Title イヌへの臨床応用を目指した十全大補湯の薬理作用に関する研究( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 篠原, 祐太 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 甲第558号 Issue Date 2020-03-13 Type 博士論文 Version ETD URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/79359 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏名(本(国)籍) 篠 原 祐 太(茨城県) 主 指 導 教 員 氏 名 東京農工大学 准教授 佐々木 一 昭 学 位 の 種 類 博士(獣医学) 学 位 記 番 号 獣医博甲第558号 学 位 授 与 年 月 日 令和2年3月13日 研 究 科 及 び 専 攻 連合獣医学研究科 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 東京農工大学 学 位 論 文 題 目 イヌへの臨床応用を目指した十全大補湯の薬理作用に 関する研究 審 査 委 員 主査 東京農工大学 教 授 永 岡 謙太郎 副査 帯広畜産大学 教 授 石 井 利 明 副査 岩 手 大 学 教 授 佐 藤 洋 副査 東京農工大学 准教授 佐々木 一 昭 副査 岐 阜 大 学 教 授 海 野 年 弘 学位論文の内容の要旨 日本では,イヌにおいても高齢化が進行している。加齢とともに,生体内では酸化スト レスが増加し,がんや心臓血管疾患の発症にも関係することが示されている。ヒトにおい ては,酸化ストレスを減らし, 酸化ストレスと関連があると言われている疾病の治療・予 防を目指す,抗酸化療法の重要性も報告されている。しかし, イヌにおける報告は少なく, まだ発展途上である。また,イヌががんに罹患した場合,現在の獣医療分野では,抗がん剤 を用いた化学療法が選択される場合も多いが,抗がん剤は,血液毒性や消化器毒性などの 副作用についての懸念もあり,激しい副作用は,理想的な治療の実施を妨げる可能性もあ るため,副作用を減弱させることは,非常に重要である。そこで本研究では,ヒトの医療 において,体力の低下や食欲不振などに対しての効能をもつ漢方薬として使われている十 全大補湯に着目し,イヌにおける抗酸化作用および抗がん剤による副作用低減作用につい て調べ十全大補湯の獣医臨床における有用性を検討した。また,十全大補湯は漢方薬とい う性質上,長期使用をする可能性がある。それゆえ臨床で他の薬物と併用される可能性も 考え,犬肝抽出マイクロソームを用いた,酵素阻害による薬物間相互作用の可能性につい ても検討を行った。 第1章では,150 mg/kg/dayまたは 450 mg/kg/dayの十全大補湯をイヌに28日間経口投与 し, 酸化ストレスレベル,抗酸化力,血液流動性の変化を評価することで, その抗酸化作 用を検討した。450 mg/kg/dayの十全大補湯を投与した結果,14日目以降で酸化ストレスレ ベルの有意な減少が認められた。十全大補湯は,イヌにおいて,酸化ストレスレベルを減 少させることで,抗酸化作用を持つことがわかった。 第2章では,十全大補湯のイヌにおけるビンクリスチン誘発性の消化器毒性および血液毒 性の軽減作用について検討した。450 mg/kg/dayの十全大補湯を単独で14日間経口投与し, エコーによる胃の運動性の評価を行ったところ,7日目以降,胃の運動性が有意に促進され ることが示された。血球系に関する血液検査においては,変化は認められなかった。450 (7)
mg/kg/dayの十全大補湯を0.75 mg/m2のビンクリスチンと併用投与し,6日間エコーによる 胃の運動性の評価を行った結果,0.75 mg/m2のビンクリスチンを単独で投与した際に認め られた胃の運動性の低下が,併用投与の場合では認められなかった。血球系に関する血液 検査では,十全大補湯の併用投与を行っても,ビンクリスチン単独投与の時に認められた 各パラメーターの減少に,変化は認められなかった。十全大補湯は,イヌにおいて,ビン クリスチン誘発性の消化器毒性を軽減することがわかった。 第3章では,十全大補湯のCYP酵素に対する阻害作用について検討した。犬マイクロソー ムを用い,主要なCYP種であるCYP1A,2D,3A活性の,十全大補湯よる阻害の有無を検討し た。阻害定数(Ki)は,CYP1Aでは460 ± 142 µg/ml ,CYP2Dでは2880 ± 2490 µg/ml,CYP3A の1’位水酸化の場合では2190 ± 1930 µg/ml,CYP3Aの4位水酸化の場合では2120 ± 498 µg/mlであることが明らかになった。CYP1AにおけるKiが460 µg/mlと一番小さい値であるが, この値は臨床的に問題となる酵素阻害を引き起こすことが知られるケトコナゾールのイヌ におけるKiに比べ約1000倍程度大きく,十全大補湯の経口投与において,問題となる酵素 阻害が起こる可能性は極めて低いと考えられた。 このように,本研究において,十全大補湯の,イヌにおける抗酸化作用,ビンクリスチ ン誘発性の消化器毒性軽減作用が示された。さらに,十全大補湯は,イヌにおいて主要な CYP種において, 酵素阻害に起因する薬物間相互作用を起こす可能性は低いと考えられた。 これらから,十全大補湯は,獣医臨床分野において,有益な薬として使用されることが期 待される。 十全大補湯は,ヒトの医療において体力の低下や食欲不振などに対しての効能をもつ漢 方薬として使われているがイヌにおける作用は調べられていない。本研究では,十全大補 湯の獣医領域における臨床応用を目指して,抗酸化作用および抗がん剤による副作用低減 作用について調べた。さらに,十全大補湯は漢方薬という性質上,長期使用をする可能性 がある。それゆえ臨床で他の薬物と併用される可能性も考え,犬肝抽出マイクロソームを 用いた,酵素阻害による薬物間相互作用の可能性についても検討を行った。 第 1 章では,十全大補湯をイヌに 28 日間毎日経口投与し, 酸化ストレスレベル,抗酸化 力,血液流動性の変化を評価することで, その抗酸化作用を検討した。450 mg/kg/day の 十全大補湯投与により,14 日目以降から酸化ストレスレベルの有意な減少が認められた。 十全大補湯は,イヌにおいて,酸化ストレスレベルを減少させることで,抗酸化作用を示 すことがわかった。 第 2 章では,十全大補湯のイヌにおけるビンクリスチン誘発性の消化器毒性および血液 毒性の軽減作用について検討した。450 mg/kg/day の十全大補湯を単独で 14 日間経口投与 し,エコーによる胃の運動性の評価を行ったところ,7 日目以降,胃の運動性が有意に促 進されることが示された。450 mg/kg/day の十全大補湯を 0.75 mg/m2のビンクリスチンと 併用投与し,6 日間エコーによる胃の運動性の評価を行った結果,ビンクリスチンを単独 で投与した際に認められた胃の運動性の低下が,十全大補湯との併用投与の場合では認め られなかった。血球系に関する血液検査では,十全大補湯の併用投与を行っても,ビンク リスチン単独投与の時に認められた各パラメーターの減少を抑制することはなかった。十 全大補湯は,イヌにおいて,ビンクリスチン誘発性の消化器毒性を軽減できることがわか った。 第 3 章では,十全大補湯の CYP 酵素に対する阻害作用について検討した。犬マイクロソ ームを用い,主要な CYP 種である CYP1A,2D,3A における酵素活性への,十全大補湯によ 審 査 結 果 の 要 旨
る阻害の有無を検討した。阻害定数(Ki)は,CYP1A では 460 ± 142 µg/ml,CYP2D では 2880 ± 2490µg/ml,CYP3A の 1’位水酸化の場合では 2190 ± 1930 µg/ml,CYP3A の 4 位水酸 化の場合では 2120 ± 498 µg/ml であった。これらの中で,CYP1A における Ki が 460 µg/ml と一番小さい値であるが,この値は臨床的に問題となる CYP 酵素阻害を引き起こすとが知 られるケトコナゾールのイヌにおける Ki に比べ約 1000 倍程度大きく,十全大補湯の経口 投与において,問題となる CYP 酵素阻害が起こる可能性は極めて低いと考えられた。 このように,本研究において,十全大補湯のイヌにおける抗酸化作用とビンクリスチン 誘発性の消化器毒性軽減作用が示された。さらに,十全大補湯は,イヌにおいて主要な CYP 分子種に対する酵素阻害の程度は軽微であり,CYP 阻害に起因する薬物間相互作用を起こ すリスクは極めて低いことが示された。 上記の研究結果は,十全大補湯は,獣医臨床分野において,有益な薬として使用できること を示すものであり,非常に意義がある成果である。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究科の学位論 文として十分価値があると認めた。 基礎となる学術論文
1)題 目: Possible anti-oxidative effects of long-term administration of Juzen-taiho-to in dogs
著 者 名: Shinohara, Y., Oyama, A., Usui, T. and Sasaki, K. 学術雑誌名: The Journal of Veterinary Medical Science
巻・号・頁・発行年:81(11):1616-1620,2019
2)題 目: Efficacy of Juzen-taiho-to against vincristine-induced toxicity in dogs
著 者 名: Shinohara, Y., Nishino, Y., Yamanaka, M., Ohmori, K., Elbadamy, M., Usui, T. and Sasaki, K.
学術雑誌名: The Journal of Veterinary Medical Science 巻・号・頁・発行年:81(12):1810-1816,2019
既発表学術論文
1)題 目: Establishment of a novel experimental model for muscle-invasive bladder cancer using a dog bladder cancer organoid culture 著 者 名: Elbadawy, M., Usui, T., Mori, T., Tsunedomi, R., Hazama, S., Nabeta,
R., Uchide, T., Fukushima, R., Yoshida, T., Shibutani, M., Tanaka, T., Masuda, S., Okada, R., Ichikawa, R., Omatsu, T., Mizutani, T., Katayama, Y., Noguchi, S., Iwai, S., Nakagawa, T., Shinohara, Y., Kaneda, M., Yamawaki, H. and Sasaki, K.
学術雑誌名: Cancer Science