• 検索結果がありません。

[Risk Spreading and Work Sharing in Philippine Rice-farming Communities]

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "[Risk Spreading and Work Sharing in Philippine Rice-farming Communities]"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

乗 南アジア研究 27巻3号 1989年12月

フィリピン米作農村 におけ る危険分散 と

ワー ク ・シェア リング

博 *

Ri

s

kSpr

e

adi

ngandWor

kShar

i

ngi

nPhi

l

i

ppl

ne

Ri

c

e

-

f

armi

ngCo

m

muni

t

i

es

T oRIKAIYukihiro*

The focus or this paper is on the wor

k-sharinginPhilipplnerice-farmingcommunities.

In these villages,farmers depend on hired

laborprovidedbylandless,otherfarmersand

theirfamilies. Thisimpliesthatfarmersshare

agrarian work with each otherlespecially ln

transplantingandharvesting. Idefinemutual

employmentaswork-Sharing byfarmersand

their families under hired labor contracts.

Such contractsare accompanied by income

-sharing,becausepaymentincludesashareor

theharvestedyield,normallyonesixthtoone

eighth.

Whydofarmershireeach otherP

Oneex-は じ め に 東 南 アジア農村 の特徴 の一つに農家が農 作 業 を雇用労働に依存 してい る ことが あげ られ る。 これは ,農村 におけ る農業労働者 の重要 性 と結 び付 くが ,労働供給源 には農業労働者 世 帯 (土地 な し世帯) のみ な らず ,農家 (世 帯 主 ,家族員) 自体 も含 まれ てい る。 この点 に着 目し,本稿 は, フ ィ リピン米作農村を対 象 と して ,農家が相互 に雇用 しあ う形態 を相 互 雇用 と名づ け ,農家 の雇用労働依存 の存在 *東京大学経済学部 (日本学術振興会特別研究員);

FacultyofEconomics,UniversltyOfTokyo

,

7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113,Japan

planation isthe uncertainty oryieldsarlSlng

from disparitiesin theconditionof丘elds.For

example,lowland isprone to flooding,while

upland isproneto drought. Mutualemploy一

ment implies thatthefarmersharvestfrom

bothtypeor丘eldandthelow oflargenumbers

clearly appliesin thiscase. So,thefarmers

hired eachother share riskand reduce vari_

anceofthegrossincomecomparedwiththator

Yield. And thefarmersdon'thaveaproblem

orthemoralhazard sincethey monitoreach

otherin transplanting and harvesting・ Ris

k-sharingand incentiveare compatible in

mu-tualemploymentsystem.

とそ の役割を再検討す る ことを課題 と してい る。 特に ,農家 の相互雇用は, 自己経 営地 に おけ る就業 時 間を抑制 し,雇用機会を他 の農 家に分与 してい る とい う意味で ,農家 間の ワ ー ク ・シ ェア リングと解釈 で き る こ と を 示 す。 そ して,従来 の議論 を展望 した うえで,収 量変動 の危険 に着 目した経済分析を展開 し, 農家 の主体的 ,合理的 な選択 に よって ,農村 に生存保障 の機構 を 内包 した コ ミュニテ ィが 成 立す る ことを 明 らか にす る。 Ⅰ フ ィ リピン米 作農村 の実情

1

.農家 の雇用労働依存 1980年 代 までの フ ィ リピ.ソ米作農村 の実態

(2)

東 南 アジア研究 27巻3号 調査 に よって ,農 家 (自作農家 ・小 作農 家) が 雇用労 働を利 用 して農 作業 を行 な ってい る こ とが 明 らか に な って い る。 米作農 家 の雇用 労働依存 を 農作業 別 に調べ て み よ う。 梅原

[

1

9

7

2

b:

1

1蓑 ] に よ る ラ グナ 州

(

La

g

una

Pr

ovi

nc

e

)

の農村 調査 に よれ ば ,定 額 小作農 家 に おい て雇用労 働 に依存す る と解 答 した割 合 は ,経 営 地

3

- クタ ール未満 の農 家

5

9

戸 ,

3

- クタール以上 の農 家

2

1

戸 の うち耕起 ・整 地 でそれ ぞれ

2

7

.

1

,5

7

.1

パ ーセ ン ト,田植 え で

7

2

.

9

,

8

5

.

7

パ ーセ ン ト,刈取 りで

4

7

.

5

, 302

9

0

.

0

パ ーセ ン ト,運搬 で

5

0

.

8

,8

5

.

7

パ ーセ ン トとな る。 したが って , この事 例では経 営 規 模が 大 きいほ ど雇 用労 働依存度 は高 くな って い る。 しか し,1- クタール未 満 の零 細農 家 8戸 の調査 をみ て も,雇用労 働 に依 存す る と 答 え る農 家が少 な くない こ とは注 目す るに値 す る。す なわ ち ,耕起 ・整地 で

1

2

.

5

パ -セ ン ト,田植 えで

6

2

.

5

パ ーセ ン ト,刈取 りと運 搬 で

2

5

.

0

パ ーセ ン トの零 細農家が 雇用労働 に 依 存 してい るので あ る。 速 水他

[

Ha

y

a

mi

e

La

l

.

1

9

7

8

a;1

9

7

8

b]

表 1 農家の労働投入 (単位 :入 日/ha,(%)) 農 作 業 大 農 家 小 鼻 家 耕起 ・整地 ; 自家労働 交換労働 雇用労働 田植 え ; 自家労働 交換労働 雇用労働 除 草 ; 自家労働 交換労働 雇用労働 収 穫 ; 自家労働 交換労働 雇用労働 その他 ; 自家労働 交換労働 雇用労働 14.6(100% ) 11.3(100% ) 8.0(54.8) 5.7(50.4) 1.3(8.9) 0.9(8.0) 5.3(36.3) 4.7(41.6) 13.7(100% ) 9.7(loo劣 ) 5.8(42.8) 2.2(22.7) 1.5(10.5) 1.5(15.5) 6.4(46.7) 6.0(61.9) 35.4(100%) 14.7(100% ) 18.8(53.1) 5.1(34.7) 3.8(10.7) 1.2(8.2) 12.8(36.2) 8.4(57.I) 35.8(100% ) 23.4(loo劣 ) 7.7(21.5) 4.4(18.8) 0.4(1.1) 0( 0) 27.7(75.4) 19.0(81.2) 8.2(100%) 9.5(100% ) 4.5(54.9) 6.9(72.6) 0.5(6.1) 0.5(5.3) 3.2(39.0) 2.1(22.1) ll.1(100% ) 8.0(100% ) 2.8(25.2) 3.1(38.8) 1.4(12.6) 4.7(58.8) 6.9(62.2) 0

.

2(2.5) ll.2(100%) 11.5(100% ) 1.8(16.1) 4.0(34.8) 3.9(34.8) 0.I(8.7) 5.5(49.1) 7.4(64.3) 20.9(100% ) 12.0(100% ) 10.7(51.2) 5.9(49.2) 2.3(ll.0) 0( 0) 7.9(37.8) 6.1(50.8) 33.3(loo劣 ) 26.0(100% ) 12.6(37.8) 6.6(25.4) 0

(

0) 0

(

0) 20.7(62.2) 19.4(74.6) 17.9(100% ) 17.4(100% ) 14.5(81.0) 14.7(84.5)

o

(

o) 0.4(2.3) 3.4(19.0) 2.3(13.2) 合 計 ; 自家労働 交換労働 雇用労働 107.7(100% ) 68.6(100% ) 44.8(41.6) 24.3(35.4) 7.5(7.0) 4.1(6.0) 55.4(51.4) 40.2(58.6) 94.4(100% ) 74.9(100% ) 42.4(44.9) 34.3(45.8) 7.6(8.1) 5.2(6.9) 44.4(47.0) 35.4(47.3) 注)1975年雨期のラグナ州におけ る調査で耕地 2ha以上の大農家 4戸, 2ba未 満 の小農家3戸の平均 。

(3)

鳥飼 :フイ1)ビン米作農村における危険分散とワ-ク・5'エア1)ング 蓑 2 農作業別の労働投入 と雇用労働依存度 1966 1970 1974 1979 1982 耕地面積 単位収量 耕 起 田 植 え 管 理 収 穫 監 視 2.3ha 2.5ha 44.6カバ ン 62.5カバ ン 14.8/6.1

%

11.3/14.6

%

22.5/77.1 23.9/71.7 5.0/6.3 12.0/14.0 17.7/87.4 20.4/76.8

2.5ha 2.2ha 1.9ha 47.8カバ ン 90.6カバ ン 100.2カバ ン 9.7/38.0

%

8.2/34.0

%

9.2/48.1% 28.8/73.9 30.5/64.2 24.9/82.5 16.4/38.4 10.8/25.4 7.2/44.2 36.0/89.4 28.3/89.5 31.1/86.1 6.0 8.3 合 計 160.0/56.2 67.5/53.8 90.9/67.5 77.8/63.3 80.7/64.0 労働費用 15.4

%

15.8

%

21.0% 22.4

%

20.2

%

荏)IRRI,中部ル ソン環状調査で1966年か ら1982年 まで継続調査 されている農家26戸の平均につ いて, 耕地面礁 (ha),単位収量 (カバ ン), 各農作業別の延べ労働時間 (人目/ha), 労働費 用 (収量に対する雇用労働費用の比率)を示す。

出所)IRRI,CentralLuzonLoopSuyvey 1966,

は , ラ グナ州 に お け る95戸 か らな る農 村 を , 経 営 地2- クタ ール 以上 の大 農 家 とそ れ 未 満 の小 農 家 , さ らに経 営 地 を ほ とん ど保 有 しな い 農 業 労 働 者 世 帯 とに三 分 して標 本 調 査 を 行 な って い る。 そ れ を 自己 経 営 地 に 対 す る労 働 投 入 源 泉 の観 点 か ら整 理 す れ ば ,表 1の よ う に 大 農 家 ,小 農 家 の雇 用 労 働 依 存 度 は お の お の51.4-58.6,47.0-47.3パ ーセ ン トとな って お り,農 作 業 別 で は と もに 収 穫 で の依 存 度 が 最 も高 い。 そ して ,経 営 規 模 が 大 きい ほ ど雇 用 労 働 依 存 度 が 高 い が ,そ れ は経 営 地 の格 差 に 比 して小 さい。 さ らに 注 目す べ き こ とは , 農 家 が 自己 経 営 地 に 雇 用 労 働 を 投 入す る一 方 で , 自家 労 働 を 他 人 の保 有 す る農 地 に投 入 し て い る こ と で あ る。 総 労 働 日数 の うち 大 農 家 ,小 農 家 は そ れ ぞれ32.4, 16.8パ ー セ ン ト を 雇 用 労 働 と して非 経 営 地 に投 入 して い る。1) これ には 田植 え ,収 穫 に お い て 農 家 の世 帯 主 も し くは 家 族 員 に よる交 換 労 働 と作 業 後 に現 金 あ るい は 現 物 で支 払 い を 受 け る雇 用 労 働 が 含 まれ て い る。 そ こで ,雇 用 労 働 に つ い て み 1) HayamieLal.[1978a:table3]には,農家 が村内で農業労働者 として雇用 された労働 日数 が記載されている。 1970,1974,1979,1982より作成。 る と,農 家 は需 要 者 で あ る と同時 に供 給 者 で もあ り,相 互 に 雇 用 して い るので あ って , こ の よ うに農 家 が 雇 用 しあ う形 態 を 相 互 雇 用 と 名 づ け る こ とが で き よ う。2)

さ らに,IRRI (ⅠnternationalRic

eRe-search lnstitute;国 際 稲 作 研 究 所 ) の 中部

ル ソ ン環 状 調 査 (Central Lu2:On Loop

Survey)は ,1966-82年 の 間 に5回 行 わ れ て い るが ,そ の全 て に 含 まれ て い る小 作 農 家 , 自作 農 家 は ,中部 ル ソ ンと南 部 タ ガ ロ グに合 計26戸 で あ る。 そ こか ら農 家 の労 働 投 入 の デ ー タを 時 系 列 的 に 整 理す る と ,表

2

が 得 られ る。 す なわ ち ,農 家 の雇 用 労 働 依 存 度 は 田植 え ,収 穫 で高 く,平 均64.2-89.5パ ーセ ン ト, 全 農 作 業 で も53.8-67.5パ ーセ ン トとな って い る。 高 橋 [1965:50-54]は, ブ ラ カ ソ (Bul a-can) 州 の 1村 落 の に お い て , カ ビ シ リア (kabisilia)と呼 ばれ る親 方 に 率 い られ た 労 働 者 集 団 が

2

組 形 成 され ,そ れ が 田植 えを請 け 2) 農家の雇用労働は,農家 と農業労働者世帯が供 給 しているが,本稿では,農家の相互雇用に関 してのみ分析を進め,農業労働者世帯について は別の機会に譲る。 303

(4)

東 南 ア ジア研 究 27巻3号 表3 小作農家の費用構成割合 と農業所得 構 成 項 目 (労働 日数入 日/ha) 依存度 (雇用労働% ) (ペ ソ/賃 金 率人 口) 労働費用 ; 耕起 ・整地 田

え 除 草 施肥・農薬 畔 の補 修 収 穫 そ の 他 小作料 ; 資本費用 ; 経常費用 ; 小作取分 ; 相互雇用の収入 小作農家の所得 5 1 1 8 9 4 0 0 1 ■ヽ ) 2 7 4 3 1 1 3 3 5 7 4 9 1 5 9 3 2 7 4 9 0 6 9 5 1 2 8 12.1 8.0 8.0 9.I 9.I 10.3-16.2 1 9 -L' LLJ 6 2 L 3 0 9 0 ヽ -・-ノ 7 4 0 3 6 9 1 8 2 0 8 8 2 1 4 4 荏)1977年乾期の ラグナ州の農家53戸の平均。ただ し,非農業活動に よる 所得は控除 してある。 また,田植 えには苗代準備を含む。 相互雇用の収入は農家の農業賃金所得か ら推計。 費用構成割合は籾収量に対す る比率。 出所)菊池 [1979;第4,18,24表] 負 うこ とを 指 摘 して い る。 この労 働 者 集 団 は 農 家 と非 農 家 の家 族 員 が 中心 とな った

3

-1

0

人 の労 働 者 集 団 で ,

3

週 間 ほ ど田植 えを請 け 負 うか ら ,雇 用 労 働 を 供 給 して い る とい え る。3) そ して , この よ うな労 働 者 集 団 は ,他 に も近 隣

2- 6

キ ロ メー トル の村 三 つ に

1-3

組 あ って ,主 に各 村 内 の 田植 えを 請 け 負 うが ,他 の村 へ も出か け て 田植 えに従 事 す る とい う。 また ,収 穫 に お い て も ,や は り

1

0

人 ほ どの労 働 者 集 団教 組 が 従 事 す る が , そ の 成 員 は 農 家 ,非 農 家 の世 帯 主 を 含 む 成 年 男子 が 主 体 で あ る。 そ して ,労 働 - の支 払 い形 態 は ,田植 え で は現 金 に よる請 負 制 ,収 穫 で は 収 穫 面 積 や 収 穫 量 の

6

分 の 1を 基 準 と した 現 物 の 刈分 制 とな って い る。 つ ま り,農 家 の相 互 雇 用 は , 3)農家が親方を訪ねて 日時を指定 して作業を依頼 す ると,親方は 日時を調整 し適当な人数を揃え て出か けるとい う。また,親方 自身が作業に従 事すれば,労働者 としての支払い も受ける [高 橋 1965:56-57

]

304 の小鼻家の欄 より作成。 労 働 交 換 とは 異 な り,雇 用 労 働 と して支 払 い を 伴 って い る こ とに 特 徴 が あ る とい え る。

2.

農 家 所 得 ラ グナ州 に おい て ,菊 池

[1

97

9]

は ,定 額 小 作 農 家42戸 を 中心 とす る農 家53戸 を 調 査 し た が ,そ こか ら小 作取 分 は ,総 収 量 の

4

0.

3

パ ー セ ン トと推 計 で き る (表

3

参 照)。そ して , 農 家 が 他 の農 家 に 雇 用 され て , 総 収 量 の

8

6

パ ーセ ン トに 当た る収 入 を 得 て い るか ら , こ れ が 相 互 雇 用 に よる 収 入 とみ なせ る。4) した が って, 米作 関連 に 限 った 所 得 は小 作 取 分 と 相 互 雇 用 の収 入 の和 で ,総 収 量 の

4

8.

9

パ ーセ ン トと推 計 で き る。 この所 得 水 準 は ,籾 に 換 4) 1977年乾期作では,概 1カバ ン当た り48ペ ソ, 単位収量は88.5カバ ンとされるか ら,4,248ペ ソに 相当す る。 そ して, 雨期作 の単位収量 は 57.7カバ ン,農家の年間収穫面債は2.8- ク タ ールであるか ら,年間総収量は9,824ペ ソと, 農家の農業賃金所得848ペ ソは,その8.6% と推 計できる [菊池 1979:91]。

(5)

鳥飼 :フィ1)ピン米作農村における危険分散とワ-ク・シェア.)ング 算 して100.1カバ ン(cavan- 1カバ ンは44キ ログラム) で あ る。 しか し,1980年 農業 セ ン サ スに よれ ば , フ ィ リピン全体 の 単位収量 は , この事 例 の6割 の43.0カバ ン,収穫 面積 は3- クタ-ルほ どで あ るか ら,平均的 な小 作農家 の農業所 得 を総収量 の5割 とす れ ば , 年64.5カバ ンと推定 で きる。 ここで ,健 康 的 な生活 に必要 とされ る栄養 価 (1人 l日当た り2000カ ロ リー) は ,年 間 で籾6・91カバ ンに相 当す る。5)そ こで,5人家 族 の平均 的農家 の場合 ,平均 的小 作農家 の農 業所 得 では , この栄養価 を満 た した後 ,エ ン ゲル係数が54パ -セ ン トに達 して しま う。 他 方 , 自作農家 の 場 合 , 小 作農家 と経営 地面 積 , 耕作方法 に大差 が な け れ ば 定額 小作料 (地価 を基 準 に法定小 作料が 決 ま ってい るが 総収量 に換 算 して20パ -セ ン トに相 当) の分 だけ小作 農家 よ りも所 得が高 くな るが ,依 然 と して エ ンゲル係数 は45パ ーセ ン トに な り, やは り十 分 な水準 とはい えない。 しか も,以 上 は平均 的 な単位収量 に基づ く農業所 得で あ って ,収量 が変動す る よ うな状況 では , よ り 所 得 水準が低下す る危険 が あ る。 3.収量変動 マ クロ的 な公式統 計か らも収量変動 の様子 は窺 え るので あ るが,6)同 じこ とが 筆者 の中 部 ル ソンの個別農家 に対す る聞取 り調査 で も 確認 され て い る。 表4ほ1976-86年 の期 間中 で どの程 度 の 収量変動 が あ った か を

I

RRI

の中部 ル ソン環 状 調査 の対 象でかつ表2に含 まれ る農家22戸を 訪問 して調査 した もので あ 5) 長谷山 [1979:28-31]より粗 1グラム当た り, 2.4カロリーとして算出。 6) 作物家畜統計を 使って, 1948-59年の フィリピ ン全国,地方 (Region),州別に単位収量の分 散を計測すると,標本数が多 くなるこの順に大 きな値 となってい く。また,収蔭面積 と単位収 量の相関を調 べ て も,正の時, 負の時が半々 で, 1農地当た りの収量は,激 しく変動 してい ることが窺える。詳 しくほ,鳥飼 [1986]を参 照。 る。7) これ らの農家 は図 1の よ うに 中部 ル ソ ンを 中心 に分布 し,高収量 品種 を採 用 してい る。 しか し,農家 1戸 当た りの籾 収量 の最小 値 は , 最大値 の9.4-76.9パ ーセ ン ト, 平均 41.3パ ーセ ン トと半分 に も達 してい ない. ま た ,単位 収量 の年 度格 差 も大 き く,最小値 は 最 大値 の9.4-69.2パ ーセ ン ト,平均42.8パ ー セ ン トでや は り大 き く減少 してい る。 さ らに ,同 じ年 で も豊作 ,不 作は農家 に よ って異 な る。 つ ま り,同 じ天候 で も農地 のお かれ た条件- 例 えば ,用 水を得 る難 易差 , 病 虫害 の被 害 の程度 ,耕作時期 ,稲 の品種 な ど- が異 な り,あ る農地 は洪 水に ,別 の農 地 は 干ばつ に あいやす い とい うよ うに ,農家 1戸 当た りの収量 は ,同 じ年 で あ って も農地 ご とに 自然状態 か ら異 な った影 響を受 け る。 収量 の変動 が全 て の農家 で一様 とは限 らない ので あ る。 す なわ ち ,総収量が最大値 ,最小 値 を示 した時は ,おのおの農家 ごとの豊作 , 不 作 の時期 とな るが ,それが農家 ご とに異 な ってい る。 表4をみれ ば ,全体 と して は1983,1986年 が 豊作 の年 で,1977,1978,1980年 は不 作 の 年 で あ る。 しか し, 個 々の 農家 の 収量が最 大 ,最 小 とな った年 は ,図 1の よ うに分布す る農家 につ い て も全体 の豊作 ,不 作 の年 に一 致 していない場合 が少 な くない。 例 えば ,農 家番 号119と239,205と216は豊作 と不 作が逆 転 して お り,収量変動 の相関が 負 の場 合 で あ る。 特 に ,後者2農家 は 同 じ州に あ って相 関 が負にな ってい るので あ る。 したが って ,農 家 1戸 当た りの収量 は年 に よって大 きな格差 が あ るのみ な らず ,そ の変動 の相関は完全 で はな く, 負 の場 合 も あ る こ とが 明 らか に な る。 ところで,この よ うな収量 変動 の要 因には, 7)調査は, 1986年9月に IRRIのアシスタント 1名と1966-82年の5回の中部ルソン環状調査 に継続して含まれている農家26戸の うち22戸に 聞取 りを行なった結果である。

(6)

東南アジア研究 27巻3号

表4 収 量 変 動

荏)農家番号は IRRIの CentralLuzon LoopSurveyに対応 した州別の調査農家を さ している。

100番台 ;Bulacan 州

200番 台 ;NuevaEcija州

300番台 ;Pangasinan州

番号下の略号は農家の土地保有状態を指す。

ST;ShareTenant,分益小作農

LH;LeaseHolder,定額小作農

CLT;CertificateofLandTransferHolder,土地証券保有者 (将来の 自作農)

00 ;Owened Operator,自作農 1976-86年における雨期の総収量の最大値,最小値お よびその時の耕地面積を示す。 概の総収量 と単位収量の単位は カノミン (1カバ ン-44kg)。単位収量 とは耕地面積 1- クタール当た りの概収量で,総収量が最大値,最小値を示 した年度について計算 した。 相互雇用率 とは雇用労働に 占め る農家労働の比率。 出所)1987年9月の筆者の聞取 り調査に よる。 所 与 と もい え る 自然 状 態 が まず 第 一 に あ げ ら れ る。 とい うの は 収 量 の 減 少 の 原 因 と して , 台 風 に よる洪 水 (8例 ),病 害 (6例 ),干 ば つ (5例 ) を あ げ る農 家 が ほ とん ど とな って い るか らで あ る。 ま た ,実 際 に

4

9

戸 の 農 家 か らな る- 農 村 に お い て ,収 量 の 横 断 的 な 分 布 を 明 らか に した 梅 原

[1

9

8

0

:第

9

,5

7

-

5

8]

に よれ ば ,作 付 面 積 l- ク タ ー ル 当 た りの 収 量 は ,

1

0

0

カバ ン以 上 の 農 家 が

1

6

.

3

パ ー セ ソ 306 ト,

6

0

-1

0

0

カバ ン未 満 が

3

8.

8

パ ー セ ン ト,

3

0

-

6

0

カバ ン未 満 が

3

4.

7

パ - セ ン ト

,3

0

カバ ン未 満 が

1

0

.

2

パ ー セ ン トとな って お り,範 囲 は

1

0

2

カバ ンに 達 して い る。 そ して ,不 作 と な った 農 家 の 原 田 と して は ,病 虫 害 ,洪 水 , 台 風 に よ る 自然 災 害 が 指 摘 され て い る。 さ らに , 菊 池

[

1

9

7

8

:第

8

表 ;

1

97

9

:第

5

表 ] も年 々な い し農 家 間 の 単 位 収 量 の差 異 が 大 きい こ とを確 認 し, 高 橋

[1

9

6

5:52

] は ,

(7)

鳥飼 :フィ リピン米作島村における危険分散 とワ-ク ・シェア .)ング

Poz:orrl一bio PANGASINAN ′′ ヽ一一ヽ l l \

レ了

へー

一㌧ I

l

一 ノ 、 、、 ′/ ヽ

ll -1 I Lupo

l

266,267

I

/ 一

一㌧

I

l

S&nJoseCity

262 NUEVA ECUA Bong▲bon 253,255 TAhye& 239,242

,

245.248 J

Jl

J

t ヽー Ⅰゝlly&n 241 ∫ it C

CAb&nAtuanCity232,233, sn.Le。nard 23号,240

216 J

GaparL

'

一一ヽ_一⊥ ノ205

S&nMipel 114,115.116, 117,119 BULACAN ′--

/

1

-1 1

J

t

t

′′

/

RISAL ヽ

、/ ーヽ LAGUNA ′′ \■=コI=i′/-ノ 図1 中部 ル ソン環状調査におけ る農家の分布 荏 )市町村名の下 の番号は, 1966-82年間の5回の中部 ル ソン環状調査に全て含 まれ る農家22戸 の農家番号。 いずれ も太線 で示 された国道沿いにあ る。 出所)Kikuchig

Jd

J・[1979:fig.1]および表4 55カバ ンあ った収量が翌年 には鼠 のため に4 カバ ンに激減 した例 を あげ ,単 位収量 が年 に よって20-50カバ ン変動す る ことは珍 し くな い とい う。そ して ,- - ト・ウ ィク- ム[Herdt andWickham 1978:22-23]は , フ ィ リピ ンの非 潅 瀧 田に おけ る収量が潜在 的 な収量 よ より作成。 り

7

5

パ ーセ ン トも低 くな る要 田を分析 して次 の よ うに結論 してい る。この収量格 差 の うち, 23パ ーセ ン トは水利管理 の欠如,19パ ーセ ン トは 日照量 な どの季節 的要 田,19パ ーセ ン ト は天候 と病 虫害 の複合要 因,17パ ーセ ン トが 肥料等 の生産要素,22パ ーセ ン トが技 術 そ の

(8)

東 南 アジ ア研究 27巻3号 他 で説 明で きる とい う。 つ ま り,収量格 差 の 少 な くとも38パ ーセ ン トが 自然状態 に よって 説 明で きるので あ る。 つ ま り, 自然状 態 は農地 の収量 に異 な った 影響を与 え ,農家 ご との横 断的 な収量格差を もた らす 。 しか し, この ことは逆 に広域 に あ る農地 の収量 を平均す る と,当該年 で も不 作 と豊作が相 殺 され ,収量変動 は農家 1戸につ い て よ りも平準化 され るこ とを意 味す る。 換 言すれ ば ,標 本農家数 を増 加す るほ ど,そ の 平均収量 の分 散 は小 さ くな る傾 向に あ り,大 数 の法則が あては ま る とい え る。 Ⅱ 展 望 フ ィ リピンの米作農 家が農 作業 の多 くを雇 用労 働 に依 存 し,そ の少 なか らぬ部分 が相互 雇用 に よってい る ことが 明 らか にな ったが , この点 につ い て ,従 来大別 して二つ の説 明が 行われ て きた。 それ は ,農家 の個 別経営 の範 囲で理 解を試 み る立場 と地 主 ・小 作 関係 をふ まえて ,農村 の コ ミュニテ ィの共 同利益 を最 大化す る観 点か ら説 明 され るべ きで あ る とす る立場 で あ る。 以下 では ,特に フ ィ リピン米作農 家 の相互 雇用 につ いて ,個 別経 営 , コ ミュニテ ィの二 つ の観 点か ら,具体 的 に どの よ うに説 明 され てい るか を順 に 展望 し,そ こで の問題 点 を指 摘 してみ よ う。 1.農家 の 自家労 働不 足- 個 別経営 オ ッペ ン フ ェル ド他 [Oppenfeldetal. 1957:60-61]は , 農家 の 雇用労働依存が 田 植 え , 収穫 とい う農 繁期 にみ ら れ る こ とか ら, この時に労 働需 要 が ピー クをむか え ,農 家 の 自家労働 のみ では農作業 を完 了で きない と考 えてい る。 したが って ,一 時的 な農家 の 自家労働不 足を補 充す るために ,雇用労働が 投 入 され る とい うので あ る。 この よ うに ,農 3鴨 家を雇用労働 の需 要者 と して の側面 のみに注 目し,そ の個 別経営 におけ る 自家労働 の不 足 に雇用労 働依存 の理 由を求 め る立場 に あ る も の とし て , 隅 谷 [1962:59], ジ ョン ソン他

Uohnsonelal.1968],パ ー カー ・コル ドバ

[Barkerand Cordova 1978],グ リフ ィン

[Griffin 1974],プ ライス ・パ ー カー[Price and Barker 1978]な どが あげ られ る。

た しか に ,田植 え ,収穫 は他 の農作業 に比 較 し, 高 い労働 集約度が 求 め られ る。 加 え て, 田植 えは天水 田では雨期 とともに一斉 に 開始 したい で あろ うし,潅瀧 田で も流水調節 か ら短期 間に終 了す る ことが望 まれ る。 さ ら に ,収穫 は成熟 時期 に集 中 し,刈取 りの後 に 粗 を雨 に さ ら した り,害虫 ,鼠な どの被 害に あわず に脱穀 をす ま せ る必要 が あ る。 つ ま り, 作業 の集 中 と迅速 性が 求 め られ る 田植 え ,収穫 に おいてほ ,農家 の 自家労 働が不 足 す る こ とが十 分 に予想で きるので あ る。8) しか し, この よ うな個 別経営 の範 囲に説 明 を限定 した議論 は ,農家が非農家 (農業 労 働 者世 帯) を雇用す る場 合や労 働交換 につい て は成 立す る可能 性が あ るが ,相互 雇用 につ い ては 問題が残 る。9)なぜ な らば,相互 雇用 は農 家 の世帯 主 ,家族 員が労働供給 をす るので あ るか ら,農家全体 と して 自家労 働 を上 回 る労 働投 入は で きないか らで あ る。 つ ま り,相互 雇用 に よっては ,農家 の投 入す る平均 的労働 が 自家 労働を上 回 る こ とは不 可能 で ,農家 全 体 に 自家労 働が不 足 してい て も,それ を補 充 す る ことは 同一 作業 が時 間的 にず れ てい ない 限 りで きない のであ る。 そ こで ,農 家全体 と 8) 前述 した ように,通水時期,籾の成熟時期など の関係で,農作業がまだできない農家,あるい は終了してしまった農家の自家労働を雇用する ことによって,一時的な労働投入量の増加が可 能である。 しか し,労働交換ではなく,雇用労 働に依存 していることは後述する相互雇用の利 益からでないと説明が困難である。 9) 鳥飼 [1986]ほ,小作権の不安定に着 目して, 農家が農業労働者世帯を雇用することを説明し ている。

(9)

鳥飼 :フィ リピン米 作農 村 にお け る危 険 分 散 とワ-ク ・シェ ア 1)ソグ して の 自家労 働不足 を補 充す るため には ,農 家 以外か らの労 働供給 に頼 らなけれ ばな らな い。 さ らに , この説 は , フ ィ リピンに おいて は 日本 の ユイの よ うな交換労働 では な く,支 払 いを伴 った雇用労 働 に依存 して い る ことを 積極 的に説 明す る ものでは ない。 もっ とも,田植 え ,収穫 とい う農 作業 を農 家 の 自家労 働 で賄 えな い とす る主張 自体 に も 疑 問が ないわ け では ない。 とい うのは ,前 述 した よ うに ,大農家 のみ な らず ,経 営 地

1

-クタール以下 の零 細農家 で さえ も 自己経営 地 に雇用労働 を投 入 して い るか らで あ る。 零 細 農家 の 自家労 働 が 不 足 す る ケースは稀 で あ り,個 別 行動 の観点か らの理解 には この点 に も問題が残 る と思われ る。 逆 に ,平 均 的農家 につ いて も田植 え ,収穫 の時期 に 自家労 働を最大 限に投 入 していない ことを示 唆す る調査報告 も少 な くない。 高橋 [1965:95]は労 働者集 団 に よって 田植 えが 行われ てい る一方 で ,農 村 内には遊 休状態 に おかれ た者 が あ る とい う。 そ して ,労 働 者集 団 も

2

3

日間 の 田植 えの期 間中 ,半 日ほ ど しか 働か なか った 日数 が10日間 と,労 働 日数 の4 割 以上 もあ る ことか ら,農繁期 とい って も労 働集約度 は それ ほ ど高 くない と考 え られ る。 また , 自己経 営 地 に対す る 自家労働投 入は , ほ とん どが世 帯主 に よって行われ てい るが , そ こ で の 田植 え , 収穫 に 世 帯主 は従 事 しな い。 そ の一方 で ,世 帯主 は他 の農家 の経 営地 へは家族 員 とともに 出か け ,田植 えや 収穫 に 従 事す るので あ る。 つ ま り,農作業 の種類や 自己経 営地か 否か に よって , 自家労働 と雇用 労 働 を 区別 して投 入 して い る。 したが って , 零 細 農家 と い え ど も雇用労 働 に依 存 す る反 面 , 自己経 営 地 で は 自家労 働 の投 入を抑 制 し てい るので あ る。10) 10) 「季節的には遇小農においても雇用労働力に依 存する反面,家族労働力をも経営内で不完全に しか燃焼することができない」[高橋 1965:93]。 他 に高 橋 [1973:31]参照。 そ して , 梅 原 [1967:186-187]も ラグナ 州の調査 で ,世帯 主 は 自己経営 地 で の田植 え には 当該 農家 の世帯主 は参加 せず に田植 えを 見守 る程 度 で あ る と してい る。 ここで も農家 は 自己 経営 地 - の 自家労 働 の投 入を抑 制 し, 遊 休状態 に おいた うえで ,相 互 雇用 を行 な っ てい る ことが窺 え るので あ る。 したが って , 農家 の相互 雇用 は , 自己経 営地 に おけ る就 業 時 間を抑 制 して ,雇用 機会を他 の農家 に分 与 す る とい う意味 で ,農家 間 の ワー ク ・シ ェア リングとみ.なす ことが で き よ う。 ところで , プ ラ イ ス ・パ ー カ ー [1978: f ig.6]に よれ ば , 農家 の 自己経営 地 - の 自 家労 働投 入は

1

週 間 当た りの延 べ 労働 時 間で は か って, 1,200時 間以上 ,最高 1,400時 間 を

7

週 間連続 で除草 時 に投 入 してい る。 しか し,収 穫時 では 自家労 働 は 1,000-1,200時 間 の週が4週間, 残 りの3週 間は650-950時 間 にす ぎない。こつま り,収穫時 の 1週 間 当た り の 自家 労働投 入は除草 時 の46.4-87.5パ ーセ ン トに とどま ってい る ことが 明 らか に な る。 したが って , この事 例 では雇用労 働依存 度が 55パ ーセ ン トの 収穫 に お け る 自家労働投 入 は ,依存 度が5パ -セ ン トの除草 時 よ りも低 く抑制 され てい るので あ る。 以上 か ら,次 の4点が 明 らか に な る。 第 1 に ,農 家 の相互 雇用 に よって も作 業 の時 間的 なずれ が ない限 り農家 の 自家労働 を上 回 る労 働投 入は不 可能 な こと。 第2に,労 働交換 で は な く,支払 いを伴 った雇用労働 が主 と して ワー ク ・シ ェア リングと して投 入 され てい る こ と。 第

3

に ,農繁 期 に農家 の 自家労 働が不 足す る と して も,それ は 自己経 営 地 の大 きい 農家 に限 られ るが ,零 細農家 で も田植 えや収 穫 を雇用労働 に依存 してい る こと。 第

4

に, 田植 え ,収穫 とい った農繁期 で さえ も農家 の 自家労 働 の 自己経 営 地 - の投 入は抑制 され , ワー ク ・シ ェア リングとな ってい る こと。 つ ま り,農家 の 自家労 働不足 に雇用 労働依存 の

(10)

東 南 アジア研究 27巻3号 理 由を求め る立場 では ,上記 の4点を説 明で きない とい う問題が残 るので あ る。 したが っ て ,農家 の個 別経営 の内部 に視 野を限 るだ け で な く,他 の村 民 との共 同行 動 に も分 析範 囲 を 広げ ,農家 に とって新 た な る利益 を見つ け る必要 が あ ろ う。

2.

地 主 ・小作 関係- コ ミュニテ ィ 高 橋

[

1

9

6

5:

9

6

-

1

2

4

]

に よれ ば ,地 主 に 負 債 を 負 ってい る小 作農家 に とっては ,小作取 分 を増 加す る ことが ,必ず しも所 得 の向上 に つ なが らない。 とい うのは ,小作農家 が , 自 己経 営地 で の収 量 を高 め て小 作取分 を増 加 さ せ た と して も,地 主- の負債 返済分 と して , そ の多 くが持 ち去 られ て しま うか らで あ る。 しか し,地 主は所 有地 以外か らの小 作農 家 の 所 得 には手をつ け ないか ら,小 作農家 は 自己 経 営地 - の 自家労 働投 入を抑 え ,それ を 他 の 農 家 に雇用労 働 と して供給 して収 入を得 る。 つ ま り,農家 の負債 返済 は ,小 作取 分 か らに 限定 され てい る と して ,農家 は 自家労 働 の 自 己 経営 地 - の投 入を抑 え ,雇用収 入に頼 って い る と考 え るので あ る。 そ して ,農家 の雇用 労 働依存 は ,他 の農家 や農業 労働者世 帯 に雇 用 機 会を与 え る ことで あ って ,雇用機 会 が乏 し く,地 主- の負債 返済 に苦 しむ村 民 の生存 保 障 の機構 とな ってい る と述べ て い る。11)し たが って ,農 家 の雇用労 働 依存 を ワー ク ・シ ェア リン グと解釈 してい る点 では本稿 と同 じ 立場 に あ る。 しか し, この よ うに農家 が 雇用労働 に依存 す る の は , 「村 落社会 か らの規制 」 が働 きか けてい るため で あ って ,個 々の農家が 主体 的 に選択 した結 果 では ない と考 えてい る。12)っ ll)このよ うな生存保障 の機構 は, 高橋 [1977: 17]では 「かげの循環」と名づけられている。 12)高橋 [1973:32]は, 「村落社会の規制力 の も とで,雇用労働力-の依存に例外がないとい う ことは,自分の家族のための雇用機会が保障さ れていることなのだから,村内の請負組-の賃 金支払いは, じつは,経営地では実現されない 310 ま り,農家 の相互 雇用 は ,道 徳 的規 範 とみ な され て お り, コ ミュニテ ィの共 同利 益 の最大 化が行われ てい る ことを前提 と してい るので あ る。 同様 に , 梅 原

[

1

9

6

6:2

3

5

-

2

3

6

]

も, 農 家 は 自己経営 地 へ の 自家 労働投 入を節 約 して , 雇用労働 と して他 の農 家 に供給す る ことが所 得 の 向上 に役 立つ こ とを指 摘 してい る。 なぜ な らば ,雇用労 働依存 とい って も,農家相互 が 雇用 しあ うことで ,労働 費用 は結 局労賃 と して還 流す るか ら で あ る と い う。 したが っ て ,農家 の雇用労 働依 存 は ,一 つ には費用 の 一 部 を労 賃 と して先取 りす る こ と,二 つ には 負債 返済 に充 当 しな くてす む労賃 (他 人 の農 業経 営地 か らの労 働所 得) に転換す る こ とを 意 味す る と考 えてい る。 ところで , これ らの議論 は ,主 に小 作農家 を 中心 とす る農村 調査 を もとに展 開 され てい たが , 自作農家 につ い て も負債 返済 の限定 性 か ら雇用労 働依存 を説 明 し うる。 自作 農家 も 負債 を 負 って お り,それ を 自己経営 地 の収量 か ら返済す るだけで よい とす るな らば ,相互 雇用 の収 入を 多 くす る ことで負債 返済 の負担 は軽 くな るか らで あ る。 つ ま り,地 主 ・小作 関係 ,債 権 ・債 務 関係 の下 で ,農 家 の負債 返 済 の限定 性が生 まれ ,農家 と農業 労 働者世 帯 お よび地 主 との間で ,生存保 障 のため の コ ミ ュニテ ィが成 立 して い る と考 えて い る。 そ し て , コ ミュニテ ィの所 得最大化行 動 を仮定 し てい るが ご と くで あ る。 しか し,た とえ負債 返済 の限定 性が ,地 主 の社会的 な威信や保 身 な どに求め られ る と し て も,相 互 雇用 の説 明 自体 に疑 問が ないわ け では な い。 なぜ な らば ,負債 返済 を雇用労働 自己の労賃部分を先取 りしているのだとみるこ とができる」と述べ て い る。 また, フィリピ ンの道徳的規範については,玉置[1982]参照。 ただし,農家負債を根拠とした農家の雇用労働 依存が地主 ・小作関係に基づ くのか,それ とも 債権者 ・債務者関係に基 づ くのか は 明確でな い。

(11)

鳥飼 :フィ.)ピン米作農村における危険分散とワ-ク・シュアリング 依 存 に よって遅 滞 させ てい る農家が 新た に借 入れ を必要 とす る時 ,地 主 (債 権者) が どの よ うな対応 を とるかが十分 に考 慮 され て い な いか らで あ る。 も しも,負債 返済 を遅 滞 してい る農家 の借 入れ要 求が地 主に簡単 に受 け入れ られ るな ら ば ,農家 は雇用 労働 に依存 して まで負債 返済 を遅 滞 させ な くとも,必要 な時 に地 主か ら借 入れ をす れ ば よい。 他方 ,負債 返済が遅 滞 し てい る農 家 の借 入れ要 求 に地 主が応 じな い の で あれ ば ,農 家に とって負債 を滞納す る こと は有利 で な く,雇用 労 働 に依存 して返済 を減 少 させ る こ とは避 け られ よ う。 つ ま り,いず れ に して も,農家 の負債 に注 目した相互 雇用 の説 明には ,負債 返済 と借 入れ 可能 性 の間の トレ- ド・オ フか ら矛 盾が 生 じるので あ る。 したが って ,地 主 ・小 作 関係 に注 目した立場 で も農 家 の相互 雇用を解 明す る ことに完 全 に 成 功 してい るわ けでは ない。 Ⅲ 相互雇 用 の理論

1

.相互 雇用 の利益 農 家が 大数 の法 則が 当て は ま る よ うな収量 変 動 の下 で ,低 い期待所 得 の水準 に あ る こ と を Ⅰで 明 らか に したが , これ は不 作 の時 ,農 家が 著 し く低 い収量 しか 得 られ ない ことを意 味す る。 したが って ,農家 は安全 第- の危険 回避 的 な行動 を とる と考 え られ る。 そ こで , 各農家が 同質 的 で あ って ,経 営地 か らの収量 の間 に全 く相 関が ない との簡 単化 の仮定 の も とで ,農 家 間の相互 雇用 に基 づ く所 得 (収量) 再分 配 に注 目し, ワー ク ・シ ェア 1)ングと し て の利益 を示 してみ よ う。13) 農家n戸が 自己経営地 - の 自家労働投 入を 13)収量変動とい う不確実性 と地主による小作農の 労働集約度の監視が不可能であるとい う情報の 不完全性の二つの前提の下で,小作契約形態, 労働集約度を論 じることは,別の機会に譲 り, ここでは所与の労働集約度の下での農家間の労 働投入と所得分配の問題に焦点を絞る。 必 要量 のn分 の 1に抑制 した うえで ,雇用 労働 に依 存 して農作業 を行 い ,そ のかわ りに 残 りの (n- 1) 戸 の農家か ら同様 に雇用 さ れ て刈分 制 の下 で収 入を得 る相互 雇 用 を考 え てみ よ う。 ここで ,刈分制 とは予 め 決め られ た一定 比 率 で ,現 実 の収量 を刈 り取 り, 自己 の取 分 とす る フ ィ リピン米作 に おいて一般的 な収穫制 度 で あ る。 この よ うに相互 雇用 を 自己経営地 で の就 業 機会 を抑 制 し,それ を 他 の農家 に分 与す る と い う ワー ク ・シ ェア リングと して行 な った場 令 ,多 くを他 の農家- の支払 いに 回 して しま うために, 自己経 営地 か ら 自分 の取 分 とな る 収量 は元 のn分 の 1で ,そ の分 散は 自己経 営 地 の収量 の分 散 に比べ て n2分 の 1とな る。 しか し,農家は 自己経 営地か らの収量 以外に も,相互 雇用 に よって他 の農家 (∩-1)戸 か ら収 入を得 てい る。 そ こで ,農家 1戸 当た りの収量 (所 得)は 自己経営 地か らの 自己取分 のn倍で ,収量 の相 関が ない ために分 散 もそ のn倍 ,す なわ ち 自己経営 地か らの総収量 の 分 散 のn分 の 1とな る。 したが って ,相互 雇 用に よって も所 得 の期待値 は 同 じで あ るが , 収量変動 の危険が プール ,平 準化 され るため に分 散 は小 さ くな る ことが 明 らか で あ る。 もち ろん ,単位収量 の格 差か ら各農家 ご と の収 入 (賃金 率)に も格差 が生 じるが ,全農家 に雇用 され て得 た収量 を合 計す れ ば ,収 入 の 格差 は大 数 の法 則 に よって平準化 され る。 つ ま り, 自作農家 ,小 作 農家にかかわ らず ,棉 互 雇用 とい うワ- ク ・シ ェア リングには農家 1戸 当た りの収量 (所 得)の分散 を小 さ くし, 所 得を安定 化す る利益 を もた らす ので あ る。 こ こで注 目す べ きことは ,相互 雇用 に参加 す る農家 (n)が増 加す るほ ど,所 得 の分 散 が小 さ くな る ことで あ る。 つ ま り,相互 雇用 をす るに あた ってほ , 自作農家 ,小 作農家 を 区別せず ,で きるだけ多数 の ,広域 の農家が 参加す る こ とが望 まれ る。 そ して ,そ のため

(12)

巽 南 ア ジ ア研究 27巻3号 には ,農家は小作料控除以前 の総収量につ い て ,おのおのの期待所 得に応 じた再分配をす れ ば よい。 これ は 自己経営地面 積が異 な った 農家 の相互雇用 の場合 も同様 で,期待所 得 に 応 じた再分配に よって収量変動 の危険 を分散 し,所 得 の安定化 を 図 ることが で きる。 した が って ,経営規模や土地保有状態にかかわ ら ず ,農家 の相互雇用が行われ る理 由は, 収量 変動 の危険を プール ,分散 して所 得を安定化 す る保険機能に あ る と考 え られ る。 2.取 引費用 しか し,実際には,収量変動 の大数 の法則 が十分 に援用で きるほ ど土地 ごとの収量 の相 関が小 さ くな るには ,広域 の農家 の相互雇用 が必要 で,そ のための取 引費用 (

t

r

a

ns

ac

t

i

on

c

os

t

)

が 問題 とな る。 つ ま り,所 得を安定化 しよ うとす るほ ど,相互雇用 の契約を多数合 意せね はな らず ,取 引費用が増 加す る傾 向が あ る。 特に ,遠隔地 の農家が相互雇用す るに は ,相手方 の期待所得を把握す ることが必要 で あ る。 しか し,そ のためには,経営地面積 の他 に労働投 入 , 自然状態 の影響を遠方 まで 出か けて確認 しなければな らず ,さらに毎年 継続 的 に これを繰 り返 さな くてはな らない。 つ ま り,相互雇用 の契約 の交渉 ,合意 に要す る取 引費用は所 得安定化 の利益 を相殺 して し ま うで あ ろ う。 したが って , 相互雇用は戸 数 ,地 域 も限 られた農家 で行わ ざるを えない 。 しか し,限 られ た地域で の土地 の収量で あ って も完全に相関 してい るわ け ではない。

I

-3

で指摘 した よ うに ,数 キ ロメー トル離れ た農家で も収量 の相関は負 と な る 場合 も あ り,不 完全な相関が一般的で あ る。 とい うの は ,近 隣の農家で も土地 の高低 ,籾 の成熟時 期 ・品種 な どの違 いか ら,台風 に よる洪 水や 強風 ,干ばつ な どの影響が等 し く現れ ないか らで あ る。 つ ま り,交渉 ,合意 に要す る取 引 費用 が十分低い限 られた地域で も,相互雇用 312 に よる所 得安定化 の利益は確保 で きる と考 え られ る。 ところで ,

Ⅲ-

1か ら農地 ご との収量 の相 関が完全で ない限 り,相互雇用に よって農家 1戸 当た りの収量 (所得) の分散は , 自己経 営地か らの収量 の分散 よ りも小 さ くな る こと は 明 らか で あ る。 つ ま り,交渉 ,合意 に要す る取 引費用が小 さい限 られ た地域で の相互 雇 用 であ って も,収量 の相関が完全でない限 り 所 得 の安定化 が もた らされ る。 そ して ,収量 の相関が小 さいほ どこの利益 は大 き くな る。 したが って ,農家 の相互雇用 には ,収量 変動 の危険を プ-ル ,分散 して所得を安定化す る 保険機能が あ り,そ のために農村に コ ミュニ テ ィが成 立 してい る とい うことが で きる。

3.

ただ乗 りの問題 相互雇用は ,収量変動 の危険 を分 散 し,大 数 の法則を援用す る点で農 家 の所 得を安定化 す る保険 の役割を果 た してい る。 しか し,所 得 の安定化 のためには資源 (労働)を移動 しな くとも収量 の再分配 のみを合意す れ ば よ く, 自家労働を雇用 しあ うことは必要 ない とい え るで あろ うか。 とい うのは ,大半 の保険契約 がそ うで あ る よ うに ,相互雇用をせず に保険 料 を拠 出す るだけで も所得再分 配が可能 で あ り,わ ざわ ざ労働を移動す る とい う取 引費用 をか け る必要 はない とも考 え られ るか らで あ る。 しか し,所 得再分配 に は た だ 乗 り

(

f

r

e

e

r

i

de

r

)

の問題が伴 うことを予想 しな け れ ば な らない。 例 えば ,農家が 収量再分配 の契約 にのみ合意 して , 自家労働 は 自己経営 地 のみ に投 入 され てい ると しよ う。 す る と,他 の事 情に して等 しけれ ば ,農家 は 自家労働 を合意 され た水準 よ りも過少 に しか投 入 しない こと に よって ,労せず して再分 配 され た収量を獲 得で きるか ら,労働誘 因は大幅に低下す る。 また ,収量を再分配す るに 際 して も 自己経営

(13)

鳥飼 :フィ リピン米作農 村 におけ る危険分散 とワ-ク ・シュア 1)ング 地 の収量を過 少 に 申告 し,供 出す る量 を減 ら す ことに よって ,実 際 の収量 にかかわ らず 常 に過 大 な所 得を受 け取 る ことが で きる。 そ し て, この ことが全 て の農 家に既知 で あれ ば , 農 家 のただ乗 りが 頻発 し,当初考 え ていた利 益 は達成 で きない。 したが って ,収量 再分 配 を履行す るため には ,労 働 の過 少投 入 ,収量 の過 少 申告 とい うただ乗 りを抑 制 しな くてほ な らない の であ る。 これ は ,た とえ前 もって期待収量 に応 じた 保険 料 も し くは前年 度 の収量 を拠 出 してい た と して も同様 で あ る。 と い う の は , 積 立 金 (保険 金) の分 配 に よって所 得が保証 され る ので あれ ば ,低 収量 とい う事態 を農家 自らが 発生 させ た り,収量を偽 った りす るた だ乗 り が お こる危険 が あ る。 これ は保険 に おい て , 道徳 的危険 (moralhazard) と して 知 られ てい る こ とで ,被 保険 者 の行動が危険 や それ に よる損害 の可能 性を高 め る よ うな状 況 と定 義 され る [星野 1985:150]。換言す れ ば , 所 得再分 配 が保険 と して の性格 を もつ 以上 は 道徳 的危険 の問題 を避 けて通 る ことはで きな い ので あ る。 以上 の よ うに ,所 得再 分 配には ,道 徳 的危 険 とい う保険 契 約上 の問題が 生 じるが , この 原 因は ,農 家が お互 い に相手方 の労働 投 入 , 収量 , 自然状態 の影 響 とい った情報 を もって い ない ところに あ る。 したが って ,それ らの 情報 を得 て ,ただ 乗 りを抑 制 で きるので あれ ば ,所 得再 分 配 も所 得 の安定 化 とい う保険 の 故能 を活 かす ことが で きるが ,それ には取 引 費用が かか る。 そ こで ,所 得安定化 とい う同 じ機 能 を もち うる収量再 分 配 のみ の契 約 と相 互 雇用 の契 約 を取 引費 用 の観点か ら比較 して み よ う。 まず ,収 量再 分配 のみ の契約 では ,生産 の ため の資源 (労働)の移 動 は ないが ,他 の農家 の情報 を確 保す るため に取 引費用が かか る。 これ は限 られ た地域 に あ ってほ契 約 の履 行 に 要す る取 引費用 の問題 とな る。 す なわ ち ,契 約 通 りの労働投 入が 行われ て い る か ど うか を ,契 約 に合意 してい る全 て の農家 につ い て 監視 しな くては な らない。 この場 合 ,わ ざわ ざ他 の農家 の保有 地 全 てに 出か け ,そ こで の 当該 農 家 の労 働投 入が完 了す るまでそ の監視 に のみ 時 間を費やす ことにな り, 自己経 営地 - の労 働投 入は不 可 能 で あ る。 つ ま り,情報 を得 るために ,労 働 とい う資源 を 移動 させ な けれ ば な らないが , ここでは監視 のためだけ に労 働 が投 入 され ,生産 には全 く貢 献 してい ない ので あ る。 それ に対 して ,相 互雇用 は生産 のため の労 働 の移 動が必要 で あ るが ,情報 の確認 ,労 働 の監視 のため に独立 した労 働 の移 動 は必要 な い 。 とい うのは ,各 農家 の 自家労 働が集 団的 に投 入 され,,同時 に農地 の状態 を観 察す る こ とに よって ,情報 の確認 ,労 働 の監視 を 同時 に行 うことが で きるか らで あ る。 さ らに ,収 穫時 に は労 働投 入が そ の まま収量 の分 配 につ なが り,所 得再分 配が農 作業 と直 結 してい る。 つ ま り,資源 配分 を実施す るなか に情報 の 確認 ,労 働 の監視 を 内包す れ ば , これ らを独 立 して行 うよ りも取 引費用 は少 な くてす む の であ る。 したが って ,契 約 の交渉 ,合意 に要 す る取 引費用 は ,相互雇用 も収量 再分 配 のみ の契 約 も同 じで あ るが ,履 行に要す る取 引費 用 は前 者 の方 が小 さい。 農家 の相互雇用 は 同 じ所 得 の安定 とい う保険 の機 能 を果 たす ため に ,収量 再分 配 の契 約 よ りも低 い取 引費用 で 実 施 で きるのであ る。 したが って ,相互雇用 の存在 理 由は ,最 小 の取 引費用 に よって道徳 的危険 の問題 を抑 えつつ ,収量 変動 の危険 を プ ール ,分 散 し,所 得を安定化す る とい う保 険 の機 能 に求め られ る と考 え られ る。 Ⅳ 結 論 フ ィ リピンに お け る 米作農家 の 相互 雇 用

(14)

東南アジア研究 27巻3号 紘, 収量変動 の危険 に対 して保険 と して棟能 してい るので あ り, そ の意味で農村 には ワー ク ・シ ェア リングが行われ ,生存保 障 の磯横 を 内包す る コ ミュニテ ィが成立 してい る と解 釈 で きる。 しか し,収量変動 の危険を平準化す るため にはで きるだけ広い地域 で ,多 くの農家が相 互雇用に参 加す る ことが望 まれ る。 そ こで , 多数 の農家 を この枚樺 に取 り込む際 ,ただ乗 りを低 い取 引費用 で 抑 え る た め に , 資源配 分 ,所 得分 配 の共 同行動 を一定 の簡便 な方法 で実施 しつつ ,ただ乗 りに対 しては罰則を適 用す る。つ ま り,ひ とた び コ ミュニテ ィが形 成 され る と,それが あたか も人格を持 ち ,そ の メ ンバ ーに対 して慣 習 ,規制 と呼 ばれ る も のに よって働 きかけてい る よ うにみ え る。 こ こでい うコ ミュニテ ィの慣 習 ,規制 とは ,棉 互雇用 に参 加すべ きで あ るとい う道徳 的規範 で あ るが , これは取 引費用を考慮 して も コ ミ ュニテ ィの共 同利益が個 別経営 の利益 を上 回 る場合 にのみ共有 され るのであ って ,優れ て 経済的 な基 盤を もってい る。換言すれ ば , コ ミュニテ ィの慣 習 ,規制 は外生的な ものでは な く,メ ンバ ーの主体的 ,合理的 な選択 に よっ て農村 内部 か ら生 まれ た もの と考 え られ る。 ところで , この コ ミュニテ ィの成立 の契機 は ,収量変動 とい う環境 上 の不確実性で あ っ た。 この よ うな状況にあ って ,各人が保有す る資源を結集 し,収量変動 の危険 を プール , 分 散す る ことに よって所 得は安定化 され る。 しか し,資源 を各 自の個 別的動機に委ね て所 得再分配 のみ に合意を して も,ただ乗 りのた めに所 得安定 化は達成 で きないで あろ う。 そ こで ,ただ乗 りを抑制す るために労 働 監視を は じめ とす る情報 の確認が必要 にな って くる が ,資源配分 と情報 の確認を分離す ることは 大 きな取 引費用がかか り得策ではない。 なぜ な らは ,ただ乗 りを抑制す るためだけに独立 した資源配分が必要 にな り,そ の分 だけ余分 314 な負担 にな るか らで あ る。 他方 ,資源を結 集 した うえで,資源配分 を 情報 の確認 と並行 して実施すれ ば取 引費用を 節約 で きる。 そ こでは あたか も資源 ・所 得が コ ミュニテ ィに よって共有 され てい るが ごと くで あ る。 したが って, 相互雇用は ,資源 ・ 所 得を共有す るために ,低い取 引費用でた だ 乗 りを抑 えつつ ,所 得安定化 とい うワー ク ・ シ ェア リングと しての利益を達成 してい る と 判 断で きる。 もちろん ,農村 に生存保障の機構が存在す る ことは ,従来か ら指摘 され てい るが ,本稿 での特徴は 「雇用」 とい う市場 を通 じた経 済 関係 について も,この存在を 明 らかに した こ とで あ る。 まず ,相 互雇用は , 自然状態か ら の影響 に恵 まれ なか った者が恵 まれ た者か ら 所 得移転を受けた の と同様 の ことにな るが , これは一方的 な譲 渡 ,贈与では な く,雇用 と い う労 働 ・支払 い の双務契約 の下 で行われ て い る。 農村全体 と しては ,単位収量 の高い農 家 と低 い農家 の平均が ,個 々の農家 の所得 の 基盤に な る。 しか し, 自然状態 が変化す るか ら,今年 に不作で あ った者が来年 には豊作に な り,所 得移転 をす る側 にな る か も しれ な い。 つ ま り,豊作 の農家か ら不作 の農家へ と 一・万 的 にみ え る所得移転は , コ ミュニテ ィ全 体 と して ,長期的 には収量変動 の大数 の法則 のため に相殺 され る。 したが って ,相互雇用 は効率的 な資源配分 の 下で の ワ- ク ・シ ェア リングであ って ,効 率性 と生存保 障の機構 は 必ず しも矛盾 しない と結論 で きるので あ る。 参 考 文 献 日本語文献 梅原弘光.1966. 「フィリピン米作農村の農業生産 と農家経済の特徴

『アジアの土地制度と農村 社会構造 Ⅰ』 滝 川勉 ;斉藤 仁 (編 )所 収 . ア ジ ア経済研究所. .1967. 「フィリピン米作農村- ラグナ 州 トゥプアソ村の実態調査報告」『アジアの土

(15)

鳥飼 :フィリピン米作農村における危険分散とワ-ク・シェア1)ング 地制度 と農村社 会構造 Ⅱ』滝川勉 ;斉蘇仁 (編 ) 所収. アジア経済研究所. .1972a.「中部 ル ソンの - シュ ンダ ・ノミリ オ(1)

『アジア経 済』 13(9). .1972b.「中部 ル ソンの - シュ ンダ ・バ リ オ(2)」『アジア経 済』 13(ll). .1978.「フィ リピンにおけ る 『緑 の革命』 と農民 - 中部 ル ソン, ヌエバ ・- シ-州の 1 村落事例 を中心 として」『アジア経 済』 19(6). .1980. 「フィ リピン米作農村 の 構造変化 - 中部 ル ソンの 1- シエ ソダ ・バ リオの事例 を中心 として」『東南 アジア農村社会構造 の 変 動』滝川勉 (編 )所収. アジア経 済研究所 . 大塚啓二郎.1986.「分益小作契約 とエイ ジ ェソシー の理論 :展望」『季刊理論経 済学』37(4). 川越俊彦 ;大塚啓二郎 .1983. 「分益小作制度理論 の再 検討

『農業総合研究』36(3). 菊池英夫. 1978. 「フィ リピン農村におけ る制度的 変化 (Ⅰ)- ラグナ州-米作農村の事例分析 」 『農業総合研究』32(3). . 1979.「フィ リピン農村 に お け る制度的 変化 (Ⅱ)- ラグナ州の両極分化型米作農村」 『農業総合研究』33(4). . 1984.「『緑 の革命』 ・農村間労働移動 ・ 制度的革新- フィ リピンにおけ る-在来的農 村制度 の展開」『農業総合研究』38(1). 菊池英夫 ;速水祐次郎.1981

「フィ リピン農村組 織の動態- 中部 ル ソンの米収穫制度の変化」 『東洋文化研究所紀要』83. 酒井泰弘. 1982.『不確実性の経 済学』有斐閣. 白石 昌也. 1984.「東南 アジア農村社会論 の 最近 の 動 向をめ ぐって- モ ラル ・エ コノ ミ-論 とポ リテ ィカル ・エ コノ ミー論を 中心 に」『東洋文 化』64. 隅谷三善男 (編著 ).1962.『フィ リピンの経 済構造 と労働構造』 アジア経 済研究所. 高橋 彰. 1965.『中部 ル ソンの 米作農村』 アジア 経済研究所. .1967.「フィ リピン農村構造 に関 す る一 考察

『東洋文化』43. . 1969.「バ リオ ・カ トリナ ン」『アジアの 農村』大野盛夫 (編 )所収.東京大学 出版会. .1973.「技術進歩 ・土地改革 ・農民化-中部 ル ソン農村 の変容」『アジア研究』20(2). 1977. 「フィ リピン農村 の構造変化 と賃 労働者層」『アジア経 済』21(4・5). .1982.「バ リオ ・バ ラ ンカの 土地 と労働 - 中部 ル ソン農村の社会構造」『経済学論 集』 47(4). 滝 川 勉. 1962. 『フィ リピンの 土地制度 と小作立 法 の展開』 アジア経 済研究所. .1976. 『戦後 フィ リピン農地改革論』 ア ジア経 済研究所. 玉置寿 明. 1982. 「フィ リピン低地社会研究序説」 『民俗学研究』47(3). 鳥飼行博. 1986.「雇用労働 と共 同体 の相互扶助 ・互 酬- フィ リピンの小作農家の事例を中心に」 『経済学研究』29. . 1988. 「不確実性下 の経 済行動- フィ リピン米作農村 の事例研究」東京大学博士論 文. 長谷 山崇彦.1979.「アジア の 稲作技術革新 と米穀 需給展望 」『アジア の 稲作技術革新 と 米穀需給 展望』長谷 山崇彦 (編 )所収. アジア経 済研究 所. 原洋之介. 1974. 「村落構造 の 経 済理論 - 共 同行 動 の経 済学的説 明の方 向 につ い て」『アジア研 究』21(2). . 1985. 『ク リフ ォー ド・ギア ツの 経済学 - アジア研究 と経 済理論 の間 で』 リブ ロポ ー ト. 福井清一. 1984.『互酬的刈分小作制度の経 済分析』 大 明堂. 星野良樹. 1985.『保険学入門』 同文館. 宮原幸則. 1970・『フィ リピンの 農業- 現状 と課 題』 アジア経 済研究所. 村 岡徳人. 1970.「東南 アジアの統計評価試論 (Ⅳ ) - フィ リピンの米」『アジア経済』 ll(4). 山川充夫. 1982.「中部 ル ソン ・マ ンデ ィル村の社 会構造」『経済学論 集』47(4). 吉野正敏. 1977. 「モ ンスー ンアジア の 気候変動」 『気候変動 と食糧』高橋浩一郎 (編 )所収.大 明堂. 劉 進慶. 1971

.

「農村 の過剰人 口と労働市場 」『ア ジアの労働問題』隅谷三菩男 (編 )所収.東洋 経 済新報社 . 外国語文献

Barker,Randolph;andquintana,E.U. 1968. Studies of Returns and CostsforLocal and High-Yielding RiceVarieties.Phili

P-PineEconomicJournal7(2).

Barker,Randolph;and Cordova,V.G. 1978. LaborUtilizationin RiceProduction. In

EconomicConsequcnccsof EkeNew Rice Tech

-TWlo£γ・IRRI.

Cheung,Sterven N.S. 1969. The Theory Of ShareTenancJ・UniversltyOfChicagoPress. Fujimoto,Akimi. 1983. IncomeSharing among

MalaJ Peasants:A StudLyOf Land TeTM eand

RiceProduction・SingaporeUniversityPress. Griffin,Keith. 1974.ThePoliticalEconomy of

AgrarianChangeTAnEssay onGreenReuoLu

-1ion.2nd ed.MacMillan.

Hayami,Yujiroetall1978a. Labor Utiliz a-tion in Laguna Rice Village. Phil軸 ilZC

(16)

東 南 ア ジ ア 研 究 27巻3号

EconomicJourlZa117(

I

・2).

.1978b.Anatomy of PeasantEconomyI

A RiceVillageinEhcPhilipLlt'1WS. IRRI.

Hayami,Yujiro;and Kikuchi

,

Masao. 1981.

AsianVillageEconomy atCrossroadIAn Eco

-nomicAPProachioLnstituEionalChange・ Uni

-versityofTokyo Press.

Herdt,氏.W.;andWickham,T.冗. 1978.

Ex-plorlng the Gap between Potencialand

ActualRiceYierds: ThePhilippinesCase・

In Economic Consequences Qr the New Rice

Technology.IRRI.

Johnson,StanleyS.etall1968.Mechanization

of Rice Production. Pht'l軸 ine Economic

Journal7(2).

Kikuchi,Masaoctal. 1979. Changesin Rice

HarvestingSiyStem inCenEyaLLuzonandLagu

-na・ IRRIResearchPaperSeries31.

Ledesna,Antonio J. 1982. LandlessWorkers

and R∫ce FarmcrsI Peasant Subclasses under AgrarianReform in Two Philippine Villages・

IRRI.

Newbery,DavidM.G. 1975. The Choice or

Rental Contract in PeasantAgriculture.

InAgriculturein DcveloLlmentTheory,edited

by Lloyd G.Reynolds. Yale Universlty

Press.

Oppenfeld,H.J.V.etal. 1957.Farm Manage

-mcnt,Land Use and Farm Tenancy in lhe

Phil如 iTWS・ Universityofthe Philippines.

SI石

Popkin,SamuelL.1979. TheRationalPeasanLI

The Political Economy of Rural Soct'ety in

Vietnam. UniversltyOfCaliforniaPress.

Price,F.C.;and Barker,氏. 1978. TheTime

Distribution orCrop LaborinRice-Based

Cropping Pattern s. Philippine Economic

Journal17(1・2).

Roumasset,JamesA. 1976. Rice and Risk.・

Dccision Making among LowIIncomc Farmers.

North-Holland PublishingCo.

Ruttan,Vernon W. 1966. Tenureand Pr

o-ductlVlty Or Philipplne Rice Producing

Farm.PhiLippiTW EcoTWmicJournal5(1).

Sco

t

t

,JamesC. 1976. TheMoralEconomy of

the PeasantI Reuellion and SzLbsistence in

SouiheastAsia. YaleUniversltyPress.

Shave

l

l

,Steven. 197ga. RiskSharingandl

n-centivesin thePrincipaland AgentRel

a-tionship.BellJournalof Economics10(I).

.1979b.OnMoralHazardandlnsur_

ance.quarEerlLyJournalof Economics93(4).

Spence

Michael; and Zeckhauser

I

Richard・

1971. Insurance,Ⅰnrormation and lndi

-vidualAction. American Economic Reuicw

61(2).

Williamson

,

Oliver E. 1975. Markcls and

m erarchies.(ウ ィ リア ム ソ ン,0.E.1980.『市

場 と組織』 浅沼寓里 ;岩崎晃 (釈 ).日本評論

表 4 収 量 変 動

参照

関連したドキュメント

著者 研究支援部研究情報システム課.

[r]

[r]

[r]

2006 年 6 月号から台湾以外のデータ源をIMF のInternational Financial Statistics に統一しました。ADB のKey Indicators of Developing Asian and Pacific

荒井悦代(あらいえつよ) 。アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ

 AIIB

荒神衣美(こうじんえみ) アジア経済研究所 地域研究センター研究員。ベトナム の農業・農村発展について研究しており、