56 2012.11
ダウンウ
ィ
ンド
2 MW
風力発電システムの技術開発
Development of 2-MW Downwind Wind Power Generation System世界のエネルギー需要に応える発電・送電技術
feature articles
稲村
慎吾 繁永
康
Inamura Shingo Shigenaga Yasushi
清木
荘一郎 吉田
茂雄
Kiyoki Soichiro Yoshida Shigeo
世界各国で再生可能エネルギーの導入が進められている。特に風 力発電システムは,国内においても,丘陵に設置できることや洋上 への展開が期待されること,また,2012年7月に固定価格買取制 度が開始されたことから,さらなる導入拡大が予想されている。 これまで日立製作所と富士重工業は,2 MW級ダウンウィンド型風 力発電システムを共同開発してきた1),2)。2012年7月には,両社 の風力発電システム事業を統合し,日立グループは,ダウンウィンド 型風車技術と電力制御技術や系統連系・安定化技術の融合をより 強固にすることで,発電から電力安定供給システムまでをトータルで 提供できる体制を整えた。 1. はじめに 近年の世界的な環境意識の高まりを背景に再生可能エネ ルギーが注目されており,風力発電市場もその伸びが期待
されている。
GWEC
(Global Wind Energy Council
:世界風力会議)の
Global Wind Report 2011
によれば,2011
年の世界の総設備容量は
237,669 MW
に達し,前年比で約20
%増加している。それに伴い,風車の大型化が進んで おり,特に洋上風車での大型化が著しい。 大型風車では,タワーよりも風上側にロータを配置した アップウィンド風車が一般的である。一方,風下側にロー タを配置するダウンウィンド風車は,複雑地形における性 能上の優位性などにより,有望視される技術である。日立 グループは,富士重工業株式会社との風力発電システム事 業の統合により,富士重工業で開発されてきたダウンウィ ンド風車を採用している。 ここでは,台風や複雑地形など厳しい環境に適したダウ ンウィンド2 MW
風力発電システムの仕様と技術的な特 徴について述べる。 2. 風力発電システムの仕様2 MW
のダウンウィンド風車の概略図および風力発電シ ステムの主要仕様を図1,表1に示す。 3. ダウンウィンド風車技術 3.1 複雑地形における発電量 ダウンウィンドロータは,ロータとタワー間のクリアラ ンスを確保するため,負のチルト角を持つ(図2参照)。 これによってロータ軸の角と吹上風角との差が小さくなる ため,発電量が増加する3)。 出力曲線に対する吹上角の影響の補正法として,運動量 ロータ径 80 m ハブ高さ 80 m/60 m 定格出力 2,000 kW 定格風速 13 m/s 運転風速 4∼25 m/s チルト角 −8° 出力制御方式 可変速・ピッチ制御 ヨー制御 アクティブヨー(発電時) フリーヨー(暴風待機時) 表1│風力発電システムの主要仕様 2 MWダウンウィンド風力発電システムの主な仕様を示す。 ハブ高さ 80 m ロータ直径 80 m タワー ハブ ナセル 風の向き 図1│2 MWのダウンウィンド風車 風下側にロータを配置するダウンウィンド風車の概要を示す。57 featur e ar ticles Vol.94 No.11 794–795 世界のエネルギー需要に応える発電・送電技術 理論に基づいて同図に示す数式を誘導することができる4)。 複雑地形において
1
年間の設備利用率を計算した。吹上 角に対する風速を図3に示す。 ダウンウィンド風車と出力曲線が同一であるアップウィ ンド風車(チルト角+5
度,コーニング角0
度)の設備利 用率を計算した(図4参照)。計算の結果,ダウンウィン ド風車はアップウィンド風車と比べて約7
%高い設備利用 率(発電量)となった。 3.2 複雑地形におけるナセルヨー計測 発電時にナセルの方位制御(ヨー制御)を行うため,ナ セルの頂部にナセルヨーセンサー(風向計)を設置してい る。一般的にナセルヨーセンサーは,アップウィンド風車 ではロータやナセルの影響を強く受けるのに対し,ダウン ウィンド風車ではほとんど影響を受けない(図5参照)。CFD
(Computational Fluid Dynamics
: 数 値 流 体 力 学)の例を図6に示す。アップウィンド風車では風上側のナセ ルとロータの干渉により,ヨーセンサーの位置に流入する 風は大きく偏向する。それに対し,ダウンウィンド風車で は,ほとんど干渉の影響を受けていない。これにより,ダ ウンウィンド風車の方が複雑地形におけるヨー計測精度が 高く,設備利用率(発電量)の向上や疲労ダメージ低減の 点で有利である5)。 3.3 ナセル風速計 風車の出力や疲労荷重は,発電中の乱流強度の影響を強 く受けるため,乱流強度を精度よく計測できることが必要 である。
2 MW
のダウンウィンド風車では,ナセルとロー 25 風向 ( m/s ) 20 15 10 5 0 −20 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 0 500 1,000 1,500 −15 −10 −5 0 5 10 15 20 吹上角(° ) (km) (km) ( m ) 時間平均吹上角=5.34(° ) (a) (b) 主風向 図3│複雑地形におけるモデル モデル地形を(a)に,風速・吹上角分布を(b)に示す。各点は各風車の1時 刻(6時間ごと)である。 ダウンウィンド アップウィンド(ヨー角=8°) アップウィンド 注 : 8 7 6 3 4 1 2 0.46 0.44 0.42 0.4 0.38 0.36 0.34 0.32 0.3 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 7.8 7.9 8 年平均風速(m/s) 設備利用率 ( ー ) 8.1 8.2 5 図4│年平均風速・設備利用率 ダウンウィンド風車は,アップウィンド風車に比べて約7%高い設備利用率(発 電量)となった。 P=min 〔PRate: 定格出力, P0: 定格パワーカーブ(水平風による), γ : 吹上角,α : チルト角〕 ロータ回転面 ロータ回転軸 W : 吹上風 α : チルト角 γ : 吹上風角 PRate, ・ P0 3 cos(γ+α) cos γ・cos α 図2│ダウンウィンドロータと吹上風の関係 ロータ軸の角と吹上風角との差が小さくなるため,発電量が増加する。 ダウンウィンド風車 ヨーセンサー ヨーセンサー アップウィンド風車 図6│CFD(数値流体力学)によるナセルヨーセンサー周りの流線(吹上角 16度,ヨー角16度) ダウンウィンド風車では,ナセルとロータの干渉の影響をほとんど受けてい ない。 ナセルヨーセンサー 吹上風 吹上風 ダウンウィンド風車 アップウィンド風車 ナセルヨーセンサー ロータ ナセル ナセル 図5│吹上風とヨーセンサの位置関係 ダウンウィンド風車では,ナセルヨーセンサーがロータやナセルの影響を強 く受けない。58 2012.11 タの風上側にナセル風速計を配置しているため,タワー振 動に関して適切な補正を加えることにより,乱流強度を推 定することができる6)。風況マストによる観測結果と,ナ セル風速計による推定値を図7に示す。陸風と海風の乱流 強度の大小や風速に対する効果など,よく一致しているこ とが確認できる。 3.4 フリーヨー暴風待機 フリーヨーは,風見鶏のように自然と風下にロータを向 けるナセル制御方法であり,ダウンウィンド風車の長所の 一つである(図8参照)。特に日本においては,暴風中に 風車にかかる荷重の低減に有効であり,
2 MW
のダウン ウィンド風車では暴風待機時にはフリーヨーを採用して いる。 風 力 発 電 機 設 計 ツ ー ルGH Bladed
※),7) に よ る シ ミ ュ レーション結果を図9に示す。シミュレーションでは,平 均風速50 m/s
の変動風を,風向0
度から90
度まで300
秒 の間で変化させたときのナセルの追従を計算した。その結 果,フリーヨーにより,ナセルが風向変化に追従している ことを確認した。 3.5 タワーシャドウモデル ダウンウィンド風車では,ロータの旋回領域がタワーの 風下に位置するため,ロータが1
回転するごとにタワーの 後流(Wake
)を通過する。このとき,タワー後流とロータ とが空力干渉することになるが,これをタワーシャドウ効 果と呼ぶ。ダウンウィンド風車では,このタワーシャドウ が疲労ダメージに影響するため,精度のよい計算が要求さ れる。しかし,従来のタワーシャドウモデルはCFD
や風 洞試験によって孤立タワー後流のプロファイルをモデル化 し,それをロータへの流れ場として与えるものであり,ブ レードによるタワーシャドウに対する空力干渉は考慮され ていなかった。 そこで,2 MW
ダウンウィンド風車開発時に,CFD
とBEM
(Blade Element and Momentum Th
eory
:翼素運動量理論)によるシミュレーションにより,この干渉の影響を 考慮した荷重等価モデルを考案した(図10参照)。このモ デルの妥当性は,運転試験でのロータ主軸の曲げを比較す ることで確認した(図11参照)。また,従来の孤立タワー モデルでは,タワーシャドウが過剰に推算されていること も確認でき,適正な荷重レベルまで低減して
2 MW
ダウ ンウィンド風車を開発することが可能になった8),9)。 風向 図8│フリーヨー ダウンウィンド風車では,風見鶏のように自然と風下にロータを向ける効果 がある。 注 : ハブ(海風) ハブ(陸風) ハブ90%(海風) ハブ90%(陸風) マスト90%(海風) マスト90%(陸風) IEC ClassA IEC ClassB IEC ClassC 4 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 風速(m/s) 10分平均, 海風 : 3,737点, 陸風 : 3,164点 乱流強度 ( ー ) 図7│マスト乱流強度とナセル乱流強度(補正)比較 ナセル風速計による推定値は,風況マストによる観測結果とよく一致している。注:略語説明 IEC(International Electrotechnical Commission)
注 : 風速(m/s) 風向(° ) ナセル方位角(° ) IEC ClassB 120 100 80 60 40 20 0 0 50 100 150 200 250 300 時間(s) −20 図9│風速・風向とナセル方位角(フリーヨー) フリーヨーによってナセルが風向変化に追従している。
59 featur e ar ticles Vol.94 No.11 796–797 世界のエネルギー需要に応える発電・送電技術 4. おわりに ここでは,台風や複雑地形など厳しい環境に適したダウ ンウィンド
2 MW
風力発電システムの仕様と技術的な特 徴について述べた。 風力発電システム事業の統合は,ダウンウィンド型風車 技術と電力制御技術や系統連系・安定化技術のより強固な 融合につながる。日立グループは,今後も発電から電力安 定供給システムまでのトータルなソリューションの提供に 向けて取り組んでいく。 1) 松信,外:大型風車「ダウンウィンド2 MW機」の開発̶日本の環境に適合した風 力発電システム̶,日立評論,91,3,306∼309(2009.3) 2) 坂本,外:大型風力発電システムとスマートグリッド,日立評論,93,8,550∼ 553(2011.8)3) S. Yoshida : Performance of Downwind Turbines in Complex Terrains, Wind Engineering, Vol. 30, No. 6, 2006, pp. 487-501(2006)
4) 吉田,外:複雑地形における推算精度を向上させる三次元的発電量解析法,風力エ ネルギー,Vol. 74,pp. 75∼83,日本風力エネルギー学会(2005.6)
5) S. Yoshida : Nacelle Yaw Measurement Downwind Turbines in Complex Terrain, Windtech International(2008.11)
6) 清木,外:ダウンウィンド風車のナセル風速計による乱流強度計測,風力エネルギー, Vol. 87,pp. 140∼145,日本風力エネルギー学会(2008.11)
7) Garrad Hassan and Partners : Bladed for Windows(2004)
8) S. Yoshida, et al. : Load Equivalent Tower Shadow Modeling for Downwind Turbines, EWEC(2007) 9) 吉田,外:ダウンウィンド風車の荷重等価タワーシャドウモデリング,日本機械学 会論文集,第73巻,第730号,B編,p.1273∼1279(2007.6) 10) 清木,外:SUBARU80/2.0, 2MWダウンウィンド風車の超低周波騒音測定,日本機 械学会,第12回動力・エネルギー技術シンポジウム(2006.6) 参考文献 稲村 慎吾 2003年日立製作所入社,電力システム社日立事業所電機プラント システム部所属 現在,風力発電システムの開発・設計に従事 博士(工学) 電気学会会員 繁永 康 2001年日立製作所入社,日立研究所エネルギー・環境研究センタ 応用エネルギーシステム研究部所属 現在,風力発電システムの開発・研究に従事 日本機械学会会員 清木 荘一郎 2005年富士重工業株式会社入社,電力システム社日立事業所電機 プラントシステム部所属 2012年より富士重工業株式会社から出向中 現在,風力発電システムの開発・設計に従事 吉田 茂雄 1990年富士重工業株式会社入社,電力システム社日立事業所電機 プラントシステム部所属 2012年より富士重工業株式会社から出向中 現在,風力発電システムの開発・設計に従事 博士(工学) 日本風力エネルギー学会会員,日本太陽エネルギー学会会員,日本 機械学会会員,ターボ機械協会会員 執筆者紹介 BEM(荷重等価モデル) 注 : BEM(孤立タワーモデル) 運転試験 アジマス角(° ) 1.5×10 6 1 0.5 −0.5 −1 −1.5 −2 0 60 120 180 240 300 360 0 M YMS ( Nm ) 図11│アジマス角に対する主軸曲げ(風速:13 m/s) 運転試験でのロータ主軸の曲げを比較し,荷重等価モデルの妥当性を確認した。
注:略語説明ほか BEM (Blade Element and Momentum Theory), アジマス角(ロータ中心周りの翼の角度) φ=180° Pressure 100 −100 −200 −300 [Pa] 0 図10│翼のタワー後流通過時のCFD ブレードによるタワーシャドウに対する空力干渉を考慮し,開発時にCFD (Computational Fluid Dynamics)によってシミュレーションした結果を示す。