恐怖記憶に対するイメージ書き直しと記憶の再固定化の関係 仁田雄介1, 2 髙橋 徹
1, 2 熊野宏昭
3
1早稲田大学大学院人間科学研究科
2日本学術振興会特別研究員
3早稲田大学人間科学学術院
要約
【背景】イメージ書き直しとは,恐怖記憶のイメージをより安全なイメージに書き直す技法である。
メカニズムには未だ不明な点が多いが,再固定化を利用して恐怖記憶を減弱すると考えられている。
【方法】Web of Science, Science Directにて “imagery rescripting” and “reconsolidation” というター ムを用いて検索した。【結果】現時点ではイメージ書き直しと再固定化の関係を示す研究は存在しな い。【結論】今後の研究では(1)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーの再発率の比較,(2) イメージ書き直しとイメージエクスポージャーに関与する脳部位の比較,(3)イメージ書き直しとイ メージエクスポージャーによるトラウマの陳述内容の変化の比較,(4)記憶想起直後にイメージを挿 入する条件と記憶想起10分後にイメージを挿入する条件の比較,が行われる必要がある。
キーワード:イメージ書き直し,記憶再固定化,トラウマ記憶,恐怖条件づけ,トラウマフィルムパ ラダイム
【背景】
イメージ書き直し(imagery rescripting)と は,恐怖記憶のイメージをより安全な展開のイ メージに書き直す技法であり,心的外傷後スト レ ス 障 害(post-traumatic stress disorder;
PTSD),社交不安症,侵入記憶を伴う大うつ 病,パーソナリティ障害などの治療に使用され ている。一例として,幼少期の外傷体験へのイ メージ書き直しの手続きの概要をアーンツ&
ヤ コ ブ(2015),Arntz & Weertman(1999),
Arntz(2011),を参考にTable 1に示した。
パーソナリティ障害など幼少期の外傷体験が 現在の問題を引き起こしている場合では,現在 のストレスフルな体験のイメージから幼少期の 類似した体験のイメージへとジャンプするとい う手続きが用いられる。PTSDなどに対しては 幼少期の記憶のイメージへのジャンプは行わ ず,PTSD症状と関連するトラウマ体験のイ
メージの状況を変化させていく(Hackmann, 2011)。
イメージ書き直し(imagery rescripting)に は複数の日本語訳が存在し,訳語が統一されて いない。吉永・清水(2016)や関・清水(2016)
はrescriptingの訳として「書き直し」を使用し
ているが,清水(2017)は「書き換え」を使 用している。本論では,rescriptingの接頭語 re-には「再び」という意味があることから「書 き換え」よりも「書き直し」という訳語の方が 適切であると考え,「イメージ書き直し」とい う訳語を使用する。
イメージ書き直しを主要な技法として用いる スキーマ療法は,境界性パーソナリティ障害の 治療に有効であることが示されている(Giesen- Bloo et al., 2006)。イメージ書き直しは認知行 動療法やスキーマ療法と併用されることが多い
(Holms et al., 2007; アーンツ&ヤコブ,2015) が,イメージ書き直し単体でもPTSD,社交不
〈総 説〉
安症に対して有効であることがメタ解析によっ て示されている(Morina et al., 2017)。しかし ながら,イメージ書き直しの奏功メカニズムに ついては,まだ十分に明らかになっていない。
エクスポージャー療法は,イメージ書き直し と同様にPTSDや不安症への有効性が示されて いる治療法である(Powers et al., 2010)。PTSD や不安症における恐怖記憶と恐怖反応の形成 は,恐怖条件づけのパラダイムによって説明さ れる(Lang et al., 2000)。恐怖条件づけとは,
中 性 刺 激 を 侵 襲 性 の あ る 無 条 件 刺 激(the unconditioned stimulus; US)と繰り返し対呈 示 す る と,中 性 刺 激 が 条 件 反 応(the conditioned response; CR)を引き起こす条件 刺激(the conditioned stimulus; CS)となるこ とである。恐怖条件づけによって恐怖記憶が形
成され,CS-US連合が成立するため,CSがCR
を引き起こすようになる。恐怖条件づけ後に CSのみを繰り返し呈示すると,CRが低減す る。このような手続きを消去訓練と呼び,消去
訓練によって成立する学習を消去学習と呼ぶ。
消去訓練によってCS- no US連合が成立し,
CS-US連合が抑制されるため,CRが低減する。
消去学習は抑制性の新規の学習であり,元の恐 怖記憶を減弱しない(Myers & Davis, 2007)。
エクスポージャー療法では恐怖対象に当事者を 長時間暴露することで,恐怖条件づけによって 形成された恐怖反応が消去学習によって抑制さ れ る と 考 え ら れ て い る(Dunsmoor et al., 2015)。しかし,先述した通り消去学習は元々 の恐怖記憶(CS-US連合)そのものを減弱し ないため,消去訓練の後にCRが再発すること が知られている(Bouton, 2004)。同様にエク スポージャー療法後の症状の再発が報告されて おり,問題視されている(Boschen et al., 2009;
Choy et al., 2007)。
恐怖反応の再発を防ぐ手段として,記憶再固 定化を利用した介入が近年注目を集めている
(仁田ら,2016)。新規蛋白質合成によって短 期記憶が長期記憶となるプロセスは記憶固定化 Table 1 イメージ書き直しの概要
(アーンツ&ヤコブ,2015;Arntz & Weertman, 1999;Arntz, 2011を参考に作成)
(memory consolidation)と 呼 ば れ て い る
(McGaugh, 2000)。固定化する前の記憶は不安
定であって蛋白質合成阻害剤などの影響を受け るが,固定化された記憶はそれらの影響を受け ない。固定化された記憶は短時間想起されると 不安定な状態になり,その後再び安定化する
(Nader et al., 2000)。このプロセスは記憶再固 定化(memory reconsolidation)と呼ばれてお り,再固定化が進行している間に新しい情報が 入手されると,元の記憶が改変されることが知 ら れ て い る(Schwabe et al., 2014)。Loftus
(2005)はヒトにおいて虚偽記憶が生じること を明らかにしたが,このような虚偽記憶が生じ る生理学的なメカニズムには,再固定化が関連 していると考えられている(Phelps & Schiller, 2013)。また,再固定化進行中に恐怖対象に関 する新しい情報が取得されると,元の恐怖記憶 が減弱されるため,恐怖反応の再発が起こらな い こ と が 示 さ れ て い る(Monfils et al., 2009;
Schiller et al., 2010; Kredlow et al., 2016)。イ メージ書き直しのメカニズムには未だ不明な点 が多いが,イメージ書き直しではエクスポー ジャー療法とは異なり,消去学習によるCS-US 連合の抑制ではなく,記憶の再固定化を利用し た恐怖記憶の減弱が起こっているという主張が 存 在 す る(Arntz, 2012; Morina et al., 2017)。
以上の背景を踏まえ,本稿ではイメージ書き直 しと再固定化の関連を指摘した研究をレビュー し,イメージ書き直しと再固定化の関係につい て考察する。
【文献検索の方法】
2018年10月29日に英文学術論文データベー ス で あ るWeb of Science, Science Directに て
“imagery rescripting” and “reconsolidation” と いうキーワードを使用して検索を行ったとこ ろ,22件の論文が検出された。論文の選択基 準を「介入の方法としてイメージ書き直しを使 用していること」とし,除外基準を「レビュー 論文であること」とした。検出された22件の
論文の中から,レビュー論文11件,介入の方 法としてイメージ書き直しを用いていない論文 5件を除外し,基準を満たした6件の論文をレ ビューの対象とした。抽出された文献のリスト
をTable 2に示した。抽出された文献の内容に
ついて,以下に解説する。
【健常者を対象とした実験研究】
健常者を対象とした実験研究としては,トラ ウマフィルムパラダイムを用いた研究3件と,
恐怖条件づけパラダイムを用いた研究1件が抽 出された。本節ではまずトラウマフィルムパラ ダ イ ム を 用 い たHagenaars & Arntz(2012),
Dibbets & Arntz(2016),Siegesleitner et al.
(2019)の研究をレビューし,最後に恐怖条件 づけパラダイムを用いたDibbets et al.(2012) の研究についてレビューする。
トラウマフィルムパラダイムとは,トラウマ 場面を模した映像を実験参加者に見せること で,恐怖記憶を形成する実験パラダイムであ る。日常生活でフィルムの内容が自発的に想起 された回数(侵入記憶の回数)の記録を,恐怖 記憶の指標とすることができる。Hagenaars &
Arntz(2012)は,トラウマフィルムによって
形成した恐怖記憶に対するイメージ書き直し,
イメージ再体験(記憶を想起するだけの手続 き),ポジティブイメージ(記憶を想起せず,
ポジティブなイメージのみ行う手続き)の効果 を比較した。83名の学生を対象にトラウマフィ ルムを見せ,その直後にイメージ書き直し,イ メージ再体験,ポジティブイメージのいずれか を実施した。また,実験参加者は実験後7日間 のトラウマフィルムの侵入記憶の回数を日誌に 記録した。その結果,イメージ書き直し群では イメージ再体験群,ポジティブイメージ群に比 べて侵入記憶の回数が少ないことが示された。
Hagenaars & Arntzはこの結果から,トラウマ を想起するだけでも,ポジティブな場面のイ メージを行うだけでもなく,トラウマを想起し た後にイメージを挿入するという手続きがイ
Table 2 抽出された6件の文献の概要 著者出版年目的実験参加者実施方法群分け結果方法の適切さ Hagenaars & Arntz2012トラウマ想起後にイ メージを挿入すると いう手続きの必要性 の検討。
健常大学生ランダム化した実験研究。ト ラウマフィルムで形成した記 憶に対し介入を実施。
イメージ書き直し群24名,ポジ ティブイメージ群27名,イメー ジ再体験群25名。
イメージ書き直し群ではイメージ 再体験群,ポジティブイメージ群 に比べて侵入記憶の回数が少な い。
固定化前の記憶への介入効果を示 す上では適切。記憶形成から介入 まで24時間経過していないため, 再固定化との関連は不明。 Dibbets & Arntz2016最も侵襲的なシーン を想起する手続きの 必要性の検討。
健常大学生ランダム化した実験研究。ト ラウマフィルムで形成した記 憶に対し介入を実施。
イメージ再体験群25名,侵襲的 シーンを含まないイメージ書き直 し群25名,侵襲的シーンを含む イメージ書き直し群25名,待機 群25名。
侵襲的シーンを含むイメージ書き 直し群のみが,待機群に比べて侵 入記憶の回数が少ない。
固定化前の記憶への介入効果を示 す上では適切。記憶形成から介入 まで24時間経過していないため, 再固定化との関連は不明。 Siegesleitner et al.2019固定化後の記憶への イメージ書き直しの 効果の検証。
健常大学生ランダム化した実験研究。ト ラウマフィルムで形成した記 憶に対し介入を実施。
イメージ書き直し群29名,イ メージ再体験群29名,介入を行 わない統制群30名。
イメージ書き直し群では統制群に 比べて迅速に侵入記憶が減少。侵 入記憶の総数については群間に差 がない。
記憶形成から介入まで24時間経 過しているため,再固定化との関 連を検討する上で適切なデザイン である。 Dibbets et al.2012恐怖反応の再発への イメージ書き直しの 効果の検証。
健常大学生ランダム化した実験研究。恐 怖条件づけにより形成した記 憶に対し介入を実施。
ABAイメージ書き直し群25名, ABA統制イメージ群16名,ABA 消去群14名,AAA消去群15名 (ABAでは再発を引き起こすため に介入時に文脈を変更し,AAA では変更していない)。
ABAイメージ書き直し群では, ABA消去群に比べて恐怖反応の 再発が小さい。
固定化前の記憶への介入効果を示 す上では適切。記憶形成から介入 まで24時間経過していないため, 再固定化との関連は不明。 Kindt et al.2007イメージ書き直しに よるトラウマ処理メ カニズムの検討。
PTSD患者シングルアーム研究。トラウ マ記憶に対し介入を実施。単群のため群わけはなし。治療前後の知覚的処理,治療後と フォローアップ間の概念的処理が PTSD症状の低減を予測する。
統制群を設けていないため,記憶 の変化がイメージ書き直しによる ものか不明。 Kunze et al.2017悪夢障害に対するイ メージ書き直しとイ メージエクスポー ジャーの治療効果の 比較。
悪夢障害患者ランダム化比較試験。悪夢イ メージに対し介入を実施。イメージ書き直し群35名,イ メージエクスポージャー群33名, 待機群36名。
両技法は悪夢の頻度や苦痛度を低 減させ,3ヶ月後,6ヶ月後のフォ ローアップでも効果が維持され る。
イメージ書き直しとイメージエク スポージャーの治療効果や再発の 程度を比較する上で,適切なデザ インである。
メージ書き直しには必要であると考察してい る。また,上記のイメージ書き直しの要素は,
記憶を想起した後に新しい情報が必要であると いう再固定化を利用した記憶の減弱の性質と対 応していると考察している。
Dibbets & Arntz(2016)はイメージ書き直 しを行う際に,最も侵襲的なシーンを想起する 必要性があるかどうかを検討した。大学生100 名を対象にトラウマフィルムを見せ,その直後 に侵襲的なシーンを含むイメージ書き直し,侵 襲的なシーンを含まないイメージ書き直し,イ メージ暴露,待機のいずれかを行った。また,
実験参加者は実験後7日間のトラウマフィルム の侵入記憶の回数を日誌に記録した。その結 果,侵襲的なシーンを含むイメージ書き直し群 のみが,待機群に比べて侵入記憶の回数が少な かった。したがって,イメージ書き直しでは侵 襲的なシーンを想起することが有効であること が示された。Dibbets & Arntzはこの結果から,
侵襲的なシーンの心的表象を活性化した場合の みで記憶が改変され,再固定化されたと考察し ている。
睡眠が記憶の固定化に重要であることが知ら れているので(Nader, 2003),ヒトに対する再 固定化を利用した介入の効果を検討する場合,
恐怖条件づけと介入の間隔は通常24時間に設 定 さ れ る(Schiller et al., 2010)。Hagenaars &
Arntz(2012),Dibbets, & Arntz(2016)は実 験の結果からイメージ書き直しと再固定化の関 係を考察しているが,恐怖記憶の形成から介入 までの期間が24時間以内であり,固定化され る前の記憶を扱っているため,再固定化との関 連を検討しているとは言えない。Siegesleitner et al.(2019)は 上 記 のHagenaars & Arntzと Dibbets & Arntzの 研 究 が 固 定 化 前 の 記 憶 を 扱っていたという問題点を指摘した上で,固定 化後の記憶を対象とする実験研究を行った。大 学生88名をイメージ書き直しを行う群(イメー ジ書き直し群),恐怖記憶をただ想起する群(イ メージ再体験群),介入を行わない群(統制群)
に振り分けた。また,固定化後の恐怖記憶に対 するイメージ書き直しの効果を検証するため に,恐怖記憶形成の24時間後に介入を行うデ ザインを用いた。1日目にトラウマフィルムに よって恐怖記憶を形成し,2日目にまず恐怖記 憶を想起させ,その10分後にいずれかの介入 を行った。また,2日目から1週間後にフォロー アップを実施した。参加者は2日目とフォロー アップの間の侵入記憶の回数を記録した。その 結果,イメージ書き直し群では統制群に比べて 迅速な侵入記憶の減少が見られた。しかし,侵 入記憶の総数については群間に差が見られな かった。この結果から,Siegesleitner et al.は再 固定化とイメージ書き直しの関係については明 らかにすることができなかったと考察してい る。また,この研究の限界点として,侵入記憶 の回数に床効果が見られた点が挙げられてい る。
恐怖条件づけパラダイムとは,先述した恐怖 条件づけによって恐怖記憶を形成する実験パラ ダイムである。Dibbets et al.(2012)は大学生 70名を対象に,恐怖条件づけによって形成し た恐怖記憶に対する通常の消去訓練とイメージ 書き直しを併用した消去訓練の効果を比較し た。それにより,イメージ書き直しを併用した 消去訓練では,通常の消去訓練に比べて恐怖反 応の再発が小さいことが示された。Dibbets et al.は全ての実験手続きを一日で行ったため,
この研究の介入が固定化のプロセスに影響を及 ぼしたのか,再固定化のプロセスに影響を及ぼ したのか判別することができないと考察してい る。
【患者を対象とした臨床研究】
患者を対象とした臨床研究としては,2件の 論文が抽出された。Kindt et al.(2007)は,イ メージ書き直しによるトラウマ処理のメカニズ ムを明らかにするために,イメージ書き直しを PTSD患者25名に行い,治療前,治療後,1カ 月フォローアップ時のトラウマ記憶に関する語
りを比較した。トラウマの語りの知覚的記憶の 要素と概念的記憶の要素を録音テープから評定 し,その変化量をそれぞれ知覚的処理,概念的 処理というトラウマ処理の指標とした。その結 果,治療前後の知覚的処理,治療後とフォロー アップ間の概念的処理がPTSD症状の低減を予 測することが明らかになった。Kindt et al.は治 療前後の知覚的処理がPTSD症状の低減を予測 する理由として,恐怖記憶は知覚的要素が大き く,記憶は直接想起しないと再固定化されない ため,知覚的想起が治療効果に結びつくと考察 している。Kindt et al.は統制群を設けていない ため,トラウマの語りの変化がイメージ書き直 しによるものであるか明らかでなく,イメージ 書き直しと再固定化の関係を示しているとは言 えない。
Kunze et al.(2017)は104名の悪夢障害患 者を対象に,イメージ書き直しとイメージエク スポージャーの治療効果を比較するランダム化 比較試験を行った。その結果,両技法は悪夢の 頻度や苦痛度を低減させ,3カ月後,6カ月後 のフォローアップでも効果が維持されることが 示された。この研究のイメージ書き直しと想像 エクスポージャーの手続きでは,各セッション の治療の直前に悪夢の記憶を短時間想起すると いう手続きが含まれていた。そのため,イメー ジ書き直しと想像エクスポージャーが共に,再 固定化を利用した記憶の減弱を引き起こしてい た可能性があると考察している。
【文献レビューのまとめ】
以上の文献レビューから,イメージ書き直し の奏功メカニズムとして再固定化が注目され,
それらの関連が考察されてきたことが明らかに なった。しかし,トラウマフィルムパラダイム を用いたHagenaars & Arntz(2012),Dibbets
& Arntz(2016)の研究や,恐怖条件づけパラ ダイムを用いたDibbets et al.(2012)の研究の 実験手続きでは,記憶の形成から介入までの期 間が24時間以内であり,固定化される前の記
憶を扱っているため,再固定化との関連を検討 していると言えない実験デザインであった。
Siegesleitner et al.(2019)はトラウマフィルム による恐怖記憶の形成と介入の間隔を24時間 に設定することにより,固定化後の恐怖記憶に 対するイメージ書き直しの効果を実験的に検証 した。しかし,侵入記憶の回数に床効果が見ら れてしまったことにより,イメージ書き直しの 固定化後の恐怖記憶に対する効果を明らかにす ることはできなかった。
またKindt et al.(2007),Kunze et al.(2017) の患者を対象とした臨床研究ではイメージ書き 直しと再固定化の関連については考察されてい るのみであり,両者の直接的な関連については 示されていない。したがって本レビューから,
現時点ではイメージ書き直しと再固定化の関係 が示されていないことが明らかになった。
【イメージ書き直しと再固定化の 関係に関する考察】
背景で述べたように,恐怖条件づけ後に消去 訓練を行うと恐怖反応が一時的に低減するが,
恐怖記憶は減弱されないため恐怖反応が再発す る。一方,恐怖記憶を想起した10分後に消去 訓練を行うと,恐怖反応は再発しない(Schiller et al., 2010; Kredlow et al., 2016)。こ れ は 想 起 によって再固定化過程が生起し,消去訓練に よってCSに関する新しい情報が取得され,恐 怖記憶が減弱されるためである。また,このよ うな手続きは想起後消去訓練と呼ばれている。
Agren et al.(2016)は再固定化の進行中に イメージを用いた消去訓練(CSのみが呈示さ れ,USが呈示されない場面をイメージする手 続き)を行うことで恐怖記憶を減弱できるかを 検討した。恐怖条件づけによって形成した恐怖 記憶に対して,記憶想起の10分後にイメージ 消去訓練を行う群(10分×イメージ群)と,
記憶想起10分後に現実での消去訓練を行う群
(10分×現実群),記憶想起6時間後にイメージ 消去訓練を行う群(6時間×イメージ群),記
憶想起6時間後に現実消去訓練を行う群(6時 間×現実群)を比較した。想起の10分後では 再固定化は進行中であるが,6時間後には完了 しているため(Nader et al., 2000; Schiller et al., 2010),10分×イメージ群,10分×現実群では 恐怖反応は再発せず,6時間×イメージ群,6 時間×現実群では再発すると仮説が立てられ た。1日目に恐怖条件づけ,2日目に想起と消 去訓練,3日目に再発テストを行う3日間の実 験が行われた。その結果,6時間×イメージ群 と6時間×現実群では2日目に恐怖反応が低減 して3日目に再発したのに対し,10分×イメー ジ群と10分×現実群では恐怖反応が低減し再 発しないことが示された。以上のことから,実 際に恐怖対象に暴露せずイメージ暴露を用いた 場合でも,再固定化を利用して恐怖記憶を減弱 できることが示唆された。
Agren et al.は こ の 研 究 を 持 続 エ ク ス ポ ー ジャー療法の基礎研究として位置付けている。
持続エクスポージャー療法では恐怖記憶を長時 間想起する手続きが行われ,イメージ書き直し のように安全な展開のイメージを挿入するとい う手続きは含まれない(Foa, 2011)。したがっ て,持続エクスポージャー療法的な介入を実験 的に再現するならば,「CSとUSが提示される」
という恐怖記憶を想起し続けるという手続きを 用いる必要があると考えられる。しかしなが ら,この研究のイメージ消去訓練は「CSのみ が提示される」というイメージを教示によって 想像するという手続きである。そのため,この 手続きは恐怖記憶を想起し続けるという持続エ クスポージャー療法の手続きとは一致しておら ず,むしろ安全な展開をイメージするというイ メージ書き直しの手続きと一致していると考え られる。以上を踏まえると,イメージ書き直し は恐怖記憶の想起によって再固定化過程を生起 させ,その後の安全な展開のイメージの挿入に よって再固定化進行中に記憶を減弱している可 能性があると考えられる。
先述した通り,想起後消去訓練の研究では,
恐怖記憶を想起した10分後に消去訓練を行う という手続きが用いられている(Schiller et al., 2010; Kredlow et al., 2016)。これは,恐怖記憶 を想起した直後に消去訓練を行うと,再固定化 過程が開始する前に消去学習が成立してしま い,恐怖記憶の減弱が起こらないためである
(Monfils et al., 2009)。Agren et al.の研究にお いても,同様の理由から10分後にイメージ消 去訓練を行うという手続きが用いられている。
しかしイメージ書き直しには,記憶想起とイ メージの挿入の間に10分時間を空けるという 手続きは含まれていない。したがってこの点に 関しては,Agren et al.の研究の手続きと,イ メージ書き直しの手続きは必ずしも一致してい ないと言える。しかしながら,イメージ書き直 しでも記憶想起直後にイメージの挿入を行うわ けではなく,Figure 1の④の手続き(記憶のイ メージの中で,何が起こっていて何を感じてい るのか,現在時制で患者に語ってもらう)が記 憶想起とイメージの挿入の間に存在する。その ため,④の手続きを行っている間に再固定化過 程が開始され,再固定化を利用した恐怖記憶の 減弱が起こっている可能性もある。
【今後の研究の展望】
ここまでの文献レビューや考察を踏まえ,今 後行われるべき研究に関する展望を以下に述べ る。
先述した通り,消去学習後には恐怖反応が再 発するのに対し,再固定化を利用した介入では 恐怖反応が再発しないことが知られている
(Schiller et al., 2010; Kredlow et al., 2016)。し たがって,イメージエクスポージャーが消去学 習を利用した介入であり,イメージ書き直しが 再固定化を利用した介入であるならば,イメー ジ書き直し後の再発率はイメージエクスポー ジャーに比べて低くなる可能性がある。しか し,悪夢障害に対するイメージ書き直しとイ メージエクスポージャーの再発率の違いは示さ れなかった(Kunze et al., 2017)。今後,悪夢
障害以外の疾患も対象としてイメージ書き直し とイメージエクスポージャーの再発率を比較す るランダム化比較試験を行うことで,上記の仮 説について検証することができると考えられ る。
また,通常の消去訓練と想起後消去訓練で は,恐怖反応の低減に関わる脳部位が異なるこ とが示されている(Schiller et al., 2013; Lee et
al., 2016)。通常の消去訓練では腹内側前頭前
野(ventral medial prefrontal cortex; vmPFC) による扁桃体の活動の抑制が起こるのに対し,
想起後消去訓練ではvmPFCの関与なしに扁桃 体の活動が低減する(Schiller et al., 2013)。こ れは通常の消去訓練では消去学習が成立するた め扁桃体における恐怖記憶の減弱が起こらない が,想起後消去訓練では扁桃体における再固定 化進行中の恐怖記憶の減弱が起こるためだと考 えられている。したがって,イメージエクス ポージャーにて消去学習が起こっており,イ メージ書き直しでは再固定化を利用した恐怖記 憶の減弱が起こっているとすれば,イメージエ クスポージャーではvmPFCによる扁桃体の活 動抑制が見られ,イメージ書き直しでは扁桃体 の活動の低減のみが見られる可能性がある。イ メージ書き直しとイメージエクスポージャー後 の恐怖対象に対する脳活動を比較することによ り,上記の仮説について明らかにすることがで きると考えられる。
さらに,再固定化を利用した介入は,情動記 憶だけでなく陳述記憶,エピソード記憶にも影 響を与えることが知られている(Schwabe &
Wolf, 2009; Kredlow & Otto, 2015)。し た が っ て,イメージエクスポージャーではトラウマに 関する陳述内容に変化はなく,イメージ書き直 しでは陳述内容に変化が見られる可能性があ る。Kindt et al.(2007)はイメージ書き直しに よるトラウマに関する語りの変化を検討した が,イメージエクスポージャーとの比較は行 なっていない。イメージ書き直しとイメージエ クスポージャー後のトラウマに関する陳述内容
の変化量の違いを検討することで,上記の仮説 の検証ができると考えられる。
Agren et al.(2016)は恐怖条件づけパラダ イムを用いて,イメージを用いて再固定化進行 中の恐怖記憶を減弱できることを示した。先述 した通り,その研究のイメージを用いた介入の 手続きは概ねイメージ書き直しの手続きと一致 するものであったが,恐怖記憶の想起とイメー ジを用いた介入の間に10分の時間を設けてい るという点がイメージ書き直しの手続きと異 なっていた。想起後消去訓練によって再固定化 進行中の恐怖記憶の減弱を引き起こす場合に は,記憶想起と消去訓練の間に10分時間を開 ける必要性が指摘されているが(Monfils et al., 2009),イメージを用いた介入を行う場合に同 様の時間が必要かどうかは明らかにされていな い。したがって,恐怖条件づけパラダイムを用 いて,記憶想起直後にイメージを用いた介入を 行う条件と記憶想起10分後にイメージを用い た介入を行う条件を比較し,介入効果が異なる のかという点に関する検討が必要である。
【結論】
文献レビューにより,イメージ書き直しの奏 功メカニズムとして再固定化が注目され,それ らの関連が考察されてきたことが明らかになっ た。しかしながら今回のレビューの対象となっ たイメージ書き直しのメカニズム研究の中に,
イメージ書き直しと再固定化との関連を実証的 に示した研究は存在しなかった。再固定化進行 中のイメージを用いた介入が恐怖記憶を減弱す ることを示したAgren et al.(2016)の研究の 手続きは,イメージ書き直しの手続きと類似し ている。この研究を踏まえると,イメージ書き 直しは恐怖記憶の想起によって再固定化過程を 生起させ,その後の安全な展開のイメージの挿 入によって再固定化進行中に記憶を減弱してい る可能性があると考えられる。今後の研究では イメージ書き直しと再固定化の関係を検討する ために,(1)イメージ書き直しとイメージエク
スポージャーの再発率の比較,(2)イメージ書 き直しとイメージエクスポージャーに関与する 脳部位の比較,(3)イメージ書き直しとイメー ジエクスポージャーによるトラウマの陳述内容 の変化の比較,(4)記憶想起直後にイメージを 挿入する条件と記憶想起10分後にイメージを 挿入する条件の比較,が行われる必要がある。
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Relation between Imagery Rescripting of Fear Memory and Memory Reconsolidation
Yusuke Nitta
1,2Toru Takahashi
1,2Hiroaki Kumano
31Graduate School of Human Sciences, Waseda University
2Research fellow at Japan Society for the Promotion of Science
3Faculty of Human Sciences, Waseda University
Abstract
Introduction: Imagery rescripting is a method to rescript the imagery of fear memory to safety imagery.
Although the mechanism of imagery rescripting is not clear, it has been thought to diminish fear memory through reconsolidation. Method: A search of Web of Science and Science Direct was conducted. The search term (“imagery rescripting” and “reconsolidation”) was used. Results: This review revealed that no study has indicated the relation between imagery rescripting and reconsolidation. Conclusions: Further research should (1) compare the late relapse of imagery rescripting and imaginal exposure, (2) compare the brain activities related to imagery rescripting and imaginal exposure, (3) compare the changes of the declarative contents of traumatic memory after imagery rescripting and imaginal exposure, and (4) compare the intervention effects of inserting imagery immediately after retrieval and 10 minutes after retrieval.
Key Words: imagery rescripting, memory reconsolidation, traumatic memory, fear conditioning, trauma film paradigm