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地獄楔を用いた木ダボ接合に関する研究ー引抜性能の改良とその接合デザインの可能性 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)地獄楔を用いた木ダボ接合に関する研究 引抜性能の改良とその接合デザインの可能性. 田村 1. はじめに. 愛. り込んで抜けなくするためである(図 2) 。. 1.1 研究背景と目的 国産材の主な需要先である木造住宅における木質部 材の接合では、建築時の作業性と使用時の強度的信頼 性に優れている釘、ボルト、接合金物を用いる場合が 多い。しかし、これらの木質部材をリサイクルあるい はリユースするためには、これらの接合具の除去が必 要となるが、この作業は機械化が困難であり、現状で は手作業に頼るしかない上、そのコストは膨大である。 さらに、釘の錆による耐力低下、ボルト接合・接合金. 図 2 地獄ダボ* が抜けない仕組み. 物における木材収縮による緩みは免れない。意匠的な. 1.3 研究方法. 見栄えもよくない。これに代わる接合法として、木ダ. 図 2 の地獄ダボ* には、手加工に頼る部分が多く、. ボ接合が考えられるが、合成樹脂接着剤を多量に使用. 手間やコスト削減など、改善の余地がある。既知の実. するためVOC等の環境問題や健康障害を引き起こし、ま. 験値も地獄ダボ* の直径φ50 とφ60 のみである。そこ. た、リサイクル時にこの接着剤を除去することは現状. で地獄ダボ* の寸法比率を変えずに、さまざまな変数を. 1). では不可能である 。. 持つ改良試験体を作成して引張試験を行い、荷重と変. そこで、上記の接合方法に代わるものとして、接着. 位を測定する。得られた結果から算出可能な荷重−変. 剤を使用せずに引抜性能を有する木ダボを研究対象と. 位曲線、初期剛性、最大耐力、短期基準接合耐力の比. する。本研究では、藤本壮介氏設計によるFi nal wooden. 較により、接合デザインの可能性を考察する。 改良点は、Ⅰ. ダボにカシを用いて拡張穴でなくて. house ( 図 1) の接合のために構造家の佐藤淳氏により 2). も十分めり込めるようにした、Ⅱ. 現状で製作が難しい. 考案された地獄楔 を用いた木ダボ ( 以下、地獄ダボ 3). * ) の改良と実用化をはかるため、その引抜性能を実. 地獄楔* を同一寸法で三角形断面にし、その代わりダボ. 験により確かめ、接合デザインの可能性を広げること. には機械によるねじ溝加工を施した、である。試験体. を目的とする。. 変数は、①ダボの直径、②地獄楔* の幅、③ダボと楔 の形状、④ダボの材種、⑤ダボの本数とした。①∼⑤ の分類による初期剛性、最大耐力、短期基準接合耐力 の比較と考察を行った。 2. 実験概要 2.1 試験体概要. 図1. 母材には、スギを用い一般的なサイズの流通材とし. Fi nal wooden house * *. 1.2 地獄ダボ*の仕組み. て、105mmと 120m正角材を用いた( 図 3) 。. 地獄ダボ*は、両端に 90 度回転させた切り込みを入. ダボは、母材に合わせた大きさで変数をとるため、. れた円柱形のスギのダボに、それよりも堅木で作った、. 地獄ダボ*と同じく長さが直径の 4 倍であるφ20、φ30、. モミの木( Abi es. φ40 を想定した。材種は基本カシで、一種のみスギよ. f i rma) 型断面のカシ( Quercus gi l va) の楔( 以. 下、この形状の楔全て地獄楔* ) を挿入して、打ち込ん. り堅くカシより柔らかいトチ( Aescul us. だときにスギ母材の拡張穴( 手加工) で扇形に広がって. それとは別に、一種のみねじ溝加工を施した( 図 3) 。. 抜けなくなる仕組みで、通常のダボと違い引張にも抵. 楔は全てカシで、地獄楔*の幅は、地獄ダボ*と同じ. 抗する。地獄楔*がモミの木型なのは、ダボに挿入後め. くダボの直径の 41. 5%を 1. 0 倍の基準とし、0. 8 倍と 34- 1. t urbi nat a) を用い、.

(2) 1. 2 倍も作成した。厚みは、ダボの直径の 80%とした。. 表 3 試験体詳細-③ダボと楔の形状. 地獄楔* に対して、三角形断面の楔( 以下、地獄楔) も作 成した( 図 3) 。本研究では、各楔が多量に必要なので、. 表 4 試験体詳細-④ダボの材種. 手加工品の代わりに厚みが限られてしまうレーザー加 工品を用いたので、厚み方向に貼り合わせが必要とな 表 5 試験体詳細-⑤ダボの本数. り、研究主旨からはそれるが、接着剤5) を使用した。 2.2 各試験体名について. 2.3 組み立て方法. 各試験体名は、図 3「試験体名 例」のように、前半 部分がダボの性質を示し、後半部分が楔の性質を示す。 前章 1.3 の研究方法の試験体変数①∼⑤に分けると、. 組み立ては、当て木をして金属ハンマーで叩き込ん だ。Nq20- A10 と Sq30- T10 と Na30- A10 のみ人力で組み. 試験体詳細は表 1∼5 のようになる。表 1∼5 の記号 a. 立てることができた。残りは、圧縮試験機により加力. ∼g は図 3 中における記号と一致する。. してはめ込んだ。 2.4 載荷方法. φ30 でカシの標準型ダボ、地獄楔* の幅 1. 0 倍の試 験体 Nq30- A10 を基準試験体とした。基準試験体と同形. 載荷は、最大荷重 50tの油圧万能材料試験機による. でφ20 とφ40 の試験体を Nq20- A10、Nq40- A10 ( 表 1) 、. 加圧とした( 図 4 左図) 。荷重範囲の最大値 10t で加圧. 基準試験体の地獄楔* の幅を 0. 8 倍、1. 2 倍にしたもの. 速度は、手動で概ね 0. 1∼0. 2mm/ sec. で、加圧はダボ. を Nq30- A08、Nq30- A12 ( 表 2) 、基準試験体のダボにね. が引き抜けるまで行った。. じ溝加工を施し地獄楔を用いた( 以下、ねじ溝加工型). 図 4 右下図のように上下からの圧縮力を引張力に変. 試験体を Sq30- T10 ( 表 3) 、基準試験体と同一で、ダボ. 換するため、スギの 120mm正角材 2 本を脚として試験. をトチにしたものを Na30- A10 ( 表 4) 、基準試験体と同. 体の母材上部を載せ、コの字型に接着した 120mm正角. じダボを 2 本用いた試験体を Nq30- A10Wとした( 表 5) 。. 材を脚と水平に 90 度回転させて母材下部に載せ、アン. 図 3 のダボと楔を組み合わせて以下、地獄ダボと呼ぶ。. グルで固定した。試験体上下部材の相対変位を測るた めの高感度変位計の先を、母材上部に固定しているア ングルに貼ったガラスの面にあてた。尚、当試験機は 下から加圧し上部の高さが固定されている。. 図 4 50t油圧万能材料試験機による載荷. 3. 実験結果 3.1 各試験体結果 前章 1. 3 の改良点Ⅰ、Ⅱの内容に特に関係する①の 試験体 Nq20- A10、Nq30- A10、Nq40- A10 と③の Sq30- T10 図3. 各部材の図面と試験体名について. 表 1 試験体詳細-①ダボの直径. のみ荷重- 変位曲線のグラフを図 5∼図 8 に示す。それ ぞれのグラフからわかるように、地獄ダボの形状に関 係なく引抜る度に滑り、一定のリズムで耐力が低下し てはまた上がるという曲線を描いている。荷重と変位. 表 2 試験体詳細−②地獄楔* の幅. の記録は 3 秒ごとのプロットのため、完全な輪郭を取 り損ねている。これらのグラフでは、最大耐力以外が わかりにくいので、全試験体の各 3 体ずつ( Nq30- A12、 34- 2.

(3) Nq30- A10Wは 1 体4) ) の初期剛性、最大耐力、短期基準. ③ダボと楔の形状. 接合耐力の平均値をとったグラフを図 9∼13 に示す。 3.2 各試験体結果の比較と考察 3.2.1 初期剛性について 各試験体の初期剛性は、完全弾塑性モデル(グラフの 弾性勾配と完全に塑性化した勾配とで近似したモデル の履歴特性)の作図によるため、グラフの精度は重要で ある。その点では、今回のプロット量では、十分な精 度を出せたとはいえないが、地獄ダボの本数が多いほ うが、ダボの材種が堅いほうが初期剛性は大きいとい う傾向はみられた ( 図 5∼7、図 9∼13) 。. 図 8 Sq30-T10. ①ダボの直径. 図 9 平均値①ダボの直径. ( ) 内の数字は Nq30-A10を 1. 00としたときの比率. 図 5 Nq20-A10. 図 10 平均値②地獄楔* の幅. 図 11平均値③ダボと楔の形状. 図 6 Nq30-A10. 図 12 平均値④ダボの材種. 3.2.2. 図 13 平均値⑤ダボの本数. 最大耐力について. 最大耐力は、図 9 のダボの直径の比較により、ダボ の側面積 ( 2πd2、d: ダボの直径) または断面積 ( 1/ 4 πd2) 、すなわちダボの直径の 2 乗( 0. 44: 1. 00: 1. 78) に概ね比例する傾向にあるが、小さい径と大きい径を 隣あわせで比較すると、大きい径側に 7∼8%程度の耐 図 7 Nq40-A10. 力の減少がみられるので、地獄ダボの直径が増えるほ 34- 3.

(4) る。カシの地獄ダボ 3 種類の実験値から導かれるφ50. 接合に用いられる構造耐力上重要な役割を果たす金物 であるが、その許容引張耐力と比較すると、Nq40- A10 のみが山形プレート* * * 以上の性能を有していること がわかった。. のとき 15. 33kN、φ60 のとき 20. 31kNと比較して、φ. 4.. の直径が増えるほど徐々に小さくなることも予測でき る。同図に示すφ50* とφ60* は地獄ダボ* の試験体であ. 50* は 9%、φ60* は 19%程度小さい。よって、本研究. まとめ・課題 本研究の地獄ダボ接合は、試験体変数①∼⑤により、. による基準試験体の地獄ダボは地獄ダボ* より若干引. ①最大耐力は地獄ダボの直径の 2 乗に概ね比例する傾. 抜性能が向上していると思われる。. 向があり、スギ母材に対しては、ダボの材種はスギや. 図 10より、地獄楔* の幅を増すことは、多少の効果. トチよりもカシの方が大きくなる、②地獄楔*の幅を多. はあるが、ばらつきを考慮するとあまり有効ではない。. 少変えても誤差による耐力差のほうが激しい、③ダボ. 図 11 より、ねじ溝加工型の地獄ダボは、φ30 の試. と楔の形状は、ねじ溝加工型の地獄ダボの方が基本試. 験体では、最も地獄楔が有効に効いていたため、大き. 験体の地獄ダボより最大耐力が大きくて抜けにくく、. な値を示した。さらに、施工性やコスト面においても、. 人力での組立が可能である、④穴は拡張穴のほうが最. 本研究の地獄ダボでは最も改良に成功した。. 大耐力は大きくなる、⑤初期剛性はダボの本数が多い. 図 12より、Nq30- A10 は、Na30- A10 の 2 倍の値をと. ほど、大きくなる傾向があること、が明らかになった。. っているで、同一条件であればダボの材種は堅いほど. 今後の課題として、地獄ダボの長さの変数をとる必. 効くことがいえる。また、地獄ダボ* のφ50* とφ60*. 要がある。実験に使用する試験体数の増加や、正角材. の値から、予測に基づく計算より導いたφ30* の値が. の十分な乾燥も望まれる。また、柱梁接合での主要構. 5. 01kN∼5. 77kN となることから、Na30- A10 ( 3. 24kN). 造部に使用拡張するため、母材を繊維方向と繊維に直. と比較して、拡張穴にした方が最大耐力に対して効果. 交方向で接合するパターンの実験も必要である。. があると思われる。. 5.. 図 13 より、基準試験体の地獄ダボを 2 本用いた結. 接合デザインの可能性 本研究では、地獄ダボの引抜性能の位置づけとして、. 果は、2 倍程度を予想していたが、基準試験体の地獄. 木造軸組住宅に用いる接合金物類の許容引張耐力との. ダボの約√2 倍の値となった。繊維方向に地獄ダボを. 数値的な比較を行ったが、限界耐力計算法によれば、. 配列したことによる亀裂が原因の一つと考えられる。. 施行令のうち耐久性等関係規定に関するものを除き、. 3.2.3. 告示で規定されている様々な使用規定も適用されない. 短期基準接合耐力について. 地獄ダボ接合の短期基準接合耐力の評価として、木. ので、性能や実験値の信頼性を高めることで、用途の. 造軸組住宅に使用する接合金物のうち、用途として同. 自由度が高く、様々な木造建築に適用できる可能性を. 一の使用が考えられるもの( 表 6) の短期許容引張耐力. 持っている。また、○環境にも人にも優しい、○架構そ. との比較を行った。図 9∼13より、Nq20- A10と Na30- A10. のものを見せるような場合に見栄えのよくない接合金物. の試験体は約 2kNで、それ以外の試験体はほぼ 4kN以. が見えない、○伝統構法の技術を応用しつつ製作方法は. 上の短期基準接合耐力を有しているので、表 6 の下段. 高度な技術力を必要としない、という要素は、日本の伝. 2 つを除く構造耐力上あまり重要でない部位で主に用. 統技術とこれからのデザインを融合させた新しい木造建. いられる金物の性能は概ね満足している。平成 12 年建. 築のあり方を示唆するものになると考えられる。. 設省告示第 1460 号で例示された山形プレート* * * は、. [ 注釈]. 土台と柱の接合部に、短冊金物* * * は、柱や梁の縦継ぎ. 1) 戦後の復興事業としてスギの造林が行われ、近年そのスギは生長し伐期を迎えた が、外材の大量輸入によりスギをはじめとする国産材の利用技術の経験は途絶えて. 表 6 Zマーク金物6)の短期許容引張耐力. しまった。スギを使うことは、林業を活性化させるだけでなく、環境保全にも役立 つ。また、国産材の積極的な使用による地球温暖化抑制等への関心も高まっている。 2)3) 在来構法の接合部で打抜ホゾの割楔締めの応用ホゾで、ほぞ穴を打ち抜かず包込 みをしたもので、地獄ホゾというのがある。その楔を地獄楔という。一旦ほぞを入 れた後ははずれないのでこの呼び名があり、それにちなんで地獄ダボと名づけた。 4) Nq30- A12 においては、3 体のうち 2 体が最大荷重の記録のみしか取れなかった。 5) サンスター技研のペンギンセメント#930 というウレタン系接着剤を使用した。 6) ( 財) 日本住宅・木材技術センターが認証を行っている Z マーク表示金物。 * * 写真の著作権. 佐藤淳構造設計事務所. 参考文献 スギ圧縮ダボを用いた木材のバインダレス接合に関する研究,. 第 55 回日本木材学会. 大会研究発表要旨集 P.68(2005) ※算出根拠は日本建築学会発行「木質構造設計基準・同解説」による。 ※名称に* * * がついているものは、平成 12 年建設省告示第 1460 号で、 例示された許容引張耐力である。. 木質構造設計基準・同解説-許容応力度・許容耐力設計法,. (社)日本建築学会. 第 55 回日本木材学会大会研究発表要旨集 P.68(2005) 木ダボ接合の経緯と施工事例,. 34- 4. 木材工業 Vol.60, No.4, p185-188 (2005).

(5)

図 1    Fi nal   wooden  house  * *

参照

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