論文①
鴇;発話行為の成立が線的で あることの強制と自由
-そして日本語における停滞可能な発話について-
ZwangundFreiheitderlinealenSprechaktdurchfUhrung
-UndM6glichkeitdesStehenbleibensderAussageimJapanischen- 熊田泰章
1.序
発話行為は、人間の言語そのものの自然的な行為であるが、その行為が成立する過程に ついて考察し、言語記号によるテクスト生成への、発話者と受話者双方による働きかけに関 する論考を、以下の小論において行なうこととしたい。そして、その関連において、日本語 による発話行為の固有の特質を指摘し、日本語を第一言語とする者が、発話行為の中で、発 話をひたすら先に進めるという強制から|当1111になることができる理由を明らかにするととも
に、それが同時に、他の言語を学ぶ時の一つの妨げともなっていることを述べておきたい。
2.発話行為の諸要素
ドイツ語、英語、フランス語、いずれにしても、インド・ヨーロッパ語族の共通の特徴 は、音声言語が、文字言語に対して優位であることだ''》。すなわち、音声言語の発音をいか にして文字言語によって表記するか、が問われるのであり、その文字は、音を表記するため のコードによる、表音機能を専らとする記号である。したがって、文字言語による言語行為 の遂行は、それ自体によってなされるのではなく、文字記号を介在させつつ成立する音声言 語による言語行為としてなされている。
音声言語による発話は、現前の受話肴に対してなされる発話であり、たとえ、それが、
たとえばテレビのアナウンサーによる発話であっても、現前の受話者は想定されており、そ の想定の受話者への発話として行なわれる。その場合、発話された音声ランガージュは、受 話者によって即座に受聴され、脱コード化されて、理解のプロセスが発話と同時的に進行す
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る。この発話行為と受話行為は相互に依存しており、どちらか一方を欠いては、そのいずれ
も成立しない。
また、ここで用いられる音声記号は、一過`性であることがその特徴であり、記号が記号と して提出されるその瞬間にその記号は消滅していき、記号作用による意味伝達の結果だけが、
発話者と受話者の理解の中に残されていく。さらに、この音声記号は、他の音声記号を排他 する、すなわち、ある一つのユニットの記号が発声された瞬間には、その現に発声された記 号だけが特権的に、排他的に機能する記号として存在しているのであり、一つの音声ユニッ トによって`常に一つだけの記号を成立させながら、発話が継続される(いわゆる同音異義語 は、後で言及する予定の、記号・の意1床作用の異なるレベルに属する事項である)。
言い換えれば、音声言語による発話行為は、現前の発話者と受話者によって遂行され、そ の際に用いられる言語記号は、現前の音声ユニットによって現前化されつつ、記号の意味作 用を結果するとともに、次の記号の現前化によってその現前の特権を奪われていくのであり、
現前である記号・は時間的に線的に機能する記号である。そして、このようなヨーロッパ語族 においては、文字言語は、たんに音声記号が音声メディアではなく書記メディアによって提 示された、その書記メディアの役割を担うものであり、文字言語の文字言語として完結した 特有の記号作用、意1床作用は、日常的言語運用においては、存在しないと言ってよい。すな わち、ここでは、この書記メディアは、音声言語に対して独自の存在特性を有する文字言語 なのではなく、音声言語が音声メディアによってではなく、書記メディアに転記されている にすぎない。すなわち、書記メディアに転記された記号・は、それだけで記号作用を開始する ことはできないのであり、その記号作用の開始のためにはそれ単体では不十分であって、し
たがって、サプメディアとI呼ぶべきものである。このサブメデイアたる書記メディアの作動は、以下の経緯を経なければならない。すなわ ち、まず発話者は、音声言語による発話行為の遂行と同様に、発話を現前化しなければなら ない、そのために具体的に行なうことになるのは、まず受話者の想定であり、ただ、想定さ れた受話者への発話を伝達するためには、物理的に空気の振動が用いられるのではなく、紙 なり、コンピュータの画面なり、何らかの平面上に文字が書き記されなければならない。し かし、その発話行為は、通`常、・音声言語によって、音声記号によって、想定受話者への話し かけの仮構として遂行されるのであり、現前化された記号は、音声記号として時間的に線的 に機能しつつ、次の記号が現前化することによって現前である記号は次々に次の記号へと特 権性を識り渡しながら、だが、平面上に記されたサブメデイアとしての形態を狸得しつつ、
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発臓行為の成立が線的であることの強制と白巾一そして曰本蟠における停滞可能な発話について-
用いられていく。空間に時間的に線的に生成し消滅していく音声ユニットを、その空間には とりあえずいないところの想定受話者に向けて送り届けるためのサプメデイアに転換する、
というのがここでの書くという行為の実体である。であるから、発話者はその発話のために、
まず音声言語に依拠していて、音声言語の中に身を魁いて、音声言語としての発話行為を行 ない、それが、文字というサブメデイアに転換されて受話者に送付されているのである。こ の場合の転換作業は、この項の最初に戻るが、音声をいかに表記するか、そのための規則に 従って行なわれ、もっぱら、表音機能の記-号としての文字の規則が適用される。
3音声言語と文字言語
表音文字による書記化においては、その文字によって伝えられる情報は、その文字ユニッ トがある音声ユニットに1対1に対応して、一つの文字ユニットから確実に特定の音声ユニ ットが再音声化されるための情報であり、そこで用いられる文字そのものには、意味作用上
の役割は何もない。さて、書記化された発話を受け取った受話者は、その文字で記された情
報を解読しなければならないのであるが、すなわちその文字で謝かれた文章を読むのであるが、その文章を読むという行為は、それ口体自立した行為なのではなく、その文字情報を音 声化し、音声言語に転換する作業であるにすぎない。その場合、実際に声帯を震わせて空気
中に振動としての音声を作り出すこともあるし、また、そうではなくて、たんに、いわゆる 黙読として読み、しかし、外形化しない声による音声化を行なうということもある。であるから、この読むという動作は、あくまで音声記号をiIj現する行為として行なわれており、音
声言語が用いられているのである。したがって、文字に依存して`情報を伝達してはいるが、それは、いわば、途中で経由するプロセスにすぎず、意味の発生とその受け届けと理解とが
完遂されるのは音声記号によるのであり、発話者と受話者はともに音声言語による発話行為
を遂行しているのである。
先に述べた、文字言語による言語行為の完遂が、音声言語による言語行為のそれとして行
われるということは、このようにして考える中で明らかであろう。そこで、次に論じたいの は、そのようにして行なわれる言語行為が帯びる特質である。すなわち、時llIj的に線的に現前化し、過ぎ去っていく音声記号によって成立する意味の生
成と伝達、理解が、その音声記号のまさにそのありようによって、いかなる特質を帯びるか、ということだ。ここのこの音声記号が、:高声として提出される|瞬間まではどこにも非在であ
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文
1蕊鰯纐り、いや、もちろん記号・体系内のストックとしては存在していて、その個々の記号がこれか ら使用可能な記号として蓄積されてあるということは、言語行為のすべての当事者には了解 済であり、いちいち確認するまでもなく、その潜在的存在は既知であり、使われれば、その 都度その記号として認知されるのであるが、しかし、あくまで、それは記号体系の要素とし て知られているということであり、今の、現に進行する発話行為においては、個々の記号は、
音声として発声された瞬間にそこに発現するのであって、それにいたるまでは、ひたすら非 在である。そして、非在であった記号が、発声されて存在を獲得した、まさにその瞬間に、
その現前化した記号は、その前にやはり非在から現前化したその前の記号の存在を奪うので あり、発話行為は、非在から現前として瞬間に存在し、また瞬間に非在に消える記号から成 り立っていて、線的に連続しながらも、その線の線を描く各線の線部分がそれ自体としては
瞬時に現前化し、また瞬時にその現前を終える線なのである。このことから言えるのであるが、このような存在の危うさにおびやかされる音声記号が描 く線が、発話行為の成立のために、それ自体が線として持続しなければならず、いかなる休 止も、停滞も許されないのである。線の瞬時の形成が休止し、停滞することは、その発話の 打ち切りを即座にもたらすのであり、その打ち切りが発話行為の本来意図された終了として 求められたのでない限り、そのような打ち切りは、発話行為の双方の当事者によって回避さ れ続けなければならない。非在から|瞬時の現前化とまたl朧時の非在化によって、記号として の有効性を支えられているここでの音声記号が、それがゆえに、発話行為の自由な、あるい は意図されない休止を許さないのであって、このような音声言語に依拠する発話行為の行為 者は、意図された終了に到達するまで、発話を成立させていくために、音声記号の線を描き
続けなければならない。4.曰本語における発話行為
しかるに、ここで、日本語を論に導入して、ここまでの論点と対比させてみよう。
日本語による発話行為について考える際に、ここでの立論において重要なのは、漢字の使 )1]である。漢字は、それが音と訓のいずれの用法であっても、原理的には、音声言語の音声 を表記するための表音文字としての使用になるのではなく、その漢字一文字がそれに固有の 意味を与えられてある。もちろん、今日の日本語の言語使用において、i英字一文字ごとの、
その発生以来の固有の意味をかたくなに意識したままであることは、もはやないと言い切っ
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ていいのかもしれない。だが、書記として提示される漢字の一つ一つが、そこにおける発話 内容とはとりあえず無関係に、漢字の側の制度に基づく意味を帯びて、そこに書かれている のは、また確かである。この論考の前半において述べたこととの対比において、このことが、
論証上の注目点であることは明らかであるから、発話行為の受話者が、書記化された発話を 受容しようとする時のその行為の具体的動作についての考察から、論を進めることにするの だが、そうすると、すなわち、書かれてある漢字は、その漢字をもたらした発話を、受話者 が受話的現前化する際に、その漢字がただたんに目によって見られるだけで、その漢字固有 の竜1床を主張していることに、受話者はその現前化行為の実行と同時に気づかざるをえない。
受話者は、文字,情報を音声情報へと転換し、音声記号として、音声言語として現前化する
その受話的言語行為において、その行為に取り組むと同時に、目によって視覚的にそれとし
て認識しつつある文字が、音声への転換のための情報以外の情報をも併せ持っているという 事態に直面し、それへの対処を迫られている。換言すれば、ここでの漢字という文字言語の記号体系が、二重の体系であるということだ。
すなわち、まず一つには、音声言語による発話行為が、書記化され、文字言語として流通
するのを支える記号体系であり、それに依拠して、その書記化されて音声記号の記号作H1が 文字記号の記号作用に移し変えられたがゆえに、そこに記されている文字記号から、その発話行為に条件付けられて付与された記号の激|床が、また音声記号による意味伝達へと復元き れていくのである。そして、二つには、バルトが「表徴の帝国」(2)において指摘した、漢字 文字に存する文字言語独自の自立した意Iljk表象の記号体系である。ここにおいては、文字ご
とにその文字固有の意味があらかじめ定められており、もちろん、その文字記号が互いの差
異性に依拠することで記号として存在しうることは、記号であるがゆえの恋意性に基づく事実であるが、しかし、ある一つの漢字文字がそこに晋かれてあるということは、その漢字文 字が音声記号に従属することなく、視覚的に差異性が成立し、意味が演鐸されるということ である。であるから、音声記号にI転換されてff声記号の差異性が発動し、他の音声記号との 弁別によって、それら参照されたFiさ声記号が一つの有意な意1床伝達ユニットとして認識され、
相互にその意味が付与されていくのとは異なる問凸号作)1]が、この漢字文字記号にはあるのだ。
すなわち、このような記号は、それが現1iii化するにあたって、時間的に線的に経緯する記号 作)11の中で記号が記号として存在を現わしていく音声記号の制約から、自由なのである。
このような自由を持つ記号を駆使する文字言語が、その1狼りで持つ特異性は、そこで行な われる発話が、単線的に流れ続ける一つの文字列の一つの流れの中に書記化されざるをえな
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零一一諏 唇 』 》文》
いことは当然としても、いったん書記化が行なわれてしまえば、文字列の中の個々の文字が、
その文字列の中の線要素としてではない、その線から自由な記号になりうることである。
ここで-つだけ具体的な例を出せば、日本語における人名の表記がこのことをよく現示し ている。すなわち、人名は音声言語の中で、その音によって分節され、ある特定の個人をさ
す音声記号として流通するのであるが、その音を文字`情報に転換するには、人名以外の名辞には不可能である、表記の多様さが許される。しかしながら、音声言語による発話において は、その人名がいかように表記されるべきものであっても、それが特定の人名を指示する記 号であるためには、発話の線においてその音による分節が行なわれることだけが必要なので あり、その人名が書記化される時に、突如として、いかなる漢字があてられるのか、という 問題が発生する。そこで、漢字の表音規則に基づく複数の可能性から、その特定の人物を書 記として指示するためには、その人物が正しいとする表記を選ばなければならない。その際 に、いわゆる同音異義語と異なり、そこでいかなる漢字表記が行なわれるべきかを定めるの は、線的発話の中で先行して現前であった記号とこの後に現前化する記号によって、発話の 線が意味伝達のために有効に線として成立し続けるように、文法やレトリックや発話者の意 図にかなっているように、語の選択が制限されることによるのではなく、その漢字による文 字記号ユニットが、そこでまさにその人物を指示するために定められた表記でなければなら ないということである。であるから、このような人名表記は、発話の線的成立が行なわれた 結果において、それが書記化される上では、発話の線の構成が強要する書記とは異なる、す
なわちそれからは自由な謝記を持つのである。
さらに、ここで重要なのは、その複数の表記が、漢字という文字記号による表記であると いうことだ。SchmidかSchmidtかというドイツ語人名の表記の複数の可能性は、その際のd かdtかという対立が(語iliiに関する迎想や共示を持ちうることは、また別の論点である)、
その表記の記号としての伝達価値の有意な対立を持たないということから、それは、むしろ、
ある音と文字の対応規則の中の可能性であるにすぎず、文字記号が働くことによる文字記号
としての独自の意1床作用とは無関係のことがらである。それに対して、今ここで取り上げている、日本語の漢字による表記の複数の可能性は、す なわち、文字記号の意味作用について考える上で、重要なのである。
しかしながら、例としての人名から離れてみると、漢字の表記の複数の可能`性は、たとえ ば、ドイツ語におけるmaIenかmahlenかという対立が、たんなるスペルミスのケースである とみなされるように、漢字それ自体の誤記がやはりたんなる誤記でしかなく、誤記された文
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発話行為の成立が線的であることの強制と自由一そして曰本語における停滞可能な発騒について-
字が独自の文字記号としての機能を持つわけではないこととは、無関係のことがらである。
すなわち、一つの音声ユニットを文字記号に転換する時に、その言語の規則の中で、malen かmahlenのいずれを採用するかは、それが書記規則にかなうかどうかだけの問題であり、
意1床作用とは関係しえようがなく、i莫字のたんなる誤記もその点で同様であるのに対し、人 名漢字の複数の表記は、発話の線の有意な成立から自由であることからして、むしろ、そこ で言及ざれ特定されている人物の正しい個人同定を結果するかどうかという、言わば~言語 外の事実認定につながる問題であるのであり、一方、人名以外の漢字の表記においては、そ の複数の表記の可能性は、しばしば、発話の線の成立から自由というよりは、積極的にその 線を成立させるために、決定的な役割を果たす。どの漢字で表記するかは、結局、どの単語 を用いるかを決定するのであり、すなわち、発話の線が誤った延伸へ進み、破綻していくこ とのないように、発話者と受話者の発話の意図を正確に担う線の成立を決定している。
5曰本語における停滞を伴う現前化
ということは、本論の最初に述べたこととの興味深い対比がここで提出できたことになる。
すなわち、どの漢字で表記するかが、発話の成立、進展にとって決定的であるがゆえに、音 声記号による発話の場にも、漢字のイメージが協調的に作動している。であるから、日本語 による発話は、音声壜言語による場合にも、文字言語による場合にも、常に、ある種の停滞が 必、姿となるのだ。ある音声記号の、そしてまたある文字記号の現前のために、常にではない にしても、時によって、つまり、その記号の特定性があいまいであることがありえる時に、
その記号が、発話の線として現前化するために、漢字のイメージの協調が有効なのであり、
それがすなわち停滞なのである。
日本語による発話も、音声言語による発話である場合、その音声記号が、先に述べたよう に、排他的であり、記号の現前化によって発話が時間的に線的に成立していくことは、当然 のことであるが、しかし、ここにおいて特徴的なことは、そこになお、停滞の要素が包含さ れることである。これは、音声言語が音声壜言語であることと矛盾するのではなく、その記-号 の現前のあり方を指していることなのだ。
発話行為において、音声記号が、非在から現前する時に、その現前化は、音声とともに|瞬 時に完遂するものであることは、これまでの論証において繰り返し確認してきたが、ここに いたって、付け加えなければならないのは、日本語における漢字の協調が、そこに停滞をも
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…五匹。…
論文たらすことである。もちろん、その停滞は、現前化を不可能にする妨げなのでなはなく、む しろその現前を可能にするうながしなのであり、それ抜きには、現前それ自体が不可能な場
合がありえると考えてよいであろう。
現実の発話行為における具体例をあげれば、パソコンに向かって発話を書き留めている時 のことを想定してみよう。キーボードのキーを打鍵することが、サブメデイアによる転換で あり、モニターに書記化された文字:が表示されることにより現前化がなされるが、その際、
その文字列が発せられた、発せられるべき記号に対応しているかどうか、すなわち、正しい 漢字が用いられているかどうかが、即座に点検されるが、これが停滞なのである。
この停滞は、発話行為が、書記記号を直接交換する形態をとる時には、見えにくいもので
あると思われるかもしれないが、発話者の発話が音声から沓:記メディアに転換される時に、すでにして発生しているし、また、受話者が、書記メディアによる記号伝達を受けて、その 記号を受話的に現前化して意味を榊築する時にも、その眼前の漢字を見ることにより、その 漢字そのものがもたらす意味の線の複数の可能性を検討することが必要であるがゆえに、こ
こでも、それが現前化の停滞なのである。
そしてまた、音声言語による発話においても、先に述べたように、漢字イメージの協調に よる停滞が、音声記号の現前化に対して働いているがゆえに、発話の時間的線的成立が、そ の停滞による、一つの記号の確定の宙吊り的遅延の間、成立しつつある経過の直中にあり続 けることになるというそのことが、線の間断なきイリ'長によってのみ、線が線として存在でき るヨーロッパ;語の場合と異なっている。停滞のない発話行為が、あらゆる途中休止のごとき ものを許されずに、自分自身を先に進めることでのみ、発話行為が成り立つのであるのに対 し、この停滞を伴うことのできる発話行為は、ひたすら音声記号を発し続けなくても、その
現前化をその停滞の中に遅延させることを拠所にして、発話行為でありながら、不活性的な発話になりえるのである。
S、結び
言語行為としては、日本語であれ、インド・ヨーロッパ語族の言語であれ、その本質にお いては、同じであることは当然であるが、しかし、このようにして日本語には特有の現前化
の停滞が存在することを、この小論で論じてきた。
日本語を母語とする者が、後天的に1Kねて他言語を学ぼうとする時に、その新しく習得し
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発鱈行為の成立が線的であることの強制と自由-そして曰本語における停滞可能な発賭について-
ようとする言語による意思の自由な疎通にいたることが難しいという現実の問題は、それに 対して様々な理由が指摘されてきた。日本語は、現在流布する言語としては、他言語から孤 立する言語であり、したがって、ゲルマン系言語が、相互の類縁性を認識に入れることでそ の習得が容易になりえることがあるのに比して、日本語に関しては、そのようなことが期待 できない。また、よく言われるところの、いわゆる、日本人の明確な断言を避ける、すなわ ち、あまりに明確な意思言明を避けるメンタリティーなるものもIM1ljJとされたりもする。あ るいは、日本の学校教育が、そもそも読み書きそろばんの発想に閉じ込もったままであって、
与えられた課題を受動的に処理することだけを教えているという指摘もある。
しかし、本論において論じたのは、発話行為が成立するその原理にたちかえって考えてみ ると、日本語と他の言語とは、その原理そのものは、言語として当然ながら、全く同じもの であるのだが、日本語には、その原理の作動において、固有の特質があるということである。
それが、発話行為における、言語記号の非在から現前化をへてまた非在にいたるという原理 であり、そして、その現前化が、日本語においては、停滞することで現前化が可能になると いう特質である。
であるから、日本におけるコミュニケーション重視型教育の困難さは、日本人のメンタリ ティーなるものをあげつらうことから、あるいはまた、教育の基本方針を時代に即して修正 していくことから、克服の端緒が得られていくものでは、本来ないのである。すなわち、日 本語を習得する中で、言語運用そのものをそういうものとして身に付けている者は、その日 本語の発話行為の特質を知らない限りは、自らの発話行為を反省できるはずがないのである。
注
(1)ジャック・デリダ:ポジシオン。高橋允昭訳。第3版。1985年。15ページ。
(2)ロラン・バルト:表徴の帝国。宗左近i沢。新潮社。1974年。
ちくま学芸文庫、1996年、156ページ。
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