授業における子どもの反省的思考に関する研究―小学校高学年の調査を中心に― [ PDF
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(2) 局面」とは、「展開された思考を反省的に分析することにより. 2.3.連続的ディスコースの形成における教師の役割. 明らかになり、それぞれ、意味の認知・使用の方法として、さ. 堀江・羽野(1997)は反省的思考あるいは連続的ディスコ. まざまな場面で繰り返し、あるいは継続的に、同時進行的に. ースの習慣を育てることをめざす教育において、教師には、. 見ることができる思考の五つの種類の知性的な機能の分類. 子どもの反省的思考を喚起し、教室に連続的ディスコースが. なのである」(藤井 2010 p.237)。デューイは、これらの「側. 生まれることが求められると指摘した。教師はどのような役割. 面あるいは局面」が、探究の過程がたどる「固定的な段階」と. を果たすべきなのかについて堀江・羽野(1997)は以下のよ. して捉えることはできないこと、相互に「折り重なっている」こ. うに述べている。. とや、あるいは側面が「急いで通り過ぎられる」ことや、繰り返. まず、子どもたちを教育内容そのものに興味づけさせる。. し現れたりすることを指摘している。. 次に、出発点は衝動的な興味であったが、自分は何をしよう. 1.3.反省的思考の意義. としているのか、ということを意識して教育内容に向かう知的. 第一に、展開した自己の思考を、反省的に点検・確認す. 興味へと連続的に発展させていく。そして、子どもたちが、自. る観点として使用することにより、確実性を持って問題解決. 分たちの経験を根拠づけていくように推論し、教師とのディ. の活動を導くことが可能であることであり、第二に、一つの探. スコースに支えられながら、推論を共有し、共有したことをす. 究が経験として構成され、その後の探究を導くための知識が. りあわせて、真の問題の発見へと共同で探究するようにして. 精緻化されて蓄積され、その後の経験が連続的・発展的に. いくのである。さらに、個人が生活の中で形成した感覚や印. 構成されていくことである。. 象、あるいは、議論によって形成された理論的な知を表現さ. 1.4 授業における子どもの反省的思考の意義. せる。. 子どもの反省的思考を取り入れる意義について、川和. 第 3 章 子どもの反省的思考に関する現状調査. (2010)は以下のように 3 点に整理している。つまり、①学習. 3.1.小学校高学年の子どもに対する質問紙調査. 内容への再認識、その理解への深化 ②学習内容への再. 3.1.1.質問紙調査の概要. 統合、再構成 ③学習内容への教訓帰納である。. 本研究では、F 市立 A 小学校での一年間のフィールドワ. 第 2 章 連続的ディスコースの形態と子どもの反省的思考. ークを通して得た見聞や、デューイの反省的思考に関する. 2.1.連続的ディスコースの形態. 理論に基づき、質問紙を作成し、平成 25 年 2 月 20 日に、. 堀江・羽野(1997)は以下の通りに連続的ディスコースを. 予備調査を行い、平成 25 年 3 月 31 日に、回収した。調査対. 三つの形態に分けて述べた。. 象は小学校五年生と六年生とし、質問項目は計 18 問で、回. 第一の形態は、他者との直接的議論である。第二の形態. 答は無記名である。その予備調査の結果を踏まえて、平成. は、個人的探究の過程において、個人の知性の内部で生じ. 25 年 6 月 28 日に 21 項目に再構成した質問紙を使い、F 市. る、他を想定した間接的議論の形態である。第三の形態は、. 立 A 小学校の五年生と六年生や X 市立 Y 小学校の五年生. 自分の内部での静かな対話という形態である。. に本調査を行った。研究対象は小学校五年生と六年生とし、. 2.2.子どもの反省的思考に対する連続的ディスコースの意. 質問項目は計 21 問で、回答は無記名である。. 義. 3.1.2.質問紙調査の結果. 子どもたちの個人活動、集団活動や教師とのかかわりに. 質問紙調査は送付した 305 通はすべて回収したため、回. 焦点を当てて、子どもの反省的思考に対する連続的ディス. 収率は 100%であった。そのうち、A 小学校は五年生が 3 ク. コースの意義を検討した。. ラスあり、110 名であり、Y 小学校は五年生が 2 クラスあり、69. まず、個人活動では子どもは反省的思考を行うことにより、. 名である。五年生は A 小学校と Y 小学校を合わせて計 179. 連続的ディスコースにおいて主体内面で連続的に関連づけ. 名である。六年生は A 小学校が 4 クラスで 126 名である。. られ、発展的な思考展開に関する再整理と再組織が遂げら. この結果に因子分析を行ったところ五つの因子をとること. れる。. ができたので、子どもには反省的思考の五つの側面あるい. また、集団活動では、子どもは反省的思考を行うことによ. は局面があると言える。五年生、六年生を全体としてとらえる. って、連続的ディスコースにおいて相互に思考の刺激を受. と、反省的思考の五つの側面あるいは局面のうちでは、一. け、思考の展開の方向・視点の多様化が実現される。. 番機能しているのは仮説であり、次に働くのは状況把握であ. そして、教師とのかかわりでは、子どもは反省的思考を行. る。推論はその次に続く。そして、検証は四番目になり、問. うことで、示唆などによる教師の学習支援から思考の内容の. 題意識が最も弱いという傾向が見られた。他方、子どもの反. 補足および追究方向の修正が期待される。. 省的思考には各側面あるいは局面の機能のバランスがとら 2.
(3) れていないであるが、子どもの反省的思考の五つの側面あ. 面あるいは局面のうちでは、仮説においてほかの側面ある. るいは局面には極端な差が特にないということがわかった。. いは局面より一番働いている理由に関して(Q4-C 教師 D. その他、五年生と六年生を比較すると、五年生と六年生とは. 教師 M 教師 Q5-D 教師)、教師の語りからその理由は以. 反省的思考の五つの側面あるいは局面に大きな違いがな. 下のようである。教師は知識を子どもに詰め込んだりしない. いことがわかった。六年生は反省的思考の五つの側面ある. ように、ペアやグループディスカッションなどの形で、自分の. いは局面のうちで仮説、状況把握、検証が五年生のより点. 考えたことをお互いに発表しあうように子どもを考えざるを得. 数が高い。それに対して、五年生は推論、問題意識で六年. ない場面に置いて問題の解決方法への予想や見通し(仮. 生のより高い。つまり六年生の反省的思考の五つの側面あ. 説)などを持たせるように意識している。再表現活動といった. るいは局面は必ずしも五年生よりよく機能しているとは言い. ような子どもが自分なりに学習した内容を再整理し、わかりか. 切れない。. たを作るのは子ども自ら学習内容を振り返って考えることに. 3.2.子どもの反省的思考に関する教師への聞き取り紙調査. 意義がある。このような意味で子どもが仮説を立てることがで. 質問紙調査の結果から二つの問題が見られた。その一つ. きるようになる能力を育てることを常に努めている。しかし、. は五年生も六年生も反省的思考の五つの側面あるいは局. 自分なりの理解のしかたが正しいかどうかは検証されない。. 面のうちでは、問題意識と検証においてほかの側面あるい. 第三に、子どもの考える力を育てやすい学習環境につい. は局面より弱いことである。もう一つは仮説においてほかの. て(Q6-B 校長 C 教師 M 教師)、教師の語りから以下の五. 側面あるいは局面より一番働いていることである。その理由. 点が整理された。まず、一斉授業で、グループディスカッショ. を明らかにするために、教師に聞き取り調査を行った。そし. ンのようなお互いに考え方を交流することで、子ども全員が. て、子どもの反省的思考を育てるよい学習環境とは何か、そ. 学習問題をよく考えるため、子どもが考えざるを得ない場面. の学習環境をどのように作るのかなどについて教師に聞き. を作らなければならない。そして、子どもの思考のつまずき、. 取り調査を実施した。. ずれ、間違いといったようなマイナスようにみえるものを大事. 3.2.1.聞き取り調査の実施. にし、それなりに意味をつけてプラスに評価するべきである。. 1.平成 25 年 8 月 16 日に、X 市立 Y 小学校五年生の担任. また、クラスの規模はグループディスカッションが少人数であ. M 教師に質問紙調査を行った。. れば、子どものそれぞれの学習の過程、思考の変容に着目. 2.平成 25 年 9 月 1 日に、W 中学校 B 校長への聞き取り調. し、個を活かし、個に応じた指導が期待される。他方、子ども. 査を実施した。小中一貫である B 校長は E 小中学校の元校. に考える時間や話す時間を与える必要がある。最後は子ど. 長である。. もたちが問題をよく考えて、自分の意見や考え方をお互い. 3.平成 25 年 9 月 4 日に、F 市立 A 小学校五年生の担任 C. に活発的に検討し、話し合うことができ、学習に意欲を持ち、. 教師に聞き取り調査を行った。. お互いを励ましたりできるような学級集団がつくれれば、子. 4.平成 25 年 9 月 4 日に、F 市立 A 小学校六年生の担任 D. どもの思考力を育てるいい学習環境だと考えている。. 教師に聞き取り調査を実施した。. 第 4 章 子どもの反省的思考を重視した学習環境モデルの. 3.2.2.聞き取り調査の結果. 構想. 第一に、五年生も六年生も反省的思考の五つの側面ある. このような現状調査の結果を踏まえ、子どもの反省的思考. いは局面のうちでは、問題意識と検証においてほかの側面. を重視する学習環境モデルへの構想を検討した。子どもの. あるいは局面より弱い理由に関して(Q1-M 教師 Q2-M. 問題意識が低い理由を追究するため、聞き取り調査を通し. 教師 D 教師 Q3-D 教師)、教師の語りからその理由をま. て問題発見をめぐり、教師たちの考え方を整理した結果、問. とめた。すなわち、①子ども自ら問題をさがすより、むしろ教. 題発見の主体は子どもではなく、ほぼ教師であることがわか. 師が子どもに与える場合が多い。②子どもは自分が学習内. った。したがって第 4 章では問題発見の主体により、四つの. 容にどんなところがわからないのかを自覚していない。③学. 学習環境モデル(伝達型、誘導型、協働型、観察型)を想定. 力テストの影響を受け、教師が反復トレーニングを行い、子. した。この四つの学習環境モデルを説明すると、伝達型とは. どもは学習内容を機械的暗記し、身につける。④子どもは教. 教師は主導で問題解決の先導者として、先に問題を発見し、. 師の説明を聞くだけで、実際に自力で問題に再度取り組み、. 直面し、問題解決の仕方を子どもに教え込むことである。誘. 学習内容の意味や概念を納得する試行を続けるといったよ. 導型とは教師は先に問題を自覚して問題状況に直面し、問. うな検証が十分になされていない。. 題を子どもに与えることである。協働型とは教師は意図的に、. 第二、小学校五年生と六年生は反省的思考の五つの側. 子どもが自主的に問題を発見し、問題解決ができるように支 3.
(4) 援をする。観察型とは教師は子どもの学習状態を見守りなが. 想定した四つの学習環境モデルはいずれも絶対的なもので. ら学習活動を支援し、子どもは自ら問題の発見から解決まで. はなく、子どもの反省的思考を促すためには各モデルを必. に取り組み、自分の思考あるいは学習状態を反省しながら、. 要性に応じて組み合わせたほうがよいことが示唆された。各. 能動的に学習活動を行うことである。その想定した学習環境. 学習環境モデルの実現可能な前提条件を明確にし、これら. モデルに対して、子どもの反省的思考を重視する学習環境. の想定した四つの学習環境モデルを考慮する必要がある。. モデルに関して教師たちに聞き取り調査を行った。. 今後の課題. 聞き取り調査の結果、これらの想定した四つの学習環境. 今後の課題は以下の 2 点である。一つは子どもの反省的. はいずれも絶対的なものではなく、子どもの反省的思考を促. 思考を導き出す学習環境モデルは構想までの検討に留まり、. すためには各モデルを必要性に応じて組み合わせたほうが. 十分に検証されていない。もう一つは、子どもの反省的思考. よいことが示唆された。すなわち、伝達型のモデルは最初、. と教師の反省的思考との関連性を追究することである。. 材料や基礎をしっかり子どもに身につけることに意味がある。. 参考文献:. そして、授業のまとめのときに、伝達型と組み合わせたほうが. 川和田享(2002)「算数・数学の学習指導における反省的活. よく、また、一斉授業において協働型のモデルはできないが、. 動に関する考察」全国数学学会『数学教育学研究』第 8 巻,. 少人数であれば、実施可能である。一斉授業において、協. pp.109-118.. 働型のモデルは難しく、伝達型と誘導型と協働型を組み合. デューイ著(1933)植田清次訳(1955)『思考の方法』春秋社. わせるより理想的な授業になる可能性が高いということであ. 藤井千春(2010)『ジョン・デューイの経験主義哲学における. る。. 思考論―知性的な思考の構造的解明』早稲田大学出版部. 他方、子どもに育てさせたい力、教科、学習の特性、カリ. 堀江伸・羽野ゆつ子(1997)「ジョン・デューイおける「反省的. キュラムや学習指導要領、クラスの規模、子どもの考える力. 思考」の理論と教師論-連続的ディスコースの習慣形成と教. など各学習環境の実現可能な前提条件を明確にし、これら. 師の役割をめぐってー」『滋賀大学教育学部紀要 教育科. の想定した四つの学習環境を考慮する必要がある。. 学』No.47 pp.77-89.. おわりに. 中原忠男(2000)「反省的思考」『算数.数学科重要用語 300. 本論のまとめ. の基礎知識』明治図書 p.62. 本研究では反省的思考や連続的ディスコースに関する理. 柳田修平(2009)「数学学習における関係的理解を促す反. 論に基づき、小学校高学年を対象に質問紙調査を行った。. 省的思考」『群馬大学教育実践研究』第26号,pp.17-23.. その結果、反省的思考の五つの側面あるいは局面のうちで は、一番機能しているのは仮説であり、次に働くのは状況把 握である。推論はその次に続く。そして、検証は四番目にな り、問題意識が最も弱いという傾向が見られた。他方、この質 問紙調査から、問題意識と検証はほかの側面あるいは局面 より弱いことと、仮説ほかの側は一番働くことがわかった。こ の理由を明らかにするため、教師に聞き取り調査を実施した。 その結果、教師が実際に行っている授業とその学習環境は 子どもの仮説づくりとのながりがよいが、子どもの問題意識の 向上と仮説の検証につながりが弱いことが推察された。その 理由を踏まえて、子どもの考える力を育てやすい学習環境 は何か、そのような学習環境をどのように作るのかについて 教師に尋ねた。最後に、このような現状調査の結果を踏まえ、 子どもの反省的思考を重視する学習環境モデルへの構想 を検討した。第 4 章に述べたように問題発見の主体により、 四つの学習環境モデル(伝達型、誘導型、協働型、観察型) を想定した。その想定した学習環境モデルに対して、子ども の反省的思考を重視する学習環境モデルに関して教師た ちに聞き取り調査を行った。聞き取り調査の結果、これらの 4.
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