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漁船 員の 労働環境と作業安全に関 する研究

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Academic year: 2021

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(1)

     博士 (水産科 学)下川伸也 学位論文 題名

漁船員の労働環境と作業安全に関する研究 学位論文内容の要旨

  漁船 にお ける労 働環 境の 保全 につい ては 、安 全性 の向上 、作 業・ 居住環 境改 善 及び 作業 性確保 など の問 題が 挙げら れる 。こ れま で、船 体性 能か ら漁船 の安 全 性に つい て評価 され た例 は多 く見ら れる が、 船体 性能と 同時 に漁 労作業 を含 め て評 価さ れた例 は少 ない 。漁 船員の 労働 環境 を改 善し作 業安 全を 考慮す るた め には 、特 に、操 業時 の漁 労作 業につ いて 検討 する 必要が ある 。一 概に漁 船と 言 って も、 漁業種 類、 操業 海域 などの 条件 から 漁船 の規模 は異 なり 、その 性能 範 囲も 多種 多様で あり 、作 業内 容にっ いて も、 漁労 作業の みな らず 、漁獲 した 後 の漁 獲物 処理、 漁獲 物の 運搬 等と多 岐に わた る。 このよ うな 生産 活動の 場に お いて 災害 が多発 して いる ため 、労働 環境 の実 態、 作業内 容、 労働 負担及 ぴ作 業 環 境 等 を 検 討 し 、 さ ら に 作 業 の 安 全 性 向 上 を 図 る 必 要 が あ る 。   一般 に労 働災害 の発 生は 、労 働環境 自体 が事 故発 生要因 であ り、 作業者 の不 安全な動作や行動が原因となって、災害ゐミ発生している。従って、本論文では、

沿 岸小 型漁 船にお ける 漁業 者か らのア ンケ ート 調査 、小型 機船 底曳 網漁船 の操 業 実態調 査及 び人 体の動揺応答実験を通ーして、作業者の不安全な動作や行動の 要 因と なる 労働環 境の 問題 点に ついて 検討 した 。さ らに、 実船 によ るトロ ール 操 業中 の投 ・揚網 作業 を、 作業 工程毎 に分 類し 、各 要素作 業の 特徴 から工 程内 に 潜在 する 作業の 危険 度を 数値 化する 評価 法を 構築 し、漁 船労 働の 安全性 につ いての具体策を検討した。

【方法】

  漁船 員の 労働災 害事 例の 統計 資料を もと に、 事故 発生状 況か ら原 因、作 業種

(2)

類及び災害様態にっいて災害実態を調査した。また、北海道噴火湾沿岸及び山 口県角島及び同県宇部の3地域で、沿岸漁業従事者の操業実態や労働環境に関 するアンケート調査を実施し、労働環境の問題点にっいて検討を行った。さら に、瀬戸内海で操業する小型機船底曳網漁船を対象に、漁労作業中の船体動揺 データを計測しスペクトル解析を行い、操業段階毎の動揺特性を検討した。

  次に、船体動揺により作業甲板上に発生する加速度や傾斜角が、漁船員に作 用し、転倒や海中転落等の災害を発生きせる要因となり得ることに着目し、労 働災害発生のメカニズムを究明する一方法として、動揺に対する人体の応答特 性を計測した。実験には、船体動揺を任意に再現できる動揺台を製作し、動揺 台上の 被験 者の身 体11部位に ター ゲット ポイ ントを 設定 し、2台のCCDカメ ラ画像から31次元座標上にターゲット追跡を行うことにより、動揺に対する.人 体の姿勢制御動作及びバランス保持動作を分析した。

  さらに、1,OOOGT型漁業練習船によるトロール操業時の漁労作業を、VTRに 収録し、作業工程を分類した。同時に船尾トロール甲板上の作業者を対象とし て、2台のCCDカメラによる動作計測を行い、画像処理により得られた作業時 間、作業姿勢、作業工程毎の動作の特徴を検討し、作業の安全性にっいて考察 した。

【結果および考察】

(1)漁船における労働災害は、近年減少傾向fま見られるものの災害発生率は、

全陸上産業労働者との比較では林業に次ぐ2番目の災害発生率であり、他の船 舶と比べても2倍以上で突出している。作業別発生状況では5割が漁労関係作 業中に発生しており、荷役関係作業中、漁獲物処理作業中を含めると災害発生 全体の7割を占めている。発生件数が多い業種としては、まき網、マグロ延繩、

沖合 底 曳 の3業 種 に お い て 全 体の6割 を 占め て い る 。 漁労作 業中 の災害 様 態は、転倒、はさまれ等で発生が多く、船体動揺や作業空間に起因する労働環 境の問題が判明した。

(2)沿岸漁業従事者に対するアンケートの結果、作業・居住空間が狭く、船体     ‑ 222―

(3)

動揺を伴う海上での作業であるなど、労働環境に関する項目にっいて、各地域 とも共通の問題点があることが判明した。また、小型機船底曳網漁船における 漁労作業中の船体動揺スペクトル解析結果から、投網中や揚網中は船体両サイ ドの直巻ウ インチの回転 調節等により、1Hz以上の周波数帯に均等なパワーを 有するスベクトル形状となり、曳網中はワープ張カが船体両サイドヘ荷重し、

横方向加速 度のスペクト ルは抑えられ、上下方向のパワーのピーク値は0.3Hz 付近で顕著であった。さらに、漁獲物を甲板に取り込むために、ドリフト中に 網を吊り上げている状態では、横および上下加速度のスベクトルが0.3 Hz付近 でエネルギーレベルが高くなることが判明した。籠やロープが混在する甲板上 を、このような動揺環境において人体のバランスを取りながら網口の開閉、ブ レーキやクラッチの操作を行っているため、転倒や海中転落等の危険性が憂慮 される。

(3)動揺に対す る人体の姿勢制御動作の分析では、動揺中に複雑に動く身体各 部の動きについて、画像処理法により人体11ポイントを画像追跡することで、

動揺中の3次 元座標データ を作成することが出来た。また、動揺周期により人 体の加速度が急に大きい値を取り始める周期が3〜4秒で存在することを明らか にした。このことは、小型漁船の船体動揺スペクトルにピークが見られる0.3Hz 付近の周波数と一致する周期であり、船体動揺が激しくなる・ことにより人体の 姿勢制御動作が困難となり、小型機船底曳網漁船の労働環境が転倒や海中転落 等の災害発生に直結していることを明らかにした。

(4)動揺中の人 体応答として、Rollの動揺に対する人体の揺れは左右方向に大 きく、Pitchに対しては前後方向、左右方向の揺れが見られた。バランス保持の 動作として、Pitchの動揺中に膝及び肘を速く動かす動作を行うという特徴を明 らかにした。さらに、人体がバランスを保持するための挙動として、Pitch動揺 に対しては、腰部や頭部を含む体全体で動作し、肘や手先を前方・上方に大き く動かしていた。Roll動揺に対しては、体全体に左右方向の動作が見られ、肘 や手先を上方に大きく動かすと同時に、膝を前方に動かしていることが確認さ     ー223ー

(4)

れた。この挙動は、バランスを保持するために必要な動作の可動範囲であるこ とから、労働災害を防止し安全を確保するための必要空間と見なすことが出来 る。さらに、作業中の漁船員にとっての適切な作業空間領域として、バランス 保持 の動作範囲に安全率を考慮した領域を必要とすることを明らかにした。

(5)トロール操業中の漁労作業をビデオ分析により検討した結果、動作分析で は作業工程を投網12、揚網11工程に、また要素作業として運搬、連結、開放の3 っに分類した。作業時間の分析により、´作業時間の変動幅が大きい工程が、作 業の危険度・困難度が高いため、慎重を要するか協力動作を必要とすることが 判明した。要素作業毎の動作の特徴として、運搬、開放において投網より揚網 中の作業のほうが動作の速度、加速度共に大きく、漁獲を伴う作業であり迅速 に行われていることが分かった。その結果、作業工程毎に分類した、要素作業、

作業姿勢、使用部位、作業動作及び画像解析により算出した作業時間、動作速 度・加速度、さらに漁具の作動状態から、作業の危険度を数値化し評価するこ とで、作業工程毎の危険度を示し得た。危険度の高い作業工程は、オッタ丶一Iポ ード投入・揚収時の工程で見られ、同工程における労働災害様態との関連を検 討し、作業安全上の具体策を求めた。

  以上の、作業工程毎の危険度を数値化し評価する手法は、漁業種類や漁船規 模の異なる他の漁船においても、漁船員の労働環境の危険度を推定することが 出来るものである。

(5)

学位論文審査の要 旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

天下井 廣吉 木村

学 位 論 文 題 名

     勝治 暢夫

漁船 員の 労働環境と作業安全に関 する研究

  漁 船 員 の 労 働 災 害 事 例 の 統 計 資 料 を も と に 、 事 故 発 生 状 況 か ら 原 因 、 作 業 種 類 及 び 災 害 様 態 に っ い て 災 害 実 態 を 調 査 し 、 さ ら に 、 北 海 道 噴 火 湾 沿 岸 及 び 山 口 県 角 島 及 び 同 県 宇 部 の3地 域 で 、 沿 岸 漁 業 従 事 者 の 操 業 実 態 や 労 働 環 境 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 を 実 施 し た 結 果 、 漁 船 に お け る 労 働 災 害 は 、 近 年 減 少 傾 向 は 見 ら れ る も の の 災 害 発 生 率 は 、 全 陸 上 労 働 者 と の 比 較 で は 林 業 に 次 ぐ2番 目 の 災 害 発 生 率 で あ り 、 他 の 船 舶 と 比 べ て も2 倍 以 上 で 突 出 し て い る 。 作 業 別 発 生 状 況 で は5割 が 漁 労 関 係 作 業 中 に 発 生 し て お り 、 荷 役 関 係 作 業 中 、 漁 獲 物 処 理 作 業 中 を 含 め る と 災 害 発 生 全 体 の7割 を 占 め て い る 。 発 生 件 数 が 多 い 業 種 と し て は 、 ま き 網 、 マ グ ロ 延 繩 、 沖 合 底 曳 網 の3業 種 に お い て 全 体 の6 を 占 め て い る 。 漁 労 作 業 中 の 災 害 様 態 は 、 転 倒 、 は さ ま れ 等 で 発 生 が 多 く 、 船 体 動 揺 や 作 業 空 問 に 起 因 す る 労 働 環 境 の 問 題 が 判 明 し た 。 ま た 、 沿 岸 漁 業 従 事 者 に 対 す る ア ン ケ ー ト か ら は 、 作 業 、 居 住 空 間 が 狭 く 、 船 体 動 揺 を 伴 う 海 上 で の 作 業 で あ る な ど 、 労 働 環 境 に 関 す る 項 目 に つ い て 、 各 地 域 と も 共 通 の 問 題 点 が あ る 事 が 判 明 し た 。 こ の よ う な 状 況 を 踏 ま え て 、 本 研 究 は 小 型 機 船 底 曳 網 漁 船 の 操 業 実 態 調 査 及 び 人 体 の 動 揺 応 答 実 験 を 通 し て 、 作 業 者 の 不 安 全 な 動 作 や 行 動 の 要 因 と な る 労 働 環 境 の 問 題 点 お よ び 、 実 船 に よ る ト ロ ー ル 操 業 中 の 投 ・ 揚 網 作 業 を 、 作 業 工 程 毎 に 分 類 し 、 各 要 素 作 業 の 特 徴 か ら 工 程 内 に 潜 在 す る 作 業 の 危 険 度 を 数 値 化 す る 評 価 法 を 構 築 し 、 漁 船 労 働 の 安 全 性 に つ い て の 具 体 策 に っ い て 研 究 し た も の で あ る 。

1) 小 型 機 船 底 曳 網 漁 船 に お け る 労 働 作 業 中 の 船 体 動 揺 ス ベ ク ト ル 解 析 結 果 か ら 、 曳     網 中 は ワ ー プ 張 カ が 船 体 両 サ イ ド ヘ 荷 重 し 、 横 方 向 加 速 度 の ス ペ ク ト ル は 抑 え ら     れ 、 上 下 方 向 の パ ワ ー の ピ ー ク 値 は0.3Hz付 近 で 顕 著 で あ っ た 。 さ ら に 、 漁 獲 物     を 甲 板 に 取 り 込 む た め に 、 ド リ フ ト 中 に 網 を 吊 り 上 げ て い る 状 態 で は 、 横 お よ び     上 下 加 速 度 の ス ペ ク ト ル が0.3Hz付 近 で エ ネ ル ギ ー レ ベ ル が 高 く な る こ と を 明 ら     か に し た 。

2) 動 揺 に 対 す る 人 体 の 姿 勢 制 御 動 作 の 分 析 で は 、 人 体 の 加 速 度 が 急 に 大 き い 値 を 取

(6)

    り始める周期が3〜4秒で存在することを明らかにした。このことは、小型漁船の     船体動揺スペクトルにピークが見られる0.3Hz付近の周波数と一致する周期であ     り、船体動揺が激しくなることにより人体の姿勢制御動作が困難となり、小型機     船底曳網漁船の労働環境が転倒や海中転落などの災害発生に直結していることを     明らかにした。

(3)動揺中の人体応答実験から作業中に漁船員に必要な作業空間領域は、バランス保     持 の 動作 範 囲に 安 全 率を 考 慮し た 領域 が 必要 で ある こ とを 明 らか にした。

(4)作業工程毎に分類した、要素作業、作業姿勢、使用部位、作業動作及び画像解析     により算出した作業時間、動作速度・加速度、さらに漁具の作動状態から、作業     の 危 険 度 を 数 値 化 し 評 価 す る こ と で 、 作 業 工 程 毎 の 危 険 度 を 示 し た 。 以上の研究の成果は、我が国の漁船員の労働環境と作業安全の向上を図る上に貴重な実 データであり、労働災害様態を作業工程毎の危険度を数値化することによって適格に説 明し、漁船員の労働環境の改善に資するものである。よって審査員一同は、本論文が博 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 が あ る も の と 判 定 し た 。

参照

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