• 検索結果がありません。

中 国 の 経 済 発 展 と 歴 史 認 識

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "中 国 の 経 済 発 展 と 歴 史 認 識"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

-  51  -

史苑(第七一巻第一号)  現在、私は新潟国際情報大学という地方の私立大学に勤務している。私が所属する学科は、中国の重点大学である北京師範大学歴史学院と交流協定を結んでおり、留学を希望する学部生を毎年半期間、北京に留学させている。そのため私は毎年九月になると学生を引率して一週間ほど北京を訪れる。私が新潟で働き始めたのが二〇〇一年であるから、かれこれ一〇年近く北京を毎年観察してきたことになる。 二〇一〇年は九月一一日に北京入りしたが、このときはその直前の五日から九日まで吉林省長春市にある吉林省社会科学院満鉄資料館で資料を収集していたので、日をおかずに中国の二つの都市を訪問することになった。北京には二一日まで滞在したが、今回の北京訪問には二つの目的があった。一つは、例年通りの学生引率であり、もう一つは一七、一八日に北京師範大学歴史学院で開催された国際シンポジウム「東アジアの社会変遷と経済発展」に出席し報 告するためであった。 このときの中国訪問は、長春滞在中から何かこれまでに感じたことのない違和感が漂っていたが、それは九月七日に発生した、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件として具体的な姿を現した。中国のテレビニュースはこの事件発生以来、日本の中国人船長逮捕は不法であること、尖閣諸島は古くから中国の領土であること(「釣魚島自古以来就是中国領土」)、中国政府は船長を即刻釈放するよう日本政府に求めていること、などを連日報じ、その報道ぶりは日を追うごとにエスカレートしていった。北京滞在中にはニュース解説番組がこの問題をとりあげ、大学の教員が日本の不法性をコメントする場面すら見られた。 中国漁船の船長より先に帰国した乗組員たちは、テレビニュースのインタビューアーに対し「中国政府の支援に感謝する。日本側の行為は不法であり、尖閣諸島は完全に中

エッセイ

   中国の経済発展と歴史認識

小  林  元  裕

(2)

-  52  -

中国の経済発展と歴史認識(小林)

-  53  -

国の領土だ」と答え、まるでシナリオの台詞のような発言がニュースで流された(後に船長が釈放されたときも同様の発言だった)。メディアでここまで日本政府を批判してしまったら、中国政府はこの問題をどう収束させていくのか。中国国民をこれほどまでに煽ったら、中国政府は自らを引くに引けない困難な立場に追い込むのではないか。この報道ぶりに私は大きな危うさを感じ、違和感を覚えた。 そしてこの違和感は北京において確実なものに変わっていった。すなわち、これは私が長春滞在中から感じた点だったが、二〇一〇年九月の中国は抗日戦争を題材とするテレビドラマをかつてないほど放映していたのである。 前年の二〇〇九年は中華人民共和国建国六〇周年の記念すべき年であり、テレビは毛沢東ら建国の父を描いた国共内戦のドラマが主流を占めた。同時に、中国共産党が民主党派との協力によって中華人民共和国をいかに「民主的」に作り上げたかという視点で描いた大型映画『建国大業』のコマーシャルが繰り返し流された。一方、抗日戦争を描いたテレビドラマは目立ったものがなく、汪兆銘政権内に潜入したスパイをサスペンスタッチで描いた映画『風声』のコマーシャルが目につく程度だった。 中国の経済発展は中国人の生活スタイルを大きく変化させ、彼らの思想を大きく変えた。そしてそれは歴史認識に まで及ぶかに見えた。例えば、一九八〇年代以降、国民党の再評価が進むのにあわせ、テレビドラマでも共産党指導者ではない国民党の蔣介石や他の指導者を主人公に据えたドラマが制作されるようになった。そして同じように、抗日戦争ドラマの中の日本人の描き方にも変化が現れ、従来のような残忍非道な日本軍将兵だけでなく、侵略に苦悩する日本人を登場させるなど、「日本人=悪」という単純な日本人像を描くドラマは減っていった。また北京オリンピックが開催された二〇〇八年頃は、中国の近現代史を描いたドラマ自体が減り、古代史に題材を求めたものが隆盛を極めた。そして中には現政権を暗に批判していると噂されるドラマさえ現れた。ところが二〇一〇年九月は状況が一変していた。ほとんどが抗日戦争のドラマやドキュメントだったのである。 尖閣諸島沖事件発生後の中国政府の頑なな態度や中国南西部で発生した学生の「反日」デモによって、日本の保守層は「ほら、中国はやっぱり危険な国じゃないか」と従来からの主張を強め、また中国に悪い感情をこれまで持たなかった層までも中国の一連の動向に「反感」を抱いた。日本を追い越し、世界第二位の経済大国になろうとしている中国の発展は、彼らのナショナリズムを高揚させ、その経済的強さを楯に傲慢になっているのではないか、「ならず

(3)

-  52  -

-  53  -

史苑(第七一巻第一号) もの」大国化しているのではないか、と。 日本のマスコミの多くは、中国人学生の「反日」デモ行動の本当の原因が、日中間の領土問題そのものにあるのではなく、中国の格差問題や言論問題に対する不満、果ては共産党内部の権力闘争(胡錦濤国家主席と習近平国家副主席の争い、軍と政府の争い)にあると論じ、中国に噴出する諸矛盾が「反日」デモというかたちをとって日本に向けられたと分析している。そのような側面があることを私も否定しない。中国の急速な経済発展は中国社会全体に大きな歪みを実際にもたらしており、「反日」デモが行われた地域は、日本大使館のある北京を除いて経済的に立ち遅れているところが多い。しかし、私はこれらの理由だけで学生の「反日」デモを説明するのは無理だと考える。 上述したように二〇〇九年は中国にとって中華人民共和国建国六〇周年の重要な節目の年であった。それではその翌年となる二〇一〇年はどのような意味を持っていたのか。日本ではほとんど報道されなかったが、この年は中国にとって一九四五年の抗日戦争勝利から六五周年に当たる年だった(中国と同じく対日戦勝国だったロシアは、九月二日を戦争勝利記念日に設定し、これに日本外務省が遺憾の意を表明した件はマスメディアで大きく取り上げられた)。つまり中国の二〇一〇年は、前年の建国六〇周年と 連続して捉える必要がある。改めて指摘するまでもなく、中華人民共和国の建国は抗日戦争の勝利、そしてそれに続く対国民党戦争の勝利が導き出した結果であり、抗日戦争がなければ共産党による政権の掌握は実現しなかった。つまり建国六〇周年の翌年に抗日戦争勝利六五周年を記念するのは中国にとって必然であり、中国共産党政権の正当性を確認するうえで必要だった。 私が長春、北京で見た、抗日戦争を題材にしたドキュメンタリーやニュース解説番組は、『探索・発現』、『今日関注』、『海峡両岸』等で、テレビドラマでは、『雪豹』、『永不消逝的電波』、『諜変一九三九』、『趙尚志智取五常堡』、『天大地大』等があった。いくつかのドラマは、建国六〇周年に制作したものの再放送で、『雪豹』などは北京最大の書店である北京図書大廈ですでにDVDとして販売していた。私は『雪豹』の他に『秋霜』、『国歌』、『鋤奸行動』等のDVDを同書店で購入したが、販売している抗日戦争ドラマの数があまりに多く、このときは主要なものしか購入できなかった。これらの映像については内容をしっかりと確認したうえで別の機会に論じようと思っており、ここでは、日本人の描き方に大きな違和感を持ったこと、そして史実に多くの誤りが見られたことの二点だけを指摘しておく。 テレビ番組とはいえ、このような日本人のイメージを毎

(4)

-  54  -

中国の経済発展と歴史認識(小林)

日繰り返し見せられたら、日本や日本人に対していい感情を持つ方が不思議である。中国人の友人によれば、中国の青年層はこれらのドラマやドキュメンタリーにあまり興味を示さず、中国人の価値観も多様化しているのだから、テレビの影響をそれほど心配する必要はないという。それでも私は、これらテレビをはじめとする映像メディアの影響力は学校の歴史教育以上に大きいと考える。 上記した『諜変一九三九』、『天大地大』では日本軍の細菌戦にかかわる場面が登場する。日本軍が中国との戦いで細菌戦を実施した歴史事実は、粟屋憲太郎先生が発掘し、藤原彰先生とともに解明したものである。したがって日本軍の細菌戦をドラマとして描くのは一向に構わないのだが、フィクションといえ、あまりに事実を無視して描くのは、中国人の対日イメージを悪化させるだけであり、歴史認識の混乱につながる。粟屋、藤原両先生から指導を受けた私としてはとても辛い。 中国の経済発展は歴史認識の変化をそう簡単に中国国民にもたらさない。ロシアの二〇一〇年の動向(対日戦争勝利記念日の制定、メドベージェフ大統領の北方領土訪問等)を見てわかるように、社会主義崩壊以後の政治の自由化、民主化が必ずしも歴史認識の大幅な修正をもたらさなかった経緯を私たちは知っている。政治大国、経済大国、そし て軍事大国になろうとしている中国の歴史認識に日本はどう対峙すればいいのか。 二〇一一年は中国にとって辛亥革命一〇〇年の年となる。そして七月一日には中国共産党創建九〇年、九月一八日には満州事変(柳条湖事件)勃発八〇年を迎える。歴史研究者は中国のナショナリズムという大きく困難な課題に直面していかなければならないのである。(新潟国際情報大学准教授)

参照

関連したドキュメント

Loebell and Bock (2003) investigated whether cross-linguistic syntactic priming would occur among fluent German-English bilingual speakers with three

いう構造になる。当然大名は諸侯という位置づけになる。

[r]

 その後,アジア経済研究所の (旧)

 安徽省関係部門は,金融危機の影響が春節後に集中的に現れる可能性があるとして,出

応当に是の如き四法に親近すべし。

[r]

被支配グループからは資源の徴収がどの程度宗主国によるものなのか支配グループによ