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映像作品における台詞終わりに付加する音楽の最適 付加時点

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

映像作品における台詞終わりに付加する音楽の最適 付加時点

稲田, 環

https://doi.org/10.15017/1807041

出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:

(2)

映像作品における台詞終わりに付加する 音楽の最適付加時点

Optimal timing of music insertion at end of speech in Japanese visual media productions

稲田 環

Tamaki Inada

2017 年 3 月

(3)

第1章 序論 1

1.1. はじめに . . . . 1

1.2. 映像作品における「音」の制作工程と表現手法. . . . 2

1.2.1 映画とテレビドラマに共通する「音」の制作工程と表現手法 . . . 2

1.2.2 映画における「音」の制作環境と音楽の表現手法 . . . . 4

1.2.3 テレビドラマにおける「音」の制作環境 . . . . 4

1.2.4 テレビドラマの「音」の制作工程と音楽の表現手法 . . . . 5

1.2.5 台詞を印象づけたり台詞に対する受け手の感情に音楽を付加させ る表現手法について . . . . 6

1.3. 音楽と映像の相互作用に関する代表的な先行研究 . . . . 7

1.4. 「間」が及ぼす影響 . . . . 9

1.4.1 「間」に関する論考 . . . . 10

1.4.2 「間」に関する先行研究 . . . . 10

1.5. 本論文の目的と位置付け . . . . 12

1.6. 本論文の構成 . . . . 12

第2 2012年夏期放送のテレビドラマにおける音楽と映像の関係の分析 14 2.1. はじめに . . . . 14

2.2. 分析対象および番組の全体時間 . . . . 14

2.3. 番組内で用いられる音楽の割合 . . . . 15

2.3.1 対象とする音楽 . . . . 15

2.3.2 番組時間に対する音楽が占める割合の測定方法. . . . 16

2.3.3 結果と考察 . . . . 16

2.4. 映像表現における音楽の付加箇所の割合 . . . . 18

2.5. 物語の構造的要素における音楽の付加箇所の割合 . . . . 20

2.6. 台詞終わりと音楽の付加箇所の関係 . . . . 23

(4)

2.6.1 各番組における台詞終わりから音楽の付加箇所までの間. . . . 23

2.6.2 音楽が付加される直前の会話の台詞について . . . . 24

2.7. 本章のまとめ . . . . 26

第3章 台詞が表す感情と音楽の最適付加時点の関係 28 3.1. はじめに . . . . 28

3.2. 実験1:1つの作品内の異なる場面における音楽の最適付加時点 . . . . . 29

3.2.1 台詞の表す感情の分類 . . . . 29

3.2.1.1 実験刺激 . . . . 29

3.2.1.2 実験参加者 . . . . 29

3.2.1.3 実験環境 . . . . 30

3.2.1.4 実験手続き . . . . 30

3.2.1.5 結果と考察 . . . . 30

3.2.2 実験1における印象評定実験 . . . . 31

3.2.2.1 実験刺激 . . . . 31

3.2.2.2 実験参加者 . . . . 31

3.2.2.3 実験環境 . . . . 32

3.2.2.4 実験手続き . . . . 32

3.2.2.5 結果と考察 . . . . 32

3.2.2.6 台詞の表す感情の影響についての検討 . . . . 36

3.3. 実験2:映像の視覚的要素を統一した条件における音楽の最適付加時点 . 37 3.3.1 台詞の表す感情の分類 . . . . 37

3.3.1.1 実験刺激 . . . . 37

3.3.1.2 実験参加者 . . . . 38

3.3.1.3 実験環境 . . . . 38

3.3.1.4 実験手続き . . . . 38

3.3.1.5 結果と考察 . . . . 38

3.3.2 実験2における印象評定実験 . . . . 40

3.3.2.1 実験刺激 . . . . 40

3.3.2.2 実験参加者 . . . . 42

3.3.2.3 実験環境 . . . . 42

3.3.2.4 実験手続き . . . . 42

(5)

3.3.2.5 結果と考察 . . . . 42

3.3.2.6 台詞の表す感情の影響についての検討 . . . . 47

3.4. 本章のまとめ . . . . 50

第4章 音楽と映像の調和度と音楽の最適付加時点の関係 51 4.1. はじめに . . . . 51

4.2. 実験3:映像と調和度の異なる音楽を付加する際の音楽の最適付加時点 . 52 4.2.1 映像と音楽の調和度の印象評定実験 . . . . 52

4.2.1.1 実験刺激 . . . . 52

4.2.1.2 実験参加者 . . . . 54

4.2.1.3 実験環境 . . . . 54

4.2.1.4 実験手続き . . . . 54

4.2.1.5 結果と考察 . . . . 55

4.2.2 映像と調和度の異なる音楽を用いた印象評定実験 . . . . 56

4.2.2.1 実験刺激 . . . . 57

4.2.2.2 実験参加者 . . . . 57

4.2.2.3 実験環境 . . . . 58

4.2.2.4 実験手続き . . . . 58

4.2.2.5 結果と考察 . . . . 58

4.3. 本章のまとめ . . . . 66

第5章 台詞後の映像の切り替わりと音楽の最適付加時点の関係 68 5.1. はじめに . . . . 68

5.2. 実験4:映像が直ぐに切り替わる際の音楽の最適付加時点 . . . . 68

5.2.1 台詞の感情に応じたリアクション表情が表す感情の分類. . . . 68

5.2.1.1 実験刺激 . . . . 69

5.2.1.2 実験参加者 . . . . 70

5.2.1.3 実験環境 . . . . 71

5.2.1.4 実験手続き . . . . 72

5.2.1.5 結果と考察 . . . . 72

5.2.2 映像が直ぐに切り替わる際の印象評定実験 . . . . 74

5.2.2.1 実験刺激 . . . . 74

(6)

5.2.2.2 実験参加者 . . . . 75

5.2.2.3 実験環境 . . . . 75

5.2.2.4 実験手続き . . . . 75

5.2.2.5 結果と考察 . . . . 75

5.3. 実験5:映像が切り替わるタイミングが異なる際の音楽の最適付加時点 . 84 5.3.1 2種類の映像の切り替え時点における印象評定実験 . . . . 84

5.3.1.1 実験刺激 . . . . 85

5.3.1.2 実験参加者 . . . . 86

5.3.1.3 実験環境 . . . . 86

5.3.1.4 実験手続き . . . . 86

5.3.1.5 結果と考察 . . . . 86

5.3.1.6 映像の切り替え時点と音楽付加時点の関係の比較検討. . 97

5.4. 実験6:台詞の表す感情とリアクション表情が異なる感情における際の音 楽の最適付加時点 . . . . 102

5.4.1 台詞の感情と異なる受け手のリアクション表情が表す感情の分類. 102 5.4.1.1 実験刺激 . . . . 102

5.4.1.2 実験参加者 . . . . 104

5.4.1.3 実験環境 . . . . 104

5.4.1.4 実験手続き . . . . 104

5.4.1.5 結果と考察 . . . . 105

5.4.2 受け手のリアクション表情が台詞の感情と異なる際の印象評定実験 105 5.4.2.1 実験刺激 . . . . 105

5.4.2.2 実験参加者 . . . . 106

5.4.2.3 実験環境 . . . . 106

5.4.2.4 実験手続き . . . . 106

5.4.2.5 結果と考察 . . . . 106

5.5. 本章のまとめ . . . . 111

第6章 結論 113

付録A 全実験参加者リスト 123

(7)

3.1 「怒り」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺度の平均 評定値 . . . . 33 3.2 「愛」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺度の平均評

定値 . . . . 34 3.3 「悲しみ」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺度の平

均評定値 . . . . 35 3.4 「怒り」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺度の平均

評定値 . . . . 43 3.5 「愛」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺度の平均評

定値 . . . . 45 3.6 「悲しみ」と「恐れ」の台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における

各尺度の平均評定値 . . . . 46 3.7 「怒り」および「愛」の複合した感情における全員の場合と「該当する感

情」を選択した人のみのタイミングのよさの平均評定値 . . . . 49 3.8 「怒り」および「愛」の複合した感情における全員の場合と「該当する感

情」を選択した人のみのインパクトの強さの平均評定値 . . . . 49 4.1 各視聴覚刺激における音楽と映像の調和感の平均評定値 . . . . 55 4.2 「怒り」の感情を表す台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各

尺度の平均評定値 . . . . 59 4.3 「愛」の感情を表す台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における各尺

度の平均評定値 . . . . 62 4.4 「悲しみ」の感情を表す台詞終わりに付加する音楽の各付加時点における

各尺度の平均評定値 . . . . 65 5.1 V4Ra「怒り」における発話者の表情と受け手のリアクション表情 . . . . 70

(8)

5.2 V5Ra「怒り」における発話者の表情と受け手のリアクション表情 . . . . 70 5.3 V6Ra「愛」における話者の発話者と受け手のリアクション表情 . . . . . 70 5.4 V7Ra「愛」における話者の発話者と受け手のリアクション表情 . . . . . 71 5.5 V8Ra「悲しみ」における発話者の表情と受け手のリアクション表情 . . . 71 5.6 V9Ra「恐れ」における発話者の表情と受け手のリアクション表情 . . . . 71 5.7 台詞が「怒り」の感情を表す刺激 V4RaT0M4V5RaT0M5

おける音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 77 5.8 台詞が「愛」の感情を表す刺激 V6Ra(T0)M6,V7Ra(T0)M7 にお

ける音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 79 5.9 台詞が「悲しみ」の感情を表す刺激V8Ra(T0)M8における音楽を付加

する各時点の平均評定値 . . . . 81 5.10 台詞が「恐れ」の感情を表す刺激V9RaT0M9における音楽を付加す

る各時点の平均評定値 . . . . 83 5.11 台詞が「怒り」の感情を表す刺激(V4RaM4,V4RaM4)に音楽を付加す

る各時点の平均評定値 . . . . 88 5.12 台詞が「怒り」の感情を表す刺激V5RaT0.5M5V5RaT1.0M5

における音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 90 5.13 台詞が「愛」の感情を表す刺激V6Ra(T0.5)M6,V6Ra(T1.0)M6 に

おける音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 91 5.14 台詞が「愛」の感情を表す刺激V7Ra(T0.5)M7,V7Ra(T1.0)M7 に

おける音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 92 5.15 台詞が「悲しみ」の感情を表す刺激V8RaT0.5M8V8RaT1.0M8

における音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 94 5.16 台詞が「恐れ」の感情を表す刺激V9Ra(T0.5)M9,V9Ra(T1.0)M9

における音楽を付加する各時点の平均評定値 . . . . 96 5.17 「怒り」の感情を表す台詞に対して実験4での受け手のリアクション表情

と実験5の受け手のリアクション表情 . . . . 103 5.18 「悲しみ」の感情を表す台詞に対して実験4での受け手のリアクション表

情と実験5の受け手のリアクション表情 . . . . 103 5.19 最後の台詞が表す感情が「怒り」に対し異なるリアクション表情のV4Rb

(T0M4V4RbT0.5M4における音楽を付加する各時点の平均評定値107

(9)

5.20 最後の台詞が表す感情が「悲しみ」に対し異なるリアクション表情のV8Rb

(T0M8M4V8RbT0.5M8M4 における音楽を付加する各時点の平 均評定値 . . . . 109 6.1 感情円環モデル上でみた台詞の表す感情と音楽を付加するまでの最適な

「間」の関係 . . . . 114

(10)

2.1 分析対象と番組時間内での音楽の全付加箇所数および音楽の占める割合 . 17

2.2 各番組ごとの音楽付加箇所に対する代表的な映像表現の占める割合 . . . 19

2.3 音楽と映像が映し出す要素の関係 . . . . 21

2.4 台詞終わりから音楽が付加されるまでの「間」の長さ . . . . 24

2.5 「間」の長さごとに分類した発話者の台詞 . . . . 25

3.1 映像刺激V1からV3の内容 . . . . 29

3.2 V1からV3における台詞の表す感情の分類 . . . . 30

3.3 V1M1からV3M3の発話速度と音楽のテンポ. . . . 36

3.4 映像刺激V4からV9の内容 . . . . 38

3.5 V3からV9における台詞の表す感情の分類と度合い . . . . 39

3.6 音楽刺激M4からM9の抜粋元 . . . . 41

3.7 V3M3からV9M9の発話速度と音楽のテンポ. . . . 48

4.1 映像刺激V1からV8の内容 . . . . 52

4.2 音楽刺激M1からM8の内容 . . . . 53

4.3 各視聴覚刺激の映像と音の組み合わせと先行実験と比較した音楽の調和度 57 4.4 「怒り」の感情を表す台詞終わりに音楽を付加する際の適合範囲と最適付 加時点 . . . . 61

4.5 「愛」の感情を表す台詞終わりに音楽を付加する際の適合範囲と最適付加 時点 . . . . 64

4.6 「悲しみ」の感情を表す台詞終わりに音楽を付加する際の適合範囲と最適 付加時点 . . . . 66

5.1 映像刺激V4からV9の内容 . . . . 69

5.2 V4RaからV9Raにおける台詞に応じた受け手の表情による感情の分類と 度合い . . . . 72

(11)

5.3 音楽刺激M4からM9の抜粋元 . . . . 74 5.4 「怒り」の台詞終わりに映像の切り替えの有無による音楽付加の適合範囲

と最適付加時点 . . . . 78 5.5 「愛」の台詞終わりに映像の切り替えの有無による音楽付加の適合範囲と

最適付加時点 . . . . 80 5.6 「悲しみ」の台詞終わりに映像の切り替えの有無による音楽付加の適合範

囲と最適付加時点 . . . . 82 5.7 「恐れ」の台詞終わりに映像の切り替えの有無による音楽付加の適合範囲

と最適付加時点 . . . . 84 5.8 映像刺激V4RaからV9Raの感情と度合い . . . . 85 5.9 台詞が「怒り」の感情を表す刺激のV4RaM4V5RaM5における映像の

切り替えのタイミングごとに音楽を付加する際の各時点の平均評定値の値 97 5.10 台詞が「愛」の感情を表す刺激のV6RaM6,V7RaM7における映像の切

り替えのタイミングごとに音楽を付加する際の各時点の平均評定値の値 . 99 5.11 台詞が「悲しみ」の感情を表す刺激のV8RaM8における映像の切り替え

のタイミングごとに音楽を付加する際の各時点の平均評定値の値 . . . . . 100 5.12 台詞が「恐れ」の感情を表す刺激V9RaM9における映像の切り替えのタ

イミングごとに音楽を付加する際の各時点の平均評定値の値 . . . . 101 5.13 V4RbとV8Rbのリアクション表情が表す感情と度合い . . . . 105 5.14 各刺激における音楽付加の適合範囲と最適付加時点 . . . . 110

(12)

1

1.1. はじめに

一般に,映画やテレビドラマでは,制作者が伝えようとする物語を「音」と「映像」で 解釈可能な情報表現に置き換え上映や放送している。すなわち,映像作品である映画もテ レビドラマもあらかじめ作品として完成された形態で上映や放送されている。それゆえ,

映像作品の特質として,観客は「演劇やコンサートなどのライブものとは異なり,カッ トが変われば強制的に別の画面を見るしかない。必然的に製作者の意図した画面を注視 することになる」[1]と指摘されている。映画に代表される映像作品は長いものでは3時 間を超える作品も多数ある。このような長時間にわたり観客を映像の世界に引き込ませ ることができるのは,登場人物の心の揺れ動きを役者の演技,美術,撮影や照明・録音 技術や映像編集など,作品に携わる全ての分野の人々が各領域で創意工夫した表現手法 を組み合わせて制作されているからである。そのひとつに「音楽」が映像作品を支える 役割として存在している。

「音楽」が映像作品を支える役割を担っていることは映画の歴史からもうかがうこと ができる。「映画の創生期には映画は言語メディアではないと『セリフ』を取り入れるこ と自体が否定され,映像と映像の間に字幕で示せばよいという考えが一般的だった。し かし,これだけ蔑まれながらも,1895年から1927年までの映画は確かに無音だが,劇 場では,映像に合わせてピアノが伴奏されたり,いろんな楽器で演奏がつけられて上映 されていた」[2]と記されており,映画の創生期から映像に合わせた「音楽」が映像作品 を支える役割を担っていることがうかがえる。また,「1927年に初めてのトーキー映画が 公開されたが,登場人物の話し声だけのトーキー映画の寿命は短く,すぐに再び映画に 音楽が用いられるようになった」[3]と示されており,当時は必要と思われていなかった セリフや音楽が映画という作品のなかに取り込まれていくさまからも「音楽」が担う役 割の重要さが映画の進化とともに製作者にも観客にも認識されてきたと考えられる。

(13)

長年にわたりラジオやテレビドラマの効果音を生音(Foley)で作り続けた大和は,「テ レビドラマの音響構成は,1.音声(セリフ,モノローグ,ナレーションなど),2.音楽

(作曲,または選曲),3.効果音(現実音,抽象音,誇張音,無音など)の3つの要素で 構成されている」[4]と述べている。実際の映像作品では,3つの要素で構成されている 音がただそれぞれに存在するだけでなく,ナレーションや台詞などの音声とともに,音 楽(Back Ground Music)や効果音(Sound Effect)などの音響(聴覚)情報を巧みに 映像(視覚)情報に織り交ぜ制作されている。しかも,映像作品の内容によって多種多 様な音(聴覚情報)と映像(視覚情報)との相互作用を意図して,制作者のさまざまな アイディアや表現手法が採り入れられて制作されている。ただし,制作者の経験に基づ く「感性」に委ねられたまま制作しているのが実情である。

しかし,近年では科学的な手法で音と映像の相互作用を図る手法に迫ることも可能と 考えられ,認知心理学の発展や,デジタル技術の発展により,多くの研究がなされるよ うになってきた。

本研究も,映像作品における音楽の役割に科学的な手法で迫ることを目指して行った ものである。本研究では,台詞終わりから音楽が付加されるあいだに存在する「間」に 焦点をあて,印象評定実験を用いて,台詞が表す感情と音楽付加時点の関係や音楽の最 適付加時点について探る。

本章では,映像作品の制作工程や音楽と映像に関する先行研究,「間」が及ぼす影響に 関する研究など過去の知見を概要し,最後に本研究の目的と位置づけを述べる。

1.2. 映像作品における「音」の制作工程と表現手法

映像作品の制作工程において,全国の劇場で上映する映画とテレビで放送されるドラ マの制作においては,映像作品としての制作工程や表現手法が共通している部分と,各々 に特化した制作環境や制作工程がある。本節では,それぞれについて述べる。なお本論 文で記す「映画」とは,全国の劇場で上映される一般的な興行映画を指す。

1.2.1 映画とテレビドラマに共通する「音」の制作工程と表現手法

映画やテレビドラマの制作では,収録時に全て完成させるわけではない。大きく分類し て,企画から始まり撮影まで(Pre Production)と,映像編集や音の仕上げを行う(Post

Production)の2つの工程に分類される。撮影段階では,登場人物の微細な心の揺れ動

(14)

きを台詞やアクションで表現し,録音部は演じる役者の台詞などを主として収録する。ま た,映像編集を経て,音の仕上げ(Post Production)の工程で,役者が発した台詞のほ かに音楽や効果音が付加され作品として完成する。

映画やテレビドラマなどの映像作品の音に携わる技師(ミキサー)は現場の録音から 作品の仕上げまでを担当する場合が多いが,「映画では,撮影現場に携わる者を『録音』と 称し,仕上げ部分のみを担当する者を『整音』または『調音』と称している」[1]と示さ れるようにハリウッドなどの方式にならって分業化する傾向にもある。例え分業化した としても,監督の意図する作品が出来やすい環境整備として,撮影スタッフも含め,監 督との息が合うようにスタッフは大概同じ製作会社や同じメンバーなどで固定され,よ り質の高い作品が制作されている。

本節では,音の仕上げの工程(Post Production)における,音楽を付加する工程に焦 点をあてて論じる。音楽を付加する工程の役割を高木らは,「音の仕上げの工程では,音 響効果の響き,音楽の響きなどを映像からの印象に対して最適化してゆく」[5]と示して いるように,作品が完成する最後の工程である。

音楽を付加する工程において,物語には場面ごとに設定された場所が存在し,物語の 内容には脚本でいう「ト書き」や登場人物が台詞で物語の状況を説明する場面と,登場 人物の心情に関する場面の要素が含まれている。

具体例として,まず,物語の設定した場所を示すために,広い画角で居酒屋の店内と いう状況が分かる情景を映す場面があるとする。このような場面において「音」も,空 間情報を表現するために店内音楽や,背景音(客同士の声や,空調音などの効果音)を 付加する。これらの音や映像の画角により設定した場所を示したうえで,物語の状況を 説明する場面では,店内音楽とは別の物語の状況を解釈しやすい音楽が付加されている。

その一方で,登場人物の心情に関する場面では,「音」の表現手法のひとつに,空間情 報を表現するための店内音楽や背景音の音量を低くしたり,または,観客に気づかれな いように場面の途中でごく自然に店内音楽などをなくして,発話者(登場人物)の台詞 後に,画面と直接関係しない音楽を付加している場面がある。

つまり,物語の設定場所の空間情報を表現するために付加する音楽や,物語の状況を 説明する場面に付加する音楽もあるが,観客に物語の展開の解釈を得やすい環境を構築 する目的で音楽を付加している箇所もある。このような表現手法は映像作品を制作する うえで映画もテレビドラマにおいても共通している表現手法である。

(15)

1.2.2 映画における「音」の制作環境と音楽の表現手法

映画は,制作意図通りに忠実に再現されるように,世界中どこの映画館でも同じ音量 で再生されるように規格化されている[1]。このため,仕上げを行うダビング室も同じ規 格に基づき設計されており,「ビデオのMA室は比較的小さい空間で視聴される作品のミ キシングには適しているが,映画のように広い音場空間で再生されるミックスには適さ ない」[1]と指摘されている。

全国の劇場で上映される一般的な映画では,仕上げ(Post Production)の段階におい て,映像の編集工程(オールラッシュ)を経て作曲・編曲などの音楽録音が行われ,整 音,効果音,音楽などを付加するダビング作業が行われる[1]。

高木らは,「映像に対する音楽について」と題して,「フイルムスコアリングとは,特定 の作品のために作曲家がストーリーと映像に完全に同期した音楽を作曲し,その映像に そって演奏,録音されるものを指す」[6]とフイルムスコアリングの説明をしている。映 画「ゴジラ」の作曲家で知られる伊福部昭は,フイルムスコアリングの立場で「録音ス タジオで映画を映しながら生演奏で音楽収録することに最後までこだわり続けた」[7]と して,音楽の録音風景をNHKの番組でも取り上げている。

Tomlinson Holmanも,「映画音楽は,映画のシーンと時間軸が一致するように作曲さ

れる」[8]と述べている。また,「ダビングミキサーにとって理想的な映画音楽は,作曲や 録音の段階でセリフにぶつからないように計算されていて,音楽のフェーダーを動かす必 要を感じないような音楽である」[1]と記されているように,仕上げ(Post Production) において,ファイナルミックスが行われる工程前に,その作品の映像の場面にそくした 音楽や音楽が始まる箇所(音楽の最適付加時点)が予め綿密に計算されている音楽が理 想的であると考えられている。

1.2.3 テレビドラマにおける「音」の制作環境

同じ映像作品でありながら映画とテレビ放送では,音量や音の帯域幅に大きな差があ るといわれており,テレビで放送される映像作品において,森は,「テレビ放送で使える 音の帯域は狭く,(中略)音量をリモコンで調整している」[9]と指摘している。テレビ で放送される映像作品は映画館と比較して狭い空間で小音量で聴取する環境においても,

小声の台詞でも,きちんと聴き取れるだけでなく,台詞と音楽や効果音とのバランスも 求められる。この点について,高木らは「映画とテレビの違い」と題して,「映画の最適

(16)

ミックスをテレビ放送の規制値に収まるように大音量部のレベルを圧縮すると台詞レベ ルは低いままなのでテレビでは聞こえにくい」[6]と指摘している。このように,テレビ で放送される映像作品はダイナミックレンジの狭いなかでも視聴者にバランスよく聞こ えるように,台詞と音楽や効果音の音響情報を巧みな技でミキシングしている。

連続テレビドラマにおいては,1980年頃までは,放送局の局員が中心となり制作(局 制と呼ばれる)されることが殆どであったが,現在の民間放送局(民放)各社では余程 の大型番組や特別な番組編成でないかぎり製作会社が制作し,放送局に作品を納品し放 送されるスタイルが一般化されている。この傾向は民間放送局(民放)だけでなくNHK

(日本放送協会)においても外部の製作会社に委託するテレビドラマが年々増加する傾向 にある。

製作会社が制作するスタイルのゴールデンタイムに放送されている連続テレビドラマ の制作においては,1クール(全9話から全13話)の終盤にさしかかる頃には放送日直 前まで撮影が行われることもあるほど制作期間も映画とは異なる。さらに,テレビで放 送される連続ドラマでは時代に即した物語の内容が求められており,TBSで放送された

「金八先生」シリーズ(中学生の結婚問題,ドラッグ問題など)に代表されるように,タ イムリーな内容の物語となっていることが多い。このため脚本自体も撮影直前まで書き 直されることもあるほどである。さらに,連続テレビドラマは毎週放送される環境下に ある。

1.2.4 テレビドラマの「音」の制作工程と音楽の表現手法

映画で称する仕上げ(Post Production)の工程はテレビ放送ではMA(Mulit Audio) と称する工程で行われる。「MAは日本独自の呼び方であり,音声の後処理を池上通信機 製のMA-VTRMulit Audio - VTR)を使用して作業していたためMAというのが,そ のまま音声処理の呼称となっている」[10]というように仕上げ工程は,『MA』という言葉 で呼ばれている。

しかし,このMAに費やされる時間は,先に示したように毎週作品を仕上げる環境で あるとともに作品によっては放送日直前まで撮影が行われることもあるため,映画の制 作と比較しても短時間で行わなければならない。このため,映画のように毎回映像が出 来上がってから作曲家が映像を映しながら作曲し音楽を録音するのではなく,音楽は企 画段階で作曲・編曲などを経て音楽録音が行われている。つまり,ゴールデンタイムに 放送されている殆どの連続テレビドラマにおいて,1クール(全9話から全13話)のな

(17)

かで毎回物語の内容や物語の長さは異なっているにも関わらず同じ音楽を編集して作品 が制作されている。

単発ドラマにおいては,先に示した映画のように,主題歌や挿入歌以外に用いる音楽 も映像編集終了後に,作曲家が物語の内容と映像に完全に同期した音楽を作曲し,映像を 映しながら物語にそってオーケストラが演奏し録音される作品もある。しかし,予算と 制作期間がかかるため,このような制作スタイルは近年の放送番組では特殊な例として あげられる傾向にある。このため,単発ドラマにおいても連続テレビドラマのように音 楽は企画段階で制作されることの方が多くなっている。高木らは,「映像に対する音楽に ついて」と題して,「フイルムスコアリングと溜め録りの境界は曖昧」としながらも,「テ レビの連続ドラマなどで制作されるスタイルとして,溜め録りと称し,演出者が作曲家 にストーリーに沿った汎用パーツの作曲を依頼し,選曲担当者がそれを選曲構成するス タイル」[6]と述べている。そして,このようなスタイルが現在のテレビドラマでは一般 化されてきている。

以上のように,連続テレビドラマでは基本的に毎週放送があるためフイルムスコアリ ングのような工程や,作曲家自身が毎回MAの工程に立ち会うことは難しく,基本的に 音楽を作曲した人間とは別の担当者が限られた時間のなかで,毎話異なる物語の場面の 長さに合わせて音楽の編集を毎箇所行っている。それゆえ,音楽を付加する箇所が異な ることで視聴者への解釈が制作意図と異なることもあるため,制作時間が限られている なかでも音楽の付加箇所や音楽の始まる付加時点は重要な要素として捉えられている。

1.2.5 台詞を印象づけたり台詞に対する受け手の感情に音楽を付加させる表現手

法について

以上のように,映画と連続テレビドラマでは,制作環境や制作工程が異なっているこ とで,音のダイナミックレンジの差や工程に費やせる時間(作業密度)や予算も異なる。

しかし,表現手法という点においては,映画でもテレビドラマにおいても同じであり,映 像作品を制作するうえで,音楽を付加する箇所や音楽の付加時点が重要な要素として捉 えられている。

台詞を印象づけて物語を展開していくためには,観客に解釈を得やすい環境を構築する ことが必要である。この目的で音楽を付加する場面では,台詞終わりに絶妙な「間」(タ イミング)で音楽が付加する表現手法を用いることで,観客を物語の世界により引き込 ませることもなし得る。ただし,例え作曲家であっても,先に示したように映像作品の

(18)

特性(「テレビ放送の規制値」[9]や「ダビングミキサーにとって理想的な映画音楽」[1] などそれぞれに特化した内容のことも理解しておかなければ,音楽を付加させる表現手 法における充分な効果を得る作曲は期待できないであろう。先に示した伊福部昭は,音 楽の始まる箇所の重要さも経験上知り尽くしていたからこそ,映画を映しながら生演奏 で音楽収録することに最後までこだわり続けたのではないかと思われる。

連続テレビドラマに代表されるように作曲家自身ではなく,選曲担当の技術者が行う 場合において,台詞終わりに絶妙な「間」(タイミング)で台詞を印象づける音楽を付加 する表現手法は,作曲家と同じくらいに熟練された「感性」が必要とされる。また,こ のような台詞を印象づけ音楽を付加させることに関しては,役割における責任の度合い は異なるにせよ,最終的に台詞と効果音や音楽のバランスを調整するMAミキサー(映 画ではダビングミキサー)においても選曲担当者と同等に熟練された「感性」が必要で ある。しかし,作品によって音楽の最適な付加箇所は異なり,同じ作品内でも場面によっ て音楽の最適付加時点が異なる。このため,マニュアルや指導書などはない。現状では,

熟練された「感性」を磨きあげるためには,沢山の作品に携わり観客の反応や周りのス タッフの意見を取り入れ,また試行錯誤を繰り返すという「感性」の裏付けとなる長年 の試行錯誤の経験を積む必要がある。

1.3. 音楽と映像の相互作用に関する代表的な先行研究

映像に付加する音楽において,音楽が映像の印象に及ぼす心理的・生理的影響を科学的 手法でとらえ最初に取り組んだのはTannenbaumである。Tannenbaumは,35分のテレ ビドラマに音楽を付加しない場合と音楽を付加した場合との印象の相違をSD (semantic

differential)法によって検証している。実験の結果,音楽はドラマの力動性と活動性を強

化する効果があったと示されている[11]。

「音」を中心に新たな概念を持って論じているChionは,映画の中で音と映像が組 み合わされて生じる様々な状況を「3等分の円」 モデルとして,1.「onscreenの音」2.

「offscreenの音」3.nondiegeticの音」[12]を提案している。1.onscreenの音」とは,

その画面でその音源が見える「音」,2.offscreenの音」とは,画面の中でその音源は見 えないが,描かれている場面と隣接する空間に,同じ時間に発生していると想像される

「音」,3.「nondiegeticの音」とは,画面で示される場面とは関係しない,別の時間と場所 にある音源が発生する「音」と分類している。そして,いわゆる映画音楽は「nondiegetic の音」としている。元来「diegetic」とは,物語のモード(telling,showing)のひとつを

(19)

指す,いわゆる,語ることとして用いられる場合と,映像作品の物語が描く物語世界と して用いられる場合があるが,一般に映画研究や評論などでは後者を指す。

映像に組み合わす音楽自体も,Chionは音と映像の感情の相互作用の観点から「1.感情 移入音楽(musique empathique)とは,音楽が登場人物の感情または場面の状況に直接 に関与し,劇的ムードを醸成して意味を強化する音楽とし,2.非感情移入音楽(musique

anempathique)は,音楽が登場人物または場面の強烈な感情や状況(死や狂気など)に

は関係せず,異なる意味が加わることで劇的ムードを強化すると音楽し,3.教訓的対位 法(contrepoint didactique)は,音楽が補足的な概念や観念を表象するのに用いられた 場合を指す。一般に,非感情移入方音楽と教訓的対位法は同一視されるが,非感情移入 方音楽が読み取りを仲介しない直接的な方法で感情を強化するのに対して,教訓的対位 法は音楽が感情を強化するためだけでなく,ある観念の理解を目的に使用される」[13] して音楽を3つに分類している。

岩宮は,音と映像の関係を科学的な立場から研究することの重要性を述べている[14]。 岩宮らの研究によって,Chionが分類した感情移入音楽(musique empathique)の効果 として,音楽によってもたらされる印象が映像作品の印象に作用する実験結果を示し,「音 楽と映像が物語を形成する過程として,聞こえてくる音楽の印象と見えている映像の内 容が心の中で共鳴して物語ができあがる」[15] と,音楽と映像が物語を形成する過程も 科学的に明らかにしている。

映像に音楽を組み合わせる方策にはいくつか定石的な表現手法があり,その代表的な例 として,「Micky-Mousing」[16]という映像の動きに合わせてメロディ・ラインやリズム・

パターンをつける手法がある。これは『Fantasia』に代表されるようにウオルト・ディズ ニーがアニメーションで多用してきた。また,音楽と映像の印象を一致させる手法もあ る。例えば,結婚式の場面にロマンチックな音楽を用いたりして音楽の持つムードや情 感を映像と一致させる手法である。そして,音楽を聴いた時にある概念を連想させるシ ンボリックな音楽を用いる手法もある。代表的な例としては,イージーリスニング界の 第一人者として有名なPaul Mauriat作曲の『オリーブの首飾り』からは,日本では手品 やマジックの場面の印象を誰もが抱くであろう。

このような,映像作品で一般的に用いられる映像に音楽を組み合わせる手法の効果も 科学的に明らかにされている。Iwamiyaは,「大きな感動をもたらす映像作品を制作す るためには,音と映像の調和を図ることが重要である」[17] と示唆している。岩宮は,

「音と映像の調和を図るには構造的調和と意味的調和がある」[18]と述べ,先に述べた

(20)

「Micky-Mousing」のように「音と映像の同期を合わせることにより形成される調和感を 構造的調和と指し,意味的調和は,映像の印象と音楽の印象を一致させることにより形 成される調和感を指す」[18] と説明している 。これらの構造的調和あるいは意味的調和 に基づく音と映像の相互作用に関する研究も数多くなされている。

また,制作者の鍛錬され磨きあげた「感性」は音楽の付加時点に関してだけでなく楽 曲中における,音楽と映像との調和感においても鍛錬され磨きあげており,この制作者 が使用する音楽と映像の調和感についても科学的に明らかにされている。Lipscomb and Kendallは,映画『Star TreK V:The Voyage Home,1986』の映像と音楽をオリジナル のものも含めてランダムに組み合わせた実験刺激を用いて,音楽と映像の調和感の印象評 定実験を行った。その結果,「制作者が意図した映像と音楽の組み合わせが最も調和する」

[19]ことが示唆している 。Iwamiyaも,市販の映像作品より,まとまりの良い部分の映 像と音楽を用い,元の組み合わせであるオリジナル条件と別の映像と音楽を任意に組み合 わせた条件を設け,音楽と映像の調和に関する心理実験を行った。その結果,Lipscomb

and Kendallの研究と同様に,「制作者が意図した音楽との組み合わせであるオリジナル

条件が最も調和する」[20] ことを示唆している。

以上のような先行研究に代表されるように,制作者が長年かけて培ってきた経験に基 づく「感性」や表現手法は科学的にも明らかにされてきており,近年では,音楽・映像制 作の現状と今後のあるべき姿[21]や,ゲーム音楽とゲーム映像の調和感[22],笑いを誘 発する効果音や音楽[23],黒澤明の映像作品における音楽と映像を対比させた手法の効 果[24]や,その進化系[25]など,音と映像の相互作用に関するさまざまな「音のデザイ ン」の研究分野が確立されてきた。ただし,発話者の台詞を強調するためや,発話者の 台詞に対して受け手の心情に対して物語を展開していくために必要な音楽の始まりとも いえる,台詞が表す感情と音楽の最適付加時点との関係に関する研究は行われていない。

1.4. 「間」が及ぼす影響

本研究では,台詞終わりから音楽が付加されるあいだに存在する「間」に焦点をあて,

台詞が表す感情と音楽の最適付加時点の関係について研究を行う。そこで,「間」に関して は多くの論考や研究が行われており,日本人の生活の中で文化として根付いている「間」

について先行研究を概観する。

(21)

1.4.1 「間」に関する論考

数多くのテレビドラマに出演する俳優の香川照之は,日本を代表する喜劇役者の藤山 直美との対談のなかで,「日本人が一番心地よいと感じる『間』というものがあり,映像 作品の台詞には台詞の『間』があり,喜劇においても笑いの『間」がある。そして,確 かな役者が持っている『間』はどこか日本の伝統芸能である」[26]とそれぞれの分野が 持つ特有の心地よい「間」について語っている。

テレビドラマの演出家でもある鴨下は,「日本語を声に出して読むときの,いちばん基 本的な注意,いちばん最初にしなければならないことは,読もうとする文章をきちんと 区切ること」[27]と記しており,このことを高松らは,「『間』は読み手から聞き手への情 報の伝達を支援するもの」[28]と述べている。

歌舞伎においても,河竹は,「『柝(き)』を打つ『間』がほんの一瞬くるったら,幕が 満足にしまりません」[29]と記している。また,狂言の「柝(き)」の仕事について三上 は,「失敗したら一つの舞台をつぶすことになりますからね。でも『間』がきっちり合っ て,皆さんのコンビネーションが上手くいった時はいいよね。」[30]と「間」が及ぼす影 響について感想を述べている。

話芸においても,永井は,「寄席の芸– 間へのアプローチ」と題して,「落語では『間』

のとり方で笑いがとれるかどうかが決まる」[31]と論じている。永井と同様に,落合は,

「映像芸術の間 – 主として映画からの試論」と題して,「映像芸術の『間』は余情とか余 韻である」[32]と論じている 。

オーケストラの演奏においても,丸山は,「間」を刺激なき知覚として捉え,オーケスト ラ演奏という高度なコミュニケーション活動における身体間協調において「間」と「間」

を生み出す運動協調に関して「『間』は,これから展開される音響に関する情報が内包さ れているのであり,私たちはそれを知覚情報として抽出しているのかもしれない」[33]と 述べている。

一般に「間」は無言の時間のことを指すが,上記のようにさまざまな分野において「間」

について論じられている。

1.4.2 「間」に関する先行研究

中村は,1980年代後半位までは「間」が大切だと力説されるが,理屈では扱いようが ないとないといわれてきたことから,心理学の立場から「間」の感性情報の研究を行った

(22)

[34]。実際の音声や音楽演奏音などの分析や間の時間を操作した刺激を用いた評価実験に よって,最適な「間」に関して多面的な検討を行った。その結果,会話と会話のあいだ にも丁度よい「間」の長さがあることを明らかにし,スピーチにおいて丁度よいと感じ られる「間」の長さを調べる実験により,丁度よい「間」の長さは0.35秒前後,0.7秒前 後,1.4秒前後という3つの群に分かれるという倍数関係の法則性を示している[35, 36]。 さらに,中村らは,「間」の時間を操作した刺激を用いた評価実験によって,朗読におけ る最適な「間」に関して多面的な検討を行い,最適な間に影響する要因を明らかにした。

その結果,発話に要する時間が長いほど長い「間」が必要とされる,重要な区切りでは

「間」は長くなる,テンポが速くなると若干「間」が短くなる等の傾向を得ている。また,

感情を込めた朗読においては,感情を込めない朗読よりも「間」が長くなることも明ら かにしている[37]。これらの研究から,中村は,「『間』は論理的には『無』であるにもか かわらず,きわめて豊かな感性情報を有する」[34]と「間」の重要性を指摘している。

映像作品においても,金らは「笑いを演出する映像におけるシンボリックな音楽の最 適な挿入タイミングは0.5秒から1.0秒の間に存在し,このタイミング(間)での音楽挿 入で映像は面白くなり,全体的な評価(良し悪し)も良くなる」[38]と指摘している。

近年めざましく進化している人口頭脳などのロボット分野においても,人間同士の対 話に遜色のない形で対話できるロボットを目指している志和らは,対話式コミュニケー ションロボットの反応時間と印象の関係を測定した結果は「0.0秒で反応するより,1.0 秒遅らせた方がユーザに好まれ,2.0秒以上かかると印象が悪化する」[39]と対話におけ る最適な「間」の存在を示唆している。

「間」は幼児における語意獲得でも活用されており,安田らは,「『間』に関する感性,

特に時間的感覚の中でも秒単位の『間』の感性は,幼児からある」[40]と指摘している。

一方で,新山王らは,少林寺拳法の演武における「間」の取り方について実験を行い

「全ての演武における『間』として捉える静止状態の時間の平均は3.2秒であった」と分 析結果を示すとともに,「経験年数が増すにつれ『間』の取り方が一定になり,演技者自 身が無意識に行っているにもかかわらず,所要時間のバラツキが減少する」[41]と示唆し ている。

以上の論考や研究からも,映像作品を制作するうえで,役者が発した台詞をより効果 的に観客に印象を与えて物語を進行させていくためには,音楽を付加させる時点におい て台詞終わりから音楽が付加されるまでの「間」の長さが重要な役割を持っていると予 想される。

(23)

1.5. 本論文の目的と位置付け

本研究の目的は,台詞終わりから音楽が付加されるあいだに存在する「間」に焦点を あて,台詞が表す感情と音楽付加時点の関係や音楽の最適付加時点について明らかにす ることである。

本章で紹介したように,映像作品における音楽の役割に対する研究や「間」の研究は多 く研究が行われている。しかし,映像作品における台詞の終わりの時点から音楽の付加 時点に存在する「間」に焦点をあてた音楽を付加する手法に関する音と映像の研究はな されていない。 実際の制作現場においては,台詞終わりから音楽を付加するまでの「間」

のつけ方については,先に述べたように長年の経験によって身につけた熟練者だけが持 ち得る「感性」に依存している。そして,その経験に基づく「感性」が技術者としての 価値づけ(評価)のひとつの要因となっている。このように,職人的な伝承の場である がゆえに指針となる教科書的なものなどもない。

しかし,本研究により,映像作品の制作時において,長年の経験がなくとも視聴者に 台詞を印象づける音楽を付加する手法を提示できる。

本論文では,科学的手法に基づいて,映像作品における発話者の台詞終わりに音楽を 付加する際の最適付加時点を検討する。映像作品における台詞終わりの場面においては,

発話者の映像がそのまま継続する場合と,台詞終わりから受け手に映像が切り替わる場 合の2つの映像表現がある。これらの映像表現に関しても,発話者の映像が継続する場合 と,映像が受け手に切り替わる場合のそれぞれにおいて音楽の最適付加時点を考察する。

1.6. 本論文の構成

本論文は全6章で構成する。第1章(本章)では,連続テレビドラマの制作工程や音楽 と映像に関する先行研究,「間」が及ぼす影響に関する研究など過去の知見を概要し,最 後に本研究の目的と位置づけ,本論文の構成について述べた。

第2章では,近年の連続テレビドラマにおける音楽と映像の関係を分析するために,

2012年夏期放送の一週間に放送された連続テレビドラマを用いて,番組中に音楽の占め る割合や音楽と映像の関係と台詞終わりから音楽が付加されるまでの「間」についての 考察を行った。

第3章では,発話者の台詞後に発話者の映像が継続する場面で,音楽を付加する際の 最適付加時点に関する印象評定実験を実施し,台詞が表す感情と音楽の最適付加時点に

(24)

ついて考察を行った。

第4章では,第3章で明らかにした台詞終わりから音楽を付加する際の最適付加時点 と台詞から音楽が付加されるまでの「間」について,より明確にするために,第2章で 使用した映像刺激を用いて,映像の印象と調和度の異なる音楽を組み合わせた条件での 台詞終わりから音楽を付加する際の印象評定実験について述べ,音楽と映像の調和度が 音楽の最適付加時点と台詞から音楽が付加されるまでの「間」に及ぼす影響について考 察した。

第5章では,発話者の台詞後に発話者の映像が継続するのではなく,映像が受け手の 表情に切り替わった場面における音楽を付加する際の最適付加時点に関しての印象評定 実験について述べ考察を行なった。さらに,映像の切り替わるタイミングの影響も検討 した。

第6章では,結論として本研究を総括し,本研究のなしえた意義を述べた。

(25)

2

2012 年夏期放送のテレビドラマにおける音 楽と映像の関係の分析

2.1. はじめに

映像作品のなかで音楽は欠かせない存在であることは1章でも述べたが,実際の映像 作品のなかではどのように利用されているのであろうか。番組時間内で音楽の占める割 合は映像作品の中で音楽の役割を考える上で重要な要素となる。

テレビドラマにおける音楽の占める割合を分析した先行研究は皆無に近いが,稲増ら が,1983年と1991年から2002年に放送され,高視聴率を得た連続ドラマや話題になっ た連続ドラマ10本(各1クルー分)において,番組時間内における音楽の占める割合(以 下,音楽使用率とする)を分析している。その結果,1980年代では平均36%であった番 組時間中の音楽使用率が,1990年代では50%以上に増えていることを示している[42]。 また,1.4節で示したように,映像作品においても発話者(登場人物)の発する台詞の 効果を最大限引き出し物語を展開していくためには,台詞終わりから音楽が付加される までの「間」が重要な役割を持っていると考えられる。しかし,映画やテレビドラマな どのように筋書きのある映像作品の台詞終わりに音楽を付加する際の最適付加時点に関 する研究は行われていない。

本章では,2012年夏期に放送された連続テレビドラマを用いて,番組全体の時間内で 使用された音楽の占める割合を求めた。また,音楽が付加された箇所の映像との関わり を分析し,台詞終わりから音楽の付加時点までの「間」の長さを求め分類をした。

2.2. 分析対象および番組の全体時間

本章では,2012年7月21日(土)から7月27日(金)迄の一週間に放送されたテレ ビドラマを対象に,プライムタイム(日本では毎日19時から23時の看板番組が並ぶ時間

(26)

帯)の中でも比較的にヒット作を世に送り出している時間帯である,21時および22時か ら放送された1時間の連続ドラマを録画し分析対象とした。録画した12番組のデータを 番組ごとにパーソナルコンピュータ(Apple Mac Pro)の編集ソフト(Apple Final Cut

Studio 2)に取り込み時間の測定をおこなった。調査時においては,映像は24 inchの

ディスプレイ(EIZO FiexScan HD2452W)を2台用いて画面上に音声波形と映像を個 別に呈示し,音はオーディオインターフェイス(RME Baby face)を接続し,ヘッドホ

ン(SONY MDR-CD900ST)に出力し,音量は台詞が最適に聴こえるように調整した。

近年のテレビドラマは番組構成上,本編の流れのままタイトル・前提供(番組開始時 のスポンサー提供コメント)や,エンディングの流れのまま予告・後提供(番組終了時 のスポンサー提供コメント)に突入している番組が増えてきており,音楽も本編からそ のまま継続されていることが多い。このため,本編とその他の区分けがなくなってきて いる。また,冒頭に前回までのストーリー紹介がある番組もあるが,一般的にオリジナ ルサウンドトラックの音楽が付加されている。同時に,物語が一体となるように,音楽 の終わりの箇所は今回のストーリーに継続(放送業界では,このような手法を「ずり下 げ」と呼ぶ)して付加されていることが多い。このため,番組全体に対する音楽の占め る割合を調査する上では前回までのストーリー紹介場面も本編に含めることとした。

これらのことを考慮し,本章では番組全体の時間を冒頭から後提供までとし,コマー シャルを除いた時間を番組の全体時間とした。その結果,番組の全体時間は12番組中10 番組が46分30秒であった。残り2番組は,46分00秒の番組時間であった。

2.3. 番組内で用いられる音楽の割合

2.3.1 対象とする音楽

第1章(1.3)で述べたように,映像作品における音楽の位置づけは映画音楽家や音楽 科学者によって多くの研究が行われている。

映画とテレビドラマに共通する「音」の制作工程と表現手法において,「音」の表現手法 における具体例でも示したように,Chionは,「三等分の円」モデルのなかで「non-diegetic の音」は,画面で示される場面と関係しない,別の時間と場所にある音源が発する音を 意味し,通常,音楽はこのカテゴリに分類されると示唆している[12]。「non-diegeticの 音」の多くは,物語の状況説明の場面や登場人物(被写体)の心情に関わる表現として

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用いられる。そこで,本研究で対象とする音楽を,「non-diegeticの音」の音楽を調査対 象とした。

Chionが指す「onscreenの音(画面でその音源が見える音)」である,作品のなかで

使用したラジカセから流れる音楽や役者が演技として歌った歌や,「offscreenの音(画面 の中でその音源は見えないが,描かれている場面と隣接する空間に,同じ時間に発生し ていると想像される音)」にあたる店内音楽などは,場面設定上の空間情報の音と解釈 でき,本論文では分析対象に含まないものとした。なお,近年のテレビドラマでは,ME

(Music Effect)という効果音と音楽の中間的な音が存在するが,主として誇張などのタッ

チ(効果)的な要素として用いられることが多く,本研究では,効果音の延長上の音と 捉え10秒以下のMEも分析対象に含まないものとした。

2.3.2 番組時間に対する音楽が占める割合の測定方法

本章では,音楽の付加時点および終了時点を,編集ソフト(Apple Final Cut Studio 2)の編集画面上で,音の波形を最大に拡大し,聞いて確認しながら測定した。

付加されている音楽の時間は,番組全体(約46分)に対する音楽の占める割合を示す うえで秒単位で測定した。また,曲中の途中で休符と考えられる箇所も音楽の時間とし てあつかった。

テレビドラマでは,映像の場面に相応しい音を表現するために,背景音(空間情報と しての効果音)がMAの工程で付加されて放送されている。番組時間に対する音楽が占 める割合を測定するにあたり,音楽の付加時点は,音楽が聞こえる時点で波形でも確認 できる時点と定めた。音楽の終わり時点は,音楽の波形が背景音に埋もれた時点であり 音が聞こえなくなる時点を音楽終了時点と定めた。このように定めた音楽の終わりの時 点は,録音時の分解能である16ビットで量子化した信号のフルスケール(最大振幅)0 dBとしたとき,信号が-27 dB程度から -38 dB程度の範囲まで低下した時点に相当す る。低下する時点の信号に約11dBの範囲があるのは,物語の場面ごとに付加される背景 音の音量が異なり,音楽が背景音に埋もれた時点の音量も場面ごとに異なるためである。

2.3.3 結果と考察

集計したテレビドラマの放送日時,放送局,番組名,話数,音楽の付加箇所,各番組 の全体時間に対する音楽の占める割合を表2.1に示す。

(28)

表 2.1 分析対象と番組時間内での音楽の全付加箇所数および音楽の占める割合 放送日時 放 送 局 番 組 名 話数 音楽の全付加箇所数 音楽使用率(% 21日21時〜 日本テレビ ゴーストママ捜査官 3話 26 90.0 2221時〜 フジテレビ ビューティフルレイン 4 21 61.0 2221時〜 TBS サマーレスキュー 3 17 60.1 23日21時〜 フジテレビ リッチマン,プアウーマン 3話 23 61.1 24日21時〜 フジテレビ 息もできない夏 3話 24 61.4 24日22時〜 フジテレビ GTO 4話 22 57.2 2521時〜 テレビ朝日 警視庁一課9係 4 27 58.4 2522時〜 日本テレビ トッカン特別国税徴収官 4 19 54.3 26日21時〜 テレビ朝日 遺留捜査 2話 26 62.4 26日22時〜 フジテレビ 東野圭吾ミステリーシリーズ 4話 25 77.2 26日21時〜 TBS ビギナーズ! 3話 34 52.1 2722時〜 TBS 黒の女教師 2 40 64.3          12番組の平均 25.3 63.3

表2.1によると,音楽の付加箇所は全番組で304箇所であった。全12番組で平均する と,音楽の付加箇所は25.3箇所となり,1曲の音楽の長さは130秒前後から230 前後の間に収まっている場合が大多数であった。ただし,「サマーレスキュー」の音楽の 付加箇所は17箇所と全番組で最も少なく,終盤の場面では,1曲に対する音楽の時間が 3分46秒や3分33秒と比較的長い音楽が用いられていた。その一方で,「ビギナーズ!」

や「黒の女教師」では,音楽の長さが全編1分前後の短い音楽を多用しているなどの番 組が存在した。

番組時間中の音楽使用率は,全12番組の平均では,63.3%であった。また,12番組の うち83%にあたる10番組が,50%から60%台であった。1991年から2002年に放送され,

稲増らが調査対象とした連続ドラマ10本(各1クルー分)の音楽使用率を示した分析で も50%から60%台である[42]。これらの傾向より,一般的なテレビドラマでは各番組の 全体時間に対し,音楽使用率は50%から60%台であると考えられる。その一方で,「ゴー ストママ捜査官」のように,音楽が90%を超えて付加され,物語の構成上重要だと考え られる役者が発する台詞の箇所だけに,音楽が付加されていない番組も存在した。

(29)

分析した2012年の夏期放送の連続ドラマでは,音楽が付加された後の,楽曲の盛り上 がりと物語の盛り上がる箇所が絶妙に一致していたり,役者(発話者)の動きと調和さ せたり,台詞をしっかり聴かせるために台詞の「間」に合わせて休符を入れたりなど,多 彩な音楽の用いられ方がみられていた。稲増らが「調査対象とした連続ドラマ」[42]で はこのような高い音楽使用率の番組はなく,新たな傾向である。

2.4. 映像表現における音楽の付加箇所の割合

2.3.3の表2.1で示したように全体時間約46分のうち,全ての連続ドラマにおいて52% 上の時間に音楽が付加されている。また,全12番組の平均では,ひとつの番組に対して 25.3箇所の付加時点が存在する。これだけ多くの箇所に付加時点があるのであれば,無 造作に音楽を付加してしまえば,視聴しているあいだに違和感が生じる可能性もある。し かし,そのようなことが問題視されたことはない。音楽を付加する時点には何かしら統 一性があり,音楽と映像との間に関係があるのではないかと考えられる。

各番組中に使用されていた音楽の付加箇所を,代表的な映像表現(A.人間の顔(役者),

B.映像が切り替わった時点,C.カメラワーク中)に分類し,各映像表現に分類された音 楽の付加箇所数を集計した。代表的な3つの映像表現の集計結果を表2.2に示す。なお,

表2.2の映像表現の分類項目には,ABACBCABCというように 映像表現が重複した箇所に音楽が付加されていた場面も含まれる。

各分類のカッコ内は,表2.1で示した各番組ごとに全音楽付加箇所に対する代表的な 映像表現の占める割合を示す。なお,合計のカッコ内は,全番組における総合計の音楽 付加箇所(304箇所)に対する音楽の占める割合を示す。ただし,先に示したように映像 表現が重複した箇所に音楽が付加されていた場面も含まれる。

表2.2によると,音楽の付加箇所で映像が映しているもののなかで最も多かったもの は,Aの人間の顔(役者)であった。これは,全ての番組の合計の全304箇所の音楽の付 加時点に対し,212箇所の映像は人間の顔を映しており,音楽の全付加箇所中約70%に 相当する。

番組ごとに割合をみていくと,「息も出来ない夏」では約83%と最も高く,次いで「GTO では約82%と高い。その一方で,「警視庁一課9係」では約52%と最も低く,次いで「遺 留捜査」などが約58%であった。これらの割合が低い番組は,ジャンル分けをすると刑 事ドラマにあたる。大多数の刑事ドラマやミステリードラマなどでは,犯行動機の説明 や捜査時の証拠品の説明などの場面において,写真や手紙,凶器など,いわゆる『物』の

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表2.2 各番組ごとの音楽付加箇所に対する代表的な映像表現の占める割合 番 組 名 A.人間の顔 (%) B.映像が切り替わった時点(%) C.カメラワーク中 (%) ゴーストママ捜査官 15(58) 13(50) 1(4) ビューティフルレイン 15(71) 11(52) 7(33) サマーレスキュー 10(59) 9(53) 7(41) リッチマン,プアウーマン 2087 730 417 息もできない夏 2083 625 1354

GTO 18(82) 11(50) 7(32)

警視庁一課9係 14(52) 12(44) 1(4) トッカン特別国税徴収官 13(68) 6(32) 3(16) 遺留捜査 1558 935 831 東野圭吾ミステリーシリーズ 1560 1352 416 ビギナーズ! 23(68) 15(44) 3(9) 黒の女教師 34(85) 24(60) 4(10) 合計   212(70)  136(45) 62(20)

映像から音楽が始まることで『物』を強調させ,視聴者に物語の展開における解釈を得 やすくするように番組が構成されている。このため,ホームドラマや恋愛ドラマと比較 すると,人間の顔(役者)に音楽を付加する箇所が少なくなっていると考えられる。

次に,映像の最小単位である「カット」のなかでの始まりの時間,つまり,映像の切 り替わり時点に音楽が付加された箇所の数と全音楽中の割合をBの分類に示す。

表 2.2によると,Bに分類された音楽の付加箇所は全付加箇所中約45%に相当する。

つまり,前のカットら次のカットに切り替わった箇所にもかなりの割合で音楽の付加時 点がある。

番組ごとに割合をみていくと,映像の切り替わり時点に最も音楽の付加箇所が高い番 組は「黒の女教師 」で約60%である。その一方で,「息も出来ない夏」では約25%であっ た。その他の番組では,30%台の「リッチマン,プアウーマン」,「トッカン特別国税徴収 官」,「遺留捜査」,40%台の「警視庁一課9係」,「ビギナーズ!」,50%台の「ゴースト ママ捜査官」,「ビューティフルレイン」,「サマーレスキュー」,「GTO」,「東野圭吾ミス テリーシリーズ」の大きく3つに分けられる。ただし,発話者に対して受け手に映像が

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