出生率と所得ボラティリティ
著者 平田 英展
雑誌名 經濟學論叢
巻 64
号 2
ページ 553‑570
発行年 2012‑09‑20
権利 同志社大學經濟學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013745
【研究ノート】
出生率と所得ボラティリティ
平 田 英 展
1 は じ め に
Perotti (1996)は,経済成長率と出生率が,負の相関関係にあることを実証 的に示している.この実証結果に対する解釈には様々なものがある.1つには,
Kremer and Chen (1999, 2002)の理論分析のように,経済成長率の上昇と人的資
本の価値との間に正の相関が存在し,経済成長率の上昇は1人当たり教育費 用の上昇をもたらすため,子供の数を減らすことにより総教育費用負担を引 き下げざるを得ないという解釈がある.本論は経済成長に密接する人的資本 価値に基づく所得の不確実性(ボラティリティ)が,出生行動にどのような影 響を与えるかを分析する.所得分散の上昇が,後年生まれる可能性のある子 供の経済的価値,または人的資本価値を上げる場合には,出生率が上昇する ことが予想される.一方,所得分散の上昇は,所得格差を生み社会的に不安 定となり,出生率を下げる.本稿では,このようなメカニズムを考慮に入れ ながら,所得ボラティリティの上昇が出生行動に与える影響を理論的に分析 する.
これは,ベルマンの最適性原理と最大値原理の双方を用いて,資産運用,
出生,および消費行動に関する動学的最適化問題を不確実性を考慮に入れた 上で明示的に,定式化することによって解明する.すなわち,所得ボラティ リティが,家計とその子供が将来受け取る可能性のある期待所得に与える影
* 著者は本稿を執筆するにあたって八木匡教授による多大なる恵沢に浴した.ここに深く先生に 拝謝する.
響を明示的に定式化する.本稿の分析の結果,次の2つの性質が確認されて いる.第1に,人的資本が生み出す家計の将来所得に関するボラティリティ が大きくなるにつれ,ボラティリティが期待生涯所得に与える影響を通じて 出生率が増えることである.第2に,ある一定の値以上のボラティリティで は所得格差が増すために社会的に不安定となり,出生率が減少することであ る.これらの性質より,出生率はボラティリティに関して逆U字型となるこ とが導かれる.
本稿の分析の意義と結果の妥当性を吟味するために,既存研究における議 論を整理する.所得や人的資本の分布関数と出生率との相関について議論し ている先行研究に,Perrotti (1996),Docquier (2004),Croix and Doepke (2003) がある.しかしながら,Perrotti (1996)の実証結果を,所得分散と出生率との 間に存する関係を用いて解釈する試みは著者の知る得る限り無い.しかし,
この実証結果の解釈のあり方によっては,政策的含意が大きく異なることに なる.これは経済成長とともに出生率を上げる可能性があるのかないのかと いうことに関してである.
Perrottiの分析によると,低所得層と高所得層の比率が大きく,所得分散 が大きな国では,政府がその格差を財政政策により是正しようとする.結果,
経済成長率を低下させる.統計的に高い有意水準で成長率と出生率との間に 負の相関がある場合には,成長率の鈍化は出生率を高めることになる.
所得分布の密度関数と出生率との理論関係を示した研究は,Docquier (2004) にある.彼は,初等教育から中等教育などへの節目で,子の質と量の代替が 生じるとしている.そこに人口密度が,よって,所得分布が集中していれば,
総じて負の相関が観察できる.すなわち新たに子を産むより,すでに育てて いる子の質を向上させるのである.逆に,これらの点に集中していなければ それは正となる.つまりは,いま,所得分布に微小な外生的プラスの変化が 生じたとし,かつ,教育が初等,中等,および高等教育などにグループ分け され,教育段階が不連続なものであり,人口密度の大半の子供があるグルー
プ内に存在すれば,所得分布における変化によって,親は教育投資ではなく 出生率を増やす.逆にグループ間に家計およびその子供がいる場合には,教 育投資が増大し,子供の質が高まることにより,子供の質と量の代替が生じ ることが示される.この研究では教育投資の不連続性に焦点が置かれており,
所得分散については十分に議論されていない.
Croix and Doepke (2003)は総出生率だけでなく所得階層間での出生率格差を も分析に含んでいる.所得分配状態がより不平等になると,この出生率格差 を通じて経済成長率が下がるメカニズムが示されている.一般に,貧困層の 多くは人的資本水準が高くない.故に,子を産み育てるための機会費用が低い.
よってより多くの子を生み,さらにその子供らもより多数の子を産む.この ため人的資本水準が高くない家計の経済における比率が上昇し,経済成長率 を下げる効果を持つ.これを表現するため,Croix and Doepkeは人的資本の 不平等な初期分布を想定し,内生的に決定される出生率と学校教育年数が所 得分布の不平等度に依存して決定されることを示している.
本稿では,出生率の長期的動向が所得の不確実性に依存することを示す.
将来時点での不確実性のない賃金格差を想定するよりも,各家計の生涯所得 流列において所得分散が存在すると仮定した方がより自然と考えることもで きよう.もし将来の不確実性が所得に存在せず,単に格差だけがあるのならば,
分散は増減しないからである.この点は,Croix and Doepkeが,人的資本格 差が出生率に影響を与えることを示していることと整合的である.本稿では,
この資産格差を構成する貯蓄や人的資本格差に着目し,これらが生み出す所 得流列の違いが出生率に与える影響に焦点を当てて分析を行う.
また,本論や上述の研究と整合的な帰結を別のアプローチによって得た研 究としてDahan and Tsiddon (1998)とMorand (1999)がある.これらの研究では,
GDP成長と出生率が逆U字型の関係になることを提示している.Dahan and
Tsiddonは,人的資本水準の低い子孫の数と人的資本水準の高い子孫の数を
内生的に決定するモデルを分析し,低水準の家計の出生率は高水準のそれよ
りも高いことを示した.この論文では,経済成長の過程で,高い人的資本を 蓄積するための教育投資費用を所得増によって賄うことが可能となり,これ によって経済成長とともに家計所得は低水準から高水準に上昇し,出生率も これによってある程度まで高くなることを示している.しかし,教育費用の 増大が養育費用の上昇をもたらし,出生率を低める効果が生まれることから,
出生率は経済成長の過程で減少に転じる可能性が示唆されている.Morand
(1999)も同様に出生率とGDP成長が逆U字型になるという結論に,親による
養育費用負担をより詳細に考察することで達している.
Dahan and Tsiddon (1998)とMorand (1999)の研究と,Perrotti (1996),Docquier
(2004)および,Croix and Doepke (2003)などの研究との相違は,GDP 成長率が
出生率に直結しているのか,それとも所得分散とGDP成長率との関係まで 含めて出生率への影響を分析しているかにある.本稿は後者のモデルに属す る.所得分散そのものが出生率に影響を与えているのならば,分散を最適にす れば,経済成長とともに出生率を高めることが可能となる.本稿では,Barro
and Sala-i-Martin (1995)のモデルを発展させることにより,所得分散と出生率と
の間の逆U字型相関関係を導出する.第2節では,モデルを紹介し,そのシミュ レーションを展開する.第3節でシミュレーション結果の解釈を行う.
2 モ デ ル
家計の効用関数をU=
∫
0 T e−ρt1−θ Nφc(n−d)ψ
1−θ
−1 dτ (1)
と仮定する.cは消費であり,価格は1に基準化している.Nは一家計あたりの 世帯人数,nは出生率,dは死亡率,φおよびψはパラメータである.ここで N=N(0), N(t)=N(0)e(n−d)t, R(τ)=
∫
0τr(τ)dτ (2)
であり,cを養育費以外の消費とする.本稿とBarro and Sala-i-Martin (1995)の
モデルとの違いは,子供の養育費に関する定式化にある.π は子供の質1単 位あたりの価格とし,本稿では家庭内の子供の質qはすべての子供について 等しい,とする.有効労働力1人当たりの資本kの時間的変化が標準ブラウ ン運動に従うとする.Barro and Becker (1986, 1988)とBecker and Barro (1989) の扱いと同様にこのkに人的資本を含むものとする.k˙=E[dk/dt]である.し たがって
dki=μkidt+σkidB(t), (3)
と記述でき,ここでB(t)は標準ブラウン運動(ウィーナー過程)である.dB(t) は期待値ゼロと分散dtをもつ1).また,μはkの成長率であり,σ は変動率,
および
μ=w+rK−c−n(K+qπ)+dK (4)
である.以下,代表的家計を想定した上で,世代iを省略し,kiをkと記 す.このkは人的資本および有形資産,Kは有形資産だけである.Barro and
Sala-i-Martin (1995)では予算制約は有形資産だけであるが,本稿には人的資本
が含まれている.遺産相続のとき,この両者は性格を異にする.人的資本は n等分されないが,有形資産はn等分される.後述するが,Barro and Sala-i- Martinがχ=C
K を0.05から0.08の間で推移させていることから,K=100を シュミレーションの際に代入するが,この値は,人的資本kには大きすぎる.
本稿のkは主に人的資本であり,したがってKとは別個のものとする.wは 1人あたり労働賃金,rは利子率,nは出生率,およびcは消費である.よっ てk˙は
E[k˙]= dk
dt =E[w+rK−c−n(K+qπ)+dK]k (5)
となる(詳細については,Barro and Becker (1986, 1988)とBecker and Barro (1989)お よびBarro and Sala-i-Martin (1995)を参照).
ここで,教育資産はそれ自体,購入されたときに何らキャッシュフローを
1) 蓑谷(2000)などを参照されたい.
生じないのでそれを保有する価値はその資産評価であり,その資産からの目 下の支払いや配当はない.したがって鞘無し条件もしくは均衡条件によって ρVdt=E[dV] (6)
と記述できる.Vは人的資本価値もしくは教育投資価値である.同様に (n−d)Ndt=E[dN] (7)
となるから,ハミルトニアン関数が H=e−ρt
1−θ[{Nφc(n−d)ψ}1−θ−1]+λ1NE[V˙]+λ2(n−d)N (8)
となる.λ1の後の予算制約にNが掛けられているのは,家系長(dynasty head) だけの予算制約ではなく家系全体の予算をその最適消費と出生率のために使 うからである.目的関数が家計系譜型効用関数である以上,その予算制約も 家計系譜型予算制約を用いる方が整合的といえよう.かつ,λ1NE[V˙]と記し ているのは生まれた直後の子供は人的資本価値の上昇に寄与しないからであ る.またBarro and Sala-i-Martin (1995)では,dynasty-head (家計系譜長)がその 全ての子孫の出生経路を決定するモデルであるが,本稿では合理的な家計が 出生率およびその人的資本を含む貯蓄行動もしくは,人的資本移転において も最適行動を取るとしているので,その貯蓄行動の最適化において市場の不 確実性を加味するベルマンの最適性原理を用いている.家計が合理的である 以上,出生率だけでなくその貯蓄行動も将来の不確実性を考えに入れた上で,
最適化されなくてはならない.その逆向き推論された経路上においてdkの不 確実性σが存在するからである.本稿ではこのdkの不確実性 σ が,どの世 代iにおいても全て互いに独立な同一分布に従うと仮定する.また,親は教 育投資を行うため,自らの時間を子の教育のために犠牲にしない.よって教 育のための機会費用を予算制約から引いていない2).かつ,(8)式は,人的資
2) Barro and Sala-i-Martin (1995)のfertility equationに疑問を呈している研究にLorgelly, Knowles, and Owen (2001)が あ る.Lorgelly, Knowles, and Owenら は 実 証 的 にBarro and Sala-i-Martinの fertility equationが有意でないことを示している.また,Barro and Lee (1994)のfertility equationは,
有意であってもモデルの定式化に問題があるとしている.
本価値の期待成長率が予算制約であり,Barro and Sala-i-Martin (1995)のよう にkの成長率ではない.ここで
E[V˙]= μβ+1
2σ2β2−σ2
2βV (9)
である3).Vは教育投資の価値であり V(k*)−I=F(k*)
=k*
δ (価値同等条件) (10)
となる.上式はvalue-matching condition (価値同等条件)を満たすk*によって記述 できる.(10)式は,V(k*)とI(教育投資費用)の差であるF(k),すなわち株式な どへの投資機会を失うことの機会費用を表現している.ただし,本稿ではF(k) は待つことの価値ではない.本稿では,教育投資は時期が来れば,直ちに行う.
(10)式の右辺は,k* δ=
∫
0∞k*e−δtdtより導出でき,δは毎単位時間あたりの 収益であり4),k*>kでこれを債券市場を通じて得るものとする.このことは,
大学に通っていなければ人的資本kによって収益を得ることができることに より示せる.本稿では,家計は時期が来たら,教育投資をたとえV(k*)<Iで も行うとしている.これはすでに大学などの教育機関に進学許可を得ている 制度を仮定しているからである.
各家計は出生率,消費,および予算の運用において合理的に行動する.本 稿では,出生率,消費を最適に選択するだけでなく,予算となる資産運用に おいても最適に将来の不確実性を考えに入れた上で各家計が決定する.さら には,効用を最大化する消費のうち,教育投資価値も最大化する消費を後に 決定する.(10)式においてδ=α−μであり,μ は予算の成長率を表している.
αは債券市場での成長率であり,α=r+ωσρpmである5).価値同等条件の下で,
3) Dixit and Pindyck (1994) chap.5を参照されたい.
4) Dixit and Pindyck (1994) pp.181-182を参照されたい.
5) Dixit and Pindyck (1994) pp.174-181を参照されたい.
(10)式をk*に関して微分すると dV
dk|k=k*=V'(k*) (11)
=1 δ
となる.以下,Dixit and Pindyck (1994)に沿うと k*= βI
1−βδ (12)
と価値同等条件下でのk*の値が求まる.(10)式に(12)式を代入すると Ak*β= I
1−β (13)
となり
A= I1−β (1−β)1−β
1
(δβ)β (14)
と,定数Aが求まる.ここで ρVdt=E[dV]
=E μkV'(k)+1
2σ2k2V''(k) dt dV
dt = μβAkβ+1
2σ2β(β−1)Akβ
(15)
であることより
NE[V˙]=N I1−β (1−β)1−β
1
(δβ)βkβμβ+1
2σ2β2−1
2σ2β (16)
である.家計の最適行動を求めるため,まず(16)式をcに関して微分すると ∂NE[V˙]
∂c = N ∂I1−β
∂(1−β)
∂(1−β)
∂β
∂β
∂μ
∂μ
∂c 1 (1−β)1−β
1 (δβ)βkβ +NI1−β∂[(1−β)1−β]−1
∂(1−β)1−β
∂(1−β)1−β
∂(1−β)
∂(1−β)
∂β
∂β
∂μ
∂μ
∂c 1 (δβ)βkβ
+N I1−β (1−β)1−β
kβ ββ
∂[δβ]−1
∂δβ
∂δβ
∂c
+N I1−β (1−β)1−β
kβ δβ
∂[ββ]−1
∂ββ
∂ββ
∂β
∂β
∂μ
∂μ
∂c +N I1−β
(1−β)1−β 1 (δβ)β
∂kβ
∂β
∂β
∂μ
∂μ
∂c μβ+1
2σ2β2−1 2σ2β
+N I1−β (1−β)1−β
kβ
(δβ)β μ+1 2σ2∂β2
∂β−1 2σ2 ∂β
∂μ
∂μ
∂c −N I1−β
(1−β)1−β kβ
(δβ)ββ (17)
となる.∂β
∂μ=βμである.以下,下付きは偏微分を表すものとする.なお,(15)
式より β=1
2−μ
σ2
(
σμ2−1 2)
2+σ2ρ21
2 (18)
であるが,V(k*)>0を保証するために β(−)=1
2−μ
σ2−
(
σμ2−12)
2+σ2ρ2 12 (19)とする.よって
βμ=− 1 σ2−
∂
(
σμ2−1 2)
2+σ2ρ2∂
(
σμ2−1 2)
2+σ2ρ21 2
∂
(
σμ2−1 2)
∂
(
σμ2−1 2)
2+σ2ρ2∂μ
∂
(
σμ2−1 2)
=− 1 σ2−
(
σμ2−1 2)
2+σ2ρ21 2
(
σμ2−12
)
1σ2 (20)
である.したがって∂NE[V˙]
∂c は ∂NE[V˙]
∂c =NVβμ μβ+1 2σ2β−1
2σ2β log I−{ log (1−β)+1}
− β
βμδ−logδ +{ logβ+1}−logk −NVβμ μ+1
2σ2∂β2
∂β−1
2σ2 −NVβ (21)
となる.結局 ∂H
∂c =e−ρt{Nφc(n−d)ψ}1−θ
c +
λ1NVβμμβ+1 2σ2β2−1
2σ2β log Iβδ (1−β)k− β
βμδ =0 (22)
となるので
λ1=e−ρt{Nφc(n−d)ψ}1−θ
c NVβμ μβ+1
2σ2β2−1 2σ2β log Iβδ
(1−β)k− β βμδ
−1
(23)
と整理できる.
一方,NE[V˙]をnに関して微分すると ∂NE[V˙]
∂n =NVβμ(K+qπ) μβ+1
2σ2β2−1
2σ2β log I−{ log (1−β)+1}
+{ logδ− β
βμδ}+{ logβ+1}−logk +tN I1−β
(1−β)1−β 1
(δβ)βkβ}μβ+1 2σ2β2−1
2σ2β (24)
となる.上式をハミルトニアン関数のnに関する微分に代入すると
∂H
∂n=e−ρt[{Nφc(n−d)ψ}1−θtφ+ ψ (n−d) +λ1NVβμ(K+qπ) μβ+1
2σ2β2−1
2σ2β log Iβδ (1−β)k− β
βμδ+ t βμ(K+qπ) +λ2[N{1+(n−d)t}]=0 (25)
となるから,λ1を上式に代入すると
∂H
∂n=e−ρt{Nφc(n−d)ψ}1−θtφ+ ψ (n−d) −e−ρt{Nφc(n−d)ψ}1−θ
c log Iβδ
(1−β)k− β βμδ (K+qπ) log Iβδ
(1−β)k− β
βμδ+ t βμ(K+qπ)
+λ2[N{1+(n−d)t}]=0 (26)
となる.上式に横断性の条件であるlimt→ ∞λ2N=0を用い,両辺tで除した
上でt=∞を代入すると
log Iβδ
(1−β)k= 1
φβμc+ ββμδ (27)
となる.ここで,(12)式より,k*=kのとき 1
φβμc+ β
βμδ =0 (28)
となる.したがって −β=δ
φc
であり,δ=α−μであるから β=μ−α
φc (29)
となる.
β=1 2−μ
σ2−
(
σμ2−21)
2+2ρσ2 12であるから −1
2+μ
σ2+
(
σμ2−12)
2+2ρσ2 12=α−μφc となりμ=
α(σ2+φc)
(σ2+2φc)+ φcσ2 2 (σ2+2φc)
∓ φcσ2 2 (σ2+2φc)
4α2
σ4 +1−4α σ2+8ρ
σ2
(
1+2σφ2c)
(30)と導出できる.ここで
φc
(σ2+2φc) α2+σ4
4−ασ2+2ρ(σ2+2φc)
=∓ φcσ2 2 (σ2+2φc)
4α2
σ4+1−4α σ2+8ρ
σ2
(
1+2σφ2c)
より
n*=w+(r+d)K−c
(K+qπ) − α(φc+σ2) (K+qπ)(2φc+σ2)
− σ2φc 2(K+qπ)(2φc+σ2)
φc α2+σ4
4−ασ2+4φcρ+2ρσ2
(K+qπ)(2φc+σ2) (31)
と最適出生率が求まる.さらには教育投資価値を消費cに関して最大化する.
すなわち効用関数を最大化するcを決定した上で,さらにそのcにおいて教育 投資価値を最大化する.このことにより,本稿はBarro and Sala-i-Martin (2004)
のように最適な出生率を消費との関係によって記述しただけでなく,消費を明 示的に決定することによって,そのもとにおける出生率を導出する.
μを消費cに関して最大化するようにcを決定すると,すなわち教育投資価 値を最大化するようにcを決定すると4次式の解の公式より(淡中,1960;高木,
1965, pp.180-181;Tignol,2001, pp.24-25),最適な消費cは以下のように決まる.
c* *=−a' 4+
−( Z−P')+ (Z−P')−4
(
Z2− 2 Z−P'Q'
)
2 (32)
ここで,上式の各変数は以下の通りであり,4次式の各係数及び定数をa,b, c,d,eとした上でそれぞれaで割ったものを1,a',b',c',d' とする.
P'=b'−3 8 a' 2
Q'=C'−a' b' 2 +1
8 a' 3 R'=d'−a'c'
4 + 1
16a'2b'− 3 256 a'4 P=−(−P')2
3 −4R'
Q=− 2
27P'3−1
3 (−P') (−4R')+(4P'R'−Q'2)
A'=−Q 2+
Q2+ 4 27P3 2
B'=−Q 2−
Q2+ 4 27P3 2
Z=−
(
−P3')
+3 −Q2+Q2+ 4 27P3
2 +
3
−Q 2−
Q2+ 4 27P3 2 B'= Z−P'
C'=Z 2−
2 Z−P' Q'
この消費cを(31)式に代入する.wを以下のように価値同等条件のもとでの 人的資本価値とし,すなわちAk*βを6)
Ak*β=w*= βI
(1−β)δβ= I (1−β)
としたものを,(31)式に代入しこのn*についてのシミュレーションを以下に 示すと
-0.225 -0.2 -0.175 -0.15 -0.125 -0.1 -0.075 -0.05 -0.025 0 0.025 0.05 0.075 0.1
0 0.06 0.11 0.16 0.21 0.26 0.31 0.36 0.41 0.46 0.51 0.56 0.61 0.66 0.71 0.76 0.81 0.86 0.91 0.96 1.01 1.06 1.11 1.16
第 1 図 最適出生率 sigma n
となる.
上図においては,σは0.26から1.08範囲で正の値である.ここで,各定
6) このように労働賃金をkの関数としたものにBrock and Mirman (1972), Sargent (1987) pp.24-27 およびLjungqvist and Sargent (2000) pp.33-34がある.
数の値はr+d=0.05,d=0.01,K=100,φ=0.2,α=0.08,ρ=0.02,I= 30,およびqπ=15である.d=0.01,K=100,φ=0.2,およびρ=0.02は,
Barro and Sala-i-Martin (1995) chap.9を参照している.K=100は,Barro and Sala-i-Martinが χ= c
K を0.05から0.08の間で推移させていることから導出 している.第 1 図のように教育投資価値を最大化する効用最大化c* *のもとで は最適出生率n*はσに関して逆U字型となる.σ の低い所で,出生率が低 いのは人的資本価値を差別化できないことにより,低く抑えられるからであ る.逆にσの極めて高い所でも出生率が低いのは格差が広がりすぎることに よって社会的に不安定となり,子供を育てるような環境ではなくなることに 起因する.よって出生率を最大化させるσにはその最適な値が存在する.
ただ,上図は家計がその子供をエスカレータ式の大学に進ませる場合であ り,このモデルでは,たとえ,kが満足できる水準でなくても,教育投資をk が将来高くなるまで待つ必要はない.待つことの価値,すなわち浪人するこ との価値を考察するモデルおよび,教育投資を家計が行わずに出生率を最適 化するモデルは別論文で分析する.
3 結 語
本稿は,σで表現された,人的資本の内生的成長の不確実性によって影響 を受ける最適出生率に関して論じた.最適出生率における消費は代々にわた る効用および教育投資価値を最大化させるように決定している.結果,σ に 関して出生率は逆U字型となる.このときの賃金には,人的資本価値そのも のを用いている.これらのことにより,本稿は最適な出生率を消費との関係 によって記述しただけでなく,消費を明示的に決定することによって,その もとにおける最適出生率を明記している.出生率が σ に関して逆U字型と なることにより,所得分散にも出生率を最大化させる最適な値があることが わかる.これは社会的に不安定な国では補助金制度が,より安定した社会で は給与形態が能力に応じて支払われる能率給をより包括的に導入するのが良
いことを示している.
【参考文献】
Barro, R. J. and Becker, G. S. (1986) Altruism and the Economic Theory of Fertility, Population Council, Vol.12, pp.69-76.
Barro, R. J. and Becker, G. S. (1988) A Reformulation of the Economic Theory of Fertility, Quarterly Journal of Economics, Vol.103, pp.1-25.
Barro, R. J. and Becker, G. S. (1989) Fertility Choice in a Model of Economic Growth, Econometrica, Vol.57, pp.481-501.
Barro, R. J. and Lee, J. W. (1994) Sources of Economic Growth, Carnegie-Rochester Conference Series on Public Policy, 40, 1-46.
Barro, R. J. and Sala-i-Martin, X. (1995) Economic Growth, McGraw-Hill, New York.
Baughman, R. and Dickert-Conlin, S. (2009) The Earned Income Tax Credit and Fertility, Journal of Population Economics, Vol.22, pp.537-563.
Becker, G. S. and Lewis, H. G. (1973) On the Interaction between the Quantity and Quality of Children, Journal of Political Economy, Vol.57, pp.S279-S288.
Brock W. and Mirman, A. (1972) Optimal Economic Growth and Uncertainty: The Discounted Case, Journal of Economic Theory, Vol.4, pp.479-513.
Croix, D. and Doepke, M. (2003) Inequality and Growth: Why Differential Fertility Matters, American Economic Review, Vol.93, pp.1091-1113.
Dahan, M. and Tsiddon, D. (1998) Demographic Transition, Income Distribution, and Economic Growth, Journal of Economic Growth, Vol.3, pp.29-52.
Dixit, A. and Pindyck, R. S. (1994) Investment under Uncertainty, Princeton University Press.
Docquier, F. (2004) Income Distribution, Non-Convexities and the Fertility Income Relationship, Economica, Vol.71, pp.261-73.
Ljungqvist, L. and Sargent, T. J. (2000) Recursive Macroeconomic Theory, MIT press.
Lorgelly, P. K. Knowles, S. and Owen, P. D. (2001) Barros Fertility Equations: the Robustness of the Role of Female Education and Income, Applied Economics, Vol.33,
pp.1065-75.
Morand, O. F. (1999) Endogenous Fertility Income Distribution, and Growth, Journal of Economic Growth, Vol.4, pp.331-349.
Perotti, R. (1996), Growth, Income Distribution, and Democracy: What the Data Say, Journal of Economic Growth, Vol.1, pp.149-187.
Sargent, T. J. (1987) Dynamic Macroeconomic Theory, Harvard University Press.
Tignol, J. (2001) Galois’ Theory of Algebraic Equations, World Scientific Publishing.(新妻弘 訳(2005)『代数方程式のガロアの理論』共立出版.)
Whittington, L.A. (1992) Taxes and the Family: the Impact of the Tax Exemption for Fertility, Demography, Vol.29, pp.215-226.
Whittington, L.A., Alm, G. and Peters, E. (1990) Fertility and the Personal Exemption:
Implicit Pronatalist Policy in the United States, American Economic Review, Vol.80, pp.545-556.
蓑谷千凰彦(2000)『よくわかるブラック・ショールズモデル(Black and Scholes model)』
東洋経済新報社.
高木貞治(1965)『代数学講義』共立出版.
淡中忠郎(1960)『代数学』 朝倉書店.
(ひらた ひでのぶ・同志社大学大学院経済学研究科研究生)
The Doshisha University Economic Review Vol.64 No.2 Abstract
Hidenobu HIRATA, Fertility and Income Volatility
In this paper, we analyze the theoretical relationship between income volatility and fertility. Higher economic growth rate lowers fertility (Perotti, 1996). Here, we show that the relationship between income volatility and fertility is an inverted U-shape. As a result, there is an optimal degree of income volatility that maximizes fertility. There are two reasons. First, as the volatility related to household income derived from human capital increases, volatility raises fertility through the effect it has on expected income. Second, volatility above a certain level causes larger income differences, and so becomes socially unstable and thus lowers fertility.