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Vol.36 , No.2(1988)009〓 弘信「往還二種回向について」

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序 親 驚 に お け る 仏 教 の 学、 す な わ ち 学 仏 道 の 特 色 は、 ﹁ 一 切 苦 悩 の 群 生 海 ﹂ と 語 ら れ る 人 間 の 課 題 性 を、 い わ ゆ る 機 の 深 信 の 自 覚 内 容 と し て、 徹 頭 徹 尾 内 観 凝 視 し た こ と に あ る。 そ の ﹁ 一 切 苦 悩 の 群 生 海 ﹂ と は、 あ る 一 つ の 命 題 に よ っ て 統 括 的 に 定 義 付 け ら れ、 美 化 さ れ た 観 念 的 大 衆 像 で は な く、 ﹁ 屠 沽 の 下 類 ﹂、 す な わ ち ﹁ う み か わ に あ み を ひ き、 つ り を し て、 世 を わ た る も の ﹂ ﹁ 野 や ま に、 し し を か り、 と り を と り て、 い の ち を つ な ぐ と も が ら ﹂ ﹁ あ き な い を も し、 田 畠 を つ く り て す ぐ る ひ と ﹂ と 呼 ん で、 親 鶯 自 身 が ﹁ わ れ ら ﹂ と し て そ の 只 中 に 生 き た ﹁ い な か の ひ と び と ﹂、 種 々 雑 多 な 生 活 相 と 日 常 関 心 を 持 っ て 千 変 万 化 の 日 々 に 煩 悶 憂 苦 す る ﹁ 具 縛 の 凡 愚 ﹂ と 呼 ば れ る、 い わ ゆ る 生 活 者 で あ っ た。 そ し て、 そ の 生 活 相 の 凝 視 を 通 し て、 凡 愚 の 機 の 根 源 的 課 題 性 ( 自 力 の 執 心) を 超 克 す る 道 と し て の 本 願 の 仏 道、 す な わ ち 本 願 を 依 止 と し て 凡 愚 の 機 の 上 に 展 開 す る 無 上 仏 道、 誓 願 一 仏 乗 を 開 顕 す る と い う 教 学 的 営 為 に こ そ、 仏 者 親 鶯 の 仏 事 の 眼 目 が あ る と 言 え よ う。 し た が っ て 親 鷲 が 語 る い か な る 教 学 的 命 題 も、 そ こ に 必 ず 人 間 生 活 の 現 実 相 が、 何 に も ま し て 教 学 の 素 材 と し て、 凝 視 さ れ て い る と 思 わ れ る。 ま た、 親 鶯 の 眼 に 映 る 人 間 像 と は、 た だ 単 に そ れ を 客 観 的 に 分 析 評 価 し た も の と い う よ り も、 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ ﹁ 信 巻 ﹂ 三 一 問 答 に、 ク ラ シ ヨ リ タ マ テ ニ エ ワ 反 ア セ 一 切 群 生 海、 自 二 従 無 始 一 已 来 乃 至 今 日 至 二 今 時 繊 悪 汚 ケ カ ラ ハ シ ヲ 反 ニ シ テ シ ノ ニ シ テ シ ノ ヲ テ ヒ ソ シ テ 染 無 二 清 浄 心 虚 仮 諮 偽 無 二 真 実 心 殉是 以 如 来 悲 訓 欄 一 切 苦 ソ ム ヘ ツ ラ ウ ア ワ レ フ ノ ヲ 悩 群 生 海 と 語 ら れ る 如 く、 法 蔵 因 位 の 願 心 の 如 実 知 見 と 等 し い 意 味 を 持 つ、 機 の 深 信 の 自 覚 内 容 で あ る。 言 わ ぱ ﹁ 本 願 を 信 じ、 念 仏 を 申 さ ば 仏 に な る ﹂ と い う 端 的 な 教 言 の 道 理 を、 仏 教 の 伝 統、 学 問 方 法 や 言 語 表 現 に の っ と り、 人 間 の 自 我 構 造 に 対 峙 さ せ て 開 示 し た も の が、 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ を 始 め と し た 親 鶯 に お 印 度 學 佛 敢 學 研 究 第 三 十 六 巻 第 二 號 昭 和 六 十 三 年 三 月 五 三

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-534-往 還 二 種 回 向 に つ い て ( 龍谷) 五 四 け る 数 多 く の 著 作 で あ る。 今 回 私 は、 往 還 二 種 回 向 を、 特 に ﹁ 信 巻 ﹂ 欲 生 釈 の 二 種 回 向 の 文 ( ﹃ 浄 土 論 註 ﹄ 下 巻 ﹁ 起 観 生 信 章 ﹂ の 引 文) を 題 材 と し て、 考 察 す る の で あ る が、 そ れ を 通 し て、 親 鷲 が 見 出 し た 人 間 の 課 題 性 と そ の 超 克 の 道 に 尋 ね 入 り た い と 思 う。 周 知 の 如 く、 親 鷲 は、 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ ﹁ 教 巻 ﹂ 壁 頭 の 文、 通 称 ﹁ 真 宗 大 綱 ﹂ の 文 に、 次 の よ う に 語 っ て い る。 テ ス ル ニ ヲ リ ノ ニ ハ ニ ハ ナ リ テ ノ 謹 案 二 浄 土 真 宗 一 有 三 一種 回 向 刃 一 者 往 相、 二 者 還 相。 就 二 往 相 回 ニ リ ノ 向 一有 二真 実 教 行 信 証 幻 こ の 一 文 か ら、 往 還 二 種 回 向 と い う 問 題 が、 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ に お け る 親 鶯 の 教 学 的 課 題、 浄 土 真 実 の 教 行 証 の 開 顕、 言 い 換 え れ ば、 浄 土 真 実 の 教 行 信 証 の 四 法 に よ っ て 表 現 さ れ る 浄 土 真 宗 な る 仏 道 の 開 顕 と い う 親 鶯 の 生 涯 全 体 を 貫 く 思 想 的 課 題 の、 非 常 に 大 き な 位 置 を 占 め る こ と が 容 易 に 知 ら れ る。 こ の 二 種 回 向 に 関 す る 通 説 的 な 了 解 は ど う か と 言 え ば、 山 辺 習 学 ・ 赤 沼 智 善 の、 聖 人 の 義 に 従 え ば、 二 種 廻 向 の う ち、 往 は 往 生 浄 土 で、 還 は 還 来 稼 国 度 人 天 で あ る。 相 は 相 状 の 義 で す が た と い う こ と で あ る。 往 相、 還 相 と い う は 衆 生 に 属 し、 廻 向 は 弥 陀 如 来 の 方 に 属 す る。 浄 土 に 往 生 し、 繊 国 に 還 来 し て 人 天 を 度 す る 力 用 を 弥 陀 如 来 よ り 我 ( 1) 等 衆 生 に 廻 転 趣 向 し て 下 さ れ た が 二 種 廻 向 で あ る。 と い う 文 に 代 表 さ れ る よ う に、 浄 土 に 往 生 し て 浬 架 を 超 証 し、 そ の 後、 還 来 繊 国 し て 自 在 に 利 他 教 化 を 行 う と い う 了 解 ( 2) で あ り、 多 く の 講 録 が こ の 了 解 を 採 っ て い る。 ま た、 そ れ に 対 し て、 星 野 元 豊 の よ う な、 正 定 聚 位 の 菩 薩 は 一 生 補 処 に あ る も の と し て、 往 相 位 に お い て は 正 定 聚 で あ る が、 そ れ は ま た 還 相 の 出 発 点 で も あ る の で あ る。 法 ( 3) 性 生 身 と し て 機 に 応 じ て 一 切 衆 生 を 教 化 す る の で あ る。 と い う、 い わ ゆ る 往 相 即 還 相 と い っ た 主 張 も な さ れ て い る。 い ず れ の 了 解 に お い て も、 往 還 は 如 来 の 本 願 力 回 向 に よ っ て 衆 生 ( 行 者) の 身 に 成 就 す る 二 種 の 功 徳 相 と い う こ と が 基 本 ( 4) 的 理 解 で あ る と 思 わ れ る。 確 か に、 ﹃ 論 註 ﹄ 下 巻 に 曇 驚 の 開 示 す る 五 念 門 五 功 徳 門 に お い て は、 文 の 顕 義 に 従 え ば、 往 相 は、 行 者 の 往 生 の 行 と し て の 回 向 で あ り、 還 相 は、 五 念 門 を 行 じ て 得 生 見 仏 し て 彼 の 土 に お い て 如 実 に 奢 摩 他 毘 婆 舎 那 を 行 じ て 柔 軟 心、 方 便 力 を 成 就 し た 浄 土 の 菩 薩 の 巧 方 便 回 向 で あ り、 そ れ ら を 支 え る 増 上 縁 が 阿 弥 陀 如 来 の 本 願 他 力 で あ る、 と 了 解 出 来 る で あ ろ う。 し か し、 親 鷲 自 身 の 二 種 回 向 了 解 は 果 し て そ う で あ ろ う か。 往 相 が 如 来 回 向 に よ っ て 行 者 の 上 に 成 就 す る 往 生 浄 土 の 相 で あ る こ と は ま ず 疑 い が な い。 し か し、 還 相 回 向 は ど う

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か。 少 な く と も ﹃ 教 行 信 証 ﹄ に お い て、 往 還 の 主 語、 殊 に 還 相 回 向 の 主 語 に つ い て の 明 確 な 指 示 は な い。 言 い 換 え れ ば、 還 相 回 向 と い う 主 題 を 語 る 時、 そ れ が 行 者 の 還 相 で あ る と 明 ( 5) 記 し た 箇 所 は ど こ に も な い、 と 私 は 考 え る。 ま た、 往 相 回 向 の 信 を 問 題 と す る ﹁ 信 巻 ﹂ の 欲 生 釈 に お い て、 二 種 回 向 を 語 る ﹃ 論 註 ﹄ ﹁ 起 観 生 信 章 ﹂ の 回 向 門 の 釈 文 全 文 が、 訓 点 を 変 え て 引 か れ て い る。 諸 先 輩 方 の 多 く は、 如 来 の 回 向 に よ っ て 衆 生 に 成 就 す る 往 還 の 二 相 を 論 述 す る も の で あ る と 了 解 さ れ て い る が、 果 し て そ う で あ ろ う か。 二 私 は、 往 還 を 衆 生 の 二 相 に 限 定 す る の に 違 和 感 を 感 じ る、 親 驚 自 身 の 発 言 を 目 に す る。 今 そ の い く つ か を 挙 げ れ ば、 ﹃ 浄 土 三 経 往 生 文 類 ( 広 本) ﹄ ( 八 + 五 歳 書 写) の 如 来 の 二 種 の 廻 向 に よ り て、 真 実 の 信 楽 を う る 人 は、 か な ら ず 正 定 聚 の く ら ゐ に 住 す る が ゆ へ に、 他 力 と ま ふ す な り。 あ る い は ﹃ 正 像 末 法 和 讃 ﹄ ( 草 稿 本) の 如 来 二 種 の 廻 向 を ふ か く 信 ず る 人 は み な 等 正 覚 に い た る ゆ へ 憶 念 の 心 は た え ぬ な り に 見 ら れ る、 い わ ゆ る ﹁ 二 種 回 向 に 値 遇 す る ﹂ と い っ た 表 現 が そ れ で あ る。 私 は、 往 還 二 種 回 向 と は、 如 来 回 向 に よ っ て 衆 生 に 成 就 す る 二 種 の 相、 い わ ゆ る﹁ 回 向 二 種 相 ﹂ で は な く、 衆 生 の 往 相 の 信 心 を 成 就 せ し め る、 如 来 の 本 願 力 回 向 自 体 に 二 種 の 相 が あ る、 如 来 の 回 向 心 は 二 種 の 相 の 回 向 に よ っ て 具 体 的 に 表 現 さ れ る、 と 了 解 す べ き で は な い か と 考 え る。 そ し て、 そ の 如 来 の 二 種 回 向 と の 値 遇 に よ っ て 信 心 獲 得 し て、 ﹃ 正 像 末 和 讃 ﹄ に よ れ ば 二 種 回 向 を 深 信 し て、 正 定 聚 に 住 し て 生 死 流 転 を 超 過 す る こ と を 得 る と い う 事 実 を、 こ れ ら の 文 が 物 語 っ て い る と 私 に は 読 め る。 殊 に 親 鷲 晩 年 の 著 作 ( 善 鷺 事 件 を 境 に 製 作、 再 治 さ れ た ﹃ 正 像 末 法 和 讃 ﹄、 ﹃ 浄 土 三 経 往 生 文 類 ﹄ ( 広 本)、 ﹃如 来 二 種 回 向 文 ﹄ 等) を 読 む 時、 こ の 了 解 が 顕 ( 6) 著 に 現 れ て い る と 思 わ れ る。 ﹁ 教 巻 ﹂ が そ の 冒 頭 に、 二 種 回 向 を ﹁ 謹 案 浄 土 真 宗 有 二 種 回 向 ﹂ と 表 現 す る の に 較 べ、 ﹃ 如 来 二 種 回 向 文 ﹄ ( 八 十 五 歳 書 写) の 冒 頭 に は、 ﹃ 浄 土 論 ﹄ 長 行 の 第 五 回 向 門 の 文 に 続 い て、 こ の 本 願 力 の 廻 向 を も て 如 来 の 廻 向 に 二 種 あ り。 と 語 っ て い る。 さ ら に、 還 相 回 向 に つ い て 言 及 す る 中 に、 ﹁ 出 第 五 門 ﹂ の 語 の 左 訓 に、 こ れ は こ れ ご ね む も ん ( 五 念 門) の う ち に ゑ か う も ん ( 回 向 門) な り こ れ は み だ に よ ら い ( 弥 陀 如 来) の り た ( 利 他) の ゑ か う ( 回 向) な り と 記 さ れ て あ る。 ま た、 往 還 二 種 回 向 に つ い て ( 朧) 五 五

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-536-往 還 二 種 回 向 に つ い て ( 朧) 五 六 ハ シ テ ノ ヲ ノ シ タ マ ヘ リ テ ウ サ イ コ フ ニ ニ 菩 薩 入 出 五 種 門 自 利 利 他 行 成 就。 不 可 思 議 兆 載 劫、 漸 次 成 ニ シ タ マ ヘ リ ノ ヲ ノ ト キ シ コ ノ ヲ タ テ タ マ ヒ キ ノ ヲ 就 五 種 門 幻 ( 中 略) 無 擬 光 仏 因 地 時、 発 二 斯 弘 誓 一 建 二 此 願 殉 と し て、 五 念 門 の 行 を 法 蔵 菩 薩 の 因 位 の 永 劫 修 行 と 押 え て い る ﹃ 入 門 二 門 偶 碩 ﹄ 法 雲 寺 本 ( 八 十 三 歳 書 写) で は、 そ の 出 第 五 門 を 次 の よ う に 述 べ て い る。 ノ ト イ フ ハ イ カ ソ ガ エ ヵ ウ シ タ マ フ ニ シ タ マ ヒ キ ザ レ ハ ス テ タ マ ハ ノ ヲ 菩 薩 出 第 五 門 者、 云 何 回 向。 心 作 願。 不 二 捨 苦 悩 一 切 衆 回 ヲ シ テ ト エ タ マ ヘ ル ガ ス ル コ ト ヲ ヲ ニ シ タ マ フ ヲ ジ ノ ニ テ ニ エ 向 為 二 首 一得 三 成 二 就 大 悲 心 一故、 施 二 功 徳 殉 生 二 彼 土 一巳 速 疾 得 ニ シ ヤ マ タ ピ パ シ ヤ ナ ゲ ウ ヲ テ テ オ ソ ニ シ メ シ ヲ 奢 摩 他 毘 婆 舎 那 巧 方 便 力 成 就 一已、 入 二 生 死 園 煩 悩 林 示 二 応 化 身 一 テ ニ テ ニ シ タ マ フ ヲ ヲ ナ ヅ ク ト ル ナ リ ユ ゲ 遊 二 神 通 一至 二教 化 地 一利 二 群 生 幻 即 是 名 二 出 第 五 門 入 二 園 林 遊 戯 ヂ ニ ノ ノ ヲ ニ ノ シ タ マ ヘ リ ベ シ シ ル 地 門 殉 以 二本 願 力 回 向 一故、 利 他 行 成 就、 応 二 知。 こ れ ら は 明 ら か に、 ﹁ 出 第 五 門 ﹂ を 如 来 の 利 他 回 向、 す な わ ち 法 蔵 菩 薩 の 利 他 の 行 成 就 と 了 解 し、 回 向 の 具 体 相 と し て、 ﹁功 徳 を 施 し た ま う ﹂ と い う 往 相 の 回 向 と、 ﹁ 彼 の 土 に 生 じ 已 っ て、 ﹂ ﹁ 生 死 園 煩 悩 林 に 入 り て、 応 化 身 を 示 し て、 ﹂ ﹁ 群 生 を 利 し た ま う。 ﹂ と い う 法 蔵 菩 薩 自 身 の 還 相 の 回 向、 す な わ ち 如 来 の 二 種 回 向 を 語 っ て い る も の と 思 わ れ る。 こ の よ う な 親 鶯 の 思 想 表 現 を 手 掛 り に、 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ そ の も の に 立 ち 返 り、 先 程 指 摘 し た ﹁ 信 巻 ﹂ 欲 生 釈 の ﹃ 論 註 ﹄ 二 種 回 向 の 文 を 考 え る と、 欲 生 釈 に 展 開 す る 本 願 の 欲 生 心 と は、 ﹁ 回 向 を 首 と し て 大 悲 心 を 成 就 す る こ と を 得 た ま え る ﹂ 心。 す な わ ち 回 向 と い う 具 体 的 表 現 方 法 を も っ て 諸 有 の 群 生 海 を 招 喚 し、 衆 生 の 上 に 願 生 心 を 成 就 せ ん と す る 根 源 的 な 如 来 大 悲 の 願 心。 つ ま り 三 一 問 答 字 訓 釈 で 語 ら れ る と こ ろ の ﹁ 大 悲 回 向 心 ﹂ で あ る と 言 え よ う。 そ し て、 真 実 清 浄 の 回 向 心 無 き 一 切 群 生 海 を 衿 哀 し て、 そ の 衆 生 の 上 に 利 他 真 実 の 欲 生 心 を 回 施 す る の が、 ﹃ 大 経 ﹄ ﹁ 本 願 の 欲 生 心 成 就 の 文 ﹂ に 開 示 さ れ る 如 来 の ﹁ 至 心 回 向 ﹂ で あ り、 そ の、 一 念 の 浄 信 の 根 拠 で あ る 如 来 の 回 向 そ の も の に 往 還 二 種 の 相 の あ る こ と を 示 す も の が、 ﹁ ﹃ 浄 土 論 ﹄ に 曰 く ﹂ と し て 引 か れ る ﹃ 論 註 ﹄ 二 種 回 向 の 文 で あ ろ う。 シ タ マ ヘ ル ス シ テ テ ノ ヲ ニ ニ ス ラ ク ヘ ヘ ヲ ヘ シ テ ヘ ト 云 何 回 向。 不 三 捨 二 切 苦 悩 衆 生 一 心 常 作 願、 回 向 為 二 首 一 ヘ エ タ マ ヘ ル カ ヘ ヘ コ ト ヲ ヘ ヘ ヘ ヲ ヘ ニ ト ノ タ マ ヘ リ ヘ ヘ ニ ヘ リ ヘ ヘ ノ ヘ ハ 得 三 成 二 就 大 悲 心 一故、 回 向 有 三 一種 相 殉 ( 中 略) 若 ハ ニ ト ノ タ マ ヘ リ テ ヲ セ ム カ ヲ 往、 若 還、 皆 為 下 抜 二 衆 生 一渡 中 生 死 海 加 (傍 点 筆 者) こ こ に、 本 願 の 欲 生 心 の 具 体 的 表 現 と し て の 二 種 回 向、 往 還 二 種 の 相 の 回 向 を 実 働 態 と し て 衆 生 の 願 生 心 を 成 就 す る 本 願 の 欲 生 心、 願 生 心 に お い て 欲 生 心 の 現 行 態 と し て 仰 が れ る 二 種 の 回 向 と い う 理 解 が 成 り 立 つ。 そ し て そ れ は 言 葉 を 換 え れ ば、 前 述 し た 二 種 回 向 と の 値 遇 に よ る 信 心 獲 得、 如 来 の 本 願 力 ( 二 種) 回 向 成 就 の 信 心 と し て 表 現 さ れ る の で あ る。 ハ テ オ ノ レ カ ヲ シ タ マ ヒ テ ニ シ テ ニ セ シ メ タ マ フ ナ リ 往 相 者、 以 二 己 功 徳 一回 二 施 一 切 衆 生 作 願 共 往 二 生 ノ ノ ニ ハ シ ノ ニ ハ リ テ テ 彼 阿 弥 陀 如 来 安 楽 浄 土 殉 還 相 者、 生 二彼 土 一已 得 二 奢 摩 他 毘 婆 舎 那 ス ル コ ト ヲ シ テ ノ ニ シ テ ヲ ニ ヘ シ メ タ マ フ ナ リ 方 便 力 成 就 回 二 入 生 死 稠 林 教 二化 一 切 衆 生 一共 向 二 仏 導 往 相 回 向、 す な わ ち 衆 生 を 往 生 せ し め ん と す る 如 来 の 真 実

(5)

功 徳 の 回 施 と は、 因 位 の 永 劫 修 行 の 成 就 で あ る 本 願 の 名 号 の 施 与 で あ り、 還 相 回 向 と は、 彼 の 国 に 生 じ 巳 っ て 奢 摩 他 毘 婆 舎 那 広 略 修 行 に よ っ て 巧 方 便 力 を 成 就 し た、 浄 土 の 菩 薩 の 還 来 繊 国 の 応 化 身 と し て の 宗 教 的 人 格、 及 び そ の 教 説 に 具 体 的 に 成 就 す る 如 来 自 身 の 還 相 の 回 向 で あ る。 こ れ ら の 回 向 と の 値 遇 に よ っ て 成 り 立 つ も の が 衆 生 の 本 願 の 信 心 で あ り、 ﹁ 信 巻 ﹂ の 次 第 に 従 っ て、 異 見 異 学 別 解 別 行 の 人 等 に 動 乱 破 壊 さ れ ざ る 金 剛 心、 さ ら に は 願 作 仏 心 度 衆 生 心 の 大 菩 提 心 と し て 確 認 さ れ て い く、 欲 生 心 成 就 と し て の 衆 生 の 願 生 心 で あ る。 三 こ こ で 問 題 と 思 わ れ る の は、 信 心 獲 得 に 何 故 往 相 還 相 の 二 種 の 回 向 が 不 可 欠 の 契 機 と な る の か、 言 い 換 え れ ば、 二 種 回 向 と の 値 遇 に お い て、 信 心 が 大 信 心 た る、 い か な る 質 を 確 保 す る の か で あ る。 本 論 冒 頭 に 述 べ た こ と で あ る が、 親 轡 ⋮に お い て は い か な る 教 学 的 命 題 も 人 間 の 課 題 に 根 源 的 に 応 答 す る も の で あ り、 親 鶯 の 目 に 映 る 課 題 は、 同 時 に 因 位 法 蔵 に お い て 見 出 だ さ れ た も の、 つ ま り 法 蔵 発 願 の 必 然 的 契 機 と な っ た も の で あ る。 そ の 法 蔵 発 願 の 契 機 と は、 欲 生 釈 に 語 ら れ て い る、 ニ ノ シ ニ ヘ ウ モ チ シ テ ニ シ ノ 然 微 塵 界 有 情、 流 二 転 煩 悩 海 ↓ 漂 二 没 生 死 海 ↓ 無 二 真 実 回 向 心 ↓ タ タ ヨ ウ シ ノ 無 二清 浄 回 向 心 殉 こ れ こ そ が 因 位 法 蔵 を し て、 往 還 二 種 の 回 向 成 就 を 誓 わ せ た 人 間 の 課 題 で あ る。 人 間 の 回 向 心 に お け る 不 真 実 不 清 浄 の 問 題 が 何 故 二 種 回 向 に よ っ て 答 え ら れ ね ば な ら な い の か。 そ れ は 還 相 回 向 の 意 味 を 推 究 す る こ と に よ っ て 明 ら か に な る と 思 わ る。 如 来 の 還 相 回 向 に お い て 語 ら れ る も の は、 い わ ゆ る ﹁ 本 願 為 宗、 名 号 為 体 ﹂ の 真 実 教 と し て の ﹃ 大 無 量 寿 経 ﹄ と の 値 遇、 ﹃ 大 経 ﹄ の 名 で 語 ら れ る 本 願 と 名 号 の 開 顕 の 歴 史 と の 値 遇 で あ る。 即 ち 往 相 の 出 発 点 で あ る そ の 遇 教 体 験 に お い て、 真 実 教 の 上 に 釈 迦 諸 仏 の 出 世 本 懐 経、 さ ら に は 如 来 還 相 回 向 の 応 化 身 の 遊 戯 神 通 説 法 と い う 意 味 を 尋 ね 当 て た も の が 親 鶯 の 還 相 回 向 観 で あ る と 思 わ れ る。 往 相 の 回 向 と の 値 遇、 す な わ ち 回 心 の 体 験 に よ っ て、 命 終 往 生 の 欣 慕 性 を 捨 離 し た 難 思 議 往 生 の 歩 み が 開 始 さ れ る の で あ る が、 難 思 議 往 生 に お け る 大 き な 課 題 で あ る 春 族 功 徳 の 行 ク ニ ノ ト セ ム ニ 証、 言 い 換 え れ ば ﹁ 普 共 二 諸 衆 生 ↓ 往 二 生 安 楽 国 こ の 課 題 を、 荷 負 す る 契 機 と な る の が 還 相 回 向 と の 値 遇 で あ る。 難 思 議 往 生 が、 真 の 意 味 で 無 上 仏 道、 必 可 超 証 大 浬 契 道 を 成 就 す る 為 に は、 大 乗 菩 薩 道 に お い て 利 他 と 表 現 さ れ た 教 化 の 課 題 の 実 践 が 不 可 欠 で あ る。 信 心 の 獲 得 に こ の 還 相 回 向 の 歴 史、 具 体 的 に は 眼 前 の 発 遣 す る 宗 教 的 人 格、 そ れ と の 値 遇、 す な わ ち 如 来 の 還 相 の 願 心 と の 感 応 道 交 な し に は、 願 生 浄 土 に お け る 往 還 二 種 回 向 に つ い て ( 朧) 五 七

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-538-往 還 二 種 回 向 に つ い て ( 罐) 五 八 ﹁普 共 諸 衆 生 ﹂ の 心 は 不 明 瞭 で あ り、 そ の 個 人 的 安 逸 性 を 超 克 し 得 な い も の と 思 わ れ る。 往 還 二 種 回 向 成 就 の 願 生 心 に お い て こ そ、 曇 鷺 に お い て は 為 楽 願 生 と 語 ら れ、 大 乗 菩 薩 道 の 伝 統 に お い て は 堕 二 乗 地 も し く は 七 地 沈 空 の 難 と 語 ら れ た、 仏 道 に お け る 個 人 的 安 逸 性 へ の 退 転 を 超 え た 無 上 仏 道 と し て の 願 生 道 が 成 り 立 つ も の と、 私 は 考 え る。 そ の 願 生 心 に お い て 行 じ ら れ る も の が 自 信 教 人 信 で あ り、 そ こ に 初 め て 願 生 心 が 願 作 度 生 の 大 菩 提 心 と し て の 意 味 を 有 す る と 言 え よ う。 こ こ に、 ﹃ 大 乗 義 章 ﹄ 三 種 回 向 に お い て は 菩 提 回 向 ( 自 利)、 衆 生 回 向 ( 利 他) を 内 実 と す る 実 際 回 向 と 語 ら れ た、 春 族 功 徳 の 行 証 を 内 実 と し た 難 思 議 往 生、 回 向 心 か ら 言 え ば、 真 実 報 土 の 往 生 を 成 立 せ し め る 真 実 清 浄 の 回 向 心 が 成 就 す る の で あ る ま た そ の 願 生 心 に お い て、 任 運 無 功 用 に 衆 生 を 教 化 度 脱 せ し む る 浄 土 の 菩 薩 の 還 相 は、 往 相 の 度 衆 生 心 を あ え て 法 蔵 の シ テ ヲ セ シ ム ル ニ ナ リ 願 心 そ の も の を 表 わ す ﹁ 摂 二 取 衆 生 一生 二 安 楽 浄 土 一 心 ﹂ と ス 表 現 し た こ と か ら も 知 ら れ る よ う に、 往 相 に お い て は ﹁ 尽 ニ ヲ 未 来 際 こ の 遙 か な 志 願 と し て、 ま た 純 粋 未 来 と し て 成 就 を 確 信 さ れ た、 無 上 浬 契 の 利 益 と し て 仰 が れ る の で あ る と、 私 は 考 え る。 そ し て そ れ は ﹁ 小 慈 小 悲 も な き 身 ﹂ と の 有 情 利 益 の 断 念 に お い て 欣 慕 す る、 実 在 的 な 来 生 の 利 益 と し て と い う よ り も、 必 ず、 無 量 光 明 土 に 至 っ て 諸 有 の 衆 生 を 皆 普 く 化 す る べ き 往 相 道、 そ れ を 確 信 せ し め る よ う な 確 か な 往 相 道 が、 言 わ ば 如 来 の 還 相 回 向 に 支 え ら れ て、 ﹁ わ れ ら ﹂ の 上 に 成 立 す る こ と を 示 し て い る と 思 う の で あ る。 1 ﹃ 教 行 信 証 講 義 ・ 教 行 の 巻 ﹄ 九 一 頁 2 近 年 注 目 さ れ 始 め た ﹃ 真 宗 相 伝 義 書 ﹄ に お い て、 こ れ ら の 了 解 は ﹁ 機 に 立 つ 領 解 で あ り、 往 還 は 如 来 の 自 利 利 他 で あ る ﹂ ( 要 約) と い う 指 摘 が な さ れ て い る が、 ﹃ 相 伝 義 書 ﹄ に 関 し て は 未 検 討 の 為、 今 回 は 論 究 し な い。 3 ﹃ 教 行 信 証 ﹄ ( 法 蔵 選 書 40) 一 〇 一 頁 4 前 者 に 対 し て は 未 来 往 生 的 往 生 理 解、 実 在 的 浄 土 観 に、 後 者 に 対 し て は 逆 に、 近 代 的 生 死 観 に よ る 来 世 否 定 へ の 疑 問 を 抱 か ず に い ら れ な い。 特 に 後 者 の、 往 相 の 行 者 イ コ ー ル 還 相 の 菩 薩 と い う 了 解 は、 紙 数 の 関 係 上、 詳 説 は 避 け る が、 ﹁ 証 巻 ﹂ 還 相 回 向 釈 に 語 ら れ る ﹁ 畢 寛 与 上 地 諸 菩 薩 身 等 法 等 ﹂ の ﹁ 畢 寛 平 等 ﹂ ( 丼 ﹁ 即 等 ﹂) と い っ た 思 想 表 現 に 対 す る 短 絡 的 な 了 解 が 感 じ ら れ る。 レ ハ ニ ノ ク ス ト イ ヘリ 5 ﹁ 正 信 念 仏 偶 ﹂ の ﹁ 必 至 二 無 量 光 明 土 一諸 有 衆 生 皆 普 化 ﹂ 等 の 表 現 は 文 脈 上、 無 量 光 明 土 に 到 り て 証 す る ﹁ 大 般 浬 繋 ﹂ の 利 益 で あ り、 往 相 に お い て 期 す る 志 願 も し く は 確 信 を 語 る も の と 考 え ら れ、 少 な く と も、 還 相 回 向 の 主 題 そ の も の に 言 及 し て は い な い と 考 え る。 6 親 鷺 に お い て 全 く 行 者 の 往 還 二 相 的 了 解 が な い わ け で は な い (﹃ 浄 土 和 讃 ﹄ ﹁ 讃 阿 弥 陀 仏 偶 和 讃 ﹂ 第 十 五 首、 ﹁ 浄 土 高 僧 和 讃 ﹄ ﹁ 曇 鷺 讃 ﹂ 第 十 四 首 等 の 左 訓 い ず れ も 初 稿 本 参 照) が、 二 種 回 向 に よ っ て 語 ら れ る 主 題 が、 善 鷺 事 件 を 契 機 と し て、 如 来 の 二 種 回 向 へ と 移 行 し て い る と 思 わ れ る。 < キ ー ワ ー ド > 回 向、 親 鷺、 往 還 二 種 回 向 ( 大 谷 大 学 特 別 研 修 員)

参照

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