,主として ERα との結合を介した遺伝子発現調節メカニズ ムが関与していることが明らかになった。

以上の知見から,BPA による COMT mRNA の発現抑制によって脳内カテコールアミン代謝系が影響を受け,

持続的に COMT 活性が低下した場合には,ドパミンあるいはノルエピネフリンを介する神経伝達に影響を与 える可能性が示された。

参照

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