Webコンテンツにおける赤文字の誘目性に関する研究―発見不可能な限界を求める測定手法―
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(2) Vol.2019-AAC-9 No.7 2019/3/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 能不全を原因とする色覚特性.. • D 型:主に緑色光を感知する M 錐体の欠損あるいは 機能不全を原因とする色覚特性.. • T 型,A 型:稀に存在するが出現頻度は極めて低く, それぞれ約 0.001%. 上記の型のうち P 型と D 型を合わせた出現頻度は,日 本人の男性で約 5%,女性で 0.2%とされる [6].本稿では特 に赤色の感知特性に注目し,色弱者の中でも P 型を研究の 図 1 実験 1 の実施環境. 対象とする.. 1.3 目的 一般色覚の人々は赤を「強い」 「目立つ」といった印象を. 測定する.この時間が 60[s] 以内であった場合は「発見で きた」とみなす.. 与える色だと経験的に認識している.故に,人々はビジネ ス文書,ポスター,看板などの上に情報を配置するような 場面で,目立たせたい場所に赤色を用いる傾向がある.こ. 2.2 検証 前節の測定を一般色覚者と色弱者の両者に対して行い,. のことは神作らによって明らかにされており, 「誘目性」と. 同一のグラフにプロットし,いくつかの基準で両者間の差. して述べられている [1].しかし,前述のように赤色は色弱. 分を求める.次に,ここで求めた差分だけ着色単語の赤色. 者にとっては識別を苦手とする色であり,必ずしも強い印. をあらかじめ減衰させ,一般色覚者を被験者として再度前. 象を受けない場合も多い.むしろ他の色よりも目立たない. 節の方法で測定を行うことにより,色弱者の被誘目性の再. ような場合もある.. 現を試みる.この結果が色弱者とほぼ同一となるような. そこで我々は,一般的な白背景/黒文字の Web コンテ ンツでは,文字を赤く着色しても色弱者に対して誘目性を 上げる効果は低いのではないか,という仮説を立て,先行 研究で実証した [4][5]. 従来から用いられてきた紙を媒体とする文書の場合は, 当然ながら印刷後に動的に色を変換したりすることはでき ない.一方,Web コンテンツの場合はソースコードの構文. “色弱の度合い”の算定方法を探索する.. 3. 実験 3.1 実験環境 図 1 のようなサーバ/クライアント環境で実験を行う. 使用機材は以下の通りである.. • Web サーバ. 解析によって赤文字を検知し,動的に変換を施すことがで. – PC: VMware Fusion 上で動作する仮想マシン. きる.本研究の大目標は,そのような変換機構を開発する. – OS: CentOS Linux release 7.6.1810. ことにある.. – httpd: Apache/2.4.6. 本稿では,過去の研究 [5] などで実施してきた実験方法 を再検討し,色弱者の “色弱の度合い”を測定する手法を提. – PHP 7.2.11 • クライアント. 案し,検証する.また,その結果に基づいて色弱者の誘目. – 端末: Apple iPad Pro 9.7 インチ. 性をエミュレートする機構を開発し,その実証評価を行う.. – OS: iOS 12.1.3. 2. 提案手法. – ブラウザ: Safari 実験場所は一般的な蛍光灯照明と自然光(直射日光では. 先行研究では,文書中に赤色の強度の異なる 2 個の着色. ない)が入り込む屋内で,3 名とも日中に同じ場所に着席. 単語を含ませ,どちらを早く発見するかという比較によっ. して実験を行う.クライアント端末の画面輝度は最大と. て色弱者の “色弱の度合い”の測定を試みた [4][5].本稿で. する.. は,色弱者の日常的(現実的)な状態を測定することを主 眼に置いた “色弱の度合い”の測定手法を提案する.. 3.2 被験者 • 一般色覚被験者 2019001,2019002. 2.1 測定 まず,測定用の文章をタブレット PC に表示する.この とき,フォントサイズはブラウザの既定値のまま変更しな い.文章中のランダムな 1 箇所に赤色の着色単語を混在さ. これまでに色弱と自覚したこと,および他者から指摘 されたことがない一般色覚者 2 名.いずれの被験者 も,裸眼視力または矯正視力で 1.0 以上.. • P 型被験者 2019101. せ,被験者はその着色単語を探し出してタップする.この. 先天的に色弱を持つ P 型色弱者 1 名.事前に扶桑プレ. 赤色着色単語の赤の強度を減衰させ,発見にかかる時間を. シジョン社製「パネル D-15 テスト(iPad 用)」[7] を. ⓒ 2019 Information Processing Society of Japan. 2.
(3) Vol.2019-AAC-9 No.7 2019/3/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 図 3. 開発した測定プログラムの操作画面. 減衰させるエミュレータを用いた.一方,本稿では前節の 測定方法をそのまま使用し,後述する方法によって求める 減衰量をあらかじめ適用してから試行を開始することでこ れに代える.これにより,一般色覚者でも色弱者と同様の 見え方を再現できることを想定している. 被験者は,実験 1 と同じ一般色覚者 2 名とする.. 4. 実験結果 図 2. 実験 1 の評価用 HTML 文書. 4.1 結果 1:赤色着色単語の誘目性比較 用いて色覚特性の型を同定.自動車運転免許保有.日 常の生活には不自由を感じていないと云う.識別が難 しい色は,赤と黒,紫と水色,茶色と緑,など.老眼 と乱視を眼鏡で矯正している.本稿の筆頭著者本人.. 3.3 実験方法 3.3.1 実験 1:赤色着色単語の誘目性比較 まず,文書中に出現する “赤文字による強調” が,一般 色覚者および色弱者に与える誘目性の差を評価する.その 方法は以下の通りである.. 一般色覚者と P 型色弱者の測定結果を図 4 に示す.本来 は折れ線グラフで描画するべきデータではないが,減衰量 を求める目安として描画している.グラフより,P 型色弱 者は減衰量が 1 段階の時点で成功率の低下が始まっており, 減衰量が 8 段階になったところで成功率がゼロ(=まった く発見できない)になっている.一方,一般色覚者は概ね 減衰量が 9 段階になったところから成功率が下がり始め,. 14 段階でゼロになっている. 両者の発見成功率が下がり始めた点の減衰量の差分 ∆Ll は,9 − 1 = 8 となる.この算定結果を P 型被験者の “色弱 の度合い” と仮定し,実験 2 で適用する減衰量とする.. ( 1 ) 図 2 のような HTML 文書を用意する.この HTML 文書は PHP によって生成され,Web ブラウザで読 み込むとランダムな 1 ヶ所の単語が赤色で着色され. 4.2 結果 2:色弱者の誘目性の再現 実験 2 の結果を図 5 にグラフとして示す.マーカー ■. て表示される. (図 2 では右下部の「支援」の文字が. (実線)とマーカー ●(破線)は図 4 と同じものである.. 16 進数 3 桁(赤,緑,青それぞれ 1 桁)表現の#F00. マーカー ▲があらかじめ減衰量を適用した場合の一般色覚. で着色されている). 者 2 名の発見成功率で,それに沿う点線はそれらの値から. ( 2 ) 被験者は,タブレット PC を用いてこの HTML 文書. 得られた多項式(3 次)近似曲線である.. を見て,最初に発見した着色単語を指でタップする. 発見できない場合は「見つけられない」ボタンを押. 5. 考察. すことでパスできる.. 5.1 赤色着色単語の誘目性比較. ( 3 ) このとき,タップするまでに要した時間を自動で記 録する.. 図 5 に示すように,一般色覚者と比べて P 型被験者は明 らかに発見成功率の低下が早く,赤色着色文字が P 型被験. ( 4 ) 着色単語の R 値の減衰量は図 3 のように試行前に指. 者に与える誘目性は低いと考えられる.一般色覚者は発見. 定する.1 段階ずつ 15 段階まで減衰させ,それぞれ. 成功率の低下が遅く,少々暗い赤色で着色されても問題な. で 10 回ずつ試行する.. く発見できるが,少なくとも今回の P 型被験者 2019101 に. 3.3.2 実験 2:色弱者の誘目性の再現 先行研究 [4][5] では数値指定によって着色単語の赤色を ⓒ 2019 Information Processing Society of Japan. 対しては#FFF の赤色を用いなければ確実な誘目性は期待 できないと考えられる.. 3.
(4) Vol.2019-AAC-9 No.7 2019/3/8. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. の結果を単純に左にシフトしたものを図 5 にマーカー ◆ として描画し,他と同様に多項式(3 次)近似曲線(二点 鎖線)を描画してみたところ,こちらの方が P 型被験者の 近似曲線に近くなることがわかった. この結果から,本稿で提案した測定方法では ∆Ll と ∆Lf の平均をもって “色弱の度合い”とすれば妥当であると考え られる.. 6. まとめと今後の課題 本稿では,一般的な Web コンテンツにおける赤色着色 文字に対する色弱者の被誘目性に着目し,その特性の評価 図 4. 赤色着色単語の誘目性比較. を行なった.その結果を元に色弱者の “色弱の度合い”を求 める手法を考案し,一般色覚者に擬似的に適用することで その妥当性を確認した. 実験 1 では,一般的な白背景/黒文字の Web コンテン ツにおいて,P 型色弱者に対しては赤色着色文字の誘目性 が低いことを確認した. 実験 2 では,実験 1 で結果のグラフから求めた「発見成 功率が下がり始めた点の減衰量の差」と「発見成功率が完 全に 0%になった点の減衰量の差」の平均値を “色弱の度合 い”とし,赤色の減衰量としてあらかじめ適用した状態に することで,一般色覚者と P 型被験者が概ね同様の特性と なることが確認できた. 今後は,複数の色弱者の協力を得て,本稿で考案した “色 弱の度合い”の算定方法についてさらなる検証を進めたい. また,色弱者の中でも個人個人で “色弱の度合い”にばらつ きがあるのかもまだ不確定であるため,実験データの累積 によりその妥当性を検証していきたい.. 図 5 色弱者の誘目性の再現. 謝辞 本研究は JSPS 科研費 JP18K11978 の助成を受け たものです.. 同グラフでは,一般色覚者と P 型被験者の差分として以 下の 2 つが見られる.. • 発見成功率が下がり始めた点の減衰量の差 ∆Ll = 9−1=8 • 発 見 成 功 率 が 完 全 に 0%に な っ た 点 の 減 衰 量 の 差. 参考文献 [1] [2]. ∆Lf = 14 − 8 = 6 今回,実験 2 であらかじめ適用する赤色の減衰量には,. [3]. 前者を採用した.その理由は,図 4 から読み取れるように, 後者の 6 段階を適用したとて一般色覚者は成功率 100%を. [4]. 達成することができると予想されたためである.. 5.2 色弱者の誘目性の再現. [5]. 図 5 に示すように,あらかじめ減衰させた場合の一般色 覚者の発見成功率(マーカー ▲)の多項式(3 次)近似曲. [6]. 線(点線)は,P 型被験者のそれに接近しているが,一致 しているとは言い難い. そこで,前節に挙げた一般色覚者と P 型被験者の 2 つ差. [7]. 神作博: “色と視覚表示” ,人間工学,Vol.4,No.1,pp.7-16, 1968. 重田和広,中山実,清水康敬:立体ディスプレイを用いた 文字提示の効果,電子情報通信学会論文誌,Vo1.J82-A, No.1,pp.158-167,1999. 成井智祐,中山実:着色文字の色情報が語句探索時間に与 える効果の一検討,日本教育工学会論文誌,Vol.35,No.1, pp.95-98,2011. 永田和生,坂本奨馬:Web コンテンツにおける赤文字の誘 目性に関する研究,信学技報,Vol.116,No.519,pp.87-90, 2017. 永田和生:Web コンテンツにおける赤文字の誘目性に関 する研究-色覚特性の度合いが可変なエミュレーター,信 学技報,Vol.117,No.502,pp.35-38,2018. 日 本 眼 科 学 会:「 目 の 病 気 ,先 天 色 覚 異 常 」, http://www.nichigan.or.jp/public/disease/ hoka senten.jsp(閲覧日:2019 年 2 月 5 日) 扶 桑 プ レ シ ジ ョ ン:パ ネ ル D-15 テ ス ト , https://itunes.apple.com/jp/app/panerud-15tesuto/ id406108475?mt=8. 分 ∆Ll と ∆Lf の平均 (8 + 6)/2 = 7 を用いて一般色覚者 ⓒ 2019 Information Processing Society of Japan. 4.
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