第 2 章
手術支援システムの要求仕様
2.1 本章の位置付け
2.2 手術支援システムの形態 2.3 対象とする手術症例の概要
2.4 手術支援システム構築ための条件
2.5 手術支援システム構築にむけた使用機器の検討 2.6 本章のまとめ
2.1 本章の位置付け
序章において立てた研究方針に基づき,①臓器の位置および姿勢に関する定量化,
②臓器の挙動に関する定量化を行うシステムの構築を行う.特に,心臓血管外科領 域の 2 つの手術,①大動脈瘤置換術,②左室形成術を選定し,具体的なシステムを 構築する.
本章では,それぞれの手術手技に関して概説した上で,その設定条件を列挙し,
システムの要求仕様を明らかにする.また,これまでの手術支援システムに用いら れてきた,計測器や支援形態について分類し,条件を満たす計測機器を選定し,シ ステムの枠組みを決定する.
2.2 手術支援システムの形態
ある物体の時間に伴う動きを捉えるということは,全体において,①位置・姿勢,
②動きの定量化という工学的視点で論じることができる.外科手術においては,①は 骨や臓器,血管といった器官の 3 次元的な位置関係を明示すること,②は正常部位 と病態との違いを差別化することと見方をかえることができる.その対応を Table 2.1に示す.特に,心臓血管外科領域の手術で考えるならば.①の臓器の位置・姿勢 を明らかにすることが求められる治療法には大動脈瘤置換術が,②の臓器そのもの の状態を明らかにすることが求められる治療法には左室形成術が考えられる.
①の大動脈瘤置換術では,大動脈瘤を切除し,人工血管を吻合する際に,脊髄に つながる肋間動脈を温存するという手技が行われる.この際に,隣接する肋間動脈 の位置・走行を正確に特定することが目的である.一方,②の左室形成術において は,心筋梗塞後に瘤となり,挙動不全状態となる部位を切除し,形を整えるという 手術が行われる.この際の局所の心筋の挙動を特定することが目的である.
以下では,この概念に基づき,それぞれの手技の概要を述べ,情報呈示システム の要求精度を決定した上で,使用機器を検討するまでを述べる.
Table 2.1 Two approaches for quantification of dynamic behavior Approach ① Detection of
Position and Posture
② Differentiation of Regional Movement Disease (Thoracoabdominal)
Aortic Aneurysm Left Ventricular Aneurysm Surgical
Procedure Graft Replacement Left Ventricular Plasty Target Intercostal artery connected to
medulla spinalis Low contracting local cardiac muscle
2.3 対象とする手術症例の概要
2.3.1 大動脈瘤の人工血管置換術
(i) 大動脈瘤の概要
大動脈は心臓から送られる血液が全身を循環するときに通る体内で最も大きな径 をもつ血管である.正常な大動脈の直径は胸部で30mm,腹部で15mm程度であるが,
その一部がこぶのように膨らんだものを大動脈瘤という.これが一度破裂すると体 内で大出血を起こし,出血性ショック症状に陥る.そこで破裂を未然に防ぐため,
瘤付近の血管を人工血管に置換する手術が行われる.Fig.2.1の(a)は胸腹部に大動 脈瘤がある患者の人工血管置換前の様子である.大動脈がこぶ状に膨らみ,体内に 広がっていることが確認できる.Fig.2.1 の(b)は(a)と同一患者の瘤を人工血管 へ置換した際の体内の様子である.この大動脈を一部切除し,ダクロンなどの耐久 性の高い素材でできている人工血管に取り替える.分岐している血管は肋間動脈に 吻合するのに用いる.
(a) Before operation (b) After operation Fig.2.1 Aortic root replacement
Artificial Fabric Graft
50mm 50mm
(ii) 大動脈瘤置換術の手術成績
2003 年の日本胸部外科学会の調査によれば,大動脈瘤手術は国内で年に 7,131 件 行われており,うち人工血管への置換術は3,401件である.院内死亡率は12.7%であ り,瘤が破裂しない場合の死亡率で 7.4%,破裂後の死亡率にいたっては 31.7%と高 率で,外科手術の中でも難しい手術とされている[96].
人工血管への置換時は一時的に大動脈中の血液の流れを遮断する.このとき,虚 血による臓器障害が起こる可能性があるため,人工心肺や低体温法などの補助手段 を施しながら進める.ここで,脊髄への血流が温存できない場合は,対麻痺につな がる.こうなると手術により命は助かるものの,対麻痺をきたせば患者の手術後QOL を著しく低下させることになる.
この対麻痺発生率は各施設により異なる.胸部大動脈瘤手術を 1,509 例施行した
Crawfordの経験では,下肢の神経麻痺が16%発生しており,その約半数は完全対麻
痺であった[97].2003年のLeMaireらによる1,220例施行した経験による報告では,
対麻痺発生率は4.6%と報告されている[98].
(iii) 対麻痺回避のための脊髄への血流維持
人工血管置換術が始まった当初は,脊髄への血流確保には肋間動脈をできるだけ 多く人工血管と吻合することが必要であると考えられていた.しかし,Grieppらは,
体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials: SEP)の術中モニタ下に,問題の ない肋間動脈を結紮し,他を再建する方針で手術を進めていくと,結果として肋間 動脈の再建が必要な症例はないと報告した.10 分節以上置換の 21 例中 2 例で対麻 痺が起こったが,10 分節以下の置換では脊髄合併症はなく,全体の対麻痺発生率と しては2%となった[99].このような結果から,大動脈を遮断したり,肋間動脈を結 紮したりすることによって脊髄への血流地図が書き換えられるが,脊髄への全体の 血流が保たれればよいのではないかという意見もある.
Fig. 2.2 Anatomical structures around the aorta [100]
対麻痺の危険因子となる作業には,遮断時間,手術時間の長さ,血流回復後の急 激な圧変化による血流の途絶などが考えられている.Fig.2.2 に大動脈近傍の血管の 走行を示す.大動脈から分岐した肋間動脈の先にはさらに多くの細い血管が張り巡 らされている.このうち,Fig.2.2 の囲み部に示すように前脊髄動脈につながる最も 太い前根動脈(Radicular Artery Magna:RAM)をアダムキュービッツ動脈という.
この動脈は一度上行したのち下行するというヘアピン状の走行が特徴である.
脊髄への血流を温存するためには,RAMにつながる肋間動脈のみを再建し,無関 係な肋間動脈の再建を省略して手術時間や大動脈遮断時間を短縮する方法が有効で あるともいわれている.画像診断の進歩により,1mm-2mmといわれるRAMの描出 も可能となってきた[101][102].Fig.2.3 に 16 列の検出器をもつマルチスライス CT
(Multi-detector row Computed Tomography: MDCT)で撮影した大動脈近傍を示す.
Fig.2.3(a)は画像の Axial 断面であるが,大動脈を起始とする肋間動脈のうち脊髄
へと走行する血管が確認できる.また,Fig.2.3(b)は画像の Sagittal 断面であり,
RAMが確認できる.そこで,近年は,手術前に画像診断によってRAMにつながる 1本−2本の肋間動脈を同定し,温存することで手術の効率化が図られている[103] .
(a) Axial View (b) Sagittal View Fig.2.3 Two directional view of the thoracic CT images
R L
A
P
(iv) 臨床における手技
大動脈瘤手術においては,脊髄の障害を防ぐことが重要であることは上述した.
その原因は脊髄虚血,再灌流障害でありこれまで種々の予防法,検査法が報告され てきたが,脊髄は複雑な血行支配によること,虚血感受性が高いこと,脊髄機能評 価が困難であることから,現在種々の方法を組み合わせて手術中に判断を行ってい る.その方法としては大きく以下の2つがある.
①形態的観点によるもの:MDCTによるRAMの同定
②機能的観点によるもの:術中のモニタ,補助手段,遮断法
ひとつは形態的な観点によるものであり,先に示したように,MDCT の画像を用 いてRAMにつながる肋間動脈の位置を手術前に同定する.もうひとつは機能的な観 点によるものである.共同研究者である東京女子医科大学の青見らは胸部下行,胸 腹部大動脈瘤置換術における脊髄保護法として,術中にTable 2.2示す作業を行って いる.これらの関係を Fig.2.4 示す.緑色で示される体性感覚電位(SEP)と運動感 覚電位(Motor Evoked Potentials:MEP)を刺激反応に対する電位として検出し,術中 に管理する.また,黄色で示される脊髄ドレナージ,肋間動脈,腹部臓器の灌流な どによって,血流の流れを維持する.この中でも特に有用と考えているのが,脊髄 機能をモニタリングしながら,分節遮断と併用する方法である.
Fig.2.5 のように大動脈を分節遮断したときに,脊髄機能が正常に機能しているか
どうかをFig.2.6に示す運動感覚電位(MEP)によってモニタする.脊髄機能に障害
が起きるようであればその分節内の肋間動脈は重要であるので温存する.Fig.2.6 の MEPのシステムは四肢の運動機能をFig.2.7のようにそれぞれの手,足にあらわれる 電位の有無として観察する.SEP が感覚系であるのに対し,MEPは運動機能を即座 に評価することができるので,迅速で手術に適している.Jacobs らによって有効性 も示されており[104],近年注目されている
Table 2.2 The operative procedure for save the spine
Method Condition Objective
liquor cerebrospinalis
drainage
(13cmH2O)
Redress along relative medulla spinalis perfusion pressure rise
During surgery monitor
Monitor using MEP, SEP
indicator of medulla spinalis ischemia F-F bypass
(light hypothermic
34℃)
medulla spinalis coverage
auxiliary
means Intercostal artery perfusion connected to
RAM
Prevent clog up of collateral blood route
Circulatory arrest under
deep hypothermic
(22℃)
In case which center
is unable to intercept
Reduce vicissitude of brain
Dieresis intercept
Choose
else In case which blood vessel aspect is good
Shortening ischemia time Classification
barrier method
Non-intercept on peripheral side
Preservation of spinal cord infarction
Fig.2.4 The operative procedure for spinal cord injury prevention
Fig.2.5 Surgical revascularization of intercostal arteries Intercept segmental to
shorten ischemia time
Regeneration of intercostal artery using artificial blood vessel with branch
Fig.2.6 Measurement system of Motor Evoked Potentials
Fig.2.7 Wave data of four limbs with Motor Evoked Potentials
(v)求められる情報支援の形態
左右各12本の動脈からなる肋間動脈は大動脈を起始とし,肋骨の下縁を沿って走 行しているが,術中にその走行を目視することは難しい.そこで,術者は切開した 大動脈の内壁側に見える肋間動脈の開口部と頭の中に描いた解剖学的イメージをも とに血管の位置を同定する.特に解離性大動脈の場合などは断裂により穴と血管の 数が一致せず,判断が難しい.
そこで,立体的な構造の理解を助けるために Fig.2.8(a)に示すように,CT 画像 をもとに立体的な解剖学的情報を再構築し,手術中の術者の情報支援として用いる.
これにより,(b)のように限られた術視野において,肋間動脈の起始部の位置およ び大動脈壁の外壁側に広がる肋間動脈の走行情報を補う.
Intercostal artery(entrance)
a b
Fig.2.8 Three-dimensional imaging supporting for surgeon’s decision during surgery Three-dimensional imaging based on CT data Inner view of Aortic wall
2.3.2 左室形成術
(i) 左室瘤の概要
心筋梗塞になって心筋細胞が壊死した場合,瘢痕という繊維組織に置き換わり,
壁厚が徐々に薄くなっていく.そして,左心室の壁が全く動いてない(a-kinesis)あ るいは本来とは反対の動きをして協調性がない(dys-kinesis)というような症状をき たすことがある.こうして,Fig.2.9 のように,左心室が瘤のように膨れたものを左 室瘤という.Fig.2.9のaは左室が膨れた状態を示しており,bは瘤を切開した様子を 示す.このような場合,一部を切除し,縫い縮める手術が行われる.
Faxsonらの1982年の冠動脈手術に関する研究報告によれば,冠動脈手術の15,019
例のうち1,136例(7.6%)に左室瘤が認められたが,左室瘤の存在自体は予後に影響
しなかった [105].また,1990年のHerasらによる急性心筋梗塞後に発生した左室瘤 についての報告例では,左室瘤単独での生存率は変化せず[106],無症状の場合には 予後も悪化することがなかった.一般に,左室瘤が大きく腫れて心臓の機能が低下 する場合には,手術適応となる.
Initial condition
After incision Fig. 2.9 Myocardial infarction of left chamber of the heart
a
b
(ii) 左室形成術
1958年にCooleyらにより,世界初の左室瘤の切除術が行われた.この方法はlinear
repair法といわれるが,心基部の収縮が保たれ,心尖部が著しく瘤化しているような
場合において,左室容積が減少することから手術後の心機能が改善し,5年生存率が 64%であったと報告されている[107].しかし,この方法の場合,3次元的な左心室の うち開胸によって接触部位のない自由壁部分において,一面的な部分を切除するこ とはできるものの,心室内部に位置する心室中隔の処理ができなかった.そして,
1980年にHutchingらは単にlinear法で切除するのではなく,心室の3次元的な構造 を考慮し,新しく心尖を形成するように瘤切除部を縫い縮める方法を提案した[108].
そして,1989 年には Dor らは左室前壁中隔側に布を縫い付け,左室縮小をはかる
Endoventricular circular patch plastyを報告した[109] [110].この方法を用いることで,
これまで処理できなかった心室中隔側の左室瘤も左室内腔から除外できるようにな り,形態的により生理的な再構築が可能となった.以上のように,心機能が低下し た部位を切除したり,布を縫い付けたりして心臓の形状を整え,機能の回復を行う 手術を左室形成術という.
(iii) 左室形成術の手術成績
2003年日本胸部外科学会の調査によれば,この手術は国内で年に373件行われて いる[96].左室形成術の大規模無作為試験は現在進行中であり,左室形成術の効果に ついては今後明らかになると思われる.一方で,これまでも後向きコホート研究は 複数の施設で行われている.中でも最大規模の研究は,Athanasuleas らによる 2004 年の報告で,12の心臓外科施設が参加し,1198人の患者に対するものである.これ によれば,5年生存率は68.6%であった[111].Paoloらによる2006年のイタリアの心 臓外科施設 1 施設の報告では,85 例の患者に対する予後調査を行っており,5 年生 存率は75%であると報告されている[112].本邦では,2003年に冨澤らによって,
1施設における86例の患者に対する報告がされているが,5年生存率は72.7%であ
った[113].いずれの例においても,手術によって明らかな心拡大の改善が図られ,
心機能も改善すると報告されている.こうした心機能の悪い患者にバイパス手術を 行った場合の5年生存率が50%から60%であることを考慮すると,左室形成術の治 療成績は良好であると解釈できる.
(iv) 臨床的戦略
左室瘤にパッチとう布をあてて心室の形を成形する方法について以下で説明す る.まず,Fig.2.10に心筋梗塞を起こし,左室瘤を形成した例を示す.向かって左が 右心室,左が左心室であり,黒の斜線が入っている部分が心筋梗塞を起こしている 部分である.この心臓では心室中隔から左室前壁にかけて心筋梗塞を起こしており,
左心室が拡張している.
Fig.2.10 Incision into the scar of the dilated ventricle [111]
50mm
次にFig.2.11に示すように,心筋梗塞を起こしている部分を取り囲むように縫合線 を設定し,糸で縫う.縫い合わせた部分を縛り,拡張した心室の領域を狭める.そ こにパッチと呼ばれる丸く切り取ったダクロン製の布や生体材料をあてる.
そして,Fig.2.12に示すように最終的な形として,心臓は正常部分同士が小さなパ
ッチを介して連続するように再構築され,心筋梗塞を起こした部分は外に除外され る.また心臓全体はかなり小さくなるように縫い縮められている.
Fig.2.11 Placement of a suture to exclude the scarred segment [111]
Fig.2.12 Complented repair with endocardial [111]
50mm
50mm
(v)求められる情報支援の形態
切除領域を決定には心筋における正常部位と梗塞部位の境界を見極めが重要であ る.現在手術においては,Fig.2.13に示すように,心臓の内的,外的な方向という2 つの手法を併用しながら,切除領域を決定する.内的な手法としては,術中に超音 波断層像を時系列的に取得することによって,2次元平面内での内壁の動きを観察す る.一方で,外的な方向としては,心臓の動きを直視し,局所の挙動を頭の中に入 れた上で,止まった心臓を術者が見て,回復後の心臓の動きをイメージしながら,
機能を残す部位と除去する部位の境界を決定するという方法である.
左心室瘤が3次元的な広がりをもつ.一方で,超音波断層像は平面の情報である.
弁や壁の動きを捉えるには有効であっても,外側からの挙動不全部位,3次元的な瘤 の広がりを決定するには十分の情報ではない.また,ヒトが見る情報というのは,
それぞれの捉え方によって異なるものである.つまり,術者の経験,技量によって 大きく左右される.術者が見て判断する際の「見ている情報」に着目し,工学的な 計測手段により定量情報をして取得する.さらに,可視化技術により「見せる情報」
へと展開させることができれば診断に役立つと考えられる.
Fig.2.13 Imaging that depends on operation person's capability
術前に体内の
イメ ジを構築
Septum Septum
×× × ×
RA RA
LA LA
Diastole Systole
ECG ECG
Direct view Internal View
Low
2.4 手術支援システム構築のための条件
2.4.1 大動脈瘤の人工血管置換術
(i)精度
Fig.2.14に大動脈瘤手術中の大動脈の内壁の様子を示す.大動脈の内側から肋間動
脈の起始部が 2 箇所あるのが確認できる.頭足方向に隣り合う肋間動脈起始部の間 隔は約 20mm である.これより,隣の肋間動脈との指し間違いを防ぐためには,肋 間の4 分の1の距離をとって,頭足方向に±5mm以内の精度があれば十分である.
また,選択的に再建する肋間動脈は1回の手術において,1本から2本であることか ら,その「対象となる肋間動脈の近傍で±5mm以内の精度」を満たしていればよい.
Fig.2.14 Detection of the entrance of theintercostal artery in the aorta ( Entrance )
50mm
(ii)リアルタイム性
手術者は患者空間上の点を指しながら,モニタ上に表示される画像を地図として,
目的との位置関係を確認すればよい.ここで,対象となる患者の手術中の体位は固 定されており,骨格に対する肋間動脈の位置の動きは無視できると考えられる.そ のため,要求される時間解像度としては,モニタでヒトがリアルタイムだと感じら れるビデオレート,すなわち30 frames per secondあれば十分である.この速度は計 測器のデータ更新速度に依存するため,「計測器のデータ更新速度は 30 frames per second 以上」が望ましい.
(iii)表示法
血管は細長く,ひも状の構造をしている.特に肋間動脈は直径が 2mm から 3mm と小さい.Fig.2.15で示すのは脳神経外科のナビゲーションで用いられる多断面再構 成法(参照 2.5.1)による血管の表示である.このような断層像表示のみでは,どこ の点を取っても,金太郎飴のように同じ断面が続いて表示されるために,どこの位 置であるのか正確に把握することが難しい.そこで「立体的な位置関係が直感的に把 握できる表示法」が求められる.
Fig.2.15 Intercostal artery on three cross-sectional view
Intercostal artery
(a) Axial Plane (b) Coronal Plane
(b) Coronal Plane
2.4.2 左室形成術
(i)精度
左室は複雑な形態を有するが,Fig.2.16に示すように,回転楕円体とみなされてい る.ここでは,周方向の長さを論じるためにここでは短軸,長軸の長さを半径 r と して考える.
直径D(=2r),高さHの回転楕円体の容積Vは
H r
V
23 4 π
=
・・・・・・・(2.1)となる.
このときの左室の周方向の長さLは
r
L = 2 π
・・・・・・・(2.2) となる.左室形成術では,壁を部分的に切開し,周方向に縮小する.このとき,縮小する 長さが短軸方向に2 d であるとすると,縮小後の周方向の長さL’は
) ( 2
' r d
L = π −
・・・・・・・(2.3)であり,このときに縮小される周方向の長さlは
d
l = 2 π
・・・・・・・(2.4)となる.
さらに,縮小後の左室の容積V’は
H d r
V ( )
23
' = 4 π −
・・・・・・・(2.5)となる.
よって,縮小に伴って減少する容積⊿Vはeq.(2.1)とeq.(2.5)から
H rd
V π
3
= 8
∆
・・・・・・・(2.6)となる.
ここで,左室の容積は一般的に収縮開始時で120ml=120,000mm3であることを考慮 し,eq.(2.5)を用いて算出した断面円の直径Dと高さHの関係をTable 2.3に示す.
直径D=40mmのときで高さH =72mm,直径D =50mmのときで高さH =46mm程度 の回転楕円体になることがわかる.
(a) View from Anterior to Posterior (b) View from Right to Left Fig.2.16 Left Ventricle as spheroid
Table 2.3 Relation between D and H
Diameter D mm Radius R mm Height H mm
39.0 19.5 75.3
40.0 20.0 71.6
41.0 20.5 68.2
42.0 21.0 65.0
43.0 21.5 62.0
44.0 22.0 59.2
45.0 22.5 56.6
46.0 23.0 54.2
47.0 23.5 51.9
48.0 24.0 49.7
49.0 24.5 47.7
50.0 25.0 45.8
D H
D
一方で,この大きさに左室を縮小するために,周方向の長さlを短くすることを考 えると,eq.(2.4)より,断面円の直径DとHの関係はTable 2.4のようになる.断 面円の直径Rを10mm縮小する場合の周方向の切開長さlは 31mmであり,断面円 の直径Rを20mm縮小する場合の周方向の切開長さlは62mmということになる.
以上のように考えると,Table 2.4の黄色部で示すように,周方向の切開範囲の誤 差が容量に与える誤差はeq.(2.6)より,周方向の切開範囲に10mmの誤差があると き,高さHが72mmのときで0.76ml,高さHが 46mmのときで0.49mlとなる.こ れは左室容積 120ml に対して 1%にも満たない.また同様に,周方向の切開範囲に 20mmの誤差があるとき,高さHが72mmのときで3.1ml,高さHが 46mmのとき で2.0mlとなる.これは左室容積120mlに対していずれも3%未満である.
Table 2.4 Error estimation on the circumferential direction Error for
circumferenti al direction
Error for diameter direction
Error squared Condition of H=72mm
Condition of H=46mm mm mm mm2 cc cc
1 0.159 0.0253 7.63 4.87
2 0.318 0.101 30.6 19.5
3 0.477 0.228 68.8 43.9
4 0.637 0.405 122 78.1
5 0.796 0.633 191 122
6 0.955 0.912 275 176
7 1.11 1.24 374 239
8 1.27 1.62 489 312
9 1.43 2.05 619 395
10 1.59 2.53 764 488
11 1.75 3.06 924 591
12 1.91 3.65 1100 703
13 2.07 4.28 1291 825
14 2.23 4.96 1497 957
15 2.39 5.7 1719 1098
16 2.55 6.48 1956 1249
17 2.71 7.32 2208 1411
18 2.86 8.21 2475 1581
19 3.02 9.14 2758 1762
20 3.18 10.1 3056 1952
21 3.34 11.2 3369 2152
22 3.5 12.3 3697 2362
23 3.66 13.4 4041 2582
24 3.82 14.6 4400 2811
25 3.98 15.8 4775 3050
(ii)リアルタイム性
本システムでは,手術利用の前段階のプロトタイプ作製を目標とし,心臓の計測 データ取得以外はオフラインのもとに処理を行う.よって,心臓の拍動に伴う収縮運 動を十分に計測できるフレームレートが求められる.
心臓は 1 心拍ごとに,興奮波が心臓の各領域を次々と刺激し,弁の開放・閉鎖,
血液の流出・流入といった機械的なポンプ機能を行う. Fig.2.17 に成人の1 心周期 における心臓各時相を示す.1心周期は心室収縮を中心として,9つの区分に分けら れる.このうちIからIVは収縮期で,IVからIXは拡張期である.
第1相(IからII)は等容性収縮期といい,弁が閉鎖した状態で収縮する.
第2相(IIからIV)は駆出期といい,大動脈圧,左室容積を参照して,IIからIIIま でを最大駆出期,IIIからIVを駆出低下期とわける.拡張早期は拡張期の最初の時相 で,半月弁の閉鎖によって終わり,等容性弛緩期がそれに続く.等容性弛緩期は心 房圧が心室圧を凌駕する時点で終了する.房室弁開放とともに急速充満期に移行す る.そして緩徐充満期がこれに続くが,この時相は心拍数によって一定しない.心 房収縮を後に心室拡張期が終わる.成人における各時相の平均値を Table 2.5 に示 す.ここで,一番短い時間を選ぶと拡張早期の0.04 秒であり,これを周波数に直す と25 frames per secondであることがわかる.つまり,これらの現象を観測するには ナイキストの定理より「計測器の更新速度は50 frames per second以上」であること が望ましい.
Fig.2.17 Cardiac cycle
Systole Diastole
S1 S2
S3 D1
D2 D3
D4
D5 Pressure
Aorta
Left Atrium
Ventricular Volume
PCG
ECG
Left Volume
(iii)表示法
手術者の視点から対象である心臓を見たときにどこの部位であるのか直感的に認識 しやすい表示がよい.ユーザーの見ている現実空間に対して,コンピュータで描いた 情報を重畳し,可視化させる方法にはハーフミラーを用いた研究や[114],ヘッドマ ウントディスプレイ(head mount display,HMD)を用いた研究がある[115]-[117].
Fig.2.18にハーフミラーを用いた例を示す.(a)はシステム構成であり,(b)は画像
を映し出した画面表示である.LCDディスプレイの画面を下側のミラーに反射させ,
ミラーの下に透過してみえる対象と同時に観察するシステムになっている.術者は ミラーを通してファントムを見るため,詳細な画像情報を見ながら腫瘍に向かって 手技を行うことが可能になる.HMDについてはVR酔いが報告されているが[118], このハーフミラーを用いたデバイスで手術者の視覚的な負担を軽減する,ただし,
生検のように針先の位置を確認する程度ではよいが,今回対象にしている開胸手術 においては手術野の確保が重要であるため,表示についてはまだ議論の余地がある.
本研究では「計測によって得られた定量的データを手術者の視野に重畳すること」最 終的な表示法とし,ここでは,手術者の視野として,ビデオカメラを例に論じる.
Table 2.5 The each time phase of cardiac cycle
Phase Time sec
Systole 0.27
(S1) Isovolumetric ventricular contraction 0.05
(S2) Maximal Ejection 0.09
(S3) Reduced Ejection 0.13
Diastole 0.53
(D1) Early Diastole 0.04
(D2) Isovolumetric Relaxation 0.08
(D3) Rapid Filling 0.11
(D4) Reduced Filling 0.19
(D5) Atrial Contraction 0.11
Needle Image
Display
Half Mirror Phantom
Fig. 2.18 Visualization of CT images with the half mirror [114]
a
b
2.5 手術支援システム構築に向けた使用機器の検討
2.5.1 手術支援システムにおける機器の関係
手術支援システムを構築するには以下の3つの作業が必要となる.
(i) 手術中に時々刻々と変わっていく対象の計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.5.2 (ii) 計測結果を表示するための解剖学地図の準備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.5.3 (iii) レジストレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.5.4
(手術中の計測空間と患者の解剖学情報を示す画像空間の位置合わせ)
以下では,(i)から(iii)についてこれまで行われてきた方法をあげ,今回のシステ ム構築に求められる比較検討を行う.
2.5.2 対象の計測方法
手術支援の方法として,これまでに実用化されている計測法についてTable 2.6の ように分類する.以下にそれぞれの特徴を示す.
Table 2.6 Comparison of measurement methods
① Mechanical ② Optional ③ Magnetic ④ Acoustic
Accuracy 0.1-2.5mm 0.1-0.5mm ~5mm ~1mm
Resolution - best~0.01mm - ~0.1mm
Bandwidth >3000Hz 100-2500Hz 20-100Hz 500-1000Hz Interference
Sources
physical occlusion heat, occlusion Ferrous objects, Magnetic fields
temp., humidity, occlusion
Examples
Faro Arm, Neuro Navigator
Polaris, Optotrak, Flashpoint
Polhemus, Flock of Birds
Sonometry, Sonic Wand Contact /
Non-contact
Direct Contact Contact w/ targets Contact w/ targets Contact w/ targets
Passive / Active Passive Active Active Active
① 機械的な方法
ナビゲーションシステムの初期の頃に多く用いられた方法である.Fig.2.19 にそ の一例であるNeuronavigator[119]を示す.このシステムは多関節のアーム機構から成 る.各関節には角度計が組み込まれている.各関節の角度とアーム長を用いること で,基準となる位置から先端の位置を算出する.位置精度はハードウェア的な要素 に依存する.ポテンションメータやA/D 変換の分解能によるものであり,これらは 不確定要素が少ないため,高精度に計測が行える.しかしながら,操作はアームの 動きに拘束される.
Fig.2.19 Neuronavigator [119]
Mechanical arm
② 光学的な方法
近年のナビゲーションシステムの多くで用いられる方法である.複数台のCCDカ メラの画像情報をもとに,対象の距離および3次元空間における位置を算出する.
位置精度はレンズの歪など不確定な要素に影響を受ける.このレンズ歪はソフト上 で補正する方法が取られており,用いる機器によって精度は異なる.Northern Digital Inc.のPolarisR [120]などはFig.2.20に示すように,精度を保証する範囲を計測器から 1.4mから2.4mの位置に半球と円柱の領域として設定している.また,3点以上の位 置が固定された反射球マーカをひとつの剛体とし,3次元空間の位置,姿勢を算出す る.剛体認識にもとづいて精度を保証するという方法をとっている.光学式では,「ア ームのような機器に拘束されることなく,反射球マーカのついたプローブを空間的に自由に 操ることができる」ので,手術者にとっては扱いやすい.計測器と対象の間に遮蔽物が 入ると計測が中断してしまうが,逆をとれば「計測できる場合は正確な値を算出する ため,算出値が信頼できる」ともいえる.
Fig.2.20 Measurement volumes of Polaris [120]
③ 磁気的な方法
この方法では強度と方向性をもつ磁場を利用して,磁場の強さをコイルで検出し,
検出される磁場の強さをもとに発生源からの距離を算出する.1 つの例として,
Fig.2.21にPolhemus FastrakR [121]を示す.磁界発生源であるトランスミッタと磁力 を受け取るレシーバにより構成されている.トランスミッタから 3 次元空間の各方 向の磁場を順次発生させ,レシーバ中に直交においた 3 個のコイルでそれぞれの磁 場を検出することで,磁場発生源からの 3 次元位置と姿勢を算出する.手術中は,
電気メス,電動式ベッド,電源延長コードやその他計測機器により磁界が発生する ため,測定精度の信頼度が落ちる.しかしながら,遮蔽物があったとしても計測が できるという利点を利用して,光学式の計測視野が遮られるときに磁気式で計測し,
磁界を発生させるような場合には光学式で計測するというハイブリッド型の計測シ
ステム[122]も提案された.
Fig.2.21 Polhemus Fastrak [121]
Transmitter
④ 超音波を利用した方法
超音波を利用して画像を表示することは臨床において日常的に行われている.この 超音波診断画像については,次の(ii)解剖学的地図で詳述する.また位置計測の手 段としては,Fig.2.22に示すSonometrics社のSonomicrometry [123]がある.これは磁 気式のように,超音波発生源であるトランスミッタと受け側のクリスタルからなる.
このクリスタルは 0.7mm−2.0mm まで対象の大きさに応じて選択できる.小型なた め,直接計測対象に接着剤を用いるなどして,接着して用いる.位置は超音波発生 器から発生した超音波を受信機で検出し,伝播時間から算出するという方法である.
精度をあげるためには,温度や気圧による音速補正が必要であり,また反射や遮音 により計測の信頼度が落ちることがある.
Fig.2.22 Sonomicrometry [123]
以上を勘案して,以下の「操作性がよい,計測値に信頼性がある,非接触に計測できる」
という3点の利点から本ナビゲーションシステムには光学式計測器を用いる.
Crystal Artery
20mm
2.5.3 解剖学地図の取得方法と表示方法
患者の体内の詳細な情報を取得するためにCT,MRI等の画像診断機器で撮影する.
ここでは,(i)画像診断機器と(ii)画像表示法にわけて示す.
(i)画像診断機器
Table 2.7ではCT, MRI,超音波画像診断器の3つについてそれぞれの比較を示す.
① CT
X 線の被爆を伴い,血管造影をする場合には侵襲がある.しかし,MDCT の登場 により一度に広範囲の情報を詳細に撮像可能となった.1mm以下のスライス厚で撮 影できることから,RAMのようにこれまで見ることのできなかった細い血管まで描 出できるようになった.現在64 列の検出器をもつ MDCT が臨床的に導入されてい る病院もある.データ量が大きく実用化に至ってないが,256 列の検出器をもつ MDCTもすでに開発されている.
Table 2.7 Comparison of image modalities
CT MRI Diagnostic Ultrasound
System
Exposure method
X-ray absorption(X-ray and detector)
Magnetic resonance
(Magnet and radio wave)
Reflection of ultrasound pulse (Ultrasound and detector)
Basic
section Cross section Chosen section Chosen section Radioactiv
e exposure Yes No No
Exposure
time Relatively-brief Relatively long Short Effect of
bones, air Yes No Yes
Difference in picture
Bones observed as white and air is black, same as X-ray film
Both bones and air observed as void (Only few hydrogen molecular exist)
Cannot be pictured through bones and air
Advantage
Exposure time is relatively-short, and is easy to collect
cross-sectional images.
High adaptation for Emergency cephalic part lesion(uncertainty bleeding or else). Able to collect bones’
information.
Have no radioactive exposure, and good contrast between tissues. Able to collect chosen sectional images, and to have qualitative evaluation of lesion by changing exposure method. Able to expose without use of contrast agent.
Have no radioactive exposure, and able to evaluate issue in
real-time, which is simply used. Equipment
investment is low compare to others.
Disadvant age
Have radioactive exposure. Contrast agent is necessary to view blood vessel.
Could not inspect patient who have metallic parts in body.
Exposure time is long.
Personal skill of users effect on result image.
Quantitativeness is low.
Usage in cardiovasc ular surgery
Diagnosing before operation is possible.
Visualization of bones are fine.
No invasive action occurs, but exposure time is long, and synchronization to heart beat is necessary. Not suit for surgery, with reason which image artifact comes out frequently.
Used to view movement of lumen, inner wall. Also used to monitor cardiac movement during surgery in steady basis.
② MRI
X線の被爆がない.撮像法を変えることで様々な病変部位の特定が可能である.そ のため,脳神経外科領域のナビゲーションでは手術中に画像を取得する方法として も用いられる.しかし,撮影に10分弱の時間を要すること,骨と血管を同時に撮影 することが難しいことなどから現在の機器を心臓血管外科領域へ応用するには,不 向きであると考えられる.Fig.2.23には心停止後のブタを対象にBASG法(ブラディ エンドエコー系の超高速撮像法)によって,大動脈・骨を鮮明に写し出すことが出 来た例である.この場合,スライス厚は 2.5mmで 1 ピクセルのサイズは1.25mm× 1.25mmであった.
③ 超音波診断画像
超音波断層像による診断は非侵襲かつ安全で,時間的,空間的な分解能にも優れ ており,日常の診断においては非常に有用な診断法といえる.しかしながら,同じ 部位を計測することが難しく,対象部位の描出は検者の技量に大きく依存するため,
客観性に乏しい.超音波断層像は平面の情報であることから,ある断層における対 象の動きから読影する.対象は 3 次元的な広がりをもつが,断層面の情報を頭の中 で統合して3次元的な情報を取得することから,主観的であるといえる.3次元超音
Fig.2.23 CT image of Human Fig.2.24 MRI image of Pig 100mm 100mm
波診断器も近年発売されている.3次元的なイメージ構築には役立つが,補間アルゴ リズムなどが用いられており,撮像の仕方によってはほしい情報が得られないこと もある.
以上より,大動脈瘤手術のナビゲーションには「MDCT によって得られるスライス厚 0.5mm の詳細な画像を用いる」こととする.また,心臓の低収縮部位を特定するため のナビゲーションには「表面の外形を計測によって取得するが,内部の情報は超音波画 像によって確認する」方法をとる.将来的には表面の外形,内部の超音波画像を融合 して表示することも考えているが,今後の検討項目とする.
(ii)画像表示法
スライス厚を薄くし,複数の横断面画像を撮影する.この横断面画像を積み重ね,
上下スライス間を補間し,3次元的に再構成する.この3次元空間の輝度情報全体を ボリュームデータという.2次元平面の画像がピクセルごとの輝度値情報から構成さ れるのに対し,3次元空間のボリュームデータはアイソトロピックなブロックである ボクセルごとの輝度値情報により構成される.この表示の仕方には大きく分けて 4 種類の方法がある.以下にその内容を示す.
①多断面再構成法(Multi Planar Reformation: MPR)
多数の横断面から構成されるボリュームデータから,Axial面(頭足方向のスライ ス断面),Coronal面(前後方向のスライス断面),Sagittal面(左右方向のスライス断 面)といった任意の断面を切り出して表示する方法である.3次元画像処理の中で最 も古くから行われていた処理法である.Fig.2.24(a)から(c)は胸腹部領域の人体 模型をMDCTによって撮像したときのMPRによる表示である.(a)はAxial断面,
(b)はCoronal断面,(c)はSagittal断面である.
②最大値投影法(maximum intensity projection: MIP)
MIPはボリュームデータより任意の視点から平面に投影する方法である.CTの場 合は投影経路のボクセルの中で最大の CT 値を投影面に表示する.MRI の場合は最 大のintensityを持つボクセルを投影面に表示する.Fig.2.24(d)は胸腹部領域の人体 模型をMDCTによって撮像したときのMIP表示の例である.模型には骨と血管しか 含まれていないため,互いの関係がよく観察できる.実際のヒトの胸腹部領域のCT 画像をそのまま表示した場合では,臓器も含まれているため撮像領域が丸太状に表 示されるだけであり,それぞれの位置関係の把握はできない.
③レイキャスティング法
ボリュームデータに含まれる物体の表面形状,内部形状を 3 次元的に表示する方 法である.それぞれのボクセルが反射と透過の性質をもつものとし,透過率を考慮 しながら視線上の反射光を積分して表示する.Fig.2.25(a)はレイキャスティングに よるボリュームデータの表示法である.あらかじめ各領域において組織ごとのCT値 に対しての色を決めておけば,骨や血管などの部位に応じて色を変えて表示するこ とができる.Fig.2.25(b)のCT値の閾値を変更することで見え方を変える.
Fig.2.25 MIP Image (Thoracoabdominal Area)
Fig.2.26 Raycasting Image (Thoracoabdominal Area)
(a) Axial Plane (b) Coronal Plane
(c) Sagittal Plane (d) MIP
(e) Axial Plane
(c) Coronal Plane
(d) Sagittal Plane
(a) Raycasting
(b) CT value
25mm
25mm 25mm
④サーフェスレンダリング法
3次元空間内の平面や曲面から構成されるデータをサーフェスデータという.この 作成法はまず,撮影画像のもつ3次元的な輝度値情報の中から関心領域ごとにわけ,
輪郭を抽出する.次に,Marchin cube法などによって各ボクセルにポリゴンを作成し,
3次元的な点とそれをつなぐ面のデータへ変換する.こうして構成されたがサーフェ スデータであり,OpenGLやDirectXといったコンピュータグラフィックス(Computer
Graphics: CG)のライブラリを用いた光学的なシミュレーションのもとに立体像を表
示する.Fig.2.26に3次元サーフェスモデルを表示する.部位によって異なる色,透
過度を持たせて場所の特定を容易にする.
Fig.2.27 3D Surface model (Thoracoabdominal Area)
以上より,大動脈瘤ナビゲーションにおける画像の表示法は「3 次元サーフェスモデ ルで大まかな位置関係を把握し,血管の流入口などについては詳細な MDCT 画像の MPR 表示によって確認する」という両方を用いた方法とする.
Th10
ligament
pointer
vertebra intercostal artery
20mm
2.5.4 レジストレーションアルゴリズム
CT と MRI といったように異なるモダリティで撮影された医療画像を同一の座標 系に統合することをレジストレーションという.特に手術ナビゲーションで用いら れる場合,手術空間の患者そのものの座標系と画像データ上の患者の座標系をマッ チングさせるというキャリブレーションの意味合いをもつ.
脳神経外科や整形外科で用いられている手術ナビゲーションには,①マーカを皮 膚に貼り付ける方法,②マーカを骨に打ち込む方法,③皮膚表面の形状をポインタ でなぞる方法,がある.①の場合,手術中に画像が撮像できず,手術前の画像を用 いるタイプのナビゲーションで行われる.Fig.2.27に示すドーナツ状の造影剤入りマ ーカを特徴のある骨の上に貼り付け,MRI画像を撮像する.
手術前にマーカを頭部もしくは皮膚上に貼り付けて画像を撮影すると Fig.2.28 の ように造影剤が白く見える,手術中に計測する実際のマーカ位置をマッチングさせ る.もしくは,術中の開頭後に骨にマーカを打ち込み,openMRI で撮影した画像に うつるマーカ位置と手術中に計測する実際のマーカ位置とをマッチングさせるなど といった方法が用いられている.
また,整形外科で用いられるレジストレーション方法には,Iterative Closest Point
(ICP)アルゴリズム[124]という多点を用いた方法が用いられている.骨の形状をプ ローブで走査して多点の骨上の点を取得し,手術前に撮影した画像から作成した骨 のサーフェスモデル上の点との誤差が最も小さくなるようにマッチングする.
Fig.2.28 Fixed method of a marker Fig.2.29 Doughnut marker on a photography image Doughnut marker
心臓血管外科では上記の領域に比べ出血量が多いため,手術時間を短くし,出血の 起こる時間を短縮する必要がある.そのため,レジストレーションは最低限の時間 ですませたいという要望がある.
そこで,ひとつの空間の座標系を認識するためには 3 点の位置がわかればよい,
骨上にマーカを打ち込むことはできないという理由から,3点の解剖学的特徴点の位 置関係が画像空間と計測空間で変わらないという仮定のもとに,「3 点の解剖学的特 徴点を剛体とした空間一致アルゴリズム」を用いる.
2.5.5 手術ナビゲーションシステムの条件と分類
以上より, Table 2.8からTable 2.12にそれぞれの症例に適する支援形態をまとめ
る.そして,Fig.2.29 には大動脈瘤手術用システムの機器の関係について,Fig.2.30 には左室形成術用システムの機器の関係について示す. どちらの場合においても,
光学式位置計測器を用いたシステムを構築する.ここでは,システムの要求レベル に応じて,2つの計測器を使いわける.大動脈を対象とする手術に対しては,手術中 の位置および姿勢に高い精度を求めるため,脳神経外科のナビゲーションシステム 等にすでに利用されているPolaris(Northern Digital, Inc.)を用いる.この計測器は6 軸の運動計測が可能である.また,一方で,心臓の動き計測を対象とする計測には,
個々の反射球マーカの位置の特定が可能となるSLC(SyVerse, Inc.)を用いる.Polaris に比べ,奥行き方向の精度は落ちるが,結果として平面の画像に重畳することから,
ここでは要求を満たすとした.また計測速度に関しても,結果を動きのある画像と して出力することから,ヒトがリアルタイムと認識できるレベルの計測速度(30 frames per second)があれば十分とし,どちらの計測器においても要求を満たしてい る.
Concordance of open space
Rigid body recognition
Give correct coordinate and position on 3 dimension
Recognize one by one Projection to 2 dimensional picture Table 2.9 Parameter need for measurement
Aortic aneurysm operation Left ventricle plastic operation Search for and utilize small movement area
depend on case. Biological subject is insufficient, just engineered grading.
Concorde coordinate using camera calibration
Optical measurement : Suit for high accurate measurement
reliability is high (fake data won't be shown out of parameter)
Real time characteristic
(above 30 frames per second) Able to track heart beat (1 beat per second) Parameter need
for measurement
1. Subject
2. Measurement system 3. Anatomical
map CT data (2D, 3D) Camera image
Attach instrumentation marker on pointer and surgical tool
Attach instrumentation marker on regional area of cardiac muscle Optical coordinate measuring equipment
(Polaris, NDI)
Optical coordinate measuring equipment (SLC, CyVerse)
Table 2.10 Comparison of equipment used in system
Aortic aneurysm operation Left ventricle plastic operation Table 2.8 Target domain and operation for case
Behavior differentiations of ablation area (30mm×
30mm)
Aortic aneurysm operation Left ventricle plastic operation
Movement of subject
Objective Specifying position and drive of adjacent intercostals artery (Interval : 20mm)
Costal Intercostal artery along costal artery
Intercostal artery
Heart beats on cycle (1frame per second)
Fig.2.30 Relationship between equipment used in Aortic aneurysm
1. Subject
2. Measurement system
3. Anatomical map
Table 2.11 System component part of Aortic aneurysm operation Required level
Marker diameter : 11mm Pointer length : 25mm
Measuring frame : 60 frames per second
Measuring accuracy : 0.35mm Rigid body recognition : 6DoF
MDCT (TOSHIBA Aquillion)
Pixel size: 0.35mm Slice thickness: 0.50mm
Aortic aneurysm operation
Attach instrumentation marker on pointer and
surgical tool
Pointer with marker attached
Optical coordinate measuring equipment
(Polaris, NDI)
CT data
(2D, 3D)
Fig.2.31 Relationship between equipment used in left ventricle plastic operation
1. Subject
2. Measurement system
3. Anatomical map
Left ventricle plastic operation
Attach instrumentation marker on pointer and surgical tool
Optical coordinate measuring equipment (SLC, CyVerse)
Camera image Required Level
Marker diameter : 6mm Measuring accuracy : 0.35mm
Measurement frame : 30 frames per second (Video rate) Measurement accuracy : Low
accuracy on depth
Measurement frame : 30 frames per second (Video rate)
Table 2.12 System component part of Left ventricle plastic operation
2.6 本章のまとめ
本章では,心臓血管外科領域の開胸を伴うような手術中に支援するナビゲーショ ンシステムの 2 つの手法について論じた.①臓器の位置と姿勢を定量化するシステ ム,②臓器の状態の定量化するシステムに分類し,①の対象には大動脈瘤手術を選 び,②の対象には左室形成術を選んだ.そして,これら2つの症例について概説し,
システムに求められる精度およびを条件掲げた.
これより,第1項目に関しては,術前に胸腹部の詳細な画像をCTによって取得し ておき,術前の画像空間と術中の患者空間との位置合わせを行った上で,術中の状 況に応じた血管の位置・姿勢を確認するシステムとした.
また,第 2 項目に関しては,心臓の表面における局所点の位置を計測し,局所領 域の面積変化を求めることで,領域ごとの挙動の差別化を行うシステムとした.
以下の章ではこれらの仕様をもとに,システムの設計・開発を行う.