集合住宅における床先行工法の音響性能
浜田 由記子
*1,田端 淳
*1,河原塚 透
*1,池上 龍太郎
*2,佐々木 晴夫
*3Keywords : multiple dwelling houses, partition wall, floor preceding method, sound insulation performance, measurement 集合住宅,住戸内間仕切壁,床先行工法,遮音性能,実測
1. はじめに
集合住宅の内装仕上工法は,間仕切壁と乾式二重床 の施工手順の違いにより,図-1に示す壁先行工法と 床先行工法とに大別される。前者は従来から一般的に 行われる方法で,始めに間仕切壁を床スラブ間に設け,
壁によって仕切られた個々の居室に乾式二重床を施工 する。後者は始めに乾式二重床の下地材を部屋割に依 らずに施工し,床下地材の上に間仕切壁を施工する。
床先行工法は壁先行工法と比較して表-1に示す特 徴が考えられる。施工性の良さなど多くのメリットを 持つ床先行工法の普及を図るため,両工法の音響性能 を現場および実験室で比較した。さらに,床先行工法 とすることにより性能が低下した場合の改善工法を検 証したので,併せて報告する。
2. 音響性能の比較
対象とした音響性能は以下の4項目で,それぞれに ついて施工法の違いによる相対的な性能評価を行う。
①床衝撃音遮断性能(重量・軽量)
②居室間の遮音性能(一般壁・遮音壁)
③排水竪管周りの遮音性能 ④振動伝搬性能
なお,①は異なる住戸間の性能,②~④は自住戸内の 性能を測定するものである。
間仕切壁は測定対象室の遮音性能の要求に見合う断 面を図-2から選定し,乾式二重床は一般的な集合住 宅で用いる仕様(パーチクルボート
t20+
フローリングt12
)とした。各施工法の壁と床との取り合いについては,図-1の断面を標準施工法とした。
*1 技術センター建築技術研究所環境研究室
*2 マンション本部マンション生産管理部
*3 建築本部建築技術部
図-1 内装仕上工法 Fig.1 Interior construction method
図-2 間仕切壁と遮音性能要求 Fig.2 Requirement of sound insulation performance
at inner-partition-wall 特に高い
(主寝室)
高い
(LD、個室)
一般
(その他)
高い
(PS壁)
一般
(PS壁)
凡例 遮音壁
A-2
遮音壁 A-1
一般壁 B
遮音壁 C-2
一般壁 D PB枚数 両面2枚
t12.5+9.5
両面1枚 t12.5
両面1枚 t12.5
片面2枚 t12.5+12.5
片面1枚 t12.5
内部吸音材 あり あり なし あり なし
断面図
遮音性能の要求度 (施工部位)
間仕切壁
PS PS
表-1 床先行工法の特徴 Table 1 Caractoristic of floor preceding method
床先行の特徴
長所
・施工中 床下地材、間仕切壁面積(二重床下)が減少 平らな床下地により、施工性が向上 他の内装工事との工程管理が容易
・竣工後 床下地材に手を加えずに,壁の撤去・位置変更が可能
・音響面 壁際、出入口部の床鳴り減少 扉、引き戸開閉音の影響が減少
短所 ・竣工後 壁際の重量物により、床と壁が一体となって動くことがある
・音響面 床下地がつながっており、発生音・振動が伝搬しやすい 天井 天井
フ ローリ ンク ゙ 床下地
乾式 二重床 住戸内間仕切壁 (遮音壁の場合は
内部GW充填) 壁下補強脚
乾式 二重床
【壁先行工法】 【床先行工法(標準施工法)】
住戸内間仕切壁 (遮音壁の場合は 内部GW充填)
3. 測定方法と結果
3.1 床衝撃音遮断性能
図-3に示す建物
I
において図-2の間仕切壁(遮 音壁A-1
,一般壁B
)を各工法で施工し,床衝撃音遮 断性能(重量・軽量)をJIS A1418-1,2
に準拠して測定 した。測定結果を図-4に示す。床先行工法の床衝撃 音遮断性能を壁先行と比較したところ,以下の結果を 得た。・直 下:〈重量〉
Li,Fmax,r,H(1)-50
で同等 〈軽量〉Li,r,L-45
で同等・斜 下:〈重量〉
Li,Fmax,r,H(1)-50
で同等 〈軽量〉Li,r,L-40
で同等従って,上下階住戸間の床衝撃音遮断性能については
施工法による差は無いと判断した。
参考として自住戸内隣室間の測定結果を図-5に示す。
・真 横:〈重量〉壁先行
Li,Fmax,r,H(1)-70
, 床先行Li,Fmax,r,H(1)-75
(250Hz,500Hz
で4dB
差)
〈軽量〉Li,r,L-70
で同等真横方向の性能については施工法による差が
1
ランク 程度生じている。これは床下地材がつながっているこ とによって隣室へ振動が伝搬した影響と考える。3.2 室間遮音性能
3.2.1
標準的な施工法による遮音性能3.1
と同じ条件(遮音壁A-1
,一般壁B
)について室 間遮音性能をJIS A1417
に準拠して測定した。測定結 果を図-6に示す。床先行工法の性能を壁先行と比較図-3 測定対象 Fig.3 Measurement buildings 建物
I
建物Ⅱ (2u→2l)
(2u→3l)
(2u→3u)
床衝撃音測定 室間遮音測定
図-4 床衝撃音遮断性能(上下階)
Fig.4 Impact sound insulation of floor (vertical floor) 一般壁 遮音壁
室1 室2
室3
3,800 5,700 4,000
5,4004,400
一般壁 遮音壁
室1u 室2u 室3u
室2l 室3l 上階
下階
図-5 床衝撃音遮断性能(自住戸隣室)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数 (Hz)
床衝撃音レベル (dB)
壁先行 直下 44dBA 床先行 直下 44dBA 壁先行 斜め 42dBA 床先行 斜め 41dBA
【 加振源:タッピングマシン 】 L-30 L-35 L-45 L-50 L-55 L-60 L-65 L-70 L-75
L-40
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数 (Hz)
床衝撃音レベル (dB)
壁先行 直下 51dBA 床先行 直下 50dBA 壁先行 斜め 49dBA 床先行 斜め 48dBA
L-30 L-35 L-45 L-50 L-55 L-60 L-65 L-70 L-75
L-40
【 加振源:バングマシン 】
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数 (Hz)
床衝撃音レベル (dB)
壁先行 真横 72dBA 床先行 真横 71dBA
【 加振源:タッピングマシン 】 L-30 L-35 L-45 L-50 L-55 L-60 L-65 L-70 L-75
L-40
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数 (Hz)
床衝撃音レベル (dB)
壁先行 真横 74dBA 床先行 真横 77dBA
L-30 L-35 L-45 L-50 L-55 L-60 L-65 L-70 L-75
L-40
【 加振源:バングマシン 】
室4 室5
5,000
4,410
したところ,以下の結果を得た。
・遮音壁(
A-1
):壁先行Dr-30
Ⅰ,床先行Dr-25
(
250Hz
で3dB
差)・一般壁(
B
):Dr-25
で同等遮音壁では
250Hz
における遮音性能の低下により,床 先行工法による性能が1ランク悪い。これは間仕切壁 の振動が床下地材を介して伝搬して隣室で再放射した ためと考えられる。そこで,遮音壁の性能低下を改善 するために,床下地材による振動伝搬を絶縁する対策 工法を検討した。3.2.2
対策工法による遮音性能図-7のように間仕切壁の位置で乾式二重床の下地 材の端を揃え,隣接する
2
室に同一の床下地材が配置されないように変更したものを床先行対策工法とする。
建物Ⅱに壁先行と床先行標準施工法(図-2
A-2
),床 先行対策工法(図-7TA-2
)の3
種の間仕切壁を施工 して室間遮音性能を測定した。測定結果を図-8に示 す。床先行対策工法では遮音性能が壁先行と同等であ り,遮音性能の改善が期待できる。3.3 パイプシャフト壁の遮音性能
図-9に示す実験室に排水竪管(
DVLP
管φ100
),各工法によるパイプシャフト壁(以降
PS
壁,図-2:遮音壁
C-2,
一般壁D
)を施工し,排水管上流に設置し た便器洗浄時(排水量10L
)の透過音を実験室内の測 定点5
点で測定した。便器洗浄時のPS
壁透過音を5
点 の平均値として図-10
に示す。床先行工法の騒音レベ図-5 床衝撃音遮断性能(自住戸内隣室)
Fig.5 Impact sound insulation of f floor (next room)
図-7 床先行 対策工法 Fig.7 Improvement of floor preceding method
図-8 対策工法による室間遮音性能 Fig.8 Sound reduction performance of improvement method
0 10 20 30 40 50 60
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数(Hz)
室間音圧レベル差(dB)
壁先行 Dr-30
床先行(標準施工法) Dr-25 床先行(対策工法) Dr-30
Dr-15 Dr-20 Dr-25 Dr-30Ⅰ Dr-30Ⅱ Dr-35 Dr-30 Dr-40
図-6 標準施工法による室間遮音性能 Fig.6 Sound reduction performance of standard method
特に高い
(寝室周り)
高い
(LD、個室)
凡例 遮音壁
TA-2
遮音壁 TA-1 PB枚数 両面2枚
t12.5+9.5
両面2枚 t12.5
内部吸音材 あり あり
断面図 間仕切壁
床先行 対策工法
床下地材と壁の配置 床下地材 の端を壁 に揃える
0 10 20 30 40 50 60
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数(Hz)
室間音圧レベル差 (dB)
壁先行 Dr-25 床先行 Dr-25
Dr-20 Dr-25 Dr-30Ⅰ Dr-30Ⅱ Dr-35 Dr-30 Dr-40
Dr-15
【 一般壁 】 0
10 20 30 40 50 60
63 125 250 500 1000 2000 4000 オクターブバンド中心周波数(Hz)
室間音圧レベル差 (dB)
壁先行 Dr-30I 床先行 Dr-25
Dr-20 Dr-25 Dr-30Ⅰ Dr-30Ⅱ Dr-35 Dr-30 Dr-40
Dr-15
【 遮音壁 】
ルを壁先行と比較したところ,以下の結果を得た。
・遮音壁(
C-2
):34dB
で同等・一般壁(
D
) :壁先行37dB
,床先行35dB
で2dB
小さい遮音壁の場合は,
PS
壁の内側の吸音材により管壁放射 音が小さくなるために施工法による差は無く,一般壁 の場合は,二重床の下地材や仕上床が壁構成材よりも 遮音性能が高いと考えられるため,床下の壁材の有無 が遮音性能に影響しなかったものと考えられる。従っ て,PS
壁については施工法による差は生じないと判断 した。3.4 振動伝搬性能
建物Ⅱに床先行通常施工法(一般壁:図-2
B
),床先行対策工法(遮音壁:図-7
TA-1
),建物Ⅲに壁 先行(一般壁:図-2B
)を施工した。いずれの条件 も壁の両側1.3m
の範囲に10
点の加振点,受振点を設け,
JIS A1418-2
に規定する標準重量衝撃源(2)
(以降ボール)を床上
10cm
から落下させて,振動加速度の 最大値を測定した。既往研究1)によれば,1)
成人の踵歩 行による振動加速度は5Hz
以上100Hz
までの帯域で周 波数に比例して増加し,この全帯域でボール落下によ る振動加速度の最大値との対応が良い,2)
通常歩行の 振動加速度は9Hz
以上の周波数で踵歩行より小さく,30Hz
付近では約1/10
程度,としている。そこで,測 定値を踵歩行相当,2)
による差を補正した値を通常歩 行相当と考えて鉛直振動の評価曲線 2)を用いて体感振 動評価を行った。図-
11
に測定位置,図-12
にボール落下時の振動加 速度の最大値(踵歩行相当)を体感振動の評価曲線と 共に示す。1)
踵歩行【壁際加振】壁先行(B
):V-70
,1)踵歩行【壁際加振】 床先行通常工法(
B
):V-90
, 1)踵歩行【壁際加振】 床先行対策工法(TA-1
):V-10
0 10 20 30 40 50 60 70 80
63 125 250 500 1000 2000 4000 A オクターブバンド中心周波数(Hz)
音圧レベル(dB)
壁先行 GWあり ボード2枚 34dBA 床先行 GWあり ボード2枚 34dBA
63 125 250 500 1000 2000 4000 A オクターブバンド中心周波数(Hz)
壁先行 GWなし ボード1枚 37dBA 床先行 GWなし ボード1枚 35dBA
図-9 実験室と測定位置 Fig.9 Measurement points at test room
加・受振点
①②③④⑤ ⑥⑦⑧⑨⑩
6,130
4,200
1,300 1,300 壁際@100,他@300
建物Ⅲ
図-11 鉛直振動の測定位置 Fig.11 Measurement points of vertical vibration
図-10 排水竪管周壁からの透過音 Fig.10 SPL of transmittion sound from pipe shaft wall
0.1 1.0 10.0 100.0
1 10 100
周波数(Hz)
応答加速度(cm/s2)
壁先行 ④→⑦
床先行(通常施工法) ④→⑦ 床先行(対策工法) ④→⑦ 壁先行 ①→⑩
床先行(通常施工法) ①→⑩ 床先行(対策工法) ①→⑩
V-90 V-70 V-50 V-30 V-10
壁際→壁際 中央→中央
④→⑦ ①→⑩
壁先行 V-70 V-30
床先行
(通常施工法) V-90 V-90 全て
V-10以下 床先行
(対策工法) V-10 V-70 踵歩行
通常歩行
図-12 鉛直振動の評価
DVLP管 φ100
音圧レベル測定点 集合管
1,800
便器から水を流す
上下ともロックウール詰 PS壁
150
4,600
音圧レベル測定点:5点
(FL+1.2m,1.5m)
500
450
【断面図】
【平面図】
3,700 2,900
【遮音壁】 【一般壁】
壁際加振の場合は,対策工法は床下地材の振動が絶 縁されているため,壁先行と同等以上の性能となった。
2)
踵歩行【室中央加振】壁先行(B
):V-30
,2踵歩行【室中央加振】 床先行通常工法(
B
):V-90
, 2踵歩行【室中央加振】 床先行対策工法(TA-1
):V-70
室中央加振の場合は,対策工法によっても壁先行よ り床先行工法の方が体感振動の評価は悪い。図-13
に 示すとおり,受振側の室内では振動加速度レベルは壁 際から室中央に向かって増幅する傾向があるが,床先 行の場合は壁先行より増幅量が大きく,対象壁以外か らの側路伝搬による影響を受けやすいと考えられる。3)
通常歩行:加振位置,施工法によらずV-10
以下 通常歩行に関しては,施工法による体感振動の評価 値に差は無い。4. まとめ
床先行工法による内装仕上を行った場合に,壁先行 工法と同等の音響性能が得られるかどうかを確認した 結果,以下の知見が得られた。
①床衝撃音遮断性能(重量・軽量)
上下階の住戸間:施工法による差は無い
自住戸内隣室間:床先行工法は
1
ランク程度不利②自住戸内の室間遮音性能(一般壁・遮音壁)
一般壁は通常施工法,遮音壁は対策工法を用いれば,
壁先行と床先行との性能差は無い
③
PS
壁の遮音性能 施工法による差は無い④振動伝搬性能(体感振動評価)
踵 歩 行:室中央加振の場合は壁先行より振動が知 覚されやすい
通常歩行:施工法による性能差は無い
以上より,自住戸内燐室間の床衝撃音遮断性能と振動 伝搬性能以外については床先行工法は壁先行工法と同 程度の音響性能を持つと言える。
5. おわりに
現在,自住戸内の居室間に対する音響性能について は学会等の性能規定が無く,壁先行工法の居室で得ら れた音響性能を性能目標値とすることが多い。しかし,
両施工法による性能差はわずかであり,比較して体験 する機会が無いとその差を実感することは難しい。ま た,床先行と壁先行とに音響性能の差があっても,実 際は自住戸内の発生音として許容される程度である可 能性もある。
今後,床先行工法の施工物件における実測データを 蓄積する。また,自住戸内の音響性能に対する絶対的 な目標値を検討する。
参考文献
1) 大脇雅直:床先行工法における住戸内遮音性能測定,騒 音制御,Vol.30 No.3,pp.217-221,2006.
2) 建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説,日本 建築学会,pp.1-16,2004.
図-13 ボール加振時の振動伝搬(20Hz)
Fig.13 Propagation of vibration
0 20 40 60 80 100 120
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
振動加速度レベル(dB)
壁先行 壁際④ 床先行(通常施工法) 壁際④ 床先行(対策工法) 壁際④ 壁先行 室中央① 床先行(通常施工法) 室中央① 床先行(対策工法) 室中央①
間仕切壁
壁際加振 室中央加振
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩
【受振室側】
【加振室側】