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理科教育学研究

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Academic year: 2021

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と記されている。これに続く,「(5)(ウ)生物の種 類の多様性と進化」の単元目標には,「現存の生物及 び化石の比較などを通して,現存の多様な生物は過 去の生物が長い時間の経過の中で変化して生じてき たものであることを体のつくりと関連付けて理解す ること」と記されている(文部科学省,2017a)。以 上のように,「遺伝の規則性と遺伝子」の後に,「生 物の種類の多様性と進化」を扱うように改訂された ことになる。後の 1.2 で詳細に述べるが,「進化」は 連続説であり,「遺伝」は不連続説であり,両者は対 立する概念である。そして,この 2 つの対立概念は 生物学史上において統合を果たすことになる(一般 に「現代的総合」1)と称されている)が,平成 29 年 改訂の学習指導要領ではその経緯について扱うこと は明記されていない。 しかしながら,その「内容の取扱い」の中には 「進化の証拠とされる事柄や進化の具体例について扱 うこと……(中略)……また,遺伝子に変化が起き て形質が変化することがあることにも触れること」

1.問題の所在と研究の目的

1.1 平成 29 年改訂学習指導要領からの提起 「生物進化」に関する学習は,現行(平成 20 年改 訂)の中学校学習指導要領では第 2 学年で扱われて いたが,平成 29 年改訂の学習指導要領では第 3 学年 に移行することになった。一方,「遺伝」に関する学 習は,平成 20 年改訂及び 29 年改訂の中学校学習指 導要領共に,第 3 学年で扱われている。つまり,令 和 3(2021)年度から移行期間も含めて,中学校第 3 学年の「生命の連続性」の単元において,「遺伝」と 「進化」が同時期に中学生に教えられることになる。 平成 29 年改訂の学習指導要領における中学校第 3 学 年「(5)(イ)遺伝の規則性と遺伝子」の単元目標に は,「交配実験の結果などに基づいて,親の形質が子 に伝わるときの規則性を見いだして理解すること」

原著論文

中学校「生命の連続性」における科学的進化概念の

理解をめざす単元開発

―「遺伝の規則性」と「生物進化」を統合した学習計画の提案―

名倉 昌巳

1

松本 伸示

2

【要   約】

本研究の目的は,「共通」な祖先から現存の「多様」な生物が出現してきたのは「進化」の 結果であること,加えて,その「進化」のしくみは生存に有利な「遺伝的変異」が親から子 へと伝わること,この 2 つを中学生が見いだして理解することである。平成 29 年改訂の中学 校学習指導要領では「生物の種類の多様性と進化」が第 2 学年から第 3 学年に移行し,「遺伝 の規則性と遺伝子」の学習後に扱うように改訂された。「進化」と「遺伝」は生物学史上にお ける対立概念であり,後に統合を果たすものである(現代的総合)。しかしながら,この 2 つ の対立概念が統合を果たした経緯について扱うことは,平成 29 年改訂の学習指導要領には明 記されていない。そこで,本研究では「進化」と「遺伝」を統合した単元開発を行った。そ の学習計画には,「遺伝的変異による多様化」によって進化が起こることを理解させるため, ワシントン大学で開発された「Pasta Genetics」実習を組み込んだ。質問紙調査などの分析 から,本研究における単元開発が科学的進化・遺伝概念の理解に有効であることが明らかに なった。 [キーワード]科学的進化概念,遺伝の法則,遺伝的変異,現代的総合,獲得形質の遺伝 doi: 10.11639/sjst.19040 1 大阪市立下福島中学校(兵庫教育大学大学院連合 学校教育学研究科自然系博士課程) 2 兵庫教育大学

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1859 年, ダ ー ウ ィ ン は「 自 然 選 択 に よ る 種 の 起源(On the Origin of Species by means of Natural Selection)」において,「子に現れた変異が生存に有 利ならば,その形質を持つ個体は時間と共に増えて いく」と発表した。つまり,「生物進化における変異 は微小で連続的に起こる」と考えたのである(横山, 2002)。今日的に言い換えれば,進化の結果が現存の 多様な生物種に至るとする「多様性」のコンセプト につながっている。 1865 年,メンデルは「植物雑種の実験(Versuche über Pflanzen Hybriden)」において,「両親から子に 1 つずつ遺伝因子が受け継がれる(分離の法則),2 つのうち表現型には優性な方の因子のみが現れる (優性の法則),いろいろな形質はそれぞれ独立して 遺伝する(独立の法則)」という遺伝における 3 つ の規則性を発見した。しかし,このような「メンデ ル遺伝による不連続説では,遺伝子が代々伝えられ ていくだけで変異は現れない」ことを意味し,これ は「ダーウィン進化論,いわゆる自然選択説と対立 する」ことを意味する(溝口・松永,2005;横山, 2002)。 その後,1904 年にド・フリースは「突然変異説 (Die Mutationstheorie)」において,「生物の新種は同 種間の小さな個体変異が蓄積して起こるのではなく, いくつかの形質がまとまって突発的に変化したもの が基になって形成される。さらに,突然変異によっ て生じた新種間で自然選択が働き,そこで生存した 種のみが生き残る」と唱えた(溝口・松永,2005)。 さらに 1902 年には,数理統計学者のピアソンが 「生物測定学(Biometrika)」において,「集団遺伝学 が進展する発端は,メンデル遺伝の法則と生物進化, 特に自然選択説をどのように関連付けていくことが できるかという問題の解決にある」と唱え,同じく 統計学者のユールは「メンデルの遺伝の法則と進化 と付記されている。加えて,「中学校新学習指導要 領展開理科編」における「生物の種類の多様性と進 化」単元の解説の中に,「……遺伝では,遺伝子が親 から子に伝えられることを学んだが,長い時間で見 ると遺伝子に変化が起きて形質が変化することにも 触れる。これらの学習を通して,現存する多様な生 物は長い時間の経過の中で変化して生じてきたもの であることを理解させ,生命の歴史の長さを認識さ せることにより……」という文言が見つかる(田代, 2017,p. 85)。すなわち,「進化」を学ぶ上で,「遺伝 的変異」2)と関連付けた学習を行いやすく改訂され ていると捉えることができる。 さらに,平成 29 年版の「学習指導要領解説理科 編」には,理科における「見方・考え方」の記載が ある(文部科学省,2017b,p. 12)。そこでは,「自然 界の事物・現象を,質的・量的な関係や時間的・空 間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり, 関係付けたりするなどの科学的に探究する方法を用 いて考えること」と整理されている。特に,「生命」 領域における理科の「見方」の例として,「多様性」 と「共通性」の視点で捉えるという文言がある(同, p. 11)。 一方,すべての生き物は「歴史の産物」である (長谷川,2015)。すなわち,「共通」な祖先から現存 の「多様」な生物が出現してきたのは「進化」の結 果である。換言すれば,「生物多様性(空間的視点)」 には,「進化(時間的視点)」がその根底にある。そ して,すべての生物は「遺伝」情報を受け継ぎ,更 新することにより維持しているという「共通性」を 保持している。 以上の平成 29 年改訂学習指導要領における「遺伝 の規則性と遺伝子」及び「生物の種類の多様性と進 化」という 2 つの単元を,理科の「見方・考え方」 を中心して,その関連を示すと図 1 のようになる。 したがって,「遺伝」と「進化」を統合する新たな単 元開発は,「理科の見方・考え方」を働かせた学習計 画という意味でも,意義がある研究であると考えら れる(図 1)。 1.2 生物学史・進化論史からの提起 生物学史的な観点から「進化」と「遺伝」の統合 の重要性を述べる。「進化の総合説(ネオ・ダーウィ ニズム)」とは,一言でいうと『遺伝する変異』で, 変異・遺伝・適応度が進化の推進力であり,ダー ウィンの進化論とメンデルの遺伝の法則,ド・フ リースの突然変異説などが統合されたものである (溝口・松永,2005)。 図 1 「理科の見方・考え方」と単元開発の関連

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りばめて教えていく」授業例を紹介している。そこ では,第 3 学年における「無性・有性生殖のメリッ ト・デメリット」から考察する「進化」の授業を提 案しているが,「遺伝の法則」は含まれず,具体的紹 介もない。 よって,本研究では中学校学習指導要領の改訂や, 生物学史上の「現代的総合」を論拠に,「メンデル遺 伝」と「ダーウィン進化」が矛盾なく合体し,「進化 の総合説」へ導かれるプロセスを中学生に考察させ, 理解させることに単元開発の意義を見いだし,「遺 伝」と「進化」を統合した学習計画を提案した(図 2)。その目標は,「現存の生物多様性は進化の結果で あること(多様性の進化)」,「生存に有利な変異は遺 伝すること(遺伝的変異)」の 2 点である。すなわ ち,「遺伝の規則性と遺伝子:不連続説」→「遺伝的 変異:連続説」→「生物の種類の多様性と進化:進 化の総合説」の順に学習していく単元計画を開発し た(図 1・図 2)。 2.2 学習計画(第 1 ~第 5 限) 本学習計画は,現行の中学校第 3 学年理科教科書 (塚田ら,2018)に基づき作成した(表 1)。ここで は深く追究するための【課題】と,それ以外の【設 問】を区別し,番号は各時限の番号(1∼8)と一致 させた。 第 1 限から第 5 限までは,通常の「遺伝」に関す るカリキュラムであり,追加した【設問①∼④】と 【課題⑤】を表 1 の右欄上段に掲載し,「遺伝」と 「進化」をつなぐ第 6 限目以降の準備段階とした(図 2)。また,〔評価の観点〕についても右欄下段に示 し,【回答結果】についても同様に簡略化して記載 した。 第 1 限の【設問①】は「子に現れる形質の多様化」 を考察するものである。導入段階であるこの時点で, 正解することをねらいとせず,第 5 限や第 8 限での 考察へと導くために設定した。そのため,【設問①】 の評価の観点は,「同じ親から生まれた兄弟姉妹でも 似ていないことがある」など,今までの経験や学習 から記入していることとした。 第 2 限の【設問②】は「優性と劣性」に対する誤 解,すなわち「優れた・劣った」性質という誤概念 を払拭するための問いである。本研究の目的とは直 接関連はないが,「優れた」者が進化し,「劣った」 者は淘汰される誤解(優勝劣敗)にもつながり,「優 生学」の論拠にされたため,設問に加えた(長谷川, 2015)。 第 3 限の【設問③】は,次時の【設問④】で確率 に関する連続的な変化とは両立する」ことを示した (溝口・松永,2005)。 また 1930 年には,フィッシャーらも「自然選択 の遺伝学的理論(Genetical Theory of Natural Selec-tion)」において,集団遺伝学につながる数学的理論 という形で両者が両立することを示し,「進化の総合 説(現代的総合)」が成立した(横山,2002)。これ に先立つ 1908 年には,高校生物で学習する「人類 集団などでは,突然変異による劣性の形質が蓄積・ 増加していくことはない」という「ハーディ・ワイ ンベルグの法則」が発表され,過去の断種・優生学 は非科学的な政策であることが既に証明されていた (長田,2017)。 海外では,高橋・磯崎(2014)が BSCS(高校生 物教科書)を「進化」に焦点化してその特色を調査 し,それに関する「Connection(統合原理)」の具体 例を 6 単元で 52 例を導き出している。そこには「遺 伝」と「進化」を統合する具体例として,「遺伝に関 するメンデルの理論は,遺伝的変異がどのように進 化に導くことになるのかを説明する方法を提案して いる」と記されている事実を示し,「メンデル遺伝」 と「進化」が生物教育において重要な関係にあるこ とを指摘している。 1.3 研究の目的 1.1 でも述べたが,学習指導要領の改訂によって 「進化」と「遺伝」が共に中学校第 3 学年に配置され た。さらに,「進化」の学習においても「遺伝的変 異」と関連付けた学習を示唆する提言もある(田代, 2017)。つまり,図 1 にも示したように理科の「見 方・考え方」から,生物学史上における 2 つの対立 概念を関連付ける学習が可能になった。そこで本研 究では,上記の中学校学習指導要領改訂に着目し, 「遺伝の規則性と遺伝子」から「遺伝的変異」を経て 「多様な生物」種の「進化」につなぐ単元開発,すな わち「偶然に生じた遺伝的変異が進化を生み,現在 の生物多様性につながった」過程を中学生に理解さ せる学習計画を開発し,その有効性について検証す ることを目的とした。

2.単元開発の意義と学習計画

2.1 「遺伝」と「進化」を統合した学習計画の構想 先行研究には「進化」と「遺伝」に関する単発的 な実践はそれぞれ存在するが,この 2 つを統合した 実践研究は,少なくとも我が国の中学校教育では現 在のところ見当たらない。唯一,桐生(2004)は中 学校全学年にわたり「進化を単元ごとに少しずつ散

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DNA」という誤解を避けるため,さらに「多様性」 の理解には「遺伝子頻度」の考え方が重要になるた め,正確に「DNA の塩基配列(30 億塩基対)の中 に,遺伝子(約 2 万遺伝子座)が存在する」ことに も触れた。 2.3 学習計画(第 6 ~第 8 限) 第 6 限から第 8 限は,図 2 のように本研究におい て追加したカリキュラムであり,平成 29 年改訂の中 学校学習指導要領では 3 年次に移行することになる 「進化」と,「遺伝」の関連性を強く意識した学習活 動である。そして,そこには「進化」と「遺伝」と いう対立概念を追究する【課題⑦・⑧】(表 1 の★) を組み込んだ。 第 6 限には本実践研究において,「遺伝的変異」を 理解する「Pasta Genetics(遺伝)」実習と,それを 評価する【設問⑥】を準備した(Megan, Maureen & Kristi, 2010)。この課題は元々,ミドルスクール(小 5∼中 2)向けに米ワシントン大学で開発された実習 と課題で,教育支援用プログラムとして一般公開さ れているものである。具体的には,4 種類(リボン4) 車輪・マカロニ・らせん),4 色(赤・緑・黄・青) のパスタ教材を用いて,主に「遺伝の規則性」と 「有性生殖による多様性」について考えさせるもの で,以前,長崎大学の公開講座において「遺伝のマ イナスイメージを払拭することを目的」に用いられ たことがある(佐々木・藤森・松本・宮原,2014)。 本研究では,この「Pasta Genetics」実習の「有性生 殖による多様性」に着目し,そこに突然変異を含む 「遺伝的変異」が加わることによって,「進化」につ ながることを見いだした。すなわち,この第 6 限は, 有性生殖による組み合わせが膨大な数になることを, 確率論的な立場から示唆し,次の第 7 限目からの 「進化」の学習につなぐ役割を与えた(図 1・図 2)。 その,【設問⑥】の意図については 3.2 で詳述する。 第 7 限には,名倉・松本(2018a)の先行研究か ら,「A:獲得形質の遺伝」と「B:遺伝・突然変異」 のどちらかを選択し,その理由を問う【課題⑦】を 組み込んだ。A は現代進化学では完全否定されてい る「ラマルク説」である。B は上記の【課題⑤】で も出題した「突然変異」や「遺伝的変異」で,これ に「ダーウィンの自然選択説」が統合され,「進化の 総合説」へ導かれるものである。A か B かを選択す る際には,二項対立(概念)による認知的不協和を 引き起こし,「進化の総合説」に基づく科学的進化概 念の理解をめざす課題である。 続いて,【課題⑦:追加】である「キリンの首はな 的に考える前段階として,「遺伝の規則性(比率)」 について,正しい理解を促進するためのものである。 第 4 限の【設問④】は,次の「遺伝」実習(【設問 ⑥】)への準備段階として設定したものであり,親か ら子へ遺伝子の授受を確率で考える問題である。教 科書では,丸:しわ=3:1 など比で回答するが,こ こでは丸 3/4・しわ 1/4 のように確率での回答を要求 した。なぜなら,【設問⑥】で「遺伝確率問題」を考 える際のヒントになると思われたからである。確率 の基本は中学校第 2 学年数学で既習済みであり,解 答はそれほど困難ではないと思われる。加えて,こ の【設問④】は同じ遺伝子を受け継ぐ確率が 1/70 兆 とごく少ないという事実(3.2 で後述)が,生物の多 様性を生みだすという,本学習の目標につなげるた めに準備したものである。 5 限の【課題⑤】は「A:メンデル遺伝と B:突然 変異のどちらが正しいか」を問うものである。この 2 つの対立概念はどちらも正解(1.2 で前述したよう に生物学史上において統合を果たす概念)であり, この矛盾を中学生がどう解決するかを見定める問い である。つまり,矛盾する 2 つの知見を対決させ, 二項対立による認知的不協和を引き起こし,「遺伝」 と「進化」が統合に至る過程に中学生を導くために 設定した(表 1 の★印)。 また,第 5 限には教科書記載の発展的な学習(突 然変異・DNA の構造など)も行った。これらは,追 加した学習活動(表 1)を補足し,「遺伝子」とその 「変異」に関する正確な理解を図り,「有性生殖によ る多様性」につなげるためである。教科書に記載の ない「染色体の組み換え」まで触れたのは,表 1 の 第 6 限【設問⑥】の Q5 において,23 対での確率計 算の方が容易であるからである。加えて,「遺伝子= 図 2 「遺伝」と「進化」を統合した学習計画の構造図

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ことになる」こと,すなわち「ヒト多様性」や「唯 一性」について考える遺伝教育を提言している。 実際に海外の中学校教科書を紐解くと,一遺伝子 雑種による「メンデルの法則」の習得ばかりでなく, 上記の池内の提唱する「生殖細胞の確率論的な偶然 の出会いによる多様性や唯一性の習得」が従来から 重視されていたことがわかる(Trefil, Calvo & Cutler et al. Eds., 2007;Fraser & Gilchrist, 1996)。

以上の提言を参考に,先の 2.3 でも述べたが,遺 伝子多様性を考えさせる「Pasta Genetics」実習を 配置し,その評価問題5)を援用し(Megan, T. et al., 2010),本授業用に,表 1 の第 6 限目のような【設問 ⑥】に改めた。すなわち,この「遺伝の法則」の確 率問題から「多様性」や「進化」のしくみを考える 一助とした。 ただし,平成 20 年改訂の現行の中学校学習指導要 領では,数学の確率の簡単なものは中学校第 2 学年 で扱うが(文部科学省,2008),「和事象」や「積事 象」に関しては高校数学で扱われている。そのため, 日本の中学校第 3 学年の生徒には【設問⑥】の 2 番 までが既習で回答できるレベルである。そこで【設 問⑥】の実施に当たり,3 番目以降の計算方法を示 唆する指導を加えた。この評価問題の目的は確率計 算の理解ではなく,上記で述べた「祖父母から孫へ の遺伝子授受における,同じ遺伝子を受け取る確率 がごく小さい」ことを理解させることが主目的であ るため,計算方法を教授した。そして,この分析に 際しては,Q1∼Q5 においてその正答率で集計を行っ た(4.1 に後述)。 一方,上記の【設問⑥】以外の,本計画の第 1 限 から第 4 限までの【設問①∼④】については回答例 や集計結果を表 1 の右欄に掲載した。ただし【設問 ③】は「相互評価」主体で,未集計のため対象から 除外した。 その他,【課題⑤∼⑧】(表 1)については,その 記述内容を授業分析に用いた。したがって,そこに 含まれている「遺伝・進化」に関する用語(誤概念 含む)から,どのように生徒たちが科学的進化概念 を形成していったのかを分析した。換言すれば,ど のような経過をたどり「連続説」である「進化の総 合説」の理解に至ったかを分析の対象とした。 以上の分析結果については,4.1 に詳述する。 3.3 質問紙調査による授業評価 質問紙調査(真偽法:○×式)によって,単元 前・後における科学的進化概念及び遺伝概念の理 解度に関する調査分析を行った。すなわち,単元前 ぜ長いのか?」という課題を追加した。この課題解 決にあたっては,「進化の総合説」で記述するように 指示した。その記述の流れを示唆するものとして, 「たまたま生じた遺伝的変異(変異)のうち,環境 にあったもの(適応)が後の世代まで生き残り,そ の遺伝子を多く残すことにより形質の進化が起こる (選択)」という 3 つのキーワードを与え,考察を促 した(名倉・松本,2018b)。 第 8 限には「生命の連続性」と「多様性」の理解 を図る【課題⑧】を設定した。つまり,有性生殖に よる遺伝子の組み合わせの数は著しく大きい。その 「遺伝的変異」の多様性が生物種の「進化」へと至る 過程を,「ダーウィンの生命の樹:系統図(長谷川, 2015)」を用いた考察によって導き出すための課題で ある。換言すれば,系統図は「進化:連続説」を意 味する。一方,表 1 の第 6 限で用いた家系図(祖父 母∼父母∼子の血縁関係)は「遺伝:不連続説」を 意味する。この対立する 2 者を統合する問いかけを 意図したものが【課題⑧】である。 以上の「遺伝」と「進化」を統合した学習計画に おいて,毎時の【課題】などを考える際には,まず 4 人程度の班で取り組み,その後班ごとに全体発表 した。授業者は生徒の意見を板書するなど,論点は 整理するが,正解については言及しないように配慮 した。その後,再度【課題】などに個人で取り組み, その結果をワークシートに記述し,提出させた。各 【課題】などの記述内容に対する教師による評価は, 次時に返却した。

3.授業評価の方法

3.1 調査対象と実施時期 上記の「遺伝」と「進化」を統合した学習計画 (表 1)を,2018 年 5 月に,公立 B 中学校 3 年生 2 学級在籍 68 名(男子 32 名・女子 36 名)に対して実 施した。 3.2 「遺伝」実習の設問と各課題による授業評価 池内(2012)は,メンデル遺伝の 1 つである「分 離の法則」を例に引きながら,「……分裂後の細胞に 含まれる染色体の組み合わせ(母方か父方か)は, ヒトの場合 223種類にもなる。つまり,同じ人からで も 840 万通りの遺伝的に異なった配偶子が形成され ることになる。同じ両親から生まれた兄弟姉妹がお 互いに似ているけれど少し違う」のはなぜかの考察 が,遺伝教育に必須であると主張する。換言すれば 「ヒトは染色体の組み合わせの多様性だけから見て も,(1/840 万)2つまり 1/70 兆の確率で生まれてきた

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代」でおこる「進歩(上達)」であり,「進化」と誤 解されやすい例である。このように能力が「進歩」 した形質が,次世代に「遺伝」すれば,後半部ケの 「獲得形質の遺伝」という誤概念につながりかねない ため,設定した質問項目である。さらに,エは「大 量絶滅」,カは「世代性」,クは「環境適応」をそれ ぞれ表し,これら 3 つは科学的進化概念である。以 下も含めて,質問内容をそれぞれ熟語のように簡略 化し,分析結果を表にするときの集約に役立てた。 ただし,これらア∼クの前半 8 項目は,中学校第 3 学年を対象とした本学習計画の中では,特に取り立 てて教授・学習は行っていない。しかしながら,調 査対象の中学生は「生物進化」に関する通常のカリ キュラムを前年度の中学校第 2 学年で履修済みで ある。 後半の質問項目であるケは,「獲得形質の遺伝(ラ マルク説)」と言われ,現代の進化学では完全に否定 されているが,高校生物を学んだ後も保持されやす いとされている誤概念であり(福井・鶴岡,2001), 表 1 の第 7 限目の【課題⑦】で実施したものである。 また,コも同じく【課題⑦】で実施し,表 1 の第 5 限目にあたる【課題⑤】でも実施したものであり, 「遺伝・突然変異」に関する科学的進化概念である。 加えて,本研究においては,「遺伝」に関する内容 から,サ∼ソの 5 つの質問項目を新たに設定した。 すなわち,サは「優性・劣性は優劣による」とする 誤概念を表し,表 1 の【設問②】で実施したもので ある。 シは「分離の法則」発見以前,19 世紀の科学者 が信じていた「混合遺伝」と言われる誤概念であり (溝口・松永,2005),「分離の法則」の理解が確認で きる項目である。 次のスは「優性の法則」に関する科学的概念で, 【設問②・③・④】で実施したものである。 セ は「 遺 伝 子=DNA」 と す る 誤 解 で あ る。 中 学校や高等学校の教科書には,「遺伝子の本体は DNA」とする記述が多いが(塚田ら,2018;本川ら, 2018),この表現だけでは「遺伝子と DNA は同一」 という誤概念が生じる。これに言及した先行研究は ないが,中学校の教科書は「DNA と遺伝子の関係性 が不明瞭」という指摘があり(松村ら,2014),質問 項目に加えた。因みに,一般啓発書である「マンガ 種の起源:ダーウィンの進化論」の中には,「遺伝子 =DNA」の記述が存在する(田中,2008,p. 165)。 このセに関しては本計画の第 5 限で解説したが(表 1),特にこの事実を深める設問や課題は準備しな かった。 後にそれぞれ質問紙を配布・回収し,その正答数と 誤答数を集計することによって,本研究における単 元開発の効果を検討した。具体的には,表 2 のよう なア∼ソの 15 項目の概念(誤概念を含む)を設定 した。 ア∼コまでの概念抽出にあたり,これら 10 項目 は生物進化に関する概念形成を測るもので,名倉・ 松本(2018a;2018b)による先行研究と同様の質問 紙項目を用いた。アは「弱肉強食」,イは「昆虫の変 態」,ウは「ヒトの成長」,オは「技術の進歩」,キは 「優勝劣敗」をそれぞれ表し,これら 5 つはすべて誤 概念である。特に,ウは日常生活においては,「一世 表 2 質問紙調査(真偽法) 次のア∼ソのうち,正しいと思うものには○を,間違っている と思うものには×を書きなさい。 ア.生物進化の世界では,かならず強いものが弱いものに勝ち, 強いものが生き残っていく。 イ.昆虫では幼虫→さなぎ→成虫と,ヒトでは赤ん坊→少年→大 人と,「進化」して成長していく。 ウ.「鈴木一朗」選手は,プロ野球入団後 2 年目に「イチロー」と 名乗ってから活躍が始まり,さらに大リーグに移籍後も彼の野 球の能力は「進化」し続けている。 エ.地球上の生物は何億年も大昔から「進化」し,動物では地質 年代の順に三葉虫,恐竜,マンモスと変遷してきた。 オ.電話はグラハム・ベルが発明してから,手回し式→ダイヤル 式→プッシュホン→ケイタイ電話→スマートフォンと「進化」 し続けている。 カ.「進化」とは一世代で起きる変化ではなく,長い世代をへて起 きる変化である。 キ.どんな生物でも,長い年月のあいだにすぐれた性質をもつも のに「進化」してゆく。 ク.まわりの環境が変化すると,それにあった性質をもつ生物が 生き残っていく。たとえば,恐竜は寒い環境に「適応」できな かったので,絶滅したと言われている。 ケ.生物の「変異」は生きている間に起こり,その「変異」が次 世代に受け継がれていくことにより「進化」が起こる。 コ.生物の「変異」は新しく生まれ出るときに起こり,その「変 異」した生物がその時代の環境に「適応」し,数多く生き残る ことにより「進化」していく。 サ.「優性遺伝」とはすぐれた性質が親から子に遺伝することをい い,逆に「劣性遺伝」とはおとった性質が親から子に遺伝する ことをいう。 シ.両親のどちらかの遺伝的性質がその子どもに現れるので,子 どもは両親の形質を混合して受け継ぎ,中間的な性質が現れる。 ス.A 型の血液型同士の両親から,A 型の子どもが生まれること が多いが,まれに O 型の子どもが生まれることもある。 セ.ヒトの細胞核の中には 46 本の染色体があり,その染色体は DNAという物質で構成され,その DNA を「遺伝子」と呼んで いる。 ソ.ヒトの遺伝子を含む染色体は 23 対(46 本)あり,その染色体 の組み合わせからできる形質の種類は 223になるので,兄弟姉妹 に同じ染色体の組み合わせが起こる確率は,1/223である。(以上, 15 問)

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⑦:追加】,表 8 は【課題⑧】の典型的な回答事例で ある。 【課題⑤】は,第 5 限(表 1)における A の「メン デル遺伝」と B の「突然変異」という「対立概念」 を対決させたもので,どちらも科学的に正しい知見 である。表 4 より,A の「メンデル遺伝」を選んだ 3 名の生徒がいた。それに対し,54 名の生徒は「環 境への適応(KS 男)」・「品種改良(NF 男)」・「薬剤 耐性(MF 男)」などを根拠に,反論(TK 女)も含 ソは,表 1 の第 6 限目の「Pasta Genetics」実習の 評価問題として設定した「遺伝子が伝わる確率」を 問う【設問⑥】と,「有性生殖による多様性」を考え る【課題⑧】で実施したものであり,科学的進化概 念を示している。

4.調査結果とその分析

4.1 「遺伝」実習の設問と各課題による分析 分析にあたり,本学習計画における「追加した学 習活動」である【設問⑥】については,表 1 の第 6 限の Q1∼Q5 の正答数を集計し,表 3 に掲載した。 また,同じく追加した学習活動である【課題⑤・ ⑦・⑧】,及び【課題⑦:追加】については,質的 データである記述を類別して,生徒の概念形成の様 相の分析を試みた。よって,どのような経緯を経て, 「連続説」である「進化の総合説」へ収束していくか を分析するため,表 4 を作成した。この表 4 は,生 徒による各【課題⑤∼⑧】の回答文に含まれる「進 化概念」の用語を基準に,「総合説」側の記述とそう でない記述に分け,集計したものである。以下では, 表 4 を主体にして授業分析を行っていくが,それを 補完するものとして,記述内容も各表に掲載した。 すなわち,表 5 は【課題⑤】の典型的な回答事例で あり,以下同様に,表 6 は【課題⑦】,表 7 は【課題 表 3 「PastaGenetics(遺伝)」実習における【設問 ⑥】の正答数の集計結果(N = 65) 遺伝確率問題 正解 正答〔人〕正答率〔%〕 Q1(1 遺伝子確率) 1/2 63 96.9 Q2(和事象) 1/2+1/2 60 92.3 Q3(積事象) 1/2×1/2 61 93.8 Q4(4 遺伝子確率) (1/2)4 45 69.2 Q5(4 万遺伝子確率) (1/2)40000 38 58.5 平均値 53.4 82.2 表 4 各【課題】の回答内容において含まれる「遺伝・ 進化」に関する概念による集計結果 評価課題分析の視点 課題⑤ 課題⑦ ⑦追加 課題⑧ 進化の総合説 有性生殖によ る進化 遺伝的変異含む ― ― ― 39 変異含むが不十分 ― ― ― 8 変異・根拠含まない ― ― ― 13 自然選択説 (ダーウィン) 突然変異含む ― ― 22 ― 突然変異含まず ― ― 24 ― 突然変異(ド・フリース:連続説) 54 48 ― ― その他(どちらか判別不能な回答) 9 4 11 3 遺伝の規則性(メンデル:不連続説) 3 ― ― ― 獲得形質の遺伝(ラマルク:漸進説) ― 13 10 1 合計(N)〔人〕 66 65 67 64 表 5 【課題⑤】の回答事例(N = 66) ■ B「突然変異(連続説)」を選んだ根拠(54 名):典型例 TK女:ヒトや生物が進化したのは遺伝子が変化したから。遺伝子 が変化しないと進化できないから。 KS男:その生物が生活に適応するためには,形質が変わっていか ないといけなくて,実際,親とは違う形質になっているので, 変異は起こっていると思う。 NF男:イチゴは元々食用には向いていなかったが,遺伝子の組み 合わせにより形質が変わり,進化していると思ったから。 MF男:生物は環境に対応するため少しずつ変化し,虫や雑草も薬 剤に耐性をもってきているから。 ■ A・B「両方」とも正しいを選んだ根拠(9 名):典型例 OH女:血液型の組み合わせがこの法則によって出せるので A は 正しい。生物は元々水中で暮らしていたのが,陸上で暮らせ るように進化したから,まれに変化する B は正しい。 表 6 【課題⑦】の回答事例(N = 65) ■ B「遺伝・突然変異」を選んだ根拠(全 48 名):典型例 FY男:A のように自分が頑張ったことがそのまま子に受け継がれ ることはない。 IM女:A は進化ではなく成長だと思うから,ヒトに羽が生えたり, しっぽが生えたりした実例はなく,生まれてから形質が変わ るのはおかしいと思う。 OM男:A のようにその環境に応じて一気に変化することはなく, 少しずつ変化し,適応して寒さや暑さに強くなっていくのだ から,生きているうちに急に変化することはない。 KS男:前回の授業でも生まれてくるときにまれに遺伝子が変化す ると言っていたから,A のように環境に適応するために自力 で形質を変化させることはできないと思う。 ■ A・B「両方」とも正しいを選んだ根拠(全 4 名):典型例 MK男:A のように生きているうちに色々な経験を重ね,努力を積 み重ね,できなかったことができるようになったりする。一 方,B の生まれるときにも変化があり,例えば,親にはない 障害を身に宿して生まれる子も一定数いるから。 表 7 【課題⑦:追加】の回答事例(N = 67) ■ B の進化の総合説に基づく正しい説明(22 名):模範例 たまたま首の長いキリンが生まれ(変異),首の長い方が高い木の 葉を食べることができ(適応),生存に有利なため,首の長いキリ ンの割合が増え(選択),キリンの首は長くなっていった。長い首 は雄同士の雌をめぐる争い(性選択)や,肉食動物などの敵を見 つけるのときにも有利になる。 ■自然選択説に基づくが,突然変異がない説明:24 名

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学的進化のメカニズムである「自然選択説(進化の 総合説に含まれる)」を用いて説明していた。一方, 「努力・経験」による進化など「獲得形質の遺伝」に よる説明をした生徒も 10 名存在した。ここでも「進 化の総合説」を支持する生徒が多数を占めたことに は違いない。 表 8 の【課題⑧】の記述には,「無性生殖」に比べ て「有性生殖」の方が交雑による変異が生じ,それ が「進化的に有利(UK 女)」に作用するとする記述 があった。また,「有性生殖」による遺伝子の「組み 合わせは膨大な量(KS 男)」であり,同一の遺伝子 の組み合わせの確率が極めて低いこと(【設問⑥】) を主張する記述があった。そのような「有性生殖」 による確率論的な変異を述べた回答は,表 4 に示し たように 64 名中 39 名であった。つまり,「有性生殖」 による遺伝によって多様な変異が生じ,「進化」につ ながったことを,過半数の生徒が理解していたと思 われる。しかしながら,他の多くの生徒は「有性生 殖が進化的に有利」としながらも,正しくその根拠 を記載していなかった。例えば,表 8 の「有性生殖 は突然変異の確率が高いから有利(NS 男)」という 記述は,「遺伝的変異による多様化」を含み,「進化 の総合説」に立脚する意見である。しかし,「有性生 殖による多様化」すなわち「遺伝子の組み合わせに よる変異」と,「染色体の組み換えによる突然変異」 を混同している。今後,出題にあたり既習事項を整 理することが必要となる。 以上の本計画における各時限の各課題及び各設問 による分析によって,中学生が「メンデル遺伝」と 「ダーウィン進化」の矛盾に気づき,しだいに「進化 の総合説」へと概念形成が進行していく様子が推測 される(表 4)。これは進化学史上のいわゆる「現代 的総合」と同様のプロセスを,中学生が体験したの ではないかと思われる。 4.2 質問紙調査による分析 単元前・後における質問紙 15 項目(表 2)の正答 数と誤答数を表 9 に集計し,マクネマー検定により 各進化概念の形成過程,及び授業効果を分析した。 15 項目中 8 項目,イ・ウ・ク・ケ・サ・ス・セ・ソ において 5%水準で有意差があった。 このうち前半ア∼クの 8 項目は本学習計画には含 まれず,有意差が見込まれていなかったが,イの 「昆虫の変態」やウの「ヒトの成長」は「進化」で はなく,「進歩」や「上達」と理解していたと思わ れる。 クの「環境適応」は通常,中学校では扱わないが, め,「進化」が B の「突然変異」が起こった結果で あると指摘していた(表 5)。つまり,「進化の総合 説」である「連続説」を支持しているといえる。一 方,それらの矛盾を解消するために,「両方」とも正 しいを選んだ生徒は 9 名で(表 5),その根拠として 「(通常は)法則によって遺伝する」ため「A が正し い」が,「まれに変化する」ことで「生物は進化」し たから「B も正しい(OH 女)」と主張していた(表 5)。この 9 名の主張は「遺伝」と「進化」が統合さ れた「進化の総合説」とも解釈できるが,この学習 段階では判別しがたいため,表 4 では「その他」に 含めた。 表 3 の「Pasta Genetics(遺伝)」実習で出題した 【設問⑥】の正答率(平均 82.2%)から,「有性生殖」 による同一の遺伝子の組み合わせの確率が極めて低 いことを,生徒たちが理解したと考えられる。 表 6 及び表 4 の【課題⑦】から,第 7 限目(表 1) において B の「遺伝・突然変異」を選び,その「連 続説」による説明を支持する生徒は 48 名と多数を占 めたことが分かる。例えば,「頑張ったことで(FY 男)」・「生まれてから(IM 女)」・「生きているうち に(OM 男)」・「自力で(KS 男)」形質は変化しない, という記述内容からうかがわれる(表 6)。しかしな がら,A の「獲得形質の遺伝」を選び,その誤概念 を用いて説明する生徒も 13 名と少数ながらいた(表 4)。「ラマルク説」は「漸進説」ともいわれ,その意 味では「連続」的な変化であるが,誤概念であり, 「進化の総合説」とは対立関係にある。 表 7 と表 4 の【課題⑦:追加】の回答事例から, 「突然変異」がない回答も含めて 67 名中 46 名が科 表 8 【課題⑧】の回答事例(N = 64) ■有性生殖が無性生殖よりも有利な根拠記載(39 名):典型例 UK女:無性生殖は組み合わせが変わらないから変化しにくい。有 性生殖は親によって子の遺伝子の組み合わせが変わるからい ろいろな子ができる。また,突然変異で親とは形質や遺伝子 の違う子が出てくるので,環境の変化に対応しやすい。それ に比べて,無性生殖は遺伝子が親と変わらないので,環境の 変化に対応しにくいから,有性生殖が有利である。 KS男:無性生殖では両親が関わらないため,分裂でふえるなど親 と全く同じ形質を持つので,もし突然変異が起こったとして も,大きく変わることがない。有性生殖では両親が関わるた め染色体の数が 23 対しかなくても,その組み合わせは膨大な 量になり,それプラス突然変異も起こるので,親と全く同じ 形質を持つことはまずない。有性生殖は回りにも多い。 ■有性生殖が有利とするも根拠が誤りか不十分(8 名):典型例 NS男:無性生殖は新しい個体をつくり出すときに形質が同じなの で,突然変異をする確率が低いので,進化しにくい。いくつ もの染色体の組み合わせのできる有性生殖の方が突然変異し やすく,長い年月をかけて進化してきたと思うから。

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なく,「遺伝子の占める部分は全 DNA の約 2%の領 域」であると解説され,DNA の大部分が遺伝子以外 の領域であることが明記されている(本川ら,2018, p. 72)。中学校の教科書にも同様の記載が望まれる。 ソの「有性生殖と多様性」については,第 6 限目 の「Pasta Genetics(遺伝)」実習の【設問⑥】や, 最終第 8 限目の【課題⑧】の効果が示唆される。 有意差が認められなかった特に,コの「遺伝・突 然変異」については,単元前から正答数が多く,天 井効果と考えられる。同じく,シの「混合遺伝」は 「分離の法則」発見以前に科学者が抱いていた誤概 念である。第 1 限の【課題①】と関連するが,その 時点では理解を求めていなかった。その後第 3 限に 「分離の法則」の解説はしたが,追究する課題は設定 していなかった。今後,中学生にも「分離の法則」 だけでなく,「独立の法則」を含めた指導の手立てが 必要になってくると思われる。

5.まとめと今後の課題

本研究によって次のことが明らかになった。 「遺伝」実習の設問と各課題による分析結果から, 「獲得形質の遺伝」を支持する生徒に比べて,「突然 変異」や「自然選択説」を選び,それらの科学的進 化概念を用いて説明する生徒の方が多数を占めた。 また,「無性生殖」に比べて「有性生殖」の方が,多 様な変異が生じるため,進化的に有利であるとする 説明が存在した。「遺伝」と「進化」を対峙させて考 察し,両者の統合をめざす学習計画(4 つの【課題】 や「Pasta Genetics」実習など)が好結果につながっ たと考えられる。 次に,質問紙調査による分析から,「遺伝」と「進 化」を統合した学習指導を組みこんだ単元開発に よって,「獲得形質の遺伝」「優性劣性と優劣」「遺伝 (優性)の法則」「遺伝子=DNA」「有性生殖と多様 性」の遺伝・進化概念について有意に差が生じた。 特に,根強く保持されやすい「獲得形質の遺伝」の 払拭に顕著な効果を示唆する結果が得られた。ただ し,「遺伝・突然変異」については天井効果によって 有意差が認められなかった。また,「混合遺伝」につ いても有意差が認められなかったことから,「分離・ 独立の法則」に関する新たな課題を設ける必要性が あると考えられる。 一方,本単元開発においては【課題】として,特 に設定していなかった「ヒトの成長」,「昆虫の変態」 や「環境適応」に関しても有意差が認められた。こ の結果は,「遺伝の法則」と「突然変異」を対峙さ せ,「進化の総合説」に導く【課題⑤】(表 1)や, 1 年生でも天井効果により有意差がないことが多い (名倉・松本,2018a)。これに関しては何らかの形で 中学校までに学習している可能性が考えられた。し かし,本調査対象の中学校 3 年生は,「環境適応」に 関する概念理解に改善の余地があったと考えられ る。いずれにせよ,本学習計画における「自然選択 説」などに関する課題が有意差を招いた原因と推察 される。 ケの有意差の原因は,学習計画の【課題⑦】の効 果と考えられる。なぜならば,「獲得形質の遺伝」を 選んだものは表 4 より,65 名中 13 名だったからで ある。さらに,【課題⑤】の効果も示唆される。その 根拠は,表 6 のように,生徒(KS 男)が前回の授業 (おそらく第 5 限目)のことを指摘しているからであ る。「獲得形質の遺伝」は,先にも述べたが保持され やすい誤概念であり,この払拭に対する本研究の貢 献が示唆される。 サの「優性劣性」も優劣の差とする誤解が多いが, 授業効果が示唆される結果である。 スは「遺伝の法則」のうち,血液型による「優性」 遺伝を取り上げた質問であるが,サと組み合わせた 質問により,劣性の O 型が劣っているのではないこ とを理解した結果であると思われる。 セの「遺伝子=DNA」は単元後の有意差が顕著で あったが,最終正答率は 20%程度にとどまった。高 校生物教科書には「遺伝子の本体が DNA」のみで 表 9 質問紙調査結果(2018 年 5 月 2 学級:N = 65) 各質問項目 単元前〔人〕 単元後〔人〕 マクネ マー検定 結果 正答数 誤答数 正答数 誤答数 ア 弱肉強食(誤) 34 31 36 29 n.s. イ 昆虫の変態(誤) 27 38 39 26 ** ウ ヒトの成長(誤) 28 37 42 23 ** エ 大量絶滅(正) 44 21 52 13 n.s. オ 技術の進歩(誤) 11 54 15 50 n.s. カ 世代性(正) 63 2 61 4 n.s. キ 優勝劣敗(誤) 37 28 32 33 n.s. ク 環境適応(正) 39 26 59 6 ** ケ 獲得形質の遺伝(誤) 31 34 52 13 ** コ 遺伝・突然変異(正) 47 18 52 13 n.s. サ 優性劣性と優劣(誤) 25 40 52 13 ** シ 混合遺伝(誤) 26 39 17 48 n.s. ス 遺伝の法則(正) 48 17 58 7 * セ 遺伝子 DNA(誤) 2 63 14 51 ** ソ 有性生殖と多様性(正) 32 33 53 12 ** df=1  χ2 .05=3.841(*p<0.05)χ2.01=6.635(**p<0.01)  n.s.(not significant)※各項目の( )内の正・誤 はそれぞれ科学的概念・誤概念を示す。

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ら,2018,p. 22)。 4) 本研究においては,実習に用いたパスタは「貝型」を 「リボン型」に代えている。また,子ども世代のパス タの例示パターンは,オリジナル版では 4 例を提示し ていたが,本研究では生徒に考えさせるために,表 1 の第 6 限目の図のように 1 例のみ示した。 5) 表 1 の【設問⑥】の Q5(オリジナル版)では,4 万遺 伝子で計算するようになっていたが,それでは計算が 煩雑になるため,本研究では染色体 23 対で計算する ようにヒントを与えた。

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1) 生物学史上において,一般に「現代的総合」の称する が,これについて「ジュリアン・ハクスレーは,1920 年代から,メンデル遺伝学とダーウィン進化論との統 合を考えていた。さらに,当時までに知られていた生 物学領域の成果を動員し,1942 年に『進化−現代的総 合(Evolution, the modern synthesis)』を発表した。進 化の総合説の名称は,この著作名に由来する」という 記述がある(溝口・松永,2005,p. 90;横山,2002, p. 88)。ちなみに,「synthesis」は「総合」とも「統 合」とも訳される。 2) 本単元開発において「遺伝的変異」や,「自然選択説 (ダーウィン説)」を中心とした「進化の総合説(modern evolutionary synthesis)」を援用する論拠として,「(前 略)……総合説に基づいて生物進化を説明すると次の ようになる。生物集団には特定の方向に向かわない突 然変異や遺伝子,染色体の異常などから起こる遺伝的 変異が存在する。この遺伝的変異は自然選択を受けて 漸進的進化が起こる……(中略)……総合説は,生物 進化の要因を説明するものとして 1940 年代半ばに成 立し,生物学界に受け入れられるようになった」と記 載されているためである(溝口・松永,2005,p. 91)。 3) 「遺伝のモデル実験」: 〔目的〕モデル実験を通して遺伝の規則性を理解する。 〔方法〕①純系の親をつくる:青色シートと透明シー トを生殖細胞の遺伝子とする。2 人 1 組で,1 人が純 系「青」の親で,青色シート 2 枚重ねて持つ。もう 1 人が純系「透明」の親で,透明シートを 2 枚重ねて持 つ。②子の組み合わせ:それぞれの親からシートを 1 枚ずつ出し,重ね合わせて子をつくる。③孫の組み合 わせ:できた子の組み合わせを各々 2 人が持つ。各人 がシートを出し合い,重ね合わせて孫をつくる(塚田

(12)

―』講談社サイエンティフィック,p. 165.

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(13)

Development of a Learning Plan to Foster Understanding of

“Genetic Continuity” Evolutionary Concepts

among Lower Secondary School Science Students

—A Case Study of an Instructional Strategy Integrating

“Genetics” and “Evolution”—

Masami NAGURA

1

, Shinji MATSUMOTO

2 1

Osaka Municipal Shimofukushima Lower Secondary School

(The Joint Graduate School (Ph.D. Program) in Science of School Education,

Hyogo University of Teacher Education)

2

Hyogo University of Teacher Education

SUMMARY

The purpose of this study was to help lower secondary school students understand that 1) “evolution” led to the existing “diversity” of organisms that emerged from “common” ancestors, and 2) “biological evolution” occurred by means of genetic mutation whereby adaptions that were advantageous for survival have been transmitted from parents to their offspring. In the new course of study guidelines for lower secondary schools, the “Biodiversity and Evolution” unit has shifted from the eighth-grade textbook to the ninth-grade one, and it will be taught immediately after the “Law of Heredity and Genes” in the “Genetic Continuity” unit. “Evolution” and “Genetics” were opposing concepts in the history of biology, however they were later synthesized (Modern Synthesis). In the new course of study guidelines for lower secondary schools, the circumstances via which these opposing concepts were synthesized are not described. Therefore, in this study, we developed the learning plans that integrated the “Evolution” and “Genetics” units based on the new course of study guidelines. We prepared a primary genetics activity and evaluation tasks based on “Pasta Genetics”, which was developed at the University of Washington. Through analyzing the data from this study, it became clear that this instructional strategy was effective for the promotion of scientific and evolutionary understanding among the participating lower secondary school students.

<Key words> Scientific Evolutionary Concept, Mendel’s Law of Heredity, Genetic Variation, Modern

表 1 「遺伝」と「進化」を統合した学習計画(全 8h:6・7・8 限は追加したカリキュラム)

参照

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