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論文の内容の要旨
氏名:金 田 孝 之
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:港湾再開発における公民共同の事業誘導手法に関する研究
港湾再開発は、埠頭を含んだエリアの再開発のため、独自の特性を有している。水面に突出した埠頭の 立地条件のため、駅や既存市街地に近接しているが、鉄道・道路・水路でそれらと分断されている。また、
埠頭の機能が十分に生かされるよう、臨港地区制度により厳しい土地利用制限が課せられている。この2 つは、再開発にとって不利な特性である。その反面、港湾事業と都市計画事業により多様な基盤整備手法 に恵まれ、埋め立てによる土地の造成も可能であり、水際線にそったエリアは独自の魅力を有し、再開発 に有利な特性を、港湾再開発エリアは有している。港湾再開発のプロセスは、不利な特性を克服し、有利 な特性を生かす道程である。
この道程は、公だけが歩んだのではなく、民間開発者と協力し、それぞれが利用できる手法を提供し、
新な再開発手法を見出した道程である。筆者は、横浜みなとみらい 21 事業に、計画策定から事業実施まで、
37年間、さまざまなポジションで携わり、また国内の港湾再開発の知見を得る機会をもち、この道程の 独自性を分析することが、必要と考えていた。
このような背景により、研究の目的は、港湾再開発と街区開発の特性および公の役割と民間開発者の役 割の関係性を解明し、民間開発者の事業参入および街区開発の誘導の方法を明らかにしようとするもので ある。日本における港湾再開発を代表する横浜みなとみらい 21、神戸ハーバーランド、小樽築港駅周辺再 開発およびサンポート高松は、市街地に隣接した港湾とその隣接地区を再開発しようとするものであり、
港湾都市の抱えている課題を解決することを要請されていた。港湾事業の活用と都市計画事業の併用によ り護岸・岸壁・道路・緑地を整備し、埋め立て事業と区画整理事業により宅地を生み出し、その宅地で街 区開発を行った。これらの事例で必要とされたのは、インフラ整備と,土地利用規制の緩和および商業・
業務機能の集積であった。インフラ整備と土地利用規制の緩和は公的主体の役割であり、機能集積の主役 は街区の開発を行う民間開発者であり、民間開発者の再開発事業への参入と街区開発の誘導は極めて重要 な課題であった。
本研究の主題となっている港湾再開発とは、①港湾事業の活用と都市計画事業の併用により護岸・岸壁・
道路・緑地を整備し、②埋め立や区画整理事業により面整備を行い、③市街地と隣接し、港湾と都市の空 間・機能の再生を目的とする再開発と定義する。また,公とは、国、県、市、港湾管理者及び住宅都市整 備公団(現都市再生機構)を示し,民とは、港湾再開発事業に参入する民間開発者を示す。公民共同とは、
港湾再開発において、公が整備した基盤と土地利用制限、ならびにその他の公による手法を前提に、民間 開発者が街区開発をその責任において行う場合の、公民の協議、連携、それに基づく役割分担と定義する。
研究の方法は、他事例との比較分析とプロセスの再構成による因果関係の分析によっている。
港湾再開発と計画・事業時期、立地条件、目標に類似性があるが港湾事業による基盤整備を含まないウ ォーターフロント開発(豊洲2、3丁目、ヨコハマポートサイド、幕張新都心及び HAT 神戸)とを比較し、
港湾再開発事業とその街区開発の特性を明らかにした。
公的主体と民間開発者の意思決定に関わるプロセスを再構成し、双方の意思決定の因果関係を分析し、
公の役割と民間開発者の役割の関係性を解明した。これにより、民間開発者の再開発事業参入の条件およ び街区開発誘導の方法を明らかにした。
この二つの分析は、基本構想書、基本計画書、港湾計画書、事業報告書ならびに人口等に関わる統計値 と港湾再開発の公的主体の担当者からのヒアリングによっている。
港湾再開発の研究は、一部の再開発が完了した 2000 年前後からであり、土地利用規制や区画整理に関す るものである。大規模開発の公民共同は、港湾再開発では研究を見出すことが困難であるが、都市開発に おいて、2005 年以降に、いくつかの研究が見られる。2000 年代に入り、港湾再開発における街区開発の過 半が完了し公民共同の研究対象とすることが可能になり、本論文の対象とするものである。以上を第1章 で述べた。
第2章では、港湾再開発の計画特性に関する分析を行い、次の3点が明らかになった。
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① 再開発区域、都心そして都市全体の課題解決が目標とされ、商業・業務を中心とした土地利用となっ ている。
② 公的主体による基盤整備と土地利用転換だけでなく、街区開発のための方法が述べられている。
③ 目標と方法および公民の役割についての合意形成が図られている。
第3章では、港湾再開発事業の分析し、以下の2点が明らかになった。
① 目的、立地条件、規模、開発時期が類似で港湾事業を活用しないウォーターフロント開発と比較して、
駅や既存市街地へのアクセスが劣り、また、開発ポテンシャルも劣る。
② 基盤整備と用途容積の緩和が不可欠であるが、そのための手法は未完成であった。
このため、民間開発者は事業が予定どおり進捗するか否か、その不確定性について懸念を持つが、それ をどのように払拭したのかを以降の4~6章で分析を試みた。
第4章では、横浜みなとみらい 21 と小樽築港駅周辺地区再開発における開発協議のプロセスを分析する ことにより、「公的主体の役割と民間開発者の参入と土地取得の関係」を明らかにした。
民間開発者が参入の方針を決める条件は,次の2点である。
① 物流・工業から商業・業務へ用途地域を転換する基本方針が決定される。
② 道路などの基盤整備を公共事業で実施することが決定される。
民間開発者が用地取得を決める条件は、次の2点である。
① 基盤整備の手法と主体が決まり,法定計画に反映され,事業実施が確実となる。
② 用途容積緩和についての具体的内容が決定される。
第5章では、港湾再開発の4事例と港湾事業を活用しない類似のウォーターフロント開発との比較より、
街区開発の特性を分析し、街区開発の推進手法として以下の手法が有効であることが明らかになった。
(a)港湾事業と街路事業を併用し基盤整備によりアクセスを改善する。
(b)街区開発全体の促進のため、民間提案を出発点に独自性のある「水際線での街区開発」を促進する。
(c)公的主体が公共建築物を先行的に整備する。
第6章では、共同コンペ、街区開発協議、公的主体の調整による街の形成について、4事例のプロセス を分析し、次の3点が公民共同にとって重要であることが明らかになった。
① 基本計画確定前からの尐数の地権者と公的主体の共同により安定的に開発を推進する。
② 公民協議で提案された民間提案に対し公的主体がその意図するところを実現する。
③ 公的主体が状況に即した主体的役割を果たす。
これにより、すぐれた開発と公共空間の実現が可能となることが明らかになった。
第7章では、以上で述べたことの結論として、以下に示す公民共同による港湾再開発の事業誘導手法を 提案した。
(1)公的主体が民間開発者参入の基本的枠組みをつくる。
(a) 港湾事業と街路事業を併用し、駅や近隣市街地へのアクセスを向上
(b) 臨港地区の解除と用途容積の緩和
(c) 街の形成のため、街区開発誘導を公的主体の責任で実施
(2)民間開発者の自主性を前提に、公民共同による優れた公共性のある開発を実現する。
(a)水際線に面した街区では、公の基本計画と民間の提案を出発点に、独自性のある事業を実現
(b)主たる尐数の民開発者と公的主体との協議の枠組みをつくり、民間の開発主体の意図を実現
(3)公的主体が大きな役割を担い、変化へ対応していく。
(a) 基盤整備を受益者負担から公共事業で推進することに移行
(b) 臨港地区解除や用途容積緩和の方法は、それぞれの再開発ごとに工夫
(c) 街の形成では、調整者としての公的主体の働きが必要
(d) 経済環境の変化には、街区開発についての方針転換が必要
(4)上記の(1)~(3)の事業誘導手法は、公的主体の大きな役割に依拠するが、目標と手法につい て合意形成を得た基本構想、基本計画が、公的主体の大きな役割をサポートするガイドラインとしての機 能を果たす。
これらの方法は、上記(1)~(4)に述べた個々の手法を活用することにより、開発規模やマーケッ トの動向に関わらず有効と考えられ、次のような課題に適用されることが考えられる。
① 事業継続中の港湾再開発の安定的推進
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② 再整備が不可避の都心港湾空間の再生
③ クルーズ・観光による地域活性化、港湾空間再編の新たなニーズへの対応
④ 我が国の港湾空間開発方式の国際展開