公共サービスと空間的集積
著者 小藤 弘樹
雑誌名 經濟學論叢
巻 55
号 4
ページ 79‑99
発行年 2004‑03‑20
権利 同志社大学経済学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004649
【論 説】
公共サービスと空間的集積
小 藤 弘 樹
†1 は じ め に
近年の都市・地域モデルは,都市および地域の形成あるいは成長を内生的に 説明できる. この種のモデルを構築する論文の多くは, 空間経済学(Fujita,
Krugman and Venables 1999)あるいは内生的経済成長理論を応用した研究(Barro
and Sala-I-Martin 1995)のいずれかに属する.
空間経済学に属する論文は,規模の経済,財の多様性および輸送費の存在を 想定した独占的競争モデルを構築する.このモデルでは,これら3 要素間の空 間的相互作用が空間的集積の原動力,すなわち集積の経済を生み出すことを説 明できる(Krugman 1991; Fujita 1996).しかし,そこではしばしば,都市の成長
(人口移動)に関してアド・ホックな動学過程が想定されている(Fujita, Krugman
and Venables 1999, p.62).もうひとつの研究路線は,蓄積可能
....
な生産要素を含む 動学的一般均衡モデルを構築する.このモデルは「時間の経過」を明示的に考 察できるが,複雑な計算を必要とする.そのために,「土地」を含める一方で
「空間」を捨象するという奇妙な仮定をしばしば用いていた.
この約 10 年間,多くの経済学者がこの奇妙なモデルの改善に取り組んでい
る.Palivos and Wang(1996)は内生的経済成長理論の枠組みに,単一中心都市
という空間的構造を含めたモデルを考察した最初の研究のひとつである.Black
and Henderson(1999)は複数の単一中心都市を想定し,いわゆる王朝モデルを用
† 本論文の作成にあたって,平成14 年度私立大学等経常費補助金特別補助高度化推進特別経費大 学院重点特別経費(研究科分)の助成を受けました.
いて都市システムと都市の成長について分析している.これらの研究は共通し て,補償されない知識のスピルオーバーが空間的集積のための求心力であると
いうJacobs(1969)およびLucas(1988)の考えと,中心業務地区(CBD)からの
輸送費が空間的集積に対する遠心力であるというAlonso(1964)の考えに従って いる.それゆえに,補償されない知識のスピルオーバーの存在が,私的な意思 決定に基づく都市の経済成長率と規模の水準を社会的計画経済下で実現される 水準より低いものにするという共通の結論を導出している.
この補償されない知識のスピルオーバー同様に,地方公共財は重要な空間的 集積の原動力である(Arnott and Stiglitz 1977; Fujita 1989; O Sullivan 1996).さらに,
その供給は都市・地域発展のための重要な政策としても位置づけられている
(Martin and Rogers 1995; 深尾1996; 岳2000).そこで本論文では,空間的相互作用 に着目しながら,地方公共部門を含む動学的一般均衡モデルを構築する.この モデルは,Palivos and Wang(1996)のモデル同様に,分権的経済で実現する都市 の経済成長率と規模が社会的計画経済で実現する水準より低いこと,分権的経 済の消費水準は当初,社会的計画経済の水準より高いが,有限期間内に両水準 が逆転することを明らかにする.これらの結論は,公共サービスが外部性をも つために,私的収益率と社会的収益率が乖離することから導かれる.
本論文の残りは次のように構成されている.第2 章でモデルを紹介する.第
3 章と第4 章はそれぞれ,社会的計画経済と分権的経済で実現する均衡を求め,
その特性について調べる.第5 章で両経済の均衡を比較したうえで,第6 章で 結論を述べる.
2 モ デ ル
空間的に分布する同質的な家計が同質的な財を生産し,消費する動学的一般 均衡モデルを考える.空間を含むモデルでは一般に,財と土地の消費量に依存 する効用関数を想定する.本論文では複雑な分析を避けるための一次近似とし て,土地需要は完全に非弾力的であり,各家計の占有土地面積はm>0 で一定
であると仮定する.さらに,異時点間における消費の代替の弾力性がσ−1>0 で 一 定 で あ る と 仮 定 し て ,t ≧ 0 時 点 に お け る 代 表 的 家 計 の 効 用 関 数 を u(c(t))=c(t)1−σ/[1−σ] のように定式化する.ここで,c(t) はt時点の1 家計あた りの消費である.
この都市経済で利用可能な生産技術は生産関数y(t)=Ak(t)1−αG(t)αである.こ こで,y(t),k(t) およびG(t) はそれぞれ,t 時点の1 家計あたりの生産量,1 家 計あたりの資本ストックおよびこの都市で利用可能な公共サービス量をあらわ す.一般に,公共サービスが私的生産要素より生産に貢献するとは考えにくい ため,α∈(0, 0.5)であると想定する1).さらに,複雑な分析を避けるために,総 要素生産性はA=1 であると仮定する.
本質的な生産要素である公共サービスは都市政府によって供給される.都市 政府はこの供給にかかる費用をまかなうために,都市に居住する家計に対して ある一定の税率εの所得税を課すと仮定する.したがって,均衡予算制約を課 された都市政府の予算制約式は
G(t)=N(t)εy(t) (1)
である.ここで,N(t) はt 時点において都市に居住する家計の数である.以下 では,一般性を失うことなく,この家計数を都市人口として扱う.
最後に,空間的構造について紹介する.この都市経済では,家計だけが土地 を需要する.そこで,すべての生産が所与の中心業務地区(CBD)で行われる 円形都市を考える.
b(t)>0 でt 時点の都市規模をあらわし,単純化のために,家計は0 からb(t) まで広がる区域に居住すると想定する.この想定の下では,CBD からの距離が z であるような宅地の総面積は2πz である.各家計の占有土地面積はmで一定 であるから,この区域に居住できる人口は2πz/m である.したがって,人口制約
1)たとえば,三井・竹澤・河内(1995)および岩本・大内・竹下・別所(1996)は,この想定に関 する実証的証拠を示している.
から,都市規模は
b(t)=[m N(t)]0.5π−0.5 (2)
を満たすように決まる.
δで1 単位の財に対する単位距離あたりの輸送費をあらわすとき,t 時点でz
地点に立地する家計が負担する輸送費はT(z, t)=δc(t)zである.さらに,土地 はいかなる独占力ももたない「不在地主」によって所有されていると仮定する.
このため,不在地主は土地を宅地として供給することによって,0 に正規化さ れた農業地代のかわりに競争的に決まる地代 R(z, t),z<b(t) を受け取ることが できる.
同質的家計と固定された土地占有面積が所与の下では,立地均衡条件から,
T(z, t)+R(z, t)=T(b, t)=δc(t) b(t) ∀z∈[0, b(t)]
が必要である.ここで,τ≡δm0.5π−0.5である.したがって,z 地点の地代は R(z, t)=T(b, t)−T(z, t)=δc(t) [b(t)−z] ∀z∈[0, b(t)]
であり,(2)式を用いれば,この都市の総地代(TLR)は
(3)
である.同様に計算すれば,この都市でかかる総輸送費(TTC)は
である.したがって,1 家計あたりの資源制約は,
(4)
TLR(t)= R(z, t)dz= τc(t)N(t)1.5
0
∫
b(t) 2πmz1 3
TTC(t)=
∫
δc(t)zdz= τc(t)N(t)0b(t) 2πmz 1.5 23
[1−ε] y (t)=c(t)+k(t)+ +
=c(t)+k(t)+τc(t)N(t)0.5 TTC(t)
N(t)
TLR(t) N(t)
・
・ N(t)=
∫
dz0b(t) 2πmzである.ここで,k・=dk/dtは1 家計あたりの純投資をあらわす2). 3 社会的最適
はじめに,社会的最適について考える.本論文では,分権的均衡との比較に 用いるために,都市開発者は消費,資本蓄積および都市人口の経路{c(t), k(t), N(t)} を逐次的に決定するという逐次アプローチを用いる.
第1 段階では,1 家計あたりの消費と資本蓄積について考察する.慈悲深い 都市開発者は,都市政府の予算制約(1),民間の資源制約(4)および所与の初 期資本ストックk(0)=k0>0 の制約下で,代表的家計の生涯効用
(5)
を最大化する.ここで,ρは時間選好率をあらわす.なお,都市政府の予算制 約(1)を考慮した生産関数はy=εα/ [1−α]kNα/[1−α]である.
λSで資本のシャドー価格をあらわし,この問題に対するハミルトン関数
を定義する.この関数は,最適経路が上で述べた3 つの制約に加えて,次の条 件を満たす必要があることを示す.
(6)
(7)
(8)
2)複雑な分析を避けるために,資本ストックは減耗せず,漠然と定義するのみで具体化しない.こ のため,(4)式の資本蓄積は人口の変化を含まない1 家計あたりの形であらわされている.以下で は,混乱を招かない限り,時間変数t を省略する.
U= exp(−ρ
∫
0∞ 1−σc1−σ t)dtc1−σ 1−σ
Hs=exp(−ρt) +λs
[
[1−ε]εα/[1−α] kNα/[1−α]−[1+τN 0.5] c]
=0 : c−σ=λs[1+τN 0.5]
∂Hs
∂c
=0 : =ρ−[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
∂Hs
∂k λs
λs
・
lim λs k(t)exp(−ρt)=0
t→∞
(6)式は,最適では,消費の限界効用(左辺)と限界費用(右辺.λs[1+
τN 0.5]=λs [1+δb(t)] は消費1 単位あたりの平均輸送費である)が等しいことを求め ている.資本のシャドー価格の変化率を決める(7)式は,最適では,税引き後 の資本の限界生産物[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]とキャピタルゲインλ・s/λsからなる税引 き後の資本の限界便益が,時間選好率であらわされる限界費用に等しいことを 求めている.(8)式は横断条件である.
これら6 つの条件は,所与の都市人口に対する均衡成長率を与える.(6)式 を時間微分した後で(7)式を用いれば,N(t)=Nに対する消費の成長率θsは
である.また,生産関数を代入した(4)式を時間微分した後で,この消費の成 長率と(4)式を用いれば,
k−
[
θs+[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]]
・k+θs[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]k=0を得る.ここで,k≡d2k / dt2である.この2 階線形微分方程式の解のうち,横 断条件(8)を満たす解に対して,k・/k=θsが成立する.さらに,生産関数,(1)
式および(3)式を時間微分すれば,y・/y=G・/G=TL・R/TLR=θsである.したがっ て,
(9)
を満たすような均衡成長経路が存在する.以下では,Palivos and Wang(1996)に 従い,この均衡成長経路を「退化しない...
均衡成長経路」と呼ぶことにする.
(9)式は,税引き後の資本の収益率[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]あるいは異時点間に おける代替の弾力性σ−1 が大きいほど,さらには時間選好率ρが小さいほど成 長率θsが高いことを示している.都市人口の増加は公共サービスの拡大を通じ て資本の収益率を高めるため,成長率を高める.
θs≡ =c c
[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−ρ σ
・
TLR TLR
[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−ρ
= = = = =θs= σ y
y
・ c c
・ k k
・ G G
・ ・
λs λs
・
=−σθs
次に,第2 段階目として,代表的家計の生涯効用を最大にする人口,すなわ ち最適都市人口を決定する.ここでは,都市人口の増加が公共サービスの供給 量を増やす一方で,輸送費と地代を高めることに注意する必要がある.
移行期間を考慮するとき,最適経路は第1 段階の6 条件に加えて,
(10)
を満たす必要がある.(6)式を時間微分した後で(7)式を用いれば,移行経路 上の消費の成長率νは
(11)
である.民間の資源制約(4)と(10)式から,移行経路上の資本の成長率ηは
(12)
である.上で述べたように,均衡成長経路上ではν(t)=η(t)=θsである.最後 に,変形した(10)式を時間微分すれば,
(13)
である.(11)〜(13)式はモデルの動態特性を完全に示しており,これらを組 み合わせることで人口成長率を求められる.
(14)
ここで,
=0 : [1−ε]εα/[1−α]k(t)Ns(t)α/[1−α]−1=0.5τc(t)Ns(t)−0.5
∂Hs
∂N
α 1−α
ν(t)= − N[1−ε]εα/[1−α]Ns(t)α/[1−α]−ρ σ
1 σ
0.5τNs(t)−0.5 1+τNs(t)0.5
・
η(t)=[1−ε]εα/[1−α]Ns(t)α/[1−α] 1− α 1−α
1+τNs(t)0.5 0.5τNs(t)0.5
η(t)=ν(t)+ 0.5− α 1−α
Ns(t) Ns(t)
・
Ns(t)= Ns(t)
Δ1(Ns) Δ2(Ns)
・
Δ1(Ns)≡ 1− − [1−ε2α ]εα/[1−α]Ns(t)α/[1−α] 1−α
1 σ
− [1−ε2α ]εα/[1−α]Ns(t)α/[1−α]−0.5+ 1−α
1 τ
ρ σ Δ2(Ns)≡0.5− −α
1−α 1 σ
0.5τNs(t)0.5 1+τNs(t)0.5
である.
補論A で示すように,σ>1 かつα<[1−σ] / [1−3σ]ならば
が成立する3).これは,(14)式の一意な臨界点が都市経済を均衡成長経路にの せるようなNsの初期値だけであることを意味する.つまり,このモデルでは,
最適な空間的集積が即座に発生し,均衡成長経路は一意に決まる.この結果は,
生産関数y=εα/[1−α]kNα/[1−α]が資本に関して1 次同次であるために,資本の収益
率が一定となることから導かれる.
過渡的動態がないため,均衡成長経路に注意を集中できる.均衡経路上の消 費の成長率θsと,生涯効用が有限になるための必要条件[1−σ]θs<ρから,生 涯効用(5)は
(15)
のように書き直せる4).さらに,(3)式と(4)式から得られる初期時点の消費水 準
(16)
(9)式および初期資本ストックを(15)式に代入すれば,
(17)
である.ここで,Λ≡σσ[1−σ]−1k01−σは定数である.この式は,都市人口の変 c(0)1−σ
1−σ 1 ρ−[1−σ]θs
Us=
[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−θs 1+τN 0.5 c(0)=k(0)
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] 1+τN 0.5
Λ
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
Us (N)=
1−σ
3)後ほど示すように,この条件は効用の最大値が内点に存在するための必要十分条件に一致する.
4)一般に,実効割引率はρ+[σ−1]θで定義される.ここで,θは消費の成長率をあらわす.したが
って,この必要条件は実効割引率が正の値をとることを求めている.
limΔ1(Ns)=−∞, limΔ1(Ns)=∞, Δ1>0
N→0 N→∞
´
α 1−α
α 1−α
0.5
limΔ2(Ns)=0.5− , limΔ2(Ns)=0.5− − >0, Δσ 2>0
N→0 N→∞
´
化が実効割引率と初期消費の2 つの経路を通じて生涯効用に影響することを意 味している.
ここで,
を定義すれば,生涯効用(17)を最大にする社会的最適な人口規模Ns*は
(18)
を満たす必要がある.この式は,最適では,都市人口の限界的な増加に伴う社 会的便益と社会的費用が等しいことを求めている5).
(18)式は,公共サービスの外部性がとても強ければ(αが十分に大きければ), 人口は無限に増加し,生涯効用は最大値をもたないことを示している.内点解 が存在するための必要十分条件はσ>1 およびα≦[σ−1]/[3σ−1] であり6),こ の内点解に限定すれば(18)式を微分できる.ここで,τ=δm0.5π−0.5であるこ とを思い起こせば,輸送技術の進歩や土地占有面積の縮小などに起因するτの 減少は,社会的限界費用の低下を通じて,都市(人口)規模を増加させたり,
経済成長を促進させたりする.
4 分権的均衡
分権的経済では,家計が都市人口と公共サービスGを所与とみなして消費と 貯蓄を,都市開発者が人口規模を決定する.
各家計は,
Φs
(
Ns *)
=Ω(
N* s)
5)都市住民の限界的な増加に伴う社会的便益と社会的費用を正確に表現するためには,左辺と右辺 にσσk0
1−σN−1[1+τN0.5]σ−1[ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]]−σを乗じればよい.
6)補論B は,この証明を与えている.
σα[1−α]−1[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] Φs (N)≡
Ω(N)≡ 0.5τN 0.5 1+τN 0.5
・k
=[1−ε] k1−αGα−c [1+τN 0.5] (19)
および初期資本ストックk(0)=k0>0 の制約下で,生涯効用(5)を最大化する.
λd で分権的経済における資本のシャドー価格をあらわし,この問題に対するハ ミルトン関数
を定義すれば,最適経路が満たすべき条件は(19)式,初期資本ストック制約 および
(20)
である.初期資本ストック制約,(19)式および(20)式を除く2 つの条件は,
(6)式と(8)式のλsをλdで置き換えたものである.なお,このモデルを閉じる ためには,最後に政府の予算制約(1)式を考慮しなければならない.
社会的計画経済の場合とほとんど同様にして,退化しない均衡成長経路を求 めることができる.修正された(6)式を時間微分した後で(20)式を用いれば,
N(t)=Nに対する消費の成長率θdは
である.また,政府の予算制約(1)式を代入した(19)式を時間微分した後に,
この消費の成長率と(19)式を用いれば,
¨k−
[
θd+[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]]
・k+θd[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]k=0を得る.この2 階線形微分方程式の解のうち,横断条件,すなわち修正された
(8)式を満たす解に対して,k・/k=θdが成立する.さらに生産関数,(1)式およ
=0 : c−σ=λd[1+τN 0.5]
∂Hd
∂c
=0 : =ρ−[1−ε][1−α] k−αGα
∂Hd
∂k λd
λd
・
lim λd k(t) exp(−ρt)=0
t→∞
θd≡ =c c
[1−α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−ρ σ
・
Hd=exp(−ρt) +1−σ c1−σ λd
[
[1−ε]k1−αGα−[
1+τN 0.5]
c]
び(3)式を時間微分すれば,y・/y=G・/G=TL・R/TLR=θdである.したがって,
(21)
を満たすような退化しない均衡成長経路が存在する.(21)式は,分権的経済の 経済成長率が,社会的最適と同様,資本の(私的)収益率と時間選好率の差 [1−α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−ρと異時点間における代替の弾力性σ−1 の積である ことを示している.
次に,最適な人口成長を決めるために,修正された(6)式で与えられる均衡 消費経路を考慮しながら,代表的家計の生涯効用を最大化する.均衡成長経路 上の消費の成長率θdと,生涯効用が有限になるための必要条件[1−σ]θd<ρを 用いれば,生涯効用(5)は(15)式のθsをθdに置き換えたものである.また,
(19)式から得られる初期時点の消費水準は(16)式のθsをθdに置き換えたもの である.この修正された(16)式と(21)式を修正された(15)式に代入すれ ば,分権的環境下の生涯効用は
(22)
としてあらわせる7).(17)式同様,第1 項の変化は実効割引率の変化を反映し,
最終項の変化は初期消費水準の変化を反映する.
ここで,
を定義すれば,(22)式を最大にするN,すなわち分権的環境における最適都市 人口Ndは
ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
1+τN 0.5 Λ
ρ +[1−α][σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
Ud (N)=
1−σ
α 1−α [1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
Φd(N)≡α +
7)分権的経済において過渡的動態がないことは,社会的計画経済に対して与えた証明と同様にして 示せる.
TLR TLR
[1−α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−ρ
= = = = =θd= σ y
y
・ c c
・ k k
・ G G
・ ・
λd
λd
・
=−σθd
(23)
を満たす必要がある.これは,最適では,都市人口の限界的な増加に伴う私的 限界便益の合計と私的限界費用の合計が等しいことを求めている8).
α<0.5 およびN>0 に対して,Φd(N) の極限での挙動と,Φd(N) の1 次導 関数および2 次導関数の符号はΦs(N) のそれらと完全に一致する.したがって,
生涯効用の最大値が内点に存在するための必要十分条件は社会的最適の場合と 同じであり,外部効果の上限は再びα≦[σ−1]/[3σ−1] で与えられる.
5 社会的最適と分権的均衡の比較
本章では,各環境下で達成される資源配分を比較する.はじめに,都市(人 口)規模について考察する.公共サービスの外部性は社会的計画経済でのみ内 部化されるため,社会的最適下の公共サービスの生産に対する貢献は分権的均 衡下に比べて大きく,任意のN>0に対してΦs>Φd が成立する.したがって,
Φs,ΦdおよびΩの特性が所与ならば,社会的最適な都市人口は分権的均衡の 都市人口より多く(Ns>Nd),(2)式は社会的最適な都市規模が均衡都市規模よ り大きい(bs>bd) ことを意味する9).
次に,両環境間で経済成長率と貯蓄率s≡k・/y を比較する.(9)式と(21)式 の組み合わせおよびNs>Ndから直ちに,
[1−ε]εα/[1−α]
[
Ns]
α/[1−α]−ρσ
[1−α][1−ε]εα/[1−α]
[
Nd]
α/[1−α]−ρθs= > =θσ d
* *
8)都市人口の限界的な増加に伴う私的便益と私的費用の合計を正確に表現するためにはそれぞれ,
左辺と右辺に σσk0
1−σN−1[1+τN0.5]σ−1[ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]]1−σ[ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]]−1
を乗じればよい.
9)この結論は,均衡都市の人口が過剰であるという多くの既存文献と対照的である.この伝統的な 結論が導かれる理由のうち,本論文の文脈に直接的に関与しているものとして,競争市場が交通混 雑や公共サービス市場で発生する負の外部性を内部化することに失敗するという想定があげられる.
この点を踏まえた拡張については,第6 節および小藤(2003)を参照せよ.
Φd
(
Nd *)
=Ω(
Nd *)
がわかる.さらに,α<1 およびNs>Ndより,
である.
内生的経済成長理論の基本モデルと同様,θs>θd が成立する.これは,分権 的均衡下の家計が消費水準や投資(貯蓄)水準の決定において,私的便益しか 考慮しないために起こる.特に,投資水準が増加しても,公共サービスの供給 水準,それゆえの生産性の増加を認識しない.そのために,資本の私的収益率
[1−α][1−ε]εα/[1−α]Ndα/[1−α]は社会的収益率[1−ε]εα/[1−α]Nsα/[1−α]より低くなり,社
会的最適な貯蓄率は均衡貯蓄率を上回るのである.
さらに,厚生水準を比較する.N>0 に対して,社会的最適下の生涯効用(17)
が分権的均衡下の生涯効用(22)より高くなるための必要十分条件は,
である.N=0 ならば両辺ともに1 である.両辺のN に関する1 次導関数はと もに負であり,左辺の1 次導関数の絶対値は右辺のそれより小さい.したがっ て,この必要十分条件は常に満たされる.また,Ud(N) はN=Ndで最大値を達 成し,Ns>Ndであるから,
<0
である.これら2 つの結果を組み合わせれば,社会的最適は分権的均衡より高 い厚生水準を達成することがわかる.
最後に,消費経路を比較する.初期時点の消費水準(16)と修正された(16)
式,(9)式および(21)式は,cd(0)>cs(0) が成立するための必要十分条件が
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] >
ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
σ
dUd(N)
dN N=Ns* =σσk01−σ
[
1+τ[Ns*]0.5]
σ−1[
ρ+[ρ−1+α][1−ε]εα/[1−α][Ns*]α/[1−α]]
1−σ[
Φd(
Ns*)
−Ω(
Ns*)]
Ns*
[
ρ+[1−α][σ−1][1−ε]εα/[1−α][Ns*]α/[1−α]]
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Ns <
α/[1−α]
1+τNs0.5
ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nd α/[1−α]
1+τNd0.5 1−ε
ss= − > − =sσ ρ d σεα/[1−α]
[
Ns]
α/[1−α][1−α][1−ε] σ
*
ρ σεα/[1−α]
[
Nd *]
α/[1−α]であることを示す.σ−1+α>[1−α][σ−1] より,
であるから,(23)式は
を意味し,(18)式は
のように書き直せる.Ns>Ndおよびα≦[σ−1]/[3σ−1]<1/3 より,これらの式 の間では
が成立する.したがって,cd(0)>cs(0) である.
しかしながら,t 時点の消費水準はci(t)=ci(0)exp(θi t),i =s, d であり,上で 述べたように,社会的最適は分権的均衡より高い経済成長率を達成する.した がって,cs(t´)=cd(t´) を満たすような
が(0, ∞) 区間内に存在する.以上をまとめると,次の関係を得る.
社会的計画経済は分権的経済より高い貯蓄率を達成するため,分権的経済は 当初,社会的最適より高い消費経路を示す.しかし,社会的計画経済は分権的 経済より高い成長率を達成するので,社会的計画経済の消費水準は有限時間内
=ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nαs/[1−α] 1+τNs0.5
α[1−α]−1σ[1−ε]εα/[1−α]Nαs/[1−α]
0.5τNs0.5
ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α][N*d]α/[1−α]>
1+τ[Nd*]0.5
α[1−α]−1σ[1−ε]εα/[1−α][Nd*]α/[1−α] 0.5τ[Nd*]0.5
> =ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α][N*s]α/[1−α] 1+τ[N*s]0.5
α[1−α]−1σ[1−ε]εα/[1−α][N*s]α/[1−α] 0.5τ[N*s]0.5
t
´= ln[cd(0)]−ln[cs(0)]
θs−θd
cd(t) cs(t´) for t t´ where 0 < t´= <∞ ln[cd(0)]−ln[cs(0)]
θs−θd
>< <>
ασ
Φd(N)>1−α [1−ε]εα/[1−α]Ndα/[1−α] ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Ndα/[1−α]
ρ+[σ−1+α][1−ε]εα/[1−α]Nd >
α/[1−α]
1+τNd0.5
α[1−α]−1σ[1−ε]εα/[1−α]Nd α/[1−α]
0.5τNd0.5
に分権的経済の消費水準を追い越す.
6 結 論
本論文では,(地方)公共部門を含む収穫一定の生産技術を想定しながら,空 間的相互作用を含む動学的一般均衡モデルを構築した.このモデルによれば,
単一中心都市の社会的最適な経済成長率と都市規模は分権的均衡のものより大 きく,分権的経済の消費水準は当初,社会的最適水準より高いものの,有限時 間内に社会的最適水準より低くなる.これらの結果は,分権的環境下の経済主 体が,公共サービスの増加が都市経済に与える正の外部効果を考慮しないため に生じる.
本論文のモデルは多くの局面でPalivos and Wang(1996)の研究に従うものの,
空間的集積の原動力として(地方)公共サービスの外部性を考察している点でま ったく異なる.それゆえに,本論文の分析は,彼らが指摘したいくつかの拡張 の可能性に加えて,(地方)公共サービスをめぐる多様な問題について動学的な 観点から取り組むための起点となるであろう.たとえば,著しい成長を遂げた 大都市の多くが抱える混雑問題を想定すれば,本論文で導いた社会的最適な経 済成長率や都市規模は過大であるという結論が得られると予想できる.
さらに,都市開発政策の影響と都市経済の成長を研究するために,社会的共 通資本に関するUzawa(2003)モデルを応用することで,動学的都市システムに おける都市開発の問題を提示することになろう.特に,自然環境と都市経済活 動の間に関連があれば,都市内部に自然環境を残すことが最適になる.よって,
自然環境の回復などに費用がかかるならば,将来の都市経済活動のために自然 環境を留保する必要が出てくるであろう.このような方向での研究は今後の課 題である.
補 論A
[命題]関数
を考える.σ>1 かつα<[1−σ]/[1−3σ] ならば,(a) Δ1は唯一の正の根をもち,
(b) その根は
より小さい.
[証明]
(a):Δ1(N) は連続である.
より,α<1/3 ならば limN→0Δ1 (N)=−∞である.また,α<1/3 の下では,
σ>[1−α]/[1−3α] ならば limN→0Δ1 (N)=∞である.さらに,このとき N>0 に対してΔ´1>0 が成立する.したがって,中間値の定理から,σ>1 かつα
<[1−σ]/[1−3σ] ならば,Δ1(N)=0 となるN∈(0, ∞) の唯一の値が存在する.
(b) : dΔ1(N)/dN>0 であるから,
① Δ1(Nu)>0,
②
[
2α/[1−α]]
τ−1[1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]−0.5<ρ/σ,③ ②にNuを代入して得られるσ−1>4
[
α/[1−α]]
2[σ−1]−1,④ ③にα≦[σ−1]/[3σ−1] を代入して得られる[σ−1]/σ2<σ−1 のうち,いずれかを示せば十分である.σ>0 ならば④が常に成立する.
(証明終)
補 論B
[命題]σ>1 およびα≦[σ−1]/[3σ−1] は,最大値が内点に存在するための必 要十分条件である.
2α 1−α
1 τ
ρ limΔ1(N)=− [1−ε]εα/[1−α] lim Nsα/[1−α] + σ
N→0 N→0
Nu= 0.5[σ−1][1−ε]εα/[1−α] α[1−α]−1ρτ
1/[0.5−α/[1−α]]
Δ1(N)= 1− − [1−ε2α ]εα/[1−α]Nsα/[1−α]− [1−ε]εα/[1−α]Nsα/[1−α]−0.5+ 1−α
2α 1−α 1
σ
1 τ
ρ σ
[証明]
(a) 必要性:α<0.5 に対して,以下のことが容易に示される.
また,N>0 に対して,
が成立する.
これらの関係を用いれば,内点で最大値が存在するための必要条件は
である.この不等式の最初の不等号はσ>1 を,もう一方の不等号はα≦
[σ−1]/[3σ−1] を要求する.したがって,この必要条件はσ>1 およびα≦
[σ−1]/[3σ−1] と等価である.
(b) 十分性:所与のΦ(・) およびΩ(・) に対して,最大値が存在する十分条件 はΦ´s(Ns)<Ω´(Ns) である.
Φ´s(N) とΩ´(N) はそれぞれ,
のように書き直せる.ここで(18)式を用いれば,上の十分条件は σα
[1−α][σ−1]
0<limΦs(N)= ≦0.5 = lim Ω(N)
N→∞ N→∞
Φs(N)= Φαρ s(N) 1−α
N−1
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]
´
Ω (N)= Ω(N)0.5N−1 1+τN 0.5
´
σα [1−α][σ−1]
limΦs(N)=0, lim Φs(N)=
N→0 N→∞
limΦs(N)=∞, lim Φs(N)=0
N→0 N→∞
´
´
Φs(N)>0, Φs(N)<0 lim Ω(N)=0, lim Ω(N)=0.5 lim Ω (N)=∞, lim Ω (N)=0 Ω (N)>0, Ω (N)<0
N→0 N→0
N→∞
N→∞
´
´ ″
´
´ ″
(A. 1)
と等価である.(A.1)式を変形すれば
を得る.α≦[σ−1]/[3σ−1]<1/3 ならば,α[1−α]−1ρ<0.5ρであり,(A.1)式 は次の強い条件になる.
(A. 2)
これは,都市人口に上限Nuを課すとともに,十分条件(A.1)が満たされるか どうかを調べる便利な方法を提供する.
このことを見るために,
を定義する.この定義を用いれば,(18)式は Ω(N)−Φs(N)=N 0.5Δ1(N)=0
のように書き直せる.明らかに,Ns=0 は(18)式の退化した解であり,他の解 はΔ1(N) の根である.補論 A で示すように,α≦[σ−1]/[3σ−1]<1/3 および σ>0 に対して,Δ1(N) はNuより小さい一意な正の根を持つ.したがって,
α<1/3 およびσ>1 ならば,(18)式の退化しない解は十分条件(A.2)を常に満
たす.
(証明終)
Δ1(N)≡ 1− − [1−ε2α ]εα/[1−α]Nα/[1−α] 1−α
1 σ
− [1−ε2α ]εα/[1−α]Nα/[1−α]−0.5+ 1−α
1 τ
ρ σ ρ+ ρτN 0.5<0.5ρ+0.5[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α] α
1−α α 1−α
0.5[σ−1][1−ε]εα/[1−α] α[1−α]−1ρτ Ns0.5−α/[1−α]<Nu0.5−α/[1−α]=
α[1−α]−1ρ
ρ+[σ−1][1−ε]εα/[1−α]Nα/[1−α]< 0.5 1+τN 0.5
【参考文献】
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