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Japanese Adult Reading Test(JART)と認知機能障害との関連

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Copyright ⓒ 2013 by The Japanese Society of General Hospital Psychiatry Printed in Japan

原  著

Original article

Japanese Adult Reading Test(JART)と

認知機能障害との関連

福榮 太郎

*1

  福榮 みか

*2

  石束 嘉和

*2

Relationship between Japanese Adult Reading Test (JART)

and cognitive dysfunction

Taro Fukue*1, Mika Fukue*2, Yoshikazu Ishizuka*2

1 Yokohama National University, Center for Health Service Science,

79-1 Tokiwadai, Hodogaya-ku, Yokohama 240-8501, Japan2 Yokohama City Minato Red Cross Hospital

Abstract:The Japanese Adult Reading Test (JART) is a standardized cognitive function test to esti-mate the premorbid intelligence quotients (IQ) of examinees with cognitive impairments. However, use of JART in clinical practice gives an impression that IQ, as estimated by JART, decreases as cogni-tive impairment progresses. In this study, we examined the association between cognicogni-tive impairment severity and scores for the JART-25 (the abridged version). Moreover, JART-25 and the subscales of cognitive function tests were also examined to determine which cognitive functions are associated with JART-25. This study included 828 patients who visited our outpatient memory loss clinic, and we also examined whether the Mini-Mental State Examination (MMSE) and the Hasegawa Dementia Scale-Revised (HDS-R) were associated with JART-25. The results revealed low MMSE and HDS-R scores to be associated with low JART-25 scores. Next, we examined whether the MMSE and HDS-R subscales were associated with JART-25. We found JART-25 to be weakly associated with cognitive functions of orientation, memory, comprehension, and executive function but strongly associated with those of at-tention, language function, and number concept. Thus, our results suggest that JART-25 scores should be interpreted with a degree of caution.

Key words:Japanese Adult Reading Test: JART, Hasegawa's dementia scale-revised: HDS-R, Cognitive dysfunction

問題と目的

1.JART に関する先行研究

Japanese Adult Reading

Test(JART)は,Na-tional Adult Reading Test(NART)1-3)の知見を

基に,松岡ら4)によって作成され,松岡・金5)

よ っ て 標 準 化 さ れ た。JART の 基 礎 と な っ た NART は,不規則な読みをもつ 50 の英単語を音 読させ,その結果から推定 IQ を算出する心理検 査である。NART の算出する推定 IQ は,健常 者 に お い て Wechsler Adult Intelligence Scale (WAIS)の算出した IQ と高い相関を示すことが

明らかにされている6)。また NART によって算

*1 横浜国立大学保健管理センター(〒 240-8501 横浜市 保土ヶ谷区常盤台 79-1)

(2)

出された IQ は,加齢7)や認知症8, 9),統合失調 症10),うつ11)などに伴い生じる認知障害に影響 されにくいことが指摘されている。NART は, WAIS などの知能検査と比較し,施行が簡便で, 被験者の負担も少なく,また認知機能障害に影響 を受けにくいなどの特徴から,認知機能障害を呈 する患者の病前の IQ を推定するために用いられ ている。 松岡ら4)は,NART で用いられている不規則 的な読みをもつ英単語の代わりに,漢字熟語の音 読を課題とし,JART100 を作成した。JART100 では,漢字熟語を構成する単独漢字の代表的な読 みを連ねるだけで音読できる「規則読み漢字」(た とえば,「階段(かいだん)」)50 項目と,代表的 な読みを連ねただけでは音読できない「不規則読 み漢字(熟字訓)」(たとえば「案山子(かかし)」) 50 項目,計 100 項目の音読課題を作成した。そ の後の研究で,これらの漢字熟語は 50 項目まで 選定され,JART50 として標準化されている。ま た JART50 からさらに 25 項目を選択した短縮版 JART25 も標準化されている5) JART も NART と同様に妥当性の検討がなさ れている。松岡・金5)は,MMSE の得点が 23 点 以下で,診断学的にアルツハイマー型認知症とさ れ た 被 験 者 を ア ル ツ ハ イ マ ー 認 知 症 群 と し, JART50 および JART25 と WAIS を施行し,健 常群と比較検討を行っている。その結果,健常群 では JART と WAIS に有意な相関がみられ,ア ルツハイマー群では WAIS の値が有意に低下す るものの,JART の値は保持されたとしている。 これらの結果から JART50 および JART25 の算 出する推定 IQ は,認知障害の重篤度に影響を受 けにくいとしている。 植月ら12)は,統合失調症患者を対象に WAIS-R と JAWAIS-RT100 を施行し,統合失調症に伴う認知 機能の低下においても,JART100 の妥当性が示 さ れ た と 結 論 付 け て い る。 ま た 植 月 ら13)は, JART50,JART25 においても統合失調症患者を 対象に検討を行い,妥当性を示している。これら の検討から JART100 および標準化されている JART50,短縮版の JART25 には,それぞれ一定 の信頼性,妥当性があると考えられる。 2.JART と認知機能の低下との関連 認知機能の低下の影響を受けにくいとされてい る NART や JART ではあるが,一方で一定の影 響を受けるとする研究もある。たとえば Stebbins ら14)は,NART の誤答数と認知障害の重篤度 とは関連しており,このことから NART の使 用はごく軽度の認知障害患者に限定するべきで あると指摘している。JART100 の作成にあた り 松 岡 ら4)は,Mini-Mental State Examination

(MMSE)15, 16)で 20 点以上を示した被験者を軽度 認知症群とし,検討を行っている。この統制は, 認知機能の低下が JART100 の結果に何らかの影 響を与える可能性があるために設定したとされて いる。また臨床的な経験則からではあるが,認知 機能の低下に伴い JART の算出する推定 IQ も低 下する印象を受ける。 そこで本研究では,認知機能の低下と JART の推定する IQ との関連を明らかにすることを目 的とする。 一般的に認知機能障害の程度を簡便に測定する 場合,MMSE や改訂長谷川式簡易知能評価スケー ル(HDS-R)17)が用いられる。本研究においても, MMSE と HDS-R を用いて,検討を行う。一方 で,MMSE や HDS-R の下位項目を概観すると, 見当識や記憶,計算,言語流暢性,構成などさま ざまな認知機能を測定している。そこで本研究で は,JART の算出する推定 IQ がどのような認知 機能と関連しているかを検討することを第 2 の目 的とする。

方  法

1.調査内容 年 齢, 性 別, 診 断 名 な ど の 属 性 に 加 え, JART25,MMSE,HDS-R をテストバッテリー として施行した。また本研究の調査場所となった 横浜市立みなと赤十字病院では,JART25 を用い ている。 1)JART25 「規則読み漢字」「不規則読み漢字」によって構 成される 25 の漢字熟語の音読課題であり,誤答 数に応じて最大 120 から最少 69 の推定 IQ を算

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出する。また JART は,音読課題の誤答数に応 じ て,Full Scale Intelligence Quotient(FSIQ), Performance Intelligence Quotient(PIQ),ver-bal Intelligence Quotient(VIQ)が設定されてい る。これらの 3 つの値は,FSIQ が 100 の場合, VIQ は 100,PIQ は 99 というように固定されて いる。このため本研究では FSIQ のみを検定に用 いた。 2)MMSE 30 点満点の認知機能検査であり,場と時間の 見当識,記銘,想起,計算,呼称,三段階命令, 読解,復唱,書字,構成の 11 の下位検査によっ て構成されている。本研究では,場と時間の見当 識を合算し,見当識とした。23/24 がカットオフ ポイントである。 3)HDS-R 30 点満点の認知機能検査であり,年齢,場, 時間の見当識,記銘,想起,計算,逆唱,視覚的 記銘,言語流暢性の 9 の下位項目によって構成さ れている。本研究では,年齢,場,時間の見当識 を合算し,見当識とした。20/21 がカットオフポ イントである。 2.調査対象 横浜市立みなと赤十字病院もの忘れ外来に受診 した患者 1,018 名を対象とし,そのうちすべての 検査項目に正常に回答できた患者 828 名(平均年 齢:77.80 歳,SD=9.31)を対象とした。 3.倫理的配慮 被験者には本調査の内容,主旨を説明し,調査 協力についての同意書をとった。また被験者本人 の判断能力に問題がある場合,家族などの代理人 に同意をとった。データの入力はすべて調査場所 となっている病院内で行い,院外で行う解析など は個人が特定されない数的データのみを用いた。 また本研究の調査手法については,横浜市立みな と赤十字病院の倫理委員会において承認を得,さ らに解析を行った横浜国立大学の臨床研究倫理専 門委員会においても承認を得た。

結  果

1.JART25 と MMSE,HDS-R の総得点の関連 1)JART25 と MMSE の総得点の関連 MMSE の総得点において低得点の被験者が少 なかったため,各点の被験者数を順次足しあげて いき 10 人を超えたところで群分けを行った。そ の結果 2 〜 6 点の被験者,7 〜 9 点の被験者をそ れぞれ合算し,JART25 の平均を求めた(Table 1)。 次 に 目 的 変 数 に JART25 を, 従 属 変 数 に MMSE の得点を設定した一元配置の分散分析を 行った。その結果,F(22,805)=12.63,p< .01 であり,MMSE の得点と JART25 の間に関連が あることが示された。 また JART や NART は,重篤な認知機能障害 がある場合,正確な病前 IQ を算出できない可能 得点 n JART FSIQ 平均 SD 2 〜 6 12 81.00 (10.63) 7 〜 9 21 80.14 (12.38) 10 11 86.09 (8.44) 11 15 87.33 (11.64) 12 15 85.13 (11.32) 13 27 86.56 (11.30) 14 24 94.58 (10.83) 15 25 91.60 (13.92) 16 41 91.05 (12.39) 17 50 93.42 (12.03) 18 48 93.77 (11.64) 19 46 93.13 (12.59) 得点 n JART FSIQ 平均 SD 20 57 96.98 (14.33) 21 44 98.45 (12.57) 22 51 104.14 (12.84) 23 48 99.65 (13.26) 24 60 101.42 (12.56) 25 56 103.64 (11.50) 26 39 104.38 (10.76) 27 33 102.30 (13.19) 28 31 101.10 (11.79) 29 44 107.30 (7.99) 30 30 109.37 (8.92)

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性があると指摘されている。そこで一般的には正 常域とされる MMSE 24 点以上の被験者(n= 292)に対して,一元配置の分散分析を行った。 その結果,F(6,286)=2.81,p< .05 であり,正 常域とされる被験者においても,MMSE の得点 と JART25 の間に関連があることが示唆された。 2)JART25 と HDS-R の総得点の関連 HDS-R の総得点においても低得点の被験者が 少なかったため,MMSE と同様の処理を行い, その結果 0 〜 4 点の被験者,5 〜 6 点の被験者を それぞれ合算し,JART25 の平均を求めた(Table 2)。次に MMSE と同様に一元配置の分散分析を 行 っ た。 そ の 結 果,F(25,802)=8.34,p< .01 であり,HDS-R の総得点と JART25 の間に関連 があることが示された。 また MMSE と同様に,正常域とされる HDS-R 21 点以上の被験者(n=350)に対して,一元配 置の分散分析を行った。その結果,F(9,340)= 2.61,p< .01 であり,正常域とされている被験 者においても,HDS-R の得点と JART25 との間 に関連があることが示唆された。 2. JART と MMSE お よ び HDS-R の 下 位 項目との関連 JART25 の推移にどのような認知機能が関連し て い る か を 明 ら か に す る た め に,JART25 と MMSE,HDS-R との下位項目の相関係数を算出 した。 1)JART25 と MMSE の下位項目との関連 JART25 と MMSE の下位項目の相関係数を算 出したところ,すべての項目において 1%水準で 有意であった(Table 3)。そのため本研究では 相関係数に着目し,r<±.3 を無相関,±.3≦r< ±.4 を弱い相関,±.4≦r<±.6 を中程度の相関 として解釈した。 その結果,「見当識(.373)」「復唱(.326)」「計 算(.388)」で弱い正の相関が,「書字(.414)」「MMSE 総得点(.481)」で中程度の正の相関がみられた。 2)JART25 と HDS-R の下位項目との関連 HDS-R の下位項目に関しても,すべての項目 において 1%水準で有意であるという結果を得た ため,相関係数に着目し言及を行う(Table 4)。 検定の結果,「逆唱(.376)」「野菜の名前(.327)」 Table 2.HDS-R の各点における JART25 の平均点 得点 n JART FSIQ 平均 SD 0 〜 4 12 85.16 (10.43) 5 〜 6 14 81.64 (12.76) 7 11 84.55 (9.62) 8 20 81.65 (10.05) 9 29 89.38 (14.15) 10 27 92.96 (9.79) 11 27 91.26 (13.00) 12 26 88.19 (12.95) 13 39 92.10 (12.33) 14 37 95.32 (13.29) 15 32 99.06 (12.59) 16 39 98.10 (12.95) 17 37 94.03 (13.59) 得点 n JART FSIQ 平均 SD 18 49 99.04 (12.56) 19 38 97.82 (14.07) 20 41 99.39 (12.13) 21 42 100.00 (13.60) 22 38 103.26 (12.95) 23 33 97.94 (12.08) 24 32 101.25 (13.87) 25 32 102.13 (11.66) 26 35 100.77 (12.71) 27 32 102.59 (13.00) 28 42 103.88 (11.30) 29 34 102.94 (11.98) 30 30 111.27 (7.31)

Table 3.JART25 と MMSE の相関

JART FSIQ 見当識 .373 ** 記銘 .229 ** 想起 .224 ** 呼称 .124 ** 三段階命令 .220 ** 読解 .221 ** 復唱 .326 ** 計算 .388 ** 書字 .414 ** 構成 .144 ** MMSE 総得点 .481 ** **p < .01

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で弱い正の相関が,「計算(.413)」「HDS-R 総得 点(.413)」で中程度の正の相関がみられた。

考  察

1.JART25 と MMSE,HDS-R の関連 本研究の結果から,MMSE および HDS-R の低 値と JART の低値に関連がみられた。また正常 域とされる被験者についても検討を行った。その 結 果,MMSE 24 点 以 上 の 被 験 者 に お い て も, HDS-R 21 点以上の被験者においても,MMSE お よび HDS-R の低値と JART の低値に関連がみら れた。これらの結果から,これまでは特に保たれ ると考えられていた軽微な認知機能障害の被験者 においても,JART25 の結果の解釈については慎 重である必要があると考えられる。 一方で,MMSE や HDS-R において 5 点以下の 最重度の認知機能障害を示す被験者のなかでも, JART25 の値が 100 以上を示す場合があった。臨 床現場の経験則では,最重度の認知機能障害を示 す被験者に WAIS などの知能検査は,施行その ものが困難であると考えられる。このことから JART25 が認知機能障害と一定の関連があったと しても,検査の施行可能性,施行の簡便性などか ら,JART25 の本質的な特性や有用性が損なわれ るものではないと考えられる。ただ本研究の結果 からは,被験者の認知機能障害の程度に応じて, JART25 の解釈に留意する必要があると考えられ る。 2. JART25 と MMSE,HDS-R との各下位 項目の関連 次に MMSE,HDS-R の各下位項目に注目し, 個別の認知機能と JART25 の関連について検討 を行う。 MMSE,HDS-R の 2 つの認知機能検査におい て,それぞれの特徴はあるものの,概ね同様の課 題をもつ検査項目として,「想起」「記銘」「計算」 「見当識」があげられる。 第一に「想起」「記銘」では,MMSE,HDS-R ともに,JART25 と関連がみられなかった。「想起」 「記銘」は記憶を中心に評定している。このほか にも記憶を評定している項目として,HDS-R の 「視覚的記銘」があげられるが,この項目も無相 関(.268)であった。認知症などの中核症状の一 つである記憶障害と JART25 の関連が低いとい うことは,認知機能障害があっても比較的保たれ るとされる JART25 の特徴を示している結果で あると考えられる。特に“もの忘れ外来”という ように,高齢者の認知機能障害には,記憶障害が 目立つことが多い。症候学的に強い印象を与える 記憶障害に JART25 が強い関連を示さないこと は,JART25 の有用性の一つであると考えられる。 第二に「計算」では,MMSE において弱い相 関(.388),HDS-R において中程度の相関(.413) がみられた。MMSE,HDS-R の「計算」は,と もに注意を中心に評定を行っている。このほかに も注意を評定しているとされる MMSE の「復唱」 (.326),HDS-R の「逆唱」(.376)でも関連がみ られた。このことから,JART25 は注意障害と関 連が強いと考えられる。ただ注意という概念その ものが広範な認知機能に関わっており,JART25 と注意障害との間に関連があるかは本研究の結果 からだけでは判断できない。たとえば JART25 は,時間無制限の音読課題であり,必ずしも注意 の持続が必要ではない。また植月ら12, 13)が対象と した統合失調症も注意障害は生じると考えられる が,JART の値は保持されている。さらに計算の 施 行 数 の 多 い MMSE よ り, 施 行 数 の 少 な い HDS-R のほうが,JART と高い相関を示した。 これらのことから JART25 が注意障害だけでは なく,数概念や計算能力などの別の認知機能と関 Table 4.JART25 と HDS-R の相関 JART FSIQ 見当識 .278 ** 逆唱 .376 ** 記銘 .221 ** 想起 .243 ** 視覚的記銘 .268 ** 計算 .413 ** 野菜の名前 .327 ** HDS-R 総得点 .413 ** **p < .01

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連がある可能性も考えられる。 第三に「見当識」は,MMSE と HDS-R との項 目内容がかなり類似しているにも関わらず,最も 結果に相違が生じた項目であり,MMSE では弱 い相関(.373),HDS-R では無相関(.278)であっ た。MMSE の「見当識」の特徴は,自己認識の 課題がないこと(ex:年齢)と場の見当識に現 在いる場所の地方,県,市,施設名,階数などの 具体的な名称や状況を問う課題が入っていること である。一方,HDS-R の場所の見当識は,現在 いる場所が自宅か,病院か,施設かを判別してい れば正答となる。この難易度の違いにより相関係 数に差が生じたのではないかと考えられる。つま り時間の見当識と JART25 は関連が低く,また 漠然とした見当識に関しても関連を示さないが, 具体的な名称などの知識とのつながりを必要とす る詳細でより高次な見当識と関連していると考え られる。 こ の ほ か に 関 連 を 示 し た 下 位 項 目 と し て, MMSE の「書字」(.414),HDS-R の「野菜の名前」 (.327)があげられる。「書字」は自発性書字を課 題としているため,複数の認知機能が関連すると 考えられる。文章に必要な単語を思い浮かべる喚 語機能や,その単語を文章に構成する統語機能, 思い浮かべた文章を文字に変換する言語機能,ま た変換された文字を紙に書く遂行機能などがあげ られる。これらの機能のうち遂行機能は,五角形 の模写を課題とする MMSE の「構成」(.144)や 口頭による 3 段階の命令に従う「三段階命令」 (.220)が無相関を示していることから,JART25 と遂行機能との間に強い関連はないと推測され る。 紙に書かれた簡単な指示に従う MMSE の「読 解」においても無相関(.221)であることから, 読字機能と JART25 との間には強い関連はない と考えられる。これらのことから,自発的に文章 を構成し,文字に変換する統語機能や書字機能な どと JART25 は関連があるのではないかと推測 される。次に HDS-R の「野菜の名前」は,言語 流暢性や喚語機能といった言語機能を評定してい る。本研究の結果から JART25 は,これらの機 能との関連があると考えられる。 次に JART25 と関連の強かった「書字」や「野 菜の名前」の課題特性として,自由度が高く,意 図して自発的に回答する必要がある。それに対し て関連が低かった「三段階命令」や「読解」,「呼 称」,「構成」といった課題は,簡単な刺激が提示 され,その刺激に対して反応すると,その反応が 自然に回答となっている。このような質問の構成 と JART25 の間にも関連があるのではないかと 推測される。基本的に意図性の課題は高次な認知 機能と関連しており,自動性の課題は比較的低次 な認知機能と関連している18)。このことからも JART25 は,比較的高次の認知機能と関連を示し ているのではないかと推測される。 以上のことから本研究の結果を概観すると, JART25 と相関を示さなかった下位項目は見当 識,記憶,理解,遂行機能といった日常生活活動 (activities of daily living:ADL)と密接に関連 する項目であるといえる。一方関連の高い認知機 能は,注意,言語機能,数概念など,より複雑で 高次な認知機能と関連がある。この傾向を実際の 臨床場面に置き換えると,ADL が著しく阻害さ れている重篤な患者でも,JART25 により病前の IQ を推定できる可能性があると考えられる。た だ ADL がある程度保たれていても,先に述べた ような高次な認知機能が阻害されている場合, JART25 の測定する推定 IQ は,病前の IQ を正 しく測定しない可能性が生じることになる。 以上の結果から,認知機能障害が生じた後も, 比較的保たれる認知機能を測定することで,被験 者の病前の IQ を推定するという JART25 の目的 は,一定程度達成されていると考えられる。特に JART の標準化において,松岡・金5)が対象とし たアルツハイマー型認知症は,海馬や海馬傍回の 萎縮による記憶障害が顕著である19)。このため 記憶障害がある程度重篤であっても,JART の値 が保たれたのではないかと推測される。一方で, よ り 高 次 な 認 知 機 能 に 障 害 が あ る 場 合 は, JART25 の解釈について慎重になる必要があると 考えられる。

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結  語

本研究は,実際の臨床で得られた比較的多くの 被験者の結果から,認知機能障害の重篤度と JART25 の関連について検討を行った。その結果, MMSE および HDS-R の低値と JART の低値に 関連がみられた。また MMSE,HDS-R の各下位 項目と JART25 の関連を検討したところ,ADL に関連するような項目と JART25 は関連を示さ なかったが,注意,言語機能,数概念など,より 複雑で高次な認知機能と関連があることが示され た。

今後の課題

本研究は,一時点における認知機能と JART25 の関連を検討したが,今後は認知機能の低下と JART25 の推移を継時的に検討する必要があるで あろう。また MMSE と教育歴に関連がある20) うに,JART の元となった NART も教育歴との 関連が指摘されている21)。これらの知見から認 知機能検査と教育歴との検討も今後行っていく必 要があると考えられる。 付記:本研究は,平成 24 年度科学研究費助成事業 の助成を受け行われた。 文  献

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(8)

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【要約】 Japanese Adult Reading Test(JART)は,認知機能障害のある被験者の病前の推定 IQ を 測定する標準化された認知機能検査である。しかし臨床現場で JART を使用していると,認知機能 障害の進行とともに JART の算出する推定 IQ も低下する印象を受ける。そこで本研究では,認知機 能障害の程度と短縮版である JART25 の値との関連について検討する。また JART25 と認知機能検 査の下位項目について検討を行い,JART25 と関連のある認知機能について検討を行う。もの忘れ 外来を受診した 828 名を対象に,MMSE および HDS-R と JART の関連を検討したところ,MMSE および HDS-R の低値と JART の低値に関連がみられた。また MMSE,HDS-R の下位項目と JART との関連を検討した。その結果,JART25 は,見当識,記憶,理解,遂行機能といった認知機能と は関連が弱く,注意,言語機能,数概念といった認知機能と強い関連を示した。以上の結果から, JART25 の解釈に関しては一定の注意が必要であることが示唆された。

キーワード:Japanese Adult Reading Test(JART),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R), 認知機能障害

東京,141-165,2004

21) Filly CM, Cullum CM:Education and cogni-tive function in Alzheimer's disease. Neuropsy-chiatry Neuropsychol Behav Neurol 10:48-51, 1997

参照

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