景観機能を含めた多面的評価による道路空間要素の最適配置技術に関する研究
研究予算:運営費交付金(一般勘定)
研究期間:平 23~平 26 担当チーム:地域景観ユニット 研究担当者:太田 広、松田 泰明、
南 朋恵
【要旨】
政府の新成長戦略において「観光による地域活性」がうたわれており、重要な観光資源である魅力的な景観や 快適な沿道環境は、観光振興や地域振興に大きく貢献する。
本研究では、走行性や安全性などの機能やコストを評価するばかりでなく、景観が持つ機能を考慮した道路空 間の最適化を図ることを目的に、屋外走行実験や室内映像実験から移動景観の印象を左右する区間(場)や要素の 抽出を試みた。これらの結果から、ある特定区間(場)の印象が路線全体のイメージや印象を決定づけること、景 観の点的要素と連続的要素の階層的出現が、印象に大きく影響することなどの成果を得た。
キーワード:道路景観、移動景観、景観評価、景観向上
1
.はじめに
現在、国土交通省が実施する公共事業をはじめと して、社会資本の効率的な整備や維持管理が求めら れている。また、政府の新成長戦略においては「観 光による地域活性」がうたわれており、重要な観光 資源である魅力的な景観や快適な沿道環境は、観光 振興や地域振興に大きく貢献する。特に北海道や九 州、沖縄などでは、旅行先での交通手段としてレン タカーを利用する割合が高く
1)(図-1) 、美しい道 路景観(写真-1)そのものをドライブで楽しむこと が観光目的となっている
1)。
このような背景から、本研究では道路景観に含ま れる要素に着目し、走行性や安全性などの機能やコ スト面からの評価ばかりでなく、景観への配慮を行 うことで高まる機能を評価した上で道路空間の最適 化を図ることを目的としている。今年度は、屋外走 行実験や室内映像実験を実施することで、特定の路 線における移動景観の印象を左右する区間(場の景 観)や景観構成要素の抽出を試みた。
2
.屋外における被験者走行実験
道路利用者は車内から景観を眺める際、どのよう な区間(場)の景観や道路景観の構成要素から路線の 印象やイメージを持つのかを把握するため、一般道 路ユーザーを対象とした屋外走行実験を行った。
写真-1 北海道の道路景観(上:夏期、下:冬期)
1,957 2,065 2,186 2,226 2,321
2,637 2,712 2,761 2,713 2,700
288 345 479 1,325
2,962 5,418
8,695 11,398
0 4,000 8,000 12,000 16,000 20,000
1,000 1,400 1,800 2,200 2,600 3,000
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 (年度) (百台)
資料提供:北海道空港株式会社(レンタカー) 新
千 歳 空 港 レ ン タ カー カ ウ ン ター 取 扱 い 件 数 実 績
外 国 人 に 対 す る 貸 出 件 数 実 績 (件)
図-1 新千歳空港におけるレンタカー貸出件数
2
.
1屋外走行実験の概要
被験者は道内在住の男性 6 名で、 全員が道内出身者 であった。 運転者と同乗者 2 人 1 組の計 3 組に分かれ、
一般国道 243 号、334 号、237 号のシーニックルート を走行し実験を行った。
本実験の概要を図-2に示す。実験では、アイマ ークカメラ及び印象判定ボタン(写真-2)を用いた。
アイマークカメラとは、瞳孔の動きを捉える機器で 人間の視線がどのように動いたかを記録することが できる機器である。本実験では景観の印象を測るこ とが目的のため運転者ではなく同乗者がこのアイマ ークカメラを装着した。
印象判定ボタンは 1/100 秒毎にボタンを押したか どうかを計測できる機器で、 被験者は走行中に良い/
良くない印象を受けた区間で左右のボタンを操作す ることとした。印象判定結果は、アイマークカメラ の画像と同期させることにより印象を受けた区間で 注視していたもの(要素)を把握できる。このボタン については、運転者及び同乗者の両被験者が操作し た。
2
.
2屋外走行実験の結果
各路線を走行することで感じる区間イメージと路 線全体のイメージについて実験直後に実施したアン ケート結果を表-1に示す。これより、以下の結果 を得た。
・路線の特定の区間(場)の印象が、路線全体の印象 やイメージに大きく影響する
・印象を受けた(記憶している)実際の区間延長と印 象の強さは相関しない
また、各被験者に対してそれぞれの景観を評価し た(印象判定ボタンを押した)理由をヒアリングし整 理したところ、被験者は連続景観の中に現れる「点 的要素」や景観から次の景観の変化を捉えるための
「連続的要素」の二つの要素の印象に影響を受けて 景観を評価していることが分かった。 このことから、
良い/良くないと評価された要素を 「点的要素」 と 「連 続的要素」に分類し、さらに構成要素に分類し整理 した(図-3)。これより以下の結果を得た。
・良いと評価された景観の要素は、道路の並木や遠 景の林などであり、連続的要素が多数を占めた
・良くないと評価された景観の要素は、道路の付属 物や沿道の広告物であり、主に注視により認識さ れる点的要素が多数を占めた
・沿道景観への慣れによる「飽き」や個人の状態(疲 れ) 、及び特性(好み)による評価への影響がみら
同乗者 運転者
路線、区間イメージアンケート ( 路線のイメージや区間数、要素を抽出)
印象判定ボタン (良い/悪い景観と感じた場所を抽出)
アイマークカメラ (注視物と時間を測定)
道路空間要素の印象ヒアリング (良い/悪いと感じた理由から要素を抽出)
路線の印象を左右する 区間(場)や要素の抽出
図-2 屋外走行実験の概要と目的
写真-2 屋外走行実験の様子(上:アイマークカメラ、
下:印象判定ボタン)
表-1 路線全体のイメージとその要因
路線 印象に残った
区間イメージ 区間延長 票数 44.18 km
DID 1.92 km 5
丘陵地 1.50 km 4
平地部 3.80 km 2
29.66 km
並木① 3.22 km 3
並木② 2.32 km 2
並木③ 6.72 km 4
山地部(狭) 3.32 km 3 山地部(特広) 2.58 km 3
24.96 km 山地部(狭) 5.04 km 3 山地部(広) 3.02 km 2
市街部 1.14 km 2
山地部(狭) 9.66 km 2 山地部(特広) 7.98 km 4
市街部 1.26 km 3
路線全体のイメージ (具体的な要素)
R237
R243
R334
平地、丘陵地 (畑地/牧草地)
丘陵地、山地 (雑木林/畑地)
山地、丘陵地 (雑木林)
れた
景観工学において、 シーン(場面)景観や移動景観の 体験が総合されて、 ある一定範囲の景観の特徴を論ず る場合に「場の景観」という言葉が使用される
2)。本 実験結果における特定区間の印象が路線全体の印象 に影響する点などは、この「場の景観」の特性にあた るものと考えられる。また、先行研究
3)において「路 面以外の人工構造物の量」 がシーン(場面)景観の印象 評価に影響する要因であることを把握しているが、 本 実験で、 良くないと評価された景観の要素が道路の付 属物や沿道の広告物であった点などから、 移動景観の 評価においても路面以外の人工構造物の影響が大き いと考えられる。
3.専門家を対象とした屋内映像実験
屋外走行実験の結果から、 「場の景観」となる区間 や景観の印象に影響を与える要素が概ね把握できた ため、良いと評価される景観タイプとその評価内容 を把握することを目的に、専門家(道路景観の研究 や業務に携わった経験を持ち、道路景観に関する一 般的な知識を有する者)を対象とした室内映像実験 を実施した。
本実験では屋外走行実験と同じ路線(一般国道 243 号、334 号、237 号)の動画を使用し、屋外実験 の結果を踏まえ、 「馴れ」や「疲れ」 、 「飽き」の影 響による評価の低下が生じないよう工夫した。具体 的には、映像を 1~2 分程度のチャプターに分け、
同様な景観タイプが長く続かないよう配慮した。 実 験の概要を図-4に示す。
3
.
1屋内映像実験の概要
本実験では、 アイトラッカー及び印象判定ボタン、
ボイスレコーダーを用いた(写真-3)。アイトラッ カーとはアイマークカメラと同様、瞳孔の動きを捉 える機器で人間の視線がどのように動いたかを記録 することができる機器である。アイマークカメラと は異なりキャリブレーションが容易で、被験者を選 ばず汎用性が高い。
屋内実験において、被験者は①いい景観と感じた 区間②開放/閉鎖を感じた区間について印象判定ボ タンを押すこととした。
また、被験者には良くないと感じた景観の要因及 び景観イメージの変化点を口述してもらい、ボイス レコーダーで記録した。これらの結果は、すべて同 期させることが可能で、どのような景観タイプ、景 観構成要素の組合せでどのような印象を持ち、どの
4
19
7
28 1
3
5 4
20 1
32 1
3
24 4
27 1
0 5 10 15 20 25 30 35
道路 道路・沿道 道路・遠景 沿道 沿道・遠景 遠景 遠景・沿道
点的 連続的
被験者が良いと評価した回数 (回)
15
1
7
4
3
19
1
7
3
0 5 10 15 20
道路
道路・沿道
沿道
遠景
被験者が良くないと評価した回数 (回)
図-3 被験者の印象評価(良い/良くない)回数と 評価要素の構成(R243)
景観業務経験を有する専門家
ボイスレコーダー ( 良くない景観と感じたときの要因を抽出)
印象判定ボタン
( 良い景観・開放/閉鎖的と感じた場所を抽出)
アイトラッカー ( 注視物と時間を測定)
ボイスレコーダー (景観イメージ変化点を抽出)
景観の構成要素の違いや量、階層的 背景、配置による印象評価の変化を把握
図-4 室内映像実験の概要と目的
写真-3 室内映像実験の様子(左:アイトラッカー、
右:被験者の注視位置)
被験者が良いと評価した要素の構成被験者が良くないと評価した要素の構成
時点で要因を注視しているかなどを把握できる。
3.2 屋内映像実験の結果
本実験では 12 名のデータを得たが、 標準偏差等で 過大に評価する特性のみられたデータを排除し、9 名の被験者データについて整理を行った(図-5) 。
図-5は、横軸に映像の時間経過、縦軸に景観を 評価した、 開放/閉鎖の印象を感じた被験者数を表し ている。この結果から、好印象を受ける区間では同 時に開放的と感じている傾向を把握した。一方、開 放的な区間が必ずしも評価される区間ではないこと も把握した。
次に、被験者の注視行動について分析した結果を 図-6、7、8に示す。これらの結果から以下のこ とが推察される。
・半数以上の被験者が良くないと評価した区間にお いて注視回数から整理考察すると、被験者は点要 素を注視した上で、区間(場)の景観の評価を行っ ている(図-6)
・場の景観の評価は高い区間において、良くないと 感じた要因を口述している場合、その要因の注視 時間が長くなる傾向がみられる(図-7)
・開放を感じている区間では注視エリアが広がり、
閉鎖を感じている区間では狭くなる(図-8)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
00:01 00:11 00:21 00:31 00:41 00:51 01:01 01:11 01:21 01:31 01:41 01:51 02:01 02:11 02:21 02:31 02:41 02:51 03:01 03:11 03:21 03:31 03:41 03:51 04:01 04:11 04:21 04:31 04:41 04:51 05:01 05:11 05:21 05:31 室内被験者○
室内被験者閉鎖 室内被験者開放
映像経過時間(秒)
被験者の評価人数(人)
映像経過時間(秒)
被験者の評価人数(人)
05:01 05:11 05:21 05:31 05:41 05:51 06:01 06:11 06:21 06:31 06:41 06:51 07:01 07:11 07:21 07:31 07:41 07:51 08:01 08:11 08:21 08:31 08:41 08:51 09:01 09:11 09:21 09:31 09:41 09:51 10:01 10:11 10:21 10:31 10:41 10:51 11:01 11:11 11:21 11:31 室内被験者○
室内被験者閉鎖 室内被験者開放
映像経過時間(秒) 映像経過時間(秒)
図-5 R243 号の好印象区間と開放/閉鎖の関係
図-6 良くないと評価された区間の注視回数
図-7 好印象区間での良くない印象要素の注視
図-8 開放
/閉鎖区間の注視特性(左:閉鎖区間、
右:開放区間)
4
.まとめ
屋外走行実験、屋内映像実験から以下のことが分 かった。
①路線の特定の区間(場)の印象が、路線全体の印象 やイメージとなっており、実際の区間延長と印象 の強さは相関しない
②好印象を受ける区間では、同時に開放的と感じて いる傾向にある
③道路利用者は道路の付属物などの「点的要素」と 道路の並木などの「連続的要素」の印象に影響を 受けて景観を評価している
④良いと評価された景観要素は連続的要素が多く、
良くないと評価された景観要素は点的要素が多い
⑤開放を感じている区間では注視エリアが広がり、
閉鎖を感じている区間では狭くなる
既往研究においては印象が変化する場所の解析手 法として、景観タイプ、見せ場
4)、注視形態
5)に着 目した区間文節により分析している例があり、また 同質の景観特性を有する区間を対象として、評価に 影響を与えると考えられる景観構成要素やその影響 度を把握している例がある。
本研究では、特定の路線の中から路線全体のイメ ージを左右する場(区間)を抽出し、同時に注視行動 を把握することで、見せ場における印象を左右する
道路景観要素の改善工夫や路線全体のイメージを向 上させる技術の提案が可能ではないかと考えている。
今後、各場(区間)の景観における景観構成要素の 階層と配置から場(区間)の印象に影響を与える要素 を特定し体系的整理を行う予定である。
また、路線の印象を決定づける場(区間)の景観を 定量的な指標を用いて特定することで、さまざまな 路線における景観整備を行う際にどの区間を優先的 に整備することが、路線全体の魅力向上に効果的か を判断できる手法を提案したい。
参考文献
1) (財)日本交通公社:旅行者動向 2010,2010.10 2)天野浩一: 「景観の類型」 ,景観用語辞典,pp.28,2007.3 3)草間祥吾,松田泰明,三好達夫: 「北海道における道路
景観の印象評価に影響を与える要因について」 ,寒地 土木研究所月報 No.691,pp13-20,2010.
4)星子隆,齋藤潮,岡田一天: 「沖縄自動車道のシークエ ンス景観構造に関する研究」 ,土木学会論文集 No.779,
pp83-93,2005.01
5)加藤祐介,吉田博宣: 「史跡岡城跡におけるシークエン ス景観の分析」,ランドスケープ研究 No.67(5),
pp637-642,2004.03
A STUDY ON THE OPTIMAL ARRANGEMENT TECHNOLOGY OF ROAD SPACE ELEMENTS BY MANY-SIDED EVALUATION INCLUDING LANDSCAPE FUNCTION
Budged:Grants for operating expenses General account
Research Period:FY2011-2014
Research Team:Scenic Landscape Research Unit Author:OTA Hiroshi
MATSUDA Yasuaki MINAMI Tomoe
Abstract
:As “Regional Revitalization by Sightseeing” is used in New Growth Strategy of Japanese
Government, attractive landscapes and comfortable roadside environments materially contributing to promotion for sightseeing or regions are important sightseeing resources.In this study, we have aimed to attempt the optimization of the road space by evaluating not only costs and functions of traveling performance and safety but also function of landscape. Based upon the exterior running experiments and the interior video experiments,we tried to extract space (location) and elements affecting movement impressions. This gives us the conclusion that the impression that comes from a specific interval determine overall image or impressions produced by routes, and that hierarchical emergence of landscape’s point or consecutive elements significantly affect impressions.
Key words:roadside landscape,sequence view, landscape evaluation, landscape improvement