育者・教員養成で求められる学びの方向性について
著者 宮(森村) 祐子, 菊田 知子
雑誌名 東京家政大学教員養成教育推進室年報
巻 5
号 1
ページ 167‑175
発行年 2018‑02‑28
出版者 東京家政大学教員養成教育推進室
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010186/
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
「音楽科基礎Ⅲ」の授業から見える学生の現状と 保育者・教員養成で求められる学びの方向性について
児童教育学科 宮(森村) 祐子 帝京短期大学 菊田 知子*
1.問題の所在と研究目的
筆者らは、子どもとかかわる保育者や教育者は、子どもの心を、内面を感じ取ることができる感性
1)を持っていてもらいたいと思っている。保育者・教員養成課程では、様々な科目を通して感性を育むよう な実践もされているだろう。音楽分野においては、様々な美しい音楽を聴いたり演奏したりすることによ る、聴覚を通して感覚にダイレクトに訴えかける特性から、音楽的な側面からの感性の育成に寄与すると 考える。大きな目的としてはこのような感性の育成を大切にする音楽の授業でも、やはり必要になってく るのが理論学習である。演奏するためには、最低限音符や休符などの記号やリズムなどを理解する必要が ある。これらの楽典的な知識・技能は小学校時代に音楽の授業で身に付けてきているはずだが、筆者らの 実感として、学生たちに定着していない様子が見られるという現状がある。
日本の学校教育では、授業時数は少ない
2)が義務教育期間9年間を通して音楽科の授業は行われてい る。義務教育期間の積み上げとして、国民のほとんどは国語や算数の読み書きができるようになるが、音 楽については楽譜の読み書き(読むことだけでも)ができるようにはなっていない。室町(2015)の研究 においても、小学校教員養成課程の学生に行った「音符,休符,記号や音楽にかかわる用語」について理 解しているかの調査で、「在籍する学生の多くが小学校音楽の授業で取り扱うべき楽典事項を理解してい ると認識してはおらず,十分な読譜力を持っていないことが明らかとなった」と述べている
3)。また伊藤
(2012)は、教育学部における音楽科指導法の授業において、質問紙調査を通して学生に何が身に付いて いないのかを調査している
4)。それによると、楽譜を読むことに抵抗をおぼえる学生が4割強いることが わかり、その克服のために音楽理論の講義を取り入れているという。現在一般的な五線譜の楽譜は西洋音 楽から発展したもので、西洋音楽理論の基礎が楽典である。楽譜が読めないことはつまり楽典が理解でき ていないことであり、やはり音楽理論の学習は改めて必要であると考えられた。伊藤は「多くの規範や約 束ごとと相俟って発展したのが西洋音楽であるという前提に立って」楽典を取り入れており、筆者(宮)
の授業実践においても楽典を取り入れている。さらに授業では音楽史(西洋音楽史)も取り上げたが、今 まで学習したことがない、まったくわからないという学生の声があり、授業を行ってもあまり身に付かな かった様子が見られた。
本論文では、なぜこうした基礎的な楽典的なことが学生たちには身に付いてきていないのか、音楽史を
学習しても身に付かないのか、楽典と音楽史を中心とした授業科目の実践を通して見えた学生の現状の把
握から考察し、検討していく。さらに、そこから考えられる保育者・教員養成課程で求められる音楽の学
2.研究方法と授業内容
児童教育学科2年生の学生が選択で履修する「音楽科基礎Ⅲ」(平成29年度半期15回)授業において、
授業の振り返りと試験結果から学生の現状と課題を考察する。対象は平成29年4月から7月までの前期 授業、履修者数全28名
5)である。次項に授業内容の詳細を示すが、本論文では、楽典と音楽史に絞って 考察する。
(1)授業内容
筆者(宮)が担当している「音楽科基礎Ⅲ」は、楽典や簡単な音楽史の知識・理解と、小学校で主に使 用するソプラノリコーダーと鍵盤ハーモニカの基本的な演奏ができることを目標とした授業である。科目 の位置付けは、1、2年次を通して音楽科基礎Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳと半期ずつ4つの科目設定があるうちの、
2年次前期の選択科目である(表1)。
表1 本学児童教育学科における「教科に関する科目」の音楽演習科目(現行カリキュラム)
1年次前期 1年次後期 2年次前期 2年次後期
科目名
音楽科基礎Ⅰ(必修) 音楽科基礎Ⅱ(必修) 音楽科基礎Ⅲ(選択) 音楽科基礎Ⅳ(選択)
内容
基礎的なピアノ演習 子どもの歌の
弾き歌い演習 楽典・音楽史・器楽 小学校歌唱共通教材と 歌集曲の弾き歌い 授業形態 担当教員7人(1クラス
50人前後を7グループに 分ける)
担当教員7人(1クラス 50人前後を7グループに
分ける)
担当教員1人(例年 1クラス 20 ~ 30人前後)
担当教員2人(例年 1クラス 20 ~ 30人前後を
2グループに分ける)
1年次には必修で、前期に古典期を中心としたピアノ曲を通して、大譜表を読み両手で弾けることを目 指した音楽的基礎力を身に付ける授業「音楽科基礎Ⅰ」と、後期にコード伴奏を用いた子どもの歌の弾き 歌い習得を目指した授業「音楽科基礎Ⅱ」を行っている。1年次の科目は7人の教員による1グループ 7~8人ずつの授業である。2年次には選択科目として、前期には本論文の中心となる科目の「音楽科基 礎Ⅲ」が配置され、1年次の内容を発展させた楽典的な内容と、西洋音楽史の概要、リコーダーや鍵盤ハー モニカの演習なども含めた内容構成としている。後期には「音楽科基礎Ⅳ」で声楽を中心とした発展的内 容の弾き歌い演習も開設しており、2年次の内容は、3年次の教職に関する科目の「音楽科教育法」に入 る前に身に付けてもらいたい基礎的な音楽技能等を習得できるような配置にしている。
「音楽科基礎Ⅲ」は平成28年度から担当して2年目の取り組みである。前任者より、 「教科教育法をやっ てみて学生の楽典的知識の不足が見えた」
6)ことから、2年次の選択科目で教科教育法の前段となる内容、
特に楽典的内容を扱いたい、という意思を引き継いでいる。平成29年度の授業内容は次の通りである(表
2)。
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
表2 「音楽科基礎Ⅲ」シラバス
授業の到達目標1)基礎的な楽典的知識を理解し、調性判断や移調をすることができる。
2)基礎的な音楽史について理解し、時代や音楽家と作品などを結び付けることができる。
3)リコーダーと鍵盤ハーモニカの基本的な演奏ができる。
授業概要
本授業は、音楽科の指導に必要となる基礎的な知識・技能を身に付けることを目的とする。
具体的には、音楽的リテラシーとしての基礎的な楽典を理解し、調性判断や移調ができることを目指す。さらに、音 楽史について各自が主体的に調べることを通して、時代と音楽家と作品などを結び付けて理解できるようにする。また、
リコーダーや鍵盤ハーモニカなどの演奏を通して、基本的な器楽の演奏技術を習得する。3年次の「音楽科教育法」(小 教必)を受講するにあたり、習得しておくべきスキルを本授業で扱うので、なるべく履修することが望ましい。
授業計画
1 オリエンテーション 音の種類と性質、三要素について 2 音符と休符の種類と音価、音部記号、五線譜について 3 拍子とリズム
4 音名と階名、幹音と派生音 5 音程について(長短完全増減)
6 音階と調
7 五度圏、移調と転調 8 楽典のまとめ
9 音楽史の流れと作品の鑑賞 10 音楽史の発表①ルネサンス~古典 11 音楽史の発表②ロマン~現代 12 音楽史のまとめ
13 リコーダーの演習 14 鍵盤ハーモニカの演習 15 授業のまとめ
授業概要にもあるように、これらの内容は3年次の「音楽科教育法」を受講するにあたり身に付けてお
いてほしい内容である。小学校で音楽の授業をする場合、音符や楽譜が読める必要があるだろうし、また
正しく書けることも必要だろう。音楽史については、鑑賞教材を選択するときの観点や授業を行う視点か
ら、取り上げる楽曲の作曲家についての概要だけでも、教師側は知っておいてもらいたいと考える。各自
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
3.小学校教員養成課程の学生の音楽スキルの現状
(1)楽典内容の学習について
「音楽科基礎Ⅲ」では、中間試験までの7回で楽典的知識を一通り学習した。ここで扱う楽典的な内容 とは、音名や音階、音程、調などである。音楽教員を養成するわけではないため、和声などには踏み込ま ない。音楽大学あるいは音楽の実技試験がある教育学部などを受験しようとしていた学生や、個人的にピ アノを長いこと習ってきたような学生は既に知っている知識となるため、初回授業だけ出て内容を確認し た上で履修を取りやめた学生もいる。義務教育期間では学習していない内容であるが、一般に販売されて いる幼稚園や小学校教員を目指す学生向けのコード伴奏習得のテキストに記載されているレベルの楽典で ある。音階や調性の理解は、小学校教員を目指す学生には知っておいてもらいたい必要な内容であり、
シャープ(♯)やフラット(♭)の調号が増えていく仕組みを表した五度圏(circle of fifths)の図(図 1と図2)を用いて調性の理解を図った。調性判断まで学習内容に取り入れた理由は、この仕組みが理解 できると、教育現場において例えば子どもの音域に合わない歌があれば移調して歌うことが可能になり、
応用の利く技能習得となり得るからである。
授業を進めていく過程で、簡単なリズムや初歩的な音符の読み書きは、学生は理解していることがわ かった。1年次のピアノの学習や、コード伴奏による子どもの歌の弾き歌い習得の成果が出ていると言え るだろう。音程についても、数を数えながら理解することができた。多くの学生にとって関門となったの が、音階である。調号が増えていく音階の理解については、五度圏の図を使って規則的に調号が増えてい く仕組みを丁寧に説明したが、なかなか理解するのが困難であったようである。理解した学生がわからな い学生に仲間内で教え合っている様子が多々見られ、しばらくすると「なるほど!」「わかった!」と理 解できた様子が見られたが、中間試験において音階の問題を出題したところ、やはり正答率が低かった。
その場では理解ができても、自分の中で咀嚼できるまで定着していなかったということだろう。
(2)音楽史の学習について
中間試験後は音楽史について学習を進めたが、一方的に学生に講義をするのではなく、学生自身が調べ て取り組むことによって、知識の定着を図ろうと試みた。また今回の授業で取り扱う音楽史は、「1.問 題の所在と研究目的」において引用した、伊藤の音楽理論の講義を行うにあたっての「多くの規範や約束
13リコーダーの演習
14
鍵盤ハーモニカの演習
15授業のまとめ
授業概要にもあるように、これらの内容は
3年次の「音楽科教育法」を受講するにあたり身に付けて おいてほしい内容である。小学校で音楽の授業をする場合、音符や楽譜が読める必要があるだろうし、
また正しく書けることも必要だろう。音楽史については、鑑賞教材を選択するときの観点や授業を行う 視点から、取り上げる楽曲の作曲家についての概要だけでも、教師側は知っておいてもらいたいと考え る。各自の興味・関心に沿って主体的に調べることを通して、一方的な知識伝達ではない学びができる と考えた。なぜ授業で楽典と音楽史という違うジャンルを同一授業で取り扱ったかについて補足してお く。楽典とは、楽譜の読み書きに必要な音符や記号などに関する規則のことであり、楽譜からの情報を 読み取る方法である。楽譜からの情報とは、つまり作曲家からのメッセージであると言える。そうする と、心から楽しんだり影響を受けたりした音楽を通して、その作曲家や作品に興味を持ち、時代背景や メッセージを知りたくなる(ことを期待する)。このように考えると、楽典と音楽史は違うジャンルで はあるものの、大きな意味ではつながりがあると考える。
3.小学校教員養成課程の学生の音楽スキルの現状
(1)楽典内容の学習について
「音楽科基礎Ⅲ」では、中間試験までの
7回で楽典的知識を一通り学習した。ここで扱う楽典的な内 容とは、音名や音階、音程、調などである。音楽教員を養成するわけではないので、和声などには踏み 込まない。音楽大学あるいは音楽の実技試験がある教育学部などを受験しようとしていた学生や、個人 的にピアノを長いこと習ってきたような学生は既に知っている知識となるので、初回授業だけ出て内容 を確認した上で履修を取りやめた学生もいる。義務教育期間では学習していない内容であるが、一般に 販売されている幼稚園や小学校教員を目指す学生向けのコード伴奏習得のテキストに記載されている レベルの楽典である。音階や調性の理解は、小学校教員を目指す学生には知っておいてもらいたい必要 な内容であり、シャープ(♯)やフラット(♭)の調号が増えていく仕組みを表した五度圏(
circle of fifths) の図(図
1と図
2)を用いて調性の理解を図った。調性判断まで学習内容に取り入れた理由は、この仕 組みが理解できると、教育現場において例えば子どもの音域に合わない歌があれば移調して歌うことが 可能になり、応用の利く技能習得となり得るからである。
図 1 五度圏(日本語)7 図2 Circle of Fifths(英語)8 図1 五度圏(日本語)
7)13
リコーダーの演習
14鍵盤ハーモニカの演習
15授業のまとめ
授業概要にもあるように、これらの内容は
3年次の「音楽科教育法」を受講するにあたり身に付けて おいてほしい内容である。小学校で音楽の授業をする場合、音符や楽譜が読める必要があるだろうし、
また正しく書けることも必要だろう。音楽史については、鑑賞教材を選択するときの観点や授業を行う 視点から、取り上げる楽曲の作曲家についての概要だけでも、教師側は知っておいてもらいたいと考え る。各自の興味・関心に沿って主体的に調べることを通して、一方的な知識伝達ではない学びができる と考えた。なぜ授業で楽典と音楽史という違うジャンルを同一授業で取り扱ったかについて補足してお く。楽典とは、楽譜の読み書きに必要な音符や記号などに関する規則のことであり、楽譜からの情報を 読み取る方法である。楽譜からの情報とは、つまり作曲家からのメッセージであると言える。そうする と、心から楽しんだり影響を受けたりした音楽を通して、その作曲家や作品に興味を持ち、時代背景や メッセージを知りたくなる(ことを期待する)。このように考えると、楽典と音楽史は違うジャンルで はあるものの、大きな意味ではつながりがあると考える。
3.小学校教員養成課程の学生の音楽スキルの現状
(1)楽典内容の学習について
「音楽科基礎Ⅲ」では、中間試験までの
7回で楽典的知識を一通り学習した。ここで扱う楽典的な内 容とは、音名や音階、音程、調などである。音楽教員を養成するわけではないので、和声などには踏み 込まない。音楽大学あるいは音楽の実技試験がある教育学部などを受験しようとしていた学生や、個人 的にピアノを長いこと習ってきたような学生は既に知っている知識となるので、初回授業だけ出て内容 を確認した上で履修を取りやめた学生もいる。義務教育期間では学習していない内容であるが、一般に 販売されている幼稚園や小学校教員を目指す学生向けのコード伴奏習得のテキストに記載されている レベルの楽典である。音階や調性の理解は、小学校教員を目指す学生には知っておいてもらいたい必要 な内容であり、シャープ(♯)やフラット(♭)の調号が増えていく仕組みを表した五度圏(
circle of fifths) の図(図
1と図
2)を用いて調性の理解を図った。調性判断まで学習内容に取り入れた理由は、この仕 組みが理解できると、教育現場において例えば子どもの音域に合わない歌があれば移調して歌うことが 可能になり、応用の利く技能習得となり得るからである。
図 1 五度圏(日本語)7 図2 Circle of Fifths(英語)8 図2 Circle of Fifths(英語)
8)教員養成教育推進室年報 第5号(1)
ごとと相俟って発展したのが西洋音楽であるという前提に立って」という考えのもと、西洋音楽史に限定 することとした。
音楽史の学習に入る段階で、各自が調べたことを発表してもらうスタイルにすることを伝えた。個々が バラバラに好きなものを調べるのではなく、時代区分などでおおまかに区切りグループを設定し、その中 で1人1作曲家を調べるというものである。そこに協同学習の視点を取り入れようと試みた。
筆者が音楽史の学習において協同学習的視点を取り入れようと思ったのは、概略とはいえ知っておいて もらいたい範囲が広いからである。例えば西洋音楽史について講義をするとしたら、それ単体で講義科目 が立ち上がるくらいである。歴史を取り扱うものはどこまで掘り下げるかも難しい。進行は、音楽史4回 分の授業設定の中で、1回目にまず西洋音楽史の概略を筆者が説明し、2・3回目で学生が自ら調べたも のを発表してもらい、4回目で筆者による補足説明とまとめ、というスタイルを取った。
はじめに学生に音楽史についてどれくらい知っているのかを口頭で尋ねたところ、「モーツァルト」や
「ベートーヴェン」など有名どころの作曲家名はちらほら挙がったが、その作曲家がどの時代に生きた人 物なのか、だいたいの時代区分も知らない、わからない、という回答であった。小学校音楽科では特に音 楽史については取り扱わないが、指導者である教師側は、大まかな流れと代表的な作曲家や作風などを 知っておく必要があると考えている。例えば鑑賞の活動を考えた時に、児童に何を聴き取らせたいか、楽 器の音色にポイントを置いた場合、その楽器がいつ頃できたものなのか、もともとはどのような場面で使 われたものなのかなどを知っていることは、教材研究の助けになる。音楽史についての知識を学生がほと んど持ち合わせていないことには少し驚いたが、義務教育期間においては特段学習することはないため、
これが学生の現状であることがわかった。
「音楽史の流れ」として取り上げたのは、次の時代区分である。学生にも伝えたが、授業で紹介してい るものはほんの一部であり、様々な解釈により多少時代のずれもある点は付け加えておく。
・中世(6世紀頃~ 15世紀中頃)
・ルネサンス(15世紀~ 17世紀中頃)
・バロック(17世紀初頭~ 18世紀中頃)
・古典(18世紀中頃~ 19世紀初頭)
・ロマン(19世紀初頭~ 20世紀初期)
・近代(1890年~ 1920年)
・現代(1920年~)
まず、これらの時代の特徴について大まかに説明を行った。そして、次回から2回にわたり選んだ作曲 家の代表的な作品をいくつか紹介して発表する旨を伝えた。発表にあたっては2~3人で1グループを組 み、グループ内で同時代の作曲家を調べるようにし、1人1作曲家を担当することとした。発表にあたり 学生に示した目的・方法・内容は次の表3の通りである。
表3 音楽史の発表についての抜粋(目的・方法・内容)
1回の授業につき4グループが発表するため、8つのグループに分けることにした。表4はグループで 担当することになった作曲家の一覧である。
表4 グループで担当した作曲家
年代 調べた作曲家
① バロック ヴィヴァルディ・ヘンデル・バッハ
② 古典 ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェン
③ ロマン1 メンデルスゾーン・ショパン・シューマン
④ ロマン2 リスト・ワーグナー・ブラームス
⑤ ロマン3 サン =サーンス・ビゼー・ドヴォルザーク
⑥ ロマン4 ムソルグスキー・チャイコフスキー・フォーレ
⑦ ロマン5 グリーグ・エルガー・シベリウス
⑧ 近代 ドビュッシー・ラヴェル・ラフマニノフ
教員側で時代区分や作曲家を振り分けたのは、時間的制約もひとつであるが、この作曲家については自 分しか担当していない、という責任感を持たせるためでもある。さらに、協調学習におけるジグソー法の ような手法としても考えていた。一人一人が違う作曲家について調べるだけではなく、近い時代区分でグ ループを組み、その時代の作曲家について個々が調べたことを持ち寄ることにより、グループ内で共通す ることや特徴などの気付きや学びを得られることを期待して、このような方法を取った。この学習の成果 を見るために、音楽史4回目のまとめ時に確認ミニテストを、そして期末テストにも音楽史の内容を入れ て、成果を確認した。結果は次のようになった。
〈確認ミニテスト〉
確認ミニテストは、成績には入れないことを伝え、どこまで理解したかを確認するためだけに行った。
内容は、中世の音楽はどういうものかキーワードを書く、ルネサンスの音楽はどういうものか書く、バロッ ク・古典・ロマン・近代のそれぞれの時代の作曲家を3人ずつ挙げ、作曲した曲をいくつでも書く、とい う記述式のプリントである。28人中、22人が自分が担当した作曲家について、時代区分と作品名を書く ことができていた。残り6人は作品名は書けているが、時代区分の違うところに記述していた結果となっ た。自分の担当以外の時代区分にも、作品名までは書けなくても、作曲家名を一つも書けていないものは 皆無だった。
〈期末試験結果〉
期末試験においては、曲名と西洋音楽史上の時代区分の作曲者の組み合わせとして正しいものを五択で
選ぶ次の問題を出した。この問題は、とある都道府県等自治体の小学校教員採用試験で出された問題を参
考に、筆者(宮)が作り変えたものである。選択肢の項目は、実際に出題されたものと学生が調べて発表
したものをおりまぜている。次の表5と表6は作成・出題した問題の一部である。
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
表5 組み合わせ選択肢問題(1)
次の作曲者名、曲名及び西洋音楽史上の時代区分名の組み合わせとして正しいものを選びましょう。
(1) 曲名 西洋音楽史上の時代区分名 作曲者名
① ピアノ曲「クライスレリアーナ」 ロマン派 ショパン
② オルガン曲「トッカータとフーガニ短調」 ロマン派 バッハ
③ 交響曲「第6番ロ短調〈悲愴〉」 古典派 ベートーヴェン
④ ピアノ五重奏曲「ます」 バロック シューベルト
⑤ 歌劇「魔笛」 古典派 モーツァルト
(※正答は⑤)
表6 組み合わせ選択肢問題(2)
次の作曲者名、曲名及び西洋音楽史上の時代区分名の組み合わせとして正しいものを選びましょう。
(2) 曲名 西洋音楽史上の時代区分名 作曲者名
① オラトリオ「メサイア」 古典派 ヘンデル
② ピアノ曲「アベッグ変奏曲」 ロマン派 シューマン
③ バレエ音楽「火の鳥」 ロマン派 チャイコフスキー
④ ピアノ曲「水の戯れ」 古典派 ラヴェル
⑤ 交響曲「第94番 驚愕」 バロック ハイドン
(※正答は②)
回答者数合計28名から、複数選択で回答をしていた1名を除いた27名を母数として、小数点以下第2 位を四捨五入して正答率を計算した。その結果、(1)の正答率は約 29.6%、(2)の正答率は約 18.5%
であった。いずれもかなり低い正答率となった。(1)(2)とも、③の回答が半数を超えており、間違え やすそうな選択肢を入れたことに、学生の多くは誘導されてしまった結果と言える。
この結果から、今回の学習方法で、このような作品・時代・作曲家の正しい組み合わせを選ぶ問題では、
学習内容の習得の有無が正しくは確認できなかった。もし自分が調べた作曲家について、確認ミニテスト のように時代や作品等を記述式で問う問題を出していたら、学習したことを少しは記述できるだろうし、
知識の定着度はある程度はかれたのではないかと考える。
4.授業から見えた課題
(1)楽典と音楽史の試験結果から
れているので、問題作成の方法や回答方法にも左右され得る可能性があることがわかった。なぜならば、
確認ミニテストでは、例えば中世の音楽やルネサンス時代の音楽の特徴では、回答記述されたキーワード を見ると、宗教音楽(キリスト教音楽)やグレゴリオ聖歌、アカペラ、ネウマ譜といったようなことが書 かれ、授業で学習したことが大まかでも少しは知識として定着している様子が見られたからである。バ ロック以降の作曲家と作品を記述する問題については、思い出せるものを絞り出して書かれているものは 多かった。期末試験においても、何か正しく書けていれば加点されるような試験内容であれば、もう少し 点数は取れたかもしれない。しかしながら、確認ミニテストにおいても、作曲家名は書けても時代区分が 違っていたり、別の作曲家の作品を書いていたりするものも意外と多く、自分が調べた作曲家の時代と作 品は書けているものは当然多いが、同じグループ内の作曲家の名前が挙がっていないものも多く見られ、
やはりグループでの学びは効果的に機能せず、目標は達成されていない様子が残念ながらうかがえた。興 味深いのは、長い間音楽に触れてきた学生、多くはピアノを習ってきた学生であるが、そのような音楽経 験の長い学生ほど記述欄が埋まる傾向にあった。これはピアノのレッスンを通して様々な作曲家のクラ シック曲などと触れ合ってきたことが、長い時間をかけて蓄積されてきたことの証と言えるだろう。その ような学生にとっては、今回の授業がなくてもある程度の知識は初めから入っているため、授業による新 たな学び、伸び代はあまりなかったのではないかと考えられる。
(2)何のために音楽理論を習得するのか
授業を通して感じたことは、学生にとって楽典などの理論学習は、ただ目の前の試験課題をクリアする ための記号になってしまっているということである。何のために習得するのか、学生には目的を説明して きたつもりだが、いざ今まで知らなかった難しい記号や仕組みが出てくると、それに対峙することに精一 杯になり、目的がどこかへ抜けてしまうような感じである。平成28年12月21日に出された中央教育審議 会の答申では、新しい学習指導要領の改訂に向けて、「生きて働く」知識・技能や「生きて働く」力が目 指されている
9)。ここで覚えたことを単なる単発の知識として作曲家を言える、作品を言える、というだ けではなく、それらを関連させて当時の時代背景や生活状況、楽器、曲風なども含めて、例えばなぜこう いう音楽が生まれたのか、問いを立て、考える、そのような授業展開も考えられるだろう。また、そもそ も楽典や音楽史を学習すること自体が知識偏重になりやすく、ただの暗記モノになってしまう危険性をは らんでいる。本来の在り方としては、音楽をまず聴くことが先であり、聴くことによって音楽を感受し、
「この音楽素敵だな」「この曲が作曲された時代背景はどうだっただろう」という思いがわいてくるところ から、では音楽史を学習してみよう、という主体的な学びの方向性が出てくるべきである。この学びの矢 印が逆方向からになってしまった授業展開の結果が、本論文で述べてきた学生の実態であると言える。
5.今後の課題
筆者が行ってきた授業は、いわば音楽理論に重きを置いた授業であった。しかしこれらは本当に必要な 場面は限られてくるだろうし、教員採用試験のために取り入れるのかという指摘もあるかもしれない。そ れよりも、何のためにこれらの内容を学ぶのかと言えば、その先にいる子どもたちと、より良い音楽表現 の場を作ること、楽しい授業が展開できることなど、「子どもたちのため」である。それを見失い、目の 前の理論習得に悪戦苦闘しているのでは本末転倒である。これを知っていたらもっと楽しくなる、これを 子どもに伝えたい、という思いから学生自身が必要と感じて学習することが望ましい。そのように考える と、まずは学生自身が音楽をもっと楽しむことが大切である。学生たちは日常生活において、普段好きな 音楽を聴いたり踊ったりして楽しんでいるだろうが、学校教育の中では、今まで受けてきた授業において、
心から楽しいと感じるような音楽体験の機会は少なかったのではないか。そのため、学校の音楽は苦手と
教員養成教育推進室年報 第5号(1)
いう意識が先に来てしまったり、かまえてしまったりして授業を堅苦しく感じることが多かったかもしれ ない。楽しいと感じることがなければ、楽器や歌などを通して自ら表現してみたい、伝えたいという思い が出てくることは難しいだろう。ゆえに、本論文で取り上げた授業における楽典や音楽史などの知識は、
音楽活動を楽しいと感じ、もっと知りたいと興味関心が出てきて初めて意味のある知識習得になると考 える。
筆者らが考える、子どもと共に楽しむ音楽表現や音楽の授業を担う保育者や教員を育てるためには、音 楽修得の目的意識をはっきりさせ、自ら楽しむ音楽活動体験をすること。そういった音楽活動を授業の中 で少しでも多く学生に体験させ、心から興味関心を持ってもらうことが、養成校の教員に求められること であると考える。学生の意識が変わるきっかけになる授業内容をさらに検討していきたい。
注
1)筆者らの考える「感性」について詳しくは次の論文に記載している。森村祐子, 菊田知子(2016)「保 育者・教員養成におけるピアノ授業科目での試み:ピアノ伴奏に対する感性の高まりに着目して」
『東京家政大学研究紀要』56(1), pp.31-39
2)音楽科の年間授業時数(文部科学省 小学校及び中学校の学習指導要領「各教科等の授業時数」より 音楽科を抜粋したもの;年間35週を標準として)
毎日授業がある国語や算数と比べて1週間に1回程度である(低学年を除いて)。
第1学年 第2学年 第3学年 第4学年 第5学年 第6学年
小学校 68 70 60 60 50 50
中学校 45 35 35