液中粒子数濃度の計測および校正技術に関する調査研究
飯田健次郎 *
(平成22年6月8日受理)
Measurement and Calibration Techniques for the Particle Number Concentration in Liquids: A Review and Prospects
Kenjiro IIDA
Abstract
This paper gives an overview on the measurement and calibration techniques associated with the particle number concentration in liquid. In today’s society, the particle number concentrations in liquid media are routinely measured in various circumstances. There are regulations and industrial standards that specify the measurement methods and interpretations of the measurement results. Light scattering, light extinction, electrical-resistance-sensing, and electron microscopy are the commonly used measurement techniques, and all of these techniques except the electron microscopy are implemented in commercially available single-particle-counting instruments.
The counting efficiency of the particle counters are calibrated by using particle number standard suspensions. In these standard suspensions monodisperse standard particles of known diameters are suspended in water at known number concentration. Particle diameters range from 60 nm to 15 µm, which roughly correspond to the measurable diameter range of commercially available liquid particle counters (LPCs). The LPC users in the electronic device manufactures strongly wish the particle number concentration in the standard suspension to be traceable to the national metrology standard. However, the current calibration technique limits the traceable range to be above 600 nm, and the AIST provides the calibration service traceable to the national metrology standard. In order to satisfy the strong needs from the industries AIST plans to extend the traceable particle size range down to 100 nm by the year 2014 and down to 50 nm by the year 2020.
The current calibration technique used at the AIST is light scattering LPC method. Then the results are validated by using another independent method: microscopic method. Both methods count the total number of particles in an aliquot mass (or volume) or sample. The traceable diameter range of the light scattering LPC methods can be extended down to 200 nm, and the measurement results will be validated by the dried-mass-of-liquid-suspension method. The essence of this method is to convert the dried mass of the particle diameter standard suspension into the number of particles in the mass, knowing the average mass of one particle in the population. In principle, the traceable diameter range can be extended down to sub 50 nm using this method; however, the measurement uncertainty of this method will be significantly high (on an order of 10 %) for size below 100 nm because the uncertainty of the standard particles below 100 nm range is relatively large. Condensation-particle-counting type aerosol-technique-assisted method (or CPC method) can be used in the diameter range from sub-50 nm to 200 nm.
In this method, aerosolized standard particles will be first grown to micrometer-sized-droplets by inducing the condensational growth of working fluid vapor onto the particles. Then each individual droplet is counted by light scattering technique. The particle number concentration calibrated by the dried-mass-of-liquid-suspension method or CPC method can be validated by extending the diameter range of the microscopic methods down to sub 50 nm. By
* 計測標準研究部門 物性統計科 応用統計研究室
1. はじめに
粒子*は様々な産業分野で応用されている.生産過程 で粒子の使用が定着している例として,食品,薬品,セラ ミック,農薬,化粧品,洗剤,研磨剤,トナー,核燃料,鉄 鋼,粉末冶金,ガラス,シリカ,顔料,塗料,石炭,火薬,
などが挙げられる1).これらの粒子は化学組成が均一な 固体粒子であることが多いが,ユニークな形態の粒子と して,巨大分子である高分子(粒径約数 nm -数100 nm), 機能性有機分子が粒子の殻となっているミセル(数 nm
-数10 nm),液中浮遊液滴であるエマルジョン(100 nm
- 1 mm)などがある.そしてこれらは主に液中でのプロ
セスに利用されている.また,生体粒子として,ウイル ス(数10 nm - 100 nm),バクテリア(数10 nm - 100 nm),
血球などを含む細胞(>約1 µm)などがある.
一方近年,粒径約100 nm以下のナノ粒子の産業利用 範囲が拡大しつつある.これらのナノ粒子の例として,
カーボンナノチューブ(CNT),金・銀ナノ粒子,酸化 チタン,メゾポーラスシリカなどが挙げられる.これら の中で特に注目を浴びているのはCNTである.CNTは 強度および光吸収率に優れ,熱および電気伝導率も比較 的高いことより,構造材料,導線,トランジスタ,キャ パシタ,太陽光セル,バイオセンサなどへの応用が期待 されている.金・銀ナノ粒子は,医療や太陽光発電の分 野での応用が期待されている.メゾポーラスシリカは薬 品投与に,そして酸化チタンは太陽光発電,光触媒,抗 菌,化粧品などに応用されている.
このように粒子の応用範囲は広がりつつあるが,粒子 は汚染源・有害物質としての側面を有する.大気中のエ アロゾル粒子は温暖化予測における重要なパラメータで あるが,エアロゾル粒子は大気中での滞在時間が約一週 間と短いため,これらによる気象変動への効果を正確に 予測することは難しい2).また,人体に摂取された産業 用ナノ粒子による健康への影響はナノテクノロジー分野 での最重要課題の一つである.また,粒子は製品の品質 を低下させる汚染物質としての側面も有する.クリーン 製造環境では,気中および洗浄用液体中の粒子に対する
清浄度管理が行われている.特に半導体製造の分野で は,製品の歩留まり向上を目的とした汚染粒子に対する 品質管理が常時厳しく行われている.
したがって,ナノ粒子を使った製造プロセスの品質管 理,ナノ粒子に対する暴露制御などを目的とした計測技 術の開発,精度向上,範囲拡張が強く求められている.
産業技術総合研究所の第三期中期計画においても,産業 の国際展開を支える計量標準の整備の一つとして,ナノ デバイス・ナノ材料の技術開発・利用に資する計量標準 の開発・整備を行うことが挙げられており,この中で,
ナノ粒子の機能・特性評価やナノ粒子生産現場の環境モ ニタリングのための標準の開発を目標の一つとしてい る.測定の対象となるナノ粒子の特性には,粒径,粒径 分布,粒子数濃度,表面積,拡散係数,フラクタル次元,
アスペクト比,ゼータ電位,有効密度,空隙率,結晶構 造,コロイドの安定性,凝集状態,化学組成および純度,
などがある.
上述の様々の粒子の特性の中で,本稿で対象としてい るのは液中における粒子数濃度である.粒子数濃度は,
汚染源としてのナノ粒子に対する品質管理において特に 重要視されている.そして,粒子数濃度の測定結果を保 証するための国家計量標準の開発が,電子デバイス製造 分野において特に強く望まれている.本稿では,第2章 で現在社会で一般的に利用されている液中粒子数濃度の 測定技術について説明し,第3章では,産業界で液中粒 子数濃度が重要な意味を持つ事例を紹介する.第4章で は,液中粒子数濃度の国家標準の現状を紹介し,産業技 術総合研究所(以下,AIST)において開発予定の校正 技術について述べる.
2. 代表的な粒子数濃度の測定法
2.1 光散乱式液中パーティクルカウンタ
光散乱式の液中パーティクルカウンタ(Liquid Particle Counter,以下,LPC)は粒径約50 nm - 1 µmの粒子を 対象としており,サンプル液体中の粒径と粒子数を測定 し,個数濃度の粒径分布を算出する.
increasing the number of particles in a smaller field of view one can count sufficient numbers of particles to satisfy statistical confidence level even when the electron microscope is operating under high magnifications. One way to minimize the viewing area of microscopic methods is to use inkjet technology to deposit micro-droplets of the diameter standard suspension onto a flat substrate.
* 本稿では原子やクォークなどの素粒子を議論の対象としない.
ータ領域により特色がある(図2).α=0.1はRayleigh 散乱領域,α=1はMie散乱領域,α=10は幾何学散乱 領域における代表値とする.ここではCscat′ を散乱角範囲 0≤ ≤θ 180°での最大値で無次元化した値を示す.図2(a) が示すように,Rayleigh散乱領域(α=0.1)でのCscat′ は,
前 方(θ≈ °0 )お よ び 後 方(θ≈180°)で の 散 乱 光 が θ= °90 を中心に対称である.Mie散乱領域(α=1)では 前方および後方散乱光が相対的にそれぞれ増加・減少し 始め,幾何学散乱領域(α=10)では前方散乱光が支配 的になる.また,対数スケールで表わした図2(b)が示す ように,幾何学散乱領域では光干渉の効果が顕著に現れ る.
散乱断面積はCscat(m2)はCscat′ を全立体角で積分し算出 される.
2
2 0 0
( , , )ˆ
( , )ˆ scat sin
scat C n
C n r rd d
r
π π α θ
α =
∫ ∫
′ ⋅ θ⋅ θ φ⋅ (2) (2)Cscatを粒子の幾何学断面積πa2で無次元化すると,散乱 係数Qscat=Cscat/ (πa2)が得られ,これは粒子への入射光 がどれほど散乱光へと変換されたかを表わす指標とな る.図3にQscatをαの関数として示す.Rayleigh散乱領 域におけるQscatはαへの強い依存性があり,粒径に対 して4乗(Qscat∝a4),波長に対して-4乗(Qscat∝λ−4)の 依存性がある.一方,幾何学散乱領域ではQscat=2と定 数へと収束する.散乱光パワーが粒子への入射光パワー 2.1.1 液中浮遊微粒子による光散乱
気中や液中の浮遊微粒子による光散乱は,Mieの理論3)
により算出することができる.Mie理論は,球状粒子か らの光散乱をMaxwellの電磁方程式より導いた解である.
粒子内部では入射光の持つ電場により双極子が誘発され る.双極子は入射光の電波と共振し,この振動による光 の二次放射が起こる.強度I0(W/m2)を持った単波長非 偏光の入射光による,粒子からの光散乱強度I (単位:
W/m2)は次式で表わされる4).
0 2
ˆ ( , , ) Cscat n I I r
α θ
= ′ (1) (1)
ここに,Cscat′ ( , , )nˆα θ は微分散乱断面積(m2)であり,立 体角あたりの散乱断面積である.θは散乱角であり,そ の定義を図1に示す.nˆは粒子種の屈折率n n i kˆ= − ,r は粒子中心からの距離である.無次元数αは粒径パラメ ー タ と 呼 ば れ, 粒 子 断 面 の 円 周 と 入 射 光 波 長 の 比
ˆ0
2 a/ ( / )n
α= π λ で 定 義 さ れ る. こ こ にaは 粒 子 半 径
(= 粒径÷2),nˆ0は粒子が浮遊する媒体の屈折率,λは 真空中における入射光の波長である5).
微粒子による光散乱は,粒径パラメータにより三つの 領域に分けられる.αが1より十分に小さい(α<<1)領 域での粒子光散乱は,Rayleighにより最初に議論された ことより,Rayleigh散乱領域と呼ばれる.αが1のオー ダー(α≈1)はMie散乱領域と呼ばれる.αが1より十 分に大きい領域(α>>1)は,幾何学散乱領域と呼ばれる.
Mie理 論 に よ る 微 粒 子 か ら の 光 散 乱 特 性 を,Bohren
and Huffman6)の数値計算コードを使い解析した.微分
散乱断面積C′scatの散乱角θへの依存性には,粒径パラメ
Figure 2 Light scattering intensity as a function of the scattering angle θ. The light scattering intensities are normalized by the maximum value in the entire scattering angles. The size parameter α=0.1, α=1, and α=10 are the representative value in Rayleigh, Mie, and geometrical regime, respectively.
Figure 1 The definition of scattering angle θ and angle φ . Incoming electric field E and magnetic field B are both parallel to x- and y-axis, respectively.
により迷光が発生し,これらがフォトダイオードの背景 ノイズとなり,散乱光のS/N比を低下させるからである
9).壁からの反射光による背景ノイズはおおよそ入射光 強度に比例するため,より小さい粒子からの散乱光を検 出するため入射光強度を上げても,S/N比の顕著な向上 は期待できない.
また,壁からの背景ノイズを減らす手法として,シー ス流の構造を応用する手法がある.図5に例を示す.シ ース流によりサンプル流をフローセルの軸周辺に集中さ せ,全ての粒子を入射光の境界内へと輸送することによ り,全数計数型の特性を維持しつつ背景ノイズを減らす ことができる9),10).この手法は,AISTにおける粒子数 濃度標準液の校正技術に適用されているが11),市販の光 散乱式LPCには応用されていない.その理由には,サ ンプル流量の数10倍以上の超純水がシース流として必 要なこと,フローセルの構造がより複雑になり,光学系 と流体の軸合わせなどに高い精度が要求されること,ま たサンプル流とシース流との界面での流体の揺動により 屈折率が揺動し,これが新たな背景ノイズの要因となっ てしまうこと,などが挙げられる.
の2倍になるのは,粒子の輪郭での光の回折による効果 が入射光パワーと同量含まれるためである4).
2.1.2 全数計数型光散乱式 LPC:原理と特色
光散乱式LPCは,全数計数型と部分計数型とに大別 される.全数計数型の検出部位の例を図4に示す.紙面 に向かってサンプル試料液が流れるとし,サンプル流が 光源であるレーザーと直角に交差する断面を示す.光散 乱式LPCではレーザー光を粒子が横切った時に生じる 粒子からの散乱光を,フォトダイオードで検出し電圧パ ルスへと変換し,このパルスの高さがあるしきい値以上 であれば粒子として計数し,パルスの高さを粒径へと変 換する.全数計数型では,入射光を平面状に絞り,入射 光強度(W/m2)が一様なレーザー光を,フローセル断面 全体に照射する.そして,入射光の側面もしくは前方へ の散乱光を集光する.
全数計数型は,フローセルを通過する全粒子からの散 乱光を検出し,液中の粒子数濃度cpを,検出粒子数N, サ ン プ ル 時 間∆t, フ ロ ー セ ル を 流 れ る サ ン プ ル 流 量
sample
Q より算出する.
p
sample
c N
= t Q
∆ ⋅ (3) (3)
全数計数型の場合,Qsampleが正確であれば,粒子数濃度 を正確に測定できる.しかし,全数計数型光散乱式LPC により計数効率100 %が保証できる粒径域は,粒径約
200 nm以上のサブミクロメートル粒径域である7),8).こ
れは,フローセルの壁からの反射光,屈折光,表面汚染
Figure 4 A schematic diagram of the particle sensing region in a total-counting-type light scattering LPC. The axis for the liquid sample flow is perpendicular to the page. Configuration of the light- collecting optics varies depending on the instrument manufacture th erefore not described in detail here.
Figure 5 A schematic diagram of a flow cell in a total-counting- type light scattering LPC with a sheath flow arrangement.
Figure 3 Light scattering efficiency, which is defined as the ratio of the scattering cross section to the geometrical cross section, as a function of size parameter. The wavelength of the incoming light under vacuum λ = 532nm, the refractive index of particle material nˆ
= 1.59 - 0i, and the refractive index of the scattering medium nˆ0
=1.33 - 0i, which corresponds to pure water.
2.2.1 原理と特色
光遮へい式LPCの概要を図7に示す.光遮へい式LPC は粒径約1 µm以上を対象としている.流入射光を平面 状 に 絞 り,0.05-0.3 mm×1-2 mm程 度 の 面 積 の フ ロ ー セルの断面全体に照射し,この一帯が検出領域となる.
受光素子であるフォトダイオードは光の進行方向に位置 し,検出領域内に粒子が存在しない場合は,光源から一 定の受光量を検出している.そして,粒子が検出領域を 通過すると,粒子により光が散乱および吸収され,フォ トダイオードへの受光量が減衰し,負方向へのパルスが 発生し1個の粒子として計数される.粒子1個により減 衰した受光量パワー∆P(単位:W)は次式で表わされる.
0 p ext
P I A Q
−∆ = (4) (4)
I0は入射光強度(W/m2),Apは粒子の投影面積(m2),Qext は消散係数.消散係数は散乱係数と吸収係数の和で表わ され,
ext scat abs
Q =Q +Q (5) (5)
粒子による光吸収が無視できる場合は,(または粒子材 質の屈折率n n i kˆ= − において複素数の値が無視できる 場合)は,Qabsは無視できる.したがって,Qext≈Qscat が成立する.一般的な可視光領域の光源(He-Neレーザ ーなど)を使った場合,粒径約5 µm以上でのQextの値 は漸近値の2である.これより,光遮へい式LPCの検出 パルスの波高は粒子の投影面積,または粒径の2乗に比 例する.
2.1.3 部分計数型光散乱式 LPC:原理と特色
部分計数型光散乱式LPCには,背景ノイズを低減す るための工夫が施されている.現在市販されている部分 計数型光散乱式LPCの最小可測粒径は約50 nmであり,
超純水の清浄度管理に広く使われている.部分計数型は より小さい粒子(すなわちRayleigh領域の粒子)を検出 する目的で設計されているため,粒径のダイナミックレ ンジは粒径50-200 nmに制限されている†.
部分計数型光散乱式LPCの検出部位の模式図を図6に 示す.光源には比較的強度の強い固体レーザーもしくは 半導体レーザーが使われている.レーザー光をフローセ ルの中心にフォーカスすることにより,粒子への入射光 強度(W/m2)と散乱光強度を増加させる.またフローセ ルの中心のみから集光することにより迷光を最小限おさ える.部分計数型の粒子検出領域は,光を照射された粒 子からの散乱光による電圧パルスがあるしきい値以上と なる一帯である.液中の粒子数濃度cpは全数計数型と 同様,式(3)で算出されるがcpの絶対値の不確かさは大 きい.これは,部分計数型では粒子検出領域の範囲が粒 径に大きく依存するため,粒子検出領域を通過する流量
sample
Q が(全数計数型とは違い)一定ではないためであ る12),13).
2.2 光遮へい式液中パーティクルカウンタ
光遮へい式液中パーティクルカウンタ(以下,光遮へ い式LPC)は,注射剤および輸液中の異物検査,油圧作 動液中の固体汚染粒子の管理において使われており,そ の他,上水中の濁度評価にも使用されている.
Figure 6 A schematic diagram of the particle sensing region in a partial-counting-type light scattering LPC. The axis for the liquid sample flow is perpendicular to the page. Configuration of the light- collecting optics varies depending on the instrument manufacture therefore not described in detail here.
Figure 7 A schematic diagram of the particle sensing region of a light extinction LPC.
† Rayleigh領域における散乱光強度の依存性が粒径の6乗と強いためである.
は,使用以前に既にフィルタ上に付着しているブランク 粒子が少ないことである.すなわち,ニュクリポア膜に は通常ブランク粒子が多く付着しているが,中空糸膜の 場合は非常にまれであると報告されている15).
顕微鏡法を超純水中の粒子数濃度測定に適用する際の 制限要素は,フィルタ捕集に要するサンプル時間であ る.すなわち,統計的な信頼率を確保しつつサンプル時 間を最小限にすることが要求される.フィルタ捕集型顕 微鏡法による粒子数濃度測定の工業規格であるJIS K 0230「純水の清浄度の測定方法及びクラス判定方法」で は,必要最少限の粒子計数値を20個としており,これ により計数値の不確かさを±40 %以内に抑えている‡. サンプル時間が短くても,電子顕微鏡で観察する面積を 増やせば20個の粒子を計数できるが,現場で一人の測 定実施者が,集中して粒子種を識別しながら画像を観察 で き る 画 像 数(以 下, 観 察 画 像 数) に は 上 限 があ り,
100枚程度である.したがって,100枚程度の観察画像 数内で一定の粒子計数値を得るためには,フィルタによ る捕集時間を長くする必要があり,この捕集時間が許容 範囲内でなければならない.また,ある粒子計数値に,
ブランク粒子が含まれている可能性が無視できない場合 は,この可能性を考慮した粒子計数値の不確かさの評価 が必要となる16),17).またさらに,フィルタの中心から 端まで常に粒子が均一に分布しているとは限らないた め,粒子計数のための選択したフィルタ上の位置の違い によるばらつきに対する考慮も必要である.
2.3.2 全数計数型顕微鏡法:原理と特色
フィルタ捕集型顕微鏡法の弱点である「場所の違いに よるばらつき」の効果に影響されない方法が全数計数型 顕微鏡法である.AISTでは,粒子数濃度標準液の校正 2.3 顕微鏡を使った粒子画像観察による計数法(顕微
鏡法)
顕微鏡による粒子数濃度の測定(以下,顕微鏡法)は,
①シリコン基板や平面度の高いフィルタの表面上に粒子 を捕集し,②この表面上の全体もしくは一部分に沈着し ている粒子数を光学顕微鏡や電子顕微鏡で数え,③粒子 数濃度を算出する測定法である.顕微鏡法の利点は,測 定原理がシンプルであり,人間が画像より粒子種の識別 を行えること,が挙げられる.2章で紹介する全ての事 例における工業規格では,LPCが適用できない場合や,
LPCの測定結果を検証することが必要な場合に,顕微鏡 法が推奨されている.一方,顕微鏡法の難点は,測定に 多くの時間を要する点である.例えば,測定対象となる 粒径が小さくなるに従い,おおよそ粒径の2乗に反比例 して測定時間が増加する.また,顕微鏡法では試料採取 から測定完了までの手順において自動化できない要素が 多々あるため,試料の取り扱いと粒子種の識別がより難 しい低粒径・低濃度域での条件下では,測定結果が測定 実施者の技術や体調に依存することが懸念されている.
2.3.1 フィルタ捕集型顕微鏡法:原理と特色
フィルタ捕集型顕微鏡法は,低粒子数濃度の条件でも 適用できる手法であり,測定下限粒径は数10 nmである.
現状の光散乱式LPC法では粒径約50 nm以下での粒子検 出は困難であるため,フィルタ捕集型顕微鏡法は,超純 水などの低濃度環境での粒径約50 nm以下を対象とした 測定が可能な唯一の方法である.
超純水中の粒子数濃度測定では,一定時間の間,既知 の流量の超純水をフィルタに通過させ,フィルタ表面を 走査電子顕微鏡(scanning electron microscope, 以下,
SEM)などで観察し,既知のフィルタ面積内の粒子を 計数する.現在最も一般的に使われているフィルタはミ リポア社のニュクリポア膜である.このフィルタは,平 面度に優れた厚み6-11 µm程度のポリカーボネイトフィ ルムに,径が均一な穴が105-108個/cm2の密度で開いた 構造を有している.細孔径は0.015-12 µmの範囲より選 択できる14).一方,ニュクリポア膜以外のフィルタも超 純水中のナノ粒子の捕集に使われている.最近では,細
孔径20 nmの限界ろ過用の中空糸膜(マカロニ状のフィ
ルタ)を顕微鏡法に応用する例が報告されている15).中 空糸膜の特徴の一つは,ニュクリポア膜に比べ,ろ過速 度が約一桁大きいことである.もうひとつの重要な特徴
Figure 8 An overview of the total-counting-type microscopic method; particle number concentration of liquid suspension containing diameter standard particles is calibrated.
‡ フィルタ上のある一定面積を観察し粒子が20個計数された場合,フィルタ全体における一定面積あたりの粒子数は95 %の確率で
12~28個の範囲に属する.
液体を通じて常時流れている18),19)§.陰極側と陽極側と を電気的に絶縁しているチューブの壁には微小な穴(細 孔)が1個開いており,細孔の周辺および内部が検出領 域となる.細孔の直径は20 µmから600 µmの範囲より 選択できる.液体には電解質が加えられ,検出領域の電
気抵抗が5 k-100 kΩになるように調整される.陰極側
に粒子懸濁液のサンプルがセットされ,陽極側より数 mlの一定体積の液体が吸い出される.粒子が細孔を通 過すると,検出領域内の電気抵抗が粒子の体積に比例し 増加し,オームの法則より電極間の電圧が上昇する.
V V V .
I const
R R R
= = + ∆ =
+ ∆ (6) (6)
この電圧変化によるパルスを計数し,パルス電圧の大き さを波高分析器で記録する.電気抵抗検知法による粒径 分布測定法に関する規格にISO 13319「Determination of particle size distributions -- Electrical sensing zone method
:粒径分布の求め方-電気検出ゾーン法」があり,この
規格のAnnex Dに使用可能な電解液と,特定の粒子材質
に対し推奨される電解液がリスト化されている.
電気抵抗検知法には,①構造が光散乱式LPCに比べ 格段にシンプルであること,②粒子検出の応答特性の長 期変動が少ない,③応答特性が粒子の材質にほとんど依 存しない,などの利点がある.液体中に浮遊する液滴で あるエマルジョンや細胞なども固体粒子と同様に計数で き,また,粒子表面ではHelmholtz電気二重層が形成さ れるため,粒子材質の導電性は検出信号の波高に実質あ まり影響を与えない20),21).
一方,電気抵抗検知法には以下の欠点がある.①測定 を行うには,サンプルの導電率の調整が必要であるこ 技術である光散乱式LPC法の測定結果を検証するため
の方法として,全数計数型顕微鏡法を適用している11). この手法の概要を図8に示す.この手法では,シリコン ウェハなどの平面度の高い固体表面の上に,粒子を多数 含んだマイクロリットルオーダーの体積が既知である液 滴をマイクロピペットを使い一つ落とし,液滴蒸発後固 体表面に残された粒子群の画像を電子顕微鏡で取得し,
画像より全数計数する.得られた計数値を液滴体積で除 することにより,粒子数濃度を算出する.統計的信頼度 を維持するためには,1個の液滴の中に十分多数の粒子 が含まれている必要があるため,液中粒子数濃度が本来 低い清浄度管理の環境ではこの手法は適用できない.こ の手法による測定時間を最小限にするためには,図8の 画像が示すように,液滴が蒸発するとともに粒子が中心 方向へと移動し,蒸発後,粒子が一か所に凝集している 状態を達成することが重要である.しかし,図9の例が 示すように,液滴蒸発後,粒子が中心に凝集せずに不特 定の場所に取り残されている様子が画像よりうかがえる のであれば,液滴蒸発後の痕跡を注意深く観察する必要 がある.測定者が集中して観察できる画像枚数の上限は 約100であるため,液滴の痕跡全体の直径を,マイクロ ピペットにより滴下された体積1 µlの液滴径と同一の
1.2 mmとした場合,痕跡全体を約100枚以内の画像に収
められる観察倍率の上限は約1000倍である.約1000倍 の 観 察 倍 率 で 識 別 で き る 標 準 粒 子 の 最 小 粒 径 は 約
600 nmであり,これが現状の最小可測粒径である.
2.4 電気抵抗検知式液中パーティクルカウンタ 電気抵抗検知式LPC(以下,電気抵抗検知法)の測定 原理を図10に示す.電極間には一定の電流が導電性の Figure 9 An image showing the standard particles failed to cluster together as the droplet evaporated on a flat substrate. The images are taken by scanning electron microscope. The white circle is a part where the surface is coated with a hydrophilic layer.
Figure 10 A schematic diagram of an electrical-resistance- sensing-type LPC.
§発明当時は電圧を一定とする電気回路構造であったが,この構造の下ではパルス波高が電解質濃度に依存するため校正に手間を要し た.Coulterら19)により,電流が一定で,電解質濃度にパルス波高が依存しない電気回路構造が発明された.
ることが難しいが,本質的には粒子数濃度を示してい る.校正用懸濁液には,粒径0.5-10 µmのポリスチレン 標準粒子が既知の質量混合比率で懸濁されており,この 標準懸濁液の濁度を100度としている.この懸濁液を段 階的に希釈し校正を行った場合,検出信号を濁度とした 関数は直線で近似することができる.したがって見かけ 上は,濁度は粒子の質量濃度を変数とした関数であると いえる.しかし実際には式(7)が示すように,濁度計の 検出信号Pは個数濃度の粒径分布に依存する.
P N C∝
∫
extρda (7) (7)ここに,Nは粒子数濃度,ρは粒子半径aを関数とする 確率分布(以下,粒径分布),Cextは光消散断面積であ りaの関数である4),22).このように,濁度計の検出信号
Pは本質的には粒子数濃度の関数である.
2.6 粒径分布測定型エアロゾル技術援用法
質量濃度がパーセントオーダーの比較的濃いナノ粒子 懸濁液の粒子数濃度の評価法として,エアロゾル技術を 援用した粒子数濃度の評価法がある.この手法はナノリ スクの分野で暴露試験用懸濁液の評価法として応用され ており23),最近では,標準粒子懸濁液の粒子数濃度の評 価にも応用されている(Section 4.1.2参照)24).エアロゾ ル科学の分野では,気中ナノ粒子を対象とした計測技術 が既に確立されている.粒径分布測定型エアロゾル技術 援用法では,懸濁液サンプルをエアロゾル化し,粒子数 の粒径分布(particle size distribution 以下,PSD)より気 中粒子数濃度を算出し,この情報と噴霧された懸濁液の 体積より,懸濁液中の粒子数濃度が評価できる.(以下,
PSD測定型)
図12にPSD測定型エアロゾル法の概要をまとめる.
懸濁液を加圧噴霧式エアロゾル発生器(以下,アトマイ ザー)で噴霧し,気中での標準粒子のPSDの測定の結 果より気中粒子数濃度を測定する.アトマイザーは標準 粒子懸濁液を消費速度Qsuspensionでエアロゾル化し清浄気 流へと随伴させる.アトマイザーからのエアロゾル流量
aerosol
Q の一部はエアロゾル中和器へと輸送される.エア ロゾル中和器の内部では,放射線源による正負イオンの 生成と再結合が絶えず繰り返されており,この領域を通 過するエアロゾル粒子はこれらのイオンと衝突を繰り返 す.エアロゾル中和器を通過した粒子群の帯電率は粒径 の関数であるため,粒径が既知である標準粒子の帯電率 と.一般的な電解質であるNaClを使った場合,必要と
される濃度は10 g/Lと比較的高い.このような高濃度下 では,赤血球などの細胞は電解液中での強い浸透圧によ り体積が収縮する.また,粒子が電解液に溶解しないこ とを確認する必要もある.②電気的なノイズが大きいた め最小可測粒径(約600 nm)は光散乱式LPCに比べ約 一桁大きい.より小さな粒子を電気抵抗検知法で検出す るためには,細孔の直径をより小さくし,イオン化合物 をさらに加えて溶媒の導電性を上げればよいが,これら の操作はどちらも電気ノイズを大きくさせる効果があ る. ノ イ ズ を 最 小 限 に す る 策 と し て, 装 置 をFaraday Cageの内部に囲う工夫がなされているが,この工夫を 用いても,最小細孔径である30 µmでの検出下限粒径は
0.6 µmである**.③粒子数濃度の測定下限の評価で考
慮すべきパラメータが多い.背景ノイズは細孔径,電解 質の種類,導電性などに依存する.したがって,純水や 薬液の清浄度管理などのように,測定下限濃度が測定結 果に大きく影響する用途には不向きである.
2.5 濁度計
濁度(turbidity)とは水道水や河川中の粒子状物質に 対する清浄度を表す無次元パラメータであり,これを測 る装置は濁度計と呼ばれる.濁度計は特に上水試験に広 く使われている.図11に一般的な濁度計の模式図を示す.
容器に定量の液体サンプルが入れられ,光源により照射 された体積中の粒子群からの散乱光と透過光を測定す る.測定法には前方散乱光のみ,90°の散乱光と透過光 の比などと数種あり,散乱光の角度は計測器メーカによ り異なる.濁度が上れば透過光は下がり散乱光は上が る.したがって,散乱光/透過光の比をとることにより,
信号感度を上げることができる.
濁度には単位が無いため測定量が何であるかを理解す
Figure 11 A schematic example of turbidity meters
** ちなみに,検出上限粒径は約数100 µmであり,これ以上の粒子径では粒子の重力沈降の効果が顕著になるため,一定体積中の粒子 数を正確に測定することが困難となる.
aerosol suspension aerosol
suspension
N N Q
= Q (9) (9)
ナノ粒子懸濁液の粒子数濃度測定技術として,この手 法を粒径約10 nmまで適用することが原理的には可能で ある.しかし,測定結果の正確さの点においてこの手法 の信頼性は低い.アトマイザーにより発生させた粒径
100 nm以下のエアロゾル粒子をエアロゾル中和器へと
輸送した場合,帯電微粒子の中和が不完全であることよ り, 式(8)で 算 出 さ れ るNaerosol が 実 際 の 値 と の 誤 差 が
60 nm以下で指数的に増加し,粒径20 nmでは誤差が実
際の値の2.5倍に達することが報告されている29).また,
アトマイザー内部では懸濁液の液滴を乱流状態の清浄気 流へと随伴させるため,噴霧された液滴がアトマイザー 出 口 付 近 の 配 管 壁 へ と 無 秩 序 に 沈 着 す る. こ れ よ り
suspension
Q を正確に精度良く測定することは難しいと想定 される.また,式(8)と(9)ではアトマイザーによる標準 粒子のエアロゾル化が経時的に安定していることを前提 としているが,懸濁液をアトマイザーで噴霧した場合,
容器内の懸濁液の粒子数濃度は媒体の蒸発に伴い徐々に 増加することが知られている5).
3. 液中粒子数濃度測定の代表的な応用分野
社会では様々な状況で液中粒子数濃度が測定されてい る.ここでは,工業規格や法律により,測定方法と測定 結果の評価方法が明確に規定されている例を紹介する.
3.1 半導体製造における液中粒子数濃度測定 3.1.1 超純水中の粒子数濃度測定
超純水もしくは純水はエネルギー,半導体製造,医療,
発電,電子機器,微生物工学,精密加工,光学部品,食 品加工など,様々な産業分野で利用されており30),これ らの分野では汚染浮遊粒子の個数濃度に対する品質管理 が行われている.測定対象とする粒径が数100 nm以上 であれば,全数計数型光散乱式LPCを使うことにより 粒子数濃度を十分な精度で測定することができる.しか し,半導体製造工程において問題となる粒子の粒径は
50 nm以下であり,この粒径域での粒子数濃度は十分な
精度で測定できていない.
技術の向上により集積回路内のDRAMメモリーセル 間の距離が年々狭まっている.集積回路の工程には,材 料の注入,蒸着による成膜,研磨による平坦化,洗浄,
フォトリソグラフィなどがある.これらの工程において 超純水による洗浄は20-50回程あるといわれている30). 洗浄が不十分のため汚染粒子が付着した状態で回路層が
charged
f を理論より推定することができる25)-27).エアロゾ ル粒子は走査型電気移動度分級器(Scanning electrical mobility spectrometer,以下,SEMS)28)へと輸送され,
荷電された標準粒子の個数濃度のPSD dN d/ logDpが測 定される.測定されたdN d/ logDpを積分し,SEMS入 り口での帯電粒子の個数濃度を算出し,これを帯電率で 除することによりエアロゾル中和器入口での標準粒子の 気中粒子数濃度Naerosolを算出する.
charged standard particles
1 log
aerosol log p
p
N dN d D
f d D
=
∫
(8) (8)そして,アトマイザーにより噴霧される標準粒子の発生 頻度が保存されていることを仮定し,次式より標準粒子 懸濁液中の粒子数濃度Nsuspensionを算出する.
Figure 12 An overview of aerosol-technique-assisted-method with particle size distribution measurements: a liquid suspension of particle size standard is aerosolized using an atomizer. A part of the aerosol flow is directed to an aerosol neutralizer to achieve steady state charge distribution. The particle size distribution (PSD) of the standard particles is measured by scanning electrical mobility spectrometer (SEMS). The PSD is integrated to obtain the total number concentration of aerosolized standard particles, Naerosol. Assuming the generation rate of standard particles from the atomizer is conserved the particle number concentration in the liquid suspension, Nsuspension is calculated.
Clean標準法を基礎として,その後様々な改良が加えら れている36).洗浄工程で使われる薬液は,NH4OH/H2O2
溶液,HF,そしてHCl/H2O2溶液が主であり,これらの
薬液がリンス用の超純水と交互に使用される30).超純水 同様これら洗浄用薬液中の浮遊粒子の清浄度管理は重要 であり,ITRSで管理対象となっている薬液はHF,HCl, H2O2,NH4OH,isopropylalcohol(IPA),Post CMP
Chemicalsの5種である.要求値は超純水に対する程は
厳格でなく,要求濃度値は2桁以上高い.そして,現状 の光散乱式LPCの洗浄用薬液中粒子に対する検出下限
粒径が約60 nmであるため,この粒径での濃度要求値が
ITRSで示されている.
また上述の洗浄薬液のみならずフォトリソグラフィで 使用されるフォトレジスト溶液に浮遊する微粒子の個数 濃度測定に対する需要が近年高まっており,測定には光 散乱式LPCが使われている37),38).フォトレジスト中の 分子散乱光による背景ノイズは,洗浄用薬液などに比べ 約2-18倍大きいことが報告されている38).フォトレジ スト中の高分子からの散乱光ノイズは個別のフォトレジ ストの成分に依存するため,検出信号のS/N比を常時一 定に確保することが難しい.これに対応するため,ユー ザー自身がLPCのノイズの波高分布を観察し,粒子検 出波高のしきい値を設定できる機種も最近では販売され ている.しかし,粒径分布測定に必要な「検出波高 vs.
粒径」および「粒子計数効率vs. 粒径」の校正は,薬液 からの背景ノイズが再現された状態で行われる必要があ る.したがって,薬液用LPCの校正をユーザー自身が 行える校正技術の開発が,現在求められている.
3.1.3 関連工業規格
半導体製造過程のみならず,製造業で使用される超純 水・溶剤・薬液中の粒子数濃度の測定結果の精度保証に 対する産業界からの要求は強い.表2に液中粒子数濃度 積み上げられてしまうと,粒子が埋没した個所で断線・
ショートが発生しやすくなり,信頼性に深刻な影響を与 える(国際半導体技術ロードマップ 2008,International Technology Roadmap for Semiconductors,以下,ITRS).
ITRSには今後数十年間における半導体製造技術への様 々な要求がまとめられており,表1にITRSより抜粋した 超純水中の汚染粒子に対する品質管理を十分に行うため に必要な,粒子径および粒子数濃度の測定下限を示す.
デバイス構造の微細化に伴い,測定対象となる汚染粒 子の粒径(critical size)も年々小さくなっている.現在 から5年後の2015年の製造環境における清浄度管理には,
粒径13 nm以下の汚染粒子の検出が必要とされている.
これより,粒子数濃度の測定技術を粒径10 nm以下へと 拡張することが求められているが,測定技術の現状を考 慮するとその達成は容易ではない.
製造現場における超純水中の粒子数濃度の連続測定に は,部分計数型光散乱式LPCが使用されている.現状 の検出下限粒径は約50 nmとされているが,この種の LPCにより測定される粒径100 nm以下の粒子数濃度の 不確かさは大きい.検出下限粒径が同一の二種のLPC であっても,型式や製造メーカが異なる場合,測定結果 の不一致が著しく,また,同じメーカの同型式のLPC 間でも測定結果が一致しないことが報告されている32)
-34).しかしながら,部分計数型光散乱式LPCは生産ラ インにおける粒径50 nm以上の粒子を常時監視できる唯 一の計測器であるため,この装置は清浄度管理に欠かせ ない存在となっている.したがって当面の課題は,粒径
50 nmでの部分計数型光散乱式LPCの粒子計数効率の校
正技術を開発することである.
3.1.2 薬液・溶剤中の粒子数濃度に対する要求 Siliconウェーハの洗浄はKern and Puotien35)らに開発 さ れ たRCA(Radio Corporation of America)Standard
Table 1 The diameter of contaminant particles and their number concentration in the ultrapure-water that should be constantly measured during the semiconductor manufacturing process31).
Year Unit 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
DRAM 1/2 pitch nm 50 45 40 36 32 28 25
Critical particle size
(Table YE9) nm 25 23 20 18 16 14 13
Number of particles
>critical size (Table YE9) /ml <0.1 <0.1 <0.1 <0.3 <0.2 <0.2 <0.2
Year 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
DRAM 1/2 Pitch nm 22 20 18 16 14 13 11
Critical particle size
(Table YE9) nm 11 10 9 8 7 6 6
Number of particles
>critical size (Table YE9) /ml <0.2 <0.2 <0.2 <0.2 <0.2 <0.2 <0.2
粒子,カーボンブラック,二酸化チタン,酸化アルミニ ウム,酸化セリウム,酸化亜鉛,二酸化ケイ素,ポリス チレン,デンドリマー,ナノクレーがある39).近年のナ ノテクノロジーの発展に伴い,工業ナノ材料の生産量お よび市場が増大し続ける傾向にある40),41).既に大量生 産されているナノ粒子には,カーボンブラック(83万 トン/年),二酸化ケイ素(1.3万トン/年),二酸化チタ ン(1250万トン/年)があり,また,フラーレン(2ト ン/年),やCNT(60トン/年),など新しいナノ物質の 生産も始まっている42).特に生産量の多い酸化チタンの 場合,全体の生産量におけるナノ粒子の割合が今後さら に増加すると予測されている43).
3.2.2 安全性評価の標準化と課題
このようにナノマテリアルの生産量が増加し続けれ ば,これらが環境へと放出されることが想定されるた め,ナノテクノロジーの研究開発では,有益な技術を開 発すると共に,その技術が社会に与える影響やナノ物質 が人体や環境に与える影響等を事前に正しく評価するこ とが世界的に重要視されている44),45).これを受け,ナ ノテクノロジーの分野では,国際的に調和の取れた規格 の開発や普及を促進する活動が行われており,この代表 的な技術委員会の例にISO/TC 229がある.そして,ナ ノテクノロジーやナノ材料の命名法と用語を明確に定義 する活動や,そのリスク評価法や管理法を取り決め,廃 棄やリサイクルまで含めた製品管理法を取り決める活動 が行われている.
今日に至るまで,ナノ材料が直接の原因となった死亡 事故は報告されてはいないが44),ナノ材料の環境や生体 への影響には未知な部分が多い46)-48).この大きな理由の 一つは,ナノ粒子の毒性が粒径,表面積,表面化学,形状,
帯電数,暴露量などにより影響され一定でないことであ の管理に関連する工業規格を示す.
JIS K 0554は主としてフィルタ捕集型顕微鏡法(1.3.1 参照)の詳細が記されている.ISO 21501-2(またはJIS
B 9925)は溶剤・薬液・超純水を対象としており,光散
乱式LPCの仕様・性能および性能の試験法や測定結果 の信頼区間の評価法が記されている.JIS K 0230はクリ ー ン ル ー ム の 空 気 清 浄 度 評 価 方 法(JIS B9920,ISO
14644-1)で採用されている手法を土台として作成され
ている.粒径0.1 µm以上の累積個数濃度が粒径のべき 乗の関数であることを想定し, 測定下限粒径が(0.1-
0.5 µmの範囲内で)異なっているLPCが使われた場合
でも,純水の清浄度クラスが容易に評価できる実用的な 規格である.
3.2 工業用ナノ粒子の毒性評価 3.2.1 ナノテクノロジーの発展
化石燃料や鉱物などの地下資源の消費量が増加し,ま た,地球温暖化による気象変動により自然環境が破壊さ れつつあるなど,人間社会の持続および発展が脅かされ つつある近年,この状況の改善策として,地下資源の消 費を最小限に抑え,かつ同時に技術の行使に伴う環境へ の負荷を最小限に抑える技術の開発が必要とされてい る.この要求を満たす可能性の高い技術として,ナノテ クノロジーが様々な産業分野で世界的に注目されてい る.我が国においても,ナノテクノロジーは国際競争力 維持を目指す分野の一つであり,先進国の政府間組織で あるOECD††加盟国の中で,日本は対GDP比で最も高 いナノテクノロジー研究開発投資を行っている.
OECDの化学品委員会-工業ナノ材料作業部会で選択 されている,代表的な工業ナノ材料‡‡には,フラーレン
(C60),単層カーボンナノチューブ(SWCNT),多層カ ーボンナノチューブ(MWCNT),銀ナノ粒子,鉄ナノ
Table 2 ISO and JIS standards related to the measurements of particle number concentration in ultrapure- water, purified-water, and liquid chemicals
ID Title 発行年
JIS K 0554 Testing methods for concentration of fine particles in highly purified
water 1995
ISO 21501-2
JIS B 9925 Determination of particle size distribution-Single particle light interaction
methods- Part 2: Light scattering liquid-borne particle counter 2007 JIS K 0230 Determination and classification of purified water cleanliness 2007
†† Organization for Economic Co-operation and Development, 経済協力開発機構,
‡‡ ISO/TR 27687:2008:「ナノテクノロジー-ナノ物体の用語及び定義-ナノ粒子,ナノ繊維及びナノプレート」による定義では,工業
ナノ材料には,ナノオブジェクトとナノ構造の材料がある.前者は,大きさが,各1次元(薄膜),2次元(棒状),3次元(粒子状)で ナノスケール(約1 nm-100 nm)の物を意味する.ナノ構造の材料とは,ナノオブジェクトが固体中に存在する複合材料や,ナノオブ ジェクトが集合した物である.
して暴露試験用懸濁液中の粒子数濃度測定が必要とされ ている39),56).暴露試験法としては,ナノ粒子をエアロ ゾル化する吸入暴露試験が一番現実に近いが,より簡易 的な試験法として,ナノ粒子懸濁液を使う気管内注入試 験やin vitroがある57).この簡易的試験法では,質量濃 度が既知であるナノ粒子懸濁液を使用することが一般的 であるが,質量濃度は比較的大きな粒子の存在に大きく 左右されてしまう.一方,ナノ粒子は粒子数濃度への寄 与率が大きい.したがって,粒子数濃度が評価された懸 濁液を使った健康影響の評価も並行して行われるべきで ある.しかし現状では,ナノ粒径域で懸濁液中の粒子数 濃 度 測 定 を 直 接 液 中 で 行 う こ と は 困 難 で あ る た め,
Section 2.6で紹介した粒径分布測定型エアロゾル技術援
用法により間接的に測定されている23).
3.3 赤血球・白血球の個数濃度測定
病院の検査室での血液検査においては,赤血球,白血 球,血小板の個数濃度測定が日常的に行われている.こ れらの細胞の個数濃度測定には,電気抵抗検知式のLPC 法が最も広く使われている.近年市販されている血液分 析装置には赤血球,白血球,血小板を計数する機能だけ ではなく,ヘモグロビンの質量濃度,白血球の5分類,
網赤血球の分類を行う機能が備わっており,一つの装置 で総括的な血液分析が行えるようになっている.
3.3.1 電気抵抗検知式 LPC による血球の粒径分布およ び個数濃度測定
個数濃度が評価される赤血球,白血球,血小板の三種 の中で,比較的小さい不確かさでの粒子数濃度の評価が 可能なのは赤血球である***.一般的なヒト血液中の赤 血球,白血球,血小板の粒径および個数濃度を表3に示し,
る49).二酸化チタンTiO2などの本来毒性の低いものでも,
ナノ粒子の場合より強い毒性を示す実験結果が報告され ている50).しかし,粒子毒性のサイズ効果は確認できた りできなかったりの違いがあり,サイズのみを指標とし て毒性を予測することを疑問視する意見もあり51),ISO/
TC 229を含め様々なナノリスク関連委員会で,どのよ
うな物理・科学特性がナノ材料の毒性を評価するのに適 切な指標であるかについて,評価・検討されている.
3.2.4 国家計量標準機関による標準化への貢献 工業ナノ材料のどのような特性が環境や人体に最も悪 影響を及ぼすかを知るためには,工業ナノ材料を正確に 評価する必要があり,この目的における計測技術の役割 は大きい39).そして,ナノ材料の毒性評価に関連した国 際標準化の活動に国家計量標準機関は大きく貢献してい る23),52),53).ワークショップがISO/TC 229のワーキング グループや国家計量標準機関が中心となり開催されてお り,①工業ナノ材料の安全性評価に使われる標準物質,
②それらの標準物質が具備すべき特性,③それらの特性 を対象とした標準測定法,などの課題について議論され ている.そして,NIST, NIOSH, Defra, IRMM, AIST§§な どの研究機関で,上述の課題を目的とした研究開発が行 われている23).そして現在,標準物質の候補となってい る参照ナノ粒子には,酸化金属系のナノ粒子,CNTな どの炭素構造の工業用ナノ粒子,および燃焼により発生 するナノ粒子がある23).
3.2.4 工業ナノ材料懸濁液中の粒子数濃度測定 ナノ材料による暴露評価に必要とされる計測技術が報 告されており,これらの技術の一つに,液中におけるナ ノ粒子の計数技術がある46),54),55).生体,環境媒体,そ
Table 3 The range of particle diameter and number concentration of human red blood cells, white blood cells, and platelets63)
§§ NIOSH: National Institute of Occupational Safety and Health IRMM: Institute for Reference Materials and Measurements
*** 白血球の個数濃度も電気抵抗検知式LPC法にて計数されるが,その際に計数値が白血球のみに起因することを実証することが現状
では困難と思われる.表3と図13(a)とが示すように白血球の粒径範囲は赤血球と多少オーバーラップすることがあり,また個数濃度 が2桁以上低い.赤血球を溶血剤により破壊,あるいは他の方法で分離したとしても,白血球の粒径分布の小粒径域側において赤血球 や血小板の存在による大きなノイズが分布に現れる58).
血液学標準化国際委員会(International Committee for Standardization in Haematology)および国際検査血液学会(International Society for Laboratory Hematology)により推奨されている血小板の個数濃度測定の参照法では,蛍光散乱光を解析することにより赤血球と血小板 との個数濃度比(Red blood cell / Platelet Ratio)を測定する手法が採用されている59).したがって本稿では,電気抵抗検知LPCによる血 小板の個数濃度測定は考慮しない.
Red cells
(erythrocytes) White cells
(leukocytes) Platelets (thrombocytes)
Particle diameter 6-9 µm 7-22 µm 2-5 µm
Number concentration (cm-3) 3.8-5.6×109 64) 7×106 2×108