アメリカ英語のDactylic(強弱弱)連鎖の最終音節に おけるフラップ化阻止 : OCPに基づく考察
著者 菅原 真理子
雑誌名 同志社大学英語英文学研究
号 81‑82
ページ 87‑114
発行年 2008‑03
権利 同志社大学人文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011365
アメリカ英語のDactylic(強弱弱)連鎖の最終音節におけるフラップ化阻止
―OCP に基づく考察
菅 原 真理子
1. 序
英語と日本語の韻律面でもっとも際立つ違いは,語強勢システムの有無で あろう。英語は日本語とは異なり,語強勢システムを持つ言語であり,強勢 音節とそうでない無強勢音節が対立する。強勢音節は,その核である母音が 必 ず 完 全 母 音 で あ り , か つ 無 強 勢 音 節 よ り も , 長 く 強 く 発 音 さ れ
(Gussenhoven, 2004; その他),さらにはその音節を含む語が新情報や焦点で ある場合には,そのピッチアクセント,すなわち音の高低の山がその強勢音 節に共起する場合が一般的である(Bolinger 1958)。1
それに対し,無強勢音
節の核には,例外的場合を除き,原則として弱化母音であるshcwa または 成節子音が,表層レベルで現れる。2興味深いことに,英語では,強勢音節
と無強勢音節の違いは,このような核の質の違いだけではない。その頭子音 の発音も大きく異なってくる場合がある。強勢音節の一番最初の頭子音が無 声閉鎖音である場合,必ず帯気音化することが知られている。しかし,無強 勢音節の頭子音の場合,無声閉鎖音であっても,基本的にそれが帯気音化す ることはなく,弱い形で発音される。その最も顕著な例が,アメリカ英語の フラップ化現象,すなわち無声舌頂閉鎖音 /t/ が,有声たたき音 として発音 される現象である。厳密には,有声たたき音は,英語表記では tap(タッ
プ)と表記されるべきであるが,今まで一般的には,音韻論関係の論文(Patterson & Connie, 2001; Turk, 1992; de Jong, 1998など)で,このアメリカ
英語のたたき音 が
flap(フラップ)と呼ばれてきた慣例に基づき,本論文
でも,この音をフラップと呼ぶ。3このフラップ化現象は,子音の閉鎖区間が極端に短くなるという,閉鎖子 音の弱化現象として捉えることができる(Steriade, 2000;その他)。そして,
このフラップ化現象が起こる最も典型的な環境は,無強勢母音の直前の /t/
が,強勢母音の直後に来たとき,すなわち強勢母音と無強勢母音に挟まれた 環境(例:víta)であると言われている (Patterson & Connine, 2001)。それ以 外の環境,例えば
obésity
の/t/
のように,無強勢母音と無強勢母音の間にあ る場合でも,このフラップ化現象が観測され得るのだが(Kahn, 1980; de Jong1998; Patterson & Connine, 2001)
,アメリカ英語のフラップ化現象の先行研究 を振り返ると,この「ふたつの無強勢母音に挟まれた環境」でのフラップ化 に関しては,まだ十分な研究がなされているとは言い難い。そこで,本論文では,後者の環境で起こるフラップ化について焦点を当て ていく。より具体的には,dactylic(強弱弱)連鎖の最終音節の頭子音の
/t/
の フラップ化を考察する。例えば,pósitiveは,dactylic連鎖から成り立つ語で あり,最終音節の頭子音/t/
は直前の無強勢音節の核である弱化母音 と直 後の無強勢核 のによって挟まれた状態にある。このような環境で,果たし て常にフラップ化が認められるのか,また常にフラップ化が起こるわけでな いのであれば,そこにはどういう一般化が存在するのか,といった疑問に対 して,発話実験とコーパスの検証に基づいて,考察していく。今までの先行研究で,この
dactylic
連鎖の最終節頭子音の/t/
のフラップ化 に関しては,Steriade (2000)やDavis (2005)があるが,どちらもその環境で
/t/
がフラップ化しない場合に着目し,それは,Paradigm Uniformity(形態的 に関連しあった語同士が,お互い似通った音韻構造や音の特性を共有すべき であるという法則),そしてさらにDavis (2005)は超韻脚(super foot)とい
う概念を導入し,説明を試みている。しかしながら,本論文では,dactylic連 鎖の最終音節頭子音の/t/
のフラップ化が阻止される場合があるのであれば,それは
Paradigm Uniformity
や超韻脚ではなく,Obligatory Contour Principle(OCP:必異の原則)に基づいた説明がなされるべきである,という立場を とる。
以下第2節では,まずこれらのParadigm Uniformityおよび超韻脚を用いた 先行研究を紹介し,そして先行研究への疑問点と
OCP
に基づく代替仮説を 提示する。そして第3節で,その代替仮説を検証するために行われた発話実 験の結果を提示する。また,第4節では,その仮説を検証するために行われ たコーパス研究の結果も提示する。2. Dactylic(強弱弱)連鎖の最終音節のフラップ化の先行研究と代替仮説
この節では,まず,強弱弱パターンを含有する語の最終頭子音の
/t/
のフ ラップ化についての先行研究と,そこで用いられた説明を紹介し,それら先 行研究に対しての疑問点,そしてそれらに替わる提案と仮説を提示する。2.1 事実
/t/の音が,「ふたつの無強勢母音に挟まれた環境」にある場合の典型的な 例として,dactylic(強弱弱)パターンの音節連鎖を含有する語の最終弱音節 の頭子音の位置が挙げられるが,例えばこれには次のような語の下線部の位 置がある。
(1) 強
1弱
2弱
3強 弱(弱)(a) càpitalístic (b) mìlitarístic (c) Mèdditeránian (d) Nàvratilóva
興味深いことに,上記の例の下線部の位置の/t/の全ての場合で,フラップ
化が起こるわけではない。Withgott (1982),Steriade (2000),Davis (2005)等 によれば, (1a)の
càpitalístic
では,下線部の/t/
はフラップ化し得るのだが,(1b)の mìlitarístic
では, (1a)の場合と同じく強弱弱の連鎖の最終節目に当たるにも関わらず,フラップ化し得ないという。さらに,Davis (2005)は,強 弱弱の連鎖の最終音節の頭子音の/t/がフラップ化しない例として, (1c), (1d) も挙げている。
2.2 Steriade (2000) による説明:表層の分節レベルでの Paradigm Uniformity
(1a) がフラップ化するのに (1b) がフラップ化しない理由として,Steriade(2000) は Paradigm Uniformity
という概念を用いて説明している。ParadigmUniformityとは,同じ語根を共有する語同士が,同じ表層表示を共有するこ
とを指し,Steriadeによれば,派生語の語基は,表層において,ベース(=その語基だけから成立する単純語)と,極力同じ音(=同じ素性や長さ)で 発音されなければならない,という制約が働いているという。
例えば, (1a) のcàpitalísticの場合,その語基はcapitalである。この語基は それだけで単純語をつくると,cápitalというように強弱弱パターンを持ち,
その3つ目の音節の頭子音/t/は,ふたつの無強勢音節の核の間に挟まれてい るため,フラップ化が容認され, として発音され得る。さらに, (1a) の派生 語であるcàpitalísticの場合も,/t/は同じようにふたつの無強勢音節の間に挟 まれているので,単純語のベース
cápi al
の場合と同じようにcàpi alístic
とフラップ化され得る。ここでは,派生語とそのベースの両者において,同 じ よ う に フ ラ ッ プ 化 現 象 が そ の 最 終 音 節 頭 で 起 こ っ て い る こ と か ら ,Paradigm Uniformityの制約は満たされる。しかしながら,Steriadeによれば,
(1b) においては,このParadigm Uniformityの制約が足かせとなり,フラップ
化が阻止されてしまうという。 (1b) のmìlitarístic
のベースはmílitàry
で,cápitalの場合とは異なり,強弱強弱パターンを持ち,さらには第3音節目の
/t/は強勢音節の頭子音となるので,フラップ化が容認されず,帯気音
として発音されなければならない。 (1b) の派生語は,そのベースと強勢パターン こそ異なれど,Paradigm Uniformityを極力満たすために,最終音節の
/t/
は フラップ化できる環境にあるにも関わらずフラップ化せず,ベースの最終音 節の/t/
と同じように帯気音 として発音されると,Steriade (2000) は説明 している。(2) Steriade (2000) の説明
派生語 (表層の分節の特性が一致) ベース
(a) càpi alístic
↔cápi al
(b) mìli arístic
↔míli àry
2.3 Davis (2005) による説明:超韻脚と表層の韻脚構造レベルでの Paradigm
Uniformity
それに対し,Davis (2005) は,Paradigm Uniformityの役割を認めながらも,
派生語がベースと一致しなければならないのは,表層の分節の素性そのもの ではなく,むしろそれよりも高いレベルの韻脚構造であり,その韻脚構造の
Paradigm Uniformity
を考慮することで,自ずと(1a)と(1b)の違いが導き出せると主張している。まず,
(1a)の派生語cìpi alísticのベースであるcípi al
であるが,強弱弱パターンを持つため,(3a)に示すような,三股構造を持つ
ひとつの韻脚から構成されていると考える。それに対し,( 1 b )
の派生語mìli arístic
のベースであるmíli àry
であるが,これは強弱強弱のように強弱が交互に現れるパターンを持つため,
(3b)に示すような,二股構造を持
つ韻脚がふたつ連続する構成となっている。というのも,英語の韻脚の原則 的な基本形は,強勢を担う音節(強音節)を筆頭に,その後ろに無強勢音節(弱音節)を従えたものだからである。そして,/t/という音素は,韻脚の筆 頭の位置にて強い形で帯気音化して(Nespor & Vogel, 1986),フラップ化が 阻止される。
(3) ベースの韻脚構造 (a) (cá. pi. al. )
韻脚(b) (mí. li. )
韻脚( à. ry. )
韻脚そして,Davis (2005)によれば,この韻脚構造こそが,Paradigm Uniformity にて重要になってくるという。すなわち,ベース内の要素の連鎖と一致する 派生語内の要素の連鎖は,その対応するベース内の要素の連鎖と似通った韻 脚構造を持たなければならない,という制約が強く働いている,というので ある。例えば,
(1a)の派生語 càpitalístic
の場合,下線を引いた部分が,対応 するベースであるcápitalに相当する部分であり,その部分は,ベースと同じ 韻脚構造を持たなければならないのである。よって,この(1a)の派生語は,(4a)のような韻脚構造を持つ。
4 (1b)の派生語mìlitarístic
の場合は,下線部の部分が対応するベースである
mílitàry
と一致する部分であり,この下線部 の部分もベースと同じ韻脚構造,すなわちmì. li.
とta. ri の間に韻脚境界が,
(4b)に示すように現れないと,Paradigm Uniformityの制約を満たせなくなる。
しかし,明らかに,このような構造は,原則的な韻脚の基本形,すなわち強 音節を筆頭にして,その後ろに弱音節が続くという構造に違反してしまうこ とになる。それに対し
Davis (2005) は, (4b)に示すような弱強弱の形を持つ
韻脚も,実は英語では許容され得るものであると主張し,(4b)の構造を支持
する。そして,韻脚の筆頭で無声閉鎖音が帯気音化するという原則(Nespor& Vogel, 1986)に照らし合わせ,最終音節の頭子音の /t/
でフラップ化が阻止されそして帯気音化が起こることが説明できると,Davisは主張している。
(4) Davis (2005) の提案
(a) (cà. pi. a. )
韻脚(lís. tic)
韻脚強 弱 弱 強 弱
(b) (mì. li. )
韻脚( a. rís. tic. )
韻脚… 異常な形の韻脚強 弱 弱 強 弱
Davis (2005) は上記のような,弱強弱のパターンを持つ異常な韻脚を「超 韻脚 (super foot)」と呼び,このような超韻脚は,派生語以外にも見られると 述べ,それは,強弱弱強弱という
dactylic
な音節連鎖(すなわち強弱弱の連 鎖 ) の 直 後 に 強 弱 の 連 鎖 が 後 続 す る 場 合 で あ る と し ,( 5 a )
と( 5 b )
のMèditerránean
とNàvratilóva
を例として使っている。(5) 超韻脚が存在する証拠となる例 :強弱弱強弱パターンを持つ語(Davis,
2005
による)(a) Mèditerránean (b) Nàvratilóva
Davis (2005)によれば,上記の例では,どちらも,dactylicな連鎖の最後の 音節の頭子音,すなわち音素的には無声閉鎖音/t/である下線部の部分が,実 際に発音された場合,フラップ化が阻止され帯気音化して として発音され るという。Davisは,これは,強音節の直前の弱音節で,かつdactylicな連鎖 の最後の音節は,直後の強音節と共に,超韻脚をつくってしまう習性がある からだ,と説いている。それを以下の(6)に示す。
(6) 強音節の直前の弱音節でかつdactylic連鎖の最終音節が超韻脚に含まれる
例 (Davis, 2005)(a) (Mè. di. )
韻脚( e. rrá. ne. an)
超韻脚 = 弱強弱弱(b) (Nàv. ra. )
韻脚( i. ló. va)
超韻脚 = 弱強弱2.4 先行研究の提案に対しての疑問点
Steriade (2000)の表層の音のレベルでのParadigm Uniformityの説明にしろ,
この
Davis (2005)の超韻脚と表層の韻脚レベルでの Paradigm Uniformity
に基 づく説明にしろ,それなりに説明力がある。しかしながら,上記で示した,無強勢母音に挟まれながらも音素/t/のフラップ化が阻止される例は全て,超 韻脚やParadigm Uniformityを用いなくても,説明できる可能性がある。もう 一度,上記のフラップ化が阻止されている場合とそうでない場合とを比べて みよう。
(7)フラップ化が起こり得るといわれている場合(Steriade, 2007; Davis, 2005
より)capitalistic
(8)フラップ化が阻止されるといわれている場合(Streiade, 2007; Davis, 2005
より)(a) militaristic (b) Mediterranean (c) Navratilova
フラップ化が起こり得るといわれている(7)の場合,下線部の音素
/t/
の直前 の弱音節の頭子音は/p/,すなわちフラップ とは似ても似つかない両唇閉鎖 音であるのに対し,フラップ化が阻止されるといわれている場合の下線部/t/
の直前の弱音節の頭子音は(8a)の場合は/l/, (8b)の場合は /d/,そして(8c)
の場合は/r/となっており,フラップ に類似した音,すなわち舌頂音で,か つ有声音である。これは単なる偶然なのだろうか。また,/d/は音素的には阻 害音であるが,実際に強音節の母音と弱音節の母音の間で発音されると,フ ラップ ,すなわち共鳴音となる場合が多く,よって(8b)のMediterranean
の
/d/
は表層的には/l/
や/r/
と同じく舌頂共鳴音である。52.5 代替仮説
もしも,上記のように,直前の弱音節の頭子音がフラップ に類似した音 であるときのみ,dactylic連鎖の最終音節の頭子音の
/t/
のフラップ化が阻止 されているという現実が,単なる偶然でないとすれば,それは,「類似した子 音が隣接する音節の頭子音として連続して出てくるのはのぞましくない」と いった理由に起因している,という仮説が成り立つ。人間言語の音韻では,類似した要素同士が隣接することを禁止する法則が,
すでに多数発見されていることからも,このような仮説は極めて妥当な説明 である。昨今の音韻論では,そのような法則を総称的に
Obligatory Contour Principle
(必異の原則:Leben, 1973; Goldsmith, 1976; McCarthy 1986; Alderete, 1997; Coetzee, 2005; その他)と呼んでいる。この原則が Contour Principle
(声 調曲線法則)という名称を持つのは,最初にこの法則が発見されるきっかけ となったのが,声調(tone)現象であったためである。より具体的,かつ身 近なOCP
の例としては,日本語に見られるライマンの法則(Lyman’s Law:複合語の後部要素の第2音節以降に有声阻害音がある場合,後部要素の最初 の無声阻害音は有声化せず,連濁が阻止される)が挙げられる。例えば,「折 り紙」(ori+kami → origami)の場合は後部要素の最初の
/k/
に連濁が起こり 有声化し[ g ]になるが,後部要素の第2音節に無声阻害音のある「神風」(kami+kaze → kamikaze)の場合は,後部要素の最初の /k/
に連濁は起こらない。さらには
Alderete (1997)で触れられているような,オーストラリアの土
着の言語であるギダバル語やスロバキア語,さらにはアフリカのクシティク 語族のオモロ語などでは,隣同士の音節の母音が揃って長母音であることを 禁止する法則が存在することがすでに知られている。また,英語においても,OCP
で説明されるべき現象がある。例えば,[sC
1VC
2]という形をとる音節内
において,C1とC
2が共に両唇閉鎖音[p]であったり,共に軟口蓋閉鎖音[k]であったりすることが許容されないため (Coetzee, 2005),英語には *spap や
*skak という語が存在しない。このようにOCPの影響が様々な言語に頻繁に
見出されることを考慮に入れると,今まで見てきたdactylic
の最終音節の頭 子音の/t/
のフラップ化阻止を,同じくOCP
で捉えようとするのは,ごく自 然なことである。以下の(9)に,ここで提案された代替仮説を再度提示する。(9) OCP
に基づく代替仮説Dactylic連鎖の最終音節の頭子音で,かつ無強勢母音に前後を挟まれた,無
声歯茎閉鎖音素/t/のフラップ化は,直前の音節の頭子音の位置にフラップ と同じ舌頂共鳴音という素性を有する子音がある場合に阻止される。この(9)に示した仮説の妥当性を確かめるため,発話実験とコーパスに基 づく検証を行った。それらについて,以下の節で触れる。
3. 発話実験
3.1 話者,使用した単語,実験手法
この発話実験では,アメリカ英語母語話者1人(女性・20代大学生)が参 加した。以下の表1にあげた,dactylicなパターン(強弱弱)の音節連鎖を含 む語が使用された。表1の語は,全て,強弱弱の連鎖の最終音節の頭子音が 音素的に/t/であるという点で共通している。また,その直前音節(強弱弱の 連鎖の第2番目の音節)の頭子音の音素も,「/t/以外の無声阻害音」,「/d/以 外の有声阻害音」,「舌頂共鳴音」というように,変化を持たせた。6 強弱弱 連鎖以外も含む語は,その強弱弱連鎖の部分を下線で示す。
表1にあげた語は,Navratilovaとmilitaristicを除き,どれもSteriade (2000)
や
Davis (2005)で考察されたような強弱弱連鎖の直後にさらに強弱の連鎖が
来るわけではなく,その連鎖が語末となる場合ばかりである。もしも,これ らの場合でフラップ化が阻止されるような場合があり,それが何かしらの規
則性を持っているのであれば,少なくとも
Davis (2005)の超韻脚を用いた説
明は不可能になる。なぜなら,超韻脚は,この強弱弱というdactylicなパター ンをもつ連鎖の直後に強弱の連鎖が続かなければ形成が不可能であり,それ が不可能であるにも関わらず,ある環境でフラップ化が常に阻止されるよう なことがあれば,それは超韻脚では説明がつかない。さらに,本論文は,強 弱弱連鎖の最終音節でのフラップ化の有無の検証をするための初歩的な研究 であり,そのような初歩的な研究を遂行する上で,まずはこの強弱弱連鎖が表1 実験で使用した語*
*下線は,強弱弱(dactylic)連鎖の部分を示す(語によって は,dactylic連鎖以外の音節連鎖を含むものもある)。また,
dactylic連鎖の最終音節の直前の音節,すなわち第2番目音節 の頭子音を四角で囲った。
語末にくる場合で,その連鎖の最終音節のフラップ化の有無を検証するのは,
極めて妥当であると考える。
表1の語は,それぞれ,Say ________ again というフレームに入れられ,紙 に印刷された。その印刷されたものを,話者が1回ずつ読み上げる形で録音 が行われた。録音には,Marantz Portable Solid-State Recorder (PMD671) と
RØDE コンデンサーマイクロフォン NT2A
が使用され,44.1KHzで録音された。そしてそこで得られた音声ファイル(.wav形式)をコンピュータ
NEC
LaVie
で読み込み,さらに音声分析ソフトPraat
を使用して再生した。筆者はその再生された音声を
SONY Dynamic Stereo Headphones MDR-Z500
を通 して聞き,強弱弱連鎖の最終音節の頭子音である音素/t/がフラップ化してい るか否かを,聴覚判断した。3.2 結果
強弱弱連鎖の最終音節の頭子音の/t/が,実験に参加した英語母語話者の発 話でフラップ化しているか否かを筆者が聴覚的に判断した結果,以下のよう な結果が得られた。
/t/以外の無声阻害音が直前の音節の頭子音である場合は,43%の割合で,
フラップ化していた。そして,/d/以外の有声阻害音が直前の音節の頭子音で ある場合は,36%の割合で,フラップ化していた。しかし,その直前の音節 の頭子音が,舌頂共鳴音である場合,フラップ化はまったく起こっていな かった。この結果を,表2と表3にまとめる。
表2 フラップ化の有無の度数と割合(グループ別)
表3 フラップ化の有無の度数と割合(音別)
/t/以外の無声阻害音が直前の音節の頭子音である場合のフラップ化比率
43%
が,直前の音節の頭子音が舌頂共鳴音である場合のフラップ化比率0%
よりも,統計的有意に高い比率であるのかを調べるため,Fisherの正確確率 検定(Fisher’s Exact Test)の片側検定(意水準α
= .05)を試み,前者の方
が後者より有意に高いことが判明した(p = .006)。さらに,/d/以外の有声阻 害音が直前の音節の頭子音である場合のフラップか比率36%も,直前の音節 の頭子音が舌頂共鳴音である場合のフラップ化比率
0%
よりも,有意に高 かった(p = .026)。3.3 ディスカッション
この実験結果は,英語母語話者1人を被験者としているため,初歩的な結 果である。しかしながら,ここで出てきた傾向から分かることは,無強勢母 音に挟まれた/t/のフラップ化の有無は,その直前の母音の頭子音の質によっ て大きく左右される,ということである。直前の音節の頭子音が,フラップ と類似した音,すなわち舌頂共鳴音である場合,フラップ化は阻止されるが,
そうでない場合は比較的自由にフラップ化が起こることが判明した。
このことから,Steriade (2000)や
Davis (2005)で,フラップ化が起こる場
合と起こらない場合の例として用いられてきた語の説明は,この直前の音節 の子音の質,という観点から十分説明がつくと主張したい。よって,何も,Paradigm Uniformityや超韻脚といった概念を用いずとも,類似した子音を頭
子音として持つ音節動詞が隣り合うことを避けようとする力(OCP)が働き,それでフラップ化が阻止される,とさえ言えば,十分に説明のつく現象であ る,ということを示唆している。
それでもなお,フラップ化が阻止される場合に,Paradigm Uniformityの効 力が少なからずとも働いているかもしれないという疑念を抱くことも可能で ある。というのは,直前の音節の頭子音が舌頂共鳴音である場合,すなわち フラップ化が全く起こっていなかった場合の語リストを見ると,最終音節頭 子音の
/t/
が,派生接辞-ive
に先行する語根末の子音である語が存在してい る(14語中約半数の7語:infini/t/# vs. infini/t/ive; narra/t/# vs. narra/t/ive等)。 これらの語根が単一の語(すなわちベース)として発音されると,このベー ス末尾の/t/は,フラップとしてではなく,主に放出音の無声歯茎阻害音として発音される。表層の分節素性レベルでのParadigm Uniformityを支持する立 場では,ここで起こっているのは,このベース末の/t/の表層での性質を,そ のまま派生接辞-iveが付加された派生語で模倣している,と説明するかもし れない。しかし,最終音節頭子音の/t/が,-iveなる派生接辞に先行する語根 末の子音であるというケースが多数を占めるのは,ここでは何も直前の音節 の頭子音が舌頂共鳴音である場合に限ったことではない。直前音節の頭子音 が無声阻害音である場合でも,7語中約半数の3語がそのような派生語であ り(例:indica/t/# vs. indica/t/ive),さらに同じく直前の頭子音が有声阻害音 である場合でも,11語中半数以上の7語が,同様に派生語である(例:
pivo/
t/# vs. pivo/t/al; nega/t/# vs. nega/t/ive)
。よって,直前音節の頭子音が舌頂共 鳴音である場合のみ,第3音節の/t/の直後に形態素境界が存在するケースが 目立つわけではない。ゆえに,Paradigm Uniformityで,ここで使用した直前 音節の頭子音が舌頂共鳴音である語でフラップ化が阻止されたことを説明す るには,無理がある。さらに,先にも触れたが,この発話実験で使用した語 は,Navratilovaとmilitaristic
を除き,超韻脚をつくることが不可能な語ばか りなので,それらのフラップ化阻止を超韻脚で説明することも不可能である。ここでの問題点は,実験に参加した英語母語話者が1人である点であり,
ここで得られた結果は,まだ初歩的と言わざるを得ない。よって,補足的に コーパスを用いて,そこで実際に英語母語話者たちが,無強勢母音に挟まれ た環境でいつフラップ化を起こし,またいつそれが阻止されるのかを検証し てみることにした。その検証結果を次のセクションで提示する。
4. コーパスを使用して,無強勢母音間の /t/ のフラップ化を検証
4.1 使用したコーパス
米国ミシガン大学の
English Language Institute
によって公開されているMichigan Corpus of Academic Speech
(以降,MICASE)を使用した。このコー パスには,ミシガン大学での講義や発表,ディスカッション等の発話を録音した音声ファイルと,それを書き起こしたスクリプトが存在し,ここでは講 義の音声ファイルとそのスクリプトをこのコーパスのサイトからダウンロー ドし,それを検証に使用した。検証に使用した講義ファイルは計
15
個であ り,そのファイル名リストは付録に示す。4.2 コーパスから拾い上げられた語
これらのファイルから,(あ)強弱弱(弱)の連鎖を含有し,(い)かつそ の連鎖の最終弱音節の頭子音が
/t/
で,(う)さらにその/t/
の直前と直後が母 音である,という3条件を満たす語を拾い上げた。しかし拾い上げた語は,この3条件を満たした語全てではなく,検索を容易にするために,連鎖の最 終弱音節が
tive /t
Iv/
およびty /ti/
である語のみを拾い上げた。さらに,第3 節の実験の場合と同じく,強弱弱(弱)連鎖のうしろから数えてふたつ目の 音節の頭子音が/t/
と/d/
である場合を除いた。7拾い上げられた語を以下の
表4に示す。表4 MICASEの音声ファイルから拾い上げられた語* *下線は,強弱弱(弱)連鎖の部分を示す(語によっては,強弱弱(弱)連鎖以外の音節連鎖を含むものもある)。また,強弱 弱(弱)連鎖の最終音節の直前の音節の頭子音を四角で囲った(四角で囲まれた子音のないものは,最終音節の直前の音節に 頭子音が存在しない)。カギカッコ内はそれぞれの語の出現頻度数を示す。
4.3 結果
これらの語を含む音声ファイルを,Panasonic Let’s Note CF-W5上で
Real Player
を媒体として再生し,SONY Dynamic Stereo Headphones MDR-Z500を 通して筆者が聞いた。その際,これらの語の強弱弱(弱)連鎖の最終音節の 筆頭の/t/
がフラップ化しているか否かを,聴覚判断した。以下の表5と表6は,上記の語を第3番目音節が
tive /t
Iv/であるものと ty /ti/であるものにそれぞれ対応し,強弱弱連鎖の第2番目の音節の頭子音で分
類し,それぞれの分類において,どれだけの割合でフラップ化が起こってい たかを示す。全体的に見て,強弱弱(弱)連鎖の最終音節がtive /t
Iv/
である 場合の方が,それがty /ti/
である場合よりも,フラップ化が起こりにくかっ た。強弱弱(弱)連鎖の最終音節がtive /t
Iv/
である語の総出現頻度数の56%
にあたる頻度でしかフラップ化が確認されていないなかったのに対し,それ
が
ty /ti/である場合,総出現頻度数の 94%もの頻度で,フラップ化が確認さ
れている。この2種類の語におけるフラップ化の起こりやすさの違いに関し ては,後続の節で,考察することにする。
さらに,それぞれの種類の語の中で,このフラップ化の頻度を見てみると,
先の発話実験の場合と同じように,直前の音節,すなわち強弱弱(弱)連鎖 の後からふたつめの頭子音が舌頂共鳴音である場合に,フラップ化される頻 度が最も少なくなっている。
表5に見られるように,強弱弱(弱)連鎖の最終音節が
tive /t
Iv/
である場 合,直前の音節の頭子音が舌頂共鳴音であると,フラップ化率は38%である のに対し,それが阻害音になると71%
(有声)および83%
(無声)のフラッ プ化率に上昇する(その他の環境,すなわち直前音節に頭子音がない場合は,データの母数が1と圧倒的に少ないため,ここでの考察には含めない)。直前 音節の子音が無声阻害音である場合の83%のフラップ化率が,それが舌頂共 鳴音である場合の
38%
のフラップ化率よりも,有意に高いのかを調べるため,Fisherの正確確率検定(片側検定:有意水準α
=.05)を試みた。結果と
して,両者の間には有意差があることが判明した(p = .000)。また,同じく 直前音節の子音が有声阻害音である場合の71%のフラップ化率が,それが舌 頂共鳴音である場合の38%のフラップ化率よりも有意に高いことがわかった(p = .021)。
表6に示した強弱弱(弱)連鎖の最終音節が
ty /ti/
の場合は,もともと全 体の94%と,極めて高いフラップ化率を有する語群であるため,直前の音節 の頭子音が舌頂共鳴音であっても,90%という高いフラップ化率を示してい る。しかし,この90%という割合は,直前の音節の頭子音が阻害音である場 合と比べると,8%
から10%
低いことがわかる。また,Fisherの正確確率 検定(片側検定:有意水準α=.05)の結果,直前の音節の子音が無声阻害音
である場合の100%
のフラップ化率と,それが舌頂共鳴音である場合の90%
のフラップ化率との間に,有意差があり,前者の方が後者よりも有意に高い ことが判明した(p = .003)。直前の音節の子音が有声阻害音である場合の98
%のフラップ化率も,それが舌頂共鳴音である場合の90%のフラップ化率よ りも,有意に高いことが判明した(p = .046)。直前の音節の子音がその他の 共鳴音である場合は,フラップ化率は100%だったが,母体数が少なかった ため,それが舌頂共鳴音の場合のフラップ化率と比べて,有意差は出なかっ た(p = .457)。直前の音節に頭子音が無い場合は,フラップ化率が
91%
と,それが舌頂共鳴音の場合とほぼかわりなく,有意差もなかった。(p = .615)。 このように,強弱弱(弱)連鎖の最終音節が
ty /ti/
の場合,直前の音節に頭 子音が無い場合を除き,8%
から10%
の割合で,直前音節の頭子音が舌頂 共鳴音の場合よりも,フラップ化率は高く,それが阻害音の場合は,その差 は統計的に有意であった。表5 フラップ化の有無の度数と割合(グループ別): 強弱弱(弱)連鎖 の最終音節が
tive /t
Iv/
表6 フラップ化の有無の度数と割合(グループ別): 強弱弱(弱)連鎖 の最終音節が
ty /ti/
4.4 ディスカッション
上記の
4.3
のコーパスに基づく検証の結果は,第3節に示した発話実験の 結果をさらに裏付けるものとなった。すなわち,無強勢母音に挟まれた,dactylic(強弱弱)連鎖(または強弱弱弱連鎖)の最終音節の頭子音 /t/
がフ ラップ化するか否かは,ある程度,直前の音節の頭子音の質がその決め手と なっており,直前の音節の頭子音がフラップ と同類の音,すなわち舌頂共 鳴音であると,その最終音節の頭子音/t/
は,フラップ化されにくくなる。ただし,この無強勢母音に挟まれた/t/のフラップ化が,直前の音節の頭子 音が舌頂共鳴音である場合に阻止される,という一般化が,アメリカ英語に おいて「音韻化=文法化」されていると考えるには,困難がある。なぜなら,
すでに見てきたように,直前の音節の頭子音が同類の舌頂共鳴音であるから といって,必ずしもフラップ化が阻止されているわけではなく,「傾向」に留 まっているからだ。このような傾向は,音韻化(文法化)される前段階と考 えるべきであり,そのような傾向があるのは機能的理由で説明されるべきで ある。すなわち,類似した子音を頭子音として持つ音節が隣接すると,発音 しにくい,という理由に基づくのであろう。そして,実際問題として,早口 言葉などには,この原理を利用しているものも多々ある。
さらに,このコーパス研究で明らかになったのは,dactylic連鎖(または強 弱弱弱連鎖)の最終音節が
tive
であるのかty
であるのかで,その最終音節の 頭子音の/t/のフラップ化の確率に大きな違いが出てきた点である。これに対 する可能な説明として,この最終音節のty
のほとんどが,-ityという比較的 生産性の高いラテン(フランス語)系語源の派生接尾辞の一部である点が挙 げられる。8比較的生産性も高く,かつそれだけ -ity
を持つ語の頻度も高く なるわけで,それゆえに,-ityは,英語母語話者には馴染みの深い分節連鎖 ということができる。Patterson & Connine (2001)の研究で,すでに明らかに なっているのは,頻度数の高い語内の/t/は,頻度数の低い語内の/t/よりも,より高い確率でフラップ化することが報告されている。彼らは頻度数の高い
「語」ということでフラップ化の確率を検証したのだが,実はこれは正しく は,頻度数の高い「形態素」とするべきなのかもしれない。この点に関して は,さらなる研究が要求されるところであるが,-ityの内部の/t/が,フラッ
プ化しにくいはずの環境でも,90%という高い確率でフラップ化している現 実は,この形態素が「高頻度」で出現する,というところに起因する,と考 えるのは妥当であろう。それに対し,dactylic連鎖の最終音節が
tive
である ような語は,この大学講義のコーパスで検索した限り,圧倒的にそれがtyで ある語よりも少ない頻度でしか出現していない。具体的には,dactylic連鎖の 最終音節がtiveである語の総出現頻度は,延べ87であるだけなのに対し,そ れがtyである語の総出現頻度は331と,前者は後者の約4分の1程度の出現 頻度しかない。この低頻度という現実が,最終音節がtiveでよりフラップ化 が阻止されやすいひとつの理由なのだろうと考える。または,OCPだけでは なく,Paradigm Uniformity的要素も,実は無視できない要因として影響を及 ぼしている,と考えることも可能かもしれない。というのも,この最終音節tiveは,語幹末のt
と接尾辞-iveとに分割が出来る場合もあり(例えばrelativeは rela/t/ # iveに分割が可能であるが,lucarativeなどは
,
そのような分割が 不可能であり,検証に使用された全てのtiveで終わる音節連鎖でそのような 分割が可能なわけではない),語幹が単一語(ベース)として発音された場合 はこの語幹末の/t/は,フラップとしてではなく,主に放出音の無声歯茎阻害 音として発音される。このベース末の/t/の表層での性質が,tiveで終わる音 節連鎖にもある程度移行した,と考えることも可能である。しかし重要なの は,この研究で得られたフラップ化の有無とその環境との相関関係は,Paradigm Uniformity的観点からだけでは説明がつかず,OCPを考慮に入れな
ければならない,という点である。もう一点,触れておく必要のあるのは,このコーパス検証で明らかになっ たフラップ化率と,第3節に示したアメリカ英語話者1人の発話に基づく実 験結果でのフラップ化率とには,大きな違いがある点である。すなわち,発 話実験のフラップ化の方がこのコーパスから得られたフラップ化率より,は るかに低かった。第3節の実験で得られた発話は,リストとして提示された 語を「読み上げる」という,自然発話とは異なった,より制御された環境で
発話されものである。そのような制御された環境では,話者はどうしても「よ り丁寧に明確に読もう」と発話をコントロールしてしまうのだろう。そして この研究では,そのようなより明確な発話においては,アメリカ英語であっ ても,フラップ化が起こりにくいことを「数字的」に示した意義もある。一 方で,このコーパス内の講義の発話は,全て自然発話であり,講義とはいえ,
講師たちは必ずしも,あらたまって話しているわけではなかった。フラップ 化はやはり,A k m a j i a n e t a l . ( 1 9 7 9 )で言われているように,
“ r e g u l a r pronunciation”,すなわちよりくだけた発話での現象であることが,ここでも
裏付けられている。5. 結論
アメリカ英語において,Dactylic連鎖の最終音節の頭子音/t/のフラップ化 の有無,例えば,càpitalísticではフラップ化が起こるのに対し,mìlitarísticで はフラップ化が阻止されるという事実が,今までは,Paradigm Uniformityお よび超韻脚という概念に基づいて,Steriade (2000)や
Davis (2005)等で説明
されてきたが,この論文では,それは単に隣り合った音節の頭子音が両者と も舌頂共鳴音であることは発音しにくいので望ましくない,といったOCP的 な観点から説明されるべきではないか,という仮説を打ち出し,それを発話 実験とコーパス研究の両者に基づいて,検証してきた。そして,そこで得ら れた結果は,どれもその仮説を支持するものであった。ただし,本論文で扱っ た語のほとんどは,dactylic連鎖の後ろにさらに強音節が続かない語(例:re.
la. tive = [強弱弱])がほとんどであって,Steriade (2000)や Davis (2005)で
扱われている例,すなわちdactylic
連鎖の後ろにさらにtrochaic
(強弱)連鎖 が続くような語(例:càpitalísticやmìlitarístic)を中心的には検証してこな
かった。今後,その仮説をさらに強いかたちで支持していくためには,このような
dactylic
連鎖にtrochaic
連鎖が後続する語も含め,さらなる発話実験およびコーパス検証を実施していく必要があるだろう。それを今後の課題と
したい。
注
*有益なコメントをくださった2名の査読者の方々に感謝したい。本論文は,科学研 究費補助金・若手研究(B)課題番号18720133の補助を受けた研究の一環である。
01 このピッチアクセントとの共起は,第一強勢音節に限ったことで,第二強勢音節 に関しては,たとえそれを含む語が新情報や焦点であっても,必ずしもピッチアク セントとは共起しない。
02 最も典型的な例外は,語末の無強勢音節核である。語末の無強勢音節核には,完 全母音である[i]と[o]が現れることができる (Flemming & Johnson, 2007; その他)。
例:city, potatoなど。
03 正確には,flap(フラップ)は,そり舌音である を指す(Ladefoged, 1993; 小泉 1996; Shockey 2003)。
04 (4a)では,ベースに対応する最後の音/l/が,後続の韻脚の筆頭に動いてしまって
いるが,それ以外のベースに対応する部分で,韻脚構造に変形は起きてはいないの で,韻脚構造に関するParadigm Uniformityの制約は最大限に満たされていると考え られる。
05 本論文では,フラップ は,共鳴音の一部として捉える。というのも,フラップ
は,[r]や[l]と同じように常に有声音であり,このように有声であることがその子音
の定義の一部になっているように (Giegerich, 1992),有声・無声の対立がないこと から,共鳴音とするのが最も妥当であると考えるからである。
06 ここで,強弱弱連鎖の第2番目の音節の頭子音に,音素的に舌頂阻害音/t/および /d/を持つ語を含まなかったのは,この第二番目の音節の音素/t/自体がフラップやそ の他の異音として発音される可能性があり,事が複雑になるのを避けるため,使用 しなかった。
07 注6を参照のこと。
08 比較的生産性は高いが,Class I接辞として分類され,語根にもともと備わってい
るストレスパターンに変化をもたらしたり,語根だけで単純語を作っている場合と 比べて,表層での分節の表示が異なっていたりする。
参考文献
Akmaijian, A., R A Demers, & Harnish, R. M. (1979). Linguistics, an introduction to language and communication: MIT.
Alderete, J. (1997). Dissimilation as local conjunction. In K. Kusumoto (Ed.), Proceedings of the north east linguistics society (Vol. 27, pp. 17-32). Amherst: GLSA.
Bolinger, D. (1958). A theory of pitch accent in English. Word, 14, 109-149.
Coetzee, A. (2005). The OCP in the perception of English. In S. Frota, M. C. Vigário & M. J.
Freitas (Eds.), Prosodies: With special reference to Iberian. Berlin: Walter de Gruyter.
Davis, S. (2005). Capitalistic v. militaristic: The paradigm uniformity effect reconsidered. In L.
J. Downing, T. A. Hall & R. Raffelsiefen (Eds.), Paradigms in phonological theory. Oxford:
Oxford University Press.
de Jong, K. (1998). Stress-related variation in the articulation of coda alveolar stops: Flapping revisited. Journal of Phonetics, 28, 283-310.
Flemming, E., & Johnson, S. (2007). Rosa’s roses: Reduced vowels in American English. Journal of the International Phonetic Association, 37(1), 83-96.
Giegerich, H. J. (1992). English phonology: An introduction. Cambridge: Cambridge University Press.
Goldsmith, J. (1976). Autosegmental phonology. Unpublished Ph.D. dissertation, MIT.
Gussenhoven, C. (2004). The phonology of tone and intonation. Cambrdige: Cambridge University Press.
Kahn, D. (1980). Syllable-based generalizations in English phonology. New York: Garland.
小泉保. (1996). 『音声学入門』. 東京: 大学書林.
Ladefoged, P. (1993). A course in phonetics: Harcourt Brace & Company.
Leben, W. (1973). Suprasegmental phonology. Unpublished Ph.D. dissertation, MIT.
McCarthy, J. (1986). OCP effects: Gemination and antigemination. Linguistics Inquiry, 17, 207-263.
Nespor, M. & Vogel, I. (1986). Prosodic phonology. Dordrecht: Foris Publications.
Patterson, D., & Connine, C. M. (2004). Variant frequency in flap production: A corpus analysis of variant frequency in American English flap production. Phonetica, 58, 254-275.
Shockey, L. (2003). Sound ptterns of spoken English. Oxford: Blackwell.
Steriade, D. (2000). Paradigm uniformity and the phonetics-phonology boundary. In M. Broe
& J. Pierrehumbert (Eds.), Papers in laboratory phonology V: Acquisition and the lexicon (pp. 313-334). Cambridge: Cambridge University Press.
Turk, A. E. (1992). The American English flapping rule and the effect of stress on stop consonant
durations. Cornell Working Papers in Phonetics, 7, 103-133.
Withgott, M. (1982). Segmental evidence for phonological constituents. Unpublished Ph.D.
dissertation, University of Texas.
論文で使用されたコーパス
University of Michigan, E. L. I. Michigan corpus of academic spoken English. http://
quod.lib.umich.edu/m/micase/
付録
MICASEからダウンロードし,検索に使用したMICASEの講義ファイル名のリスト:
LES425JG077 Graduate Population Ecology Lecture LES485MG006 Graduate Physics Lecture
LEL 300SU076 Fantasy in Literature
LEL215SU150 Sports and Daily Life in Ancient Rome Lecture LEL175SU106 Biology of Cancer Lecture
LEL500SU088 Drugs of Abuse Lecture LEL175JU112 General Ecology Lecture
LEL105SU113 History of the American Family Lecture LEL115JU090 Intro Anthropology Lecture
LEL485JU097 Intro to Physics Lecture
LES115MU151 Archeology of Modern American Life Lecture LES420MG134 Beethoven Lecture
LES355SU009 Historical Linguistics Lecture LES500JU136 Honors Intro Psychology Lecture LEL320JU147 Twentieth Century Arts Lecture