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会社法四六七条一項二号に関する一考察

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会社法四六七条一項二号に関する一考察

著者 伊藤 靖史

雑誌名 同志社法學

巻 59

号 6

ページ 187‑211

発行年 2008‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011371

(2)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一八七同志社法学五九巻六号

会社法四六七条一項二号に関する一考察

伊  藤  靖  史

目  

序 

一 会社法四六七条一項二号と﹁重要な一部﹂の意義

1改正前商法の下での解釈論

2会社法四六七条一項二号の下での解釈論

二 簡易事業譲渡と﹁重要な一部﹂の基準

三 簡易事業譲渡と定款自治

1会社法における定款自治

2いくつかの定款規定とその有効性

結 

︵二五九九︶

(3)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一八八同志社法学五九巻六号

序 論

  会社法四六七条一項柱書によれば︑株式会社︵以下︑本稿で単に﹁会社﹂といえば︑株式会社を指す︶は︑同項各号 に掲げる行為をする場合には︑株主総会の決議

によって︑当該行為に係る契約の承認を受けなければならない︒同項二 1︶

号の括弧書を除く部分は︑﹁事業の重要な一部の譲渡﹂と定めている︒以上のことから︑会社が事業の重要な一部の譲

渡をする場合に︑株主総会の決議によって︑そのような譲渡に係る契約の承認を受けなければならないことが︑明らか

になる︒  平成一七年改正前商法︵以下では改正前商法と呼ぶ︶二四五条一項一号においても︑会社の﹁営業ノ⁝重要ナル一部

ノ譲渡﹂については株主総会の特別決議によることを要する旨が定められていた︒会社法は︑この規制の最も基本的な

内容を変更していない︒改正前商法では﹁営業﹂と呼ばれていたものは︑会社法では﹁事業﹂に改められた︒しかしこ

れは︑用語の整理として行われた変更だとされる︒その語の指す実質的な内容と︑それをめぐる解釈論について︑何ら

かの変更を加えることが意図されたわけではない

︑︵以下ではこのことを前提に用語法を簡単にするため︑会社法制定 2︶

前の議論に言及するときにも︑原則として﹁営業﹂ではなく﹁事業﹂という語を用いることにする︶︒

  以上に対して︑会社法四六七条一項二号括弧書は︑会社法制定に伴って新たに付加された︒同括弧書は︑﹁︵当該譲渡

により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一

︵これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては︑その割合︶を超えないものを除く︒︶﹂と定める︒この部分は︑事

業譲渡についても︑いわゆる簡易組織再編手続と同様の簡易な手続を許容するために定められた

︒従来︑事業の重要な 3

一部の譲渡に関する規制については︑﹁重要﹂かどうかを判断する基準が明らかではないという問題点が指摘されてい ︵二六〇〇︶

(4)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一八九同志社法学五九巻六号

︒会社法は︑同括弧書を定めることで︑このような問題の一部を解決しようとするのである 4︶

5︶

  以上のような内容と目的を持つ会社法四六七条一項二号括弧書は︑同号の括弧書を除く部分とはどのような関係に立

つのだろうか︒また︑同括弧書が定められたことは︑事業の重要な一部の譲渡についての改正前商法下の解釈論に︑何

らかの影響を与えるのだろうか︒それに加えて︑同括弧書の中にはさらに括弧書がある︵以下ではこれを﹁括弧書内括

弧書﹂と呼ぶ︶︒同括弧書内括弧書によれば︑会社が定款で五分の一を下回る割合を定めれば︑会社法四六七条一項二

号括弧書の割合としては︑定款所定の割合が基準とされる︒このような定めをどう解釈すべきなのだろうか︒特に︑こ

のような定めと︑会社の定款の効力について規定する会社法二九条との関係は︑どのようなものになるか︒

  以上のように︑会社法四六七条一項二号については︑解釈論として検討すべき点が多い︒本稿は︑これについて一つ

の試論を示そうとするものである︒以下︑一では︑事業の重要な一部の譲渡についての改正前商法下の解釈論︵特に︑﹁重

要な一部﹂かどうかの基準をめぐるもの︶を確認し︑会社法四六七条一項二号括弧書が定められたことによって︑その

ような解釈論にどのような影響が与えられるのかを検討する︒二では︑会社法四六七条一項二号括弧書と︑括弧書を除

く部分との関係を中心に検討する︒三では︑同括弧書によって明示的に認められているもの以外に︑どのような定款規

定を会社が定めることができるのかを検討する︒結語は短いまとめである︒

︵二六〇一︶

(5)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九〇同志社法学五九巻六号

一  会社法四六七条一項二号と﹁重要な一部﹂の意義  

1

改正前商法の下での解釈論   改正前商法二四五条一項一号にいう﹁営業ノ⁝重要ナル一部ノ譲渡﹂について︑﹁重要﹂かどうかを判断する基準を

どのように考えるかは︑難しい問題であった︒結局のところは︑具体的な事例に即して︑①会社の全財産の価値に対す

る譲渡対象の価値の比重が重要といえるほどに大きいかどうかという基準︵量的側面と呼ばれる︶と︑②譲渡によって

会社企業全体の運命にどのような影響があるかという基準︵質的側面と呼ばれる︶との両面から︑実質的に判断するほ

かないといわれてきた

6

  ②の基準は︑﹁その譲渡によって会社がその営業を維持できなくなるか︑または少なくともその営業規模を大幅に縮 小せざるをえなくなるか﹂と言い換えられることがある

︒このことからも分かるように︑もともと②の基準は︑会社の 7

全財産の価値に対する譲渡対象の価値の比重が重要といえる場合︵①の基準を満たす場合︶であっても︑会社企業全体

の運命に重大な影響を及ぼさないような事業譲渡︵たとえば設備の更新を目的とする場合︶を︑株主総会決議を必要と

する範囲から排除するものとして機能していた

8︶

  ところが︑現在ではむしろ︑①の基準を中心として事業の一部の譲渡が﹁重要﹂かどうかを判断する考え方が︑学界

の主流になっている︒たとえば︑改正前商法の下で︑売上高・経常利益・資産・従業員数等を判断要素として︑これら

の諸要素を総合して会社の事業全体の一〇パーセント程度を超えるかどうかを基準とする見解があった

︒そして︑この 9

見解によれば︑②の基準は︑﹁譲渡対象部分が量的に小さくても︑沿革等から会社のイメージに大きな影響がある場合等﹂ ︵二六〇二︶

(6)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九一同志社法学五九巻六号 を︑株主総会決議を必要とする範囲に含める機能を有するものと捉えられている

︒一〇パーセント以外の基準値が主張 10

されたことはないわけではないが︑以上のような学界での議論状況全体からして︑譲渡される事業が﹁会社の売上高︑

収益︑従業員数︑資産︑施設等の種々の面よりとらえ︑そのいずれかの要素の一割を超える場合および現実主要業種の

一つの場合﹂には︑重要な一部の譲渡とすることが実務の運営としては安全だといわれていた

11

  以上のように︑会社法の制定前は︑事業の一部の譲渡が﹁重要﹂かどうかを判断する基準を︑次のように考えること

が通説であった︒

﹇解釈A﹈事業の重要な一部の譲渡とは︑会社の価値に対する譲渡対象の価値の比重が重要といえる程度の事業の

譲渡をいう︒このような量的な観点から重要といえなくとも︑質的に見て重要といえる場合には︑やはり︑重要な

一部の譲渡にある

12

  これに対しては︑事業の一部の譲渡が﹁重要﹂かどうかを判断する際に︑むしろ②の基準を中心に据え︑事業の﹁全

部譲渡に準ずるような重要な営業的組織体の譲渡﹂かどうかを基準とすべきだとする見解が︑少数説ながら主張されて

きた

︒この見解は︑事業の一部の譲渡のうち︑事業全部の譲渡に準じるようなものだけを︑株主総会決議を必要とする 13

範囲に含めようとするものである︒著者も︑少なくとも立法論として︑事業の譲渡について株主総会決議を必要とする

範囲を︑そのような場合に限ることを提案したことがある

︒上記と同様にこのような解釈論を要約すれば︑次のように 14

なる︒

︵二六〇三︶

(7)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九二同志社法学五九巻六号

﹇解釈B﹈事業の重要な一部の譲渡とは︑事業全部の譲渡に準じるものをいう︒

2

会社法四六七条一項二号の下での解釈論   会社法四六七条一項柱書と二号は︑次のように定める︒

︵事業譲渡等の承認等︶

第四六七条 株式会社は次に掲げる行為をする場合には︑当該行為がその効力を生ずる日︵以下この章において﹁効力発生日﹂

という︒︶の前日までに︑株主総会の決議によって︑当該行為に係る契約の承認を受けなければならない︒

二 事業の重要な一部の譲渡︵当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法に

より算定される額の五分の一︵これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては︑その割合︶を超えないものを除く︒

  以上の文言からは︑同条が次のことを定めているものと読むのが素直だろう︒事業の重要な一部の譲渡については︑

株主総会決議によって︑当該事業譲渡に係る契約の承認を受けなければならない︵会社四六七条一項柱書および二号

︵括弧書を除く部分︶︶︒事業の重要な一部の譲渡のうち︑会社法四六七条一項二号括弧書所定のものについては︑株

主総会の決議は不要である︒つまり︑会社法四六七条一項二号は︑事業の重要な一部の譲渡に該当する場合であっても︑

同号括弧書の要件を充たすものについては︑株主総会決議による承認を不要とするのである︒言い換えれば︑同号括弧

書の要件を充たす事業の一部の譲渡の中には︑事業の重要な一部の譲渡に該当するものが含まれうることが︑前提とさ ︵二六〇四︶

(8)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九三同志社法学五九巻六号 れているのである︒  このような読み方が正しいとすれば︑会社法の制定に伴って︑

1

に述べた﹇解釈B﹈は明文上否定され︑解釈論とし

ては採りえなくなったことになるだろう︒なぜなら︑﹇解釈B﹈は︑会社法四六七条一項二号括弧書所定の︑譲渡され

る資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の五分の一を超えない場合はもちろん︑譲渡される資産の帳簿価額がそのよう

な割合をはるかに超える場合であっても︑当該事業の一部の譲渡が事業の全部の譲渡に準じるといえないかぎりは︑株

主総会決議を不要と考えるものだったからである︒

  このように﹇解釈B﹈が会社法の解釈論として否定されたとしても︑﹇解釈A﹈を採ることの実質的な根拠をどのよ

うに説明するかという問題は残る︒﹇解釈A﹈からすれば︑事業の一部の譲渡の場合︑譲渡される事業の価値が会社の

価値に比して重要といえるのであれば︑会社法四六七条一項二号括弧書に該当しない限りは︑株主総会決議が必要とな

る︒これに対して︑単なる資産の譲渡は︑同条にいう事業の譲渡にはあたらない

︒そのため︑その資産の価値がどれだ 15

け高くとも︑株主総会決議を必要としない

︒なぜ﹁事業﹂の譲渡であるというだけの理由で︑﹁資産﹂の譲渡について 16

は必要とされない株主総会決議を経なければならないのか︒言い換えれば︑﹁事業﹂の譲渡についてだけ株主総会決議

を必要とする実質的な根拠は何か︒﹁資産﹂の譲渡には存在しないが﹁事業﹂の譲渡には存在する特別の危険といった

ものはあるのだろうか︒

  これについて詳細な検討を加える論者によれば︑﹁事業﹂の一部の譲渡について株主総会決議を必要とする実質的な 根拠は︑次の二点に求められる

︒第一に︑﹁経営者が自己もしくは利害関係者の利益を図ったり︑取締役としての地位 17

の保身のために会社の利益を犠牲にして﹂事業の譲渡が行われる危険があるとされる︒そのために︑事業の譲渡の﹁対

価および方法が適正かどうかにつき株主の判断を仰ぎ︑株主が合理的な判断を下すのに必要な情報を開示ないし説明す

︵二六〇五︶

(9)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九四同志社法学五九巻六号

る機会を与える﹂のだと説明される︒第二に︑事業を構成する﹁事実上の価値すなわちのれんの評価が︑⁝相手方や方

法により大きく左右される可能性が高い﹂ことが挙げられる︒事業の譲渡がそのように﹁個性の強い取引である場合も

少なくないので︑その評価を含め株主の判断を仰ぐ﹂のだと説明される︒

  しかし︑この論者自身も認めるように︑第一の根拠は︑事業の譲渡だけではなく財産の譲渡についても妥当する

︒結 18

局のところ決定的なのは第二の根拠になるが︑この根拠も強固なものとはいえない︒この論者自身も︑﹁デュー・デリ

ジェンスを通じて交渉・手続が外部化・専門化されるならば︑⁝対価および方法の適正さを株主総会を通じて確保すべ

き必然性は弱まる﹂と述べる

︒事業の譲渡に際して︑﹁のれん﹂の評価が常に相手方や方法に大きく左右されるもので 19

あるのかということ︑また︑譲渡されるものの評価が相手方や方法に大きく左右される場合が︑事業の譲渡以外にもあ

るのではないか︑といったことも︑立法論として事業の一部の譲渡のうちどこまでを株主総会決議を必要とする範囲に

含めるかを考える際には︑検討しなければならないだろう︒

二  簡易事業譲渡と﹁重要な一部﹂の基準   会社法四六七条一項二号括弧書は︑会社分割の分割会社に関する簡易組織再編手続︵会社七八四条三項・八〇五条︶

と同様の簡易な手続を︑事業の一部の譲渡について定めている︒会社法四六七条一項二号括弧書によれば︑事業の譲渡

によって譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額の五分の一を超えないものは︑事業の重要な一部の譲渡から除かれ

る︒会社の総資産額の算定方法は︑会社法施行規則に定められる

︒以下では同括弧書で定められたものを︑簡易事業譲 20

渡と呼ぶ︒ ︵二六〇六︶

(10)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九五同志社法学五九巻六号   簡易事業譲渡と︑会社法四六七条一項二号の括弧書を除く部分とは︑どのような関係に立つのだろうか︒具体的には︑

次の二つの問題点を検討する︒

﹇問題点

1

﹈事業の一部の譲渡について︑簡易事業譲渡の要件が充たされる場合︵譲渡資産の帳簿価額が会社の総

資産額の五分の一を超えない︶に︑譲渡される事業の一部が﹁質的に﹂重要であることを理由として︑株主総会決

議による承認を必要とすることはあるか

﹇問題点

2

﹈事業の一部の譲渡について︑簡易事業譲渡の要件が充たされない場合︵譲渡資産の帳簿価額が会社の

総資産額の五分の一を越える︶に︑譲渡される事業の一部が﹁質的に﹂重要でないことを理由として︑株主総会決

議による承認を必要としないことはあるか

  ﹇問題点

1

﹈について︑会社法の立案担当者による解説は︑明快な説明を与えない

︒しかし︑一般的には︑たとえ﹁質 21

的な﹂基準から事業の一部の譲渡が重要なものと考えられたとしても︑簡易事業譲渡の要件を充たせば︑株主総会決議

による承認を必要としないと考えられている

︒﹁事業の重要な一部の譲渡﹂については株主総会決議による承認を必要 22

とするものと定めつつ︑そのような﹁事業の重要な一部の譲渡﹂から簡易事業譲渡の要件を充たすものを﹁除く﹂と定

める会社法四六七条一項二号の条文の構造からは︑同条同号をそのような意味に解釈するほかないだろう︒会社法の制

定過程における議論

や﹁会社法制の現代化に関する要綱 23

﹂を見ても︑同号括弧書がそのような趣旨で設けられたことが 24

分かる︒

︵二六〇七︶

(11)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九六同志社法学五九巻六号

  ﹇問題点

2

﹈については︑どのように考えるべきか︒前記のように︑会社法四六七条一項二号は︑事業の重要な一部

の譲渡であっても簡易事業譲渡の要件を充たせば株主総会決議を要しないと定めているにすぎない︒したがって︑たと

え簡易事業譲渡の要件を充たさなくとも︑﹁質的に﹂見て事業の重要な一部の譲渡に該当しない場合がありうることは︑

排除されていないと考えてよいだろう︒もっとも︑会社法の下では一

1

に述べた﹇解釈A﹈が妥当する

ことからすれば︑ 25

そのような場合が実際に存在するとは考えにくい︒﹇解釈A﹈によれば会社の事業全体の一〇パーセント程度が譲渡さ

れれば基本的にはそれは重要な一部の譲渡だと考えられるのだから︑総資産額の五分の一︵二〇パーセント︶を超える

資産を譲渡するような事業の一部の譲渡が︑重要でないといえる場合があるとは︑実際には考えにくいのである

26

  他方で︑会社が︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書に従って簡易事業譲渡の要件を定款で厳しくした場合︵た

とえば︑二〇分の一という割合を定款で定めた場合︶には︑﹇問題点

2

﹈が意味を有することになる︒そのように厳格

化された簡易事業譲渡の要件を充たさない場合であっても︑﹁質的に﹂見て譲渡される事業が重要ではないと評価され

ることはありうる︒また︑事業の譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額に対して占める割合が︑簡易

事業譲渡の要件として定められており︑これは一

1

に述べた﹁量的な﹂基準の一部を用いるものといえる︒逆にいえば︑

それ以外の﹁量的な﹂基準︵売上高・利益・従業員数等︶を考慮して︑譲渡される事業が重要ではないと評価されるこ

ともありうるのだろう

27

  このように考えると︑簡易事業譲渡の要件を定款で厳しくすることには︑一

1

に述べた﹁質的な﹂基準や︑会社の総

資産額以外のものを問題とする﹁量的な﹂基準によって︑事業の一部の譲渡の重要性が判断される︵つまり︑最終的に

は裁判所によって事業の一部の譲渡の重要性が判断される︶余地を実質的に生じさせるという機能があることになる︒ ︵二六〇八︶

(12)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九七同志社法学五九巻六号

三  簡易事業譲渡と定款自治

1

会社法における定款自治   会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書は︑会社が︑︵事業譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額

の︶五分の一という割合を下回る割合を定款で定めることを認める︒このような会社法の文言上︑五分の一を上回る割

合を定款で定めることはできない︒つまり︑会社法は︑簡易事業譲渡の要件を厳格化することは許容するが︑緩和する

ことは許容しない︒それでは︑このように会社法四六七条一項二号の文言から明示的にその効力を肯定ないし否定され

る定款規定を別として︑会社は︑どのような定款規定を事業譲渡について定めることができるのだろうか︒

  この問題について考える場合には︑先に︑会社の定款の効力について規定する会社法二九条の意味について検討する

必要がある︒会社法二九条は︑次のように定める︒

第二十九条 第二十七条各号及び前条各号に掲げる事項のほか︑株式会社の定款には︑この法律の規定により定款の定めがなけ

ればその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し︑又は記録することができる︒

  同条にいう﹁第二十七条各号に掲げる事項﹂とは︑定款の絶対的記載事項と呼ばれるものであり︑﹁前条各号に掲

げる事項﹂とは︑変態設立事項と呼ばれるものである︒ここで検討したいのは︑それ以外の事項︑つまり︑﹁この法

律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項﹂︑および︑﹁その他の事項でこの法律の規定に違反

︵二六〇九︶

(13)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九八同志社法学五九巻六号

しないもの﹂である︒

  会社法の立案担当者は︑は︑﹁法律の規定に基づき定款で定めを置く事項﹂を意味し︑は︑﹁法律に定めがない事

項について︑法律とは無関係に定款で一定の事項を定めるもの︵たとえば︑事業年度の定め︶﹂を意味すると述べる︒

そして︑﹁法律に規定されている事項について定款で別段の定めを置くことができる場合については︑逐一︑法律でこ

れを規定することとしている﹂ものとされ︑﹁法律においては定款に対する言及はないが︑定款で別段の定めをするこ

とができるものと解されている事項﹂は許容されないといわれる︒そのような事項を許容すれば︑﹁法的安定性に欠け︑

実務上の取扱いとしても適切な運用をすることが困難な場合が生じうるものと考えられる﹂からだと︑その理由が説明

される

︒つまり︑法律の規定に明示的に﹁定款に別段の定めがある場合を除く﹂といった文言が付されていない限り︑ 28

法律に規定されている事項について定款で別段の定めを置くことは許されない︵そのような定款規定は無効︶とされて

いるわけである︒以上のような理解からすれば︑事業の一部の譲渡については︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧

書で明示的に許容される定款規定以外は︑会社がそれを定めたとしてもすべて無効ということになりそうである︒

  しかし︑このような見解に対しては︑上記のような文言が法律の規定に置かれていない事項についても︑一概に定款 自治を否定すべき理由はないとして︑異論も唱えられている

︒法律に規定された事項について︑定款で別段の定めを置 29

く内容は︑無数にありうる︒会社法の立案段階において︑すべての会社法の規定について︑無数にありうる定款の別段

の定めについて一つ一つ検討がなされ︑実質的に許容すべき事項が一つ一つ確定され︑それが条文に反映されていると

は考えがたい

︒たとえ会社法二九条の趣旨を立案担当者が上記のように考えていたとしても︑所詮は︑会社法の条文一 30

つ一つについて︑問題となる定款規定が現れるたびに︑その都度それが会社法の個別の規定や︑会社法全体から導き出

される原則から逸脱していないかどうか︑さらに︑そのような定款規定を認めることによって第三者の利益がどの程度 ︵二六一〇︶

(14)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 一九九同志社法学五九巻六号 害されるかを︑検証することになるだろう︒そのような検証の結果︑実質的に問題がないと考えられる定款規定の効力を︑否定すべき理由はないように思われる︒そもそも︑会社法二九条は︑会社法の﹁規定に違反しない﹂ものかどうかを問題にしているのであって︑会社法自体が別段の定款規定に言及しないときに︑別段の定めを置けば︑それがただちに会社法の﹁規定に違反﹂することになるという立案担当者の解釈は︑会社法二九条の文言の素直な解釈とはいえない︒

  このように考えると︑事業の一部の譲渡について︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書で明示的に許容される定

款規定以外に︑別段の定めを定款に置くことが︑一切許容されないわけではないということになる︒

2

いくつかの定款規定とその有効性

1

に述べたような前提に立って︑以下では︑事業の一部の譲渡について︑いくつかの定款規定を考え︑その有効性に

ついて検討していく︒以下で検討する定款規定の内容やそれぞれの相違は︑必ずしも分かりやすいものではないので︑

次頁の図で概要を示す︒

  図の一番上に示すのが︑会社法四六七条一項二号の規律︵同号括弧書内括弧書が認める定款による簡易事業譲渡の要

件の厳格化を行わない場合︶である︒譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の五分の一を超えない場合には常に株主総

会決議による承認を要しない︒譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の五分の一を超える場合には︑事業の﹁重要な一

部﹂の譲渡かどうかを基準として

︑株主総会決議による承認の要否が決まる 31

︒上から二番目に示すのが︑会社法四六七 32

条一項二号括弧書内括弧書によって明示的に許容される定款規定である︵定款規定Ⅰ︶︒会社は︑簡易事業譲渡の要件

として︑譲渡資産の帳簿価額の会社の総資産額に占める割合を︑定款で五分の一よりも下げることができる︒その場合︑

︵二六一一︶

(15)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇〇同志社法学五九巻六号

定款規定1

定款規定2

定款規定3

定款規定4

定款規定5

定款規定6

「重要な一部」基準

常に総会決議不要

「重要な一部」基準

常に総会決議必要 会社法の規律:簡易事

業譲渡の要件を厳格化

しない場合 常に総会決議不要 「重要な一部」基準

常に総会決議必要

常に総会決議不要 常に総会決議必要

常に総会決議必要

「重要な一部」基準

常に総会決議必要 譲渡資産の帳簿価額≦総資産額の五分の一

常に総会決議不要       「重要な一部」基準

常に総会決議不要 定款規定Ⅰ:4671

2号括弧書内括弧書 で明示的に許容される 定款規定Ⅱ:同括弧書 内括弧書で明示的に許 容されない

「重要な一部」基準

︵二六一二︶

(16)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇一同志社法学五九巻六号 そのような定款所定の割合を超えない場合には常に株主総会決議による承認を要しない︒定款所定の割合を超える場合には︑事業の﹁重要な一部﹂の譲渡かどうかを基準として︑株主総会決議による承認の要否が決まる

︒他方で︑上から 33

三番目に示すのが︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書の文言からして明示的に許容されない定款規定である︵定

款規定Ⅱ︶︒会社は︑簡易事業譲渡の要件として︑譲渡資産の帳簿価額の会社の総資産額に占める割合を︑定款で五分

の一よりも上げることができない︒以上に対して︑点線より下に示すのが︑以下で検討する定款規定である︒

﹇定款規定

1

﹈会社法四六七条一項二号括弧書の適用を受けない旨の定款規定   定款で︑会社法四六七条一項二号括弧書の適用を受けない旨︵つまり︑簡易事業譲渡を利用しない旨︒言い換えれば︑

事業の一部の譲渡については︑会社法制定前と同様に︑常に﹁重要な一部﹂の基準が適用されるという旨︶を定めるこ

とはできるだろうか︒会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書の文言からしても︑そのような定款規定は有効だと思わ

れる︒そのような定款規定は︑同括弧書内括弧書の﹁これを下回る割合﹂を︑ゼロと定めているものだと考えることが

できるからである︒このような定款規定が定められ︑それが有効だとすれば︑会社法制定前の状態と同様に︑譲渡され

る事業の一部が﹁重要な﹂ものかどうかは︑量的な基準と質的な基準の両面から判断されることになるだろう

︒たしか 34

に︑このような定款規定は︑事業の一部の譲渡について︑会社法が定めるよりも︑株主総会決議による承認の要否を不

明確にするものであり︑会社法で簡易事業譲渡が定められた趣旨とは衝突するようにも見える︒しかし︑会社法四六七

条一項二号括弧書内括弧書は︑定款によって簡易事業譲渡の要件を厳格化することを認めている︒その限りで︑事業の

一部の譲渡について株主総会決議による承認の要否を不明確化することは︑許容されているのである︒﹇定款規定

1

︵二六一三︶

(17)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇二同志社法学五九巻六号

だけを別異に扱う理由は︑ないように思われる︒

﹇定款規定

2

﹈会社法四六七条一項二号括弧書が定める簡易事業譲渡の要件を充たさない事業の一部の譲渡につい

て︑常に株主総会決議による承認を要する旨の定款規定

  簡易事業譲渡の要件を充たさず︑譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の五分の一を超える事業の一部譲渡につい

て︑常に株主総会決議による承認を要する旨を︑定款で定めることはできるだろうか︒会社法四六七条一項二号の趣旨

を︑同号括弧書の簡易事業譲渡の要件が充たされない場合に︑常に事業の﹁重要な一部﹂の譲渡に該当するかどうかが

問題とされなければならないというものだと考えれば︑ここで問題にする﹇定款規定

2

﹈は︑無効だと考えることにな

りそうである︒

  しかし︑会社法四六七条一項二号括弧書が︑事業の重要な一部の譲渡と考えられるものについても︑簡易事業譲渡の

要件を充たす限り︑株主総会決議による承認を不要としていることを重視すれば︑これと異なる結論を導き出すことも

可能だと思われる︒つまり︑同括弧書を︑法律関係の明確性・安定性を向上させるために︑譲渡される事業が﹁重要な

一部﹂かどうかを判断して株主総会決議の要否を決する必要のない場合を設けるための規定だと捉えるのである︒この

ように考えれば︑﹇定款規定

2

﹈は︑︵決議が必要になる場合が増えるという形であれ︶株主総会決議による承認の要否

を明確化するものといえることから︑会社法四六七条一項二号の趣旨に反しておらず有効だと考えることもできるだろ

う︒そもそも会社法は︑取締役会設置会社についても︑定款で株主総会の権限を拡張することを認めているのである︵会

社二九五条二項︶︒ ︵二六一四︶

(18)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇三同志社法学五九巻六号   もっとも︑二に述べたように︑総資産額の五分の一を超える資産を譲渡するような事業の一部譲渡が原則として重要

な一部の譲渡になると考えるなら︑﹇定款規定

2

﹈が実際上の意義を持つことは少ないだろう︒

﹇定款規定

3

﹈会社法四六七条一項二号括弧書が定める簡易事業譲渡の要件を充たさない事業の一部の譲渡につい

て︑常に株主総会決議による承認を要し︑そのような要件を充たす事業の一部の譲渡について︑常に﹁重要な一部﹂

の基準を適用する旨の定款規定

  このような定款規定は︑簡易事業譲渡の要件を充たさない事業の一部の譲渡について︑常に株主総会決議による承認

を要する点では上記﹇定款規定

2

﹈のルールを定め︑これに︑簡易事業譲渡の要件を充たす事業の一部の譲渡について︑

上記﹇定款規定

1

﹈のルールを加味する︵﹁重要な一部﹂の基準を適用する︶ものと考えることができる︒これら二つ

の定款規定がそれぞれ有効だと考えられるのであれば︑﹇定款規定

3

﹈もまた︑無効と考える必要はないだろう︒

﹇定款規定

4

﹈事業譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額の二〇分の一を超える場合には常に株

主総会決議による承認を要し︑そのような割合を超えない場合には常に株主総会決議による承認を不要とする旨の

定款規定

  このような定款規定は︑簡易事業譲渡の要件を会社法四六七条一項二号括弧書所定の五分の一から二〇分の一に厳格

化する定款規定に︑上記﹇定款規定

2

﹈のルールを加味するもの︵厳格化された簡易事業譲渡の要件を充たさない事業

︵二六一五︶

(19)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇四同志社法学五九巻六号

の一部の譲渡について︑常に株主総会決議による承認を要する︶と考えることができる︒このような﹇定款規定

4

﹈に

よれば︑﹇定款規定

2

﹈に比べて︑常に株主総会決議による承認を要する事業の一部の譲渡の範囲が広がる︒しかし︑

株主総会決議による承認の要否が明確になるという点で︑﹇定款規定

4

﹈は﹇定款規定

2

﹈と変わりがない︒﹇定款規定

2

﹈が有効だと考えられるのであれば︑﹇定款規定

4

﹈もまた︑無効と考える必要はないだろう︒

﹇定款規定

5

﹈事業譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額が会社の総資産額の二〇分の一を超える場合には常に株

主総会決議による承認を要し︑そのような割合を超えない場合には常に﹁重要な一部﹂の基準を適用する旨の定款

規定

  このような定款規定は︑簡易事業譲渡の要件を会社法四六七条一項二号括弧書所定の五分の一から二〇分の一に厳格

化する定款規定に︑上記﹇定款規定

3

﹈のルールを加味するもの︵厳格化された簡易事業譲渡の要件を充たさない事業

の一部の譲渡について︑常に株主総会決議による承認を要し︑そのような要件を充たす事業の一部の譲渡について︑﹁重

要な一部﹂の基準を適用する︶と考えることができる︒﹇定款規定

3

﹈が有効だと考えられるのであれば︑﹇定款規定

5

﹈もまた︑無効と考える必要はないだろう︒

﹇定款規定

6

﹈事業の譲渡であれば常に株主総会決議による承認を要する旨の定款規定   このような定款規定も︑無効と考える必要はないように思われる︒特に︑﹇定款規定

2

﹈について述べたように︑会 ︵二六一六︶

(20)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇五同志社法学五九巻六号 社法四六七条一項二号括弧書を︑法律関係の明確性・安定性を向上させるために︑譲渡される事業が﹁重要な一部﹂かどうかを判断して株主総会決議の要否を決する必要のない場合を設けるための規定だと捉えるなら︑﹇定款規定

6

﹈も

有効だと考えることができるだろう︒このような定款規定も︑決議が必要になる場合が増えるという形であれ︑株主総

会決議による承認の要否を明確化するものといえるからである︒

⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝⁝

  以上のように考えてくると︑結局︑会社法四六七条一項二号の趣旨に違反して許容されないのは︑簡易事業譲渡︵事

業譲渡によって譲り渡す資産の帳簿価額の会社の総資産額に占める割合が一定割合よりも低ければ︑株主総会決議によ

る承認を常に要しないとする規制︶の適用範囲を拡張するような定款規定だけだということになりそうである︒﹇定款

規定

1

﹈から﹇定款規定

6

﹈までに挙げたようなものは︑会社法四六七条一項二号に違反するものと考える必要はない︒

事業の一部の譲渡については︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書で明示的に許容されるもの以外にも︑様々な定

款規定を定めることが可能だと考えるべきである︒

結 び

  本稿の検討の結論を要約すれば︑次のようになる︒

︵二六一七︶

(21)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇六同志社法学五九巻六号

  Ⅰ 事業の﹁重要な一部﹂の譲渡に該当するかどうかを判断する基準について︑改正前商法の下での解釈論としては︑

次のAとBの二つの考え方が存在した︒A事業の重要な一部の譲渡とは︑会社の価値に対する譲渡対象の価値の比重

が︑重要といえる程度の譲渡をいう︒B事業の重要な一部の譲渡とは︑事業全部の譲渡に準じるものをいう︒このう

ちBの解釈論は︑会社法の制定に伴って︑解釈論としては採りえなくなった︒

  Ⅱ 事業の重要な一部の譲渡について︑簡易事業譲渡の要件が充たされる場合に︑譲渡される事業の一部が﹁質的に﹂

重要であることを理由として︑株主総会決議による承認を必要とすることはない︒他方で︑簡易事業譲渡の要件が充た

されない場合であっても︑譲渡される事業の一部が﹁質的に﹂重要でないことを理由として︑株主総会決議による承認

を必要としないことはありうる︒

  Ⅲ 会社法四六七条一項二号によって許容されないのは︑簡易事業譲渡の適用範囲を拡張するような定款規定だけで

ある︒事業の一部の譲渡については︑会社法四六七条一項二号括弧書内括弧書で明示的に許容されるもの以外にも︑様々

な定款規定を定めることが可能だと考えるべきである︒

  改正前商法の下で︑事業の重要な一部の譲渡に該当するかどうかを判断する基準をめぐって︑上記のようにAだけで

はなくBの考え方が少数説としてではあるが主張されていたことに元々関心を払わない論者にとっては︑Ⅰの結論は︑

特に関心を払うべき対象とはならないだろう︒Ⅱの結論も︑会社法の文言や︑会社法において簡易事業譲渡制度が設け

られた経緯からすれば︑当たり前の解釈論を確認したにすぎない︒また︑Ⅲの結論に関連して本稿で検討の素材とした ︵二六一八︶

(22)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇七同志社法学五九巻六号 定款規定については︑そのような定款規定を定める実務上の必要性がわずかなりとも存在するかどうかということす

ら︑本稿では特に検討していない︒本稿の目的は︑会社法四六七条一項二号について︑解釈論上検討すべき点がいくつ

も存在するということ︑および︑同号括弧書内括弧書が明示的に許容するもの以外にも︑事業の一部の譲渡について会

社が定めうる定款規定は論理的には様々なものがありえ︑それらの効力がすべて認められないと考える必要性もないと

いうことを︑指摘するところにある︒学問的分業という見地からは︑本稿のような研究にも︑存在価値が全く認められ

ないということにはならないだろう

35

*本稿は︑著者が運営するブログ︵http://blog.livedoor.jp/assam_uva/︶に掲載した次の記事を基礎に︑執筆したものである︒

﹁新会社法四六七条一項二号の意義﹂

http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/50257428.html ﹁新会社法二九条の意義﹂

http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/50263970.html同記事に対しては︑数人の研究者および弁護士から︑記事に対するコメントとして︑貴重なご教示を賜った︒いずれのコメントにも本名で

ない名が示されているため︑ご教示を賜った先生方のお名前を明らかにすることはできないが︑感謝の意をここに表明したい︒

1︶ 決議要件は︑特別決議︵会社三〇九条二項一一号︶

2︶ 相澤哲編著﹃立法担当者による新会社法の解説﹇別冊商事法務二九五号﹈﹄︵商事法務︑〇〇六年︶一三九︱一四〇頁以下では同書を﹁相

澤編著︵立案担当︶と引用する﹈︒﹁営業﹂の指す内容をめぐる従来の解釈論については︑たとえば︑上柳克郎ほか編﹃新版注釈会社法︵五︶

株式会社の機関︵一︶﹄︵有斐閣︑一九八六年︶二六三︱二六九頁﹇商法二四五条︑落合誠一﹈参照﹇以下では同書の同条についての注釈を﹁新

注会︵二四五条︶﹂と引用する﹈

3︶ ﹁会社法制の現代化に関する要綱試案補足説明﹂︵平成一五年一〇月法務省民事局参事官室︶第四部第七

2参照︒

︵二六一九︶

(23)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇八同志社法学五九巻六号

4︶ 新注会︵二四五条︶・前掲注︵

2︶二六九頁︒

5︶ 相澤編著︵立案担当︶・前掲注

2︶一四〇頁︒同様の記述は︑相澤哲ほか編著﹃論点解説会社法﹄商事法務︑二〇〇六年︶六五九

︱六六〇頁にも見られる﹇以下では同書を﹁相澤ほか編著︵論点解説︶と引用する﹈

6︶ 新注会︵二四五条︶・前掲注

2︶二六九頁︒しかも︑その場合には︑過去および将来の要素をも視野に入れる必要があるといわれる︒同

書二七〇頁︒

7︶ 新注会︵二四五条︶前掲注

2︶二六九頁︒このような表現は︑かつて︑鈴木竹雄株式会社法と取引の安全﹂﹃商法研究﹄︵有斐閣

一九七一年︒同論文初出は︑﹃松田判事在職四十年記念会社と訴訟︻下︼﹄︑有斐閣︑一九六八年︶四七頁︑五三頁で用いられたものである︒

8︶ 上柳克郎﹁営業譲渡﹂商事法論集﹄︵有斐閣︑一九九九年︒同論文初出は上柳克郎ほか編﹃会社法演習﹄︑有斐閣︑一九八三年︶二六六頁︑

二七一︱二七三頁参照︒

9︶ 江頭憲治郎株式会社・有限会社法︹第四版︺﹄︵有斐閣二〇〇五年︶七八四頁注

3︶﹇以下では同書を﹁江頭第四版︶﹂と引用する﹈

正確には︑この見解はそのような﹁諸要素を総合して営業全体の一〇パーセント程度を超えなければ重要と解される余地はない﹂とす

るものである︒しかし︑この見解は②の基準を︑次に述べるように①の基準を満たさなくとも会社に大きな影響を与える場合があるとい

う意味で用いる︒このことから︑結局この見解は︑①の基準を中心に据え︑一〇パーセントという割合によって株主総会決議の要否を判断

するものと評価してよいと思われる︒

10︶ 江頭︵第四版︶・前掲注︵

9︶七八四頁注︵

3︶ ︒

11︶ 商事法務研究会編﹃営業譲渡・譲受ハンドブック︹新訂第二版︺﹄︵商事法務研究会︑一九九九年︶二八頁︒

12︶ 公表裁判例でも︑事業の一部の譲渡が﹁重要﹂なものかどうかは︑そのように解釈されてきたといってよい︒

浦和地判昭五六一三判例タイムズ四五四号一五五頁では︑直営店七店舗と加盟店四店舗においてパンおよび菓子の販売を行っていた

同族会社が︑会社分割の手段として直営店三店舗を譲渡したことが問題となった︒判決は︑これが事業の重要な一部の譲渡にあたるとした

だし︑各店舗の売上高等は認定されていない︶

    最判昭六一一一判例時報一二一五号一二五頁では︑たばこ製造機械および小型ディーゼルエンジンの製造販売を業として三つの工場

を有する会社が︑そのうち一つの工場︵もっぱら小型ディーゼルエンジンの製造販売にあたっていた︶を譲渡したことが問題となった︒判

決は︑これが事業の重要な一部の譲渡にあたるとした︵ただし︑各工場の規模等は認定されていない︶ ︵二六二〇︶

(24)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二〇九同志社法学五九巻六号    裁判例を整理するものとして︑商事法務研究会編・前掲注︵

11︶二四︱二七頁参照︒

13︶ 石井照久﹁営業の譲渡と株主総会の決議﹂吉永榮助編﹃田中誠二先生古稀記念現代商法学の諸問題﹄︵千倉書房︑一九六七年︶一頁︑頁︑

同﹁判批﹂経営法学ジャーナル一三号︵一九六六︶四一︱四二頁︒

14︶ 拙稿﹁会社の結合・分割手法と株主総会決議︵二・完︶﹂民商法雑誌一二三巻六号︵二〇〇一年︶八六五頁︑八七六頁︒

15︶ 改正前商法の下での判例かつ通説であり︑会社法の下でもこれは変わらない︒江頭憲治郎﹃株式会社法﹄︵有斐閣︑二〇〇六年︶八四七︱

八四八頁注

1︶参照︒著者は︑立法論としては︑﹁事業﹂の譲渡ではなく﹁資産﹂の譲渡に着目した規制を行うことにも合理性があると考

えているが︑このことの詳細な検討については他日を期したい︒

16︶ 取締役会決議を要することはありうる︵会社三六二条四項一号参照︶

17︶ 神作裕之﹁株式会社の営業譲渡等に係る規律の構造と展望﹂小塚荘一郎高橋美加編﹃落合誠一先生還暦記念商事法への提言﹄商事法務︑

二〇〇四年︶一二五頁︑一四三︱一四四頁︒

18︶ 神作・前掲注︵

17︶一四四頁︒

19︶ 神作・前掲注︵

17︶一四四頁︒

20︶ この場合︑原則として︑事業の譲渡に係る契約を締結した日が算定基準日とされる︒当該契約によっての日とは異なる時が算定基

準日と定められれば︑そちらが算定基準日となる︒もっともによって定める日は︑の日から︑事業の譲渡の効力が生じる時の直前まで

の間でなければならない︒会社の総資産は︑算定基準日における次の①から⑧までの額の合計額から⑨の額を減じた額だとされる︵会社法

施行規則一三四条一項︶

  ① 資本金の額   ② 資本準備金の額   ③ 利益準備金の額   ④ 会社法四四六条に規定する剰余金の額    ⑤ 最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額    ⑥ 最終事業年度の末日において負債の部に計上した額    ⑦ 最終事業年度の末日後に吸収合併︑吸収分割による他の会社の事業に係る権利義務の承継または他の会社の事業の全部の譲受けをした

︵二六二一︶

(25)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二一〇同志社法学五九巻六号

ときは︑これらの行為によって承継または譲受けをした負債の額

  ⑧ 新株予約権の帳簿価額   ⑨ 自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額

21︶ たとえば︑相澤編著︵立案担当︶・前掲注︵

2︶一四〇頁は︑次のように述べる︒

   ﹁現行法では︑現行商法二四五条一項一号に規定されている﹃重要﹄な譲渡に該当することとなる基準が明らかではなく︑事業の譲渡のうち

株主総会の決議を要するものの範囲については︑譲渡する営業の質および量の両面から実質的に判断するほかない状況にあった︒

   このうち︑質的な問題は法律で基準を設けることは困難であり︑現行法どおり解釈に委ねざるを得ないが︑量的な問題については︑前記

のとおり︑総資産額の五分の一以下の資産を譲渡する事業の譲渡は株主総会の決議を要しない旨を定めることにより︑株主総会の決議を要

する事業の譲渡の範囲の一部を明らかにすることとしたものである︒

   同様の記述は︑相澤ほか編著︵論点解説︶・前掲注

5︶六五九︱六六〇頁にも見られる︒しかし︑﹁質的な問題は⁝解釈に委ねざるを得

ないが︑量的な問題については⁝株主総会の決議を要しない旨を定める﹂という記述からは﹇問題点

1についていずれと解するかが明ら

かにならない︒

22︶ 江頭・前掲注︵

15︶八四九頁注︵

3︶︑龍田節﹃会社法大要﹄︵有斐閣︑二〇〇七年︶五一九頁︒

23︶ 法制審議会会社法︵現代化関係︶部会第二三回会議議事録では︑簡易事業譲渡について︑﹁簡易な手続を許容する﹄とありますが︑これ

は従来から︑重要な一部のあれが分からないので一〇か二〇かはっきり立法で手当てをしてほしいというような御要望があったと思い

ますが︑その趣旨だと理解してよろしいわけですか﹂という質問に対して︑﹁趣旨を変えるつもりはありませんが︐二〇未満であれば

要な一部と判断されるような場合であってもこの手続でいけるということです﹂という応答が行われている︒法制審議会会社法︵現代化関係

部会の議事録は︑法務省のウェブ・サイトで公表されている︒http://www.moj.go.jp/SHINGI/index.html︵二〇〇七年一一月三一日最終訪問︶

24︶ ﹁会社法制の現代化に関する要綱﹂︵平成一七年二月九日法制審議会決定︶第二部第七

2②の後の︵注︶では︑﹁⁝営業の重要な一部を譲渡

する株式会社についても︑②と同様の措置を講ずるものとする﹂とされ︑②では︑﹁吸収分割の分割会社が承継会社に承継される資産の分割

会社の総資産に占める割合が二〇パーセント以下の場合には︑分割会社において株主総会の決議を要しないものとする﹂とされる︒②と同

様の措置が講じられるのは︑﹁営業の重要な一部を譲渡する株式会社﹂についてなのであるから︑ここからも︑本文で述べたような意味で立

法が行われたことが分かる︒同要綱は︑法務省のウェブ・サイトで公表されているhttp://www.moj.go.jp/SHINGI/050209-1-1.pdf︵二〇〇七 ︵二六二二︶

(26)

会社法四六七条一項二号に関する一考察 二一一同志社法学五九巻六号 年一一月三一日最終訪問︶

25︶ 前述

2

26︶ 長島・大野・常松法律事務所編﹃アドバンス会社法︹第二版︺﹄︵商事法務︑二〇〇六年︶七六六頁︑川村正幸・布井千博編﹃新しい会社法

制の理論と実務﹇別冊金融・商事判例﹈﹄︵経済法令研究会︑二〇〇六年︶二四〇頁参照︒

27︶ 江頭・前掲注︵

15︶八四九頁注︵

3︶参照︒

28︶ 相澤編著︵立案担当︶・前掲注

2︶二〇頁︒同様の趣旨を述べるものとして︑長島・大野・常松法律事務所編・前掲注

26︶六一頁︑森

本滋﹁会社法のもとにおける経営管理機構﹂商事法務一七四四号︵二〇〇五年︶二四頁︑三七頁︵注三︶

29︶ 宍戸善一﹁定款自治の範囲の拡大と明確化︱︱株主の選択﹂商事法務一七七五号︵二〇〇六年︶一七頁︑二一︱二三頁︒江頭前掲注

15︶七三頁は︑﹁会社法上例示されているものもあり︑﹃任意的記載事項﹄と呼ばれる﹂と述べており︑これも同様の趣旨を述べるものだろ

うか︒

30︶  ブログ

﹁ふぉーりん

・あとにーの憂鬱﹂二〇〇五年一二月二八日付の記事

新会社法における定款自治の限界

﹂参照

http://www.

ny47th.com/fallin_attorney/archives/2005/12/post_124.html︵二〇〇七年一一月三一日最終訪問︶

31︶ この基準の会社法下での意義について︑前述

2および参照︒

32︶ 前述参照︒

33︶ 前述参照︒

34︶ 前述

1参照︒

35︶ これに対しては︑﹁学問的分業の名の下に意義のない論文を公表するものだ﹂との批判が予想されるしかし︑ある論文や研究に意義があ

るかどうか︑また︑どれだけ意義があるかということが︑完全には予測できないからこそ︑学問的分業というものが意味を有するのではな

いだろうか︒

︵二六二三︶

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