再生利用と廃棄物処理法上の犯罪
著者名(日) 伊藤 渉
雑誌名 東洋法学
巻 54
号 3
ページ 77‑100
発行年 2011‑03‑29
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00000802/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
1
.問題領域 廃棄物の処理をめぐる問題は、数ある環境問題の中でも、現在の我国において喫緊の課題であるといってよい。すなわち、廃棄物が増加する一方、これを処理・処分する施設の確保が困難を極めている。結果として、産業廃棄
物を中心として、正当な処理・処分を経ることなく不法投棄され、あるいは正規の処理・処分業者以外の者による
不適正な処理・処分がなされるといった行為が多発することとなっている。
その一方で、現在の我国においては、再利用できるものは可能な限り利用すべきであるということが、社会的に
重要な課題となっている。まさに、「捨てればごみ、使えば資源」という時代なのである。すなわち、廃棄物の処
理・処分に関する問題を取り上げるに当たっては、その再生利用により、廃棄物の分量自体を減らすとともに、再
生資源の有効活用を図るという方向での発想が不可欠であるといってよい。 《論 説》
再生利用と廃棄物処理法上の犯罪
伊 藤 渉
このような社会状況の下で、近年、廃棄物処理法(正式の法令名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」)上の
犯罪、とりわけ不法投棄ないし無許可での処理・処分として立件される事案において、弁護人・被告人側から、当
該目的物が再生利用の対象であるとして、これらの犯罪は成立しないとの主張がなされることも少なくない。その
場合、刑事司法はどのように対処すべきであろうか。
本稿では、以上のような問題意識に基づいて、廃棄物処理法上の不法投棄及び無許可での処理・処分ないしその
委託等の罪の成立要件につき、再生利用という観点との関係で、考察を試みるものである。
2
.廃棄物処理法における刑罰規定の構造 廃棄物処理法は、二条において規律の対象となる廃棄物の意義を「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃 油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要 (物」であるところの固形状又は液状のものとした上で、 1)
これを産業廃棄物と一般廃棄物に大別している。産業廃棄物は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃え殻、
汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物及び、輸入された廃棄物をいうもの
とされ、それ以外の廃棄物は一般廃棄物として扱われる。
このうち、産業廃棄物については、事業者において自ら運搬・処分を行うか、運搬又は処分を他人に委託する場
合においては、運搬については産業廃棄物収集運搬業者等に、処分については産業廃棄物処分業者等にそれぞれ委
託すべきものとされており、いずれの場合においても産業廃棄物処理基準に従った処理がなされなければならない
(一二条一項・三項、一四条一二項)。産業廃棄物収集運搬業者及び産業廃棄物処分業者は、いずれも当該事業区域を
管轄する都道府県知事の許可を受けたものでなければならない(一四条一項本文・六項本文)。しかし、専ら再生利
用の目的となる産業廃棄物のみを収集・運搬し、あるいは処分を行う者についてはこの限りでない(一四条一項但
書・六項但書)。ここでいう「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」とは、旧厚生 (
省によれば、「古紙、くず鉄(古 2)
銅等を含む)、あきびん類、古繊 (
維」をいうものとされ、行政実務上は現在に至るまでこれら四種のみが対象とな 3)
るものと解されている。なお、産業廃棄物の再生利用を行い、又は行おうとする者は、環境省令で定める基準に適
合しているとの認定を受けることにより、当該許可を受けることなく認定の対象となった産業廃棄物の収集・運
搬・処分を行うことができるものとされている(一五条の四の二、九条の八を準用)。
一般廃棄物については、市町村が一般廃棄物処理計画を定めた上で、これを自ら収集・運搬・処分するか、政令
で定める基準に従いそれ以外の者にこれを委託する(六条の二第一項・二項)。この場合も事業者においては、一般
廃棄物収集運搬業者ないし一般廃棄物処分業者等にそれぞれ委託すべきものとされており、かつ、これらの業者は
当該事業区域を管轄する市町村長の許可を受けたものでなければならない(六条の二第六項、七条一項本文・六項本
文)。この場合も、再生利用及びその目的での収集・運搬・処分については、産業廃棄物の場合と同様の特例が認
められている(七条一項但書・六項但書、九条の八)。
いずれの廃棄物についても、何人も、みだりにこれを捨ててはならないものとされ(一六条)、これに違反して
廃棄物を捨てた者は二五条一項一四号により処罰される(不法投棄)。次に、上述の許可を受けずに廃棄物の収集・
運搬・処分を行った者は、二五条一項一号により処罰される(無許可での処理)。さらに、事業者が、上述の許可を
受けていない者に廃棄物の処理を委託した場合には、二五条一項六号による処罰の対象となる(無許可業者への委
託)。これらの罪に対しては、自然人たる行為者は、いずれも五年以下の懲役若しくは一〇〇〇万円以下の罰金に
処し、又はこれを併科することとされ、法人事業主(三二条)については不法投棄・無許可処理の場合は一億円以
下の罰金、無許可業者への委託の場合は一〇〇〇万円以下の罰金が科せられることとなっている。
(
1) 具体的には、同法施行令二条により規定され、紙くず、木くず、繊維くず、動物又は植物に係る固形状の不要物、ゴムくず、
金属くず、ガラスくずおよび陶磁器くず、鉱さい、建設資材、動物のふん尿、動物の死体、ばいじん、同法二条ないし以上に列挙
された物を処分するために処理した物が対象となっている。
(
2) 平成一三年の省庁再編以前においては、廃棄物に係る行政事務は、旧厚生省において所管していた。
(
3) 昭和四六年一〇月一六日環整四三号厚生省環境衛生局通知。
3
.再生利用と廃棄物概念 上述したように、廃棄物処理法上の不法投棄・無許可での処理・無許可業者への委託は、いずれも廃棄物を行為客体とする犯罪類型であるところ、再生利用を目的とする場合においては、上述の特例に該当する場合でなくと
も、そもそも「不要物」とはいえないことから、これらの罪として処罰すべきでない場合があるのではないか、と
いうことが問題となる。以下では、このような再生利用目的との関係で、「廃棄物」の意義を考察することとする。
①旧厚生省の見解
この点に関して、旧厚生省の見解は当初、「汚物又はその排出実態からみて客観的に不要物として把握できる
も (
の」、あるいは「客観的に汚物又は不要物として観念できる物であって、占有者の意思の有無によって廃棄物又 4)
は有用物となるものではな (
い」としていた。しかしその後、「占有者が自ら利用し又は他人に有償で売却すること 5)
ができないために不要になった物をいい、これらに該当するか否かは、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案
すべ (
き」だとするに至った。 6)
すなわち、厚生省の見解においては、客観的にみて不要物であることを要し、かつそれで足りるとしていたの
を、占有者にとって利用も有償譲渡もできない不要物だとした上で、これに当たるか否かは、占有者の主観によっ
て左右されるものとしたことになる。
②平成一一年最高裁決定(いわゆる「おから事件」)
再生利用の目的となる物が、廃棄物に該当するか否かという点が、刑事事件として争われた初めての事 (
件が、い 7)
わゆる「おから事件」である。
(事例
1)最決平成一一・三・一〇刑集五三巻三号三三九 (
頁 8)
被告人は、豆腐製造業者からおからの処理委託を受け、処理料金を徴して収集し、被告人の経営する工場まで運
搬した上、同工場において熱処理して乾燥させたが、産業廃棄物の収集・運搬・処分に必要とされる許可をいずれ
も受けていなかったことから、無許可での処理の罪として起訴された。
第一審判決は、本件おからが食品としての利用が極めて少なく、大半が家畜の飼料や肥料に利用され、しかも、
製造業者が料金を支払って持ち帰って貰うという状況にあるとして、豆腐製造業者にとって「不要物」であるとし
て産業廃棄物に該当するとした。他方、早期に腐敗、発酵して悪臭を放つものであるとして、「専ら再生利用の目
的となる産業廃棄物」には該当しないとした。
控訴審判決は、産業廃棄物の意義につき、「事業活動によって排出された物で、事業者が不要として処分する物
をいうものと解すべきであり、その物の性状、排出の状況、取扱形態及び取引的価値の有無等から排出業者が社会
的に有用物として扱わず、有償で売却できる有価物ではないとして、対価を受けないで処分する物をいう」とし
た。その上で、おからは豆腐製造業者によって毎日大量に排出され、非常に腐敗しやすいことから早急に処理する
必要があり、一部が食用に供される外、従来は家畜の飼料・肥料として利用されることが多かったものの、最近で
はそのような利用の有効性にも問題があり、業者によっては一般廃棄物と同様の焼却処分により処理し、あるいは
無償もしくは処理料金を支払ってその処理を廃棄物処理業者に委託しているのであって、このようなおからの性
状、排出状況及び、豆腐製造業者において経済的取引価値のない不要なものとして処分している状況に照らせば、
本件おからは「不要物」であって産業廃棄物に該当するとした。他方、「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」
に該当するとの主張に対しても、飼料ないし肥料としての利用について問題があり、その排出、収集、保管、管理
ないし加工、利用の過程が技術的及び経済的に有益な取引過程として社会において形成普及しているとはいえない
としてこれを斥けた。
本決定は、原判決の判断を支持した。すなわち、「不要物」の意義について、「自ら利用し又は他人に有償で譲渡
することができないために事業者にとって不要になった物」をいうとして、「これに該当するか否かは、その物の
性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当で
ある」とし、本件おからについては、豆腐製造業者による大量の排出、非常に腐敗しやすい性質、食用等としての
例外的有償取引の場合を除き大部分が無償で牧畜業者等に引き渡され、あるいは、有料で廃棄物処理業者にその処
理が委託されていた実態、本件被告人においても処理料金を徴していたことに照らせば、「不要物」に該当し、し
たがって産業廃棄物に当たるとしている。
本決定(及び原判決)の見解は、基本的に変更後の厚生省見解にしたがって「不要物」か否かを判断するものと
いってよいであろう。すなわち、目的物自体の客観的性質、社会的な取扱いの実態と併せて、排出者の意思を考慮
して、当該目的物に利用ないし有償譲渡の可能性が認められるかを決するという判断枠組みを採用していることに
なる。
学説は、このような判例の枠組みを基本的に支持する見 (
解、排出者にとって不要物であれば足り、利用ないし有 9)
償譲渡の可能性を問わない見 (
解、逆に排出者の意思にかかわらず、目的物自体の客観的性質、社会的な取扱いの実 10)
態によって決する見 (
解とが対立している。もっとも判例の枠組みを支持する見解も、純然たる排出者の主観ではな 11)
く、「排出者にとって」利用可能であるといえるか、という点を問題とするものであり、これが認められる限りに
おいて廃棄物性を否定する趣旨であるといえよ (
う。他方、目的物の客観的性質については、再生利用可能性を重視 12)
して本件おからの廃棄物性を否定する見 (
解と、投棄ないし不適正処理による環境汚染の危険性を重視して廃棄物性 13)
を肯定する見 (
解とが対立する。もっとも後者の見解に立った場合であっても、再生利用の方法が社会的に確立され 14)
ているような場合については、「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」として、本罪の成立を否定する余地はあ
ることになる。
③その後の判例の動向
その後も、目的物につき再生利用を目的としていたことを理由に、当該目的物の「廃棄物」性が争われた事件が
存在する。
(事例 2)仙台高判平成一四・一・二二 廃棄物中のプラスチック類等を選別、粉砕、圧縮減容することによって製造されたRDFといわれる固形物を、
陥没地ないし湿地帯に埋立処分した行為につき、不法投棄の罪として起訴された事案である。このRDFは、被告
人において、固形燃料として販売することを計画していたものであったが、燃料としての品質、大気汚染や悪臭の
発生といった理由から、燃料として販売することが困難になったものであり、製造者から有償で引き取っているも
のの、製造者が支払う運搬処分料のほうがはるかに上回る、というものであった。
被告人は本件RDFにつき、地盤安定化資材として使用されるものと誤認していたのであるから、廃棄物に該当
しないと主張した。本判決は、これに対し、廃棄物の意義及び判断方法について上述の「おから事件」の基準に依
拠した上で、RDFはそもそも地盤安定化資材として有用な物として扱われることはなかったこと、本件の埋立現
場においても地盤の安定化に役立っているとは言えないこと、引き渡す側が代金を大幅に上回る運搬処分料を支
払っていること、雑多な有害物質が含まれており、埋立処分がなされれば溶出する危険がないとは到底言えないこ
とを理由に、本件RDFが廃棄物に当たると判断した。
(事例
3)大阪高判平成一五・一二・二二判タ一一六〇号九四頁 産業廃棄物である汚泥に固化剤を投入した上で、これを山林に投棄した行為につき、不法投棄の罪として起訴さ
れた事案である。被告人は本件汚泥は固化剤を投入することにより、土地の造成に利用することが可能となったと
して、本件汚泥はもはや廃棄物ではないと主張した。
第一審判決は、上述の「おから事件」と同様の基準により、有償譲渡の不可能な物については、たとえ社会的有
用性が認められたとしても廃棄物性は否定できないとし、かつ、廃棄物性の判断は排出時を基準とすべきであっ
て、固化剤投入の結果目的物がどうなったかは問題とすべきではないとして、本罪の成立を認めた。
これに対し、本判決は、排出時には廃棄物であっても操作を加えることにより一定の客観的価値を生ずるに至っ
た場合には、占有者に再生利用の意思が認められる限りにおいて、たとえ有償譲渡の可能性がなくとも、それはも
はや廃棄物に当たらない、とした。ただし、具体的事案においては、本件汚泥は固化剤を加えても客観的価値が生
じたといえず、また固化剤が作用する前に本件汚泥を山林に投棄しており、再生利用の意思もあったとはいえない
として、結局本件汚泥は廃棄物に当たるとした。
本判決は、有償譲渡できない物は直ちに廃棄物として扱うのではなく、そのような物であっても再生利用が客観
的に可能となり、かつ再生利用の意思を有するのであれば、それは廃棄物に当たらないとし、かつ、その判断は、
不法投棄の罪が問題となっている場合には、当該投棄行為の時点を基準とするものである。これは、廃棄物の再生
利用を促進するという見地から、客観的な再生利用可能性及び再生利用の意思を重視するものといってよいであろ
う。(事例
4― 1)水戸地判平成一六・一・二六 解体業者から木材の処分委託を受けた者が、産業廃棄物の処分に必要な許可を受けることなく、これを粉砕する
などして処分した行為につき、無許可での処分として起訴された。
本判決は、以下の理由により、本件木材は産業廃棄物に該当しないとして、本罪の成立を否定した。すなわち、
被告人らは、本件工場において、受け入れた木材をチップとして販売していたものであるが、その製造に当たって
は、製品規格を厳格に定め、これに合致する木材のみを受け入れていた。解体業者の側においても、これまで焼却
処分業者に委託していたのを、本件工場でのチップ製造を知って、そのほうが環境に良いと考えて委託するように
なったこと、それによって他の工場であれば必要であった処分料金を払わずに済んだこと、持ち込みに当たって
は、再生利用に適したものだけを選別していたことといった事情があった。以上の事実関係を前提として、上述の
「おから事件」における基準を参考にして検討すると、本件木材は、その大半が無償で、一部は料金を徴して受け
入れてはいるものの、本件のように目的物を再生利用しようとしている場合においては、それが有償で受け入れら
れたか否かという形式的な基準ではなく、当該物の取引が、それぞれの当事者にとって価値ないし利益があると判
断されているかを実質的・個別的に検討すべきところ、工場側にとってはチップの製造・販売による利益が、持ち
込んだ業者にとっては処分料金の全部又は一部の支払いを要しないという利益が認められるのであるから、本件目
的物は有価物として取引されていたものと認められる、としたものである。
本判決は、事例
3においてとられたところの、再生利用の意思及び可能性を重視する考え方をさらに進め、再生
利用を前提として考えると当該目的物は実質的に有価物であって、廃棄物とは言えないということを、正面から認
めた事例だといってよい。
(事例
4― 2)東京高判平成二〇・四・二四判タ一二九四号三〇七 (
頁 15)
事例
4― 1の事件において、木材の処分を委託した家屋解体業者が、無許可業者への委託の罪に問われたもので
あ (
る。 16)
第一審判決は、本件木材は解体業者にとって有償譲渡の可能性がない以上、再生目的があったとしても廃棄物に
当たるとして本罪の成立を認めた。これに対して、本判決は、廃棄物の処理につき許可制が採られる根拠を、占有
者にとって不要な物は、これを自由な処分に委ねたのでは、ぞんざいに扱われて環境を害する虞があるということ
に求めた上で、一般的には有償譲渡の可能性のない物は廃棄物といえるが、その場合であっても、資源の再生利用
の観点から、各事業者にとって一定の価値があるかを考慮する余地はあるとする。しかし、その場合においても、
単に受け入れ業者において再生利用が行われているというだけでは足りず、その再生利用が製造事業として確立し
たものであり継続して行われていて、当該物件がもはやぞんざいに扱われて不法に投棄される危険性がなく、廃棄
物処理法による規制を及ぼす必要がないというような場合に初めて、そのような考慮が可能だとする。その上で、
本件木材の再生利用は製造事業として確立したものとなっていたとはいえないとして、本件木材は廃棄物に当たる
とした。
事例
4― 1の判決が、再生利用の意思・可能性を重視して、チップの原料となる木材の廃棄物性を否定したのに
対して、本判決はそれだけでは廃棄物性を否定することはできず、再生利用が製造事業として確立し、継続可能な
ものとなっていることが必要だとするものといえよう。そこには、確立した再生利用に至っていない業者について
は、なお慎重に行政的監督下に置く必要を認める一方、再生利用が確立している場合には、これを廃棄物として行
政的監督の対象とするのは、かえってその再生利用を妨げる、という考 (
慮があるものといえよう。 17)
(事例
5)名古屋高判平成一七・三・一六 産業廃棄物である汚泥に中間処理を施し、これを埋め戻した行為につき、不法投棄の罪及び無許可での処分の罪
として起訴された事案である。
原判決は本件汚泥が廃棄物に当たることを前提に、不法投棄及び無許可での処分の両罪の成立を認めたのに対し
て、本判決は無許可での処分の罪のみが成立するとした。
すなわち、廃棄物の無許可での処分については、廃棄物の処分につき許可制が採られているのは、環境保護の目
的から、一旦廃棄物として受け入れた物については、最終処分に至るまでこれを一律に行政の監督の下に置くとい
う趣旨によるものであるから、処分業者において受け入れた時点で廃棄物であれば足りるのであって、その後の性
質の変化は問わないとする。それ故、本件において受け入れた汚泥自体が廃棄物に当たる以上、無許可での処分の
罪の成立は免れない。
それに対して、不法投棄との関係では、それが実質的に環境を害することに処罰根拠があるのだから、ここでの
廃棄物の意義は、無許可での処分の場合と必ずしも一致しない。すなわち、上述の「おから事件」で示された判断
基準の要素として有償譲渡の可能性の有無という点が挙げられている根拠を検討すると、有償譲渡できない物は、
占有者の自由な処分に委ねたのでは他に譲渡され利用されることを期待し難く、結局不適切な処分がなされるおそ
れがあるとして、許可制による監督に服させる必要があることから、無許可での処分の罪の対象とすべきことにな
る。それに対し、不法投棄の罪の成否が問題となる場面では、資源の有効利用ないし再生使用を推進すべき現在の
社会状況の下では、有償譲渡が困難あるいは不可能だからといって、直ちにそれが環境を害することになるとは限
られないのである。
本件においては、汚泥という、適切に処理すれば自然に存在する土砂と同じものになる対象物が問題となってい
るところ、適切な処理を経て、土砂としての適切な用途に用いられ、かつ環境を害しない措置が十分に採られてい
るならば、それは必ずしも現時点で有償譲渡の可能性がなくとも、再生利用の目的に従って利用・処分される限り
において、廃棄物性を否定すべきである。そして、本件汚泥はもともと有害物質を含んでおらず、脱水処理を経た
後にあっては、一定の条件の下で埋立・埋戻しの用途に使用できる状態となったものであって、かつそれに適合し
た態様で埋立・埋戻しに用いられているのだから、たとえ無償あるいは料金を徴して受け入れていたとしても、廃
棄物の不法投棄の罪は成立しない、としている。
ここでは、廃棄物の意義を、行政による廃棄物処分に対する監督が問題となるところの無許可での処分の罪と、
実質的な環境への害そのものが問題となるところの不法投棄とで、相対化している点が注目される。とりわけ、後
者の場面においては、実質的に環境を害さない限りにおいて、できるだけ目的物の再生利用を促進すべく、適正に
処理され、利用されるものは廃棄物の範囲から除外する、という考え方を進めているものと言ってよい。
(事例
6)東京地判平成一九・二・二二 建築物の解体現場から排出された建設発生土から、廃プラスチック片、木くず、コンクリート砕片、ガラス片、
レンガ片、塩化ビニール片を取り除いた残土の処分をおこなった際、必要な許可を得ておらず、あるいは許可を受
けていない者に運搬を委託した。
本件において発生した建設発生土のような混合廃棄物は、埋立処分か焼却処分しかできないものであり、処分費
用も高価であることから、排出量を減らすべく、細かい選別を行うことが業者の共通認識となっていた。それにも
かかわらず、本件残土は、精密な選別機を用いることもなく、比較的大きい混在物を選別しているに止まり、選別
を経た後も目視可能な程度の混在物が容易に認識できるものであった。加えて、本件残土は、そのままでは植林に
用いることもできず、結局代金を支払って処分を委託するほかなく、市場価値のあるものとしては扱われていな
い。以上の理由により、本判決は、上述の「おから事件」の判断基準に言及した上で、本件残土に有用性は認めら
れず、全体として産業廃棄物に当たるとしている。
ここでは、混在物を含むために自然に存在する土砂と異なる残土は、環境を害することなく再生利用する余地が
そもそも認められず、廃棄物として扱わざるを得ない、という考慮があるものと考えられる。
( 4) 前出(
3)。
(
5) 昭和四六年一〇月二五日環整四五号厚生省環境衛生局環境整備課長通知。
(
6) 昭和五二年三月二六日環計三七号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知。
(
7) なお、再生利用の目的となる物の収集・運搬につき、一四条一項但書の適用があるか否かが争われた事例としては、最決昭和
五六・一・二七刑集三五巻二号一五四頁がある。この事案は、自動車の廃タイヤについて、「そのものの性質及び技術水準等に照ら
し再生利用されるのが通常である産業廃棄物」とはいえないとの理由により、無許可での処理の罪が認められたものである。
(
8) 本決定に対する評釈として、秋吉淳一郎・最高裁判所判例解説刑事篇平成一一年度六六頁、伊東研祐・判例評論四九四号五二
頁、山田洋・ジュリスト一一五八号八九頁、辰井聡子・ジュリスト一二一二号一二四頁、岩橋健定・法学教室二二八号一三〇頁、
本田稔・法学セミナー五五二号一一六頁、黒川哲志・平成一一年度重要判例解説四七頁、田村泰俊・環境法判例百選一二四頁。
(
9) 伊東・前出(
8)二三二頁以下、岩橋・前出(
8)一三一頁、田村・前出(
8)一二五頁。
(
10) 辰井・前出(
8)一二六頁、町野朔編・環境刑法の総合的研究(二〇〇三)四八五頁(篠塚一彦)。
(
11) 中山研一=神山敏雄=斉藤豊治=浅田和茂編著「環境刑法概説」(二〇〇三)二四二頁(神山)。
(
12) このような立場に立つものとして、平野龍一=佐々木史朗=藤永幸治編「註解特別刑法
3公害編」(一九八五)Ⅱ五頁以下、
黒川・前出(
8)四八頁。
(
13) 岩橋・前出(8)一三一頁。
(
14) 本田・前出(
8)一一六頁。
(
15) 本判決に対する評釈として、森田邦郎・研修七二三号八一頁、岡部雅人・法律時報八二号五号一三四頁。
(
16) なお、東京高判平成二〇・五・一九判タ一二九四号三一二頁も同様の事案につき、同旨の判断を行っている。
(
17) このような考え方を支持するものとして、森田・前出(
15)八八頁、岡部・前出(
15)一三七頁。
4
.再生利用と不法投棄 廃棄物の再生利用が、廃棄物処理法上の罪の成否に影響しうるもう一つの場面は、廃棄物の「不法投棄」行為、すなわち廃棄物を「みだりに捨てる」行為に該当するか否かが問題とされる事案である。近時においては、以下の
事案において問題となっている。
(事例
7)福島地会津若松支判平成一六・二・二判時一八六〇号一五七頁 被告人は、旅館等から出た空き缶を、プレスして固めた上で、新たに建てた旅館のテラスを構築する際、冬期に
おいて凍結による地表面の変形を防ぐべく、プレスした空き缶をこの部分の地中に埋めた。また、空き瓶について
は、ガラス粉砕機を使って粉砕し、テラスに敷き詰める煉瓦の下に敷き詰めた。以上の行為が、廃棄物の不法投棄
の罪として起訴された。
本判決は、廃棄物を「捨てる」とは、廃棄物を最終的に占有者の手から離して自然に還元すること、「みだり
に」とは、生活環境の保全及び公衆衛生の向上の見地から社会通念上許容されないこととした上で、行為の態様、
当該物の性質、量、管理の状況、周囲の環境、行為者の内心の意図等の行為の客観、主観面を総合し、生活環境の
保全及び公衆衛生の向上という廃棄物処理法の趣旨と社会通念に照らして、個別具体的に決せられるとする。そし
て、廃棄物の再生利用は人間の創造的活動という側面を有する場合があること、他方で廃棄物の総量を抑制する効
果を有することから、その方法としての有効性、物の管理の状態、環境への影響、行為者の主観的意図等の諸般の
事情を総合して、当該行為が廃棄物の正当な利用行為といえれば、「みだりに捨てた」とはいえない、とする。
その上で、本件ではガラス片については、テラスの中で遮蔽・密封された場所に敷き詰められており、容易に外
部に散逸せず、有害物質が外部に滲みだすこともない。また被告人の営む宿泊施設内であることから、これが放置
され風化することも当面考えにくい。他方、プレスした空き缶については、凍結による地表面の変形を防ぐ目的で
テラスの下に断熱・緩衝材として埋め込まれたものであって、その量も多くはなく、環境に影響を与えるような物
とは言えない。以上のことを考慮すると、本件ガラス片及び空き缶の利用は、廃棄物を「みだりに捨てた」ことに
はならない、とした。
ここでは、自然環境中にないような物であっても、これを利用する目的で一般環境中に置く場合において、当該
目的物に環境を汚染する虞がなく、かつ、目的物に対する占有者の管理が十分に可能であり、その撤去も容易であ
るならば、不法投棄の罪を否定する根拠となりうる、としたものといえよう。
(事例
8)仙台高判平成一七・三・一 被告人は、承諾を得て使用している実父の所有地に穴を掘った上で、家屋解体工事に伴って排出されたコンク
リート殻等を投げ入れたことから、不法投棄の罪により起訴された。被告人はこれに対して、再利用の意思を有し
ており「みだりに捨てる」ことにはならないと主張した。
これに対して、本判決は、本件において投げ入れられたコンクリート殻は、これを回収して再利用するには経費
や時間の点からみて容易ではなく、したがって被告人は実質的に本件コンクリート殻の回収・再利用の意思を欠い
ていることから、「みだりに捨てた」ことになるとした。なお、被告人に所有権放棄の意思が欠けるとしても、そ
のことは本罪の成立の妨げにはならない、とする。
本件における被告人の行為は、目的物を回収・再利用する合理的可能性を消滅させたと認められるものであっ
て、そのような場合には、当該物件はもはや再利用の対象ではなく、不法投棄の罪を免れない、としたものといえ
よう。
なお、以上の判例のほか、上述事例
2においては、RDFの埋立処分につき、これを地盤安定化資材として利用
し、その土地は将来とも所有者によって管理されることを理由に、不法投棄には当たらないとの主張が被告人側か
らなされたが、同判決は、長期間にわたって大量のRDFを埋め立て、土壌汚染や地下水、自然水の汚染等周辺地
域の環境、衛生を汚損するおそれがあることを理由に、単なる処分基準違反ではなく不法投棄に当たることが明ら
かである、としている。事例
7の事案と異なり、当該目的物自体に有害性が認められることから、再生利用の名の
下にこれを一般環境に置くこと自体原則的に正当性を欠く、とするものと言えよう。
5
.検討 以上、廃棄物をめぐる犯罪の成否が問題となっている場面において、当該目的物の再生利用を理由に無罪を主張した事案を取り上げてきた。ここで、これらの事例を整理したい。まず、事例
1・ 4― 1・ 4― 2・ 5・ 6において
は、無許可での処分ないし無許可業者への委託の罪、すなわち廃棄物の処理に必要とされる許可を欠くことが問題
となっているのに対し、事例
2・ 3・ 5・ 7・ 8においては、不法投棄の罪、すなわち廃棄物の取扱いにより環境
に害を与えることそのものが問題となっている。次に、事例
1・ 4― 1・ 4― 2・ 5では、これから処理を施すべき
物が問題となっているのに対し、事例
2・ 3・ 5・ 6では、すでに処理を施した上で、あとは最終処分を待つべき
物が問題となっており、事例
7では、処理を施した物について、まさしく最終処分そのものの当否が問題とされて
いる。なお事例
8においては、処理もせず、さりとて最終処分の意思も明確ではない、という事案である。
このように、再生利用と廃棄物事犯との関係を考えるに当たっては、「廃棄物」と「みだりに捨てる」のいずれ
が問題となっているのか、どの罪の成否が問題になっているのか、また、処理前・処理後いずれの段階での物が問
題となっているのか、といった点に留意する必要がある。以上のことを前提として、これら一連の判例の態度につ
いて検討したい。
①廃棄物性の判断基準
まず、廃棄物性が問題となった事例においては、事例
2以下のいずれの判例も、事例
1すなわち「おから事件」
において示された基準に依拠し、あるいは少なくともこれを参考にした判断をしている、ということがいえる。
そして、ここで考慮されている事情を整理すると、次のような点が問題とされているといってよい。
⒜目的物自体の性質上、いかなる有益性・有害性が認められるか。すなわち、目的物について考えられる利用可能
性、目的物の有する毒性・腐敗可能性、目的物が自然物ないし自然環境において分解可能な物か否か。
⒝目的物が占有者にとって、いかなる意味・価値を有するか。自ら利用し、あるいは他人に譲渡することによって
再生利用させる合理的意思・可能性が認められるか。
⒞目的物が取引社会において、どのような経済的評価を受けているか。有償で譲渡されているか、無償で引き取ら
れているか、あるいは料金を徴して処理されているか。
⒟目的物が最終的にどのような形で処分されているか。再生資源として製品化されているか、埋立・造成等の形で
環境と一体化されているか、焼却され、あるいは最終処分場において処分するしかない物か。
⒠目的物の再生利用が、社会的に確立・継続したものとなっているか、社会情勢に左右されやすく偶発的なものに
止まっているか。
⒜は目的物自体の客観的性質であって、一般に有用物とされる物は現実に廃棄されない限り廃棄物としての規制 対象とすべきでない一 (
方、有用性が乏しい物については、目的物自体に毒性・不衛生性等の有害な性質が認められ 18)
る物はもとより、プラスチック・ガラス等自然環境において分解せず残存する物についても廃棄物として扱う必要
性は高 (
い。また、落ち葉や木の枝といった、自然物ないし自然環境において分解可能な物は、自然に還元するとい 19)
う形での処分であれば廃棄物性を否定する余地があるものの、かかる処分がなされないおそれがある以上は、廃棄
物性を認める方向で扱うべきであろう。
⒝は目的物の占有者にとっての評価である。当事者の意思・個々人の事情を考慮した上で、目的物がその者に
とって自ら利用し、あるいは他人における再生利用の対象になるか否かを問題とすべきである。確かに占有者の純
然たる主観によって廃棄物性の判断が左右されることは好ましくないが、占有者にとっての目的物の価値を個別・
具体的に考えることは不可欠と言えよ (
う。 20)
⒞は目的物の有償譲渡可能性である。これが認められるならば、目的物が不適正に処分・処理されて環境を害す
るおそれはそもそも低いのに対して、そうでない物についてはその危険性が認められることから、廃棄物性が肯定
されることになりやすい。もっとも、有償譲渡の可能性がない物でも、再生利用の実態によっては、再生利用の
ルートに乗ることによって、かかる危険性が低いということもありう (
る。この観点からは、⒟⒠の考慮が不可欠な 21)
ものとなる。
⒟は目的物の最終処分の態様である。飼料・肥料・チップ等、再生資源としてすでに製品化され、あるいはそれ
が確実であればもはや当該目的物は廃棄物ではない。処理済みの残土のように、造成・埋立が予定されている物に
ついても、それによって環境を害するおそれがないことが確実である限りにおいて、廃棄物性を否定すべきであ
る。もっとも、以上のような再生利用が可能な物であっても、処理前の受け入れの時点においては、受け入れ業者
において適正な処理を行う保証は通常不十分であろう。この場合は、
⒠の事情を考慮すべきではあるが、基本的に
これを行政の監督下に置くという意味において、当該目的物を廃棄物として扱うことにはなお合理性があるものと
考えられる。これに対して、焼却ないし最終処分場で処分するしかない物は、かかる処分に至るまで一貫して廃棄
物として扱われるべきは当然である。
⒠は目的物の再生利用の確実性である。再生利用の意思は一応認められる場合であっても、それが制度的・技術 的に確立していると言えない場 (
合には、不適正な処理・処分により最終的に環境を害する可能性がなお残っている 22)
から、無許可での処分ないし無許可業者への委託との関係では、なお廃棄物性を肯定すべきであろう。しかし、再
生利用が制度的・技術的に見て確実である場合は、これらの罪も問題とならないと解すべきである。
②不法投棄と再生利用の関係
他方、判例は、目的物につき、廃棄物性自体は否定できない場合であっても、最終処分の段階において、当該処
分につき、環境を害する虞が認められないのであれば、それは「みだりに捨てる」行為とはいえないとしている。
ここでは、最終処分の場面であることから、目的物自体の有益性・有害性、行為者の意思ないし個別的事情、最終
処分の態様が判断要素となっているといってよいであろう。すなわち、上述の廃棄物性を判断する際に考慮される
要素のうち、⒜⒝⒟の要素を取り上げた上で、当該廃棄物が最終的に環境を害することなく取り扱われた、と認め
られるのであれば、不法投棄の罪は否定されることになるのである。
なお、行為者に最終処分の意思がない場合は、これらの要素に加えて、
⒞の要素を考慮し、行為者にとって合理
的な利用可能性がもはや認められないのであれば、これを最終処分として扱い、環境を害する危険性の有無を検討
すべきこととなろう。
③具体的事例の検討
ⅰ いわゆる「おから事件」(事例
1) 本件おからは、速やかに処理しなければ容易に腐敗するという潜在的な有害性があることから、排出者にとって
の利用は容易でない上、有償譲渡は、食用に用いられる例外的な場合に限られ、大半が無償あるいは料金を徴して
処理されていたものであるから、少なくとも処理以前の段階においては、無許可での処分の対象となる廃棄物に該
当するものと解するべきである。もっとも飼料ないし肥料として製品化される可能性が認められ、それが制度的・
技術的に確立されたといえるのであれば別論であるが、腐敗しやすいという本件目的物の性質にかんがみると、そ
の判断には慎重を要しよう。
ⅱ 排出された木材によるチップの製造(事例
4― 1・ 4― 2) 木材の場合、おからと比較して腐敗しやすいという事情は認められないことから、チップとして再生利用される
ことが制度的・技術的に確立されていると認められれば、たとえ有償譲渡は容易でなかったとしても、無許可での
処分ないし無許可業者への委託の対象としての廃棄物には当たらない、とすべきである。しかし、そのような事情
がない場合に、単に再生利用の意思があるというだけでは、不適正な処理・処分がなされる危険性は否定できない
のであるから、行政による監督の対象とすべきであり、これらの罪に関する限り、廃棄物性を肯定すべきである。
それ故、事例
4― 2の基準のほうを支持すべきであろう。
ⅲ 汚泥の処理及び埋立(事例
3・ 5) 汚泥は、それ自体においては、利用も有償譲渡もできず、衛生上の有害性も通常認められるものであり、その処
理も容易ではないことからすれば、無許可での処分ないし無許可業者への委託との関係では、廃棄物性を認めるべ
きであろう。しかしながら、処理によって有害物質が取り除かれ、通常の土砂と同様の物質となった場合には、こ
れを適正な方法により埋立等に用いるのであれば、それは廃棄物とはいえないことになる。事例
5はまさにそのよ
うな場合であるのに対し、事例
3においては処理自体が不十分であって、かつ適正な方法で用いられているとはい
えないから、処理の後であっても廃棄物性は否定されないことになる。
ⅳ プラスチック・ガラス・金属等の粉砕・圧縮(事例
2・ 7) これらの物は、自然環境の中で分解するということがなく、排出されたままの状態ではもとより、粉砕・圧縮し
てもそのままでは有償譲渡ないし再生利用のルートに乗ることは容易とはいえない。したがってこれらの物につい
ては、処理後であっても原則として廃棄物性を肯定すべきである。しかし、これらの場合において、それを地中に
埋める行為が、具体的な状況に照らして環境を害する虞がないのであれば、不法投棄に該当しないとすべきであろ
う。事例
2の場合には当該行為の有用性が認められないばかりか、有害物質による汚染の危険が認められることか
ら不法投棄に当たると言わざるを得ないが、事例
7の場合は、凍結による地表の変形を防ぐ等の有用性が認められ
る一方、有害物質による汚染の危険等は認められないことから、不法投棄の罪は否定されることになる。
ⅴ コンクリート殻の放置(事例
8) これも自然環境の中で分解するものではなく、再生利用の意思がないとはいえないにせよ、穴の中に放置すれば
その利用ないし処分は事実上容易ではないのであるから、当該行為は廃棄物の最終処分であり、かつ環境を害する
行為として、不法投棄の罪を認めることになる。
ⅵ 解体工事残土の選別(事例
6) 解体工事残土は、そのままではもとより、本件のような処理を経ただけでは依然としてプラスチック・ガラス・
金属等自然環境の中で分解しないような混在物が存在しているのであって、このような残土は料金を支払って最終
処分場での処分を委託するしかない物といえるから、無許可での処分や無許可業者への委託についてはもとより、
不法投棄との関係においても、廃棄物性を肯定すべきであろう。なお、最終処分場以外の場所に埋め立てた場合、
「みだりに捨てた」ものとして不法投棄の罪を認めるべきであろう。
(
18) もっとも、逆にいえば、有用物であっても、現実に占有者が不要と考え、廃棄物としての処理の対象としたのであれば、当該
目的物は、それが確立された再生利用のルートに乗らない限り、廃棄物に当たるとすべきであろう。
(
19) このような物については、たとえ占有者において、例えば「土地の造成」といった形で「利用」する意思があったとしても、
それは周囲の環境に悪影響を及ぼすことになり、正当な再生利用とはいえないことから、廃棄物性を否定すべきでないと解されよ
う。
(
20) 前出(
12)参照。
(
21) 逆に、一応有償譲渡が可能であっても、再生利用の市場の動向によっては、業者において不適切な処分に及んでしまうおそれ
が否定できない場合もあり得る。このような場合は、廃棄物性を肯定する余地を認めるべきであろう。
(
22) とりわけ、実際には利用困難な物を「再生利用」と称して大量に野積みしたまま放置し、その結果周囲の環境に悪影響が及ぶ
といった事態も生じており(例えば、香川県豊島において、シュレッダーダストを金属くずを回収するための資源と称して、一〇
年もの長期間野外に放置するという事態があった)、このような業者に対しては、本法による措置が必要となるのは当然である。
この点につき、中山他編著・前出(
11)四八三頁以下(神山)参照。
6
.結語 廃棄物問題は、現代社会において今後ともその重要性を増すことはあっても、減らすことはないように思われる。その一方で、社会の各方面において、廃棄物を減少させ、あるいは再生利用ないし自然に還元するためのさま
ざまな試みがなされ、その実用化・制度化に向けての努力が日夜払われている。悪質な廃棄物事犯に対する厳正な
処罰の必要性は否定できない反面、廃棄物をめぐる処罰規定の適用にあたっては、再生利用への努力を妨げること
のないよう留意する必要があろう。
―いとう わたる・法学部准教授―