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青年前期の発達障害者の特徴と教育課題 -滋賀大キッズカレッジ学習室生徒の高校入学前後の変化-

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Academic year: 2021

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1.問題と目的 発達障害児の教育について杉山・辻井・アスペ・エ ルデの会(2002)は成人期に向けた課題と支援につい て,子どもの育つ経過の中で,支援を受けてきた子ど もとそうで無い子どもでは思春期以降が異なることを 指摘し(杉山・辻井,2015),早期の支援の重要性を 述べている。発達障害児の思春期・青年期の「自己」 を「他者」との関係で捉え,社会的存在としての「自 己」を認識する発達的特徴についての思春期青年期の 自己理解研究は途上であり,成果の蓄積が十分ではな い(滝吉・田中,2011)。 学齢期は,社会的認知の問題が顕在化し,青年期は 障害認知や共感性の問題に直面する(高橋,2002) とされる。また,辻井(1991)は発達障害の青年は おだやかに生活するとしながら一方で問題行動が多発 すると述べる。 自 己 理 解 の 前 提 と な る 自 己 意 識 に つ い て 田 中 等 (2006)は発達障害(ADHDとPDD)児の保護者を 対象に面接調査を実施し,子どもがおかれている特別 な支援環境や自分の性格を意識して話す言葉を分析し た結果,ADHD児は行動特性から指示や叱責を受け る外的環境により,PDD児は支援者が常に側にいる 環境によって疑問を抱くとする。その時期は共に小学 校低学年であり,本人に対する支援は発達課題に応じ て必要であるとしている。 先行研究の多くはADHDやHFPDD(高機能自閉 症)に関して,対人・社会関係,行動の問題を中心に 取り上げている。しかし,読み書き困難をはじめとす る学習障害について取り上げたものは極めて少ない。 発達障害に併存する学習障害に対しては,学習は「無 理させないで少しずつゆっくり」,「子どもなりの コツを見つける」(辻井・氏田等,2010)等の方策が 指摘されている。しかし一方でPDDとADHDの子ど もの臨床において主訴に読み書き困難があげられて いなくても読字障害が25%から43.6%含まれていたた め,合併の有無を検討すべきであるとする指摘もある (岡,2012)。 堀口(2014)は滋賀大キッズカレッジの「学習 室」の取り組みから急激な発達的変化の事実の有無お よび主体的条件について,学齢期の50人の子どもを 対象に検討している。学習室に通い始めた当初は「勉 強に対して拒否的態度」「無気力」「落ち着きのな さ」「神経症状」がみられ「学習への構え」が未形成 の状態であった。学習室に通うことでスタッフから自 分を受け入れられる経験を重ね,率直に自分が出せる ようになり,二次障害が解消されていく。その変化が 見られるようになった時期は小学校4年,5年,中学 校1年,2年が多く,変化としては「苦手な読み書き を嫌がらなくなった」「書字の形が整ってきた」「読 み能力が伸びた」「穏やかになった」「学習室で友達 が出来た」「学校に登校するようになった」等をあげ ている。そして,それ以降の中学校3年から高校1年 の頃にさらに急激な飛躍的発達の姿を見せた。この時 期は通常は発達障害児に二次障害が発生するリスクが 高いといわれている。 本報告は,堀口によって明らかにされた「急激な発 達的変化」の統計的な傾向分析をふまえて,急激な発 達的変化の個別的質的側面を多面的に明らかにするこ とを目的とする。 2.方法 1)対象 2016年春に高校1年生になった滋賀大キッズカレッ ジの「学習室」生徒及びその保護者とする。全員に読 み書き障害があり自閉症スペクトラム(ASD)のア スペルガー傾向を持っている。 <キーワード> 発達障害 青年前期 安心と自尊心 飛躍的発達 自己理解

堀口真理子

Mariko HORIGUCHI

京都聖母女学院短期大学非常勤講師

窪島  務

Tsutomu KUBOSHIMA

滋賀大学名誉教授

久保田璨子

Ayako KUBOTA

元滋賀大学特任教授

-滋賀大キッズカレッジ学習室生徒の高校入学前後の変化-

Characteristics and Educational Issues of Early Adolescence

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人)であった。その内容は,最寄りの利便性の良い駅 までの送迎(長距離通学),学習,学校生活であっ た。 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に つ い て は 「 問 題 な い 」 が 62.5%(5人)であり,「時々困難」は37.5(3人)で あった。 ②  急激に飛躍的成長・発達したという実感の有無 は,「有」が87.5%(7人)で「わからない」は 12.5%(1人)であった。内容では自由記述で「学 習の積極的態度」(3人),「責任感」(1人),「あき らめずできる」(1人),「自分はまじめすぎること が分かってきた」(1人)であった。記述なしが1人で あった。次に子どもが自身の困難について,「困 難が目立たなくなった」は12.5%,「よく分からな い」が12.5%(1人)であった。 表2.高校1年生の状態   ③  保護者からみて,キッズカレッジの意義として, 「親相談」100%,「親の安心」,「子どもの自 信」,「子どもの良い所が見える」が共に62.5%, 「講座」が50%,「親間の交流」37.5%,「子ども が明るくなった」が25%であった(図1)。 2)保護者面接の結果 高校進学に至るまでの小・中学生時代の経過や高校 入学後の学習・友達関係・部活等子どもの変化は表3 に示すようであった。小・中学校には行っていない 「学習室」生徒の実態として,高校に入学した生 徒の内,面談と質問紙調査が実施できた8名の特徴を 表1に示す。WISC知能検査による認知特性は,FIQ が77から111で正常範囲であった。初回相談時の主訴 は,不登校,行き渋り,対人関係,落ち着きのなさ, いじめ,抜毛や過敏性腸症候群等であった。子どもが キッズカレッジ学習室に通った期間は4年から7年で あった。 表1.発達障害タイプ・学習室年数・困難 n=8 2)方法 滋賀大キッズカレッジ学習室の記録及び保護者に対 する面接と質問紙調査を行った。質問紙の内容は滋賀 大キッズカレッジ学習室の子どもの様子や保護者相談 をもとに独自に作成した。面接及び質問紙は2016年6 月に実施した。 内容は,①高校生になった子どもの状態(学校生 活,変化した内容(選択項目と自由記述)子ども自 身の自己理解,保護者の理解,②子どもが飛躍的に成 長・発達した実感の有無(選択項目)と内容(自由記 述含),③保護者がキッズカレッジで経験できた内容 (選択項目で複数回答可)とした。倫理的配慮はキッ ズカレッジの規定に従い,保護者の了解を得た。 3.結果  1)保護者に対する質問紙調査の結果 ① 高校入学時の実態 中学校まで不登校傾向,或いは小・中学校は不登校 状態であった場合も含めて8人全員が高校に毎日登校 していた。 高校生になって変化した点は次の内容であった。 「しっかりしてきた」は100%(8人)でその内容で は「学習」(3人),「生活」(3人),「目標を持つ ようになった」(1人), 「自分の困難を自己理解でき る」は75%(6人),「部活動の参加」は75%,「自 分の事は自分でする」は62.5%(5人),また,「読 み書きの苦手はあるが頑張る」,「学習を頑張るよう になった」,「友人ができた」は全員で100%であっ た。 一方「手助けを求めることがある」は87.5%(7 図1.親がキッズで経験できた事・複数回答 n=8 (%)

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をよく聞き話し合った。大事な話をするのは学習室に 通う車中の1時間半の時間で,学習の後は昼食を取る ことを楽しみにしていた。支援学級の担任は理科教科 の男性で本人は大好きになり,職場体験にも行き行事 は全て参加することが出来た。通常学級の授業にも参 加し,支援学級は情緒を安定させる場所になった。夏 の高校のオープンスクールは4校に行き希望校を探し た。高等養護学校は「勉強したい教科がないから行き たくない」と言ったが〇高校は校庭に入って雰囲気が 気に入り授業では数学が良かったと嬉しそうに話をし た。行きたい高校が見つかり,気持ちがそれまで以上 に勉強に向かい晴れやかな気持ちで受験期を迎えるこ とができた。母親の場合は敷かれたレールの上で進路 を決めてきたが子どもの場合は違う。高校は朝6時50 分に家を出て車,電車を乗り継いで通う。高校生にな り,学校は楽しいと初めて言い「18歳で就職するの は嫌」と自分から上の学校に行くことを希望して勉強 している。キッズの学習では粘土文字がしっかりして きた,立体になって立つことはすごいことだと思う。 親には子どもを育てるための勉強が必要だと思う,体 が壊れてしまうよりも不登校で彼なりに時を刻んでい てよかったと今は思える。 小中学校時代のF君については,保護者は学年が上 がるに従い学校の先生と連絡を取り保護者の希望で 学校とキッズカレッジで度々相談が行われてきた。F 君は学習室ではスタッフに対して「大人は勝手なこ とを言う」と言うこともあったが課題にはまじめに取 り組み,「できない」と自分の意思を伝えていた。学 習では不器用によるできにくさが解消され,字形につ いても整うようになった中学生になった頃,気持ちを 素直に出せるスタッフに出会い,学習後には散歩をし ながら,悩みを話し,進路に対しての希望を「どう思 う?」と質問するようにもなっていった。 読字に困難はなく書字に困難がある場合,学校に理 解されにくいことが多い。F君の場合,読字に問題は なく書字の困難が大きく加えてASDも併存し対人関 係にもやりにくさがあった。本人の願いがかなわない 小・中学校時代を過ごし安心感が得られる機会に恵 まれにくかった。学校の先生方も彼を理解しようと試 みてはいたがすれ違う日々が続いた。彼の場合保護者 の理解では小学校高学年の時期は肯定的自己が形成さ れるというより,否定的状況下で不登校という選択を した。本児が支援学級を選択するまでには長い期間が 必要であったが,勉強したいという気持ちが大きくな り,同時に彼にとっていい先生に出会うことなどが重 なっていった。 子どもも高校には行くようになっていた。LDが理解 されずに学校では怠けていると言われた場合も苦手な 教科の宿題を自らするようになった。進路を親子で探 し,高校生活では対人関係で改善がみられていた。表 3は保護者面接の結果の概要と複数のスタッフによる 評価である。 3)F君の事例 書字困難とASDが併存する男児で,小学3年から高 校入学までの経過は次のようであった。家族構成は 両親と弟の4人。WISC-Ⅲの結果は,VIQ97.PIQ79. FIQ88であった。人物画やReyの複雑図形で空間構成 活動に課題が見られた。小学校3年時の読字能力は, 1年漢字95.6%,2年漢字で90.6%であり,書字能力は 1年漢字55%,2年漢字22.5%であった。読字に比較し て書字の困難が認められた。小学校3年から学習室に 通い高校生まで通ってきた。中学校3年時の漢字の読 字は小学校5年漢字88.9%,6年漢字75%であった。書 字では拒否感はなくなったが,小学校低学年の水準で あった。学習室の経験は7年であった。 初回相談は小学校3年時で,面接における保護者の 訴えは子どもが書字困難で,集中力が弱く身の回りの ことができず忘れ物が多い,記憶力が弱い,不器用で あった。生育歴では,乳幼児健診で指摘を受けるこ とはなく生後11ケ月から保育所に通ったが,年長児 の時保育士から小学校入学後に集団登校できるかどう かが心配と言われた。小学校入学後は登校する際の準 備ができず,担任と親が連絡帳でやり取りを行った。 学習面では話をすることや教科書を読むことに問題は なかったが,筆圧が弱く書字は苦手だった。親は子 どもの学習の問題から逃げていた時期に,3年の担任 から小学校1年で出来ていたことが出来ないといわれ ショックを受け,困っているのは子どもではなく親の 方だと思ったことがある。この頃にキッズ学習室で検 査を受け,学習室に通うようになり,親は安心と支 えを得ることができるようになった。4年の時には, 「一番前の席」と「女性の担任」が嫌という理由で教 室に入れなくなり別室登校になり,家で頭痛を訴え, 専門医(児童精神科)の受診を開始した。5年で,支 援学級入級を勧められたが本人が拒否をした。欠席が 多くなり週1回の夕方登校は親子で通いそれは6年で も続いた。小学校時代にいい意味の変わり目はなかっ た。中学校に入学する前に医師から「広汎性発達障 害」の診断書を受け中学に伝えている。中学入学後 に,人との距離感が取りにくいことがあり,学校でト ラブルが起きたため休ませることにした。2年で父親 が介護のため在宅になり子どもは学校に行くように なったものの別室での自習の時期が続いた。中学3年 になった時本人が希望して支援学級に在籍することに なった。支援学級希望を決める際,親は本人の気持ち

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ることを通じて,“勉強したい”という希望が明確にな り,保護者と一緒に学校を探して自分の希望する高校 を見つけた経過が伺える。スタッフの評価では“わか らないよ”と主張するようになり“苦手な教科の宿題を 自らする”,“数学が分かるようになった”と言うなど の姿が見られた。保護者は中学校3年から高校1年に かけて飛躍的に変化したことを実感していた。高校1 年になった青年前期の人は,8人全員が毎日登校し, しっかりして,新しい友人が出来,学習で頑張り,読 み書きに困難はあるが頑張るなどの姿を示していた。 急激な飛躍的発達的変化の内容としては,「学習」 「責任感」「諦めず頑張る」「(自分が)まじめすぎ ることがわかる」「見通しを持って行動できる」こと があげられた。 自己理解については,自分の困難について「自己理 解できる」は75%(6人)であった。発達障害のある 場合の進学では,本人が望まない学校に進むことが多 いという指摘があるが,本報告の場合,保護者ととも 4.考察 1)保護者に対する質問紙調査と面接の結果 表1と表2を比較すると,表2では少なくとも4年以 上の経過があり,不登校や行きしぶりは解消し,対人 関係の困難についても自分らしさを発揮しながら改善 がみられていた。学習の困難も自己理解ができるよう になっていた。 2)青年前期の自己理解に関連して 自分の困難について「自己理解できる」は75%(6 人)であったが,全体的な行動変化を伴って進路に向 けて自己理解の力が発揮されるようになったとして保 護者は把握していた。しかし,詳細についてはさら に検討が必要である。発達障害のLDとASDが併存す る場合,進路選択を迫られる時期に,否応なく自分の 読み書き困難の問題に直面し,自己理解の前提となる 自己意識の問題を避けることが出来ない状況に至る。 それを意識して,保護者面接及び表3に示されるよう に,“行ける高校は無い”,“何のために行くか”を考え 表3.発達障害のタイプ・学習室当初の姿・保護者面接の結果・スタッフの評価

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the School of Education, Nagoya University (Educational Psychology),Vol.38,167-178 に自分に合った学校を探し希望して進路を決めて青年 前期を迎えていた。急激な飛躍的発達的変化の個別的 質的側面については,個人差もあり今後さらに検討が 必要である。 3)滋賀大キッズカレッジの学習指導の特徴 文字の読み書き困難に対しては個別指導を通して安 心感と自尊心を育てることを重視している。 読み書きの困難に対する指導は,文字を何度も繰り 返し書く指導方法は採用しない,文字の間違いを指摘 し訂正する指導ではなく自分で気がついて直すことを 待つ,子どもの持つイメージをもとに,自分を発揮す ることを大切にする。LDの読み書きの困難の特徴は 独特の間違い方をする,ちょっとした間違いがなかな か直せない,似た文字や漢字を間違えることが起こる 等の特徴があり,正しく書いても正しいという確信が 無いという心理的に不安が大きい問題を抱えているこ とに十分な配慮をおこなうことが大切である。子ども の安心感と自尊心の形成,自己認識の発達を重視する 滋賀大キッズカレッジ学習室の指導方法は,子どもが 飛躍的発達を達成するために重要であったと考えられ る。一般的に,思春期・青年期は問題行動の顕在化の 時期と言われるように,飛躍的発達は自動的にやって くるものではなく,その前提条件としての教育的指導 が不可欠である。 引用文献 堀口 真理子(2014):発達障がい児の急激な発達的変化 の事実の質的検討.日本LD学会発表論文集.  辻井 正次・氏田照子編著(2010):思春期以降の理解と 支援.金子書房. 杉山 登志郎・辻井正次編著(2002):高機能広汎性発達 障害 アスペルガー症候群と高機能自閉症.ブレー ン出版. 杉山 登志郎・辻井正次(2015):発達障害のあるこども ができることを伸ばす!思春期.日東書院. 田中 真理等(2006):軽度発達障害児における自己意識 の発達―自己への疑問と障害告知の観点から―東 北大学大学院教育学研究科研究年報. 第54集第2 号.  滝吉 美知香・田中真理(2011):思春期青年期の広汎 性発達障害者における自己理解. 発達心理学研 究.22(3).215-227  岡牧 郎等(2012):広汎性発達障害と注意欠陥/多動性 障害に合併する読字障害に関する研究. 脳と発 達.44.378-386 高橋 脩(2002):高機能自閉症児の幼児期から青年期の 発達. 障害者問題研究. 30. 118-126 辻井 正次他(1991):青年前期自閉症児の対人関係ス キルの形成を目指して ―象徴・言語操作の可能 な自閉症児の構造論的アプローチ―.Bulletin of

参照

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